ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
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●前話:
メタル・ギガ・シャークトパス 襲来!
Q.敵を前に逃げるのは蜥蜴人的にオッケーなの?
A.時と場合とその場のテンションに依る。戦の中で死ぬのも誉れだが、何としてでも生き残るのもまた誉れなので。つまり状況判断だ!
1.初めての託宣―― “ささやき”
半竜娘たち一党が“呪われた船の墓場”へ行くのを見送った幼竜娘三姉妹。
海蝕洞穴で待っていろと言われていたが、言いつけに反して急に荷造りをし始めた。
その自分たちの荷物に加えて、半竜娘たちの装備やもともと彼女たちのマジックバッグに入れていた荷物(既に荷造り済み)も合わせれば、相当な大荷物だ。
「あらン? どこに行くのかしら。それにそんな大荷物、持ってけないでしょう?」
「
「迎え、ねえ? あの子たちが戻ってくるにはまだ早いと思うわよー。さっき出てったばっかりだし?」
「いえ、お
そのために上質な触媒を大盤振る舞いしたが、別に構わないだろう。
海岸の村に預けている麒麟竜馬に伝言して、独立懸架式突撃装甲馬車を曳いて迎えに来てもらうための必要経費だ。
精霊界から呼び出して伝言を頼み、さらには【
「でもいったいどこ行くのよー? アンタたちのこと、世話するように言われてるんだけど」
「
「ふんふんふん? 託宣なら仕方ないわねー。まー、大方、帰り道の
鰓人の海司教が奉じる蛸神もまた、頻繁に託宣を下す神だからだ(託宣の内容が分かるとは言ってない)。
「そーです! おとどけです!」 「このままだとすっぱだかなので!」 「おとめのピンチ!」
確かに半竜娘たちはみんな
そこから転移するとなれば、服にも事欠くことになるだろう。
いや、遭難に備えて冒険者セットと着替えくらいは持っていっていたかもしれないが、荷物が無事とも限らない。あるいは、財宝を回収するために着替えを投棄していたりするかもしれない。
「んー、子供だけだと危なくないかしら。でも私たち鰓人は水からあんまり離れられないし……」
「しんぱいごむよう!」 「どーせうちのお
爆走する装甲馬車を襲おうとする命知らずがどれほどいるだろうか、ということだ。
それにもし襲われても、アシの関係で逃げ切ることは容易いだろう。
いざとなれば、幼竜娘三姉妹は、形代人形に宿った半竜娘の分身の残影と同期して、幾らかの術を使うこともできる。
「それならいいのかしらァ。でも気をつけなさいよォ」
「はい!」 「きをつけます!」 「いのちだいじに!」
元気にピョンピョン跳ねて返事をする幼竜娘三姉妹。
同じ鱗のものとして、鰓人の海司教も慈しみに満ちた表情でその子らを見ている。
「さっき言ってた託宣で示された場所までは、結構遠いでしょ。うまく合流できるの? まあ託宣だから誤ったりしないのでしょうけれど」
確かに水中呼吸の指輪や各種ポーションの効果時間を考えると、半竜娘たちが探索中に転移するとしても、それは今から数時間後から半日後程度の間の出来事のはず。
馬車での移動に日数がかかるため、今から出発したところで、転移で脱出してすぐの半竜娘たちとすぐに合流できるわけでもなし。転移したてで合流できるならまだしも、そうでなければ、数日のうちに街までたどり着いた半竜娘たちがすでに物資を調達済みという可能性もある。それなら、わざわざ危険を冒して幼竜娘三姉妹だけで移動したりせずに、ここで待っていた方が行き違いになったりしないから良いはず。
それこそ、半竜娘たちが、
「たぶん?」 「
「そうなの……。なら心配いらないのかしらね」
というわけでその後、幼竜娘三姉妹は、海の上を【水歩】の術で渡ってきた麒麟竜馬が曳いてきた独立懸架式突撃装甲馬車に荷物を詰め込んで、
目指すは北方―― 『死の迷宮』。
<『1.Q.タイムテーブルどーなってるん? A.
