ありがとうございます。
無限列車での事件から四か月。炎柱の死から鬼殺隊も大分立ち直り、炭治郎、善逸、伊之助もそれぞれ任務に復帰し、蝶屋敷にはいつもの日常が戻りつつあった。
だが、そんなある日。音柱・宇髄天元が蝶屋敷を訪問し、炭治郎たち三人を連れて鬼の調査のために吉原遊郭へと出立した。
「二人とも、大丈夫ですか?」
「・・・はい」
「怖かったですぅ・・・」
そして暁歩は、食卓でアオイとなほにお茶を淹れてあげていた。二人の表情には怯えや恐怖の情が混じっており、声音もそれを映しているようだった。
二人がこんな状態になっているのも、先ほど来た天元は、半ば強引にアオイとなほを任務へ連れて行こうとしたのだ。その時暁歩は薬種を買いに行っていたためその場におらず、後できよとすみから事情を聞いた。
「まるで人攫いですね・・・無理やり連れて行こうとするなんて」
「本当ですよぉ・・・」
突然やってきて、アオイを肩に担ぎ、なほを脇に抱えて出ていこうとする様は本当に人攫いのようだったと言う。危険な鬼の調査の任務に連れて行かれるなんて、事情を抱えたアオイや、隊員ではないなほも怖い思いをしただろう。結果的に炭治郎たちが代わりを申し出たことで事なきを得たが、そうでなかったらどうなっていただろうか。
「・・・カナヲが引き留めてくれなかったら、本当に間に合わなかったかもしれません」
「カナヲさんが?」
「はい・・・手を握って引き留めてくれたんですよ」
アオイとなほの言葉に、暁歩は少し驚く。
ここ最近で変化を見せていたカナヲが、仮にも柱である天元の意に反しようとするとは驚きだ。これまでは暁歩とのやり取りやその表情に少し変化が見られただけだったが、そこまで大胆な行動に出るとは、やはりその変化は明白だ。
「炭治郎さんたちには、後でお礼を言わないといけませんよね・・・危険な任務に代わりに出てくれたんですから・・・」
アオイは、自分が恐怖心から鬼と戦えず、自分に代わって炭治郎たちを危険な戦地へ赴かせてしまったことを深く悔いているらしい。それは、同じような理由で戦場へ出られない暁歩だって思うことだ。
だからこそ、ここで彼らの無事を祈り、傷ついた身体を治すのは自分たちの使命だと思っている。彼らが戻ってきた時、また怪我をしていたら、自分たちが治療しなければと考えて、この屋敷で責務を全うするのだ。
「それにひどいんですよ、音柱様!アオイさんのお尻叩いたんですよ!」
「それは確かにひどい」
なほが怒り心頭といった様子で訴えると、暁歩も全くその通りだと頷く。するとアオイは、少し顔を赤らめて俯いてしまう。
だが、彼らが帰ってきた時はちゃんと治療できるように準備を整えようと、三人で頷いた。
□ □ □ □ □
吉原遊郭への潜入調査は、思った以上に長期間となり、一週間かかっても帰ってこなかった。日を跨ぐたびにアオイは不安が募っているようで、妙にそわそわしている様子がある。
そして暁歩の中にも心配は渦巻いていた。日数が経てば経つほど、任務は難しく、戦いもまた過酷なものになる。そうなれば大怪我を負って帰ってくる可能性も高くなる。
また、聞いた話によれば、その吉原に潜んでいる鬼は十二鬼月の可能性が高いという。それを聞いて思い出すのは、那田蜘蛛山や無限列車でのこと、そして暁歩が戦った下弦の肆。もし本当に十二鬼月ならば、無事で帰って来る可能性は限りなく低くなる。暁歩自身も怪我をしたからこそ、戦いの過酷さは分かっていた。
その不安を抱きつつ過ごすある日の朝。
「伝令!伝令!」
庭で全集中・常中の修業をしていた暁歩の下に、一羽の鎹鴉が飛んできた。一度修業を止めると、鎹鴉は暁歩を見上げて伝令を告げる。
「吉原遊郭デノ被害甚大!宇髄天元、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助重症!」
聞いた途端、暁歩は駆け出して、当直を務めていたきよたちの下へと向かう。
「炭治郎くんたちが帰って来る。でも重症らしい、すぐに受け入れる準備をしよう!」
『はい!』
何事もなかった蝶屋敷に、一気に緊張が走る。すぐにきよたちと一緒に治療器具や寝具、治療服の準備に取り掛かる。重症と聞いていたので、使う機会があまりない輸血や点滴のための器具も用意し、集中治療を行うために特別室の準備も進める。
そして陽が昇って少し時間が経ってから、怪我を負った炭治郎たちを隠が運んできた。
「これは・・・」
「・・・ひどいですね」
その運び込まれた炭治郎たちの状態に、暁歩たちは思わずと声を洩らした。
