ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
ハック&スラッシュ そして ドラゴンパレード
ちょっとこれはないと思うんじゃよなあ。
普通、目の前に【転移】の門っぽい裂け目が出てきたらそっちに飛び込むと思うじゃろ?
全然別の方に行くとは思わんよ。
いきなり
こういうとっさの動作で身体のコントロール奪われがちなのは何なんじゃろうな、普通、《
……ああ、
そら平気でコントロール奪ってくるわの。
まあここまで来たら、もう身を任せて行き着くところまで行くしかないんじゃろうの。
分水嶺はとっくに過ぎておる。
もちろん、足掻けるだけ足掻いてみるが、はて、行き着いたときにどういう心境になるか、自分でも想像がつかぬな。案外すんなり祖竜と一体となるのを受け入れるのかのう?
さて、妙な方向へと跳ばされたとはいえ、転移自体は成功したようじゃ。
頭から空間の狭間に突っ込んだはずじゃが、どこかで捻じれたのか、出るときは足からなんじゃな。
まあ、助かるが。
転移して出たら、一瞬で情報を把握。自分がいるのは空中。どこか室内、遺跡の通路か? 壁際じゃな。松明はないが暗視できるから支障はない。
落ち行く我が身の眼下に見えるは二体の竜牙兵。鎧に剣に盾。守られるように扉。
しかも二体とも
手練れの竜司祭しか呼び出せんような代物じゃぞ!
偶然召喚したてのところに出くわしたのでもなければ、ずっとここにおるのか。
とすれば、永続化されておるのか? 恐らくそうじゃ。
時間切れで消滅することは期待できぬ。
ならば、積極あるのみ!
こちらはすでに臨戦態勢じゃ! いきなり転移してきた敵に対応できるはずもなし、先手はいただきじゃっ。
すでに詠唱準備は終わっておる。
――【停滞】せよッ!
「シャァッ!!」
通った!
これでもはや動けまい!
尾を一振りし壁を押す。
その勢いで落ちる軌道を変えて、暴君竜牙兵の片方の首へと飛びかかる。
幸いにも相手の動きは止まっておる。このままイける!
頭骨を抱えて組み付き、捻じりつつ、暴君竜牙兵の首の骨を蹴り砕く。
そして胴体から外れた頭骨を抱えて回転。
空中で放り投げ、カカト落としで足先に引っかけ、着地と同時に粉砕!
次!
【停滞】してバランスを崩して倒れ来るもう一体の暴君竜牙兵に向かって跳躍。
その鼻先とすれ違うように跳び上がり、回し蹴りならぬ回し尾撃で横っ面を吹き飛ばす。
暴君竜牙兵の頭骨は独楽のように回転し吹き飛んだ。
「シィィィ……」
暴君竜牙兵の倒れる身体と吹き飛んだ頭骨が、床や壁にぶつかり音を立てると同時に、
息を整えつつ残心し、意識の片隅で【停滞】の魔法を維持。
なんじゃ、稚児の群れで調練をやったきりじゃが、意外と動けるのう……と、いかんいかん、これはティーアースの権能のおかげじゃ。
過信慢心は禁物じゃて。
ではサクリととどめを刺すかのう。
頭の飛んだ方はあちらじゃったか。
「っと、見つけたわ。潰れ砕けよ! ハッ!」
気合一足、暴君竜牙兵の頭骨を砕く。
忍び込んでおる身ゆえ、雄叫びを上げる訳にもいかんのは歯がゆいのう。まあ、竜牙兵の倒れた音で警備の輩も気づいておろうが、わざわざダメ押しすることもあるまいて。今少し静かに事を成すとしようかの。
見れば足の下の暴君竜牙兵の砕けた頭骨の隙間から、立派な牙が見える。
……ふむ、やはり、どうやってか永続化されておったか、消えぬようじゃの。術の触媒になりそうじゃし、拾ってゆくか。ズタ袋に丸ごと入れておけばよかろ。二体分合わせて低位の竜牙兵なら十分な数を呼び出せよう。
さて、それにしても、先は気づかなんだが、ここは見覚えがあるぞ。
だとすれば、ここはあの下衆の黒鱗のエンシェントドラゴンの関係の砦か。
ならば略奪にもますます気合が入ろうというものよ! しかしこれが秩序側の砦であったら大惨事じゃったな……。
