怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

勇気は人々が次々に眠りに落ちるという予知夢を見た。
歌声を防ぐために、勇気と羽心はイヤホンとヘッドフォンを装備して身を守る。
勇気、羽心、ディアーナ、アプリルは、時のトンネルを通って時空を超えた。
だが、そこでも何か、問題が起きているようで……。


4 - 青年と人魚

 男の人達を追って砂浜から出ると、小さな村があった。

 レンガ造りの家が並び、車などは走っておらず、代わりに馬車が入っていた。

「ヨーロッパのどこかの町みたいだね」

「馬車があるって事は、時代は中世のようね」

「フランス……?」

「おい、あそコ!」

 勇気の服の胸ポケットに戻っていたプーカが、前方を指差した。

 そこには広場があり、10人ほどの男の人達が集まっていて、先程の人達の姿もあった。

 彼らの前には、豪華で派手な服を着た、太った中年の男が立っていた。

「領主様、一体何の用でしょうか?」

 先程の男の人の一人が太った中年の男にたずねる。

 どうやら中年の男が領主のようだ。

「諸君に集まってもらったのは他でもない。

 この村に隠れているある生き物を見つけてほしいのだ!」

「ある生き物? 飼っていた犬とかですか?」

「そうではない。私の家の者達を襲った、憎き人魚だ」

 

人魚!!

 アプリルは思わず大きな声を上げた。

 領主がそれを聞き、アプリルを睨んだ。

「君はこの村の人ではないな? 何か知っておるのか?」

「それを聞いてどうする」

 アプリルが睨むと、羽心が笑いながら領主に話しかけた。

「そんなの知るわけないじゃないですか~。

 人魚なんておとぎ話の中だけの話だと思ってたから、びっくりしちゃったんですよ」

「……そうだな」

 アプリルと羽心が下手な作り笑いをすると、領主は「フン」と鼻を鳴らした。

 そんな中、村人の一人が口を開いた。

「だけど領主様。人魚なんてほんとにいるんですか?」

 村人達は皆、首を傾げていた。

 すると、領主は眉間に皺を寄せて、地面を何度も足で踏んだ。

 

「この領主である私が嘘をついてるとでも言うのか!」

 領主は怒りながら村人達に迫る。

「す、すいません、領主様!」

「信じます! 怒らないで下さい!」

 村人達は慌てて謝った。

「け、けど、ほんとにいたとして、

 人魚の歌を聴いたら、眠ってしまって永遠に目が覚めなくなるんですよね?」

「俺、そんなの嫌だ!」

「僕も死にたくないよ!」

「ええい、五月蠅い!」

 領主はまた地面を何度も足で踏んだ。

「奴はそれで私の家の者達を眠らせてしまった! だが歌う前に捕まえればいいだけだ!

 私のやる事に反対するつもりか!?」

 領主は村人達を睨みつける。

 村人達はその迫力に何も言えなくなってしまった。

 その時、広場の向こうから声がした。

 

「おい、人間みたいな魚がいるぞ!」

「何だと?」

 領主は声のした方を見ると、ニヤリと笑った。

「お前達、人魚だ! 絶対に逃がすのではないぞ!」

「は、はい!」

 領主は村人達を連れ、その場から走り去って行った。

 ディアーナはレイピアとダガーを抜こうとする。

「私達も行きましょ!」

「あ、ああ」

 だが、勇気とアプリルは何故か首を捻っていた。

「どうしたの、勇気、アプリルさん?」

「声がしたのは村の中からだったよね?」

「人魚は、水がなくては生きられないのでは?」

「そう言われれば……」

 村を見る限り、川も池もなさそうだ。

「じゃあ、さっきの声は何だったの?」

 羽心がそう思っていると、広場の傍に立っていた木の隣から、一人の青年が出て来た。

 

「上手くいったようだな……」

 青年は、走って行く領主達の後ろ姿を見て、微笑む。

 そしてそのまま、領主達とは反対方向へ走って行った。

「お、あいつは人魚の恋人かい?」

「おいおい、何だか怪しいゾ」

「さっきの声、あの人だったんじゃないのかしら?」

「領主達を騙したって事?」

 勇気達は、走って行く青年の姿をじっと見つめた。

 

 青年は、村外れの小さな小屋の前までやって来た。

 辺りをキョロキョロ見回して、誰もいない事を確認すると、素早く小屋の中に入った。

「セイレ、上手く行ったよ!」

 小屋の中には、網やオールが置かれていた。

 部屋の一番奥に、布で仕切られている場所があり、青年はそこを見ていた。

―パシャ パシャ

 布の向こうで水を弾く音がする。

 青年は満面の笑みを浮かべると、ゆっくりとその布を取った。

 そこには、水を張った大きな桶がある。

 その桶の中に、美しい人魚がいた。

 

「ヨハン、ありがとう」

 セイレと呼ばれた人魚は、ヨハンに微笑む。

―パシャ パシャ

 嬉しそうに尾ひれが動き、水が何度もはねた。

「おー、可愛いねぇ」

 アプリルが呟いた瞬間、入り口で音がした。

―ドンッ

わあああ!!

