ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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 半竜娘ちゃんの一人称は「手前(てまえ)」。語調は適当です。
 彼女が辺境の街に着くまでの話と生い立ちについて。
 蜥蜴人にも中二病とかあると思う。


1/4 裏

 まったくもって手前(てまえ)の見る目の無さを恥じるばかりよ。

 同じ竜の名を冠していても、祖竜である《恐るべき竜》と、あの六肢の強欲者らは、根本から違うものであったと、気付かぬとは。不覚も不覚よ。

 四肢と翼を合わせりゃ六本足。昆虫(むし)の如き系統外れの六本手足のドラゴンどもが、手前(てまえ)ら蜥蜴人や恐るべき竜のごとき気高き矜持を持つわけもなかったのだ。

 いや『昆虫の如き』とは蟲人(ミュルミドン)に失礼か。

 

 ともあれ。

 

「あのクソ六肢動物め、手前(てまえ)がきっとぶち殺してやる……」

 

 道無き山野を往きながら、手前(てまえ)には愚痴愚痴とした考えばかりが浮かんでくる。

 

 まあ、只人(ヒューム)どもが言うところの東方辺境にて、混沌の奴腹(やつばら)めとの戦に加勢したことには何も言うことはない。

 大戦(おおいくさ)与力(よりき)するのは蜥蜴人の習いである。

 やがて魔神将だの魔神王だのに手を届かせるのを夢見るくらいは許されようとも。図体ばかりはでかくとも、手前(てまえ)はまだ13の小娘であることだし。

 

 成人を迎えて稚児の群れから出されてすぐに、最前線に抜擢されたのも、誇らしく思いこそすれ、愚痴など出ようはずもない。

 

 前線指揮所が大きなドラゴン……古強者たる黒鱗のエンシェントドラゴンに焼き払われ、最前線の手前(てまえ)らが孤立し、そのまま捕虜にされようとも、それは戦ではよくあることよ。

 命を拾うただけマシというもの。

 

 蜥蜴人は、戦う側が混沌でも秩序でも気にせんもの。戦バカじゃけん、の。

 向こう(混沌側)も寝返りを期待して、皆殺しにせんこともあるのじゃ。まして向こうの指揮官も蜥蜴人ならなおさらよ。

 むしろ捕虜にとられたのを口実に*1、かつての味方とコトを構えるなど朝飯前。平気の平左でやってのけて不思議ではない。

 優れておれば生き残るであろうよ、それが適者生存というもの。

 

 まあ、手前(てまえ)はそこまで節操なくとは、いかんのぅ。

 そも、混沌の勢力の方が、手強い魔神も多いもの。寝返って秩序側と戦ったとて、金等級や白金等級の数は知れておるしの。

 捕虜として連れ込まれたなら、機を見て敵の砦を焼いてから、抜け出すつもりじゃった。

 勝ちの目があるうちは、足掻くのが信条よ。

 

 ま、結果的には寝返らなんだ手前(てまえ)の方が正しかったのじゃから世の中は分からんものよな。

 あんな下衆の方に寝返った輩は、ご愁傷様よ。

 

 そう、下衆よ、愚痴愚痴言うとる原因はの。

 

 捕虜に取られた手前(てまえ)は、鱗の色が良いからと、あの黒鱗のエンシェントドラゴンの目にとまったのよ。まあ似たような色をしとるものな。

 これでも一族始まって以来の天才の呼び声もある手前(てまえ)であるもの。あの下衆の黒鱗ドラゴンのお眼鏡にも適おうさ。年頃の娘らしく、鱗の手入れも欠かさぬしの。

 

 捕虜の詰められた営倉から引っ立てられて、黒鱗のドラゴンの前に立たせられれば、あの下衆、なんと言うたと思う?

 

《思ったより使えんな》

 

 だとよ!

 

 おおかた、手前(てまえ)の覚えておる祖竜術と真言呪文を看破して言うたのであろうが、脳タリンの六肢動物風情には手前(てまえ)の深謀遠慮なぞ分からんのじゃ。

 

 【分身】は二人分の働きができる単純に強い真言呪文じゃし、【停滞】も状況をひっくり返せる強力な真言呪文じゃ。

 【狩場】の祖竜術は行軍の安全を確保するし、【竜牙兵】の術は、創った【分身】を使い潰す勢いで兵子を召喚させ続ければ、あっというまに軍勢の出来上がりじゃ。

 

 コンセプトが行方不明じゃと?

 攻撃も回復も出来ない術士など、何したいのか分からんじゃと?

 素体の能力値任せで慢心した構成じゃと?

 

 嵌まれば強いんじゃ!!

 【狩場】の結界で敵の居場所を察知し、【分身】とともに準備を整え、前衛に【竜牙兵】並べて、【停滞】で動きを止めて、囲んでボコる!!

