今回は、ノベライズ版『片羽の蝶』のお話を参考に書かせていただきました。
「失礼します!」
ある日の昼下がり、切迫した様子の男性の声が蝶屋敷に響く。それを聞いて、暁歩とアオイは弾かれるように玄関へと向かう。
玄関にいたのは、口元を布で隠している黒装束の二人の男性。彼らが持つ担架には、一人の男性の隊士が横たわっている。
黒装束の男性は、鬼殺隊の戦闘後処理部隊『隠』。負傷者の搬送や死者の埋葬、血を洗い流したり抉れた地面を均すなど、鬼や鬼殺隊の存在を世間から隠す役割がある。
「重傷者です・・・!直ちに治療を・・・!」
「分かりました、こちらへ!」
暁歩が彼らを先導し、アオイは手助けのためにきよたちを呼ぶ。病床や治療器具などの受け入れ準備は、先ほど『怪我人が運び込まれる』と鎹鴉から連絡を受けていたので完了している。
「容態は?」
「意識不明の重体です。応急手当をして、解毒薬も投与したのですが・・・」
隠から簡単に隊士の様子を確認する。そこで『解毒薬』と聞いて、暁歩はこの隊士が毒に侵されていると理解した。
そして病室で、隊士を担架から寝台に寝かせ、改めて状態を詳しく確かめる。額にまかれた包帯には血が滲んでおり、腹部にも包帯が巻かれている。さらに左脚が折れているようで、重点的に固定されていた。
「解毒薬で、毒の作用は止まっているはずですが・・・ひどい有様でした・・・」
運んできた隠の一人は、この隊士を発見した時の様子を思い出したのか、嘆くような声を洩らす。
それを聞きながら、暁歩は治療のために隊士の服を脱がそうとする。
だが、右胸の部分がやけに重く感じられた。ただ身体の力が抜けているからではなく、それとはもっと別の要因から来るような。
「これは・・・?」
シャツを脱がせると、同じく状態を確認したアオイが誰に聞くともなくぽつりと呟く。
重く感じた隊士の右胸辺りは、灰色に変色していた。その部分に暁歩がそっと指先で触れると、まるで石のように冷たい。
「石化してる」
慎重に指先で突いてみると、鍛えてあるというだけでは説明できないほど硬い。本物の石のように。
これは間違いなく、鬼が使った毒の効果だ。毒を打ち込んだ部分を石化して、徐々に身体全体を侵食していき、最終的に殺す。
「既に、採血はしてあります」
隠の男が、血液の入った試験管を暁歩に差し出す。毒を受けていると判明している際は解毒薬を作るために一定量の血液を採取するように言ってあるのだ。暁歩は頷きながらそれを受け取った。
「私はこの人の怪我を治療します」
「お願いします。俺は解毒薬を作ります・・・きよちゃんたちは、アオイさんを手伝って」
『はい!』
そうして蝶屋敷の面々はそれぞれ行動を始める。
暁歩も最初のうちは戸惑っていたが、怪我人を受け入れる機会が増える中で、自分がどうすればいいのか分かるようになってきた。今はアオイやしのぶの指示がなくとも、自分で考え行動できるようになっている。
「これを分析して・・・」
調剤室で暁歩は、隠が採取した血を分析しつつ、まずは毒を分解する薬の基礎を作る。
しのぶの研究で、鬼の使う毒は基礎の部分が共通していると分かったので、それを分解する解毒薬を作る。そして、血を分析した結果分かる毒素を分解する成分を配合して解毒薬が出来上がる仕組みだ。
「石化・・・資料にあったような・・・」
薬を作る途中で、頭の端で似たような毒の資料があったようなと思い出す。
するとそこへ、戸を開けて誰かが入ってきた。
「暁歩さん、重症者が?」
「はい。石化の毒を受けています。それと創傷多数に左脚の骨折・・・傷は今アオイさんたちが治療中です」
顔を見なくても、声だけでしのぶと分かる。
暁歩が薬を調合しながら症状を伝えると、しのぶは後ろの棚にしまってある資料を確認して、ある頁を開いて暁歩のそばに置く。
「石化の毒は、ここに資料があります」
「ありがとうございます。今、隊士の方の血も同時に分析していますので、これで毒が同じ成分なら・・・」
「では、分析は私の方で進めておきますから、暁歩さんは解毒薬を」
「分かりました」
暁歩としのぶで毒を分析し、解毒薬を作ることも今となっては珍しくない。しのぶが不在の時は暁歩一人で対処するが、しのぶがいる時は力を借りることがままある。この時だけは、怪我をした人の命を救うことを最優先としているので、『手を煩わせるわけにはいかない』『負担をかけさせたくない』とは言わない。しのぶも今は、そんなことを言っている場合ではないと分かっている。
