ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
●前話:
けんせいを やりすごした!
Q.剣聖さんは、斬撃飛ばせるの?
A.斬撃を飛ばした描写は原作にはないが、相手の遠距離攻撃を半ドットずらして当たり判定を誤魔化しながら一瞬で間合いに飛び込んで叩き斬ることはできる模様。寄らば斬るし、視界内のものなら、寄って斬れる。
ちなみに、ゼルダじゃない方の勇者の御方は、エルフの伝承曰く「体力満タンなら斬撃を飛ばせる」とのこと。(ソードビーム)
1.勇者とは! 白金等級とは!
「では確かにお預かりいたしました」
「よろしくおねがいしま~す!」
冒険者ギルドにて、太陽のような少女はギルドの受付嬢に、さる高位聖職者からの手紙を預けた。
手紙の届け先の冒険者――
「じゃあ、次は、地母神の神殿だね!」
「場所は覚えていますか?」
「まあね! ボク、迷ったことないのが自慢なんだ!」*1
太陽のような少女――勇者の一行は、冒険者ギルドを出て、祭りの前の浮ついた空気の街を歩いていく。
「そういえばさー、ボクたちって、最初の白金等級と結構似てるとこあるよねー」 跳ねるように回るようにして太陽の勇者。
「最初の白金等級……、破壊神を破壊した男と、その二人の仲間たち」 眠たげな目をした白いローブの月の賢者。
「――嘘かホントか、私の先祖とも言われていますね」 眉尻を下げても怜悧な目つきの剣聖。
勇者という存在は、歴史上、はじまりの“輝ける鎖帷子の勇者”とその一行が、凍てつく絶望の大魔王を倒したところから確認される。*2
そして時代が下って、竜王を
この二人までは、勇者であれど、白金等級の冒険者ではなかった。
そのような制度はなくとも良かったのだ。
だが、史上三番目の勇者。*4
仲間の援護があったとはいえ、ただ肉弾のみにて、破壊神すら破壊しつくしたその男の登場を以て、いよいよ当時の王は、人々は、認識を改めざるを得なくなった。
『もはや常人にあらず』。
在野から導かれるように現れる勇者たちを指す等級として、最上位の白金等級が設けられるようになったのは、このときからである。
それでどうやら、剣聖の先祖が、この、史上三番目の勇者にして最初の白金等級……破壊神殺しの勇者なのだという。*5
「んぅー、実はボクたちの中でも一番お姫様なんだよねー? ボクは寒村の孤児院の出だし」
お姫様いいよねー、などとのたまう勇者。
「私は親の顔は知らない。牙の塔で見られるのは、実力だけ。血筋は関係ない」*6
賢者ちゃんは実力一本でやってきた風。素養や血筋よりも、積み重ねてきた己の研鑽にこそ自信を持っているようだ。
「魔法の使えない戦士の私に、魔術を極めた「まだ極めてない」……極めようとしてる賢者、そして、万能のあなた。最初の白金等級と、確かに似てる構成ですね」
「でしょでしょ!」
あー、寺院が見えてきた! と、勇者が走り出した。
やれやれ、と微笑ましいものを見るように息を吐き、剣聖も続く。
賢者は、二人を追いかける前に、街の西の方に目を向ける。
自分たちが来た方向……半竜娘の武舞台がある方向だ。
「……確かに、あの蜥蜴人が用意してたのは、“降ろす”術ではなかった。託宣にあったヘカトンケイルの顕現とは無関係。むしろ……あれは、“昇る”術。私が……私たちがこれからやろうとする術と似ている」
鋭く目を
賢者たちが、この街の収穫祭の儀式を利用して霊界へ飛ぼうとしているように、半竜娘もこの機に物質界と霊界が接近するのにあわせて、霊界への干渉を考えているのだろう。
半竜娘の儀式は、賢者から見れば荒削りで非効率に見えたが、まあ、信仰系の術の理論は魔術とは違う。