 有史以前からの鉄板戦術は『囲んで棒で叩く』であろうが!!

 そして『囲んで棒で叩いたところに本命が突っ込んで蹴散らす』をやるために、足りないところはこれから鍛えるつもりじゃったんじゃ!

 

 思い出してもムカっ腹立ってきおった。

 

 あ? 【分身】の発動が安定せんじゃろ、じゃと?

 【停滞】が通らなかったらどうする、じゃと?

 そのために真言呪文の発動体も、値の張るものを持ってきとったんじゃ。捕まったときに取り上げられたがの。

 【分身】は1日保つんじゃから、寝る前に唱えておけば無駄もない。まあ確かに、出目が奮わん日は出せんがのう。

 

 ああ、そうそう、それであの下衆の黒鱗ドラゴンよ。

 奴隷や捕虜は、無駄に虐げたりなどせんものじゃろうに、あの下衆と来たら!

 

《素体としては優秀、か。であればゴブリンの孕み袋にでもすれば、ホブだのチャンピオンだのメイジだのも増えるだろう》

 

 などとほざきおった!

 下衆め!

 やはり六肢動物は異形の異端よ!

 

 大体にして蜥蜴人は卵生じゃ!

 手前(てまえ)はハーフじゃが、それでも孕む袋などないわ!

 そんなところでも阿呆か、下衆ドラゴンめ!

 

 そしてゴブリン!

 あのニヤニヤ笑いの身の程を弁えない雑魚どもはコレまでも嫌いじゃったが、ますます嫌いになったわ。滅べばいいのじゃ、小鬼どもなど!

 抱かれるなら、強者でなけばならぬ。あんな奴らに身体を暴かれるなど言語道断!

 

 はあ、はあ。

 

 ああ、それで、じゃ。

 

 いよいよ手枷足枷でゴブリンどもの巣穴に放り込まれる所であったが、そこで《託宣(ハンドアウト)》があったのよ。

 

 今も頭の中で囁く、ティーアース(T  A  S)とかいう神からの。

 

 どうも言うとることはよく分からん神じゃが、その権能は破格。

 ティーアースの言を信じるのであれば、無制限に因果を捻じ曲げ、望む結果を引き寄せるとか。

 お試し期間とやらで、砦から逃げ出すまでその権能を貸すとか言う。

 

 ――ふん、どうせこのままでは、奮闘虚しく慰み者じゃ。やってみるがいい。

 

 そう念じた結果は、確かに破格であった。

 

 ゴブリンどもは何もない所で足をもつれさせて転んだ。

 足枷や手枷はゴブリンが倒れてきた拍子にぶつかって壊れた。

 試しにと促されて【停滞】を唱えてみれば、めったにない大成功の手応え。そこら中の敵兵どもが、動きを止められ固まったまま倒れておる。

 

 そこからはあっという間であった。

 【分身】を呼び出し、砦中に火をつけて回らせる。竜の牙を見つけては【竜牙兵】を呼び出し火付けに加勢させた。

 その間に本体の手前(てまえ)は、外へと逃げる。

 

 不思議なほどに、呆気ないほどに、全てがうまくいった。

 

 ぞっと鱗が逆立った。

 これは気持ちいい、これは素晴らしい、こいつの言うとおりにしておけば間違いない……などという甘美な痺れが脊柱を駆ける。

 

 ああ、だが。

 だがこれは、ダメじゃ。

 こいつはやはり邪神よ。

 従っていれば、必ず破滅する。

 それが分からいでか。

 

 その証拠に、ほうら来たぞ。本命の《託宣》じゃ。

 貴様は手前(てまえ)に何をさせたい?

 

 なになに。

 

 黒鱗のエンシェントドラゴンを殺す?

 祖竜と一体になり、新たな祖竜術をもたらす?

 そうして小鬼を根絶やしにする?

 

 は、ははは。

 なるほど、全て手前(てまえ)が望んでおることだなあ。

 なんと悪辣なことよ、これは断れぬ。

 しかも命と誇りを既に救われておる。この恩を返さんわけにもいかん。

 

 そして、代価は、手前(てまえ)の魂か?

 違うだと? 魂は祖竜に捧げるのにとっておけ、と。

 であれば貴様は何を得る、ティーアース。外なる神よ。

 

 

 『可能性の存在証明』、じゃと?

 

 

 わけの分からぬ神じゃ。

 

 まあいい、それで、手前(てまえ)をどこに向かわせたいのだ?

