見捨里市には大量の幽霊が襲い掛かっていた。
この異変は、エジソンが開発しようとしていた霊フォンこと霊界通信機のせいだった。
ディアーナは攻撃が効かずに悔しがるが、そうしているわけにはいかない。
霊界通信機を止めるべく、勇気、羽心、ディアーナ、プーカはアメリカに行くのだった。
アメリカ、ニュージャージー州のウエストオレンジ。
陽光が煌めき、鳥がさえずっている。
そこに、突如、光の渦が出来た。
―ゴォォォー!
渦の中から勇気、羽心、ディアーナが飛び出てくる。
―スタッ!
三人はバランス良く地面に着地した。
「羽心、上手くなったね」
「勇気だって、今回はピタリと着地したじゃない」
「うん、地面がしっかりしてるからね」
「ふふっ、霊フォンに英雄かぁ」
手入れのされた芝生の上に三人は立っていた。
ここは大きな会社の敷地の中だ。
目の前にはレンガ造りの赤茶色の三階建ての建物が建っている。
「エジソンさんの研究室はこの建物の中にあるの?」
勇気は羽心に尋ねた。
羽心はエジソンの本をしっかり読んでいて、ここに一番詳しいのだ。
「違うの。この建物全部が研究室なのよ」
「え?」
「この敷地全部がエジソンさんの会社のものなのよ」
三階建てのビルは学校の校舎くらいの大きさだ。
勇気はさらに辺りを見回す。
敷地の中には黒いゴツゴツした大きな倉庫がある。
「見捨里小学校の敷地と同じくらいの広さがあるよ」
「発明家って聞くと、コツコツ一人で研究してるイメージだものね」
「凄いなぁ……」
「おい、キミ達、感心してる場合じゃないゾ」
勇気の胸にいるプーカが急かしてきた。
勇気、羽心、ディアーナは、本来の目的を思い出して、三階建ての研究室の入り口に向かった。
重たい鉄扉で閉ざされていて容易に入れそうにない。
しかし、こういう時に物怖じしないのが羽心だ。
すかさず鉄扉を拳で叩き始めた。
―ドン、ドン、ドン!
「すみませーん! すみませーん!」
―ドン、ドン、ドン!
しかし、誰も出てくる気配が無かった。
羽心はムッと膨れた。
三人は途方に暮れて、建物を見回した。
レンガの壁面に嵌められた鉄枠の窓ガラスの中で働く多くの人々が見える。
しかし、窓はきっちりと閉じられており、忍び込むのは不可能だ。
「どうする、勇気?」
「うん、どうしよう……」
「こじ開けるわけには、いかないしね」
三人は頭を抱えた。
すると、突然……。
―ウィイイン! ギギギィイイイ!
勇気、羽心、ディアーナはびっくりして音の方を見た。
昔の蒸気機関車を一回り大きくしたような、黒いゴツゴツとした倉庫が動き出していた。
「な、なんだ! あれ! 倉庫が回ってる!」
「わあ、凄いわね!」
勇気とディアーナが思わず声を上げた。
今度は黒い倉庫の上部が……。
―パカッ! キキキキィイイ!
不気味な音と共に建物の上の口が開いた。
「うわぁぁ!」
「凄い!!」
ディアーナが歓喜し、勇気は腰を抜かし、
プーカはポケットから飛び出して勇気の頭にしがみついた。
「勇気もプーカも、そしてディアーナさんも落ち着きなさい!」
強い語気で三人を諫めたのは羽心だ。
「あれは撮影スタジオなのよ」
「さ、撮影……? ス、スタジオ?」
「そうよ。
エジソンさんは、直射日光をスタジオに入れるために建物全体が回転して、
天井が開くスタジオを作ったそうよ。これがきっとそうよ」
「ふーん」
すっかり怯えた勇気だが、建物の下の地面が回転するように作られているのに気づいた。
「そうか。よシ、オイラが確かめてやるヨ」
プーカが勇気の下から舞い上がった。
妖精族の王子はそのプライドの高さに見合った度胸もある。
こういう時は本当にありがたい仲間だ。
空中から黒い建物の口の部分を見つめるプーカ。
その口の中に何人かの人間が大きな箱状の物を囲んでいるのが見えた。
プーカは、箱状の物を確認するために近づく。
それは、大型のカメラで、その前にちょうど光が射し込んでいる。
「やっぱり、ここは撮影スタジオなんだナ」
レンズの方に「えい! えい!」と、何かに向かって気合いを入れている痩せた男がいる。
それを老紳士がカメラで撮影して、その脇には髪で半分顔を隠した少年が立っていた。
「何を撮影してるんダ?」
プーカはもっとよく見たくて口のように開いている窓に近づいた。
よく見ると、男の人が気合いを入れているのは何種類かのパンだった。
その中にはプーカの大好物があった。
「あ、くるみパン! うまそウ!」
つい大きな声が出てしまった。
その瞬間、髪で顔を半分隠した少年がスッとこちらを見上げた。
「やばイ!」
プーカは慌てて物陰に隠れた。
「見つかってないよネ。大丈夫だよネ。よし、三人に報告ダ」
下で待つ勇気、羽心、ディアーナの方に向かって飛び立った。
「やっぱり撮影スタジオだったヨ。
年のいった男の人がカメラを回して、痩せた男がパンに向かって気合いを入れてたヨ」
「その年のいった男の人がきっとエジソンよ」
「でも、男の人がパンに向かって気合いを入れてたってどういう事?」
理解できない勇気は、隣の幼馴染を見たが羽心も首を振るだけだ。
「あ、それと、髪の毛を垂らした少年もいたネ」
「少年……」
ディアーナは不安を感じて呟いた。
「とにかく、スタジオを訪ねましょ」
「了解ダ」
プーカは勇気の胸ポケットに隠れた。
そして、黒いスタジオに向かって勇気、羽心、ディアーナは歩き始めた。
―バンッ!