役割分担は時と場合によって変わるが、その間会話らしい会話もしない。二人が『傷ついた人を救う』と同じことを願っているからだ。
怪我の方はアオイたちが治療しているので、彼女たちを信じて自分たちは毒を取り除くために尽力する。
こうして重傷者が運び込まれた時は、容態が安定するまで片時も心休まる暇などない。できる限りのことを、全員で全力でやり抜く。
そんな蝶屋敷の人間の心の根底にあるのは、『命を救う』という強い意思だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ようやく落ち着いたのは、夕暮れ時だった。
完成した解毒薬を投与し、創傷や骨折の手当ても終わって、脈拍や心拍数が安定したのを確認すると、全員が一息つく。
「ありがとうございました・・・」
そんな中で、暁歩は改めて、隊士を運んできた隠の二人にお礼を告げる。この二人が迅速に行動できなければ、あの怪我をした隊士も間に合わなかったかもしれない。
すると、三白眼の男の隠が『いやいや』と手を横に振る。目が特徴的な彼は
「蝶屋敷の皆さんも手際いいですよね。誰が何をすればいいか自分で分かってるっていうか・・・」
「それはまあ・・・怪我人の治療が自分たちの役割ですし」
隠に所属しているのは、剣術の腕に恵まれなかったり、それぞれ事情を抱えた者が多いと聞く。暁歩も、薬の知識がなければ隠として活動していたのかもしれない。そして、隠の事情を知ってから、暁歩は隠に親近感を抱いている。後藤も飾り気のない性格の持ち主なので、彼とは顔見知りのような間柄だ。アオイやきよたちも後藤とは仲がいい。
「後藤さんも、お疲れさまでした」
「いや、俺らも戦ってる隊士と比べればアレだし・・・それじゃ、また」
挨拶を交わすと、後藤はもう一人の隠を連れて帰路に就く。帰路、と言っても彼らは彼らでまた別の任務があるのだ。
そんな二人の見送りを終えて暁歩が玄関の戸を閉めると、後ろにしのぶが立っていた。
「解毒薬の調合にも、慣れてきたみたいですね」
「それは、まあ・・・。けど、しのぶさんと比べればまだまだです」
暁歩には、柱のような戦闘力はないし、現場で即座に毒を分析したうえで調合できるほどの知識や判断力もない。しのぶと比べることすら恐れ多い。
けれどしのぶは、『いいえ』と微笑む。
「人の命を背負うのは、いつになってもなれないものですから・・・。あなたが共に薬を作ってくれていると思うと、少し気持ちが楽になるんです」
しのぶは、自分の持つ特殊な技能と知識ゆえに、命を背負うことが多い。蝶屋敷に住む皆もそれは同じだが、しのぶは鬼とも戦っている。それこそ命が奪われる現場に居合わせることもあるだろうし、誰かの命を守りながら戦うこともあるはずだ。
『命』に向き合うことが多くても、それを背負うことに慣れない。
「だから・・・あなたが命の重さを一緒に背負ってくれていると思うと・・・ほんの少しだけ、心が安らぐような感じがします」
その言葉に、胸を打たれるような感覚に陥る。
しのぶは、『これからもお願いしますね』と笑ってその場を離れて行った。
だが、暁歩はその場で、今のしのぶの言葉を噛み締める。
自分なんかよりも強いはずなのに。親を喪い、最愛の姉を喪い、継子も喪い、凄惨な現場を見続けて辛いはずなのに。その悲しみをずっと一人で背負っていたのに。
それでも暁歩のことを、そう見てくれている。それは嬉しいに決まっているが、同時にそれだけでは駄目だと強く思う。
(実際に見てみないと、駄目なんだ)
しのぶの誕生日の時も思ったが、実際に戦っているところを暁歩は見ていない。
どれだけ残酷な現実を見て、どれだけ苛烈な戦場に立っているのか分からない。
それを想像で補うのではなくて、実際に見て知らなければ、本当の意味で支えることなんてできない。だから機会があれば、その戦う場に行きたい。
ずっと強く、辛いはずのしのぶから信頼されることは確かに嬉しい。だが、その言葉をただ甘んじて聞き入れるだけでなく、しのぶのことも知っていかなければならないと、暁歩は思った。
「すんません」
そう思っていると、後ろで玄関の戸が開いた。
振り向くと、後藤が立っている。
「後藤さん、どうしました?」
「いや、さっき伝え忘れたことがあって。皆が治療してる時、甘露寺様が来てたんですよ」
隊士の治療中、隠の二人は玄関で待機していたという。その際に、蜜璃が来たようだ。
「けど、俺らが気付いたら『忙しそうなので失礼します』って言って帰っちゃって。何か用事とかありましたかね?」
