少年、田山守は夜中に謎の歌声を聞いて、魅了されてしまう。
外に出ると、警察官が眠ってしまっていた。
そして、少年も女性の歌声を聞いて、警察官と同じように眠りについてしまう。
一方、路地裏では、アプリルがナタリアの貸してくれた「人魚姫」という本を読んでいた。
ジャネットがディアーナの問題行動を戒めるために貸してくれたらしい。
ディアーナは問題行動を起こさないと誓い、アプリルと共に仕事に出かけるのだった。
「どうしたんだよ、ディアーナ。元気ないな」
「あ、アプリル?」
現場に出かけようとしたディアーナとアプリルだったが、
アプリルはディアーナに元気がない事に気づく。
「……人魚姫……」
ディアーナはジャネットが渡してくれた本の内容を思い返していた。
確かに本当に死んだわけではなかったが、王子と結ばれなかった事を悲しんでいた。
だが結末を変えてしまえば、ジャネットから謹慎処分を食らってしまう。
問題行動を起こしたくない、だが人魚も救いたい、
二つの感情がディアーナの中をせめぎ合っていた。
「一体どうしたら、あたしのモヤモヤがすっきりするのかしら」
ディアーナが呟くと、アプリルが彼女の肩に手を置いた。
「だから、俺がついてるんだよ」
「アプリル?」
「どんな事があっても、仲間がいるから共に戦える。
ま、お前が女の子だから、っていうのもあるけどな」
「それが本音なのね」
ふふっ、と吹き出すディアーナ。
溜まっていたモヤモヤが、一気に吹っ飛んだような気がした。
「ありがとう、アプリル。あたし、自信がついたわ。絶対に、人魚を探すんだから」
「ああ! その意気だぜ!」
「ここにもないみたいね」
日曜日。
羽心は図書館にいた。
勇気が見た、ピラミッドの頂上にある謎の神殿について調べていたのだ。
しかし、オカルト、歴史、建築物などの本を調べても、
どこにもそのような神殿は載っていなかった。
(やっぱり、考えられるのは一つよね……)
羽心は図書館から出ると、広場のベンチに腰を下ろした。
勇気は家の書斎の本をたくさん調べた。
羽心は、近くの図書館だけではなく、隣町の図書館や、ネットまで調べた。
それでも全く手がかりがない。
つまりあの神殿は、まだ発見されていない未知の建造物である可能性が高いのだ。
(そういう意味でいうと、これも未知の物よね)
羽心はポケットの中から黒い鈴を取り出した。
「オシリスの鈴」といい、羽心は以前、邪鬼に騙されて、
この鈴をキユウに向かって鳴らしてしまった。
今は音が出ないようにテープで止めてあるが、
鈴は特別な力を持つ者が振ると、幽霊を消滅させる事ができる。
キユウが消えた原因でもあるので、勇気はそれを受け取ろうとしない。
そのため、羽心がずっと預かっていた。
(この鈴の事も、勇気には内緒で調べてたのよね……)
だが、手がかりはなかった。
プーカにも鈴の事を尋ねたが、全く知らないという。
「特別な力かぁ」
プーカの先祖の王様が作ったグローブを嵌めて時空を超えられるのも、
特別な力を持つ人間だけなのだという。
(だけどどうして、私と勇気だけ特別な力があるの?)
羽心は、ポケットにしまっている星のグローブを見つめた。
プーカは以前、妖精族に伝わるグローブの伝説を教えてくれた。
かつて、「異能」と呼ばれる力を持った人間のある家族が、
妖精族の王からいくつかのグローブをもらった。
彼らはそのグローブを嵌め、怪と人間に災いをなす邪悪な者と戦い、そしてこの世界を救った。
(あれってどういう事なんだろう。大体、私と勇気は家族なんかじゃないし……)
分からない事が多すぎる。
「ああんもう」
羽心は頭を振った。
「羽心ちゃん」
不意に、後ろから声がした。
振り返ると、傍に友達の花恋が立っていた。
「羽心ちゃんも本を借りに来たの?」
花恋はトートバッグを持っている。
どうやら、図書館で本を借りたらしい。
「花恋ちゃんって、ほんとに本が好きだよねえ」
「うん、私、本があればそれだけで毎日幸せだもん!」
「毎日幸せかぁ。いいなあ」
羽心は微笑むと、黒い鈴をポケットにしまい、花恋と一緒に帰ろうとベンチから立ち上がった。
すると、花恋は急に辺りをキョロキョロ見回した。
そして、近くに誰もいない事を確認すると、羽心に顔を近づけた。
「さっき、図書館で本を探してる時、変な話を聞いちゃったんだ」
「変な話って?」
「駅の向こうの小学校の男の子達だと思うんだけど、
同じ学校の子が寝たまま目を覚まさないんだって」
「えっ?」
「しかも、その子だけじゃなくて、何人も同じように眠ったままの人がいるらしいよ」
「それって……」
羽心は、険しい表情で花恋を見た。
「その子達、どこにいるの? 話が聞きたい!」
「う~ン、このくるみパンもなかなかいけるゾ」
住宅地の道路。
プーカは、勇気の肩に乗りながら、チョコのついたくるみパンを食べていた。
勇気は母親に頼まれ、スーパーに買い物に行っていたのだ。
「チョコとくるみの絶妙なハーモニー。これはまさにくるみパンのレボリューションだゾ」
まるでグルメ番組のレポーターのようなプーカの発言に、勇気はうんざりする。
「それを買うために、わざわざ駅前のパン屋さんまで行ったんだよ」
「感謝してるヨ。お礼に一口あげただロ」
「半分ぐらいは欲しいんだけど」
勇気はそう言いながらも、ふと真面目な表情になった。
「ねえ、プーカ。この前のゾンビの事、どう思う?」
「どう思うってなんだイ?」
「ゾンビは確かに人を襲う怖い怪だよね。
だけど、だからと言って捕まって実験体になっていいわけじゃないと思うんだ」
勇気は、金髪のゾンビが最後に言った言葉が気になっていた。
「『コノ世界ハ、オ前達ダケノ物デハナイ』。
金髪のゾンビは、『アノ少年ハ、我々ニトッテ、神ダ』とも言ってたよね?