番兵を片付ければ、次は本命の扉かの。
「ふむ……ま、錠がかかっておろうなあ、当然か」
押しても引いても開きはせん。当り前じゃが竜牙兵の腰元に鍵のあるわけでもなし。
とはいえ、このような時に取るべき手段は決まっておる。
「本来であれば我が爪にて解決すべきところじゃが、道具を上手く使うのもまた一つの“強さ”よな」
暴君竜牙兵の持っておった剣を拾い上げ、大上段に構える。
やはりティーアースの権能か、妙に頭が冴えおる。狙うべきは……そこか。
裂帛の気を込めて、振り下ろす。キンッと澄んだ音を立てて、蝶番のあたりの扉を斬った。幸いであったのは、この剣が竜牙刀を永続化したものであったことかのう。扉に掛けられていた魔法をもろともに斬るのに、魔法そのものを実体化したこの剣でなければこうも簡単にはいかんかったかもしれん。
さて、これで錠ごと扉を開けられよう。
「……なるほど、ここは武器庫か、物資置き場か。何れにせよ戦支度をするにはうってつけじゃのう」
扉を開けた先には、武骨な、しかし魔法の輝きを宿した武器防具。
魔法の指輪に腕輪、ほかにも色々な魔法の道具類。
薬品棚には、いつも見るようなポーションから、いかにも妖しい薬物まで。
「うむ、うむ! より取り見取りというやつよのう! だが一人ではいかにも効率が悪い」
腰元のポーチから沼竜の牙を取り出す。
いでよ竜牙兵よ!
――
ううむ、一体では足りぬか? 時間もないし、呪文は使い切ったが、もう一体いっておくか。
おいでませい!
――
むむ、超過祈祷でもいつもより疲労が軽いのう。
これならあと軽く三度は唱えられそうじゃが……いやいや、これは邪神の権能。慣れてはならん。
さて、冒険者としての仕事に取り掛かるかのう。
竜牙兵どもにはズタ袋を渡して、目利きの要らんような目立つものをやってもらうか。
ふむ、抱えられそうな木箱もあるのう、それを使うのが先か。
「貴様ら一つづつ木箱をひっくり返して中身を出せ。……おう、そうじゃそれでいい。で、中身の……これは数打ちか? なら放っておいてよかろう、寄せておけ。したらば、そっちのは向こうの棚の魔法具を浚って木箱に突っ込め。貴様は向こうの腕輪と指輪じゃ。そこそこ綺麗な棚じゃから士官用かのう、期待できそうじゃ。それが終わったら、こっちに来い。次の指示をする」
で、
背負い袋の中を捨てて、魔法の品と魔法薬を見ていくか。
……ほうほう、かなり上級の身体強化の指輪に、各種の武術・体術熟達の指輪、その他魔法のかかった指輪に、何とも高級そうな”
割れぬようにところどころに手持ちの服を敷きつつ、次々と背負い袋に入れてゆく。
「これは、鑑定の魔具か。どれ」
いかにもな片眼鏡をつけてみれば、やはりそれは鑑定の魔具であったようじゃ。
薬品の類もこれがあれば安心じゃの。
戻ってきた竜牙兵どもに、武器防具を奥に大事に飾られているものから順にズタ袋に入れるように指示し、
「やはり上品質の秘薬ばかりじゃ。それにヒドラの毒薬に、これは――」
ある薬品を手に取った時に、ティーアースが特にうるさくなった。これが
鑑定の魔具で見てみれば、なるほど、『狂魔覚醒剤』――勇者の薬か。
軍師課程で習った覚えがあるぞ。疲れを知らず、傷で鈍らず、無尽蔵に魔法と奇跡を使えるようになり、全身体能力がさえわたる劇薬じゃ。
当然副作用はひどいものとなるし、中毒と後遺症も重い。じゃが、そもそも後のことを考えるような状況で使う薬ではない。戦場で暴れに暴れて、そして負け戦であれば薬の効果が切れてそのまま事切れる定めじゃ。
もちろん、蜥蜴人に最初から死ぬ気で使う者はおらん。勝ち戦で、従軍司祭の数がおり、【賦活】の奇跡を重ねてかけるのが間に合えば、大いに暴れた勇者の命もつなげると聞く。
ふん、まあ、