炭治郎、善逸、伊之助は意識がなく、骨折や刺し傷が目立ち、一目見ただけで重体と分かる様だ。蝶屋敷の皆はその容体を見て胸を痛めながらも重症な三人を二階の特別室に運ぶように伝える。
「あー、いてぇ・・・めっちゃイライラする!」
「天元様、落ち着いて・・・」
その後で宇髄もやって来たが、左目に傷を負い、左腕が切断されていて傷だらけでも、意識がはっきりとしていてあまり苦しそうにもしていない。隠とは違う女性に支えられているが自力で歩けており、それでも特別室で治療を受けるように促す。
「手分けして診ましょう」
『はい!』
しのぶが指揮を執り、蝶屋敷の全員で命をつなぎ留め救おうと奮闘する。
暁歩は炭治郎、しのぶは伊之助、アオイときよたちが善逸と天元を診ることになった。
(少し急がないと、マズい・・・)
暁歩も炭治郎の身体を診ながら、予断を許さない状況であると判断し、隠の人たちにも力を借りる。と言っても、身体を支えたり薬や包帯を持ってきてもらったりするぐらいで、特別な技術は必要としない。
「・・・何か、手伝える・・・?」
そんな中で暁歩に問いかけてきたのは、カナヲだった。
そんな言葉を聞いたのは、暁歩も初めてだった。これまでカナヲは、怪我人を気遣うこともそうだし、病室に入って看病さえしてこなかった。だから、自分からここまでやってきて手伝いを買って出るのが意外過ぎる。
そして、そのカナヲの表情は不安と恐怖で塗りたくられていた。
しかし今、そのカナヲの明らかな変貌に驚く余裕はない。
「清潔な水と手拭いを持ってきてください」
言うと、カナヲはすぐさま部屋を出て、長い時間を置かず部屋に戻ってくる。
その後の指示をカナヲは待っているようで、今度は綺麗な水に浸した手拭いをよく絞り、腕や足の傷の周りに着いた血を拭くように伝える。
やはり普段と違うカナヲの行動に暁歩は内心で感心するが、喫緊の問題は炭治郎の治療をし、命を救うこと。
運ばれてきた皆は、戦えない暁歩たちに代わって鬼と戦い、こうして傷を負った。もし自分たちが戦場に赴いていたら、同じような怪我をしていただろうし、最悪の場合死んでいたかもしれない。
だからこそ、何としてでも、彼らの傷を治して命を救わなければならない。
(死なせない、絶対・・・)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どうにか瀬戸際の状態から抜けたのは、陽もとっぷりと暮れてしまった頃だ。
「暁歩さん、炭治郎くんの方は如何ですか?」
「傷の手当は終わって、輸血と点滴もしてあるので一先ずは問題ありませんが・・・油断はできません」
「善逸さんはまだ傷が軽い方でした・・・と言っても、骨折と創傷がひどいですが・・・」
きよたちが握ってくれたおにぎりを囲んで、暁歩、しのぶ、アオイの三人でそれぞれの受け持った隊士の状態を共有する。しのぶによれば、伊之助も胸に大きな刺し傷を負っており、さらに薬も効きにくい体質のため、あれほどの傷を治すのは困難だとしのぶは言う。だが、隠の手も借りて、どうにか一命を取り留めたとのことだ。
「宇髄さんは・・・」
「左目と左腕の傷が目立ちましたが・・・驚いたことにピンピンしています。一応ここで静養するように言ってありますが・・・」
アオイが驚愕冷めやらぬと言った様子で報告する。
比較的軽い傷だった善逸と併せて診た天元は、左目の失明、左腕の切断と一番の重症だったにもかかわらず、アオイの言う通り元気だった。暁歩も様子を見に行ったが、逆に引くほどに元気だったのは覚えている。
「それでも、ここ数週間は気が引けません」
「「はい」」
しのぶが笑みを消して告げると、暁歩とアオイは頷く。
これだけの重症患者が一気に来たのは、暁歩も初めてだ。那田蜘蛛山の時よりもひどいその様に暁歩も顔が曇るが、予断を許さない状況に変わりはない。そして、生きて帰ってきた彼らを死なせるつもりも毛頭なかった。
命を救う立場にある蝶屋敷の人間は、気を緩めてはならない。
全員が顔を見合わせて頷いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
厳戒態勢でいる蝶屋敷だが、その中で最も大きな変化を見せたのはやはりカナヲだ。
「・・・・・・」
明かりが消えた炭治郎の病室で、寝台の傍に置いた椅子にカナヲは座っている。そして、目を覚まさない炭治郎のことを案じるように眺めていた。普段のような無機質な瞳とは違い、本当に『心配』という感情が宿っている瞳を向けている。
