ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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13/n 裏

1.速いなりの苦労

 

 水の街への道を、爆走する馬車があった。

 

「あがががががが、ちょ、舌噛んじゃう! あだっ、ッ~~~~!」

 

「口ば閉じんか」

 

んんーん、んんーんっ(スピード、落として!)

 

「聞こえんなあ~」

 

 それに乗るのは森人探検家と半竜娘、それに彼女の【分身(アザーセルフ)】であった。

 水の街まで、軍からの勲章をもらいに出かけているのだ。

 

 一つ注釈すると、彼女らの乗る馬車は、4つの呪文の重ね掛けによって、常の四倍以上のスピードで進んでいる。

 精霊術の【追風(テイルウィンド)】、交易神の奇跡【旅人(トラベラー)】、二頭の馬車馬それぞれに掛けられた真言呪文【加速(ヘイスト)】の相乗効果だ。

 

 随分とぜいたくな呪文の使い方だが、これはせっかくの遠出の機会にと、半竜娘らが呪文の組み合わせの試運転をしようとしたからでもある。

 

 そのおかげか、早速問題点が明らかになっていた。

 大きくは四つ。

 

 まず一つは路面の問題。

 普通の速さで走るには問題ないが、四倍以上の速さともなれば、路面の些細な凹凸が乗り心地にかなりの悪影響を与えている。

 荷台に乗っている方はたまったものではないし、路面が削れて深く(わだち)が残るのも良くないだろう。

 

 もう一つは、馬車の耐久性の問題。

 車輪は削れていっているし、跳ね上げるような衝撃によって、車体も車軸もミシミシ言っているし、釘や組木も緩んでいっているような気がする。

 いまだに空中分解してバラバラになっていないのは、交易神の奇跡【旅人】によって、多少なりとも車体の強度も上がっているからだろう。

 神の御業は、その辺抜かりないのだが、【追風】は車体強度には関係ないし、【加速】は馬車馬への作用だから、その分、車体に無理がかかっている。

 

 さらに一つは、振動による乗員の疲労。

 短い時間で済むとはいえ、この振動は乗っている者の体力を削る。

 持久力のある半竜娘は良いが、森人探検家は多少疲労してきている。

 弓の腕が鈍るほどではないし、乗り物酔いにまではならなかったが……。

 

 最後の一つは、人目を惹きすぎることと、他の通行者の迷惑になること。

 なにしろ必然、他の馬車を追い抜きまくることになる。

 目立つし、危ない。

 ぶつかったなら、お互い無事では済むまい。

 

「改善の余地ありじゃのう。いっそ車体は、【降下(フォーリングコントロール)】か何かで浮かせるか」

 

 中腰で立って振動を脚に吸収させながら、手綱を捌きつつ半竜娘は改善策を考える。

 

「車体の強化は必須じゃし、車輪や板バネだとかも改良の余地が……。すると重くなるから馬車馬も上等なものの方が……。いや、いっそ馬車は引かせずに騎乗したほうがよいかの? しかし荷物が積めねばなあ」

 

「んんん、よっと!」森人探検家が、半竜娘の上半身に飛びつき、組み付いた。「はあ、ここなら揺れないわね」

 

「……まあ、構わんが」

 

「スピードを緩めないってんなら、この程度我慢しなさいよねー! まったく!」

 

 飛びついてきた森人探検家の吐息に耳をくすぐられつつ、半竜娘は結論を出す。

 

「とりあえず、あとで改善点を箇条書きにして、馬車屋だのの専門家に相談じゃなあ。専用のものを仕立てねば危なっかしいわの」

 

「そうねえ。早いのは良いんだけど、これじゃ車体が持たないでしょうし。でも、大商会向けとかに、超高速仕様の馬車とかもあるかもしれないわよ?」

 

「それも含めて専門家に聞くことにしよう。さて、帰りは、まあ、どれか呪文一つ分にしとくかの」

 

「賛成。それが無難よ。ていうか、呪文四つは贅沢すぎでしょ」

 

 …………。

 ……。

 

 さらに馬車を走らせて、なんとか無事に水の街に着けたが、実際はかなり紙一重だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