スタジオの扉が突然開いた。
びっくりして立ち止まる勇気達。
「何するんですか?」
建物の中から痩せた男が突き飛ばされるようにして出てきた。
「ほら、これがギャラだ!」
「ひでえな」
遅れて出てきた老紳士が札束を痩せた男の足下に投げつけた。
痩せた男は札束を拾ったものの口元を歪める。
「エジソンさん、これは約束よりも安すぎます」
「お前みたいなインチキ超能力者にはこの程度の金で充分だ! さっさと帰れ!」
「今日は調子が悪かっただけです。明日なら絶対に上手くいきますから」
「何日やったところで、手を触れずにパンを宙に浮かすなんて事はできない癖に!
このインチキのバカが! 俺の会社の敷地からさっさと出て行きやがれ!」
「けっ!」
痩せた男は悪態をついて足早に敷地から出て行った。
「あれが、英雄なの? プレジデントではなくて?」
勇気と羽心は、凄い剣幕で喧嘩している大人を見て、身が縮んでしまった。
立派な偉人の発明王がこんなに激しい性格の人だったのが信じられなかった。
「この人、エジソンさんだよね?」
「そうよ。今出て行った男の人がそう呼んでたじゃない」
「……英雄、英雄、英雄……」
ひそひそと語り合う勇気、羽心、ディアーナにエジソンが気づいた。
「お前らは何だ?」
エジソンの怒声が飛んできた。
「え? あ、あの……」
気が動転してしまって直ぐに答えられない勇気だが、こういう時はやはり羽心が頼もしい。
「私達、エジソンさんにお話があって来たんです」
「俺に話だと? 子供だからって騙されないぞ!
大人に頼まれて俺の発明を盗みに来たスパイだろ?」
「違います! スパイなんかじゃないです!」
即座に羽心は答えたが、エジソンは聞く耳を持たない。
「出て行け! 出て行かないなら子供でも容赦をしない。警察を呼ぶぞ! さっさと出てけ!」
さっきの痩せた男とのやり取りでエジソンはよほど気が立っているのだろう。
「警察……?」
「警察だってさ」
恐くなった勇気と羽心はその場を離れようとするがディアーナは怯まず「待って」と制止する。
「おイ! キミ達はなんのために、わざわざこんなところに来たんだヨ」
声を顰めたプーカの苦言が聞こえてきた。
「それはそうだけど……」
勇気はどうすればいいか分からなかった。
エジソンに事情を説明して『霊界通信機』の発明をストップさせないとならないのだ。
ところが、そのエジソンは物凄い剣幕で怒っていて、取り付く島がない。
勇気は羽心を見て、その顔にも同じ考えが書かれていた。
「少し時間を置いた方がいいと思う」
いつもの羽心らしくない呟きだ。
「おイ! その間に見捨里市が大変な事になっちゃうゾ!」
「力ずくで止める訳にはいかないしね」
プーカの苛立ちは小声でも充分に分かる。
その時……。
「エジソンさん、その子達にも協力してもらいましょうよ」
「!!」
勇気達は声の方を見た。
エジソンの背後から出てきたのは、髪の毛で顔を半分隠した少年だった。
その数分前。
「お前みたいなインチキ超能力者にはこの程度の金で充分だ! さっさと帰れ!」
「今日は調子が悪かっただけです。明日なら絶対に上手くいきますから」
「何日やったところで、手を触れずにパンを宙に浮かすなんて事はできない癖に!