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2.御前会議にて剣の乙女曰く「ともあれゴブリンは滅ぶべきである」との
御前会議。
若き金獅子の国王が各界有力者・諸侯貴族を招集して開催する会議である。
この時期であれば、王は巡回宮廷のキャラバンを率いて国内の直轄領へ徴税に行ったり、不穏な領地へ査察に赴いたりしているのだが、昨年と今年は事情が異なっている。
いや、巡回宮廷自体は、例年どおりに運行されている。
ただ、そこに国王が常には乗っていないというだけだ。
「本当に、転移門を献上してくれた冒険者、そして復活させた賢者には感謝だな」
「ええ、誠に」
水の街で献上された古代の遺物『転移門の鏡』により、国王はフットワーク軽く国内各地を行き来できるようになっている。
巡回宮廷と王城と行き来して執務をこなせるので、例年よりも決裁が滞らず、案件の進捗も早いし、王城で安心して眠れるため疲労困憊ということもない。
権威の関係で巡回宮廷はしばらく維持しなければならないだろうが(分かりやすく煌びやかな馬車で行幸することもまた権威向上と治安維持には必要なのだ)、一瞬で宮廷に戻ってこられるというのはありがたい。
「宮廷魔術師の方では、『転移門』の再現はできそうか」
「研究を進めておりますが、すぐには難しいでしょうな―― 現状の予算規模のままですと」
「ふん。振れば黄金が湧く小槌でもあれば良いのだがな」
「まったくですな」
国王の下問に、褐色肌人の宮廷魔術師*4が答えを返す。
成果を求めるならばもっと予算が必要だと肩を竦めたが、それはどこの部署も同じことだ。
「では冒険者の方はどうか、そういった太古の遺物をギルドが手に入れたりはしていないか」
「そう何度もそんな出物があるもンかよ」
「それもそうか」
金等級の黒毛並みの犬の獣人*5が鼻を鳴らす。
確かにそうだな、と国王も引き下がる。だが、もしも同じような魔道具が出土すれば、大枚はたいて買い取るつもりでいる。―― 魔神王の軍勢との戦争の影響で荒れている国内情勢が落ち着けば、未開領域への探索・開拓をこれまで以上に奨励したいところだ。
「いっそのこと、余がドラゴンのねぐらでも荒らしてくるか。黄金だけではなく、転移の魔道具も手に入るやもしれん」
「陛下、おやめください。―― 絶対に、おやめください」
赤毛の枢機卿が真顔で止めた。
続けて銀甲冑の将軍が発言する。
「あっちこっちと出歩かれては、近衛も手が足りない。巡回宮廷と、王宮、そして竜の巣までもとなれば、護衛に出す人が足りぬ。貴族子弟の枠を、叩き上げに譲れば幾分マシになろうが」
「そう簡単にはいかぬ」
「ああ、分かっているとも。今あるものでやるしかない。ゆえにきちんと貴族子弟にも訓練をつけて叩き上げている」
銀甲冑を着込んだ叩き上げの近衛の将軍*6が、真面目くさった顔で言う。
彼の施す苛烈な訓練に音を上げた貴族子弟が実家に泣きつき、苦情が国王のところに上がってくることもあるが、そんなものは黙殺している―― どころか逆に叱責している。
武力をもって庇護し、支配するべき貴族が、実戦でもない訓練で音を上げるとは何事か、と。
「兵を食わせるにも金がかかる。さて、流通の方はどうだ?」
「概ねは異状ないかと。ただ――」
「ただ?」
話を振られたのは、若き
軽銀という新金属を目玉に引っ提げて勢力を伸ばしている商会の会頭で、どこぞの伯爵家の御令嬢だった敏腕だ。
最近では、異界の悪魔が練った新技術の解析を、お抱えの
「非常に広範な地域で、小鬼の群れが確認されております。襲われる馬車や行商はあとを絶たないとか。現在、その掃討にあたり
「であれば問題ないのではないか?」
「―― そこから先は
国王の言葉を引き取ったのは、聖なる衣に肉感的な肢体を覆わせ、目隠しをした女性の聖職者―― 水の街の至高神の神殿を治める
「神殿とも関係があるのか? この件は」