2.吟遊詩人の冒険譚

 

 

 私はしがない吟遊詩人。

 

 持って生まれた美声(CV.速水奨)を武器に、歌を生業にしている。

 街の噂、冒険者の英雄譚、貴人にまつわる昔話。

 

 世の中には面白い事件、人々の興味を引く事物は多いが、私たちのような吟遊詩人が語らねば、なかなか広まりはしないものだ。

 

 さて今日も一通り歌って、店じまい、というところで、私は一人の森人(エルフ)につかまった。

 

 最近、妙に森人に縁がある。

 この間は、上の森人(ハイエルフ)に小鬼殺しのことを聞かれたのだったか。

 

 しかし、この森人は随分と急いでいる様子。

 息を乱し、頬を染め、乱れ髪でもサマになっているのは、流石だが、はて、何用か。

 

「何か御よ――」

 

「歌を即興で! こっち来て!!」

 

「――おっとぉ!?」

 

 強引に手を掴まれて走り出す。

 これが駆け落ちであれば洒落たものだが、どうも違うようだ。

 

 走る方向は、人の流れとは逆方向。

 

 向かう先には、巨大な黒髪・黒鱗の女蜥蜴人のハーフが見える……いや、それにしても大きい。

 魔術の効果なのだろうが、話に聞く巨人ほどはある。

 

「ええと、お嬢さん、一体何を? あっちに見える巨人の女に関係が?」

 

「状況説明するわ!

 あっちのでっかい蜥蜴人の娘が街に忍び込んでた魔神を見つけて殺した!

 でも褒められないどころか衛兵連中に囲まれたから怒ってる!

 だから褒めて気をそらしてあげて!」

 

「ほう! 魔神殺し! それは良い!」

 

「ついでに言うと古竜殺しよあの娘!」

 

「なんと! そういえば、辺境の街から古竜の素材が入って来たとか聞いておりましたが、まさか古竜殺しの張本人とは!」

 

「半竜の娘で、いかにも蜥蜴人らしく武勇を誇る。自慢の爪、自慢の鱗! 武道家にして竜司祭で魔術師! 得意の術は見てのとおり! ああしておっきくなって、敵に突っ込んで薙ぎ倒す!」

 

「よござんしょう。それだけ分かればひとまずは十分。一曲、良い武勲詩を仕立てて魅せましょうとも!」

 

「お代は弾むわ! 出来次第で何なら専属になってくれてもいいのよ?」

 

「魔神殺しにして古竜殺しの専属とは、また詩人冥利に尽きますなあ!」

 

「ほんっと、頼むわね!!」

 

 見ればいよいよ、(くだん)の女蜥蜴人ハーフは、衛兵たちと衝突を起こさんとしている。

 

 どうせ大方、衛兵どもが手柄を横取りでもしようと悪心を起こして引っ込みがつかなくなったか。

 衛兵たちも基本は好漢が多いが、質の悪いのに当たったのやも。

 

 いや……、そういえば、法の神殿の侍祭殺しは捕まっていなかったか。

 半竜娘が片付けた魔神を主犯として、片をつけようとでも思ったか?

 “剣の乙女”の覚えをよくしようと? あのお方はまことにお美しいものなあ! あの(つや)やかさで大司教は無理でしょ、など(ひそ)やかに思ってはいるが。

 

 まあ、勘繰りは後で。

 

 今はあの半竜の娘よ!

 

 

 この場を私の歌で(おさ)めたとなれば、私の詩人としての格も上がろうというもの!

 

 私の知る歌にも、猛る竜を己の歌で聞き惚れさせて大人しくさせるというものがある。

 それを想えば、これは私の冒険譚ともなろうか?

 吟遊詩人に必要なのは、(歌唱の)力と、(時宜を逃さぬ)狡猾さよ。さすれば勝つ!

 

 

 ――さあて、いざ。私の歌を聞くがいい!

