霊界通信機による異変を止めるべく、勇気、羽心、ディアーナ、プーカは時を超える。
そこにいたエジソンは、何故か気が立っていて、勇気達の話を聞いてくれなかった。
だが、エジソンは騙されていただけであり、しばらく落ち着くと、正気を取り戻す。
勇気、羽心、ディアーナはエジソンの研究室に入るが、そこで待っていたのは、邪鬼だった。
「来たね。この傷の分、お返しさせてもらうよ」
邪鬼は傷ついた右手をディアーナに見せる。
キユウが消える時、ディアーナが投げたナイフが命中した場所だ。
「なっ!!」
邪鬼の、包帯に隠されていない目が勇気、羽心、ディアーナを睨みつけた。
「うっ!」
「止めて!」
「くっ……!」
勇気と羽心はのけぞった。
催眠術に掛かったように二人は動けなくなった。
ディアーナは何とか、抵抗している。
「身体が動かない!」
もがいても無駄だった。
邪鬼は勇気の胸の中にいたプーカをつまみ上げた。
「何するんダ!」
抵抗するプーカを、邪鬼はエジソンに突き出した。
「エジソンさん、さあ、こいつを早く」
エジソンは大きな透明な瓶の蓋を開けた。
邪鬼がすかさずプーカをその中に入れた。
「おィ! 何するんダ!」
プーカがいくら暴れても固い瓶は割れそうにない。
「プーカに何するのよ!」
ディアーナは叫ぶ。
エジソンは、プーカの入った透明な瓶を勇気達が大型カメラだと思っていた装置の前に置いた。
エジソンは得意げに説明を始めた。
「これはカメラを改造して作った超自然パワーを吸い出す装置なんだよ」
「超自然パワーを吸い出すって、どういう事だ?」
勇気が思わず叫んだ。
「超自然パワーをこの装置に注入すれば、
×印状の罅から死んだ者達の魂がこの世に現れる事が出来るというんだ。
つまり、『霊界通信機』を超えた『霊界交流機』だよ」
「僕とエジソンさんの共作だよ」
邪鬼が落ち着いた口調で説明を付け足してきた。
「何だって? エジソンさん! そいつに騙されちゃダメだ!」
勇気はエジソンに怒鳴ったが効果は無かった。
エジソンは装置の準備に夢中になっていた。
透明な瓶の中に閉じ込められたプーカに、カメラのレンズを向けた。
「やめろぉ!」
「やめてっ!」
叫ぶ、勇気と羽心。
だが、エジソンはお構いなしにスイッチを入れる。
―ガチャ!
―ギュイイイイン!
装置に電気が流れ始める。
「遂に、私の夢の発明が完成するぞ!」
「オイラに何するんダ!?」
プーカが叫ぶが、厚いガラスでできた瓶の中からの声ではくぐもってしまう。
「おイ! 止めロ!」
―ギュュュ~イイイイン!
プーカの身体が怪しく光り出した。
「ぎゃアアア!」
プーカの超自然パワーが吸い出され始める。
「止めろ! 止めろ!」
「プーカ! しっかりして!」
勇気と羽心が叫ぶ。
「今、あたしが助ける!」
ディアーナはプーカが捕まった場所に突っ込んでいく。
このままでは、プーカが死んでしまう。
「邪魔者ね? させないわ!」
幽霊が襲いかかるが、ディアーナは次々と切り伏せていく。
「ぎゃあああアアア! たすけてえエエエ!」
「お願い、止めてっ!」
羽心はあらん限りの声を振り絞って叫ぶ。
「エジソンさん! なんで、霊界交流機なんて作る必要があるんだ!?」
勇気は怒鳴る。
「私は24歳で最初の結婚をした。
でも、私は仕事に夢中になりすぎて、ほとんど家にも帰らなかった。
恐らく、そのために妻のメアリーは心を病んだんだ。身体を壊して彼女は死んでしまった。
私はメアリーに謝りたいんだ。
それだけじゃない、自分の研究のために私は様々なものを犠牲にしてきた。
そんな者達を呼び戻して謝りたいんだ」
「だけど、そのためにプーカを殺すなんておかしいじゃない!」
「そうよ!」
羽心は涙ながらに怒鳴り、ディアーナは幽霊を斬り続ける。
「いや、何かを成し遂げるためには多少の犠牲は仕方ないのだ」
「ぎゃあアァ! た、た、たすけてえエエ!」
プーカは苦しむ。
一方、棺桶状の箱の中の罅は大きくなっていく。
「あ、あ、あな……な」
微かな女性の声が聞こえた。
「おお! メアリー、もう直ぐだ」
「あ、あ、あな、あなた……」
