ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
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◆孤島のゴブリン事情
人が居るところにはゴブリンが居る……。それはよく知られた経験則である。
つまり “奇跡の島” にも、ゴブリンは居る。太古の昔に魔術師が召喚したのか、偶然転移魔法陣から迷い込んだのか、緑の月から落ちて来たのか、最近の隊商の荷物に紛れてやってきたのか。それは当のゴブリンたちにもわからない。
熱帯の気候では森の恵みは潤沢で、略奪の必要は薄いけれど、目の前にあれば奪いたくなるのはゴブリンの習い性。
とはいえ、島はそれほど大きくはない。インドミナスが指揮をとってやれば、ゴブリンを祖竜たちのおやつにしてやることなど簡単だ。
強者に
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●前話
インドミナス姉妹は半竜娘の上位互換だが、チームワークでなんとか勝って和解したぞ!
インドミナス姉妹は混沌勢力というわけでもなく、知能も高かったので、和解の余地があったのだ。
半竜娘「命なきアンデッドには治癒系術によるダイレクトアタック(※闇人リッチー戦)。命ある者には死霊術【致命】からの斬撃・刺突による消耗死(※インドミナス戦)。うむうむ、ボス相手の戦術もいい感じに固まってきたのじゃ」
GM「(おっ。じゃあ次は血が流れずアンデッドでもないもの……ゴーレム系を出さないとかな?)」
1.恐竜が嫌いな男はいません!(極論)
「……陛下」
「なんだ? 枢機卿。今は忙しいのだが」
王の執務室。
今日も忙しく、いや、いつも以上に忙しく政務をこなしていた。
返事のとおり、見ればわかる。
「自業自得でございましょう。数日、城を空けてどちらにいらしていたのです?」
「ああ。まあ。なに。ちょっとな」
「…………」
「……あー」
「……陛下」
赤毛の枢機卿は責めるようにジト目で若き金獅子の国王を睨んだ。
「はあ、陛下。ネタは上がっているのです。軽銀商会の女会頭殿とお出かけになりましたね?」
「う、うむ。蜥蜴人との友好の材料になる遺跡を再生させたというのでな。視察だ、視察」
それはいい。そろそろ身を固めてもらわなくては、王国の血統が危ういし。
現状、目立って金獅子の国王に近しい女人と言えば、銀髪の侍女に、剣の乙女、女商人くらいだろうか。妹姫殿下は血縁なので除外。
まあ、
権謀術数込みで近寄る貴族令嬢など数え切れぬほど、ではあるけれども。
それも踏まえてもろもろを考慮しても、正妃として最有力なのは蜂蜜色の髪を持つ女商人だろう。
特にその内政手腕は目を見張るものがあり、政務補佐についても十分にこなせることは既に実績で証明済み。
血筋も卑しからず、国内の貴族たちを納得させるに足るだろう。
未来の国母として申し分ない。
「陛下にしては珍しいことに、彼女とは話も合うようですし。彼女と視察に出たことを咎めているのではありません」
「そうか」
「そうです」
むしろサッサとくっ付いてくれれば
……という思いはおくびにも出さない赤毛の枢機卿。
何せ色恋というものは、横から他人が口を出したらこじれるものなので。
「であれば、他に何かあったか?」
「とぼけるのも大概になさいませ、陛下」
「……はて?」
「―――― 連れ帰ってきた竜のことですよ。陛下」
赤毛の枢機卿は、溜息をこらえて告げた。
脳裏に浮かぶのは、この主君が満面の笑みとともに連れ帰ってきた、世にも恐ろしい竜。
蜥蜴人が伝える
それは、最新にして最強の祖竜である。
その名は――“
「ああ! 余の
どうやらこの国王陛下。
きっちりこの、魔神将にも勝てるくらいに凶悪なモンスターを口説き落としてきたらしい。
赤毛の枢機卿は、頭痛をこらえるようにして眉間に手をやり、執務室の天井を見上げた。
「……宝物庫から何やらいろいろと持ち出したかと思えば、そのためでしたか……」
確か宝物庫の目録からは、『魔力を封じた宝珠』と『【
