ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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◆前話
竜とは、火炎と瘴毒を吐くものだ。
半竜娘「蒼い火炎(放射熱線)翠の瘴毒(コジマ粒子)……うむ、これは紛れもなく竜の特徴じゃな! ヨシッ!」

===

※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


41/n 裏1(赤竜との偶発的遭遇)☆AI挿絵あり

 

1.いつかは竜退治

 

 国境の砦にて()()されていたゴブリンどもを、その砦ごと、空飛ぶ砂海鷂魚(サンドマンタ)の群れを呼び寄せて押しつぶした小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党は、そこから脱出した後に寄った古代の神殿跡で、新たな危機に直面していた。

 小鬼殺し、妖精弓手、蜥蜴僧侶、鉱人道士に、女神官。

 大立ち回りの後で疲労困憊の彼ら彼女ら一党の目の前に現れたのは、崩れた祭壇の下に隠されていた金銀財宝の山……だけではなく。

 

赤き、竜(レッドドラゴン)……!!」

 

 四方世界に名高い最強の存在。

 硫黄と瘴毒に満ちた火焔を吐く怪物。

 その知恵は森人の賢者より深く、その爪は騎士の剣より鋭く、その鱗は城壁よりも堅い。

 

『GGGGRRROOOOWWWWW!!!!』 『GOBGOB!!』

 

 身の毛もよだつ竜の咆哮。

 それに混じるのは、竜の背に乗った小鬼の嘲り。

 

 あの小鬼がきっと、眠れる竜を起こしたのだ。

 鬱陶しそうに長首を振る竜は背の小鬼など歯牙にもかけていないが、小鬼は我こそはドラゴンライダーでございと意気揚々だ。

 

 

 

 竜。竜! 竜!!

 

 相対すれば絶死。

 それがゆえに、打ち倒せれば至上の名誉。

 

 寝物語の英傑たちの、燦然と輝く二つ名を思い出すが良い。

 

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 竜狩り(ドラゴンバスター)

 竜を滅ぼす者(ドラゴンヴァラー)

 

 一握りの到達者にのみ与えられる、最大の栄誉!

 

 そして、それがゆえに、かの竜の下に骸を晒した者は数知れず。

 

 地下の金銀財宝の中に突き立った魔法の武具を見るがいい。

 あれこそは挑戦者たちの無念の証。

 

 

 仕掛人(ランナー)たちは、言う。

 

 ──── 決して竜に手を出すな、と。

 

 

 

 であれば、冒険者は?

 

 

 

「“いつかは、竜退治”……」

 

 

 

 女神官が、思わず呟いていた。

 それは、彼女の “始まりの冒険” で、その時の仲間たちと笑い合った思い出。

 ……まあ、そのあとの小鬼退治で肝を冷やしたから、堅実に行こう、と方針転換はしたのだが。

 

 

 そして、ちょうど今このとき、女神官と語り合ったあのときの仲間たちもここに居る。

 女商人の隊商の護衛として砂塵の国へ入ったのは、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党だけではなかった。

 既に辺境の街から巣立っていた、かつての女神官の仲間たちも、その護衛に名を連ねていた。

 

 さらにまた、小鬼の養殖場と化していた国境砦を落とす(崩す)際にも同行していた。

 

 鉢巻(鉢金)の青年剣士、眼鏡の女魔法使い、黒髪の女武闘家。

 かつて小鬼の洞穴で右往左往していた頃から、冒険を重ねて成長した、頼もしい同期たち。

 

 そして彼らの仲間であり女神官の後輩でもある、少年魔術師と、圃人の女剣士。

 

 合わせて5人の同期後輩の一党も、この場には居るのだ。

 

 

 

 

 ある意味それは若さゆえの無謀だったのだろう。

 銀等級の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党よりも、鉢巻剣士の一党の方が立ち直りが早かった。

 

 腹をくくった鉢巻剣士が叫びを上げる。

 

「攻撃は俺が引き受けます!! 少しの間ですが……!

 そのうちに、竜をどうにかする算段を頼みます、ゴブリンスレイヤーの兄貴!!」

 

 同期後輩一党の中で、盾役(タンク)としての経験を積んできた鉢巻剣士が、その大盾を掲げて前に出た。

 

 赤竜は既に、こちらを薙ぎ払おうと身体をぐるりと回し、勢いよく尾を叩きつけようとしていた。

 とても只人の戦士(HFO)が太刀打ちできるものではない!

