ディアーナは一人で異変解決の仕事に向かった。
一方、見捨里市では、花恋の家のテレビが突然3D映画のようになっていた。
そこで、勇気、羽心、ディアーナは見捨里名画館に向かう事になった。
間違いなく怪の仕業である。
怪談映画は苦手な勇気だったが、逃げるわけにはいかなかった。
もしかしたら、異変の原因が分かるかもしれないからだ。
翌日の午後。
見捨里名画館の前に来た三人だが、勇気は上映案内を見て目を丸くした。
「ええ? 何、これ? 怪って、怪談映画って事?」
「映画かぁ、あたしにはよく分かんないけど見たいわねぇ」
「そう、勉強になるでしょ。ディアーナさんも映画を見るのは初めてよね」
入り口には『四谷怪談』のポスターが貼ってあった。
それを見て、勇気は急に震え出す。
「怪談映画って、つまり、昔の日本のホラー映画だよね。
しかも、『四谷怪談』はその中でも一番有名だよ。あの、僕は……」
後ずさりを始めた勇気の腕を、羽心が掴んだ。
「ほら、勇気、行くわよ!」
「いや、僕は、やっぱり帰るから……」
「鵺やゾンビと戦って散々怖い目に遭ってきたのに、なんでそんなに怯えてるのよ?」
「だってさ、戦う時は必死だから怖がる暇もないけど映画は大人しく観てないといけないんだよ。
絶対に怖いから目を瞑ってるよ」
「この映画は50年くらい前の作品よ。今の3D映画のホラーに比べたら大した事ないわよ」
「3D映画って何ダ?」
「あたしもさっぱりだわ」
勇気の上着の胸ポケットから突然、プーカが顔を出した。
「「3D映画を知らないの?」」
勇気と羽心は声を揃えて驚いてしまった。
「なんだヨ! オイラは100年も前から来たんダ。知らないのが当たり前だロ?」
「あたしだって、この世界の事はよく分からないし……」
「あ、そうよね。立体映画よ。映像が飛び出てくるの」
「へえ、凄いネ。映像が飛び出すんダ」
「でも、この映画は飛び出さないわよ。50年前の映画だから」
「でも、オイラにとっては50年も未来の映画だヨ。楽しみだなァ」
プーカは目をキラキラとさせた。
「よし、じゃ、プーカのためにも頑張って映画を観るのよ。勇気、行くわよ!」
羽心は勇気の腕を改めてしっかり掴んだ。
「あ、ちょっと! ねぇ、助けて……」
勇気は引きずられるように劇場に連れて行かれる。
「いつだって、あたしは忘れない……」
ディアーナもある事を呟きながら、劇場に入った。
「わア、スクリーンが大きイ!」
「おオ、色が付いてるゾー」
「えエ? 音が出てるヨ」
映画が始まると勇気のポケットの住人はすっかり興奮していた。
何しろ、プーカの時代の映画は白黒で、音も無かったのだ。
「しーっ! 静かにしなさい!」
「おお、宝具*1でもあったわね」
勇気の隣に座っていた羽心がプーカを睨みつけて、囁き声で注意する。
ディアーナはのんびりと映画を観ていて、勇気は目を瞑っている。
「勇気! 映画を観てないじゃない!」
勇気は、目を閉じたまま答える。
「大丈夫だよ。『四谷怪談』の内容なら知ってるもの。
お父さんの書斎にあった何かの本で紹介されてたからさ」
「勇気!」
羽心はついムッとしたが、「しっ!」と後ろの席の客が注意してくる。
自分こそ五月蠅くなっていた羽心は首を竦め、そんな羽心を勇気は小さく笑った。
すると、プーカが奇妙な事をぽつりと囁く。
「オイラには、この映画は立体的に見えるゾ」
「そう?」
50年前の映画が3Dなわけがない。
(怖いから、立体的に見えるのかな?)