 

 

 手に持つリュートを掻き鳴らし、私は声を張り上げた。

 

おお! 讃えよ! 鱗の娘の(いさお)しを!!――」

 

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

3.勲章と暗躍

 

 

 水の街にある法の神殿の一角。

 叙勲の会場として借りられたそこでは、半竜娘が勲章を受け取るのを見ようと、吟遊詩人をはじめとして、少なくない人が押しかけていた。

 前日の紋章の魔神討伐騒動で、名を売った影響のようだ。

 

「魔神将に匹敵する黒き古竜を討伐したことを讃え、ここに勲章を授ける」

 

「謹んで拝受いたす」

 

「うむ、先だっての魔神討伐の件も聞き及んでおる。この西方辺境の秩序への貢献見事。今後も精励されたし」

 

「御意」

 

 国王の名代である只人の軍役人から、壇上で勲章を受け取り、半竜娘は頭を下げる。

 煌びやかな司教服に付けられた勲章が揺れる。

 王国のではなく、諸族連合としての勲章、らしい。

 

 そして、続いては、蜥蜴人の軍師が、半竜娘に声をかける。

 手には大きく派手な色の羽飾り。蜥蜴人の勲章に当たるものだろうか。

 

Votre succes est(貴君の手柄は) la fierte de notre(まさしく) ville natale.(我らの誇りである。) よくぞ生還した、半竜の娘よ。大儀である!」

 

Grace a la revelation(すべては) du dinosaure, jai(恐るべき竜の) pu jouer un role actif.(お導きです) 祖竜の導きにより、父祖に恥じぬ働きをしたまでにございます」

 

「謙遜せずとも良い! 纏う竜氣を見ればわかる、随分と位階も上げた様子! 手合わせでも、と言いたいが、すぐにまた戻らねばならぬ身」

 

「水の街でお待ちいただいていたようで、かたじけなく」

 

「良い、斯様な勇士を讃えるためとあらばな。この地でも案外と爪爪牙尾を振るう相手には事欠かなかったゆえ」

 

 詳しい話はまたあとで、と目で合図を交わして、壇上の次第は終わった。

 

 

 

 そのあと、個別の話をすべく、蜥蜴人軍師は、半竜娘たちを控え室へと誘った。

 一党の一員である森人探検家と、控えさせていた分身体も一緒だ。

 

 

「ようこそ参られた。そちらの森人の方も、どうぞ入られよ。そしてそれは【分身】の真言呪文か、魔術(こちら)の腕も上げたようだな」蜥蜴人の軍師は、如才なく半竜娘たちに椅子を勧めた。

 

「して壇上ではなかなか時間も取れなかったが、なんぞあるのであろう? こちらも確認したいことがあるが、そちらから話すがよい」

 

「かたじけない。軍師殿、まずは手前(てまえ)の進退についてじゃ。単刀直入に言うが、退役して、暫くはこの西方辺境の地で冒険者として活動したい」

 

「ふ、こちらの話題もまさにそれよ。しかしそうか成る程……。まあ、良かろうさ、魔神王も討滅されたゆえな。我らの部族も、貴君の活躍のおかげで、随分と面目が立った。その程度の願いを聞くのは(やぶさ)かではない。冒険の道が祖竜の導きによるというなら、なおのこと。

 それに冒険者となるのであれば、それはそれで使いでがある」

 

「かかか、なんぞ依頼があれば適正価格で請け負うても良いのじゃよ?」

 

 退役話は無事終了。蜥蜴人は直截(ちょくさい)な物言いを好むので話が早い。

 

 まあ、蜥蜴人は生涯戦士であるから、退役といっても単にフリーランスとなる宣言でしかないし、只人のようにわんさかと書類を積んで軍を運用しているわけでもなし、軍籍の概念も曖昧だ。

 

「それで、話は終わりか?」

 

「ああ、いや! こっちがむしろ本題でな! 腕の良い吟遊詩人から武勲詩を贈ってもらったでな、故郷の者どもにも伝えてほしいのじゃよ!!」

 

 そう言って、半竜娘は、武勲詩を書き写した紙束を差し出した。

 

「ほうほうほう! 良きかな良きかな! 貴君の活躍は、こちらも詳しく聞きたいと思うておったところ!」

 

「おう、聞かせちゃるともさ!」

 

 それまでは森人探検家に配慮して共通語(コイネー)で話していた蜥蜴人たちであったが、そこからは鱗者の言葉で流々と会話が始まってしまった。

 そういえば確か、蜥蜴僧侶相手にも似たような語りをしていた気がする。

 