「炭治郎くん、目を覚ましましたか?」
炭治郎の様子を見に来た暁歩が話しかけるが、カナヲは首を横に振る。
暁歩も最初に治療をして、恐らく一日やそこらで目覚めるような怪我ではないと思っていたから、カナヲの否定の答えも想定内だった。自分の問いかけ自体に返事をしてくれたことは少し驚きだが。
「炭治郎くんが心配ですか?」
「・・・・・・うん」
訊くと、カナヲは控えめに頷いた。炭治郎は今もなお、眠りに就いたままだ。
その返事に、暁歩は小さく笑う。
「彼が起きた時、その言葉をかけてあげてください。きっと喜びますから」
□ □ □ □ □
その翌日の朝。
「善逸さんが起きました~!」
すみが嬉しそうに報告したのを聞いて、暁歩たちは急いで二階へと上がる。
善逸の病室へ入ると、善逸は寝台の上で泣きじゃくっていた。
「善逸くん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ!起きたら何か脚が折れてたし、体中傷だらけだしであと一歩で死ぬところだったよ!」
「それだけ騒げれば大丈夫そうですね・・・」
もはや恒例とばかりに泣き言を言う善逸に、暁歩たちは安堵の表情になる。
改めて診察をしたところ、脚の骨折に気を付けなければならない点を除けば、他は軽微な創傷でそこまで問題ではない。なので、骨折が治るまでは安静となった。
「・・・善逸さん」
「?」
そこで、薬を渡したアオイが善逸に話しかける。
「宇髄様に連れて行かれそうになった時・・・助けてくれてありがとうございます」
「・・・へ」
「私の代わりに任務に出て、傷ついて帰ってきて・・・心配でした」
いつになくしおらしいアオイに、その場にいた全員が驚く。特に善逸は、アオイからガミガミ叱られることが多かったから、こんな風に静かに、面と向かってお礼を言われることが初めてだ。
天元にアオイが連れられそうになった時、最初に止めに入ったのは炭治郎だった。だが、善逸はアオイを解放するよう天元に言っていて、その時は恐怖のあまり身体が思いっきり震えていたが、その言葉がアオイは嬉しくもあったのだ。
「・・・お礼なんていいよ。最初に止めに入ったのは炭治郎だし」
善逸は少し恥ずかしかったのか、そう言って視線を逸らす。
そんな善逸の顔がにやけているのに暁歩は気付いていた。
□ □ □ □ □
一週間が経っても、炭治郎と伊之助は目が覚めない。
未だ緊張が蝶屋敷に漂っており、そんな彼らを決して見捨てずに暁歩たちは治療を続ける。包帯の交換や触診、点滴での薬品投与など一時も気は緩められない。
そんな折、蝶屋敷をある人物が訪ねて来た。
「失礼します」
「はい?」
訪れたのは四人。
一番前に立っているのは、薄い桜色の着物を着た白い髪の女性。年齢は見る限り暁歩よりも上だが、綺麗な人だった。
「
「どうも・・・ありがとうございます」
恭しく礼をするあまねと名乗った女性に、暁歩もお辞儀をする。
その後ろには、最終選別の時に見たような、おかっぱ頭で白い髪の着物を着た少女が二人。その二人に手を引かれるように、男性が立っていた。顔の大半に爛れているように変色しており、目は見えていないのか真っ白だ。
そんな四人からは、どこか不思議な雰囲気がする。ふわふわしているというか、掴みどころがないというか、儚い感じがしてきた。
そんなことを思っていると、不意に後ろから襟首を掴まれて跪かされる。
「!?」
「ご多忙の中お見舞いに来て下さり恐縮です。お館様も、お身体の方は如何でしょうか」
「ありがとう、しのぶ。身体の方は心配しなくて大丈夫だよ」
暁歩を組み伏せたのは、驚いたことにしのぶだった。
そして、普段のような話し方とはまた違うしのぶの口調で、全てを察した。
この男性こそが、話には何度も聞いていた鬼殺隊の当主・産屋敷輝哉。お館様と慕われている人で、暁歩も初めて目にした。
「吉原での戦い、天元たちは深手を負ったと聞いているけど、彼らの具合はどうかな?」
「宇髄さんは大きく怪我をし、現在も病床におりますが命に別状はありません。我妻善逸くんは目を覚ましましたが、脚の骨折のため静養しています。竈門炭治郎くん、嘴平伊之助くんは未だ目を覚ましておりません」
「そうか・・・では、少し彼らの様子を診てもいいかな?」
「はい」
しのぶは手を放して暁歩を解放し、しのぶは輝哉たちを案内するために二階へと上がる。暁歩もまた、炭治郎たちの包帯を交換するために、同じく二階の彼らの部屋へと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
