ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
◆前話
Beep音が響き渡る。
同時に、どこか無機質で無感情な、機械を思わせるような女性の音声が聞こえる。
──── 不明なユニットが接続されています.*1
──── 不明なドックに係留されています.*2
──── 不明なアクセスを検知しました.*3
──── システムに深刻な障害が発生しています.
──── 乗組員の搭乗を確認できません.
──── 正規のIDをご提示ください.
──── 正規のIDが提示されませんでした.
──── 本機は敵対陣営に鹵獲されたものと認識します.
──── 本機は機密保持プロトコルに従い、使用可能な全兵装を用いて抵抗後、自爆します.
──── 繰り返します.
──── 本機は機密保持プロトコルに従い、使用可能な全兵装を用いて抵抗後、自爆します.
────
──── 飛行機構・稼働率15%.短時間かつ低空の飛行には支障ありません.慣性歪曲高速加速クイックブーストは使用不能です.
──── 主機・稼働率30%.短時間の活動は可能です.自決シークエンスの完遂は可能です.
──── 通常外装及び粒子外殻発生装置、内部構造の一部に致命的破綻を確認.自決シークエンス進行中のため、例外処理規定8823によりチェックプロセスエラーの一部を黙殺します.衝撃放出仮想外殻アサルトアーマーは使用不能です.
──── 主砲ソルディオスキャノン・稼働率89%.最大威力を行使可能です.
──── 自爆用エネルギーキャパシタ・充填率2%……5%…….充填を継続します.
──── 交戦規定に則り警告します.
──── 主機及び主砲による重度汚染が想定されます.ただちに周辺区域から避難してください.
──── 交戦規定に則り警告します.
──── 交se戦ん規定に則りり警ik告くしまmaすす.
──── く た ば れ 、
──── ソルディオス・オービット、起動します.
──── 世に太陽のあらんことを.
修復中だった球形の巨大要塞が震え、その不完全なフレームの隙間から翠の光を洩らして、浮かび上がり始めた。
直上のレース場を割り砕いて、この地下空間から外へ出るつもりなのだ。周辺の一切を薙ぎ払うために。
半分壁と床に埋まっていた機体が、砂を落としながら浮揚する。
発掘用の空間を支えていた柱や、露出した機体外殻を支えていた支保工が次々に倒れる。
灯りの魔導具が明滅し、やがては消える。地下は闇に閉ざされかけたが、しかし直ぐに浮揚する武装要塞が撒き散らす翠の光が辺りを満たす。
同時に、球形の機体が回転し、砲口らしき窪みを上に向ける。
主砲ソルディオスキャノンのチャージは終わっていた。
照準完了。主機の出力が完全ではないため連射はできないが、それでも威力は十分。
──── 主砲ソルディオスキャノン,発射します.
武装要塞・
朝早い時間であるため現状の犠牲者はそう多くないだろうが、この武装要塞が今空いたこの穴から外へと飛び出せばその限りではないだろう。
主砲が市街地を蹂躙し、超抜級の自爆が都を更地に変える。それはきっと間違いない。
──── ソルディオス・オービット,浮上します.
土砂を吹き飛ばした巨大な球形の機体が、空中へと浮かび上がっていく。
そんな中で半竜娘の分身はといえば、『ん? まちがったかな?』と首をひねりながら、武装要塞・
天頂方向に主砲を向けた時に、内部で【
「うーむ、許容限度を見誤ったかのう? じゃが不用意に起動させぬようセーフティは残しておいたはずじゃというのになぜ……?」
なぜこんなことになったのか……。
時間は少しだけ遡る。
▼△▼△▼
影を奪う鏡を抜けた先にあったのは、巨大な球形の機動要塞の発掘修復現場でした。
位置的にはまだ都の市街地域の中なので、この砂塵の国の都の成り立ちにも若干絡んでいるのかもしれませんね。……かつては墜ちた武装要塞を都市の動力源として利用していた、とかでしょうか?