 

 無茶です、戻って! と、そう叫びそうになった女神官は、そこで慣れ親しんだ聖句を聞いた。

 

「……切り札の切り時は、今ここだ! 〈いと慈悲深き地母神よ────

 

 聖句を紡いだのは鉢巻剣士。

 地母神に捧げる祝詞が、彼へと神の奇跡を下ろすための見えない道筋(ライン)をつくる。

 

────根を張り、枝伸ばす、大樹の如き守りをお授けください〉!!」

 

 天上から降り注いだ神威が、鉢巻剣士の身体を満たす!

 それは【不動(ステッドファスト)】の奇跡!

 “守り、癒し、救え” という地母神の中心教義を、戦場の最前線で体現する、守りの祈り!

 

『GGGGRRROOOAAAAA!!!!』

 

 竜の尾が鉢巻剣士に迫る!

 只人の戦士(HFO)などひとたまりもないと確信できる、音速の薙ぎ払い!

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)や妖精弓手、女武闘家、圃人の女剣士は、身の動きの軽さを生かして退避している。

 女神官も小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に連れられて、物陰へと逃がされている。

 しかし、それ以外の後衛組はまだ竜尾の薙ぎ払いの射程だった。

 

 鉢巻剣士が竜尾を受け止められなければ、後衛たちは纏めて薙ぎ払われるだろう。

 

 

 目にも止まらぬ速さで、竜尾が鉢巻剣士の大盾にぶち当たる。

 

「させるかよ! 通すかよ! 我が身は既にィ、不退転ッッッ!!」

 

 

 まるで大きな鐘が鳴ったかのような、ビリビリとする轟音が響いた。

 ──── だが、それは思っていたような、何かがひしゃげるような、つぶれるような音では()()()()

 

「おお何と! 見事也(みごとなり)!!」

 

 それを見ていたであろう蜥蜴僧侶が快哉を叫ぶ。

 

 

 振られた竜尾による風圧に帽子を押さえながら、女神官が鉢巻剣士の方を見た。

 

 そこには────

 

『GGGGWWWRRRUUU!!??』

 

「うぉおおおお!! 竜がなんぼのもんじゃい!! 止めてやったぞ!!」

 

 根を張る大樹のように、泰然としてその場から動かぬ鉢巻剣士の姿があった。

 地母神の奇跡【不動(ステッドファスト)】は、不退転の覚悟を表す。

 その場から決して動かず、後ろに攻撃を通さないという不退転の意思が、神の奇跡によって現実のものとなるのだ。

 その意思が折れて退かない限り、守り手は、堅牢なる守りと、尽きぬ生命力を得るのである。

 

『GRU! GRA! GUOA!!』

 

「ふん! はっ! たぁ!! ………ぐ、お、重い! 長くは持たねえ! 俺が攻撃を引き受けている今のうちに何とかしてくれ!」

 

 己の尾の一撃を止めた存在に苛立ってか、赤竜が尾をやたらめったらに振り下ろす。

 その全てを受け止め、苦悶に顔を歪めながら、しかし鉢巻剣士は一歩も引かない。

 

 

 

 そんな冒険者の姿を見て、奮い立たない者が居るだろうか?

 否!

 

「ここでやらねば戦士の名折れ。父祖に見せる顔がありませぬでな」

 

 蜥蜴僧侶が腰の雑嚢から、幾本もの水薬(ポーション)と魔法の巻物(スクロール)を取り出した。

 

「姪御殿からの餞別である竜血の魔法薬に、各種自己強化系の巻物の類。

 使うならば今ここをおいて他は無し!!」

 

 祖竜の二重螺旋を励起させる水薬(ポーション)の蓋を開けて、全て一息に飲み干す蜥蜴僧侶。

 それは爪を鋭くし(【竜爪シャープクロー】)鱗を厚くし(【竜鱗ドラゴンスケイル】)熱と毒への耐性を与え(【竜命ドラゴンプルーフ】)動体視力を強化し(【竜眼ドラゴンアイ】)牙と咬合力を強くし(【竜顎ドラゴンバイト】)達人の閃きを宿らせた(【閃技サクセション】)