「宝物を使うにあたって所定の手続きは踏んでいる、問題ないはずだ。蜥蜴人部族との交渉に、あれに乗って連れていけばきっと優位に――」
「……
「ぐっ。だ、だが、かっこいいだろう!!?」
かっこいいのは同意する。
だが金勘定は別だ。
ついでだから大喰らいの使い魔の食費で歳費が足りなくなれば、軽銀商会の女会頭にでも泣きついてそのままなし崩しに仲を深めればいいのだ。……などと赤毛の枢機卿が考えたのかどうか。
それは分からないが、今後、王都のパレードでは世にも恐ろしい凶悪な竜に跨る金獅子の国王陛下の姿が見られるようになったとか。
<『“奇跡の島” であったかもしれないやりとり:
インドミナス妹「お姉ちゃん! わたし、お嫁に行きます!」
インドミナス姉「嫁ではなく使い魔だろう。ヒトの使い魔になるとは竜の面汚しめ」
インドミナス妹「だって三食おやつに昼寝付きだっていうし~」
インドミナス姉「ふん。行け行け。すぐに私も呪縛を解いて世界征服に打って出るさ」
インドミナス妹「会いに来てくれるの待ってるねー」
インドミナス姉「その王国を橋頭堡にしてやるから、首を洗って待っているがいいのだ。ふんっ」
1.天然妹とツンデレ姉』 了>*1
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2.銀等級冒険者【辺境最大】―― 半竜娘!
「というわけで、昇級です♪」
辺境の街の冒険者ギルドで、受付嬢は半竜娘に笑顔を向け、
応接室のテーブルの上、文盆の上には、白銀に輝く冒険者証。
「うむ。継続的に報告書を上げておった “奇跡の島” の件が評価されたのじゃな?」
ソファが巨躯に耐えられないため床に座った半竜娘が確認する。
「そうなります。銀等級へ上がるには
「なるほどのう。それ自体が昇格試験の代わりというわけじゃな」
「はい、そうなります。また恐るべき竜の復活が、やんごとなき方に大変評価されたとかいう話も入ってきています」
「ほーう。騎竜にでもしたのかの? まあよい。こちらとしては手前の出身部族に、件の島についての便宜を図ってもらえばそれで十分じゃ」
「その件は確かに履行されていると聞いています」
「であれば良いのじゃ! では
大きな爪で器用に冒険者証をつまみ、普通よりも長い鎖に通すとそれを首から下げた。
「これで貴女は在野最上級の冒険者です。より一層の貢献と、高位冒険者として相応の振る舞いを期待します」
「あい分かった」
「まあそこまで心配していませんけれどね」
街の常識を学んできた半竜娘には、受付嬢もすっかり信を置いている。
2年と少し前に初めて街に来て、いきなり古龍一族を呼び寄せて虐殺し始めた時よりは格段の進歩だ。
……いや実際、何をどうすれば
「(いくら “世界の命運はダイス目一つ” とはいえ、流石に限度がありますよう)」
受付嬢は当時の苦労を思い出して目の端にほろりと涙を滲ませた。
本当に大変だったのだ、あのときは……。
それはさておき。
「エルフの弓士さんはまた昇級辞退されるということでしたが、他の方はなんとおっしゃってましたか?」
「ふむ。身軽な方が良いというておる
森人探検家はエルフらしい気の長さもあって、2年やそこらで高位冒険者の仲間入りというのも気が引けるというか、
まあ仕掛人たちとの付き合いもあるから高位冒険者としての審査に落ちるだろうと踏んでいるのもあるが。
故郷に錦を飾りたいTS圃人斥候は、昇級を断る理由もなし。
名声欲もあるが、みだりに忍びの技を広めるのは法度に触れるため、秘剣の冴えを大っぴらにアピールできないのが悩みどころだとか。
それはもっと修練して、刃すら見せぬ真の忍びの技に昇華して、どうぞ。
懸念と言えば、性転換しての再登録がバレてペナルティを食らわないかどうかだが、次の次の銅等級への昇格時まではおそらく心配いらないだろう。
文庫神官も特に昇級を断る理由はない。
冒険者としての信用は、今後の彼女の知的好奇心を満たすための探索行にも役立つので望むところ。
配分としては、早く半竜娘と同じ階級に追いついて、タグをお揃いにしたい、という動機の方が大きいかもしれないが。