「球形の機動要塞……確か解読した中にあったのを覚えておる。これは
本来であれば “
台座となるランドクラブの方は破壊されたか、さらなる地下にまだ埋まっているのでしょう。
土中から露出した武装要塞・
その幾つかは大きく破損しており、内部の構造をのぞかせています。
また、ひとつを除いて解体も進められているようで、その内部もかなりスカスカです。
「……修復って言っても今の技術で再現できねーだろうに、どーするつもりなのかと思えば、共食い整備ってことか」
「壊れた機体の無事なパーツを寄せ集めて、一機分を修復するわけですか……。破損状況も含めて貴重な史料ですから知識神の信徒としては止めてほしいところですが」
TS圃人斥候と文庫神官が半分埋まっていてもなお巨大なそれを見上げます。
「それにしてもどうやって掘ったのかしらね」
森人探検家が疑問を発しますが、それも当然です。
発掘用のこの広間それ自体も、地下に築く空間としては破格に大きく、現代の技術を超えているように思えます。
「まあそれも遺物のお陰なのじゃろうさ。【流砂】で岩を砂にして掘って、【石壁】で固めて、【力場】で支えるとかしておるのじゃろう」
「魔術の影響は永続しないでしょう?」
「であれば、永続化する魔導具を掘り当てたのじゃよ、きっとな」
半竜娘ちゃんが推察するには、この大規模な発掘計画に当たっては、恐らくは工事用の魔導具がどこかで発掘されたことが契機になっているのだろう、とのことです。
宰相が砂塵の国中を行脚して掘り返して、太古の遺跡や遺物や封印されし英霊・魔物を掘り当てたのも、その発掘用の魔導具があってこそだろうとの予想。
宰相の野心を育んだ
「……あー、そーいえば魔法の絵の具で絵画を描いて、それを現実化する魔導具があるってのは聞いたことあるなー。そういうのがあれば、発掘にも使えそーだ」
「確か雪山で修業を付けてくれた圃人の御師匠様が、そんなものを王宮から『せしめる』とか『せしめた』とか仰ってましたか……」
「じゃあ似たようなのが、この砂塵の国にもあったのかも知れないわね」
魔法の道具ってスゲー!
「それはともかく、他の作業員が来る前に、情報を抜くなり、夜まで隠れられる場所を探すなりせんとな。直ぐに情報を入手できなんだときに、夜まで潜伏するために」
まさかこの
作業員たちは別にいるはずです。
「機密保持とかどーなってんだ? 数百人規模で動員されてんだったら、どっかから情報が漏れるだろー?」
「これだけの大規模プロジェクトについて、
末端の末端まで全員セキュリティ意識が高い、とはちょっと思えませんしね。
「であるからこその『影を奪う鏡』であろうさ。アレが一つとも限らぬし、たとえばじゃが、宰相が王位簒奪してから職人たちを集めて、その鏡に
「なるほど。それに有事の際は影を人質にして生殺与奪を握れるから、本体の方だっていつでも手駒に出来る、と。裏切っても逃げても、影を殺せば本体も死ぬ。簡単に影の分だけ労働力を増やせるし、一石何鳥にもなる策というわけね」
実際に『影を奪う鏡』が複数あるのかは分かりませんが、大いにあり得る話です。
宰相がこの広い沙漠を掘り返して、これまでに多数の遺跡を発掘してきているというのであれば、同じではなくとも、似たような機能の魔導具を複数手に入れていてもおかしくありませんからね。
「
念のために透明化を維持したまま、半竜娘ちゃんたちは、発掘中の機体たちのうちでも、最も整ったものに向かって歩を進めます。
「情報があるとすれば、現場指揮所のようなところかしら?」
「周囲にあればまずはそこからじゃな。ただ、あれだけ修復が進んでおると、既にそういった指揮所も内部に運び込まれておるかもしれぬが」
「その時はあンなかに入んなきゃなんねーのか……。侵入者感知とか侵入者排除の罠が動いてねーといいけど」
「その時は頼りにしてます……! でももし発動させても守ります! 矢でも光線でも、どんと来い、です!」
文庫神官の期待と献身の意気込みに、TS圃人斥候は「荷が重いこった」と呟きました。
▼△▼△▼
結局のところ、他の
どこで見つけたかと言うと、修復率が一番高い
とはいえ、持ち出すとバレてしまいかねないので、分身の目を介して書類を見た文庫神官が本体の方で書き写すしかなく、相応の時間は経ってしまったが。