さあて、次は魔法の巻物じゃ。
…………。
……。
――よし、まあ、こんなものかの。
では最後に嫌がらせをしておくか。
やはり敵の砦は燃やして爆破してなんぼじゃし。
火の秘薬や燃える水を積み上げ、その他攻撃系の魔法の巻物を組んで爆発の衝撃で開くように、簡単な仕掛けを作っておいた。
導火線は、火の秘薬の粉を線のように床にこぼして作っておく。
ここからは【転移】で逃げる。もちろん、
行く先は分身の下じゃ。いまも下水で大鼠や黒蟲を殺しておる分身との繋がりを意識する。場所を隔てても精神がつながっておる、それを辿るのは、容易いとは言わぬが、出来ぬことではない。
スクロールを開き、刻まれた魔法が発現する際に、その魂の繋がりを意識して干渉。行先を書き換える。
冷や汗ものじゃったが、か細いつながりを無事に辿れたという手ごたえがあった。
「――! ■■――!」 「■■? ――!」
さて、いよいよこの砦の衛兵どもがこちらに来ておるようじゃ。
盤の外まで吹っ飛ぶような罠が待ち構えているとも知らずにの。
竜牙兵に導火線を点火させ、すぐに戦利品を持たせて転移の門に突っ込ませ、撤退させる。
残りの品に目をやるが、略奪したものに比べれば一段落ちる品ばかり。
とはいえ、残すよりは綺麗さっぱり吹き飛ばした方がよかろう。もったいないが、致し方なし。敵の物資は、奪えぬなら焼くに限る。
決して火付けが楽しくなってきたわけではないぞ?
では
砦が吹き飛ぶところを見られぬのは残念じゃが、どうか敵兵諸君、
置きみやげに燃える水の入った瓶を投げて、
△▼△▼△▼
混沌と秩序の戦いの最前線。
黒い鱗の古竜は不機嫌であった。
さきほどに、砦の貯蔵庫が吹っ飛び、武具や物資が失われたという。
いくら本領に貯め込んでいる財貨に比べれば些少とはいえ、自分の財が失われるのはドラゴンの本能をひどくささくれさせる。
《それで》
配下の魔神や、混沌に与した蜥蜴人どもを睥睨する。
苛立ちが声に乗ったのか、特に蜥蜴人どもが身を固めたのが分かる。
鱗はあれど、所詮は小さき駒にすぎぬ。神々より大駒たれと創られた我に敵うはずもなし。
《下手人は》
「今探させておりますが、どうやらこちらの術士の呪文が込められた宝玉を持ち去っておる様子。じきに繋がりを辿り、あるいは探査の魔法で見つかりましょう」
《込められた魔法はなんであったか》
「確か、急場の増援用にゲートを開くものだったかと」
ならば下手人がそれを使うこともあるやもしれんか。
我も暇ではないが、どうせこのままでは怒りで仕事にならん。
いま暫しは、すぐに出られるよう増援の間に控えておくか。
誰の怒りに触れたのか、ようく教えてやろうではないか*1。
△▼△▼△▼
受付嬢は不機嫌であった。
つい先ほど、あの半竜娘がやらかしたのだ。
しかも知らせてきたのは街の衛兵の中でもねちっこいやつだった。
なんでも、半竜娘が街のはずれで大量に骨の魔物を呼び出しているとか。
「やってることが、完全に邪教徒とかそういうあれなんですけど!」
しかも理由を尋ねたら、「竜が来るから備えている」と言ったらしい。
「妄想癖を患ってるようには見えなかったんだけどなあ~」
自分の見る目も鈍ったかと、ちょっと自信を無くす。
隣の監督官はあきれ顔だ。
うだうだやっていると、前から影が差す。あ、依頼かしら?
「受付さーん! どうしたんです? この不肖で解決できるなら使ってやって下さーい!」
違った、槍を背負ったのは銀等級のいつもの彼さんだ。
珍しいことに、完全武装なのに冒険にもいかずに朝からずっといらっしゃるのよね。
相棒の魔法使いの彼女も一緒にいるし、朝は依頼票も見てたから、冒険に行くつもりだったんだろうけど。
でも取りやめたのは……半竜のあの娘とやり取りしてから?
――まさか、この人たちも何かあの半竜の娘の被害に既にっ!?