このインチキのバカが! 俺の会社の敷地からさっさと出て行きやがれ!」
髪の毛で顔を半分隠した少年は、スタジオの中で笑いを堪えていた。
エジソンの怒りっぷりがおかしかったのだ。
偉人として世界から尊敬される人物が、実はこんなに感じの悪い人間なのだ。
困った事に折角訪ねてきた大事な客も追い出してしまいそうになった。
「出て行け! 出て行かないなら子供でも容赦をしない。警察を呼ぶぞ! さっさと出てけ!」
これは「まずい」と少年は表に出る事にしたのだ。
「エジソンさん、その子達にも協力してもらいましょうよ」
「え? なんだって?」
エジソンは少年の方を振り向いた。
「スパイだったらこんなに堂々と訪ねてきませんよ。それに……」
顔を半分隠した少年はエジソンをスタジオの中に誘った。
そして、勇気達に聞こえないように耳打ちする。
「あの少年の胸の中と、女性の中には、僕達の研究で一番欲しいものが入ってますよ」
「なんだ?」
エジソンも小声で答えた。
「超自然のパワーです」
「え?」
「妖精とエルフですよ。さっき飛んでいるのを見たんです」
「妖精?」
エジソンはスタジオの戸口の陰から外にいる突然の訪問者を覗く。
勇気の胸の辺りを見ると上着が内側から動いた。
ポケットの中の居心地が悪くて、プーカが身体の向きを変えたのだ。
「コナン・ドイルさんが本物だと認めた妖精と同じ種類ですよ。
どんな超能力者よりも強い超自然パワーを持っています。
だからそれを吸い取ればあなたの発明は完成しますよ」
エジソンはこの少年を100%信じる気にはなれなかった。
しかし映画のカメラと開発途中の『霊界通信機』を接続したら、
今までよりも良い結果が得られるようになったのだ。
今は少年の話を聞いておいた方が良いと思えた。
「そうか、なるほど。分かった」
エジソンは頷くと踵を返して再び表に出て行った。
少年は満足げにエジソンを見送り、その視線は外で待つ羽心に向いた。
勇気の胸のプーカと、ディアーナだけでなく、羽心にも少年は特別な興味を持ったようだ。
「いや、すまなかった。
さっきの男があまりに役立たずだったんでつい機嫌が悪くなってしまってね。
未来を支える君達のような子供の訪問は大歓迎だ。さあ、中に入ってくれ」
「え?」
勇気、羽心、ディアーナはエジソンの態度が豹変した事に目を疑った。
「さあ、中に入ってくれ。ここはスタジオなんでね。映画の撮影風景も見せるよ。さあ、どうぞ」
勇気、羽心、ディアーナはエジソンを怪しく思った。
「ねぇ、勇気、なんか変だよね」
「ああ、そうだよな」
「邪鬼に苛立ってるの?」
三人が戸惑っていると、ポケットの中の住人が再び苛立った。
「ほラ、何してるんだヨ。キミ達は『霊界通信機』の発明をストップさせに来たんだロ?」
その言葉を聞いて勇気、羽心、ディアーナは踏ん切りが付いた。
「エジソンさん、ありがとうございます」
「でも、あたし達はあなたに話をしたい事があって来たのよ」
「ああ、さっきもそう言っていたな。まあ、話はスタジオの中で聞くよ。さあ、入って入って」
エジソンはニコニコと勇気、羽心、ディアーナを手招きする。
「羽心、行こう」
「うん」
三人はエジソンのスタジオの中に入っていった。
一方、髪で顔を半分隠した少年は二人に背を向け、ディアーナに殺意を向けた。
「真っ黒」
スタジオに入った羽心は、第一印象をそのまま声に出した。
「ああ、真っ黒な方が、カメラで写す対象が目立つんでね」
そう話すエジソンは、スタジオに入ってきた勇気の胸の辺りをじっと見ていた。
そこには身を潜めたプーカがいるのだ。
エジソンは、勇気、羽心、ディアーナがスタジオに入ったのを見届けると、
出入り口の鍵を静かにかけた。
しかし、勇気、羽心、ディアーナはある装置に気を取られていて気づかなかった。
「これね!」
ディアーナは思わず声が出てしまう。
「驚いたかね。これで映画というものが撮れるんだよ。凄いだろ」
勇気、羽心、ディアーナの目の前に大型カメラがあった。
しかし、カメラには不似合いな太いコードが何本も繋がっていた。
そのコードは棺桶を縦に立てたような奇妙な大きな箱に繋がっている。
「これは?」
「いいところに気づいたね。今はカメラ以上の装置になっているんだ。これはなんだと思う?」
「エジソンさん、僕達はこの装置についてお話がしたくて……」
エジソンは自分の発明品の説明に夢中になっていて勇気の言葉が耳に入っていない。
「これは霊界と交流するための装置だよ。長年の夢だった装置がもう直ぐ完成するんだ」
エジソンはそう言って棺桶のような箱の前に歩み寄った。
「その少年のおかげだよ」
エジソンは箱の扉を開けた。
そこには×印状の罅があった。
「これは!」
目を丸くする勇気と羽心。
瞬間、ディアーナは双剣を抜く。
顔を半分隠していた少年が髪の毛をかき上げた。
包帯で片目を隠した少年だった。
「来たわね、邪鬼!!」
~次回予告~
ついに邪鬼と直接遭遇した勇気、羽心、ディアーナ。
エジソンに霊界通信機の事を話したのは、彼だったのだ。
だが、邪鬼は勇気と羽心の動きを止めた後、プーカを捕らえ、装置に繋げてしまう。
プーカの命が吸い取られる中、勇気はプーカを助け、異変を解決できるだろうか。