 次の瞬間、勇気、羽心、ディアーナ、アプリルが倒れそうになりながら小屋の中に入って来た。

「勇気、押さないでよ! バランス崩しちゃったでしょ!」

「押してないよ! 羽心が勝手に倒れちゃったんだろ!」

「喧嘩しないでよね」

 どうやら、四人は隠れて中の様子を見ていたようだ。

「くっ、セイレは渡すものか!」

 ヨハンは四人を見て声を荒らげると、傍にあったオールを手にして、大きく振り上げた。

「待ちなさい、あたし達は領主の仲間じゃないわよ!」

「じゃあ君達は誰なんだ?」

「あたし達は、怪を倒すためにこの時代に――」

 そこまで言った時、ディアーナはふと、ヨハンの後ろにいるセイレを見た。

 

 セイレは、震えていた。

 その身体は、あちこち怪我をしている。

「どういう事? その傷、大丈夫なんですか?」

 心配する勇気を見て、ヨハンは驚く。

 羽心も同じように心配していた。

 ディアーナはセイレに近づくと、回復魔法を唱えて傷を癒す。

「な、何なんだ、君達は」

 ヨハンは戸惑いながらも、振り上げていたオールを下ろした。

 

 しばらくして。

 領主の仲間ではないと分かってもらった勇気達は、ヨハンから話を聞く事にした。

 勇気達が思った通り、ここは中世のヨーロッパだった。

 ヨハンは、この村で漁師をしているのだという。

 二日前、いつものように漁を終えて家に帰ろうと思っていると、

 浜辺に倒れているセイレを見つけたのだ。

 セイレは領主達に襲われ、怪我をしてかなり弱っていたらしい。

「最初は人魚を見て恐ろしく思ったんだけど、何だか放っておけなくて」

 ヨハンは、自分の漁の道具を置いていたこの小屋にセイレを連れて来ると、

 寝ずに看病を続けていたのだという。

「ヨハンのおかげで、私は助かったの」

「セイレ、好きだよ」

「ええ、ありがとう、ヨハン」

 セイレは柔らかな表情で、ヨハンに微笑む。

 ヨハンもそんなセイレに優しい笑みを返した。

 アプリルはそんな二人を、諦め混じりの声で応援した。

「いいカップルになるんだぞ」

「アプリル……?」

 一方、勇気と羽心はそんな二人をじっと見ていた。

「ねえ勇気、この人達って……」

 彼らは人間と怪だ。

 しかしまるで、恋人同士そのものだった。

「俺も、人間が好きだったんだ。とっくに諦めたんだがな」

「アプリル……ほんとに、彼女を倒さないといけないの……?」

「だけど、領主の家の人達を襲ったって言うし」

 すると、セイレが勇気の方を見た。

「襲ってきたのは彼らの方なの。私を捕まえて見世物にしようとしてきて」

「えええ?」

 どうやら、そんな領主達から逃げるために、歌を歌って抵抗したようだ。

「悪いのは、領主達って事よね……」

 ディアーナが呟く。

「それは……」

 勇気はどう答えればいいのか分からなくなってしまった。

 と、突然、入り口で物音がした。

 ハッとして見ると、入り口に数人の男が立っている。

 先程、領主のもとに集まっていた村人達だ。

「ヨハン、そいつを渡せ!」

 男達は小屋に飛び込んで来た。

「だが断る!」

 瞬間、ディアーナは風の魔法で男達を吹き飛ばす。

「ヨハン、セイレ、逃げるわよ!」

「あ、ああ!」

 ヨハンは布を掴むと、桶の中の水に浸し、セイレの身体をその布で包んだ。

「セイレ、少しの間我慢して!」

 ヨハンは布で包まれたセイレを抱き上げる。

 それを見て、羽心は勇気の方を見た。

「ヨハンさん達を守って!」

「え、でも!」

「早く!」

「わ、分かったよ!」

 勇気は傍にあった網を手に取り、それを男達に向かって投げた。

「おい、やめろ! うわっ!」

「くそ、取れない!」

 男達は網に絡まり、パニックになる。

「今だ!」

 勇気達は、セイレを抱きかかえたヨハンと共に、小屋から逃げ出した。




~次回予告~

領主は人魚を見世物にしようとしていた。
ツチノコといい、コティングリーの妖精といい、人間の欲深さに辟易するディアーナ。
青年と人魚の恋を応援していたアプリルだったが、どこか諦めムードだった。
そんな時、領主が勇気達に襲い掛かり……。
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