問うた国王に、剣の乙女は微笑んだ。その下に小鬼への怯えを隠して。
「ええ。いつものように“たかが小鬼”とは言わせませんわ。“異教に教化された小鬼”なのですから」
「ほう。それは剣呑だな」
ピクリと眉を動かす国王。
「街道沿いに小鬼と狼が増えているということは、軍の巡察隊でも把握している。しかし、異教徒ということは、奴らは組織化され、全て繋がっているということか?」
銀甲冑の近衛が難しい顔をして腕を組む。
単発の小鬼がめいめいに襲っているのと、ある程度組織化された小鬼の部隊が散兵となって流通を脅かしているのでは、全く脅威度の前提が異なってくる。
「はい、
剣の乙女が、頷いた。
「その狙いにも見当がついているのか?」
国王が問う。
「混沌を振りまき、世を乱すことでしょう」
「それは分かっている」
秩序は混沌に負け続けている、という言説もある。世は乱れるものであり、秩序が長引いたためしはない。もちろん、完全に秩序の灯が途絶えたこともないのだが。
「小鬼の掃討に
「ええ、いつものことですわね」
銀甲冑の騎士の理論に、剣の乙女はやや辛辣に返す。
彼女とて軍の理屈は分からないではないが、それと納得は別だ。
「冒険者はもう動いてるってんなら、オレからは何もねえな」
金等級の獣人が背もたれに背を押し付けて伸びをした。すでに手配済みであるなら、問題はないだろう。
「銀等級に動いていただいていますから」
「なら問題ねえだろう。在野最上級でゴブリン退治、となれば、まあ、確かそんな二つ名の奴がいたはずだ」
「ええ。その彼ですわ」
心なしか誇らしげに言った剣の乙女に、会議に参加した男たちが一瞬見惚れる。
随分と、溌溂とした表情をするようになったものだと、国王は思った。
しかし次の瞬間、剣の乙女が眉をハの字にして愁えた。
「異教に教化された小鬼の軍勢の浸透―― おそらくは北に拠点があると、その冒険者は。……確か、天の火石が落ちたのは、北の霊峰でしたわね? 小鬼を囮にして、そこで何か企みがあるのやも。さらに言えば……混沌の企みといえば、姫を生贄にするものと相場は決まっていますが……」
「ああ、そういえば、宮廷占い師どもの占いでは、“天の火石が、極星の伴星を弾き飛ばす”というものがありましたな。解釈に迷っていたものですが、思い出しました……。あるいは極星は陛下で、伴星は王妹殿下……その暗示やもしれませぬ」
剣の乙女と宮廷魔術師の言葉を受けて、さらに、国王の傍に控えていた銀髪の侍女が動いた。
銀髪侍女は、何やら国王に耳打ちをする。
「……なに? ふむ、そうか。―― どうやら、うちの妹に何やら入れ知恵する輩がいるようだ」
―― “国王陛下は王妹殿下の歳には死の迷宮で剣を振るってらっしゃった”
―― “しかし昨今、冒険者の志をお忘れのようだ、どうにも足元が見えてらっしゃらない”
―― “王妹殿下は城の中に閉じ込められておかわいそうに”
―― “少し冒険に出るくらいは許されてしかるべきだ”
―― “やはり王族たるもの、下々の生活を肌で感じてこそ”
―― “そうだ、王妹殿下が、国王陛下に昨今の冒険者の姿というものをお伝えになるのもいいかもしれませぬなあ”
―― “我らも昔は護衛の目を盗んで城下に繰り出したものです。いやあ懐かしい”
それぞれは他愛無い雑談による
「不届き者らの成敗は別の沙汰にするとして。あるいは確かに、妹が狙われている可能性はある。……それに妹のあの気性だ、このまま押さえつけても目を盗んで出奔する可能性は否めぬ。城内に手が伸びている恐れがあるのであれば、手引きも容易かろうからなおさらだ」
困ったものだ、と眉間を揉む金獅子の国王。
さてどうしたものか、と考える国王の脳裏に、一つのプランが閃いた。
―― いっそのこと、お膳立てしてはどうか。こちらのコントロールできる範囲で、妹の鬱憤を晴らさせてやるのは……。
「剣の乙女よ。その小鬼殺しの銀等級の冒険者だが、護衛を依頼することはできるか」
<『2.