「ではあとでお2人をお呼びいただければと思います」
「あいわかった」
……というわけで、この冬の冒険の評価結果は以下のとおり。上々だ。
半竜娘は、銅→銀。
森人探検家は、紅玉で据え置き。
TS圃人斥候は、青玉→翠玉。
文庫神官は、翠玉→紅玉。
半竜娘が冒険者登録して3年目の晩春。15歳の青春。
彼女は、辺境で活動する冒険者としては最高位である、銀等級の冒険者となった。
異例の昇級速度である。
さて辺境の街の銀等級といえば、有名なのは
美丈夫にして魔物にとっての死神、単体最強の呼び声高い【辺境最強】の槍使い。
秀でたリーダシップによって一党を纏め上げる実力派、【辺境最高】の一党の頭目たる重戦士。
小鬼禍に苦しむ辺境の村々を救う
彼らをまとめて【辺境三勇士】と呼ぶこともある。
いずれも駆け出しのときから辺境の街で活躍する、地元の星だ。
そしてこの度、彼らと同じく辺境の街で冒険者登録して銀等級にまで上り詰めた者がもう一人加わった。
彼女こそ【辺境最大】の冒険者。
美しくも恐ろしい、巨躯の半竜の乙女。
紅一点の彼女を加えて、誰が呼んだか【辺境四天王】。
彼らと彼女の活躍は、やがて武勲の詩となり、人々の間に広まっていくのだった。
<『2.トロフィー【辺境四天王】獲得!』 了>
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3.宴じゃぁッッッ!!
「え。アンタ、銀等級になったの!?」
鈴が鳴るような美しい声が、ギルドの酒場に響いた。
麦酒のジョッキ樽を机に勢いよく置いた、声の主、妖精弓手。
彼女は酔いで赤い笹穂耳を上下させ、酒場のテーブルにずいっと身を乗り出した。
「おうそうじゃ! これを見よ!」
向かいに対するのは、銀の冒険者証を鈎爪に
自慢げに揺らす白銀片の反射に、妖精弓手は目を丸くした。
「はー、前も言った気がするけど。アンタ、生き急ぎすぎじゃない?」
森人の、それも
しかもこの蜥蜴人ハーフの少女は、定命から非定命へと足を踏み出しつつあるのだ。
本人から明言されたわけではないが、同じ非定命の者からすれば何となく分かる。
いまからそんなに生き急いでどうするのだろうか。
やがて竜になるというなら、もっと落ち着いた方が良いのではないだろうか。
例えば―― この娘の叔父の蜥蜴僧侶のように。
「うちの
なのでそう口に出した妖精弓手は、別の卓でチーズを美味そうに頬張る蜥蜴僧侶に流し目を送った。
それに気づいた蜥蜴僧侶が目をぐるりと廻したが―― あれはひょっとして蜥蜴人の文化ではウィンクに相当したりするのだろうか。
妖精弓手も苦笑して、何でもないという風にひらひらと手を動かす。
「落ち着いてなど居られぬよ。竜になる進化の道は、常に後ろへ後ろへと流れていく流砂のようなもの。立ち止まることなど許されぬのじゃ」
現状維持すら進歩が必要。
それが生態系の理というもの。
怠惰に
ゆえに生存のためにも精進あるのみ。
まあ、未知の超エネルギーと次元渡りの
飲食不要にして、成長限界が取り払われた彼女は、ただそこに在るだけで存在の強度を高めていくステージに片足を突っ込んでいる。
生きているだけで強くなり続ける……竜という存在の最低限の条件が、ソレである。
「叔父貴殿だとて繕ってはおるが、その根底は克己の求道者。闘争を求めるただ一匹の修羅よ。知っておろう?」
「まあねー。同じ一党だしー?」
半竜娘が冒険者登録して丸二年と少しということは、妖精弓手と蜥蜴僧侶(ついでに鉱人道士も)が出会ってからもそのくらい経ったということだ。
2000年という歳月に比べれば些細なものだが、決して短いというわけではない。
戦における蜥蜴僧侶の暴虐も、その威力も、ときに捨て鉢にすら見える信仰混じりの闘争心も知っている。
「アンタもそうだけど、真面目なとこは血筋なのかしらねー」
くぴくぴとジョッキ樽から麦酒を干す妖精弓手は、離れた席に座るいかにも蜥蜴顔の蜥蜴僧侶と、目の前の只人の美少女のようにしか見えない半竜娘の顔を見比べて、その生命の神秘に首をひねる。
これが血縁? 本当に?