「あ、あの、朝に、半竜の、えーと、蜥蜴人のハーフの子が居たじゃないですか」
「ええ、ええ、居ましたね! なかなか愉快なやつで!」
あれ? 意外と好感を持ってるっぽい?
なら、迷惑かけられたとかではないのかも?
「それでですね、その子が今、街の外で骨の兵隊を増やしてるとかで、衛兵さんから話が」
「へえ、そいつは剣呑ですね」
さすがに場数を潜った冒険者だけあって、すぐに目つきが変わりました。
「それで、あなたは、何か朝、半竜のあの子と話してて、気になったこととかありませんでしたか?」
「そうですねえ。ひょっとして、半竜の嬢ちゃんは『竜が来る』とか言ってません?」
「そう! そうなんですよ! って、あれ、私それ言いましたっけ」
言ってないですよね? それとも槍使いさんは何か他にも知っている?
「なるほどなあ、そしたらそろそろですか。朝から待ってたのも無駄じゃあなかったみたいです」
「え、それって……」
「竜が来るんだったら、準備しなきゃなりません。【竜牙兵】の術は長く続くもんでもないですから、それから考えるに、一時間もしないうちに竜は来るんでしょう。それで、
「場所は街の外の、地図でいうとこの辺ですけど――」
え、本気にしてるんですか?
「え、本気にしてるんですか?」
しまった声に出ていた。
「ええ。だってたぶん
「え?」
「受付さんは、たぶん街の方の対応と、場合によってはさらに増援の手配とかで大変になっちゃいますけど、なあに、このオレがそんなことにならないように上手くやりますから、安心してくださいね!」
神からの託宣?
でも、だとしたら。
「ほ、ほ、ほんとに竜が来るんですか!?」
「まあ、多分。うちのの言うことには」
そう言って槍を担いだ戦士の彼は、相棒の魔法使いの彼女の方を見る。その魔女ごとき格好の彼女は、それに頷いてみせた。
「一大事じゃないですか!!」
「大丈夫! このオレがついています! 大船に乗った気で――」
その瞬間、私は死んだかと思った。
いや、私だけじゃない、きっと街全体が、恐怖に縛られた。
――――
「……どうやら想定の5つは上のやばいヤツらしい。上位魔神よりもやべえプレッシャーだ、しかもこの距離でだと? 噂の魔神将級か?」
こんなプレッシャーの中でも、辺境最強の槍の使い手は動けていた。そして相棒のスペルキャスターの彼女も。
「いくわ よ、 ね?」
「ああ、すぐ行こう。それじゃ
「私たち、で しょ?」
「そうだな、オレたち一党にお任せを!」
さすがは、辺境最強の一党。
彼らがすぐ対応できるように残っていて、本当に良かった。
でも、
「お待ちを! 緊急の依頼として出します。まずは状況の――」
私がギルド職員としての仕事をしようとした瞬間、遠くで大きな地響きがした。
竜が墜ちた? 降りた? それとも魔法攻撃? わからない。でも、
「――まずは状況の確認と報告を。こちらはこちらですぐに動けるようにしておきます」
「承知しました、お任せあれ」「わかった、わ」
やはり、頼もしい。
さて! こちらはこちらの仕事をしないと!!
△▼△▼△▼
初冒険のゴブリン退治は、村で小鬼を追い払うのとは全然違っていた。
まず相手の数が多い。しかも前からも横からも沸いてくる。
地の利がない。暗闇は向こうの味方だ。
狭い洞窟では剣を振り回せない。
小鬼を殺せばその分、刃が血脂で鈍る。
毒の剣は迂闊に受けられない。
そして雑魚だけじゃなくて、ボスが居やがった。
でも、生き残ったし、攫われてた女の人も助けられた。
それはやっぱり、仲間がいてくれたからだ。
冒険前に薬を買いに行く短い時間で、魔術師の女の子が怪物図鑑を読み込んでくれたおかげで、ホブやシャーマンについて知れていたのも良かった。
俺じゃあんなに短い時間で調べるなんてできやしねえ。
シャーマンがいることに気づけたのも、魔術師の彼女がトーテムに気づいたからだ。おかげで毒を警戒できた。
出発直前に誘った地母神の神官の娘だけど、こっちもすっげえ優秀だった。
なんと奇跡を三回も使えるんだ!