>銀髪侍女「もちろん密偵部隊も影から守るけどね。それに彼の一党には、おあつらえ向きに王妹殿下に瓜二つの神官がいるというじゃないか」』 了>
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3.知らぬは当人ばかりなり―― “えいしょう”
小鬼殺し一党にもたらされた依頼は、一党の眉を顰めさせるに十分なものだった。
「“やんごとなきお方”の護衛、のう」
「小鬼を追って街道を行くっていうのに? このあいだも多勢に無勢で
「はっはっは、御上に下々のものが振り回されるのは、いつの世でもどの種族でも変わりませぬなあ」
順に鉱人道士、妖精弓手、蜥蜴僧侶の発言である。
宿坊を借りている王都の至高神神殿で、密偵の銀髪侍女が持ってきた案件を聞いての反応だ。
「ええと。でも、その方が狙われているのですよね? ゴブリンに」
「そういうこと。まあ、あの娘は知らないけどね。……それにしても本当に瓜二つだね。からだつきを除いて、だけど」
「??」
城からの依頼を携えてやってきた銀髪侍女が言うには、小鬼の狙いが王妹殿下である可能性があるため、それを逆手に取って、囮の馬車を出すのだという。
その護衛を、小鬼殺し一党に依頼したいということだ。
もちろん、影から護衛はつく。当然だ。
「俺は構わん。囮として扱うが、良いのだな?」
「好きにやっちゃっていいよー。王妹殿下は、“冒険者のリアル”をお求めだ」
「そうか」
小鬼殺しの念押しに、銀髪侍女は快く頷いた。
「あと、そこの神官ちゃんと、うちの殿下は、顔がそっくりでね。多分“入れ替わってみたい!”っておっしゃると思うから、受け入れてくれると助かるな。殿下の神官服はこっちで“こんなこともあろうかと”って用意しておくけど」
「そうか」
小鬼殺しは何でもない風に頷いたが、女神官と妖精弓手は、まだ見ぬ王妹殿下の受難を想って、祈りを捧げ、あるいは天を仰いだ。
王妹殿下をゴブリン汁まみれにしても赦されるのだろうか……。
“好きにやっていい”と言質はとっているが……。
「そこそこの馬車を用立てて、北の霊峰の麓、死の迷宮まで視察に、という体裁だね。お忍びの
混沌との戦乱が続く世の中で、王族が苦難を知らないのはどうかと思っているのだろう、銀髪侍女の口調は厳しい。
何せ侍女の比較対象は、死の迷宮に挑んだ
ああ、哀れここに王妹殿下の受難は決定したのだった。
<『3.姫と市井の娘の入れ替わりは定番だよね!(女神官ちゃんにドレス(胸が余る)を着せたかっただけとも言う)』 了>
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4.
北への道中では狙い通りに王妹殿下の乗る馬車が
道中的確に襲われたということは、王宮側に混沌と通じている輩がのさばっている証左でもある。大掃除が必要だろう。
さて、道中で得た情報から、少なくない数の行商人や冒険者が、死の迷宮の跡地を巣穴にしたゴブリンたちに引きずり込まれていったことが分かっている。
さらには迷宮を囲む街にも多くの小鬼が
かつて死の迷宮に挑む冒険者でにぎわっていたのも、今は昔。ここは打ち捨てられた城砦で、いまは小鬼の棲家だ。
これ以上は王妹殿下を連れて進むのは無理だろう。
……もともとこの迷宮街を管理していた兵士たちは、十重二十重に押し寄せたのであろう小鬼たちによって、既に殺されてしまっているようだ。
その証拠に、街の門扉には、兵士の生首と、その血で書かれたらしき『おれらのマチ』の旗が掲げられている。
「“
「無論だ。小鬼を生かしておく理由はない」
自慢の長耳で、うんざりするほど多くの小鬼の気配を察した妖精弓手が、辟易した顔で頭目である
「さて、しかしどうしますかな」
「忍び込む。まずは迷宮の中で捕虜の救出。同時に、第4層に居るであろう首魁の討伐。そして順に各階層を片付け、地上では潜みながら闇討ちだ」
「籠城を気取る兵には、それがよぉございましょうな。籠城には増援がつきものでありますが、きゃつばらめがアテにしているであろう、最奥からの魔物の増援が湧かぬように、まずは奥から潰すのが上策かと」
いつものように蜥蜴僧侶と小鬼殺しが算段を立てる。
蜥蜴僧侶の手には、かつてこの迷宮に挑戦していた剣の乙女が作った地図の写しがあった。
ゴブリンとはいえ、今回の相手は邪教徒。捕虜、いや、生贄を使っての企み事などそう多くはない。大方、魔神の類を召喚するつもりなのであろう。
「あるいは捕虜の救出後は、迷宮の中は水に沈めてもいいが――」
「水攻めはダメー」
腰の雑嚢にある2本の転移の巻物を確かめつつ言った小鬼殺しに、妖精弓手は手を×の字に交差させて舌を出した。
「―― だそうだ。最終手段だな」
「使わないとは言わないんですよね」
女神官が、“仕方ない人”という風にため息をついた。
すでにサイズが合わないドレスからは着替えている。戻ってきた鎖帷子の重みが頼もしい。
「逃散するゴブリンたちが出れば、その掃討は、影の者らで請け負ってくれるそうだ」
「それは重畳」
シュッと短く息を吐いた蜥蜴僧侶が、恐ろし気に頬を裂く笑みを見せた。
「拙僧もダンジョンは初めてでしてな、少し心が躍っておるところですぞ」
「俺も初めてだが……ゴブリンが出るならいつもの巣穴と変わるまい。油断せずに行くぞ」
<『4.ゴブリンどもは皆殺しだ』 了>
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5.適合せよ―― *いしのなかにいる*
半竜娘が、転移門に流れ込む深海の渦の中、
転移門に吸い込まれるその瞬間に、半竜娘は猛烈な危機を感じ取り、TS圃人斥候のマジックバッグに収納されていた、青白く輝く宝玉を取り出していた。
そして、その宝玉の
案の定、そして最悪なことに、空間を入れ替えるようにして一党の全員が転移した先は、どことも知れぬ岩盤の中であったようだ。
真っ暗な、何も見えない視界で、半竜娘はそう直感した。
何かが強烈に脳裏に焼き付くメッセージを送ってきている―― *いしのなかにいる*と!
