ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
●前話:
半竜娘「“わたし、残酷ですわよ”」
森人探検家「ほんとにそう」
邪悪な魔術師(蟲食い状態)「
森人探検家「あなたに心臓喰われ続けても心折れなかった魔術師がむしろ不屈の善玉に見える不具合。まあ生贄の死体の山配置した巨大魔法陣作ったりしてるからこっちはこっちでギルティなんだけど」
半竜娘「素直に死なんのが悪い。言葉持つ者の付けた傷では死なんどころか、だんだん耐性がついたのか、しまいには心臓抜きの痛みも感じんようじゃったしのう。腹もくちくなったし、仕方ないので蟲に喰わせたった!」
まさに外道! でも小さきものに喰わせて食物連鎖を回すのもまた蜥蜴人の供養の流儀だからね! 仕方ないね!
1.念願のジェットブーツを手に入れたぞ!
シュバババババババッ!
「おお見よ! この素早さを! これは良いものじゃー!!」
残像が残るくらいの勢いで、ギルド近くの空き地に線を引き、反復横飛びしているのは、半竜娘。
その足には、白亜の巨塔で略奪してきた魔法の靴……というより魔法のアンクレット『ジェットブーツ』が装着されている。
羽のような意匠があしらわれたそのアンクレットは、足首に装着することで、履いている靴に融合し、縦横無尽に風を吹き出す加護を付与し、装着者の移動力を大幅に増強するのだ。
あえて数値にすれば、移動力+15。なお、この数値は“鈍足な只人”または“並みの蜥蜴人”の足の速さを2倍にすることができる程度である。
「動ける蜥蜴人とか、完全生物では?」 TS圃人斥候は
爪や鱗のおかげもあって素で強い種族の中でも、さらに数万人に1人レベルの才能の持ち主が、種族特性上の弱点を克服したとなれば、それはもうエラいことである。
特に半竜娘の場合は、移動力が【突撃】の祖竜術による破壊力に直結するため、ジェットブーツにより移動力とともに衝撃力も大きく向上することは確実。
2倍とまでは言わないが、1.6倍以上になる。
いよいよ天災じみてきた。いや、それは今更だが。
「今まで以上の威力を出してどうするのよ。何と戦う気よ」 森人探検家は、頬杖をついて呆れている。
実際、大抵の魔神は、準備さえ整えば、ジェットブーツを装着する前から一撃確殺であったし。
ジェットブーツで増強した大威力*1が必要なときなど、エンシェントドラゴンだの魔神王だのを倒すときくらいではなかろうか。
あとは土木工事だろうか。
これだけ威力を出せれば発破要らずになりそうである。
「そういえば私の加入前に、
一党の移動速度のばらつきを抑えるなら、文庫神官にジェットブーツを装備させるという選択肢もあるのだが。
「お姉様が喜ぶ方が、私が嬉しいので」と文庫神官が辞退したため、ジェットブーツは半竜娘の持ち物になった。
移動手段が徒歩だけの一党なら、一番足が遅いメンバーの移動力の向上にも意味があるが、半竜娘一党は馬車を持っているので、徒歩の移動力は、そこまで気にしなくてもいいかも知れない。
ちなみに、ジェット
アンクレットなので、蹴爪を出せるように作ってある自前の靴を履けるし、半竜娘はこの仕様をかなり気に入っている。
「ウッヒョー! ヒャー!」 とか言いながら、縦横無尽に駆け回っている姿は、完全に新しい玩具を与えられた子供のそれだ。
「まったく、いい加減にしなさい!」
「のじゃっ!?」
すてーん、ゴロゴロゴロ……。
森人探検家が、機敏に動く半竜娘に追いつき、その足を引っ掛けて転ばせた。
実は、ジェットブーツの加護があっても、まだ森人探検家の方が機敏に動ける。
このあたりは、さすがのエルフといったところか。
「はしゃぎすぎよ」 冷たく見下ろす森人探検家。さすがパーティーの女房役、といったところ。
「うにゃ、目が回ったのじゃ~……」 目を回して頭を揺らす半竜娘。
「ああ、はしゃぐお姉様も尊かったのに……」 肩を落とす文庫神官。
「またそのうちすぐ見られるだろうよ。あれでまだ成人したてのガキだからな」 ヤレヤレと肩をすくめるTS圃人斥候。
さあて、新装備の慣らしも終われば、次の冒険が待っているもの。
冒険者よ、新たな冒険に備えよ!