 森人探検家は、この場所を貸している神殿の小間使いが入れてくれたお茶に舌鼓を打って、待つことにした。

 

(長く生きてるけど、蜥蜴人の言葉は覚えらんないわねー。折角だから、そのうちこの子から習ってみるかしら)

 

 と、ぼんやりと眺めていたのだが、急に蜥蜴人たちの会話が共通語に戻った。

 

「ああ、お主にも聞いておいてもらいたいのじゃが。どうも、やはり魔神は昨日の者だけではないようじゃ」こちらを見て半竜娘がそう言った。

 

「そりゃあそうでしょう。あれだけの高位の魔神が、単独でってのがおかしいわ……って、そちらの鱗の御仁も交戦したってことです?」森人探検家も、先日の魔神が単独だったことは疑問に思っていたところだった。

 

「いかにもである、森の人よ。紋章の魔神ほどではないが、中小の魔神とは何度か戦っておる。戦場の癖で【狩場】の祖竜術を使って寝るようにしていてな、奴らは人に化けて紛れておるようだが、それですぐに知れたのだ。あとはこちらから逆撃よ」

 

「確かに化けて入り込むのは常道ですね。衛兵にはそのことはお伝えに?」

 

「うむ? 一度目だけな。奴ら何故か、『内密に』などと抜かしよったから、それ以降は知らせておらん」

 

「……それは……」

 

「そういえば、紋章の魔神が、誰に化けておったのかは、手前(てまえ)らも見ておらんのじゃよな。あるいは、それは、治安当局の誰か、であったのやも」

 

「ふん、只人の流儀も難儀なことよな。上に不信を持っても、指揮系統の末端は、そうそう逆らえん」蜥蜴人軍師はおそらくは溜め息だろう様子で、鼻を鳴らした。

 

「蜥蜴人であれば、上がそんな妙ちきりんなこと抜かす“すくたれもん”になったらば、即座にぶちのめして終いじゃのにな」

 

(しか)(しか)り」

 

 蜥蜴人たちの文化圏ではそうなのだろう。白黒つけるなら、殴り合うのが一番だという連中だ。

 

「まだ決まったわけではないでしょうに。憶測で物を言わない方が良いのでは?」森人探検家が、一応(たしな)めてみるが、本人だって本気で擁護しようとしているわけではない。

 

「お主も内心疑っておっただろうに」

 

「それでも言わぬが花というやつでしょ。

 それで、軍師様、注意喚起のために、語りを共通語にしたのです?」森人探検家は、蜥蜴人軍師に問うた。

 

「それに加えて、こちらでつけていた記録を渡そうと思うてな。魔神連中との遭遇・交戦・撃破の記録を」

 

 蜥蜴人軍師は、そう言って手荷物から紙束を出した。

 

「どんな輩と、いつ、何処で戦ったかという記録だ。使うかどうかは任せるが、恥ずかしながら逃がしたやつもおるゆえ、貴君らがやる気なら役に立つだろう」

 

「おお! かたじけない! 紋章の魔神は何を聞く間もなくトドメを刺してしまったからの! しかも擬態が解けたときに炎を出しおったせいで、何も手がかりが残っておらんでな」

 

 半竜娘が蜥蜴人軍師から紙束を受け取ると、パラパラと一読していく。

 

「頼もしい勇士が引き継いでくれるなら安心よ、しっかり手柄を立ててくれ」とは軍師の言葉。

 

「次に郷里に武勲詩を送るときには、この顛末もきっと歌にして送るとしよう!」半竜娘はしっかりと請け負った。

 

「期待しよう!」蜥蜴人軍師は獰猛に笑った。

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

4.手前(てまえ)なら7日で十分よ

 

 勲章も貰い、軍の職も辞して、武勲詩も預けて一段落。

 