輝哉は、炭治郎の病室へと赴いた。
そこで見舞いのために座っていたカナヲは、一度離席して部屋を出る。そして、カナヲが座っていた椅子に輝哉は座り、未だ目を覚まさない炭治郎に慈しむような表情を向ける。暁歩としのぶは、少し離れたところからその様子を窺うことにした。
「百数年ぶりに上弦の鬼を斃した・・・この事実に、私はとても打ち震えているよ」
吉原遊郭に潜んでいたのは、十二鬼月の上弦の陸。上弦の中では一番位が下だが、それでもその力はすさまじく、輝哉の言う通りで百余年もの間上弦の鬼は斃せなかった。
「これは、長きにわたる鬼殺隊の歴史が大きく動いた証だ。そして、鬼舞辻無惨を斃す大きな足掛かりになると私は信じている」
輝哉が語り掛ける炭治郎は、目を覚まさない。
以前暁歩は、炭治郎が『鬼舞辻無惨を斃す』と宣言していたのを覚えている。もしかしたら、それが叶う日も近いのではないかと、上弦の陸を斃した事実は信じさせてくれる。
「けれど、その代償はとても大きい。戦い抜いた皆はとても深い傷を負った。柱である天元も、柱を退くまでになってしまうほどに・・・。それに、吉原の人たちも、大勢巻き込まれている」
『吉原遊郭、一夜にして倒壊』なんて新聞記事を暁歩は思い出す。僅か一晩の間に、地面に大きな穴が開いたり、人気の花魁が消息を絶ったり、女郎屋が何棟も倒壊したと書いてあったが、それこそ炭治郎たちの戦いの結果だ。隠でも隠蔽しきれなかったことは、鬼云々を抜いてもすぐに知れ渡ってしまう。
「炭治郎・・・鬼との戦いの流れを大きく変えた君も、大きな怪我をしてしまった」
輝哉は、双子の姉妹に導かれて、包帯が巻かれた炭治郎の手を、そっと包み込むように優しく握る。
「・・・だが、炭治郎は上弦の鬼を斃し、人々の生活を平和へと近づけた。それは変わらない事実だ」
輝哉は、安心感を与えるようなゆったりとした笑みを浮かべる。
「ありがとう、炭治郎。今は、ゆっくりとお休み」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お館様は・・・ああして傷ついた隊士の見舞いにいらっしゃることがあるんです」
輝哉たちが帰った後、暁歩はしのぶから話を聞いていた。
「たとえ意識がなくても、お館様は言葉をかけてくださる。亡くなった隊士のことも一人一人忘れずに、覚えて・・・。鬼殺隊の皆さんのことを、本当の子供のように見てくださるんですよ」
しのぶは柱として、輝哉に謁見する機会が多い。だからこそ、しのぶの方が輝哉がどんな人となりをしているのかを理解している。
「なので、もし次お会いする際は粗相のないようにしてくださいね」
「・・・分かりました」
輝哉たちが来た時、しのぶが暁歩の襟首を掴んで床に組み伏せたのは、尊敬する輝哉を前にしての態度ではなかったからだ。
輝哉は、その体質ゆえに戦えないからこそ、その献身的な言葉と姿勢で隊員たちを救っている。それを暁歩は、理解した。
そしてしのぶも、最初に輝哉と向かい合った時に言葉を掛けてもらったのを思い出す。
―――しのぶは強い子だね
柱になった時、輝哉に謁見する時間が設けられる。
しのぶが柱になるための条件を突破したことは知っているだろうが、輝哉のその言葉はただ実力に対するだけの『強い』ではないと、しのぶは気付いていた。
―――家族を喪っても、君の心は折れることなく、鬼狩りに徹している。曲がることのない信念を宿して、鬼殺の剣士として強くあり続けている。その折れない心こそが、君の強さだ
亡くなった隊士の来歴を記憶している輝哉。しのぶの姉であり、元柱でもあるカナエのことを輝哉は当然覚えている。だから、そのカナエの妹であるしのぶの境遇も、輝哉は理解していた。
―――しのぶ。今まで、よく頑張ったね
―――これからもどうか、その強い心を失くさないように、柱として頑張ってほしい
家族を喪ったことに対する悲しみを胸に秘め、
だからこそ、しのぶは輝哉のことを尊敬しているのだ。
□ □ □ □ □
そして、炭治郎と伊之助が目覚めないまま一か月が過ぎる。
「炭治郎・・・まだ目を覚まさないのか・・・」
杖をつく善逸が、寝台に眠る炭治郎を見下ろしながら不安げな声を洩らす。
善逸が負っていた脚の骨折も、今では大分快方に向かっており、全快まで順調に近づいてきている。