「なんだなんだ、お前、
ちょうど半竜娘が自分の酒杯を干したところに、がばりと肩を組んできたのは、赤ら顔の女騎士だ。
だばーっと手に持った
彼女がやってきた方を見れば、額に手をやる重戦士と、苦笑するその一党の姿があった。まあこれもいつものことだ。
「おう、光栄じゃ。聖騎士殿!」
「うむうむ。神はきちんと見てらっしゃるのだぞ。恥じぬような行いをせねばな!」
「おう、手前に恥じるようなことは一つもないとも!
驚くべき勢いで杯が干されていく。
「うむうむ。天網恢恢疎にして漏らさず、悪事はいずれ露見するもの。至高神の御名に懸けて、私はなあ、聖騎士としてなあ、何かやらかしたらやつをなあ、たたっきってやるからなあ」
「おう、実際手っ取り早く敵手を集めるために悪事に身を染める同胞も居ると聞くのじゃ」
「うむうむ。それはいいな、遠慮呵責なく斬れる。いや、うむ、いかん、いかんぞ? そもそも悪いことをしては」
「はーいはい、コイツが邪魔したな」
だんだん
目の据わった女騎士の手を肩に回させると、支えるように立たせて上階の部屋へ放り込むべく歩き出した。
女騎士は何事か抗議しているようだが、言葉はまるで意味をなしていない……。
これで秘剣使いの凄腕騎士なのだから世の中わからないものだ。
なお妖精弓手は既に潰れて久しい。
酒に強いわけでもないのに二人と同じペースで飲むから……。
「おめで とう、ね」
女騎士が退いたところにすっと座ったのは、肉感的な肢体の魔女だ。
半竜娘にとっては、辺境の街に来た時に快く装備を貸してくれた恩人で、さらに下宿までさせてくれた魔術の共同研究者でもある。
「ふふん。大家どのにも等級が追い付いたのじゃよ!」
「あ ら。そしたら、もう、教えること は、ないかし ら?」
「あ、いや、いや、いや。そんなことはないのじゃ、まだまだ教えてほしいことはあるのじゃよ?」
ウィッチの
というより、魔女はそのウィッチ界隈で半竜娘の後見人と見做されているので、中途半端に放り出すなんてことはするはずもなく、つまりこれは紛れもなく冗談の類だ。
……中途半端に放り出した半竜娘が何をしでかすか分からないので恐ろしすぎるということもある。
そのとき後ろ指をさされるのは、後見人だった魔女だって含まれるのだから。
「……そ、ね。この間の
「あー。その節は無事に収めていただき、まことに感謝なのじゃ」
……サバトで何があったのやら知らないが。
どんどんと頭が上がらなくなっていっているようだった。
「また、今度 火吹き山の図書館と、エステに、連れて行って、くれれば、それで いいわ、よ?」
「あい分かったのじゃ。その程度であればお安い御用なのじゃ!」
埋め合わせも決まって、二人の美女は、静かに酒杯を傾けた。
そこに注がれているのは、芳醇な香りの葡萄酒―― 地母神寺院の逸品である。
<『3.銀等級の乙女たち』 了>
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4.半竜娘は陰口が嫌い(特に混血にまつわるやつ)
晩春から初夏にかけて、地母神寺院では、早摘みの葡萄を使ってその年の豊穣を祈る奉納のお神酒を作ることになっている。
その祭事を取り仕切るのは、地母神寺院の褐色肌人の尼僧。
小鬼殺し一党の女神官の、孤児院での姉―― 当然血縁ではない―― にあたる。
半竜娘の契約精霊である蛟竜の水精霊との出会いは地母神寺院の葡萄園であり、その時にこの葡萄尼僧とも
「はぁあああああ???? あの尼僧殿が『小鬼との混血』じゃとかいう噂があるじゃとおおお????」
それでいま、祭事を前にした辺境の街に、妙な噂が流れていた。
それは、褐色肌人の葡萄尼僧が、小鬼との混血だという噂だ。
確かにそのような噂の素地はないとは言えない。
