ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
◆前話
古代陵墓群の浄化はハードワークだったが、極上の休暇をとったおかげでみんなタフに成長したぜ。
幼竜娘三姉妹(生後1年数か月。肉体は只人10歳児相当)と城塞竜(実年齢不明。精神は只人の5歳児程度に相当)の間で交わされた淡い想い……そして別れ……。
空飛ぶ絨毯で辿り着いた砂塵の国の都の街壁の外で、蟲人僧正さんと交流を深めよう。
そして
事件表で『乱入』を引いたから
前回は休息を終えて城塞竜と別れ、魔法の絨毯で砂塵の国の都の近くに飛んで来たら、蟲人の操る砂船の船団に引き留められ、その船団のトップであり
蟲人僧正さんは大の
西方辺境を有する王国の都で冬に行われたウィズボール優勝者決定戦の立役者にして、その優勝したチーム:蒼鱗ドラゴンズのエース選手である半竜娘ちゃんを見かけた彼が、彼女との交流を望むのは当然の成り行きでした。
もちろん半竜娘ちゃんたちからしても、≪死の迷宮≫ を踏破した蟲人僧正さんの話を聞きたかったというのもあります。この砂塵の国の情勢も知りたかったところですしね。
というわけで野外で宴会です。
砂船による円陣を組んで簡易の野営地に仕立て上げ、船に積んでいた猟果たる
そうすると通りがかる行商人や砂船がそれに気づいて、我も我もと加わってきました。
砂塵の国の人々はおおらかで、情熱的でもあるのです。
さらに都に行く者たちの一部だけでなく、どうも物見高い市民や滞在者が都から出てきてまで参加してきています。夜になって街門が閉められて戻れなくなることなどお構いなしです。
蟲人僧正さんからの情報によると、今、この砂塵の国は政情不安であるとか。そのため、市民も鬱憤晴らしを求めていたのではないかとのこと。
このように思った以上に
ウィズボールの草試合です。
今回の宴の “事の発端” であり縁結びのよすがとなったのは、ウィズボールでした。
となれば実際に半竜娘ちゃんを含むチームと戦いたいという声が上がるのは不可避ですよね。
サービス精神旺盛な半竜娘ちゃんはこれを快諾。
突発的に、篝火に照らされた砂地の上でウィズボールの草試合が開催されることになったのです。
対戦は、蟲人僧正さん率いる船団員のチームと、半竜娘ちゃん一党を中心とした王国チームです。
しかしそこで少し問題が。
「手前らの
半竜娘ちゃんの首から下がる “竜牙の首飾り” には、契約魔神である闇竜娘ちゃんが宿っていますが、流石にデーモンを衆人環視の中で披露するわけにも参りませんし、チームメンバーに数えることは出来ません。
【
折角の余興の草試合ですし、輪に加わる人数は多い方が盛り上がるでしょうからね。
え? ウィズボールは草試合でも負傷のリスクが大きいから危険ではないかって? それは問題ないのかって?
ははは、ご安心めされい。そこはきちんと考慮済みです。
最上級の竜司祭である半竜娘ちゃんと、同じく交易神の信仰を極めている蟲人僧正さんが居るんですから、即死でなければ何とでもなります。
安心して鉄球や金棒を投げ合って怪我していただいて構いませんことよ!(そういうことじゃない)
さて、というわけで5人しかいない半竜娘ちゃんチームは、自陣営の助っ人を募集するようです。
特に投手。
……文庫神官ちゃんは只人では? って思うでしょ。でもそれがね、あの子ね、
「手前は
「──── それなら俺に投げさせてくれ!! 是非とも頼む!!」
声を張り上げて前に出たのは、軍帽に革の外套を纏った男でした。
……密偵くんですね。水の街に拠点を置く
ご禁制の呪詛施術を用いて動かないはずの四肢を強化して動かしている
そんな彼は普通の人間相手に試合をしても無双状態になっちゃだけなのですが……今回はワンサイドゲームにはならなさそうです。
敵チームには六英雄の一人たる蟲人僧正さんがいますし、剛速球を受け止める味方のキャッチャーにはLv10冒険者たる半竜娘ちゃんが入ります。
彼ら彼女らと一緒にゲームをするなら、密偵くんがその呪詛強化された剛腕で鉄球を投げて、その常人離れした膂力を十全に発揮しても試合は成り立つでしょう。
「ウィズボール、レディ……プレイボール!!」 どこからか審判が現れ── 何処からともなく現れて正確で公平な審判としての役目を全うするナイスミドルの姿をした都市伝説的存在。一説には球戯神の化身とも── 試合が開始されます。
「え、いやおっさん何処から現れた!!?」 幾ら夜闇に篝火しかないとはいえ、TS圃人斥候は己の気配察知をすり抜けた審判のナイスミドルに驚愕をあらわにします。
まあ、そういうものですから気にしたら負けですよ?