 紋章の魔神の皮については、冒険者ギルドから紹介された信頼できる筋に、その抗魔の力を保ったままに外套に加工するように依頼したところだ。

 討伐報酬の大部分を手付けで持って行かれたが、まあ仕方ないだろう。

 (なめ)して革にする工程から魔術処理が必要であるし、そもそも抗魔の力が籠もっているものに魔術処理をしようとするなら、それ以上の腕を持つ凄腕の錬金術師が必要だ。

 それでも料金が高いだけあり、出来上がりを早めるために、時を早める【風化】の精霊術まで多用しているとかで、今日明日ではないものの、ひと月と経たずに出来上がるのだという。

 

 そして今は、冒険者ギルドで何かちょうどいい依頼がないか探しつつ、魔神の陰謀について考えを巡らせているところなのだ。

 

「んー、魔神関係は特に無いわねー。見回りの依頼はあるけど」森人探検家が優れた視力で依頼票を眺めている。

 

「水路関係の依頼もないのう、溝浚(どぶさら)いやら、大鼠退治やらが。……昨日聞いた通りじゃな。ここの街の冒険者らは、なぜ保全(メンテナンス)の依頼がないかまでは知らんらしいが」半竜娘は首を傾げる。「役所やなんかが自前でやっとる訳でもなし」

 

「役所でやってたら、ますます冒険者ギルドに下請けに出さない理由がないでしょ。おそらく本当に何もしてないのよ」

 

「となれば、遺跡の自浄機構が生きておるのか、なんらかの術だの魔法生物だのかのう」

 

 半竜娘の脳裏には、辺境の街の地下に潜んでいた万能細胞の巨大粘液体のイメージが浮かんでいた。

 下水路の処理に、ウーズだのスライムだのというのは、いかにも有りそうに思える。

 

「多分そうなんじゃないかしらね」

 

「しかしそれにしては不思議じゃのう」

 

「そうよねえ。そういう遺物なり何なりがあったとすれば、その統括はきっとこの街の中心……至高神の法の神殿でしょう? ということは、街の地下を通じて、人々の目から隠されたものも全て見通せてるはずよ」

 

「目の届かない場所……つまりは混沌どもの好みそうなところよの。なのに、魔神は野放しになっておる」腕組みをして半竜娘が唸る。

 

「何らかの理由で、遺跡の機構が動いておらんのか?」

 

「可能性はあるかも。機構そのものが壊れたか、乗っ取られたか。機構を動かすのに術者が要るなら、そちらを押さえられたのかも?」

 

「例えば、ひと月前に殺された侍祭の少女が統括術者、とかかの?」

 

「うーん、流石にそれは無いんじゃないかな。まあ、でも、メッセージではあるかもね」

 

「見せしめ? ビビらせようとしておるのかのぅ」

 

「この間、先の先の魔神王を討伐した“剣の乙女”を? それこそまさかでしょう」

 

「しかし、至高神の神殿の他の巫女らはそうもいくまい。内部が揺れれば、(おさ)はそう軽々と動けなくなる。それだけでも十分じゃ」

 

「ふーむ、動きを押さえる、か。そうすると、治安の擾乱(じょうらん)なんかも、いかにもって感じよね」

 

「誘拐なんぞはまさにそうじゃろうなあ。不安を広げて、生け贄の類も手に入る」

 

「確かに。……ねえ、あなたならどうやって攻める? この街を」

 

「そうじゃのう、まあ、7日あれば落とせよう。ここは遺構の上に建っておるからのう、地下の水路を巡り、街を支える柱や壁を壊すなり抜くなりしてスカスカにして、最後にドカン! じゃ。そうすりゃ街は落ちるじゃろう」

 

「落とすって物理的になの? まあ攻め落としてるのに違いはないけど」

 

「そういうお主ならどうするのじゃ?」

 

「まあ、毒よね」

 

「王道じゃな」

 

「あとは、あの紋章の魔神を3、4体も潜り込ませられれば、火付けしてやるかしら」

 

「水の街に火付けは厳しくないかのう」

 

「なら事前に川の流れでも変えて水を絶っておく? それか逆に上流で大雨降らせ続けて水攻めか」

 

「そもそも魔神を潜り込ませられるのであれば、同じ手でどんどん兵隊をば送り込めば良かろうよ」

 

「確かにね。あとは、調略して上層部だの富裕層だのの一部を寝返らせておけば、まあ十分よね」

 