そんな彼もまた、炭治郎の見舞いに来ることが多かった。彼にとって炭治郎とは、ただの同期というだけでなく、まさに親友のような存在であり、彼が精神的に成長するに至った大きな存在でもあるらしい。彼らの仲の良さは、しのぶも度々『良い同期に恵まれている』と評するほどだ。
「・・・まだ起きねぇのか」
そして、元忍で身体も丈夫な天元もまた、炭治郎の様子を診に来ることがあった。化粧を落とし、髪を下ろしているその姿は暁歩から見ても普通に伊達男だと思う。
「俺は、色々と判断を間違えた」
炭治郎を見下ろしながら、天元は呟く。
「嫁が捕まったからって、焦って行動を急ぎ過ぎた。鬼殺隊だから派手に命を懸けるのは当たり前だと思ったが、それは部下を危険に晒していい理由にはならねぇ」
吉原遊郭で具体的に何が起きたのかを、暁歩は知らない。だが、善逸の表情の暗さ、そして炭治郎と伊之助の怪我を診れば、激しい戦いだったのは想像に難くない。危ない任務だったのは確かなようだ。
「だから、炭治郎と伊之助がこんな目に遭っちまったのは俺のせいでもある。仮にも柱が・・・今は元だが、こんなことになって地味に情けねぇ」
天元なりの謝罪の言葉に、暁歩と善逸は何も言わない。
そして炭治郎もまた、目が覚めずに眠ったままだ。
□ □ □ □ □
炭治郎たちが眠り続ける間にも、他の鬼殺隊士は戦い続けており、負傷者もまた運び込まれる。まだ炭治郎たちが目覚めないことは不安だが、それでも怪我人の治療を優先して、暁歩やアオイたちは屋敷を走り回る。
「あー、すみません」
そしてひと段落すると、怪我をした隊士を運んできた隠の後藤が暁歩に話しかけてくる。その手には紙袋があった。
「これ、カステラです。炭治郎に差し入れで」
「あ、これはどうも・・・。でも、炭治郎くんはまだ起きなくて・・・」
暁歩がやんわりと気持ちだけ受け取ろうとするが、後藤は少し頬を掻いてから天井を見る。
「あいつ鼻が利くって言ってたんで。もしかしたら匂いで起きるかもしれませんし、良ければ置いといてもらえませんか?傷むようなら食べちゃっていいんで」
「・・・分かりました」
炭治郎は、嗅覚が非常に優れている。以前話を聞いていたし、それは感情を読み取れるほどだ。だから後藤の言う通りで、もしかしたら傍に置いてあるカステラの匂いに釣られて目を覚ますかもしれない。
暁歩は微笑んで食卓から皿を持ちだして、後藤を炭治郎のいる病室へ案内する。
そこには、任務で屋敷にいない時以外は毎日のように様子を診ているカナヲの姿があった。後藤は『どうもです』と挨拶をして、カステラが載った皿を寝台の傍の机に置く。
もう一か月以上も目を覚まさない炭治郎を見て、後藤も少し心配そうだった。が、彼は彼でまた別の任務があるため、すぐに屋敷を後にする。
「・・・カナヲちゃんってあんな風だったっけ」
「それが、ここ最近で変わったようで」
屋敷を出る前に、後藤は暁歩と少し話をする。後藤もカナヲのことは以前から知っていたが、ああして怪我人を看病することなど見たことがなかったから、余計驚きだった。ただ、暁歩も詳細は知らないので曖昧に答えるしかない。
「まあ、あの子ももうちょっと口数増えれば普通の女の子らしいんだけどな・・・顔はいいし」
「それは言えてます」
そんな軽口に暁歩と笑い合って、後藤は屋敷を出た。
すると、後ろからドタドタと騒がしい足音が近づいてきて、誰だ一体と暁歩が振り返る寸前に。
「猪突猛進!!」
「ぐえっ!?」
聞き覚えのある声と共に、背中に伝わる衝撃。思わず前につんのめって石畳に仰向けに倒れ、顔を擦ってしまう。
「い、伊之助くん?」
「おうよ!伊之助様のお目覚めだぜェ!」
「ちょっと何やってるんですか!」
起き上がりながら振り返ると、仁王立ちして高笑いをする伊之助がいた。
一か月以上も起きなかったのに急に目覚めたのか、と暁歩が驚くのをよそにアオイが駆け付ける。
「病み上がりなんですからむやみに動かないでください!」
「うるっせぇ!それより紋逸と炭五郎はどうなった!」
「誰ですかその二人は!」
玄関先でやいのやいのと騒ぐ伊之助とアオイ。とりあえず起き上がった暁歩は、まだ完治していないので動きにあまりキレがない伊之助を病室へと連れ戻し、さらに彼の治療に当たったしのぶを呼ぶ。
「傷口はあらかた塞がっていますが、それでもすぐに動こうとしてはいけませんよ?」
「・・・オウ」
しのぶが言うと、血気盛んな伊之助も静かになる。どうやら、しのぶの微笑みの裏に『勝手にうろちょろ動き回りやがって』という怒りがあるのに気付いたらしい。