「いや・・・多分しのぶさんに用事だったのかもしれないので、何とも・・・」
蜜璃が蝶屋敷を訪れるのはよくあることだし、そうでなくてもしのぶに用事があるのかもしれない。判別できないので、暁歩もはっきりと答えることは難しかった。
すると、後藤は心当たりがあったかのように『ああ』と声を洩らす。
「そろそろ柱合会議の時期だし、そのことかも・・・」
□ □ □ □ □
数百名規模の鬼殺隊で、柱はたった九人しかいない。
それぞれの柱には担当している区域があり、場合によっては担当区域が近い者が合同で任務に就くこともある。
しかしながら、柱は多忙な身であるため、基本的に顔を合わせる機会がほとんどない。
そんな柱が一堂に会するのが、半年に一度行われる柱合会議だ。
「今年新しく入った『子供たち』は、期待ができそうだよ」
灯篭のろうそくでぼんやり明るい部屋に、羽毛のように柔らかい男性の声が響く。
黒い着物の上に白い羽織を着て正座しているのは、鬼殺隊の当主・
「藤襲山の最終選別で、実に五人も生き残った。優秀な子供たちが集ってくれて、私もとても喜ばしい」
微笑を携えて語る輝哉の前には、九人の柱が正座をしている。灯篭の明かりに照らされる輝哉をじっと見据え、言葉を挟むことなく静かに耳を傾けていた。
「けれど反対に、鬼の情報は増え続けている。それだけ、無辜の一般人はもちろん、私の子供たちも命を落としている」
輝哉は遺伝的に身体が弱く、病に侵されているため刀をろくに振れない。ゆえに戦えず、だからこそ鬼殺隊の隊士たちを自分の子供のように大切に見ている。
「選別を突破した子供たちのこと、昨今の鬼の動きのこと・・・皆の意見を聞かせてもらえるかな?」
ここで輝哉は、柱たちに意見を求める姿勢になる。
最初に口を開いたのは、隊服の前を開き、背中に『殺』と書かれた白い羽織を着た、体中に傷痕が刻まれた白い髪の青年。
「選別で生き残る奴がどれだけいても、実践で使えなけりゃァ何の役にも立ちはしません。そいつらが実際どうかは分からねェが、早いトコ単独で鬼と戦わせて実力を見た方がいい」
風柱・
「しかし、単純に強いってだけじゃどうにもならん。最近は、力をつけて強くなったらすぐ有頂天になって周りを見下す地味な隊員も目立つ。もっと派手に上を目指せってんだ」
腕を組んでそう告げるのは、音柱・
「つまり、鬼との戦いで生き残るほどの実力があり、柱を目指せるような上昇志向の強い隊士が要ると!なるほど!」
やけに溌剌とした声で意見を総括したのは、橙色を基調とした長い髪に、隊服の上に炎の模様が入った羽織を着た男。熱血漢と呼ぶにふさわしいその男は炎柱・
「しかし、鬼共は容赦がない。隊士たちが成長するのを待ちはせず、罪のない民衆を平気で喰らう。何と惨たらしいことか、南無阿弥陀仏・・・」
数珠を手でジャリジャリと擦り合わせ重々しく話すのは、六字名号が描かれた羽織を纏う岩柱・
「人の成長や感情を把握し、縛りつけて統率するのは難しいですからね。鬼の討伐と、鬼殺隊の戦力拡充はどちらも大事ですが、個人の裁量に依るのが一番かと」
後ろの方に座るしのぶが、苦笑しながら告げる。組織に属しているとはいえ、個人の感情までも統率するのは言った通り難しいし、隊士たちの成長にもつながらない。結局は、それぞれの思想や感情が成長に最も有効なのだ。
すると、少し離れた場所に座る蛇柱・伊黒小芭内が『ふん』と鼻で息を吐いた。
「鬼を
いつもながらネチネチとした言葉を聞いて、しのぶは屋敷にいる暁歩とアオイのことを思い出す。あの二人もまた、それぞれ心に事情を抱えて鬼と戦うことができなくなってしまった隊士だ。小芭内の言う『マシ』な方だろう。
さて、この場で発言をしていない柱は後三人。
まず、腰まで伸びる黒い髪と、少しだぼついた隊服を着ている霞柱・
次に、長い黒髪を後ろで一つに縛った、隊服の上に二種類の模様の羽織を着た水柱・
そして最後に、恋柱・甘露寺蜜璃だ。
「・・・甘露寺、どうかしたか」
「・・・へっ?い、いえ、何でもないです・・・」
小芭内が声をかけるが、上ずった声で返事をする蜜璃。何でもないことはないとそれだけで分かったし、蜜璃は小芭内と視線を合わせようともしない。
蜜璃はその性格から、こうした改まった場でも割と積極的に意見を伝える方だ。そんな彼女が黙りこくっているのは珍しく、蜜璃と親しいしのぶや、彼女の師匠筋にあたる杏寿郎もその異変には気づいた。
「蜜璃、何か思うところでもあるのかい?」
「いえ、何でも!お館様のご心配には及びません!」
畳に額を擦り付けるような勢いで土下座し、輝哉の心配を否定する蜜璃。