「……他の8つの武装要塞の発掘地点についてと、それ以外にも重要そうな書類については写しが取れましたわ、お姉さま」
「ふむ、これで目標は概ね達成じゃの」
透明人間と化した文庫神官と、その使徒である白梟使徒(※
「さて、どうするべきかの。さっさと分身を消して帰るべきか、さらなる成果を求めるべきか」
幸いにして、ここに居るのは魔力で己の影を固めた分身体。
術を解除して消してしまえば、帰り道の心配をする必要はまったくなし。
「……まあ、古代の巨大機動浮遊武装要塞を前にして、内部に全く立ち入らないのも冒険者の名折れかの」
透明化して姿は見えないが、TS圃人斥候の「えー、やめよーぜ? ね、かえろ?」という声が聞こえた。黙殺した。
斥候役が一番負担が大きいのは分かるが、もうひと働きしてもらわねば。
それにここにある書類でも、まだそもそも
内部には機動要塞自体の防衛機構由来のトラップはないはずだ。
見つかるリスクは低いと判断できる。
「よし、では突入して、内部機構やその他使われておる技術を観察しつつ、マッピングもするとしようかの」
「いよいよね!」 やる気を出す
「何事もありませんよーに」 財宝を見つけても持ち帰れないからテンションの低いTS圃人斥候。
「中を見るのも楽しみです!」 うきうきしている文庫神官。
『いっそぶっ壊した方が今後のためだと思うがなあ』 『それには同感なのですよ』 肩を竦める
遺跡を前にしたならば、中を探検してこそ冒険者。
というわけで、そういうことになった。
そもそも修復中であったため、沈黙する
全ての出入り口を封鎖することなどできないのだから当然だ。外殻はまだ多くの部分がスカスカだし。
内部を歩きまわって構造物の見取り図を作っていく一党。
別に自律兵器が湧いて出るでもなく。
墓守をする不気味な怪物が出てくるでもなく。
こびりついた怨念が実体化するでもなく。
至極順調に探索は進んでいった。
「まだ作業は始まっておらんようじゃな」
「詰め所で見つけた日程表によれば、あと半刻くらいは時間があるかと」
半竜娘たちは、
……この近辺は修復率が低いのか、中枢に割と近いのに、外の砂岩の壁まで穴あき吹き抜け状態でよく見えてしまっている。
順調に進めば欲も出る。
「
『まだいける』は『もう危ない』とはよく言ったもので。
この時の半竜娘たちは、タガを外しつつあった。
ぶっちゃけて言えば、徹夜のハイテンションであった。
分身体だという、何かあっても本体は死なないという安全意識も、ハイリスク行動を後押しした。
そして、古代の石板を解読済みの半竜娘は、この武装要塞・
「……ちょっとだけ。ちょーとだけじゃ。うむ、手前の胸の【
直結による動力供給とデータへのアクセスは途中までは上手くいった。
「うむうむ。これは興味深いのう……」
半竜娘は己の尾を、
それを介して
半竜娘の胸の中心から体表を尾に向けて幾何学的な蒼いラインが走り、
尾を通じて流れてくる蒼の光には様々な情報が含まれていた。
その中には当然、太古の魔術師たちに技術によって対抗しようとした変態技術者たちの遺産である技術情報もあった。
それらの情報には、彼ら技術者たちが扱った技術についての解説もあったが、同量かそれ以上に、仮想敵であった魔術師たちが扱った魔術についての詳細な分析も非常に多く含まれていた。
敵を超えるために敵を知る必要がある、ということなのだろう。技術者たちは、ともすれば敵である魔術師たち以上に、彼らが用いる魔術に精通していた。
なおこの時、息を吹き返した
別の遺跡の端末から地脈を伝って半ば霊的に侵入してきたのは、王国から来た密偵の仲間である『知識神の神官』の女性だった。
もし
だが、そうはならなかった。
一方で、
結果として、半竜娘と
そしてお互いが好き勝手に動き回った結果。
「んー、ここのバイパス通しても……その先が遮断されておるから問題なかろう」
『あー、ここの遮蔽回路は開けてもいいかな……。そもそも元が遮断されてるし』
お互いがお互いの安全装置を外しているとも知らずに、システム内部で行動していった。
そうなればどうなるかというと、もうお分かりだろう。
避けるべきことが起きてしまった。
ついには、半竜娘の【
さらに誤算であったのは、半竜娘の胸で蒼く燃える【