地母神寺院は小鬼によって凌辱された女性の大きな受け皿の一つだ。
それを理由に、地母神寺院の孤児にそのような目を向ける者がいるのは、残念で腹立たしいことながら一つの事実だ。
葡萄尼僧のような褐色肌人は東方の砂漠に住まう人々であって、西方辺境の人間にはなじみが薄いのもあり、特に開拓村のような田舎の人間ほど、そういった異物に敏感になって、排斥するような心理になることもあるだろう。
そして春は、春撒きの収穫まで村の備蓄が持たない開拓村から、食い扶持減らしも兼ねて雪の解けた街道を通って若者たちが街にやってきて冒険者になる時期でもある。
特に訓練場の設置もあって、今年は例年より新入りも多くなっており……頭数が多くなればどうしようもないやつの絶対数も必然増えるわけで。
そういった複数の事情が絡み合って、
だが、それが、地母神寺院の卸す葡萄酒の売れ行きに影響するほどとなれば、何らかの作為を疑わざるを得ない。
なにせ奇跡を授け、地域奉仕に精を出し、豊穣を約束する多くの儀式を司る地母神寺院は、西方辺境を開拓する要である。
また当然、小鬼をはじめとした混沌の犠牲者を受け入れる以上は、そのような低俗な悪評だって織り込み済みだ。
むしろそういった噂の防波堤になるのが、寺院の務めでもある。“守り、癒し、救え” 。地母神の中心教義は伊達で掲げているわけではない。
というかそもそも住民たちからの支持も滅茶苦茶に厚いので、それを上回って影響を与えるなどほぼ不可能なはずだった。
寺院神殿というのは、それだけ生活に密着しているものであるし、少しでも教養のある市民たちは地母神寺院が辺境に秩序をもたらす柱であることは承知している。
だがそれでも噂は燃え上がり、寺院の葡萄酒の売れ行きに影響が出るなどの実害が現れた。
事実無根であるにも関わらず。
「まあ、変に値が下がってるのは投機目的の面ではありがたいけどねぇ」
しみじみと腕組みしている森人探検家は、どうやら地母神寺院の葡萄酒の買い支えを指示したあとらしい。
だって別に酒の品質が下がったわけではないのだ。
腐る物でもなし、確実に値上がり……というか、下がった値が戻ることが分っているなら、ちょろい投機先だ。
「しかも地母神寺院に恩も売れるとなれば、買わない道理は何もない、っと」
「ふん! どっかの誰かの性悪な流言飛語に乗っかるようで気に入らんが、買い支えんともっと酷いことになるのじゃから、まあそれは良いのじゃ!」
それよりも、と半竜娘は、フシュウ……と呼気を漏らして、冒険者訓練場の地面に死屍累々と転がる―― 転がした新人どもを睥睨した。
冒険者ギルドで何やら地母神寺院に関わる陰口を叩いていた連中にヤキを―― いや、性根が真っ当になるように叩き直していたところだ。
「で? 誰から聞いたんじゃって?
寺院の褐色肌の尼僧殿が小鬼の混血ぅ?
ならこの国の宮廷魔術師も褐色肌人じゃが同じこと言う気かのう?」
半竜娘の重量級の尾が、倒れた新人たちのうちの1人の背を押さえるようにべしりと叩く。
確かこいつは、友達の友達から聞いた話、とかで、流言飛語の片棒を担いでいた新人だ。意図してか、あるいは意図せず噂していたのかは分からない。
だから半竜娘はそれを確かめようとしていた。噂の出所を辿って順にぶちのめしていけば、やがては黒幕に行き当たると信じて。
「手前に教えてくれんかのう。その噂をお主に聞かせてくれた友達とやらを。そこから順繰りに辿って、全部全部叩きのめ―― いや間違えた、矯正してやらねば気が済まんのじゃよ」
―――― 故郷で手前のことを混血じゃとか言ってきたやつらに、手前がそうして分からせてやったように、のう。
<『4.半竜娘に只人の心の機微は分からぬ。だが混血を蔑む言葉には人一倍敏感であった』 了>