さて、足場が砂地でも、酒が多少入っていても、ウィズボールの試合をするには支障ありません。
むしろそれもまた草試合の趣というものです。
投手の密偵くんは、捕手の半竜娘ちゃんの構えるミット目がけてに思いっきり投げ込んでいきます。大迫力の轟音を立ててミットに納まる鉄球に、応援の幼竜娘三姉妹も大興奮です。
対する蟲人船団のチームは、蟲特有の高分解能の視野でなんとか
溌溂として汗を散らす密偵くんはとても楽しそうです。眼窩に仕込まれた【蝙蝠の眼】により暗闇をものともしないこともあり、その制球は正確無比です。
そうこうしているうちにヒットを翼人形態の白梟使徒が空中キャッチし、攻守交替。
そして森人探検家がバントのあと走力を生かして出塁し、TS圃人斥候が盛り上がった観客に向けて愛想を振りまきつつ犠打で走者を進めさせ、文庫神官ちゃんが身体を張ってデッドボールを受けて出塁し、半竜娘ちゃんがクリーンナップとしての仕事して走者一掃して本塁に還します。
草魔球の試合は夜が更けるのに関わらず盛り上がりを続けます。
密偵くんも楽しそうですね。やはり彼にはウィズボールが似合います。
はっちゃけて実力をひけらかすのは
密偵くんも久々に他事を気にせず思いっきり
蟲人僧正さんにホームランされてもすぐに気を取り直して、「コールドゲームにならないならその方が良いってもんだな」などと嘯いてゲームを続けます。
密偵くんが高揚する要因のひとつとして、昨年のウィズボール優勝チームの大型助っ人だった半竜娘ちゃんとバッテリーを組むことに対するミーハーな気持ちも少しはあるのかもしれません。
まあ密偵くんの贔屓のチームが蒼鱗ドラゴンズかどうかは分かりませんが、エースたる半竜娘ちゃんに一定の敬意を払っては居るでしょう、きっと。
そして
やがてゲームセット。
さて、半竜娘ちゃんチームと蟲人船団チーム、どっちが勝ったかは──── 語るのは野暮ってもんでしょう。
それに後処理がありますからね。
草試合とはいえ、ウィズボールはウィズボール。
怪我人続出の死屍累々の有様です。
お決まりの乱闘もしっかり発生しましたし、むべなるかな。
幸いにして、その後、半竜娘ちゃんや蟲人僧正さんたち神官組が治療をして回ったため、
ちなみに審判のナイスミドルはいつの間にか消えていました。やはり都市伝説的存在……。
「……んー、審判殿もじゃが、ピッチャー殿も
そして投手を務めた密偵くんもまた、砂漠の夜の闇に消えていました。
しかし鋭敏な半竜娘ちゃんの感覚が、街の方へと遠ざかる密偵くんの気配と、それに並んで歩く強力な魔術師の気配を感じ取ります。迎えでしょうか?