そして小芭内は、蜜璃の視線が土下座する前から輝哉の方を見ていないことにも気づく。
「恥ずかしがらずとも大丈夫だ!些細なことでも意見があるのなら、遠慮なく言ってみるといい!」
杏寿郎が後押しする。だが、この状況でそのはきはきとした声と言葉は、蜜璃にとっては大きな重圧になってしまい、蜜璃は顔を紅くして『大丈夫ですから、本当に・・・』と縮こまるように言った。
□ □ □ □ □
柱合会議から二週間後、ある人物が蝶屋敷を訪ねてきた。
「胡蝶はいるか」
たまたま応対したのは暁歩だったが、その人物を見て少し吃驚した。
口元を包帯で覆い、二色の眼を光らせる小芭内だ。
「しのぶさんは・・・今診察中で。手が離せません」
苦笑いを浮かべる暁歩。
暁歩は小芭内と一度だけ顔を合わせたことがある。だが、ぶっきらぼうな印象と、柱という立場があって、少し苦手意識を持っていた。
「なら、しばらく待たせてもらう」
「あ、でしたら客間へ・・・」
草履を脱いで上がろうとしたので、暁歩は慌てて客間へと先導する。いくら苦手と思っていても、しのぶに何かしらの用事があって訪れたのなら距離を置くわけにもいかない。
「お茶を淹れましょうか」
「俺は別に茶を楽しむためにここへ来たわけじゃないんだがな」
客間に通し、気遣おうとしたが一蹴された。ねちっこく心にくる言葉を投げるのは初対面の時と変わらないな、と思いながら暁歩はしのぶの下へ向かう。
しのぶは診察室で、この前運び込まれた石化の毒を受けていた隊士を診ているところだった。診療中に話しかけるわけにはいかないので、机の上にあった白紙の覚書に小芭内が来ていることを記し、手振りでそれをしのぶに伝えると診察室を出た。
「しのぶさんには伝えましたので、診察が終わればすぐ来ると思います」
「分かった」
「では、何かありましたら・・・」
そうして暁歩は、最低限の礼儀を尽くしてから、そそくさとその場を離れようとする。
「待て」
しかし、客間を出ようとして呼び止められた。無視するわけにもいかないので、襖を開けようとする手を止める。
「何か・・・?」
「少し話がある。座れ」
威圧感さえあるような小芭内の言葉に、暁歩はおっかなびっくり机を挟んで反対側に座る。小芭内の首に巻き付く白い蛇が、様子を窺うように暁歩を睨んでいる。
「お前にいくつか訊ねたいことがある」
暁歩の背中から、ぶわっと汗が噴き出す感覚。同時に不安が押し寄せてくる。
なぜ隊士であるはずの暁歩がここにいるのか、と詰問を受けるのかもしれない。何を聞かれるにせよ、注意深く聞き慎重に答えねばと気を引き締める。
「・・・親しい人の食事の量が突然減ったらどう思う」
だが、小芭内の問いは予想の遥か斜め上を行くものだった。
あまりにも予想外すぎて、暁歩は思わず素で『は?』と言ってしまったぐらいだ。
「質問が聞こえなかったのか」
「いや、聞こえてました。聞こえてましたけど・・・」
「ならばすぐ考えて答えろ。俺は同じ質問を二度するなど無駄なことをするのが大嫌いだ」
質問には驚いたが、それでも訊かれた以上は真剣に答えなければならないと、暁歩はすぐに頭を働かせて考える。
親しい人、と聞いて暁歩はしのぶを思い浮かべる。しのぶの食事の量が減ったとしたら、何を考えるか。
「そうですね・・・やっぱり心配になります。体調が悪いのかとか、何か嫌なことでもあったのかとか」
「そうだろうな、それでこそ正常なはずだ」
暁歩の考えた答えを聞いて、何か納得したように小さく頷く小芭内。
『何だろうこの人』と暁歩は疑問を抱いた。
「なら、その親しい人が、視線を合わせようとしても逸らしたらどう思う」
またしても脈絡のない、意図の読めない質問。
けれど暁歩は口を挟まず、黙ってそうなった場合のことを考える。例えば、自分が視線を向けていても、しのぶは視線を逸らしたとしたら。
「やはり何か、隠したりしているのではないかと思いますよ。あるいは、自分に対して後ろめたいことがあるとか」
「なるほど、後ろめたいことか。そうか」
暁歩の答えを少し意外と思ったか、小芭内が腕を組んで目を瞑る。
一方で、暁歩は小芭内の意図が全く掴めない。
「では、だ。その親しい人と手紙なり言葉なりでやり取りをして、返事がぞんざいだったり素っ気なかったらどうする」
想像する。普段の調子で話しかけて、しのぶから端的というか事務的な返事しかしてもらえなかったら。
「・・・何か気に障るようなことをしたか、不安になりますね」
「・・・気に障ることか、そうか」
