勇気と羽心は、それぞれ分かれて、キユウの居場所と、オシリスの鈴について調べていた。
しかし、情報については全く集まっていなかった。
もしかしたら、まだ発見されていないものなのかもしれない。
一方、もやもやしていたディアーナは、アプリルの手助けにより元気を取り戻した。
―ブゥゥゥ
道路の向こうで、車のクラクションが鳴っている。
「何だろう?」
勇気が音のする方へ走ると、一台の車が止まっていた。
駆け寄ってみると、運転席に座っている男の人が、
上半身をハンドルに付けたまま動かなくなっていた。
どうやらそのせいで、クラクションが鳴り続けているようだ。
「大丈夫ですか?」
勇気は、開いている車の窓から、男の人の肩を揺さぶる。
男の人は、眠っていた。
「しっかりして下さい!」
勇気は男の人の上半身を起こし、ハンドルから離すと、声をかけた。
男の人は全く目を覚まさない。
その時、車に付いていたテレビに、見捨里市の駅前が映し出された。
「皆さん、信じられない光景が広がっています!」
レポーターは、カメラに向かって必死に訴える。
カメラは駅前の風景を映した。
そこには、数え切れない人々が倒れていた。
「何故か、人々が眠ったまま目を覚まさないのです!」
レポーターは倒れている人達に声をかける。
しかし、誰も目を覚まさない。
「これは一体どういう事なんでしょうか?」
瞬間、レポーターはハッとして、空を見上げた。
「えっ、歌が……」
カメラマンが反応して、空にカメラを向けようとした。
と、その瞬間、画面が大きく揺れた。
―バタンッ
カメラが地面に倒れる。
画面には、男の人が倒れたまま眠っている姿が見切れている。
「斎藤さん?」
レポーターが男の人の傍に駆け寄り、肩を揺さぶる。
どうやら彼がカメラマンのようだ。
だが、すぐにレポーターも動きが鈍くなっていった。
「な、何……これ……」
レポーターはゆっくりと目を閉じる。
そしてそのまま動かなくなった。
「怪の力だ!」
勇気は、車から顔を出すと、空を見上げた。
「あっ!」
空には、大きな×印状の罅が浮かんでいた。
黒い煙が漏れ出し、女の笑い声が聞こえてきた。
「フフフ、フフフフ」
やがて、笑い声は歌声に変わった。
「聴いちゃ駄目だ!」
勇気は慌ててその場から逃げ出した。
必死に走り、家の前まで戻って来る。
ドアを開け、家の中に飛び込んだ。
「ああっ!」
玄関に、羽心と母親が倒れていた。
二人は眠ったまま、全く動かない。
「そんな!」
その時、開いていたドアの外から、歌声が聞こえて来た。
「駄目だ!」
勇気はドアを閉めようとする。
だが、だんだん力が入らなくなる。
「駄目だ……寝ちゃ……駄目だ」
懸命に耐えるが、勇気は目を開け続ける事ができなくなってしまう。
「このままじゃ……町が……」
勇気は、そのままその場に崩れるように倒れてしまった。
「勇気、しっかりして!」
ハッとして我に返ると、羽心が顔を覗き込んでいた。
「え、羽心、眠ってたんじゃ?」
「何、言ってるの。眠ってなんかないわよ」
「ええっと、もしかして僕、ボーッとしてたの……?」
羽心、プーカ、アプリルは大きく頷き、ディアーナは小さく頷いた。
「じゃあ、さっき見たのは夢って事……」
あれは未来に起きるかもしれない出来事だったのだ。
思い出すだけで、ゾッとする。
「何とかしなくっちゃ!」
「そうだゾ。今回の怪は多分」
プーカがその名前を言おうとすると、それよりも早く勇気が口を開いた。
「今回の怪は、恐らく『人魚』だ!」
「そう」
「おお、知ってたのかイ!」
勇気は以前、本で読んだ事があった。
~人魚~
人魚は、上半身が人間、下半身が魚の伝説の生き物だ。
その多くは女の人の姿をしていて、船を見つけると、歌を歌うのだという。
その歌声は、美しく、船乗り達を魅了するらしい。
しかし、その歌声を聴くと、船は遭難してしまうという伝説がある。
「ああ、マーメイドなのね」
「みんなが眠ったままなのは、人魚の歌声のせいだったってわけね」
「ああ!」
「人魚かあ。だけど人魚の弱点って何かしら?」
「歌声が聞こえていたわよね」