距離近く並んで歩く二人の気配に何か納得すると、半竜娘ちゃんは蟲人僧正さんとの宴に戻ることにしたようです。
「ま、引き留める方が野暮ってもんじゃな」*3
▼△▼△▼
夜が明けました。
夜通し騒ぎ続けて途中で衛兵がやってきたのを無理やり宴に引き込んで酔い潰したりもしましたが、まだまだみんな元気です。
一流の冒険者は
「良い宴だったな」
「うむ、砂地に座り、輪になって獲物の肉を焙って酒を汲み交わして、時には殴り合う。故郷の宴を思い出したのじゃ」
なかなか蜥蜴人チックな宴だったので、半竜娘ちゃんも満足げです。
ついでに言えば、途中で宴を解散させようとしてきた衛兵たちの頭の中を、真言呪文【
とはいえ下っ端の衛兵なので、その確度はお察しではありますが。
蟲人僧正さんたちに別れを告げ、寝落ちしたままの幼竜娘三姉妹を背負って一行は砂塵の国の都へと向かうことにしました。
当初の目的どおり、砂塵の国の都を観光するつもりです。
半竜娘ちゃん一行が適当に荷物を畳んで、朝になって開いた街門へ行き、入市に当たって幾らかの小銭を衛兵に投げて── ついでに夜半に酔い潰した方の衛兵も物陰に投げ込んでおいた── 、やって来たるは砂塵の国の都であります。
「わあ、砂の匂いから、一気に水や人やスパイス、食べ物の匂いに変わったわね」
「朝飯の食えそうな屋台も出てるみてーだけど、見たことねー料理が多いな……」
森人探検家が
さてまずは宿を取って休むべきか、幼竜娘三姉妹を寝床に寝かせなければならないし、と宿を探して通りを歩く半竜娘ちゃんたちご一行。
周囲の屋台の食べ物を買って食べ歩きしながら道を行きます。
さてさて、『目星』を振って、良い宿を見つけたいところです。
すると文庫神官ちゃんが何かに気付いたようです。
「んん??」
「おん? どうしたのじゃ?」
「あ、いえ、お姉さまの叔父様のお姿が見えた気がして……」
「
半竜娘ちゃんの母方の叔父にあたる蜥蜴人といえば、ゴブスレさん一党の蜥蜴僧侶さんです。*4
ですが王国の西方辺境を根城にする蜥蜴僧侶さんたちゴブスレさん一党が、東の国境を越えてはるばる砂塵の国の都まで来ているとも考えづらいと思った半竜娘ちゃんは、半信半疑です。
背負った幼竜娘三姉妹の三人を落とさないように気を付けつつ、只人の文庫神官ちゃんには蜥蜴人の見分けはつかないのではないか、という先入観もあり、首を捻ります。
「む。お姉さま。これでも私、知識神の神官なんですよ。蜥蜴人の方たちを見分けるコツも
鱗の色、目と鼻の間の鱗の形、頭部骨格のシルエット。
見分けのコツを列挙する文庫神官ちゃんに、半竜娘ちゃんは分かった分かったと宥めます。
──── いつかお姉さまの故郷に行ったときのために覚えたのですよ。だなんて言われると、それは全くもって殺し文句ですよね。
となると、蜥蜴僧侶さんがこの砂塵の国の都に居ることになるのですが……。
「ふぅむ。駱駝とやらの乳を売っている、と。……店主、これのチーズはないのであろうか」
「駱駝のチーズなあ……。聞かねえなあ。なかなか固まらねえらしいがなあ」
「むむ。てっきり全ての乳はチーズになるやと思っておりましたが、そうではない、と。いやはや、まだまだ知らぬことがありますなあ」
「ま、駱駝の乳はそのまま飲むもんだぜ、旦那! それにチーズなら、牛の乳を入れた水袋が駱駝に揺られて出来上がったっていう昔ながらの製法の奴があるぜ! ホラこれだ!」
「おお、ではそれを戴こう」
「まいど!!」
あ、これは居ますね。間違いない。
というところで今回はここまで。それではまた次回!
途中から観戦していた赤毛の森人魔術師(取り替え子の森人)「目立っちゃダメなんじゃなかったっけ? 門の外とはいえ、何やってるのさ」
軍帽を被った密偵「いや、血が騒いじまってさ……」
赤毛の森人魔術師「まったく。まあ君が楽しそうだったから良いけどね」(キャッチャーの娘には少し妬けちゃったけど)
原作小説11巻の描写的に、ゴブスレさん一行は蟲人僧正さんと別れてから少し骨休めをしつつ都に滞在して情報収集をしていたみたいなのですが(おそらく長くても三日程度?)ここで半竜娘ちゃん一行と一旦合流の形になります(たぶん女商人さんから依頼を受けて、半竜娘ちゃんたちとはすぐまた手分けするために別れるとは思いますが)。次回はサウナで旅の垢をこすり落としたり、黄金の蜃気楼亭に行ったり、青く輝くサーベルを携えた騎士くん(推定モチーフ:ルーク)とニアミスしたりできればなあって感じです。