多少の傷は回復してもらえるってのは安心感がすげえ。彼女のおかげで、俺たち前衛が傷を恐れず前に出られるんだ!
そして幼馴染の武闘家のあいつ。
狭い洞窟じゃあ、俺が段平を振り回すよりも彼女の拳の方が早い場面も多かった。
それにあとは投擲の技量もすごかったな。特にゴブリンが落とした毒の短刀を、咄嗟に蹴ってホブとかいうでっかいのの目にぶち当てたときは痺れたね!
ああ、剣士の俺だって何もしなかったわけじゃないぜ。
やっぱり一党の頭目だからな、メンバー全員生きて帰れるように気を配ってこそってもんよ。まあ、道具屋でたまたま一緒になった大剣を背負ったいかにも“重戦士”って感じの兄貴の受け売りだけどさ。
学がないなりに気を配って、知恵は魔術師の女の子にも借りて、まあ最低限、洞窟の隊列とか、軽い連携とかを事前に決めておいたのは良かったよ。
だって、魔術師や神官の子たちに魔術や奇跡を使うタイミングを聞かれるまで、そんなこと考えもしなかったからな。
でも、考えてみれば当たり前だ。
雑魚に魔術を使っても仕方ないし、軽傷で治癒の奇跡を使ってももったいない。
前衛が崩れたときにどうやって立て直すかとか、片方怪我したときの入れ替わりとか、決めることはたくさんあった。
毒をくらって解毒剤の世話になったり、剣を洞窟に引っかけたりもあったけど、絶対諦めないって思ったら、不思議と活路が見えてきた。
出発前に銀貨と助言をくれた、あのでっけえ女の子にも感謝だな。
もしへらへら何も考えないで挑んでたら、危なかったかもしれねえ。いや、絶対やばかった。幼なじみの武闘家がゴブリンどもに……なんて考えると、はらわたが煮えくり返りそうになる。
でも、何もかもうまくいったわけでもなかった。
殺したと思ったゴブリンが生きていて、挟み撃ちにされかかったんだ。死んだふりしてやがったんだよ。
後衛が直接狙われて、一転してピンチになった。
前の方にばかり意識が行ってて、完全に不意打ちになったからな。
一番後ろにいたのは神官の子だったから、俺たちも焦った。回復役がやられるのはヤバイよな!
でもそこで、助けが来たんだ!
誰がわざわざ、もう冒険者が向かっていった洞窟に助けに来てくれるんだって思うよな!?
でも来たんだよ、来るんだよ、そう、
後ろから神官の子に掴みかかっていたゴブリンを一撃!
そしたら前衛の方にも剣を投げて加勢!
小鬼の剣を奪っては投げ、ゴブリンシャーマンもやっつけた。
その隙に俺らはホブに集中して、幼なじみの武闘家がゴブリンスレイヤーさんの真似して毒短剣を蹴って飛ばして、魔術師の子の魔法でとどめ!
いやあ、冒険とはかくあるべしって感じぃ?
でも、冒険って華やかなことばかりじゃない。特にゴブリン退治は。
助け出した女の人はボロボロだったし、巣穴の中は臭いし、悪趣味な人骨の椅子はあるし。
胸糞悪いってばないぜ。
ああゴブリンのガキもいたな。
神官や魔術師の子たちなんかは殺すの嫌がったけど、やっぱり都会育ちだからかねえ。
あいつら要は害獣だろ? 子供まで殺して根絶やしにしないとまた増えるじゃんかよ。
農村育ちの俺と幼なじみの武闘家は、まあ、殺すのも別に何とも思わなかったな。
ゴブリンスレイヤーさんの言う通りなんだよな。
人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ、って。
いやあ、良いこと言うね、さすが銀等級。
で、まあ、何とかかんとか依頼を終えて、ゴブリンスレイヤーさんと一緒にみんなで街まで帰ってきたところなんだけど……。
「なにあれ」
「何って……」
「ゴブリンではないな」
街の近くまで来たら、すごい濃い血の匂いがしてるんだぜ。地響きもしてる、ズゥゥゥンってさ。
しかも、なんというかこう、一言でいうと”ヤバい”感じがうなじの辺りにビリビリ来るんだ。
魔力的なアレもヤバいプレッシャーなのか、魔術師の子の顔色もめっちゃ悪くなるし。
いや、分かってる、遠くからでも見えてた。
けど、ちょっと信じられなくてさ。
「ドラゴン、ですよね……街は、孤児院は大丈夫なんでしょうか」
「とりあえず、燃えてたりはしていないみたいだけど……」
そう、ドラゴンだよ!