「軍師殿からいただいた記録でも、上級市街(そっち)側での遭遇が結構あるのう」

 

「そりゃあ軍師さんの行動圏がそうだったからでしょうよ」

 

「いや、行動圏が理由なら、魔神どもは街の全域に満遍なく出るということになるが?」

 

「地下水路の遺跡を通るなら、そうなんじゃないの?」

 

「ふぅむ……。しかし、その割にはまだ破壊工作の規模が大きくないのが、やはり気になる」

 

「じゃあ、遺跡の自浄機構なり、防衛機構は、まだ完全には沈黙してないってことじゃない?」

 

「そういうことになるか……。しかし、時間の問題であろう、魔神の跳梁を許す程度には押されて、徐々に機能を失っておるようじゃし」

 

「あるいは魔神側が、それ以上の負荷で飽和させようとしてるのかもしれないわよ?」

 

「いや、ひょっとすると、街自体は第一目標ではないとしたらどうじゃ?」

 

「あっあー、そうか、その可能性はあるわね」

 

「そも、混沌の奴ばらの目的はなんじゃ?」

 

「……このタイミングだと、やっぱり魔神王の復活?」

 

「であろうの。あるいは、そのための布石じゃ」

 

「怨恨や報仇のセンは?」

 

「それもあり得る。“剣の乙女”など先の先の魔神王との因縁もあるし、丁度良いシンボルじゃわいな。それに只人の全盛期は短いゆえ、十年前よりは相手取りやすいやも。狙いとしてはおかしくなかろう」

 

「なるほど、“剣の乙女”の心を折りたい、その上で絶望の内に生け贄に捧げたい、なんて考えてたら、街の破壊は優先度が落ちるかも」

 

「侍祭殺しもその一環かの?」

 

「なくはない、わね」

 

「そしてやがては街そのものを生け贄に、かの? 魔神王の復活のための供物はどの程度が要るのかや?」

 

「そんなの知ってるのは邪教の輩だけよ」

 

「ならば見つけて問わねばなるまい」

 

「まあ、そういうことねえ」

 

「長々と話したが、やることは結局、あれじゃな。片っ端から見つけてぶっ飛ばす」

 

「そういうことねえー。相手のリソースを削って、手掛かりも得られるかも知れないし」

 

 これしか出来ないわけではないが、これが一番スマートなのだから仕方ない。

 

「地下水路はどうする? あっ、いま、ゴブリン退治の依頼が貼られたわ」

 

「先ずは地上から行くのじゃ、軍師殿の資料もあるから目星もつけやすいしのう。……って、ゴブリン退治じゃと? 地下水路で?」

 

「そうみたいよ?」

 

「雑兵が拠点の地下に送り込まれてきておるとか、いよいよ末期ではないか……」

 

「とはいえ、魔神の方が脅威度は高いから、対処はそっちからかしらね。ゴブリンなら白磁やら黒曜やらの出番でしょ。私たち昇級したから、よっぽど塩漬けにならないとゴブリン退治は受けさせてもらえないかも」

 

「そうじゃの。それに地下水路の地図もない。先ずは精霊に少しずつマッピングさせるところからかのう。遭遇戦で間引くくらいはできるかも知れんが」

 

「……ゴブリン退治は、何日か後に手が余ればって感じね」

 

「先ずは魔神(デーモン)どもからじゃな」

 

 そう言って、半竜娘は立ち上がった。

 街の見回りの依頼を受けるつもりなのだ。

 

「わざわざ依頼受けるの?」

 

「分身に見回り依頼の方に行かせる。分身と手前(てまえ)の二手に別れて、それぞれ【狩場】を使った方が効率的じゃからの。【狩場】の呪文には仲間が必要じゃが相棒はお主だけじゃし、依頼に同道した冒険者を臨時の媒介にすれば、どちらも結界を張れるしの」

 

「でも、衛兵の方に混沌のシンパが居たら、見回り依頼の方は空振りになるように手配するでしょ? 無駄足にならない?」

 

「空振りになる場所が分かるのも収穫じゃろ。そして、空振りになる場所を知るためには、やはり見回り依頼を受けねばならん」

 

「分かったわ、それで行きましょう」

 

 その夜から、半竜娘たちは、魔神を狩り出すためのパトロールをすることにした。

 片方は、分身体の半竜娘が、正規の依頼に参加して。

 もう片方は、半竜娘の本体と森人探検家のペアで、見回り依頼の無いところで、蜥蜴人軍師の資料と照らし合わせて、いかにも出そうだと目星を付けたところへと自主的に赴くのだ。

 

「行動開始じゃ!」

 

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

5.貴様に名乗る名前はない!!

