ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
●前話:
半竜娘「ジェットブーツ うひょー!」
はいどーも!
前回は塔の魔術師のところに
え、20m級の巨大な蜥蜴人ハーフ*1が5km先から音速ですっ飛んでくるってマジ? しかもそれで本人は基本的に無事とか、祖竜の加護パネェな……。
んでもって色々と準備してたら、あっという間に収穫祭の二日前ですよ。
今は冒険者ギルドの酒場で、吟遊詩人と打ち合わせ中です。
「――とまあ、最近やった冒険はこんなところじゃな!」
「ふむ、なるほどなるほど。いやあ、今回も良いネタを貰いまして、かたじけなく。このネタをもとに、収穫祭では稼がせてもらうとしましょう」
「うむうむ、どんどん
「ははは、火吹き山のチャンピオンたる【
ちょうど、水の街から呼び寄せた、いつかの
それをまた武勲詩にしてもらうわけです。
せっかく祭りで人が集まるのですから、積極的に名声値は稼いでいきませんとね。
それに腕のいい吟遊詩人は貴重ですからね、コネクションは保っておかないと。
「ほれ、これが今回の作曲のお代じゃ。期待しておるぞ!」
「おお、太っ腹ですなあ。パトロン様様だ。……では、ありがたく」
「郷里の者どもに楽譜を送ったら好評じゃったようでの! また是非頼むのじゃ!」
「こちらこそ、またよろしくお頼み申す」
とんとんっと聞き取ったことをまとめたパピルス紙を纏めていた吟遊詩人に、半竜娘はデンと太った金貨袋を渡します。
吟遊詩人はその袋を覗いて確かめると、相好を崩して喜び、押しいただきました。
よく見れば、彼のその身なりはもとより、使っている楽器も、以前より上等なものへとグレードアップしているようです。
稼いでいるというのは本当なのでしょう。
と、その時でした。
別のテーブルの喧騒が聞こえてきました。
「――だからオルクボルグはいつも言葉が足りないってのよ! “そうか?” “そうか” “そうだ” “そうだな”って、それ以外はゴブリンゴブリン……」
「まあまあ……」
「せっかくの冒険だったってのに! デーモンが化けてたのは意外だったけど! ま、でも敵じゃないわ! 私の弓でトドメさしたのよ!」
騒いでいるのは、新興宗教はびこる別の街で至高神の神具が盗まれたので奪還するという依頼を解決してきた妖精弓手らです。
どうやらやはり、新興宗教の首魁は悪魔の
いつもの
「ゴブリン退治に行くにしても、もっとこう、なんか言いようってもんがあるもんでしょう!? 独りで行くんじゃなくてさあ!」
葡萄酒の入ったジョッキを振りかざしてすっかり出来上がっているのは、ハイエルフである妖精弓手。
「かみきり丸一人じゃのうて神官の娘っこも一緒じゃろうに。大体、冒険に誘って振られたのを根に持っておるだけじゃろう、金床娘よぅ。そんなグチグチ言うくらいならかみきり丸の方について行けばよかったろうよ」 その妖精弓手を煽るのは、肉にかじりついて旨そうに酒杯を干す鉱人道士です。
「なにおう、この樽ドワーフ! 私が小鬼駆除についてくんじゃなくて、オルクボルグを冒険に連れ出さなきゃ意味ないのよ!」などという妖精弓手の噛みつきも何のその。
「まあまあ、お二方。……あ、すまぬが給仕殿、このメニューにチーズをたっぷりと掛けることはできるかね? ――うむ、であれば重畳」
マイペースに
落ち着いて見えますが、この異種族トリオの中では一番歳が下です。まあ、年齢が上がれば落ち着くなんてのは幻想ですが(
「あいつの言葉が足りないのは、今に始まったことじゃねーだろ。五年前の最初っからじゃねーのか?」
恋敵の話題に辟易した表情の槍使い。その視線はちらちらと受付嬢の方に向かっています。
「さあ どうかしら、ね? でも、そういうのが、いいって、ひとも、いるかも よ、ね?」
魔女はいつもの三角帽子を脱いでいて、妖艶に笑います。その手元には水のピッチャー。妖精弓手のジョッキに注いで酒精を薄めてあげているようです。
注がれた方の妖精弓手は「いくらでも飲めるわー! ぷはー!」とかいう感じでどんどん飲んでますね、幸せそう。
「あははは……そうですねえ」
笑ってごまかしたのは受付嬢。普段の態度があからさまなので、皆にも
魔女や受付嬢の声はともかく、妖精弓手の良く通る美しい声は、少し離れた半竜娘と吟遊詩人の卓にまで聞こえてきます。
「ほう、ずいぶん陽気で綺麗な森人だが……。むむ、普通の森人より長い笹穂耳、ひょっとして……?」
「御賢察じゃ。上の森人――森人の王族じゃの」
「……
「おう、
吟遊詩人と半竜娘の視線の先には、ジョッキを振り回してクダをまいている妖精弓手。
あきらかにダメな酔っ払いのムーヴなのに、絵になるほどに決まっているのは、森人補正のおかげでしょう。
「あれも歌にするかや? “森人の美姫が只人の冒険者――小鬼殺しの気を引こうと躍起になっておるが、当の小鬼殺しは小鬼退治に夢中”なのじゃ。何せ小鬼に襲われる村は真砂のごとく尽きぬのじゃからして」
「ほうほう。“ならばと森人美姫は小鬼殺しの気を引こうと、小鬼に攫われたと狂言を思いつく”のですな?」
「然り然り。“しかし手違いで本当に小鬼に攫われてしまい、絶体絶命”となるわけよ」
「おお、“そこに颯爽と駆けつける小鬼殺し! 間一髪、森人美姫は救われる!”」
じゃかじゃん!
