怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

見捨里市に現れたメデューサは、勇気達の活躍によって倒れた。
だが、異変については、羽心も、原末先生も、全く覚えていなかった。
怪に関する事がなかった事になった――それが証明された。
だが、キユウによれば、まだ始まったばかりなのだ。


episode1 - Revived Legend ~ 巨大な影
1 - 父親の書斎


(やっぱり、あれは夢だったのかも……)

 メデューサを倒して、一週間が過ぎた。

 羽心も原末先生も、石化事件の事や、

 その犯人であるメデューサと遭遇した事は、全く覚えていなかった。

 町でも全く話題にもなっておらず、もちろん、ニュースでも報道されていなかった。

 怪が消えれば、その怪が起こした全ての事が人々の記憶から消える、とキユウが言った。

(だけど……)

 勇気はあれが本当にあった事かどうか、正直自信がなかった。

 何故なら、あの日以来、キユウが全く姿を現さなかったのだ。

 

 勇気は学校が終わると、いつものように父親の書斎に向かった。

「入るよ」

 部屋の前でそう言うと、ゆっくりとドアを開け、部屋を見回すが、

 部屋の中にキユウの姿はなかった。

「やっぱり、今日もいないよね……」

 この一週間、確認するのが日課になっている。

 キユウは、メデューサを倒した後、「これは始まりに過ぎない」と言っていた。

 それはつまり、また怪が現れる可能性があるという事だろう。

 勇気はキユウがいるのを確認する作業のおかげで、

 あれほど入るのが苦手だった父親の書斎に、平気で入れるようになっていた。

 書斎には、父親が世界中から集めた曰く付きの不気味な骨董品の他に、

 考古学の本や、羽心が好きでたまらない怪奇現象に関する本がたくさんあった。

 勇気は今まで「羽心って変わってるよね」ぐらいにしか思わなかったが、

 石化事件以来、そういう本も読むようになっていた。

「へー、メデューサって、ゴルゴンっていう名前の怪物で、

 ステンノー、エウリュアーレというお姉さんがいる三姉妹なんだ。

 『妖女ゴーゴン』ってタイトルで映画も作られてるのかぁ。

 ええっ? 頭の蛇って毒蛇だったの?」

 勇気は、ギリシャ神話の本を読みながら、改めてメデューサの姿を思い出してゾッとした。

 

「あらっ、またここにいたのね」

 しばらくすると、母親が部屋に入ってきた。

「お父さんの持ってた本を読んでたんだ」

「へぇ、ギリシャ神話……。勇気、そういうのに興味あったのね」

「えっ、ま、まぁね」

 あの事件の事は、母親には言っていない。

 羽心達と感じように、事件そのものを覚えていないからだ。

 母親は、勇気を見ながら、にっこりと笑った。

「何?」

「何だか嬉しくて。だって、勇気がお父さんの部屋に入るようになってくれたでしょ」

「それが嬉しいの?」

「そりゃあ、嬉しいわよ。お父さんがいなくなったの、勇気が2歳ぐらいの時だったでしょ。

 勇気は全然お父さんとの思い出がないから、それがずっと、悲しかったのよ」

 母親はそう言いながら、部屋を見回した。

「ここにはお父さんの思い出がいっぱい詰まってるの。

 あの人がどれだけ好奇心旺盛でいい人だったかっていう思い出がね」

 勇気はそれを聞き、母親と同じように部屋を眺めた。

 今までは、部屋に近づくたびに、父親の事を思って寂しい気持ちになっていた。

 しかし、今は違う。

 この部屋にいると、父親が傍にいるような気がして、楽しいのだ。

「そう言えば、最近あれを言わなくなったわね?」

「あれ?」

「ほらっ、あの赤い髪の事よ」

 それは、キユウの事だ。

 石化事件の事は覚えていなくても、勇気の見た夢の事は覚えているようだ。

「夢、もう見なくなったの?」

「えっと、まあ、もう見なくなったかな」

 キユウが現れなくなって以来、夢も見なくなっていた。

「そう、それはよかった。ようやく、勇気も夢と現実の区別がつくようになったのね。

 読んだ本はちゃんと元に戻しておくのよ」

 母親はそう言うと、部屋を出て行った。

 

「夢と現実かぁ……」

 キユウとディアーナと一緒に体験したあの出来事は夢のようだった。

 そもそも、霊体のキユウと、エルフのディアーナそのものが、現実的ではない。

 やっぱり、夢だったのかも、と思いつつも、首を小さく横にふった。

「あれは、やっぱり現実だったんだよね……」

 勇気は、ポケットを探ると、ある物を取り出した。

 それは、漆黒のグローブだ。

 夢などではない。

 勇気はこのグローブをつけて、キユウと、ディアーナと共に、

 古代ギリシャに行き、怪と戦ったのだ。

 

グゴオオオオオ

 突然、大きな地鳴りがした。

「うわっ!」

 勇気は、書斎を飛び出すと、リビングにいた母親のもとへ向かった。

「お母さん、大丈夫?」

「ええ、地震かしら?」

 母親は慌ててスマホを確認する。

 地震の時は速報が表示されるはずだが、速報は表示されていなかった。

 その時、先ほどよりさらに大きな地鳴りが響いた。

グゴオオオオオ、グララァアアア

「み、耳が!」

 空気からビリビリ伝わる振動に、思わず勇気は耳を塞いだ。

「勇気、大丈夫?」

 母親も耳を押さえつつ、テレビをつけてみる。

 だが、どのチャンネルでも、いつまで経っても、地震があったという報道は流れなかった。

 

 その頃、路地裏の建物では、ディアーナがジャネットから依頼を受けていた。

「ネス湖の怪物ネッシーが、見捨里市に現れようとしています」

「ネッシーはこの世界ではただの都市伝説よね。でも……大地が揺れているのは事実でしょう?」

「ただの都市伝説ではありません。私を否定する事になるのですよ」

 ジャネットも伝承が形を取ったものだ。

 それを否定するのは、ジャネット自身を否定するのと同じだ。

「ネッシーは確かに実在します。少なくとも、異変が起きている間は、ですが」

 そう言うと、ジャネットはディアーナを指差す。

「ディアーナ、今すぐに調査をしなさい。拒否権はありませんよ」

「……じゃ、行ってきます」

 ディアーナは準備をして、建物を出ていった。




~次回予告~

突如、見捨里市を巨大な地鳴りが襲った。
建物は壊れず、地鳴りだけが起こる異変に、勇気は怯えてしまう。
その原因はもちろん、怪の仕業である。
果たして、今回はどんな怪が勇気達の前に現れるのだろうか。
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