「・・・あるいは、何か嫌なことでもあったとしか」
そう答えると、小芭内の表情が一気に暗くなってしまった。最初に感じた不愛想な感じは微塵もしない。
「伊黒さん、なんでそんな質問を俺にするんです?」
「・・・気にするな」
「いや気になりますよ」
それでも質問の意味は分からなかったので、一応聞いてみるが小芭内はそっぽを向く。ただ、あれだけの質問をされれば、暁歩でも小芭内の周りで何かあったのかは分かった。
「・・・伊黒さん、どなたか気になる方でもいるんですか?」
途端、小芭内の肩がぴくっとわずかに震える。首に巻き付いている蛇が、小芭内のことを見る。どうやら図星らしい。
「・・・まあ、仮にそうだとして。どうしてそれを俺に聞いたんですか?」
改めて、暁歩は訊ねる。この時、暁歩は自分の中に小芭内に対する恐怖心や遠慮が薄れていることに、自分で気づいてはいない。
問われた小芭内は、鼻で息を吐き、二色の眼で暁歩を見る。
「以前、お前は胡蝶と親しげだったからな。似たような感じがするお前に聞いてみようと思っただけだ」
「そうですか・・・」
小芭内の言う『以前』とは、最初に街で出会った時のことだろう。そこで暁歩は小芭内とほとんど言葉を交わしていないし、そこまで暁歩としのぶが仲良さげなところを見せたつもりもないが、小芭内にはそう見えたのだろう。
「伊黒さん」
そこで、襖を開けてしのぶが姿を見せた。
「あまりうちの子をいじめるのは止めてもらえますか?」
「見ただけでいじめているなど決めつけるな。話を聞いていただけだ」
にこやかに注意するしのぶに一歩も引かず、小芭内は立ち上がる。
「邪魔したな」
小芭内はそれだけ言って、しのぶの後に続き診察室の方へと向かった。
後に残された暁歩はその後姿を見て。
「・・・何なんだ一体」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まあ結論から言いますと、最近甘露寺さんの様子が少しおかしいので、相談に来ただけでした」
話を終えた小芭内が帰ると、居間でしのぶは何があったのかを暁歩に話した。柱同士の話をおいそれと話すのもどうかと思ったが、暁歩は蜜璃とも面識があるし、小芭内に絡まれたのもあったので明かしてくれたのだ。
「様子がおかしい、とは?」
「甘露寺さんの食事の量が少し減ったり、小芭内さん宛の手紙の返事が素っ気なかったり、鬼殺隊の当主・・・お館様と視線を合わせようとしなかったり、ですね」
「ああ、それで・・・」
全てが腑に落ちた。
一人で納得していると、しのぶが小首を傾げたので、暁歩が小芭内にどんな質問を受けていたのかを話す。
「そうですか・・・伊黒さんが、暁歩さんに・・・ふふっ」
全て話し終えると、しのぶは可笑しくて仕方ないとばかりに口元を押さえて笑いを堪えていた。本心から来る笑みのようで暁歩も安心はしたが、その前になぜしのぶがそうなるのかが疑問だ。
「本当、伊黒さんは甘露寺さんのこととなると、ポンコツになっちゃうんですよねぇ・・・」
「・・・あの、もしかして伊黒さんって」
しのぶの口ぶりと、暁歩に対する質問、そして相談した内容を聞いて、流石の暁歩も察しがついた。確認するように訊くと、しのぶは『ええ』と苦笑して答える。
「伊黒さんは、甘露寺さんに気があるってことですよ」
「やっぱりですか」
ネタが分かれば、驚きもしなかった。むしろ、第一印象が怖かった小芭内にそんな一面があったとは、と思うと好印象を抱く。
「それはそれとして・・・甘露寺さんの不調は心配ですね」
「ええ。私も柱合会議で、少し甘露寺さんの様子がおかしいと思いましたし」
明らかに動揺しているような言動。それと小芭内の言っていたことを踏まえると、何かあるのは分かった。そして、蜜璃は特異体質の持ち主であるため、あまり食事量を減らすのは危険だとしのぶも思っていた。
「いきなり伊黒さんが来たのには、驚きましたけどね・・・」
「それだけ甘露寺さんが心配だったんでしょう」
暁歩としのぶは、お互いに向かい合って苦笑する。
「でも、少し羨ましいとは思いますね」
「?何がですか?」
「甘露寺さんのように、ああして誰かに一途に想われることは」
しのぶがそう言うと、暁歩は笑みを引っ込める。
少しだけ、しのぶの心の一端が垣間見えた気がした。
「いつもそう思うわけではないんですけど、ああして誰かが想い想われているのを見ると、たまにそう考えることは」
しのぶだってまだ十二分に若いから、色恋の話に興味があっても何らおかしくない。