<『1.念願のジェットブーツを手に入れたぞ!』 了>
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2.誕生日のお祝いに
夏も終わりに近づいたある日のこと。
依頼から帰ってきたゴブリンスレイヤーは、食卓に着くと、牧場の牛飼娘へと、金貨の入った袋を差し出して置いた。
「ん? もう今月のお家賃はもらったよー?」
「いや」 首を振るゴブリンスレイヤー。「明日は誕生日だろう」
「え」
誕生日? 誰の、って、ああ、そうだ、明日は私の誕生日だった。と牛飼娘は思い至った。
忙しくてすっかり忘れていたが、明日で19になるのだ。
ということは、
「何を贈れば良いかわからんから、これが一番だと思った」
誕生日を覚えてくれているのは嬉しい。
さらに、祝ってくれるのもまた、嬉しい。
嬉しいが……。
でも、プレゼントが現金というのは……下の下だろう。
「もう。ホンっとに、君ってさ……」
軽んじてるのかと怒ればいいのか、悲しめばいいのか、なんでそれでいいと思ったかと呆れればいいのか、そういう情緒を削ぎ落とさざるを得なかった彼の境遇を嘆けばいいのか。
ない交ぜになった感情は、結局苦笑いとして結実した。
「仕方ないなあ」 まあ、それはそれとしてプレゼントだ。下の下だが、プレゼント。金貨袋をその豊満な胸にぎゅうと抱いた。
「そういうときは、一緒に買いに行こうって誘うとか、そういうのが欲しいな」
小首を傾げた彼女に、ゴブリンスレイヤーは唸りつつも、その兜を縦に振った。
「わかった」
「ホントかなあ」
苦笑して金貨袋を置いたら、どうもそのシルエットに違和感が。
「あれ、金貨以外もある?」
「ああ、それは……」
金貨袋の口を開けると、そこには。
「わあっ、すごい! ペンダント!?」
「最近手に入れたものだ。換金が間に合わなかった。呪いはないと鑑定済み。念のため竜司祭が祓い清めたあとのものだ」
煌びやかに見えるように計算されてカットされた、大きな
塔の魔術師の持ち物だったものだ。魔術師から聞き出した情報をもとに探索したことで戦利品が多く手に入ったため、また、半竜娘たちの空間拡張鞄のおかげでその多くを持ち帰ることができたため、当初の想定よりも随分と多く収穫があり、幾つかの財宝は換金せずにそれぞれが持つことになったのだ。
「えーと、そしたらこれは君が選んだの?」
「まあ、そうだ」
「なんでこれにしたの?」
「……火の加護があるという。これから寒くなる季節に良いだろう」
「ほかには?」
「…………」
あ、これは返事を考えてる感じの間だな。と牛飼娘には分かったので、待つことにした。
「色が」
「うん」
「お前の髪と瞳の色が、思い浮かんだ」
訥々とした彼の言葉に、思わず顔が熱くなったのが分かった。
彼は、どうなのだろう。兜の奥で、赤面している、のだろうか?
きっとそう深い意味ではないのだろうとは分かっている。残り物の戦利品の中で、さらに皆が取ったあとのやつで、青と赤が残ってたから、なんとなく赤を選んだとかそういうやつだ。
でも。
——うわぁ、不意打ちだよう……!
嬉しく思う自分がいるのもまた、事実だった。
<『2.誕生日のお祝いに』 了>
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3.一声掛けて行きなさいよ!