このままでは死んでしまう!
だが、幸いなことに、半竜娘だけは、青白く輝く宝玉の影響により、岩盤と生きたまま同化することに成功していた。
しかし急なことであり、この宝玉の力の研究も不十分だったので、永遠に同化しておくことはできないだろう。
おそらくは、動けて一手。今はまだ、幽冥の空間から現れつつある段階だ。
その一手のうちに、周囲の仲間は完全に転移し終わり、そして完全に死んでしまうだろう。*8
半竜娘自身は青白く輝く宝玉の力により完全に岩盤の中に現れきる直後くらいまでの一手は動けるが、その次の一手は出すことができず、同化状態が切れて、岩盤と混ざったまま死に絶えるであろう。
邪魔なのは周囲の岩盤である。
これを退かす必要がある。
あと一手のうちに。
【
岩盤であれば、土の精霊も豊富であろうから、発動に支障はないだろう。
周囲の岩盤を、精霊の不可思議な力で退かすことで、自身と仲間の肉体や持ち物のみを残して、空間をあけることができるはずだ。
問題は。
半竜娘は今の時点では単独で【隧道】の術を使えず。
土の精霊を【使役】の術で呼び出して使わせるしかないことであろう。
―― 一手足りない!
土の精霊を呼び出している時間はない。
呼び出して、術を使わせる―― 二手かかる!
そのあいだに、仲間たちは岩盤の中に存在が確定して死んでしまう!
つまり、半竜娘自身が、いま、この瞬間、【
極限の集中で圧縮された時間の中で、もどかしいほどゆっくりと、実時間では一瞬で、半竜娘が祝詞を紡ぐ。
「『働け働けノームども! 楽しい仕事の後になら、ミルクとクッキー待ってるぞ』――!!」
絶対に使えると、使わなければならないと、そう確信し、半竜娘は自分に言い聞かせた。
「岩よ、退けぇええええっ! 【
果たして。
その祈りは届いた!*9
周りの岩盤中から集まった土の精霊が、半竜娘たちが現れつつあった岩盤を穿ち、拡張し、空間をあけたのだ!!
「お、おお、やった、やったのじゃ!! これで助か――ガバボッ!?」
そして、次の瞬間には、転移門から次から次にと現れる深海の魔水によって、上へ上へと、押し流されていった。
【
<『5.ちょうどそのとき、地下4階では、小鬼邪神官を依り代に顕現した≪
半竜娘ちゃんの転移地点は、死の迷宮地下10階の[
===
◆王妹殿下について
原作では『姫は攫われるもの』という概念から逃れられなかった御方。
当作品では、
・転移門の鏡がある影響で国王陛下の疲労が少ないことから判断力にデバフがない、
・王宮をあまり空けないので妹の周囲のきな臭い雰囲気に銀髪侍女が気付く、
といったことから、家出→誘拐ではなく、囮として護衛をつけて外に出すという流れに改変。
===
原作小説14巻(2021/3/12発売)の試し読みがそろそろ掲載されるかもしれませんので皆さん要チェックどすえ。
===
感想や評価&コメをありがとうございます! すでにこれまでもたくさんの方から評価感想いただいていまして、まこと、まっこと、ありがたい限りです! 特に前回は多くの感想をいただき、うれしゅうございました!
次回は、迷宮の中に転移しちゃった半竜娘ちゃんたち(全裸・鱗肌)の様子からですかねー。
◆盤外の様子(イメージ)
GM「次のシナリオは、PC主観で前回の海底探査のラストの1秒後からです ^ ^ 」
PL1「は?」 PL2「え、全裸なんですけど」 PL3「消耗品の補充が……」 PL4「せめて経験点と成長点は使わせてくれません?」
GM「出現場所はダンジョンの一番奥でーす」
PLs「「「「 殺意高くね? 」」」」
GM「外まで行ければロリっ娘たちがいて、ギルマンのところに置いてきた道具類を用意してるので上手く合流してね~」