あれはあれで成算があるのだろう。
「おーい! 早く早く~!」
「…………いまいく」
半竜娘は不確定要素にはなるまい、と思い直し、賢者も地母神寺院へと足を向ける。
何はともあれ、まずは
ちらりと目に入った、隠して置かれていた時限式の発火の呪具を、遠隔で負荷をかけて焼き切りつつ、勇者と剣聖に合流した。
どうやら、祭りに便乗して騒ぎを起こしたい輩がいるようだ。
「まったく、世に混沌の種は尽きまじ……」
「やはり後で見回りも必要そうですね」
「でもボクたちだけで出来ることも限られてる。世界は救えても、必ず街を、祭りを守れるとは限らない。……街の衛兵さんにも協力してもらえるように、寺院を通じて話をしてもらおう」
賢者と剣聖は、勇者の言葉に頷いた。
「ボクたちは、ボクたちにできることを。……じゃあ手始めに、世界を救おうか!」
<『1.勇者とは! 白金等級とは!』 了>
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2.剣の乙女の昂揚
水の街の至高神の神殿にて。
剣の乙女は、クローゼットを前にして、服を取っ替え引っ替え。
目では見えずとも、その手触りでどんな服かは覚えているからわかる。
「平服を着るなんて、いつ以来かしら」
聞くもの全てを蕩けさせるような、蜜の声。
聖職者にあるまじき色気だが、同時に、触れがたい高貴さを感じさせる。
「どうしても、お勤めが終わらなかったから、明日の夕方からしかお祭りには行けないですが……」
それでも、転移門の鏡(帰りの時間はタイマーセットできる優れものだ)があるからこそ、彼に会いに行けるのだ。
太陽の聖剣を携えた勇者の少女に預けた手紙は、無事に小鬼殺しに渡っただろうか。
返事をもらう時間もないが……、小鬼殺しのあの方は、手紙に書いた場所で待っていてくれるだろうか。
もしも待ちぼうけなんてことになったら……。
「ああ、もしそうなったら、胸が張り裂けてしまうかも」
初デートを前にした少女のように、右往左往の百面相。
それを侍祭の年かさの女性が、苦笑して見ていた。
「それほどご心配なのでしたら、私がお返事をいただいて参りましょうか」
「でも……」
「すれ違いはお嫌でしょう?」
少し悩み、「じゃあお願いするわね」と、移動して侍祭を転移門で送り出し、そわそわと待つこと暫し。
あらかじめ定めた時間に、転移門を再度開いた。
武僧の心得もある侍祭の女性は、きっちり仕事を果たしてくれていた。
「あの方は……?」
「お元気そうでございましたよ。そして、無事にお返事をいただいて参りました」
「それでなんと……?」
切なそうに両の手を胸の前で合わせると、豊かな乳房が潰されて形が変わる。
潤んだ声が震えるのは、期待か、それとも恐れか。
「“小鬼が来なければ、夜に” とのことです」
「……そう、そうなのですね」
「
小鬼殺しは、小鬼が来るかも知れないと思っているのだ。
そして、それは己も同じだ。
いつ小鬼が来るか、何処にいても、安心できるものではない。
恐怖で立ち上がれなくなってしまう、まるで幼子のように。
たとえ、夢の中にあっても、その恐怖からは逃れられない。
……逃れられな
「いいえ、であれば良かった。是非ともお逢い申し上げたく」
「はい、既にそのようにお伝えしておきました。お食事でもご一緒に、と」
……彼に、ゴブリンスレイヤーに出会うまでは。
もはや、剣の乙女は、小鬼の夢で魘されることもない。
たとえ夢に小鬼が出たとしても、筋書きはもう定められている。
彼は、ゴブリンスレイヤーは、小鬼を殺す者。
たとえ夢の中であっても、ゴブリンどもは皆殺しだ。
そう、ゴブリンスレイヤーなら!