「歌……歌……そうだ!」
勇気はハッとすると、羽心の方を見た。
「歌声を封じれば倒す事ができるかも!」
「そうかしら?」
「人魚は歌声以外の力は、人間とそんなに変わらないからねェ」
「だけど、どうやって歌声を封じればいいんだ? 口にテープをするわけにもいかないし」
勇気がそう言うと、羽心が「あっ」と声を上げた。
「だったら逆はどう? 私達がイヤホンをつけて歌声が聞こえないようにするの」
「なるほど、それ使えるかも!」
「家からイヤホンを持って来るわね。だけど、一個しかないわよ」
「大丈夫。確か、ウチにもお父さんが使ってた古いヘッドホンがあるから!」
勇気と羽心は別れると、それぞれイヤホンとヘッドホンを用意する事にした。
残ったディアーナとアプリルは呟く。
「あの子、人魚姫の話を知ってるのかしら?」
「……だとしても、問題行動は起こすなよ」
「お母さん、お父さんのヘッドホンはどこ?」
勇気は家のリビングに駆け込むと、掃除をしていた母親に声をかけた。
「なあに、音楽でも聴くの?」
「えっ、あ、うん、何か急に聴きたくなって」
母親は掃除機を止めると、「ちょっと待ってて」と言い、二階の寝室に向かった。
そしてしばらくすると、灰色のヘッドホンを持って下りて来た。
「寝る前に音楽を聴く時、これを使っているのよ」
「お母さん、音楽なんて聴くんだ」
「お父さんがよく聴いていたから、いつの間にか習慣になっててね」
「そうだったんだ」
そんな話、初めて聞いた。
「壊しちゃだめよ」
「分かってる」
勇気が母親からヘッドホンを受け取ると、玄関のドアが開き、
羽心、ディアーナ、アプリルが入って来た。
「おばさま、こんにちは! 勇気と一緒に書斎で調べ物しますね!」
「えっ、ええ」
「お茶は大丈夫です! お菓子も今日は我慢します!」
「わ、分かったわ」
一方的に話す羽心に母親は圧倒される。
そんな母親をよそに、勇気と羽心は書斎に入った。
「羽心、イヤホンはあった?」
「ええ、ばっちりよ!」
羽心はワイヤレスイヤホンを見せた。
「よし、行こう」
勇気は両手に太陽と月のグローブを嵌めた。
羽心も星のグローブを嵌め、勇気の横に立ち、
プーカは勇気の服の胸ポケットの中に顔まで隠れ、ディアーナとアプリルは身構える。
勇気は、壁に近づくと、左手をかざして呪文を唱えた。
「
次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。
勇気、ディアーナ、アプリルは、光の渦の中に飛び込む。
羽心もその後に続いた。
やがて、勇気、羽心、ディアーナ、アプリルはトンネルを抜け、砂浜に着地をした。
しかし、砂に足を取られ、倒れそうになる。
「わ、ほっ、やあっ!」
羽心はそれでも何とかバランスを保ち、砂浜に立った。
アプリルは華麗に着地する。
一方、勇気とディアーナはよろけていた。
「きゃっ!」
「わわ! うわわわ!」
そのまま、勇気とディアーナは前のめりの状態で砂浜に倒れそうになる。
「のああァ!」
倒れる寸前、プーカは慌てて服の胸ポケットから飛び出し、ディアーナは風の魔法を使う。
「急に倒れたら、オイラが潰れちゃうだロ!」
「そんな事言ったってしょうがないだろ~」
勇気は身体を起こすと、顔をあげて周りを見た。
周りは砂浜になっていて、その向こうに海が広がっている。
砂浜には小さな船がいくつも置かれていた。
「ここに、人魚がいるって事だよね?」
「そうだな」
勇気は砂を払いながら立ち上がり、羽心達にそう言った。
すると、砂浜の向こうに、数人の男の人達が走っている姿が見えた。
「急げ! 遅れると怒られるぞ!」
「ああ、領主様は怒ると怖いもんな!」
「領主様?」
「その地域を支配してる人って事ね。とりあえず行ってみましょ」
「あ、ああ!」
勇気達は男の人達を追った。
~次回予告~
中世ヨーロッパに辿り着いた勇気と羽心は、人魚を探して各地を探索する。
すると、領主に命じられた男達がやってくる。
どうやら彼らは人魚を探しているらしいが、ディアーナとアプリルは物怖じしない。
そしてその人魚は、ある青年に恋をしていたが……。