「それに、伊之助くんは毒のせいで止血も遅かったうえ、薬が効きにくいんですから。もう少し気を付けてくださいね」
伊之助の身体の構造は、しのぶでも分からないらしい。何せ、薬が効きにくいのもそうだが、胴体に刺し傷を負っていたのに臓器がほとんど傷ついていないと言うのだ。一体何をどうしたらそうなるのかが分からない。
「俺は猪に育てられたからな!人間様の常識は通じねェのさ!」
伊之助が声高に宣言するが、その場にいた伊之助以外の全員が苦笑するにとどまる。
だが、しのぶはすぐに衝撃から立ち直って伊之助の怪我を改めて診る。
「でも、包帯を勝手に解いたり糸を抜いたりしたら駄目ですよ?」
「・・・」
「指切りげんまん、約束です」
そんな暁歩の疑問をよそに、しのぶは伊之助と指切りを交わす。まるで小さな子供にするように。だが、伊之助は『バカにすんじゃねぇ!』と怒った様子もなく、大人しかった。
「・・・で、新逸と炭吉郎はどうなった?」
「善逸くんなら任務に復帰していますよ。炭治郎くんはまだ目覚めてません」
「・・・そうか」
炭治郎が目覚めていないという事実に、伊之助も落ち込んでいる。少しズレたところがあるこの少年も、仲間を気遣う気持ちだけは失っていないらしい。
そして、伊之助のような落ち着きのない性格の持ち主が静かになるほど、炭治郎という人がどれだけの存在かを改めて認識させられる。輝哉、カナヲや善逸、天元、後藤など多くの人が彼の様子を案じているのだから、多くの人に影響を与えているのも違いない。
その姿に重なるのは、暁歩は会ったことがない炎柱・煉獄杏寿郎。その死が多くの人に影響を与えていたのが、今の炭治郎と似ているところがある。
だからこそ、炭治郎を死なせてはならないと言う決意が、より強固なものへとなった。
□ □ □ □ □
伊之助が目覚めてから一週間。
「ひゃぁっ!?」
郵便受けを開けたなほが悲鳴を上げた。それを聞いた暁歩が駆け付けると、手紙を持ってなほが小さく震えている。
「どうしたの?」
「これ・・・」
なほが見せたのは、『竈門炭治郎へ』と書き殴ってある封筒。それだけで何か恐ろしい感じがしたが、その中にあったという便箋をなほが見せると。
『お前にやる刀はない』
『ゆるさないゆるさない呪うゆるせないゆるさないゆるさない』
『憎い憎いにくい憎い』
脅迫状そのものだった。
「・・・鋼鐡塚さんからかな」
「はい、多分・・・」
炭治郎の担当刀鍛冶・鋼鐡塚。曲者揃いの刀鍛冶の中でもとりわけ奇妙な男で、刀を折ったり失くしたりした炭治郎を、包丁を振り回しながら追っていたのを覚えている。
「・・・これ、どうしようか」
「・・・とりあえず、取っておきましょうか・・・」
炭治郎は、二か月たった今も目覚めない。内容が脅迫状であれ、他人宛の手紙を勝手に捨てるのも気が引けるので、念のために取っておくことになった。
「こんちゃーっす」
すると、そこへ後藤がやって来た。手にはカステラが入っていると思しき紙袋がある。どうやら、炭治郎に見舞いの品を持ってきたらしい。
「後藤さんもマメですね」
「前線で命張ってるんで尊敬してますし・・・吉原で見つけたのは俺だし」
柱合裁判の場で不躾な行為を働き、巻き添えで怒られそうになったのを根に持っているが、なんだかんだで後藤も炭治郎には縁を抱いているらしい。後藤の考えは暁歩自身も自分に近いなと思っていた。
そんな後藤のために、前と同じように皿を一枚用意してカステラを載せ、炭治郎の眠る二階の特別室へと向かう。
だが、その戸は開かれていた。それを見て疑問を抱きながら暁歩と後藤が中に入ると、まず床に割れた花瓶が落ちていて、炭治郎のすぐ傍にはまたカナヲが座っている。
(何でもかんでもやりっぱなしにしやがって)
(まあまあ・・・)
視線で後藤が何を言いたげなのか分かった暁歩は、愛想笑いを浮かべて宥めつつも散らばった破片を軽く片付ける。それが終わってから、暁歩は炭治郎の様子を診た。
「炭治郎くん、目が覚めましたか?」
「・・・はい・・・さっき・・・」
暁歩がカナヲに訊くと、か細い炭治郎の声が返ってくる。
その横から後藤が話しかけてきた。
「カステラ置いとくんで。暫くしたら下げてください。傷みそうだったら食べちゃっていいんで」
「あ・・・ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」
そこで、暁歩と後藤は傍と気付き、顔を見合わせる。
今、声を発したのは炭治郎ではなかったか?