いや、やがてはドラゴンを倒す冒険者になるんだ! って意気込んでたけどさ!
でも今日のゴブリン退治である程度現実を知ったていうかさ、そんなときにドラゴンだよ!
「とにかく近づいてみましょう。慎重に」
「お、おう。ドラゴンが出てきたにしては、なんか変だもんな」
そう変なんだ。
空の裂け目からドラゴンが次々出てきてるんだけど、出てきた途端に全部動きを止めて落ちてくんだぜ。
そしてドラゴンの声はしないんだ。血の匂いだけが濃くなっていく。
何が起きてるっていうんだ?
「な!?」「あっ!」「え?」「あれは…」
「……やはりゴブリンではないな」
竜が出てくる空の裂け目の下にたどり着いて見たのは、骨の魔物を従えて戦うでっけえ女二人。
って、よく見たら!
「あれ、朝の蜥蜴人ハーフの人! でもなんで二人? 双子!?」
そうそう、幼なじみの武闘家の言う通り、朝に餞別を渡してくれたでっかい女の子だったんだ。
周りには、重戦士の兄貴の一党や、いかにも強そうな槍使いと色っぽい格好の女魔法使いも居て、いつでも飛び出せるように身構えてる。
「双子に見えるのは、多分【分身】っていう真言呪文よ」
「分身……そういうのもあるのか」
うちの魔術師の子の解説を聞きつつ見てる間にも、蜥蜴人のねえちゃんは竜をぶちのめしていく。
周りの骨の兵隊が、竜に集っては頭や関節に打撃斬撃を入れて、動きを止めていく。
そして最後はひっくり返して仰向けにさせて、蜥蜴人のねえちゃんがドラゴンの胸に飛び乗って爪を突っ込んで……あばらを開いて返り血の中で心臓を抉り出して、まだ動いてるそれに食らいついた。
「ひっ……」
わかるよ地母神の神官ちゃん、俺もちょっとそれはどうかと思ったし。
「蜥蜴人の宗教は、異端の心臓を食べることで祖竜に……私たちでいうところの神に近づけるという教えよ。……つまり、彼女の行為は、神殿で祈りをささげるのと同じ……」
「解説はありがたいけど、本当にそう思ってる? 都の魔術師さん?」
「……文化の違いを受け入れたいとは思うけど、でも見えないところでやってほしいとは思うわ」
だよね。顔真っ青だもんね。
そんで、全部の竜を
と思ったら、また空に裂け目ができて、竜が出てきて……。
「スロウッ!」
杖を持った方の蜥蜴人のねえちゃんが【停滞】の呪文(うちの魔術師が解説してくれた)を唱えたら、あとは同じ流れ。
竜が落ちて、骨の兵隊(これは竜牙兵というらしいとうちの魔術師が以下略)が集って、爪の方の蜥蜴人のねえちゃんが開きにして心臓の踊り食い。
なんというか……。
「無駄がないな」
そうなんすよゴブリンスレイヤーさん。
まるでゴブリン殺してるときのゴブリンスレイヤーさんみたいな、無駄をそぎ落とした熟練の凄みってやつを感じるんだよなあ。下手に介入するとリズムが狂ってマズイことになりそうな気すらする。
どんだけ竜を殺してるのよ……って街の方を見たら、見なきゃよかった。竜の死体で道ができてるよ……。
結局、万が一にも蜥蜴人のねえちゃんがしくじった時にどうにかしなきゃいけないわけで――ほかの冒険者に聞くと緊急依頼が出てるらしい――竜が打ち止めになるまで、俺たち冒険者は臨戦態勢でこの殺戮ショーを見続けるハメになったんだ……。
剣士くんパーティ生存おめ!
半竜娘ちゃん「食った食った! 竜の心臓は消化も早いのかのう? いくらでも食えるわい!」
TASさん(存分に暴力を振るって、満腹になったし、言うこと聞いてくれやすくなったりしないかな)