「オルクボルグ、やっと見つけたわ!」
「なんだ」
鈴が鳴るような声で、妖精弓手はゴブリンスレイヤーを呼び止めた。
ギルド内の依頼掲示板の前に居た冒険者たちがチラリと二人を見るが、いつものことかとすぐに興味を失ったのか、皆、依頼掲示板の方へ視線を戻す。
「探してたんだからね! ほら、ちょうどいい依頼を見つけてきたんだから!」
彼女の優美な手の内では、ひらひらと依頼票が揺れている。
「怪しい新興宗教の蔓延! 盗まれた至高神の神具! これはもう“
「それで」 まくし立てる妖精弓手の言を遮ったゴブリンスレイヤーの反応は簡潔なものだ。見通せない兜の奥の目を光らせていつもの一言。「ゴブリンか?」
「いや、まあ、それはちょっと分かんないけど」
「ならば」 決断的にゴブリンスレイヤーが言う。「俺はゴブリン退治の方に行く」
「え……」 まさか断られるとは思わなかったのか、呆気にとられる妖精弓手。
「用はそれだけか? もしゴブリンが出たならその時は呼べ」 ゴブリンスレイヤーは、依頼掲示板からゴブリン退治の依頼票を剥がすと、ずかずかと受付の方へと去っていった。
こっちを手伝ってほしいとかそういう声かけすらナシだ。
…………。
……。
「はっ!? オルクボルグ!?」
たっぷり数分は固まってしまっていただろうか。
妖精弓手が正気を取り戻した時には、ゴブリンスレイヤーの姿は既になかった。
「もーーー!! どうしてよ~~~!!」
むきー! と地団駄を踏む妖精弓手。
そりゃゴブリン退治じゃなかったからだよ。やりとりに聞き耳を立てていた者たちはそう思った。
ゴブリンスレイヤーが、ゴブリン退治以外をやるなんて、そんなこと……。
「ん? そういえばこの前はゴブリン退治でもないのになんでゴブリンスレイヤーが居ったんじゃ?」
ウカツ! 半竜娘のその発言が、妖精弓手の傷心を逆撫でした!
「それ、詳しく」
「ヒェッ」
目が据わった妖精弓手が、エルフ特有の素早さで、半竜娘たち一党が座っていた卓に陣取っていた。
「い、いや、詳しくと言うてもな?
「い い か ら」
「アッハイ」
…………。
……。
「へー、そう。ふーん。邪悪な魔術師の塔をねえ、それがゴーレムに変形して? 乗り込んで、魔術師を倒して、宝を漁った、ねえ」
「て、手前が誘われたのは、魔術師と神官が足りんと言われたからでの?」
「優秀な野伏が増えても良かったんじゃないかしら?」
「いや、メンツの決定権は、手前にはなかったのじゃて……」
「じゃあ誰にあったのよー」
笑顔だけどキレイな笑顔すぎてジッサイコワイ。
メンバーの決定権は重戦士にあったんだから、そっちに言ってくれと伝えたら、妖精弓手はそちらに行った。
ついでに槍使いもたまたま近くにいたのか巻き込まれたようだ。
“ずるい”だの“抜け駆けしたー!”だの何だのと重戦士と槍使いにぎゃーすか言ってる妖精弓手の声が響く。
——すまぬ、大剣の戦士よ、槍の妙手よ。でも戦士職は被害担当職なんだから許してたもれ。
半竜娘は神妙に合掌したが……、しかし許されなかった。戦士職は、機会攻撃でカウンターを入れるのも得意なのだ。
つかつかと妖精弓手が戻ってきた。
「あいつらに聞いたわ。毒に火炎に爆発……色々やったみたいね?」
「あっあ~」 半竜娘の目がきろきろと泳ぐ。「でも、結局効かんかったしのう。ノーカンでは?」
「次は、私も行くから。あいつ誘うときは、私も絶対誘ってよね。あと、そのときは、毒の
「善処するのじゃ……」 力なく半竜娘の尻尾が垂れ下がった。
スッと妖精弓手が離れたのも束の間。
猫のようにしなやかに、妖精弓手がまた間合いに入ってきた。
「ま、それはそれとして! なんかすごい馬車持ってるらしいじゃない! 私も乗せてよ!」