 

 さらに彼の爪に挟まれた魔法の巻物(スクロール)が、腕の振りに合わせてばさりと広がり、途端に蒼く燃え墜ちる。

 それにより蜥蜴僧侶は、雷光の如き理外の加速を得て(真言呪文【加速ヘイスト】)魔法への抵抗力を高める力場を纏い(真言呪文【抗魔カウンターマジック】)竜の如き巨体を得た(真言呪文【巨大ビッグ】10倍拡大)

 

「これぞ蜥蜴人の本懐! 祖竜の威を以て竜退治とは、これに勝る武勲無し! 〈おお気高き惑わしの雷竜(ブロントス)よ、我に万人力を与え給う〉!!」

 

 さらに蜥蜴僧侶本人の祈りにより、彼の身体に竜に勝らんともする気血が巡り、その筋肉を雄々しく隆起させる。

 

 

「イィイヤァアアアア!!!」

 

『GGRRROOWWWAAA!!』

 

 

 巨大化した蜥蜴僧侶と、赤き竜(レッドドラゴン)が、がっぷり四つに真正面から組み合う!

 

 竜と竜の戦いだ!

 

 驚くべきことに、その勢いは互角!

 人類の身で竜と殴り合える蜥蜴僧侶に感嘆すれば良いのか、ここまで祖竜術と魔術で強化しなければまともに打ち合うことすらできない赤竜の強大さに畏怖すれば良いのか……。

 

 殴り飛ばし、殴り飛ばされ。二つの巨体が、財貨の山を転がり、蹴散らしていく。

 それでも竜としての戦い方は赤竜の方が上手。攻撃の回転は蜥蜴僧侶に勝る。

 

「させねぇっつの! いと慈悲深き地母神の加護ぞあれ!」

 

 それを鉢巻剣士の大盾がインターセプト。【不動】の奇跡は、しかして仲間を守るために前に出ることは咎めない。

 

「あー、もう! これじゃ逃げるに逃げられないわよ!」 妖精弓手が油断なく弓を構えながら器用に嘆く。

「もとから竜を相手に逃げ場なんぞなかろう、金床の眼は節穴かいな!」 鉱人道士がそれを揶揄する。

「なにおう!?」 「なんじゃ!?」

 

 まあこれも一種の精神安定のためのルーチンなのだろう。

 竜を前にして出来てしまっていた精神の空白は、そのいつもの遣り取りで消えたようだ。

 

「オルクボルグ!」 「かみきり丸!」 「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 妖精弓手が、鉱人道士が、女神官が、彼ら一党の頭目を呼ばわる。

 とにかく、【不動】の奇跡により不退転の盾役と化した鉢巻剣士と、半竜娘の餞別によって大竜と化した蜥蜴僧侶が赤竜を押さえられている間に、何とかしなくてはならない。

 

 呼ばれたゴブリンスレイヤーは考える。

 消耗が嵩み、呪的資源(リソース)は残り少なく、前衛の鉢巻剣士の奇跡や、蜥蜴僧侶の強化魔法類も長くは持たない。

 

 師匠である圃人の老爺の言葉が脳裏に蘇る。─── “ポケットの中には何がある?”

 

 

「…………手は、ある」

 

 

 だがここには仲間が居る。

 強く育った後輩冒険者たちも居る。

 ならば、竜を退けることも、不可能ではない。

 

「竜を無力化……眠らせるか、気絶させるか。邪魔なのは、まずドラゴンライダー気取りの小鬼だ」

「はいはーい、あたしがやる! うちのリーダー(鉢巻剣士)が惹き付けてる間に、蜥蜴のにーさんに登って、そこから乗り移る! そんでこの大剣でズバーだよ!」

 

 恐らくは竜を眠りから覚ましたのであろうドラゴンライダー気取りの小鬼を排除するのに、手を挙げたのは、圃人の女剣士。

 味方の竜(蜥蜴僧侶)に乗り、敵の竜(レッドドラゴン)に乗り移る。非常に勇気ある行いだ。

 まことに圃人とは、見上げた種族である。

 

 