 

 

 

 

 

 そういうわけで、ティーアースなる神から西の辺境の街を示されたゆえ、そちらに向かっておるというわけよ。

 愚痴愚痴と黒鱗のドラゴンへの怒りを反芻しながら、の。

 

 一人で山野を行くには【分身】の真言呪文と【狩場】の祖竜術が役に立った。これがなければ、十分に休みをとることが出来なかっただろう。

 

 落ち武者狩りを避けて途中の村にも寄らず、たまに山賊のアジトから最低限の物資や食料を盗んで食いつないで向かっておると、辺境の街まで後少しという山中に白亜の断崖を見つけた。

 いや、ティーアースに導かれた、ということか。

 ふん、どうやら、ここで『上質な触媒』となる竜の牙を採れということらしい。

 

 ティーアースの導きというのは気に入らんが、なかなか良い趣向よ。

 軍師課程(キャリア)の竜司祭として、祖竜の話はよく嗜んでいる。

 祖竜が眠る太古の白亜の園の話も、もちろん知っている。ここは、その太古の名残なのだろう。

 

 3歳になって稚児の群に放り込まれる前には、母がよく聞かせてくれたものよ。

 まあ、母は聞かせるつもりもなかったのやも知れんがな。

 普通は物心ついた頃には稚児の群れに放り込まれるから、母の温もりなど覚えておる者はおらん。

 ああ、父の顔は知らん。どこぞの只人の将軍だか金等級冒険者だかと母は言うておったが、戦の出先で共闘して、それで気に入って胤をもらっただけじゃとか。所詮は戦場限り、一夜限りの付き合いじゃろうよ。

 ま、母に気に入られるくらいじゃから、さぞかし強く麗しかったのであろ。しかし顔が分からんと、手前(てまえ)が惚れた強者が実は父じゃったとか、異母兄弟じゃったとか、マズいことになりかねんのでは? 近親交配は禁忌であるゆえ。

 

 白亜の断崖の周りの石に楔を叩きつけて砕いて、化石を発掘しつつ、取り留めのないことを考える。

 

 思えば、母の温もりをはっきりと覚えておるのは、案外本当に、蜥蜴人の中でも、手前(てまえ)くらいのものかも知れん。まあ、手前(てまえ)の場合は、卵の殻の中におった時の温もりから覚えておるがの、天才じゃから。

 物心つくころに引き離すのは、そういった母の温もりが惰弱につながるとでも信じられているのやも。

 祖竜は父祖たる側面ばかり強調されるが、慈母龍(マイアサウラ)偷蛋龍(トゥダンロン)*2から卵を守る逸話もあるゆえ、祖竜にも母性の側面があるはずじゃ。一概に惰弱と捨てたもんでも……

 

 なんじゃ、ティーアース。

 

 なに、偷蛋龍(トゥダンロン)が卵を盗むのは古い認識?

 いまは偷蛋龍(トゥダンロン)こそが、子育てする母性の竜じゃと? むしろ偷蛋龍(トゥダンロン)は父竜も卵を温める?

 まことか!? 卵泥棒などという名とは全く逆ではないか!

 そうであれば部族の司祭衆に伝えてやらねばならんぞ、これは!

 

 なに?

 もう伝わってる?

 手前(てまえ)が母から寝物語で聞いたときから認識を更新できてなかっただけ?

 母も、母が子供の頃に覚えたことのまま、我が子に聞かせたと?

 

 ふ、ふん! いい気になるなよティーアース!!

 手前(てまえ)とて、神学を学んでおらんわけではないのだぞ!

 ど忘れしておっただけじゃ!

 その証拠にいまはしっかり思い出せておるわ……って、ティーアース、貴様っ、権能で干渉しおったな!? 

 やけにはっきり口伝や教本が思い出せるんじゃが!? おい!

 

 くっ、まあよい。

 拾った化石の牙を『上質な触媒』にするための加工方法もついでに思い出せたから、ちょうど良かったということにしておいてやるわ。

 

 で、だ。いよいよじゃな?

 辺境の街に行き、手筈を整えて黒鱗のエンシェントドラゴンを殺し、新たな祖竜術をもたらし、小鬼どもを絶滅させる、その()()()を踏み出すのじゃな?

 うむ、楽しみじゃのう!

 

 うん? なんぞ手前(てまえ)が変なこと言うたか? ティーアース、貴様なにを不思議そうに……ってはあああああああああああ? おまっ、えええ??

 

 一日で全部やんの??!!??

 

*1
建前:「かーっ、捕虜にされっちまったからなぁー、かーっ、こっちもつれえんだけどよぉー、仕方ねえよなあ~!」 本音:「あいつとは本気の命がけの戦いをしてみたかったんだよぉ!」

*2
偷蛋龍:オヴィラプトルのこと。




四方世界で化石が出土するかは分かりませんが、もともとなかったとしても、祖竜信仰が確立された時点で、化石は地中に生えてきたはずだと思います。(設定は生えるもの)

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