けれどしのぶは、家族を喪い、鬼に復讐を為さんと悲しい決意を背負っていることを暁歩は知っている。そんな彼女が、普通の女性のように恋ができることを羨むのを見ると、相反するしのぶの感情に胸が張り裂けそうになった。
そして暁歩は、そんなしのぶから目が離せなくなる。
―――お前は胡蝶と親しげだったからな
小芭内の言葉を思い出す。
蜜璃に気があるらしい小芭内にそう見えたと言われて、その言葉を捨て置けなくなる。
もしかしたら、自分としのぶは、小芭内からすれば『そういう風に』見えたのだろうか。
「暁歩さん?」
声をかけられて、暁歩は我に返る。
「どうしました?急に固まって・・・」
「・・・いえ、何でもないです」
キョトンとした様子で問いかけるが、暁歩は笑顔を取り繕う。
自分は今、何を考えていただろうか。自分としのぶが、小芭内と蜜璃のような関係性に見えていたのではないか、と疑った。
そう思われることに、何も気にすることなどないはずだ。
だが、そのことが頭から離れず、それでも暁歩自身は心地よいのはなぜだろう。
□ □ □ □ □
小芭内の訪問から数日後、蝶屋敷を蜜璃が訪れた。
しかし、玄関に立っていたその姿を見て、暁歩は我が目を疑った。
「甘露寺さん・・・大丈夫ですか?」
「え、何が・・・?」
開口一番、身を案じるような言葉が出てしまう。
何せ前会った時のような元気な様子はなく、悪い意味で痩せてしまったように見えるし、目の下には疲労の色が浮かんでいる。何より、目に見える範囲で変わっているのに、蜜璃自身がそれに気付いていないようだから、事の深刻さに拍車がかかっている。
「大分お疲れのようですが・・・」
「ああ、うん・・・大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね・・・」
やんわりと不調を指摘するが、蜜璃は心配を掛けさせまいと笑顔を見せる。その笑顔さえも、無理をしている様子が拭えないので、見ていて逆に心に刺さる。
「えっと・・・しのぶちゃん、いる?」
「あ、はい。それでは、こちらへ」
暁歩は予め、近い内に蜜璃が来ると言う話をしのぶから聞いている。しのぶが鎹鴉を通して呼び出しており、その理由は小芭内からの相談でもあった蜜璃の不調だ。だから、暁歩も蜜璃が来たことに関しては驚いていない。
「甘露寺様がいらっしゃいました」
『どうぞ』
そして暁歩が蜜璃を連れてきたのは、機能回復訓練を行う訓練場だ。
中に入ると、しのぶが正座をして待っていた。傍らには、訓練用の竹刀が二本置いてある。
「暁歩さん。申し訳ありませんが、一旦外してもらえますか?」
「分かりました。では、ご用事の際は調剤室に」
蜜璃に頭を下げて、暁歩は訓練場を出る。
今は聞かれたくない話、見られたくないやり取りを交わすのだろう。暁歩には覗き見たり盗み聞いたりする趣味もないので、言った通り調剤室へ戻る。余計な詮索をあまりするべきではない。
だが、訓練場を後にする前に聞いたしのぶの声は、普段よりも少し鋭いようにも聞こえた。前に蜜璃と接した時のような、普段の優しい感じではなく、わずかに怒っているような。
あの語調にはどんな意味があるのだろう、と思いながら暁歩は調剤室の戸を開けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しのぶに呼び出されたのは、それから半刻ほど経った後だ。
調剤室で鎮痛剤を作っていたところ、しのぶから『お茶を淹れて、お茶菓子をたくさん客間に持ってくるように』と言われた。茶は分かるが、お茶菓子をたくさんとはどういう意味だろう、と思いながら暁歩は指示に従い台所へ向かう。そこでお湯を沸かしながら、戸棚にある饅頭や煎餅を皿に載せていく。
やがてお茶が入ると、お茶菓子と共にそれを客間へと持っていく。襖を開けると、そこにはなぜか半べそをかいている蜜璃が座っていた。なんでそんな状態になっているのかは分からないが、暁歩はお茶と茶菓子を差しだす。
「どうぞ・・・」
「ありがとぉぉぉぉ・・・」
すると蜜璃は、まるで命の恩人でも見るような目で暁歩にお礼を告げて、饅頭だの煎餅だのをパクパクと食べ始める。
「甘露寺さん、ここ最近は食事をあまり摂っていなかったらしくて」
「そうだったんですか・・・」
痩せているように見えたのも、今お茶菓子をモリモリ食べているのも、それで合点がいく。
「甘露寺さん、さっきの話なんですけどね?」
「ふぇ?」
しのぶが話しかけると、饅頭を飲み込んでから蜜璃がしのぶを見上げる。
