怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

人魚異変は解決したが、勇気達に喜びの表情はなかった。
邪鬼に騙された結果、姉妹共々消滅してしまったからだ。
人間と怪が仲良くなれる日は、恐らく永遠に来ないのかもしれない。
そう思いながら、ヨーロッパを後にする勇気達であった。


episode5 - The approaching nightmare ~ 死者と話せる発明
1 - あの世との通信


―カチッ!

 皺の刻まれた男性の手がスイッチを入れた。

―キュ~ン!

 テーブルに置かれた金属製の四角い装置に電流が流れる。

 その装置は跳び箱の一番上の段くらいの大きさだ。

 側面にはいくつかのレベルメーターが付いている。

 それらの針がキュッと大きく振れた。

―ジジジッ!

 装置の上には鹿の角のような形の金属棒が突き出ている。

 その棒と棒の間に小さな青白い火花が散った。

 周囲の空気が微かに対流を始める。

 これは何かを送受信するためのアンテナなのだ。

 スーツに身を包んだ老紳士は異様なアンテナをしっかりと見つめた。

 そして、小さく頷く。

 準備が整ったようだ。

 老紳士は装置から突き出したラッパ状の金属に顔を近づけた。

 広がった方に口を寄せているので、ラッパを逆から吹こうとしているように見える。

「ハロー、ハロー、聞こえるかい?」

 ラッパ状の金属の中に語りかけると、今度はそこに耳を向けた。

 老紳士は真剣な表情で何かが聞こえるのを期待して耳を澄ます。

 しかし……。

―ジジジッ、ジジッ!

 頭上のアンテナが小さな火花と共に立てる音が響くだけだ。

 老紳士は先程と同じようにラッパ状の金属に口を剥けた。

「ハロー、ハロー、聞こえるかい?」

 老紳士は何度も語りかける。

「ハロー、ハロー、メアリー、聞こえるか? メアリー、聞こえるなら返事をしてくれ」

 そして、また耳を傾ける。

―ジッ、ジッ……ジジッ、ジッ……

 装置の上に伸びたアンテナに、小さな火花が散り、苛立つ音を立てる。

 老紳士の顔の皺と、白髪が火花に青白く照らされた。

「……ダメか……」

 溜息をついた老紳士は、ネクタイを緩めた。

 彼はどんな時でもスーツをきっちりと着ていた。

 徹夜の仕事をしようとして、スーツのまま作業テーブルの上で寝てしまう事も度々だった。

 今日も深夜になっていた。

 この研究室には老紳士がぽつんといるだけだ。

 彼はラッパ状の金属が付いた四角い装置を見つめて肩を落とした。

「やはり上手くいかない。すまん。メアリー」

 老紳士は目の前に置いた写真立ての中の女性を見つめる。

 そこには若く美しい女性の姿があった。

 

「諦めるのは早いですよ。良い方法があります」

 不意に少年の声が響いた。

 老紳士は驚いて、声の方へ顔を向ける。

「誰だ?」

 研究室の戸口に見慣れぬ少年が立っている。

「お前は誰だ? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ! どうやって入った?」

 少年はそれには答えずに部屋にゆっくりと入って来た。

 長い髪で顔が半分隠れている。

 老練士は不気味に思い、じっと見つめた。

「あなたは今、『霊界通信機』を作ろうとしてるんですよね?」

 その言葉に老紳士は心臓が止まりそうになった。

「えっ? な、何故、それを?」

 霊界と通信する装置の開発の事は、まだ誰にも話していなかったのだ。

「どうして、君は知ってるんだ?」

 老紳士に近づいてくる少年は答える代わりに提案をする。

「僕が手伝えば通信だけでなく、霊界と交流もできるようになりますよ」

「何だって?」

「亡くなったメアリーさんに会う事だってできるようになる」

「メ、メアリーと……?」

 老紳士の声が上ずった。

 彼がこの装置の開発に夢中になっていたのは、新たな発明のためではなかった。

 それ以上の理由があったのだ。

「本当にメアリーに会えるというのか?」

 髪で顔が半分隠れた少年を睨みつけていた老紳士の目つきが変わった。

 少年はニヤリと笑うと、部屋に置いてあるもう一つの装置を見た。

 大きなレンズが付いた箱状の装置は、頑丈な三脚に取り付けられている。

「これが映画を誕生させたカメラなんですね」

「ああ、そうだ。だからなんだ?」

「このカメラを利用するんです。そうすれば、あなたはメアリーさんに会えます」

「え? 本当か?」

 少年は力強く頷いた。

「あなたは再び凄い発明をするのです。そしてメアリーさんに会える」

 それを聞いた老紳士の顔に自信がみなぎってきた。

「よし、じゃ、直ぐに開発に取りかかろう」

「もちろんです。でも、超自然のパワーを注入しないとならないですけどね」

「え? 超自然のパワーだって……」

 老紳士は思案して眉間に皺を寄せた。

 

 さて、その頃の路地裏である。

「ジャネット、これから見捨里市に来る怪、分か……」

 ディアーナが「怪」と言った途端、ジャネットがディアーナを睨みつけた。

「怪じゃないの?」

「私と同じ、英霊です」

 そう言ってジャネットが出したのは、ライオンの絵*1だった。

「ライオン? なんでライオンの絵を出すのよ」

「それは自分で考えてくださいね」

 ジャネットは口に人差し指を充てる。

 一見すると、怪とは全く関係のない情報のように思えるが……。

「それで、今回の仕事は、誰が行きます?」

「はいっ! あたしが行きます!」

 ディアーナは真っ先に挙手した。

 自分も英霊として召喚されたのだから、同じ英霊が行くのがいいとか。

「元気がいいですね。よろしい」

 前回、ディアーナは問題行動を起こさなかったので、

 ジャネットは彼女が仕事に行くのを許可した。

「では、私達は応援していますよ」

「いってらっしゃ~い!」

「いってきま~す!」

 皆に見送られて、ディアーナは路地裏を後にした。

 ディアーナを見送った後、ジャネットの笑顔が消える。

「どうしたんだ、ジャネット?」

「……何やら不吉な予感がするのです。これはいよいよもって、私が動くしか……」

「ちょっと、やなこといわないでよ、ジャネットおねえちゃん」

「あ、え、いえ、何でもありませんよ?」

 ノノの心配に対し、笑みを浮かべるジャネット。

 それは作り笑いであったが、ノノには分からなかった。

*1
『Fate/Grand Order』のエジソンの頭。




~次回予告~

ディアーナはたった一人で、今回の仕事に赴いた。
金曜日、花恋の家のテレビが3D映画のようになった。
怪奇現象なのかもしれないが、情報が分かっていない以上、無闇に動くわけにはいかない。
そこで、勇気と羽心、そしてディアーナは、映画を見に行くのだった。
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