大きくなった罅の中にボンヤリと女の姿が浮かんだ。
「おお! メアリー! 戻ってきてくれたんだね」
エジソンは涙ぐんで、棺桶状の箱に近づく。
「メアリー! おお、メアリー!」
「あ、あ、あなた、あな……あな……」
「メアリー、私だよ。メアリー!」
「あ、あ、あ、あ……あ……あ……あ……」
「メアリー? メアリー……?」
「あ、あ、あ、あ……あ……あ……」
メアリーは壊れた機械のように「あ、あ」と繰り返すだけになった。
「どうしたんだ? 何がいけないんだ?」
エジソンは装置のつまみやレバーをいじって調整を始めた。
しかし……。
「あ、あ、あ、あ……あ……あ……あ……」
皺の刻まれたエジソンの手が霊界交流機のスイッチやレバーを調整する。
だが、メアリーは相変わらずだ。
しかも、メアリーの像は蜃気楼のように揺れ、言葉もよく聞き取れなくなっていく。
「あ……あ……あ……あ……」
メアリーの声も像も消えていく。
「何故だ? メアリー! メアリー!」
エジソンが呼びかけても、メアリーはどんどんあやふやになっていく。
「これはどういう事だ?」
エジソンは険しい表情で邪鬼を睨みつけた。
「どうやら、あの小さな妖精ではパワー不足のようですね」
邪鬼は瓶の中のプーカをちらりと見た。
「た……た、助けてェェ……」
プーカは叫ぶ力さえ失っている。
幽霊を斬り続けるディアーナだが、彼女の動きは疲れから鈍っていた。
勇気がエジソンに強く語りかける。
「エジソンさん! 僕はあなたについての本を読みました。
あなたのお母さんは、皆が喜ぶ事をしなさい、といつもあなたに言っていたんでしょ?
その言葉を信じて様々な発明をしてきたんでしょ?
死者の魂を無理矢理呼び戻すなんて間違ってるんだ!」
エジソンは固く目を閉じた。
勇気が語った母親の話が心に響いたようだ。
さらに羽心が涙ながらに訴える。
「そうよ。どんな事情があったにしても死を迎える事は運命なのよ。
メアリーさんが病気になって死んだのも運命だったんです。
それを受け入れるしかないんですよ。死者を生き返らせるのは間違ってます。
今、生きている命を大切にしないとダメです。プーカを助けてください!」
息も絶え絶えになっているプーカを羽心は見た。
「プーカ、死んじゃダメ! 頑張って!」
「た……タ……すけてェ……」
虫の息になり始めたプーカにエジソンは歩み寄った。
「すまない! 俺が間違っていた!」
エジソンはスイッチを切ろうと霊界交流機に向かった。
「エジソンさん、まさかスイッチを切ろうなんて思ってないですよね」
邪鬼が装置の前に立っていた。
「お前は!」
エジソンはカッとなって邪鬼に飛びかかった。
邪鬼とエジソンが揉み合う。
その瞬間、邪鬼のパワーが緩んだようだ。
「あ、身体が動く!」
「私も!」
勇気と羽心の身体は自由になった。
勇気はスイッチを切ろうとするが、エジソンを押しのけた邪鬼が、
「やめろ!」と飛びかかってきて、勇気は邪鬼に突き飛ばされた。
「邪鬼! 何する気だ?」
「一気にパワーを吸い取ってやる!」
邪鬼は霊界交流機のパワーを最大にアップさせた。
これではプーカは絶対に死ぬだろう。
「させないわ……!」
「ぐっ……!」
ディアーナは疲れながらも右手を邪鬼に向け、
ゆっくりと接近して彼の身体にレイピアを突き刺し、プーカの入った瓶を左手で取った。
「はははっ! 油断大敵だよ……!」
「何ですって……!?」
ディアーナが歯を食いしばると……。
「きゃー! いやぁ!」
羽心の悲鳴だ。
「どうしてもこの子が必要なんでね」
不敵な笑いを浮かべた邪鬼が羽心を抱えていた。
「邪鬼! 何をするのよ!?」
「ナイフで切った後、剣で刺すなんて、乱暴だね。君はますます、殺したくなったよ」
邪鬼はディアーナのレイピアを抜き、鋭い目でディアーナを睨む。
そして、箱の中の×印状の罅に羽心を抱えて飛び込んだ。
「羽心! 羽心っ!!」
「待ちなさい……!」
勇気とディアーナも罅に飛び込もうとした。
だが……。
―バリバリッ!
霊界交流機がスパークした。
―ドドドドッ! バキバキバキッ!!