 

 

 夜の水の街。

 その暗い路地で、うら若き乙女が連れ去られようとしていた。

 絹を裂くような悲鳴が響く!

 

「いやっ! やめてっ、助けて!!」

 

「DEAAAAMOOOOONNN!!」

 

「誰かー!!」

 

 ああ、この乙女の危機に、誰も助けに来ないのか!?

 

「待てィ!!」

 

「EANOMD!??」

 

 否、否、否!!

 

 路地を囲む建物の(いらか)に、仁王立ちする影あり!

 長い髪、夜に溶けるような烏色の鱗、長い尻尾。

 そう、半竜娘の登場だ!

 

「乙女を連れ去り贄にせんとする悪鬼、その乙女の声に駆けつける者あり……。悪の栄えた試しなし。人、それを『必然』という」

 

「NANIMONODA!?」

 

貴様に名乗る名前はない!!

 

「!?」

 

 卑劣漢への名乗りなど不要!

 既に半竜娘は、手で真言呪文の印を切っている。

 使う呪文は【突風(ブラストウィンド)】!

 

ウェントス( 風 )クレスクント( 成長 )オリエンス( 発生 )!」

 

 事前に掛けておいた【加速】のボーナス*1も乗って、【突風】の効力値は41! クリティカルだ!*2

 

 【突風】の術は、術者を中心に半径60mの範囲内で、任意の直線上に突風を吹かせて、対象を転倒させつつ運ぶとともに風属性ダメージを与える術!

 今回はクリティカルの上、達成値が非常に大きいので、対象の魔神は為すすべもなく吹き飛ばされる!

 

 吹き飛ばす方向は……上だ!

 

 眼下10mで乙女を襲う魔神を対象に、半竜娘の上空60m(地面から70m)まで、突き上げる気流(ノックアップストリーム)!! 魔神への風属性ダメージは16!!*3

 乙女は対象から除外したため、影響なし!

 

 半竜娘は登りくる魔神を板に見立てて、その上に乗り移るようにして諸共に上昇!

 

 魔神とともに上空70mに達した半竜娘は、自由行動(マイナーアクション)で【降下(フォーリングコントロール)】を発動!!*4

 

土精(ノーム)土精(ノーム)、バケツを回せ(降ろせ)ぐんぐん回せ(ゆっくり降ろせ)回して離せ(降ろして置いてけ)!」

 

 先ずは魔神に対して重力二倍!!

 同時に下向きにキック!!

 

「祖竜の導きを! ストームキィィィィック!!」

 

「DEAAAAMOOOOONNN!??!」

 

 70mの距離を落ちてゆけ!!

 落下ダメージは、落下距離の50%×1D6×重力倍率2。出目は2だったので、ダメージは35×2×2で140!

 落下ダメージは装甲による軽減不能!

 

「DEAD!!!???」

 

 魔神は地面のシミになった!(人質の乙女には当たらなかった)

 

 続いて半竜娘の落下…魔神が落下したのを見届けてから【降下】を重力軽減に切り替え!*5

 落下速度を10分の1に変更!

 

 さらに上手く着地できたか判定のため、落下距離70×重力倍率0.1×3=21を軽業判定!

 結果は成功!*6

 落下ダメージを半減。落下ダメージは、落下距離の半分35×1D6(1)×重力倍率0.1×軽業判定成功0.5=1.75。切り上げで2のダメージ! 掠り傷だ!