今一度、二人は炭治郎のことを見る。
その炭治郎の目は、少し細いが、確かに暁歩と後藤のことを見据えている。
起きている。
「「意識戻ってんじゃねーか!!?」」
わずかに遅れて、暁歩と後藤が声を揃えて叫ぶ。唐突なことにカナヲはびくっと震えた。二人の驚きがどれほどのものかと言えば、暁歩が思わず素の口調でツッコミを入れて、後藤が持っていたカステラを落としてしまうほどだ。
「炭治郎くん、いつ目覚めたんですか!?」
「さっき・・・です・・・」
「オメーは本っ当にボーッとしてんな!人を呼べっつーの!!意識戻りましたってよこの馬鹿野郎が!!」
「ご・・・ごめんなさい・・・」
暁歩は慌てて炭治郎の診察に入り、後藤は階級が違うのも忘れてカナヲに怒鳴った後、腹式呼吸でアオイたちを呼びだす。
その呼びかけにすぐに応じ駆けつけたのはきよ、すみ、なほの三人だ。
「よかったですぅ・・・」
「心配でしたぁ・・・」
「お菓子あげますよぉ・・・」
慕っていた炭治郎が長いこと眠っていたものだから、安堵のあまり三人とも泣いて炭治郎の下へ縋りつき、キャラメルやあんぱんを炭治郎に渡す。そんな彼女たちに、炭治郎は『心配かけてごめんね・・・』と弱弱しくも声をかける。
さらに、ドタドタと騒がしい足音と共に部屋に入ってきたのは。
「キャーッ!お化け――――ッ!!」
人間の腕のように出っ張りがある白い塊。
それを見た瞬間きよが悲鳴を上げたが、その正体は干そうとした布団を頭から被ったアオイだった。
「良かった・・・意識が戻って良かった・・・!あたしの代わりに行ってくれたから・・・ウオォォォォィ・・・」
そして驚いたことに、アオイが皆の中で一番派手に泣いている。普段真面目な彼女らしくないほどのボロ泣きに、暁歩たちもどれだけ彼女が心配していたかを知って、安心した。
「炭治郎くん、二か月も起きなかったんですよ」
「はい・・・・・・カナヲが、教えてくれて・・・」
暁歩が教えると、炭治郎がカナヲの方を見る。すると、妙に照れ臭そうにカナヲは視線を逸らした。
それを見て暁歩は、『ん?』と頭に引っかかりを覚えるが、ひとまず診察を続ける。
そこへ今度は、伊之助がバタバタと駆けこんでくる。
「ふははは!ようやく目覚めたか炭八郎!俺はお前よりも七日早く目が覚めたぜ!」
「そうか・・・伊之助は、すごいな・・・」
「おう!もっと褒めてくれていいぞ!」
元々荒っぽい性格なのもあるが、炭治郎が目覚めたことが嬉しいのか、暁歩が診察を終えたところで寝台の炭治郎の上に飛び乗ってくる。そこで、号泣から立ち直ったアオイが伊之助の腕を掴んで怒った。
「下りてください!それにしのぶ様からあまり動き回らないでって言われたでしょう!」
「うるせーな!引っ張んじゃねーよこのチビ!」
「何ですって!大して変わらないじゃないのよ!!」
伊之助が反論すると、アオイもさらに怒って反発し喧嘩が勃発。泣いたり怒ったりアオイも大変だとは思うが、本気の喧嘩と言うよりも、仲が良いからこその喧嘩のように見える。
それでも、やはり怪我人の上に飛び乗るのは駄目なので、暁歩と後藤も伊之助を下ろそうとする。きよとすみ、なほはこの状況にあわあわと混乱し、状況は混沌としかけるが。
「炭治郎寝たから静かにして!」
この状況で、声を大にして諫めたのはカナヲだった。
初めて聞いたその大声に暁歩はもちろん全員が驚いて動きを止めるが、確かに見ると炭治郎はまた眠っている。実に穏やかな寝顔だった。
「あーまたコイツ昏睡した!」
「縁起の悪いこと言うんじゃないわよ!」
そんな炭治郎を見て、まさに縁起でもないことを言う伊之助。アオイも全力でツッコむが、流石にもう掴み合いはしなくなった。
一先ず炭治郎の無事を確認したので、後藤は安心したのか屋敷を出る。落としたカステラは、皿に拾い集めて寝台脇の机に置いておいた。伊之助は、まだ完治していないのでアオイに連れられて病室へと戻され、カナヲは炭治郎に重湯を作るためにきよと一緒に台所へと向かった。
最後に暁歩は、伊之助が乱入して乱れた炭治郎の布団を直し、すみとなほを連れて病室を出る。
(・・・そういうことか)
だが、部屋を出て、暁歩もようやく腑に落ちた気分だ。
ここ最近でカナヲは随分変わったと思ったが、炭治郎が運び込まれてからそれは顕著だ。暁歩の治療を手伝おうとし、眠っている炭治郎の看病を続け、先ほどは声を張り上げた。
ここまで来れば、どういうことかも流石に分かる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そうですか・・・ついに目が覚めたんですね」
「はい」
その日の夕方に、帰って来たしのぶに暁歩は状況を伝えると、しのぶも安心したように胸をなでおろした。
「今はまた眠っていますけれど、しばらくは様子見ですね」
「起きた際、診察はしたんですよね?状態はどうでしたか?」
「これといった問題は・・・一応、後で目覚めたら本人の口から訊いてみます」
暁歩が診察した結果を伝えると、しのぶは満足げに頷く。暁歩の言う通り、起きてからもしばらくの間は様子見となるが、どうにか一安心だ。