そして当然の帰結として、太陽神の名を冠する機械の要塞は、太古の眠りから再び目覚めたのだった。
あまりに早すぎる目覚めに、その継ぎ接ぎの
▼△▼△▼
というわけで、場面は冒頭に戻る。
そうはならんやろというピタゴラスイッチを経て、起動してしまった武装要塞・
そこから振り落とされた半竜娘。
接続していた
場合によっては蹴り出される時に精神にダメージか消耗を負っているかもしれない。
「この状況に至っては、もはや隠匿や隠ぺいなど言ってられんのう。これなら資料なんかも思いっきり盗んでしまっても良かったか。
……それにしても、こんなものを浮かべて喜ぶか、変態技術者どもめ……」
落下しながらも半竜娘は冷静であった。悪態をつく余裕すらあった。
いざとなれば周囲の重力の精霊に請願して【
なんならそれらが全て間に合わずに地面に叩きつけられても、分身体がマナになって霧消するだけ。フィードバックで多少は消耗するだろうが、本体の命が懸かっているわけではない。
だがそうでなくても冷静ではあっただろう。
何故ならば。
「リーダー! 縄を飛ばす! 掴んでくれ!!」
「当たったらごめんね!」
半竜娘は一人ではないからだ。
頼れる仲間が居るからだ。
TS圃人斥候が、発掘現場からくすねていた縄を素早く森人探検家の持つ矢に結わえ付けて投げ渡し。
阿吽の呼吸で受け取った森人探検家が自身の聴覚を頼りに、透明なまま落ちてゆく半竜娘に向かって、縄が結ばれた矢を電光石火で放つ。
そして寸分の狂いなく飛来した縄を掴み、素早く腕に巻き付ける半竜娘。
「掴んだのじゃ!」
「お姉さま、引き上げます!! ハァアアッ!!」
それを引き上げるのは、力自慢の文庫神官。
タンクはパワーだ!!
一本釣りされた魚の如く、半竜娘は、飛行する要塞内へと釣りあげられていく。
途中で、飛行して脱出する
敵前逃亡ではなく、段取りどおりの行動だから、問題ない。
むしろ半竜娘の本体たちの方の避難時の護衛に戻す方が優先度が高い。
半竜娘の分身体は、隙間だらけの外殻を通り、再び、接続していた地点へと舞い戻った。
「助かったのじゃ。感謝!」
「びっくりさせないでよね」 「冷や冷やしたぜ」 「お役に立てて光栄ですお姉さま」
それではこの後どうするか。
「ことここに至っては仕方ないのじゃ。市街地に被害が出る前に、この武装要塞・
「いや破壊した方が楽でしょ? 内部構造分かってるんだし、主機なり主砲なりを壊せばいいじゃない」
「下手に破壊したら市街地に破片が落ちる。落とすなら無人地帯まで飛ばしてからでなくては」
「悠長にやってたら、それこそ市街地が全部なくなるぜ? さっきの地面吹き飛ばした威力見ただろ? しかも自爆まで時間もねーんだ」
「最速でやるしかなかろう」
「……お姉さま、それで私たちは何をすれば?」
その問いに、半竜娘は即答する。
「お主らは【解毒】と【浄化】の奇跡を。手前らの防御のためにもじゃが、市街地にこの翠の汚染が広がる前に
「わかったわ。それじゃあ私は【解毒】を交易神様に」
「私は【浄化】を知識神様に願います」
「オイラは?」
「術の回数もそう残っておるまいから一旦分身の方の制御は落として良いのじゃ。王宮から手前の子らを逃がす方に注力してくりゃれ」
「おーらい、そっちは任せろ」
TS圃人斥候は分身の操作を放棄し、本体の方に意識を注力することに。
その分身体の瞳から意識の光が失われ、棒立ちになった。
王宮に居る本体たちの方も、既に避難を始めていることだろうが、TS圃人斥候がそちらに専念するのであれば大丈夫だろう。
「では手前は、再度この武装要塞に接続し、完全同化を試みるのじゃ。万全を期して【加速】する」*5
「お姉様に闇を照らす光の導きを。【
準備万端。
「主機に向かって突撃するのじゃ。そして融合のスパークの力で同化し、掌握する」
「【解毒】と【浄化】は私たちにお任せ下さい。お姉さま」
「主砲はどうするの?」
「外から本体の方の手前が何とかする。…………決して撃ち負けたりはせんぞ!」
「いやいや、張り合わないでよ」
「お姉さまならできます!!」
「あなたも煽らないで」
流石に不完全な修理品なのでフルスペックとはいかないソルディオス・オービットたん。今回は決着まで行かなかったのでまた次回。