棺桶状の箱も鳴動して火花が散った。
「わぁぁぁ!」
勇気は火花を避けるために腕で顔を覆い、ディアーナは蹲る。
霊界交流機も棺桶状の箱も壊れた。
「あいつがパワー全開にしたからだ! 過電圧でショートしたんだ!」
「なんて事! エジソンさん、早く直して!」
「いや、残念だが、これは直せない」
「じゃ、羽心は? 羽心をどうやって助ければ?」
エジソンは辛い表情で首を振った。
「せめてどこに行ったか分からないの?」
「私には……申し訳ないが、分からない」
首を振るエジソンの言葉を聞いて愕然とする勇気。
ディアーナも、邪鬼を殺せずに歯を食いしばる。
「ゆ、勇気クン……」
ディアーナはそっとプーカを降ろす。
プーカは、透明の瓶に入ったままになっていた。
「プーカ……」
勇気は歩み寄ると瓶の中からプーカを抱き上げた。
「プーカ……プーカ……」
羽心が心配で、勇気はプーカを心配する事が上手くできない。
ディアーナも、幽霊を斬ったのと邪鬼を刺したために疲れてしまった。
「オ、オイラは大丈夫ダ」
「あ、あたしも……」
「ほんとに……?」
「オ、オイラと一緒に捜そウ」
「あたし……は……」
「え?」
「羽心チャンを一緒に捜そウ」
「あたし……邪鬼……殺したい……」
プーカとディアーナは辛そうにしながらも勇気に言う。
「だけど、どうやって捜すんだよ? しかも、邪鬼を殺すなんて、無茶な」
「絶対に殺すんだから、絶対絶対絶対絶対」
「羽心チャンがグローブを着けているなら、見つけられるサ。
オイラの先祖がグローブを作ったんだからネ。しばらく休んで体力を戻さないと無理だけド」
プーカは死にかけたのだから当然だ。
勇気は頷いたが、心は焦っていた。
(急いで羽心を捜さないと)
(あたしも……休まなきゃ……ね……)
―ゴォォォー!
勇気の父親の書斎に光の渦が出来た。
勇気とディアーナが戻ってきて、ディアーナは疲れながら路地裏に戻った。
胸ポケットでは妖精族の王子がぐったりと寝込んでいる。
勇気は父親がコレクションしていたミニチュア家具のベッドを棚から引っ張り出した。
それを本棚の本と本の間の目立たないところに置いて、プーカを寝かしつけた。
「プーカ……ゆっくり休めよ」
すると、ガチャと玄関の扉が開く音が書斎に響いてきた。
母親が仕事から帰ってきたのだろう。
しかし、その様子はいつもと違っていた。
「大変! 大変! テレビ! テレビ!」
母親の声が書斎の前を通過して、リビングに小走りで向かっていった。
「お母さん、どうしたの?」
勇気は書斎を出るとリビングに向かった。
―カチッ!
勇気がリビングに入るのと同時くらいに母親がテレビのスイッチを入れた。
「帰る途中でスマホを見たら、大ニュースがネットで騒がれてたのよ」
アナウンサーが「今、入ってきたニュースです」と断っている。
「海外のいくつかの有力メディアの報道によりますと、
海底火山の噴火によって、大西洋に大陸の一部が浮上したという事です」
そのアナウンスに続いて、ヘリコプターから撮られたであろう映像が映し出された。
そこには様々な遺跡があった。
その形でも目を引くものがある。
石を積み上げて造ったピラミッド状の建築物だ。
だが、エジプトにあるピラミッドとは形が全く違っていた。
中央に大きな階段があり、頂上に神殿のようなものがある。
「これって!」
勇気は思わず声を上げた。
「何? どうしたの?」
「あ、ううん、何でもない……」
口を噤んだ勇気だが、内心はドキドキしていた。
(これって、『鵺』を倒した後に見た夢の場所……。キユウがいたあの場所とそっくりだ!)
その頃、路地裏では……。
「お疲れ様です、ディアーナ」
「な、何とか、止めたわ、でも……」
「話は後でゆっくりしますからね」
ジャネットは微笑みながら、ディアーナをゆっくり休ませた。
しかし、すぐにジャネットの笑みが消える。
「……とうとうアレが浮上したようですね。
もしかしたら彼は、これが狙いだったのかもしれません」
「どうしたんだ、ジャネット?」
アプリルがジャネットに聞くと、彼女はすっくと立ち上がり、こう言った。
「私も、皆さんと一緒に戦います」
そして、もう一つの路地裏で、四人の怪が決意を固めていた。
「いよいよ奴が動き出したのかい。これは、ウチらも動くべきだね」
かつて邪鬼に仕え、今では袂を分かちぬ麗羅、つるぎ、揚羽、カリオストロ。
彼が本格的に姿を現したのならば、討ち取るチャンスだ。
「ようやく現れたか、チャンスだね」
「アタイ、絶対に負けないよ! 邪鬼、やっつけるからね!」
「いい研究になりそうだな」
邪鬼に立ち向かおうとするのは、勇気達だけではなかった。
彼をライバルと認識している者達もである。
~次回予告~
霊界通信機の暴走のどさくさで、羽心は邪鬼にさらわれてしまった。
勇気が仲間の二度の離脱で意気消沈する中、海に沈んでいた大陸が浮上する。
見捨里市に迫る危機を感じ取ったジャネットは、ディアーナ達と共に戦う事になった。
麗羅、つるぎ、揚羽、カリオストロも、邪鬼に一泡吹かせるために動き出す。
羽心は無事なのか、浮上した大陸が何なのか、邪鬼は何をするのか。
そしてついに、キユウの正体が明かされる……。