怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

見捨里市の睡眠異変を止めるべく、中世ヨーロッパに向かった勇気達。
ヨハンとセイレの恋を応援するアプリルだったが、領主達はセイレを傷つけていた。
怪は悪いものではないはずなのに、異変を起こすのは矛盾している。
だが、本当に異変を起こしていたのは、セイレの姉だった。
果たして、勇気達はセイレの姉を止め、見捨里市を守る事ができるだろうか。


6 - 真っ白な泡

「姉サンだっテ?」

 プーカがその言葉に驚いていると、歌が止まった。

「お、おい、もう大丈夫だゾ!」

 プーカの手振りを見て、勇気と羽心はヘッドホンとイヤホンを外す。

「おイ、大変ダ! あの人魚はセイレちゃんのお姉サンみたいだゾ」

「えええ?」

 勇気達は人魚の方を見た。

 だが、人魚は海に飛び込み、姿を消した。

「どこに行くつもりだ?」

 勇気達は、海面を見つめる。

 しかし、どこに人魚がいるのか分からない。

 すると、セイレの傍の海が水しぶきを上げた。

 海中から、姉の人魚が姿を現した。

セイレ、何故人間などといるのだ! 裏切るつもりか!

 人魚はセイレの腕を掴んだ。

裏切るのなら、私がお前を抹殺してやる!

 人魚はそのままセイレを海の中に連れ込もうとした。

「きゃあ!」

「セイレ!」

 ヨハンがセイレの手を握った。

人間、その手を離せ!

 人魚はセイレを掴んだまま、強引に泳ごうとする。

「ああっ!」

 ヨハンはその勢いにバランスを崩し、海の中に入って行ってしまった。

「ヨハンさん!」

 勇気達は、慌ててヨハン達を追って、波打ち際を走る。

 だが、人魚の泳ぎは速く、徐々に砂浜から離れて行く。

「ヨハン、危ないわ、手を離して!」

「離すもんか! セイレ! があ、がああ!」

 ヨハンは辛うじて水面に顔だけを出しているが、

 これ以上深くなれば、最早抵抗するのは不可能だ。

「このままじゃヨハンさんが大変な事になっちゃうゾ!」

「分かってるってば!」

 勇気とアプリルは波打ち際を必死に走り、ヨハン達を追いかけるが、

 どうすれば助けられるか全く分からなかった。

「飛んで行ければ助けられるのに!」

「飛んで行ければ?」

 勇気とアプリルの後ろを走っていた羽心が、ふと砂浜を見た。

 そこには、ボロボロになったロープが捨てられている。

 ヨハンが捨てた漁の道具だ。

 それを見て、羽心はハッとなった。

「プーカ!」

 羽心はロープを手に取ると、勇気の肩にしがみついているプーカを見た。

「ロープを持って、ヨハンさんのところまで行って!」

「オイラがあそこニ?」

「これはあなたにしかできない事なのよ!」

「オイラにしか……」

 プーカは、にやっと笑った。

「しょうがないナ。妖精族の王子の力を見せてやるゾ」

 次の瞬間、プーカはロープを掴むと、ヨハン達の方へ飛んで行った。

「羽心、一体何なの?」

「いいから見てて!」

 羽心は、プーカの持って行ったロープの一方の端を握り締めていた。

「ヨハンさん!」

「プーカ!」

 プーカは猛スピードでヨハン達の下へ辿り着いた。

「何をするつもりだ?」

 人魚が睨む。

 その中、羽心が砂浜から声を上げた。

「ヨハンさん、そのロープを身体に巻いて!」

「ロープを?」

 ヨハンは訳も分からず、プーカの持っていたロープを身体に巻いた。

 一方、それを見た勇気とアプリルはハッとした。

「そうか! ロープを引っ張るんだね!」

「その通り!」

 勇気、ディアーナ、アプリルは羽心の持っていたロープの端を持った。

んんんんん!!

 勇気、羽心、ディアーナ、アプリルはロープを引っ張る。

「な、何だ」

 人魚は急に前に進めなくなった。

「勇気、もっと引っ張って!」

「ああ! ふんんん!

 勇気、羽心、ディアーナ、アプリルはさらにロープを引っ張る。

「セイレを、返せ……!」

 ヨハンはセイレの手を強く握りしめていた。

「く、く、あああ!」

 次の瞬間、人魚がセイレを離した。

「今だ!」

 勇気達はさらに勢いよくロープを引っ張った。

 ヨハンとセイレは波打ち際まで戻ってきた。

 

「羽心チャン、オイラやったヨ!」

「うんうん、偉い!」

「ヨハンさん、セイレさん、大丈夫ですか?」

 勇気の言葉に、二人は笑顔で頷いた。

 

許さん――

 近くの岩場から、声が響く。

 いつの間にか、セイレの姉が岩場に座っていた。

あの少年の言った通りだ。人間など生かしておくべきではない

「あの少年? そうか、お前が邪鬼と会っていたのか!」

 罅から漏れ出した人魚の力は、姉の人魚の力だったのだ。

あの少年は私に言った。妹を傷つけた人間達を、黙って放っておくのかと

 人魚の上に、×印状の罅が現れ、黒い煙が漏れ出す。

私は人間を許さない!

 人魚は目を赤く光らせると、大きく息を吸い込んだ。

「姉さん、やめて!」

「耳を塞ぐんだ!」

 勇気は、羽心、ディアーナ、アプリル、ヨハンに叫んだ。

 刹那、人魚の歌声が響く。

 勇気達はそれぞれ耳を塞ぐ。

 だが、耳を塞いでも、歌声が聞こえて来た。

「ル~、ラララ~♪」

「どうして?」

あの少年のおかげだ!