 

「た、助けてくれて、あ、ありがとうございます!」

 

「うむ、気をつけて帰るのじゃぞ!」

 

 そう言って半竜娘は襲われていた乙女を見送った。

 

 …………。

 ……。

 

 そこへ追いついてきたのは、森人探検家。

 

「ちょっと! さっきのは危ないし、【狩場】のリンクも切れちゃうからやめてよね! だいたい、私の弓矢で十分やれたわよ! それに重力操作しなくても、【突風】で上に吹き飛ばすだけで良かったでしょ!?」

 

「でもかなり気持ちよかったのじゃ! 次はあらかじめ落下地点に土の自由精霊に【隧道(トンネル)】で穴を掘ってもらって、さらに敵の落下距離を延ばすのじゃよ!」

 

「反省しろー!!」

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

6.ゴブリン退治といえば……

 

 数日のあいだ、半竜娘たちは魔神を炙り出すべく水の街を駆けずり回った。

 おかげで相当数の魔神を殺し、誘拐などの事件を未然に防げたし、半竜娘たちを警戒してか、魔神絡みと思われる事件も減ったように思われる。

 

 しかし、そのあいだも、ゴブリン退治の依頼は残ったままだった。

 

「そろそろゴブリン退治(こっち)もマズいのう……」

 

「そうね、何処かから送り込まれて来てるなら、もう軍隊みたいな数になってるかも……」

 

 森人探検家がうんざりとした顔で、ギルドの机に突っ伏す。

 そこから見える依頼票掲示板には、ゴブリン退治の依頼が残ったままだ。

 

「依頼を請けた水の街の白磁やら黒曜やらの冒険者も戻っておらんのじゃろ?」

 

 半竜娘は、契約精霊の水蜥蜴の水霊に、日課のお供え物をしている。果物と蜂蜜酒が、小さな水蜥蜴の腹に消えてゆく。

 

「そうみたいなのよねえ。マッピングのために貴女が潜らせてる精霊も何匹かゴブリンをやっつけてるけど、遭遇頻度も多くなってきてるみたいだし、その程度じゃ焼け石に水よねえ」

 

「夜の街で【狩場】を使っても、地面の下での反応がうじゃうじゃ増えてきておるのが分かるしのう。あれゴブリンじゃろ」

 

「ああ、こんなとき」「こんなときこそ……」

 

 二人は揃って慨嘆する。

 

「「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)がいたらなあ……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

呼んだか

 

 

 

 

 

 

 

 ビクゥッと半竜娘と森人探検家の肩が跳ねた。

 

「そ、その声は、ゴブリンスレイヤー!!」

 

「水の街に来ておったのか!?」

 

「そうだ」

 

 声の方を見れば、汚れた革鎧に、飾り角の落とされた全面兜、円盾、半端な長さの剣……いつもの出で立ちのゴブリンスレイヤーの姿が!

 

「それで」

 

 彼が来る理由など決まっている。

 

「ゴブリンか?」

 

「そうよ!」「その通り!」 

 

「「ゴブリン退治よ!!」」

 

 

 小鬼殺しが来たなら百人力よっ!

 

 

「いいだろう、ゴブリンは……皆殺しだ」

 

 

*1
半竜娘【加速】行使:真言行使基礎値20+付与呪文熟達3+2D6(46)+クリティカルボーナス5(生命の遣い手効果)=38。加速ボーナスは、全判定に+4。

*2
半竜娘【突風】行使:真言行使基礎値20+加速ボーナス4+2D6(66)+クリティカルボーナス5=41。

*3
半竜娘【突風】ダメージ値:魔術師レベル6+4D6(2236)-装甲値3=16

*4
半竜娘【降下】行使:精霊術基礎値15+加速ボーナス4+付与呪文熟達3+2D6(14)=27。

*5
フォーリングコントロールの裁定:発動中の重力倍率の操作が可能かどうかはGMによる。駄目なら二度目のフォーリングコントロールで重力を軽減することとする。(でも、コントロールって名前の呪文なんだから、対象ごとの個別操作は無理にしても、維持中の対象一律なら倍率操作は出来そうだよなー)

*6
半竜娘軽業判定:技量集中7+武道家レベル6+体術2+加速ボーナス4+2D6(14)=24で、目標値21を上回ったので成功!




(ゴフスレさん来たし)勝ったな、ガハハ。


次回:14/n 「14へ行け」
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