勇気は気になって目を開けたくなった。
(でも、映画を観たら絶対に怖いよな……)
父親の書斎で読んだ『四谷怪談』の解説文を勇気は思い返した。
怪談の定番中の定番で、江戸時代に起きたとされる事件を基にして創作された物語だ。
それが歌舞伎や落語で人気になって、現在までに様々な映画やテレビドラマにもなった。
出世欲に取りつかれた夫の伊右衛門の仕打ちによって、妻のお岩は命を落とす。
しかし、お岩は亡霊となって伊右衛門に復讐するという内容だ。
(これだけ知ってるんだから映画を観る必要はないよね。目を閉じてよう)
怖がりの勇気は何があっても映画を観ないと改めて決めた。
何しろ、台詞や音からして既に怖い。
それだけで充分だった。
目を閉じたまま時間が流れていく。
やがて……。
「いえもんさまぁぁぁ!」
いよいよクライマックスになったようだ。
「お岩さんの亡霊が出てきたヨ」
「説明しなくていいよ」
勇気は絶対に目を開けないように両手で目を塞いだ。
「でも、凄く怖くなってきたヨ」
「ほう?」
「分かってるってば!」
「でも、お岩さんが劇場の中に出てきて歩いてるヨ」
(そんな、バカな……?)
「えっ?」
隣から羽心の荒い息遣いが聞こえてきた。
「羽心、どうしたの?」
勇気は顔を覆う指の隙間から隣の席を見た。
『怪』の勉強になるとこの映画に誘ってきた羽心がすっかり怯えている。
しかも、周囲から観客のどよめきが起き始めた。
「嘘だろ?」
「どういう事なの?」
「なんだ、あれ?」
そう言って観客達は身を縮めている。
「いえもんさまぁぁぁ! うらめしやぁぁぁ!」
一際大きく響いたお岩の声に、勇気は驚いて手を下ろして目を見開いた。
「な、なんだ!」
思わず声を上げてしまう。
なんと、お岩が場内を歩いていたのだ。
おぞましい表情と動きで観客に迫ってくるお岩。
勇気はゾッとし、ディアーナは風の刃を放つが、風の刃はお岩をすり抜ける。
「実体がないの?」
「羽心! これ、何?」
「観てなかったの? お岩さんがスクリーンを抜け出して来たのよ!」
「え? これって3D映画じゃないノ?」
プーカの疑問に勇気が答える。
「3D映画でも、登場人物が客席を歩き回る事なんてないよ」
勇気、羽心、プーカは突然の事に混乱するばかりだ。
ディアーナは、歯を食いしばっている。
「いえもんさまぁぁ! うらめしやぁぁー」
再びお岩が不気味な台詞を場内に響かせた。
「みんな、逃げるのよ!」
叫んだのは羽心だ。
その言葉で観客はドッと立ち上がった。
「きゃああー!」
「わあああぁ!!」
観客は場内後方の扉に僕も、私も、と走る。
その中に、勇気、羽心、ディアーナも加わった。
二箇所しか無い後方の扉に皆が殺到したので、押し合いへし合いになる。
「皆さん、落ち着いてください!」
「お客様! 落ち着いて! 落ち着いて!」
異常事態に気づいた劇場スタッフ達がロビーから声を掛けた。
しかしパニックが収まる様子はない。
―ガバッ! ドンッ!
観客が扉を勢いよく開けてスタッフを押し倒した。
パニックになった人々がロビーを走る。
―ドドドドッ!
その中に勇気、羽心、ディアーナもいた。
~次回予告~
幽霊が実体化する異変を起こしていたのは、発明王、メンロパークの魔術師、エジソンだった。
彼は晩年に、霊フォンこと霊界通信機を発明しようとしていたらしく、今回の異変もこれらしい。
エジソンを止めるべく、勇気、羽心、ディアーナは時空を超えて、アメリカに向かう。
だが、エジソンの様子が、どこかおかしかった。