とまあ、こんな感じで『小鬼殺しの詩』も、どんどんバリエーションが増えていくわけですね。
吟遊詩人の詩なんて、半分以上は与太話ですよ。
「ちょっと、そこ! なに適当に歌ってるのよ! 聞こえてるわよ!」 耳聡い妖精弓手が、酒精で真っ赤になった顔で吟遊詩人と半竜娘を咎めます。
「おっと、それではここいらでお暇いたします。またごひいきに。出来上がった武勲詩はお持ちしますゆえ」 楽器を鳴らして劇役者のように一礼して去っていく吟遊詩人。
「うむうむ、期待しておるでな。そのときにはまた新たな武勇伝を語れるようにしておくでな」 半竜娘は妖精弓手の咎めなどどこ吹く風で、吟遊詩人を見送りに席を立ちます。
「ああっ、ちょっと待てー! どうせならこっちの冒険も歌にしなさいよー!!」 妖精弓手が半分腰を上げますが、既に吟遊詩人は扉の外。「あーん、逃げられたー」
「くかか、またの機会にのー、お姫さま。まずあやつには手前の歌を作ってもらうのが先約じゃて」 お茶目にウィンクする半竜娘。囲ってるわけでもないですが、優先順位はつけてもらいませんとね。「そのあとなら仲介してしんぜようかの?」
「姪御殿は如才ないことですなあ」 からからと笑った蜥蜴僧侶は、運ばれてきたチーズ掛けの肉の塊にかぶりつきます。「うむうむ、甘露甘露!」
と、そこに外から冒険者らが帰ってきました。
半竜娘は、その中に仲間の姿を認めると、叔父である蜥蜴僧侶に手早く挨拶をして、席に戻ります。
偶然帰りの時間が重なったのか、
「お姉さま~、ただいま戻りましたあ!」 鎧に盾に退魔の剣。黒い長髪に、知識神の聖印。文庫神官です。
「はあ~疲れた疲れた。さっさと飯にしようぜー」 だるそうに肩を回しながらペタペタと裸足で入ってくるのはTS圃人斥候です。圃人らしく裸足で小柄で、人形のように愛らしい感じです。
「遠出じゃなければ、たまには歩きってのもいいものね」 金の長髪を纏めて流して颯爽と歩くのは、森人探検家。TS圃人斥候とはまた違った意味で、人形じみた美しさがあります。
「おうおう、よう戻った! して、知識神の文庫に備え付けた護衛番兵の方は問題なく動いとったかの?」 半竜娘は早速テーブルを空けて誘導します。
あ、ゴブスレさんは、妖精弓手の方に捕まったみたいですね。そっちに行ってます。
「ああ、問題なかったぜ」 TS圃人斥候が
「あ、手前は要らんぞ、潔斎中じゃし、石を呑んでおるからの。念のため」
「知ってる知ってる。そのためにわざわざ故郷からそのベンゾールだかベナールだかいう術を付与した石を送ってもらったんだろ」
「【
「そうそれ」
TS圃人斥候らが入ってくるときから準備していたのか、すぐにエールのジョッキが運ばれてきます。
そしてジョッキが置かれるのとほぼ同時に、森人探検家と文庫神官も卓にたどり着きました。
「お疲れ様じゃー」 半竜娘は自分のところに置かれた水のジョッキを軽く掲げます。
「おつかれー」 森人探検家もエールのジョッキを掲げます。
「お疲れ様でした、お姉さま」 文庫神官も、退魔の剣や錫杖を立てかけると、卓についてジョッキを掲げます。
「はい、じゃー、かんぱーい!」 TS圃人斥候の音頭で、ジョッキを打ち付けあわせます。
「「「 かんぱーい!! 」」」
秋の口とはいえ、歩けば喉も乾きます。
森人探検家ら3人は、ごっきゅごっきゅと喉を鳴らし、酒杯を干しました。
「ぷはー。いやあ、遠出の終わりの一杯は、やっぱこれよねー!」 森人探検家は豪快にジョッキを置きますが、それすら気品があるように見えるのは種族特性でしょう。
「ふう。あ、斥候さんから聞いてるかもしれませんが、先日お姉さまが文庫に置いてくださった『
「前の峠のキメラのときの資料と、この間の塔の魔術師のときにかっ剥いで来た装置を組み合わせて作ったんだっけか」 TS圃人斥候は話しつつも、身振りで注文のために獣人女給を呼んでいます。
で、何ですっけ。
あ、そうそう。
『
街道を少し行って、そこからさらに外れたところにある知識神の文庫は、修道女しか居ないみたいなんです。