「・・・で、しのぶさん」
「はい?」
「カナヲさんが変わった理由、前まで分からなかったんですけど・・・・・・ようやく分かりました」
暁歩が苦笑しながら告げると、しのぶは嬉しそうに『ほう』と相槌を打った。
「・・・カナヲさん、炭治郎くんに気があるんですか」
「ご明察」
暁歩が告げると、しのぶは人差し指を立てて頷いた。
ようやく正解を見つけて、暁歩はほっとした。カナヲに変化が生まれてきたのも、全ては炭治郎に対する特別な想いから、と気付き気がかりなことが晴れた気分だ。そして同時に、自分がしのぶに向けている感情と同じと考えれば、親近感が湧いてくる。
「らしくなった・・・と言うのは、
「ええ。とても喜ばしい兆候です」
答え合わせのように暁歩が訊くと、しのぶは笑って頷く。やはりしのぶからしても、ああして歳相応の女の子らしい変化は、本当に嬉しいものだった。
暁歩もようやく全てに納得し、安心して、しのぶの部屋を後にする。
すると丁度、重湯の入った器を持つカナヲときよを目にした。
「炭治郎くんにですか?」
「はい、さっき起きられましたので持っていこうと」
訊ねるときよが答え、重湯を運ぶカナヲは頬が少し紅い。だが、その真意を知った今となっては微笑ましい限りだ。
さて、炭治郎が起きたとなれば、先ほどは聞けなかった症状を今一度確認しようと思い、暁歩も炭治郎の下へ向かうことにする。二人きりにさせられないのは申し訳ないが、暁歩も問診をしたらすぐに退散することにした。
それから家事がひと段落したすみとなほも、炭治郎が心配らしく一緒に病室へと向かう。
『いてぇ!!』
そこで聞こえた、伊之助の叫び声。瞬間、ただ事ではないと思った暁歩たちは、伊之助の病室へと向かう。
二階へ上がると、伊之助の病室の戸が開いていたので、そこから様子を窺う。
「勝手に動き回ったら駄目ですって!傷が開いていいんですか!」
「分かったから止めろっての、このチビ!いてぇよ!」
「『分かった』って言っておいて何度も動き回ってますよね!?あとチビって言わない!」
「いってぇ!」
するとそこには、説教しながら全力で伊之助の尻を叩くアオイの姿があった。
あまりにも大人しくしない伊之助に業を煮やしたのだろうか、その姿は聞き分けの無い子供を叱る母親のようだ。
伊之助もまだ完全に怪我は治っていないが、アオイももちろん伊之助の状態を把握している。だからこそ、まだあまり動き回るのは良くないし、そして尻叩きをして叱っても問題はないと判断してああしているわけだ。それを暁歩はいち早く理解する。
「アオイさん・・・」
「見ちゃいけません」
見世物でもないだろうと思い、暁歩はきよとすみ、なほにその場を見ないようにさせる。カナヲは少しだけその様子が気になっていたようだが、すぐに炭治郎の病室へと向かう。とりあえず伊之助は、アオイに任せておけば問題ないだろう。
「伊之助・・・何か、あったんですか・・・?」
「いいえ、何も」
そして、炭治郎は伊之助の声が聞こえたのか少し不安そうだったが、暁歩は顔色一つ変えずに炭治郎に告げる。きよたちも少し表情が引きつっていたが、真相は隠しておいた。
とにかく炭治郎も、今日最初に起きた時と比べて血色は良くなっている。言葉や表情にも辛そうなところがないため、危険な状態からは脱したと判断していいだろう。
「それじゃカナヲさん、後はよろしく」
診察を終え、きよたちも炭治郎と言葉を交わし終えると、暁歩はカナヲにそう告げる。それを聞いたカナヲは一瞬驚いたが、すぐに炭治郎の横に座って重湯を食べさせる。
「ありがとう、カナヲ」
炭治郎が笑って告げると、カナヲは顔を紅くしつつも重湯を炭治郎に食べさせる。
「さ、俺たちは戻ろう」
「はぁい」
その光景に目を細めつつも、カナヲの気持ちが分かったきよたちを連れて暁歩は病室を後にし、炭治郎とカナヲを二人きりにさせる。
炭治郎が目覚めたことと、カナヲの本心に気付いたこと。喜ばしいことが続いて、今日は嬉しい日だ。暁歩はその嬉しい気持ちを抱きながら、きよたちを引き連れて一階へと下りる。
―――――
ちなみに、アオイから全力の尻叩きを喰らった伊之助は、流石に効いたのか数日の間大人しくなった。
≪おまけ≫
伊之助の身体構造が普通とは違うということで、蝶屋敷の間ではちょっとした議論になっていた。本人曰く内臓の位置をずらしたり関節を自分で外したりできるらしいが、それは誰にでもできることではない。
きよたちはそんな伊之助の状態が不思議でならず、暁歩としのぶ、アオイもどうしてだろうかと考えたが、その末にしのぶが。
「ああ、そう言えば」
自室から動物の図鑑を持ってきた。
広げるとそこには、『ミツアナグマ』という外国の動物が載っていた。獅子に噛まれても平気なほど皮膚が分厚く、さらに毒が効かないため毒蛇も食べてしまうという。
「伊之助くんはこれと同じなんじゃないですかね?」
「へ~!」
「すごーい!」
しのぶの言葉と見せた図鑑にきよたちは素直に感心する。
だが、暁歩とアオイは同時にこう思った。
(投げたな・・・)