するとしのぶは、耳元に口を寄せて暁歩に聞こえないように話しかけた。
「暁歩さんに話してもいいですか?素直な気持ちが聞けると思いますし」
「え、でも・・・」
「大丈夫ですよ。彼はそんなに悪い人ではないですから」
暁歩は二人がひそひそと何かを話しているのが気になったが、やがて蜜璃が頷くと、今度はしのぶが暁歩の方を向いた。
「暁歩さん、甘露寺さんが鬼殺隊に入った理由を覚えてますか?」
「ああ、確か・・・添い遂げる殿方を見つけるため、でしたよね」
あまりにも衝撃を受けたので、忘れられない。
だが、苦笑しながら答えると、お茶を飲んでいた蜜璃が身体を少し振るわせて湯飲みを机に置いた。
「それを聞いた時暁歩さんは、どう思いました?」
「どう、と言われても・・・驚いたとしか」
大切な人を鬼によって喪ったり、鬼狩りの家系に生まれたりという理由が多い中で、蜜璃のような入隊理由はかなり独特な方だろう。そう言う意味もあって暁歩は大いに驚いた。
「それを妬ましいと思ったことは?」
「とんでもないです」
しかし、驚きこそすれ悪く思ったことはない。
暁歩も、鬼という種が許せなくて鬼殺の剣士を志したが、結局は挫折した若輩者だ。誰かの入隊理由を責めることなどできない。
それに暁歩に限らず、人にはそれぞれ事情がある。どんな理由で入隊しようとも、罰せられる規則はない。鬼を狩ることが第一の目的である以上、入隊した経緯は些末な問題だろう。
「むしろ、新鮮な気持ちになりました」
「え?」
「鬼殺隊にも、そうした前向きな理由で入隊する人がいるんだって。ちょっと気持ちが楽になりましたよ」
悲しい過去を背負って入隊した人が多い中、蜜璃のような理由で入隊する者は極めて稀だ。だから新鮮な気持ちになれたし、憎らしい、妬ましいと思ったことなど無かった。
だが、暁歩がそれを伝えた途端、蜜璃がつぅっと一筋の涙を流してしまった。男として、女性を泣かせてしまったことを大いに悔やむ。
「あ、すみません、すみません!何か間違ったことを言ってしまいましたか・・・?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
だが、しのぶが両者の間に入って宥める。
どういうことかを視線で問うと、しのぶは蜜璃の背中を優しくさすりながら話し出す。
「甘露寺さん・・・前に隠の方が、私の経歴のことを噂していたのをうっかり聞いてしまったみたいで。それで、嬉々として私に自分の入隊理由を話したことをとても悔やんでいたんです」
ふと思い出したのは、以前石化の毒を受けた隊士を受け入れた時。後藤が暁歩に、蜜璃が来ていたがすぐに帰ってしまったと言っており、もしかしたらあの時後藤たちが話していたのだろうか、と考える。
そして、しのぶの過去は、誰が聞いても『辛く悲しい』と思うことだろう。
だからこそ蜜璃は、『自分に相応しい殿方を見つけるため』という理由を自分で恥ずかしく思い、罪悪感から気に病んでしまってやつれたのだと言う。
蜜璃の気持ちは分からないでもないし、むしろそれだけしのぶのことを大切に考えているんだと暁歩は思った。
「甘露寺さん。さっきも言いましたが、あなたの明るく楽しそうな振る舞いを見て、私も心が安らぐような気持ちになるんです」
「・・・うん」
「それはアオイやきよたちも同じですし、暁歩さんもああ言ってくれたんですから。もう落ち込んだりしないでくださいね?」
「うん・・・うん・・・」
蜜璃の背中を優しく撫でるしのぶ。
その姿に暁歩も目を細めていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「すみませーん・・・」
襖を開けたのはなほだった。蜜璃が泣いている様子を見て少し吃驚したようだが、しのぶの方を向く。
「伊黒様がいらしてますが・・・」
「ああ、ありがとう。さ、甘露寺さん。迎えの方が来ましたよ?」
「え・・・?」
しのぶがハンカチを差し出しながら言うと、蜜璃はぽかんとした顔でしのぶを見返す。
どうやら先ほど、鎹鴉を小芭内に向けて飛ばしたらしく、蜜璃を屋敷まで送るように伝えていたらしい。やるなあ、と暁歩はしのぶを見る。
そして、しのぶに連れられて蜜璃が玄関まで行くと、そこには確かに小芭内が立っていた。
「では、伊黒さん。後はお任せしていいですか?」
「分かった。甘露寺、大丈夫か?」
「はい・・・大丈夫です・・・」
未だ涙ぐんでいるが、蜜璃は一人で歩けないほどでもなかった。
「あ、そうだ伊黒さん」
「なんだ?」