もちろん、石塁もあるし、旅人や冒険者に宿坊を貸しているので、賊やモンスターの対策がされていないわけではないのですが、それでも蜥蜴人の目から見れば不用心です。
塔の魔術師をぶっ飛ばしたあと、火吹き山の闘技場附属図書館から文庫神官が写した写本を納めに行ったときに、半竜娘ちゃんも付き添いで行ったんですけど、その時どうにもその不用心さが気にかかったようで。四方世界には『砦を作らせるなら蜥蜴人に作らせろ』って格言があるくらいだそうですからね。
んでまあ、魔道具の作成練習がてら、男手の代わりにもなるからと『
その装置を件の文庫に設置したのが先日のこと。
で、不具合がないかどうか、文庫神官たちに今日、見に行ってもらったわけですね。
「上手く動いておったなら良かったのじゃ」
「修道女たちにも好評だったわよー」
「井戸からの水汲みとか薪割りが楽になったとか、すっかり使いこなしてたぜ。やっぱ知識神の修道女だけあって扱いの飲み込み早えーのな」
「材料の木材も空間拡張鞄で運びましたから、一人一体は配備できるかと思いますよ。あと、それぞれ好みの色を塗りたいからと、次来るときには塗料を持ってきてほしいと頼まれました!」
修道女たちの日常生活も便利になるし、余事に手を取られなくなればいろんな文献の解読も捗るでしょうし、仮に宿坊が
今後も時々は装置のメンテナンスが必要かもしれませんが、写本を納めに行く機会はいくらでもあるでしょうし、一党に知識神の神官もいることですから、縁が切れることはないでしょう。
…………。
……。
さて、獣人女給が運んできてくれた料理(半竜娘ちゃんのメニューは潔斎期間中なので“焼いた骨(肉ナシ)”)に手を付けようかというところで、森人探検家が急に口の前に指を持ってきて、『シッ、静かに』とジェスチャーします。
「(なんじゃ?)」
「(ほら、あっち)」
続いてゆび指したのは、妖精弓手たちが飲んでいるテーブルの方です。
種族柄からして耳の良い森人を抱える他の一党も漏れなくそのテーブルに注目しているので、酒場は一種異様な雰囲気になっています。
その酒場中の注目を集めているのは、互いに向かい合っているゴブリンスレイヤーと受付嬢。
「(お、告白するのかや?)」 小声で半竜娘たちが囁きあいます。
「(癒着だー、ズルいぞー)」 非難するような言はTS圃人斥候。
「(ならアンタも来る日も来る日もゴブリン退治して塩漬け依頼片付ければいいでしょ)」 できないくせにー、というトーンで窘める森人探検家。
「(しっ、皆さん、状況が動きます)」
文庫神官の言葉でゴブスレさんに注目を戻せば、彼の返事を受けて喜びに顔を輝かせる受付嬢の姿が!
どうやら彼女は、勇気を持って一歩踏み出したみたいですね。
「ほーう、やりおるのう」
我らが半竜娘ちゃんもそれに感化されたのか、決意を新たにしています。
そうです、変化を恐れてはいけません。
勇気を胸に抱き、覚悟を足に込めて進むべしです。
色恋沙汰に限らず勇気は大事。
もちろん、知恵も力も、大事です。
準備できるのはあと一日。
万端整えれば、あとは勇気を出して、儀式を完遂するのみです!
何の儀式かは、お楽しみに。
ということで、今回はここまで!
また次回!
剣の乙女「ああ、急に押しかける私を、あの方は、はしたないとお思いになるかしら……」(くねくね)
世話役の侍祭「おつとめを済ませてからになさいませ。王都より勇者様方が参られましたよ」
剣の乙女「ええ、そうね。さっさと済ませてしまいましょう。
世話役の侍祭「そうでございます。……ついでに勇者様方には、先触れとしてお手紙をお持ちいただくのもよろしいかもしれませんよ、その殿方まで。仕事熱心な御仁だといいますから、冒険者ギルドに届けておけば、お祭りまでに読んでいただけるでしょう」
剣の乙女「……! 転移門でひとっ飛びなのですから、勇者様方には一晩ゆっくりこちらでお休みいただくのも良いやも知れませんわね」(手のひらクルー)
世話役の侍祭「ではそのように。ああ、お手紙は代筆いたしますので、文面が整いましたらお声掛けを」