「お、それも聞いたのかや? もちろんその程度お安いご用じゃて!」
なんせ自慢の馬車だ。御披露目するのに否はなし。
「じゃあ早速お願いね!」
「え゛?」
「ほら、この依頼。そこそこ離れた街なのよねー、馬車を貸してもらえるなら助かるわ!」
「今からかの?」
「もちろん! いいわよね?」
負い目もなくはないし、断れるはずもなく。
しかし、半竜娘は街でやることがあったため何とか同行は勘弁してもらった。
代わりに、蔓延る新興宗教の調査に、半竜娘たちの馬車を“足”として提供することになったのだ。
メンバーは、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶に、槍使いと魔女という銀等級冒険者5人。
魔女は、麒麟竜馬のいわば生みの親でもあるため、麒麟竜馬を預けるのには適任。これで使い魔としてのパスの繋ぎ先を魔女に変更すれば、半竜娘がついていかなくても大丈夫なはず。
【旅人】の奇跡も【追風】の精霊術も、最大で三日は持つし。帰りは交易神殿や鉱人道士にその辺掛けてもらえばいいだろうし。
「では、武運を祈るのじゃー」
「任せなさい!」
妖精弓手たちを見送って。
さて、これから半竜娘は、収穫祭の奉納儀式とタイミングを合わせるべく、色々と準備をしなくてはならない。
郷里から送ってもらうように頼んだブツも、確か届いていたはず。
しかし、銀等級5人でかからなくてはならない新興宗教とは一体……。
魔神かな? 魔神やろなあ。
「ふぅむ。やはり功徳を積むためにも、手前もついて行けば良かったか。いやいや、こっちの準備も大事じゃて」
何事も準備8割なのだ。
<『3.一声掛けて行きなさいよ!』 了>
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4.ブラック! 勇者業!
ある街の旅籠にて。
とあーっ、と元気よく起き上がったのは、黒髪の、太陽のような少女。
ぽいぽいと寝間着を脱いで、さっと冒険装束に着替える。
その胸元に揺れるは、『
そう、彼女こそが当代の『勇者』なのだ。
二階から、一階の食堂まで飛び降りると、パーティーメンバーの剣聖の乙女に窘められる。
「まったく、はしたないですよ?」
「なはは、ごめんごめん。元気がありあまっちゃってさ」
「昨日も遅かったのに、一晩寝れば全回復とか、子供ですか、あなた」
「えー、みんなこんなもんじゃないのー?」 にこにこと朝食のパンに手を伸ばす勇者。
「
「みんなの笑顔が私の力になるのだー!」
「冗談に聞こえないところが流石ですよね」
むしゃむしゃもぐもぐと朝食を勢いよく食べる勇者に、剣聖は最近の冒険を指折り数える。
「その前は魔神王軍残党の上位魔神。その前は狂わされた城塞の精霊とその息子の
「えー、そうかなー」
「水の街の転移門のおかげで、移動は一瞬で済みますが、それはつまり戦い詰めということですよ?」
勇者を投入したい案件は次から次に巻き起こるし、大神官への
剣聖は、真剣に、過労死しかねないと思っている。
……まあ、
「あ、そういえばまた夢でお告げがあってね」
「……またですか」
「そうそう、あっちの街に行けーって」
「それだけじゃ分かりませんよ。あとで
結局、賢者は昼まで起きてこなかった。
<『4.ブラック! 勇者業!』 了>
超勇者ちゃんはRTAの犠牲者。水の街で転移門が献上されちゃったからね。国の端から端までひとっとびやで。これには走者もにっこり。
次は、収穫祭前々日あたりからの予定。
つまり原作小説3巻だー。
……あれ、転移門あるから、剣の乙女さん、辺境の街に来れちゃうのでは……?