 罅から漏れる黒い煙が、人魚を包み込んでいた。

私は、力を増した。より多くの人間を永遠に眠らせるために!

 人魚は目を赤く光らせながら、さらに歌を歌った。

「ル~、ラララ~♪」

「勇気、ディアーナさん、アプリルさん、このままじゃやばいわよ!」

「逃げろ!」

 勇気達はヨハン達を連れて、その場から離れようとする。

 だが、動けなくなってしまう。

 歌声が、心の奥の奥まで響く。

 勇気達はその声に聞き惚れてしまったのだ。

「おイ、勇気クン、羽心チャン、ディアーナ、アプリル、しっかりしロ!」

「何だか、いい歌かも……」

「私、眠くなってきたわ……」

 勇気と羽心は、うっとりとしながら、その場に膝をつく。

 ディアーナとアプリルは抵抗していたが、ヨハンも、フラフラとよろめき出した。

「ヨハン!」

 セイレが名を呼ぶが、ヨハンの目は今にも閉じそうだ。

「セ……イレ……僕は……君を……守る……」

愚かな人間どもよ! 永遠の眠りにつくがいい!

 人魚はさらに目を赤く光らせ、大きく息を吸った。

 

「やるなら、あたしが……」

 ディアーナが双剣を抜こうとした時、アプリルがディアーナを止める。

「何をするのよ、アプリル!」

「ジャネットが言ってただろ! 問題行動を起こすなと!」

 ディアーナは雪女を独断で救出、ドラキュラを見て暴走する、

 という問題行動を起こしたため、二度としないと誓った。

 アプリルによって気付いたディアーナは、はっと手を止める。

「……そうよ」

 セイレは人魚を睨んだ。

「確かに、姉さんの言うように、悪い人間はいっぱいいる。

 だけど、だけど、いい人間だってたくさんいるの!

 だから、私の大切な人をこれ以上傷つけないで!」

 セイレは、大きく息を吸った。

 そして、歌を歌った。

「ラララ~、ルルララ~♪」

「その歌は!!」

 人魚はその歌を聴き、動揺する。

 それは、哀しそうな歌声だった。

 耳を塞いでいる勇気達にもはっきりと聞こえた。

 だが、勇気達は全く眠くならなかった。

「何なんだ、この歌は……?」

 勇気がそう呟いた瞬間、岩場にいた人魚が悲鳴を上げた。

セイレ! どうして? 私はお前の事を! があああっ!

 人魚は悶えながら、身体から黒い煙を出した。

 黒い煙は四散して、そのまま人魚も消えた。

 一方、セイレも歌うのをやめ、その場に倒れた。

 

「セイレ!」

「何をしたんだ!」

「今のは……禁断の歌……。聴けば、人魚は死んでしまうの。歌った本人でさえも……」

「本人でさえも?」

「あぁっ!」

 セイレは苦しそうな表情を浮かべる。

セイレさん!!

 勇気達はセイレの下に駆け込む。

セイレ! セイレ!!

 ヨハンはセイレを抱きしめて、必死に名前を呼んだ。

「短い間……だったけど……あなたに会えて、よかった……」

「セイレ、しっかりしろ!」

「ヨハン、私……あなたの事が――」

「セイレ!」

 セイレは、ヨハンの腕の中で、泡となって消えた。

 それは、今まで見た事のないぐらい、穢れのない真っ白な泡だった。

 

「……だから言っただろ。人間と怪の恋は必ず、破れるって」

 アプリルはヨハンにそう、吐き捨てた。

 彼の目には、涙が浮かんでいた。

 

 しばらくして。

 勇気、羽心、ディアーナ、アプリルは、村を歩いていた。

 全てが元に戻り、村人達はいつもと同じ生活を送っていた。

「ほんと、領主様はすぐ怒るから嫌だよな」

「おいおい、そんな事聞かれたら、また怒鳴られるぞ」

 村人達は笑いながら、勇気達の傍を歩いて行った。

「結局、あの領主も無事で、何も覚えてないのよね?」

「ああ、人魚がいた事も、人魚を傷つけた事も何も」

「一般人には、分からないだろうな……」

 恐らく、領主はまた人魚を見つけたら殺そうとするだろう。

「オイラ、何か納得できないゾ……」

 勇気の服の胸ポケットの中で、プーカが怒ったような顔をした。

 勇気、羽心、ディアーナ、アプリルも、プーカと同じ気持ちだった。

 

 やがて、勇気達は秘密の小さな砂浜にやって来た。

 砂浜には、青年――ヨハンがいた。

 ヨハンはぼんやり海を眺めていた。

 そこへ、ミハエルが通りかかった。

 

「おい、ヨハン、何してるんだ?」

 ミハエルが尋ねると、ヨハンは「さあ」と答えた。

「よく分からないけど、ずっと海を見ていたくて。見てると、何故か心が温かくなるんだ」

「ヨハンさん……」

 セイレも、姉の人魚も、悪い怪などではなかった。

 それなのに、二人とも消えてしまった。

「こんな悲しい事は、もう二度と繰り返しちゃいけないんだ」

 海の上には太陽が浮かんでいる。

 太陽は、砂浜を眩しく照らしていた。

 勇気達はいつまでも、ヨハンを見つめ続けていた。

 

「人魚は本当に死んだわけじゃない。精霊に生まれ変わって、今でも、あたし達を見守っている。

 ナタリアが、教えてくれたんだもの」




~次回予告~

近代のアメリカに住む男は、ある装置を発明しようとしていた。
だが一向に、発明は進んでいなかった。
そんな男に語り掛けていたのは――邪鬼だった。
次に遭遇するのはアメリカの英雄、果たして勇気達は止められるだろうか。
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