「眠らせるのは、頼めるか」 ゴブリンスレイヤーが、最も信頼する魔術師である、鉱人道士に問いかける。

「ふん、儂を誰じゃと思っとる……と言いたいところじゃが、竜鱗の護りは術を弾く。砂男(サンドマン)に眠りの術を頼むにしても、もう今日は二回目は撃てんから万全を期したいところじゃ」 鉱人道士は髭をしごきながら、赤毛の魔術師姉弟を見遣った。その眼は語る、「お主らも魔術師なら、切り札の一つ二つは持っておろう?」と。

 

 赤毛の女魔法使いが、観念して手を挙げた。

 

「……竜鱗の護りを剥がすのは、私たちがやるわ。【分解(ディスインテグレータ)】なら、十分いけるでしょう?」

「姉さん、でもあれはまだ、成功率が……」

「だからあんたも手伝うのよ、愚弟。儀式詠唱、いけるわね?」

「も、もちろんだぜ!」

 

 全てを貫く【分解】の魔術。

 高等魔術に分類されるそれを、赤毛の女魔法使いは使えるのだという。

 そこに弟の少年魔術師の詠唱補助が加われば、おそらく安定して発動できるはずだ。

 竜の鱗を貫ければそれでよし、そうでなくとも、竜鱗の護りの力場が弱まるくらいはするだろう。

 

「それで残った私たちは何をすればいいのかしら? オルクボルグ」 妖精弓手がゴブリンスレイヤーに問う。

 役割を振られていないのは、ゴブリンスレイヤー、妖精弓手、女武闘家、女神官だ。

 

「残りは遊撃だ。竜の攻撃を防ぎ、仲間を守る。味方が役割をこなせるように。

 だが……術を使って、それでも眠らないことがないように、できればもっと弱らせたい」

「えーと、つまり?」

「気絶させるには、頭を揺らす、脳への血を断つ、そのどちらかだろう」

 

 そのゴブリンスレイヤーの言葉を受けて、女武闘家が、祝福された竜爪のバグナウを掲げる。

 

「この竜の爪の籠手なら、竜鱗を斬れるはず。狙えるなら頸を狙ってみるわ。うまく血を抜ければ、気絶するかも?」 武闘家としての身のこなしなら、竜の身体を駆け上がることもできるはず。たとえ竜の自己回復能力故に直ぐに傷が塞がるとしても、首の血管を傷つけることは大いに意味があるだろう。 

 

「まあ私は遊撃かしらね。全員前のめりってのも危ないしね」

 足が速く、弓手として戦場を俯瞰的に見ることができる妖精弓手は、敵の妨害を買って出た。

 ブレスを吐こうと口を開いた竜の顎を、その弓矢の一撃で縫い留めることも、彼女なら可能だ。

 

「俺も遊撃だ」

 ゴブリンスレイヤーも同じく頷く。

 この中では妖精弓手に次いで遠隔攻撃に長けていることもあるし、周囲に突き立つ魔法の武具を拾って投げるだけでも十分な牽制になるだろう。

 

「わ、私は、【小癒(ヒール)】を……」

 女神官は、今も竜の攻撃を受け止め続ける鉢巻剣士と蜥蜴僧侶を心配して杖を掲げた。勇気ある彼らを死なせるわけにはいかない。

 

 

 これで作戦は定まった。

 前衛が耐えられる時間も残り少ないだろうし、迅速に動くべきだ。

 

 

 

 今回の戦いは、偶発的遭遇(ランダムエンカウント)

 いまの残りの手札では、きっと竜殺しは成し遂げられない。

 

 だがそれでも、術で竜を眠らせるか、隙を生み出して首を絞めて気絶させることくらいはできるはずだ。

 

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ならぬ、竜転がし(ドラゴンスリーパー)

 今の彼らには、それが精一杯。

 だが、それでも。

 

 ──── “いつかは竜退治”。

 

 そう語り合った冒険者たちは、いま、砂塵の国の神殿跡の地下で、赤竜に立ち向かっているのだ。

 

 

<『1.“いつか”は、“いま”』 了>

 




 
キリが良いので、半竜娘一党の成長ターンとか、簒奪宰相が追手をかけたりとか、女商人さんや密偵くん(ローグ・ワン相当)魔剣の騎士くん(推定ルーク)の様子とか、王国側の東側の国境砦を襲わんとする武装要塞:黒玉(ジェット)の群れの胎動とか、そういうのはまた次回です……。
 
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