中世ヨーロッパで、漁師のヨハンと人魚のセイレと出会った勇気達。
まるで恋人同士のような雰囲気に、アプリルは二人を応援する。
だが、アプリルはどこか諦めたような声だった。
勇気達は、本当に人魚が悪事をしているのか疑問を抱く。
その時、領主とその仲間がセイレを捕まえようとして……。
「ありがとう、助かったよ!」
勇気達は、村から少し離れた場所にある小さな砂浜まで逃げて来た。
「ここは、村でも俺と親友のミハエルしか知らない秘密の漁場なんだ」
周りにはいくつも岩があり、砂浜はその隙間に隠れるようにあった。
この周辺に魚が集まって来るのだという。
砂浜のあちこちに、ヨハン達が使っていたであろう魚の道具などが置かれていた。
ヨハンは、布に包まれたセイレを見た。
「すぐに海に浸けてあげるからね」
ヨハンは波打ち際へと行くと、セイレをゆっくりと海の中に降ろした。
「ありがとう、ヨハン」
「苦しかっただろ。もう大丈夫だよ」
その光景を、羽心とアプリルは嬉しそうに見ていた。
そんな羽心に、勇気は話しかける。
「ねえ、羽心。僕達は人魚を倒しに来たんだよね?」
それを聞いた羽心は、神妙な顔つきになり、小さく頷いた。
「だけど、二人を見てたら助けなきゃって思ったの」
羽心は勇気をじっと見つめた。
「セイレさんは、悪い怪なんかじゃない。勇気だってそう思うでしょ?」
「そ、それは、そう思うけど……」
セイレは怪だが、一人の女の人にしか見えない。
すると、プーカが勇気の服の胸ポケットから飛び出した。
「怪だって、人間と同じだヨ。悪い奴ばかりじゃなイ」
「プーカ」
「オイラだって、とっても素敵ないい怪だ」
「素敵かどうかは分からないけど、確かに悪い怪じゃないよね」
勇気の言葉に、プーカはニッコリと笑った。
「その生き物は何だい?」
ヨハンが、プーカを見て目をパチクリさせていた。
「あっ、えっと、彼は……」
「オイラはプーカ。妖精族の王子だヨ!」
プーカは、パタパタと羽を動かしながら、ヨハン達のそばまで飛んで行った。
「よろしくネ!」
「え、は、はあ」
プーカはヨハンに手を差し出す。
ヨハンは戸惑いながらも、プーカと握手をした。
「可愛い、妖精さんね」
セイレはクスクスと笑った。
その姿を見て、勇気、羽心、ディアーナ、アプリルも心が和む。
だが、アプリルはすぐに笑顔が消える。
「人魚姫の話……知ってるのか……?」
アプリルの呟きは、聞こえない。
「けど、だったらどうして見捨里市に歌の力が?」
勇気はセイレに、人魚の歌の力が×印状の罅を通って町に来てしまった事を話した。
しかし、セイレはその話を聞いて首を傾げた。
「確かに、歌には人間を眠らせてしまう力があるわ。だけど、×印状の罅というのは何かしら?」
「邪鬼という少年に会いませんでしたか?
そいつがあなたをたぶらかして、人魚の力を利用しようとしているんです」
「邪鬼? そんな少年は会った事がないけど」
「目に包帯をしてて着物を着て刀を持った少年です」
「私には覚えが……だけどもしかしたら――」
「きぃぃ~、全部あの領主のせいダ。ギャフンと言わせてやル!」
プーカは宙に浮かびながら、拳を握り締めた。
「ふん、私をギャフンとだと?」
「えっ?」
勇気達が振り返ると、そこには領主と村人達がいた。
「どうしてここが?」
焦るヨハンを見て、領主はニヤリと笑った。
「彼が教えてくれたのだよ。秘密の砂浜があるとね」
領主の後ろには、オドオドとしている小柄な青年が立っていた。
「ミハエル!」
ヨハンの親友で、この砂浜を知っているもう一人の人物だ。
「ミハエル、どうして教えたんだ!」
「だ、だって、領主様の命令は絶対だから。それぐらいお前だって分かるだろ?」
「ふん、馬鹿な奴だ。人魚など退治されて当然の存在なのだぞ」
領主は村人達と共に、ジリジリと近づいて来た。
「勇気!」
羽心は焦った表情で勇気の方を見た。
ディアーナとアプリルは、身構えている。
「あ、ああ……」
勇気はセイレとヨハンを見る。
そして、領主と村人達を見た。
「僕は……」
次の瞬間、勇気はディアーナ達と共にセイレ達を守るように、領主達に向かって構えた。
「そうこなくっちゃ!」
「いいぞ、やっちゃエ!」
羽心も隣で構える。
プーカも勇気の肩にしがみつき、応援した。
「くうう、妖精に人狼までいたとは。忌々しい怪物どもめ」
「オイラ達は忌々しくなんかないゾ!」
「そうよ!」
「怪物が人間様に意見する気か? 子供達よ。お前達もその男と同じで怪物の味方という事だな。
いいだろう、こいつらを全員捕まえるのだっ!」
領主の命令を受け、村人達が一斉に駆け込んで来た。
ディアーナが双剣を振ろうとした時。
―パシャッ
少し離れた海面で何かが跳ねた。
「あれは!」
セイレと同じ美しい人魚だ。
「もう一匹いたのか!」
領主が苛立ちながら海の方を見ると、人魚は傍の岩場に腰を下ろした。
「聴くがよい。愚かな人間達よ!」
人魚はそう言うと、大きく息を吸い込んだ。
「やばイ! 歌を歌う気だゾ!」
プーカの言葉を聞き、勇気、羽心、ディアーナ、アプリルはハッとした。
慌ててヘッドホンとイヤホンを耳に着け、ディアーナとアプリルも耳を押さえる。
「ヨハンさんも耳を押さえて!」
「えっ、あ、ああ!」
ヨハンが耳を押さえた瞬間、人魚の歌声が響いた。
「ル~、ラララ~♪」
その美しい歌声に、村人達は思わず立ち止まり、聴き入る。
「おい、お前達、何をしている! 早く捕まえるのだ!」
領主は村人達に怒鳴りつけるが、だんだん動きが鈍くなっていった。
「何か……眠くなって、きたぞ……」
領主はうっとりとした表情になった。
「あ、あああ……」
次の瞬間、領主は眠りに落ちると、そのまま前のめりに倒れた。
村人達も次々と眠り、倒れていく。
「これは……?」
それを見て、ヨハンは戸惑う。
その中、セイレが人魚の方を見て叫んだ。
「姉さん、やめて!」
~次回予告~
もう一人の人魚が、中世ヨーロッパにいた。
彼女もまた邪鬼の被害者であり、異変を起こしている加害者だった。
全ての住民を眠らせようとする人魚。
人魚を助けようとしたディアーナだったが、問題行動になると知り……。