もしかして邪鬼は、怪達の味方なのかも」
勇気はその事をずっと考えていた。
しかし、プーカはくるみパンを食べるのをやめると、
勇気よりも真面目な顔つきになり、首を大きく横に振った。
「あいつは、オイラ達の味方なんかじゃなイ!」
プーカの仲間達は、邪鬼に唆されて、人間達を襲った。
そして、危うく死んでしまうところだったのだ。
「あいつは、オイラ達の味方のフリをして、
ただ単にオイラ達に人間を襲わせたかっただけなんダ!」
プーカの顔は、怒りに満ちていた。
「プーカ……」
軍がゾンビ達を実験体にしていたのは許せない。
だがそれを利用して、ゾンビ達に人間を襲わせるのは話が違う。
「それに、勇気クンはこの町を守らないといけないんだロ?」
「それは……」
キユウと交わした大事な約束だった。
その約束を守るために、勇気は時空を超えて怪と戦い続けていたのだ。
「そうだよね……。うん、僕と羽心だけしか、この町を守れないんだもんね」
勇気は改めてその事を思いながら、道路の角を曲がった。
「やっと帰ってきた!」
「……」
家の前に、羽心、ディアーナ、アプリルが立っていた。
「あ、ディアーナにアプリル」
「……」
ディアーナとアプリルに表情はなく、どこか物憂げだった。
「それと、羽心、どうしたの? 今日は図書館に行ってたんじゃ?」
「その用事は収穫ゼロで終わったわ。だけど、別の収穫があったの」
「えっ?」
「謎の女の歌声で、何人も人が眠ったままになってるらしいの」
羽心は、図書館にいた男の子達から聞いた話をした。
眠ったままの人は10人以上いるらしい。
しかしあまりにも奇妙な事件なので、警察はまだ世間に発表していないのだという。
「だけど、どうして女の歌声が聞こえたって分かったんだ? みんな眠ったままなんだよね?」
みんな眠ったままなら、話は聞けないはずだ。
すると、羽心は待ってましたとばかりにその答えを言った。
「新聞配達のおじさんが、それを見てたんだって」
おじさんは、微かに歌声を聞き、その場所へと向かった。
そこは住宅街の空き地で、大勢の人が眠っていて、傍に男の子がいたのだという。
やがて、その男の子は、歌声を聴きながら蹲ると、眠ってしまったらしい。
おじさんもだんだん眠くなってきたが、その時、歌声が聞こえなくなったというのだ。
「それで、おじさんだけは無事だったの」
「そうなんだ。……歌声か」
「ノノに似てるわね」
勇気は、以前、怪奇現象の本で、人を歌声で眠らせる怪がいた事を思い出した。
ディアーナとアプリルは、事前にそれを知っていた。
「あれは確か……」
勇気はその怪を思い出し、羽心の方を見た。
「あれ?」
目の前にいたはずの羽心、ディアーナ、アプリルがいない。
「どこ行ったんだ?」
勇気は辺りを見回すが、どこにもいない。
「どうなってるんだ?」
その時、大きな音が響いた。
~次回予告~
勇気は予知夢を見て、ディアーナは本を読んで、人魚が異変を起こしているのだと知る。
このまま人魚を放っておいては、見捨里市の住民が眠りに落ちたままになってしまう。
勇気、羽心、プーカ、ディアーナ、アプリルは、人魚を止めるために時空を超える。
だが、ディアーナは何故か、浮かない表情をしていた……。