そこで小芭内を呼び止めたのは、しのぶや蜜璃からすれば意外な暁歩だ。小芭内自身も呼ばれるとは思わなかったのか、やや怪訝な表情を浮かべている。
そんな中で暁歩は、少しだけ小芭内を手招きし、蜜璃に見えないように懐から紙片を二枚取り出す。
「よろしければ、どうぞ」
その紙片とは、街の定食屋の食事券。以前街へ行った際に福引で引き当てたものだ。これを二枚、今小芭内に渡した理由は、わざわざ問うまでもない。
「・・・受け取っておこう」
小芭内がそう答えた時、雰囲気が少し丸くなったような感じがした。
だが、それ以上は語らずに、小芭内は蜜璃を連れて屋敷を去っていった。
「・・・まさか、暁歩さんが伊黒さんに手を貸すとは」
戸を閉めると、実に愉快そうな表情でしのぶが見ていた。先ほど、蜜璃に気付かれないように食事券を渡したのは、しのぶの位置からはばっちり見えていた。しのぶに指摘されて、暁歩も自分で可笑しそうに笑う。
「まあ、ちょっと背中を押したいなって」
小芭内は蜜璃のことを真剣に気にかけており、かつ同時に好いていることが分かった。最初はおっかない印象だった彼も、蓋を開ければ一途な青年だ。今はもう、暁歩は小芭内に対して畏れを抱いていない。
「・・・」
だがそこで、しのぶは物憂げな表情を浮かべる。雰囲気も、少し愁いを帯びているように感じた。
「・・・私にも、ああして誰かを想ったり、誰かに想われたりすることはあったのでしょうかね」
それは、もう自分にはそんなことができないと諦めているようだ。
その言葉に、暁歩の胸が強く締め付けられる。
しのぶの過去は無かったことになどできず、自分の原動力は最愛の姉を葬った鬼に対する復讐心。そんな自分に、蜜璃と小芭内のような二人だけの関係は掴めないと、諦めているのだ。
「・・・それは今からでも、できますよ」
だが、暁歩はそれを良しとしない。そのままになどしておけない。
だから力強く、その未来を諦めるのはまだ早いと、しのぶの目を見て訴える。
「確かにしのぶさんの過去は拭い去れないほど悲しくて、辛いものです。でも、だからこそ・・・いつかは幸せを掴み取ってほしい。俺はそう願っています」
言葉を止めず、視線をそらさず、暁歩は続ける。
「復讐を止めろとは言いません。今のしのぶさんを衝き動かしているのは、鬼に対する強い復讐心ですから・・・。姉さんを喪った気持ちと、復讐したいという気持ちも俺には分かります。それを簡単に諦めろ、とは言えません」
暁歩もしのぶと同じような復讐心を抱いていた。だのに、それは自分の力の弱さを思い知ったことで失われたものだ。
しかししのぶは、まだ心が折れていない。自分の復讐心を失わず、自分を強く保っている。柱に至るまでに力をつけて、戦い続けている。その復讐心という名の核を抜き取ることは、今のしのぶの生きる核を失うことと同義だ。
「でも、その復讐を遂げてからでも、幸せを掴むことは遅くないはずです。だからどうか・・・諦めないでください」
達観しているしのぶを気の毒に思ったのではない。
純粋に、心から、しのぶが幸せになる未来を願っている。
しのぶを支えたい気持ちに変わりはない。
そして、幸せな未来を諦めかけている今もまた、まだ諦めないでほしいと強く願っている。その根底にある自分の感情にはまだ気づけないまま、暁歩はしのぶに言葉をかける。綺麗事であっても、少しでも気持ちを楽にさせたかった。
その暁歩の言葉を聞いたしのぶは、少しの間意表を突かれたような顔をしていたが、やがて笑みを浮かべた。
「・・・そうですか。今からでも、遅くはないのですかね」
「・・・はい」
しのぶの声は、先ほどよりも落ち着いているような感じがする。愁いを帯びた雰囲気もしない。
「では、その未来が来ることを願いましょうか」
そうしてしのぶは、いつものように微笑んだ。
その笑みを見て、暁歩はどうしてだか頭の中で、静電気のようにパチっと何かが弾けた。
そして、自分の心臓がひと際跳ねて、血液が湧き上がるかのように全身が熱くなる。その理由が分からないまま、しのぶは『そろそろ夕食の準備ですね』と台所へと向かう。
それでも、暁歩の中の昂りが静まることは無かった。
≪おまけ≫
ある日、蝶屋敷の下に一通の手紙が届いた。
「暁歩さん、伊黒様からお手紙ですよ」
「手紙?伊黒さんから?」
きよが暁歩に手紙を渡すが、差出人の名前を聞いて暁歩は大層驚いた。
一体何の用事で、と暁歩はおっかなびっくり手紙を開く。
「・・・なるほど・・・」
その手紙を読んだ時の暁歩の表情は、楽しそうな笑みだったと後にきよは語っている。