だから、たとえ収穫祭の辺境の街を、本当に小鬼が襲うとしても。
彼がいるなら、我慢できる。
「ああ、お逢いできるのが、待ちきれませんわ……!」
<『2.剣の乙女の昂揚』 了>
うきうきと思春期の少女のように衣装を選ぶ剣の乙女を前に、侍祭の女性は思案げにしている。
(別の女性との逢い引きの後だとは、お伝えしない方がよろしいでしょうか……)
どうにも、小鬼殺しとは、罪作りな男のようだった。
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3.ちんまい用心棒
TS圃人斥候は、冒険に行かないときは、よく歓楽街に入り浸っている。
無用な散財はしないように気をつけているが、馴染みの店はいくつもあり、結構な稼ぎをつぎ込み、売上に貢献している。
それでも金が貯まるくらいには、半竜娘一党は稼いでいるのだが。
一方で、つい最近から、売上以外の面でも、歓楽街に貢献している。
「はぁー、クソがよ。どこのどいつの
「がっ!? くそ、貴様、
「一緒にすんじゃねーぞ、クソが」
TS圃人斥候は、小さな裸足の足裏で外套の男をゲシゲシと転がしている。
「クソが、うち
「があっ!?」
祭りの前。
人の流入が増えるに従い、不逞の輩も入ってくる。
それは、自然の成り行きで、仕方のないことだ。
「ああまったく! こいつで何件目だっつの!」 ゲシゲシ!
「うぐっ、ぐはっ!」
TS圃人斥候がやってることは、用心棒だ。
経緯は大したことではない。
行きつけの店の従業員たる女の子が無頼漢に迫られていたのを一蹴したことをきっかけに、その腕前を見込まれて、また噂を聞いたいくつかの店で、予定が合うときにと用心棒を請け負うことになったのだ。
歓楽街側も、律儀に冒険者ギルドを通じて依頼を出してくれているのでTS圃人斥候側の実績にもなり、WIN-WINだ。
黒曜等級の割に腕がいいのでお得だし、(身体は)女の子であるということで、男の護衛には頼めないようなこともお願いできる。
「今度は
ゲシゲシ!
「夢魔浄滅派に頼まれてサキュバスぶち殺しに来たのか!?」
ゲシゲシゲシ!
「娼婦に産ませたどこぞの御落胤をお家騒動にならねーように摘み取りに来たか!?」
ゲシゲシゲシゲシ! ハァハァ……
「それとも街で見かけた美人を囲おうと攫いに来たか!?」
ゲシゲシゲシゲシ! ハァハァ……
「違法奴隷商の仕入れか!? 古代兵器の生体パーツの適合者でも見つけたか!? なんとか言ったらどうだ!!」
ゲシゲシゲシゲシ! ハァハァ……
「も……」
「あぁん!?」
「もっと踏んでください!!」
うわあ(どん引き)
「変態! 変態! この変態!! ド変態!!
「ありがとうございます! ありがとうございますっ!!」
<『3.ちんまい用心棒』 了>
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4.おめかししましょ
文庫神官は、祭りで半竜娘とデートする用に頼んだ服を引き取りに、仕立て屋に来ていた。
「受け取りに来ました~。これ割り符ですー」
「はい、出来上がっておりまーす! こちらです!」
「わあ! いい仕上がりですね! 渡した前金で足りましたか?」
「十分足りました! あと、他にも都の方の流行も教えてもらって、こっちも勉強になりました!」
仕立て屋の店員から、出来上がった服を受け取り、広げて合わせてみる文庫神官。
最近の王都の流行りは、身体のラインが出るようなものが多い。
文庫神官が頼んだのは、少しタイトめのニットワンピースで、勇気を出して膝まで出る丈のものだ。
編み模様も凝っているもので、ケーブルやダイヤモンド、ツリーなどを組み合わせている。
色については落ち着いた薄いブラウンで、秋色を演出。
「いい仕上がりですね! それで、もう一つの方は、と……」
「そちらも自信作ですよ! クールな造りのコートですよね!」
「もともとは、前線で兵士さんたちが着るようなものだってことですけど」
仕立て屋が取り出したのは、厚手の上等な布で作られた
ボタンやベルトが多くついており、いろいろなものを吊るせるような、実用にも耐えるもの。
しかも、かなり大きなもので、間違いなく、文庫神官本人のためのものではないとわかる。
「サイズはこれでよろしかったのでしょうか」
「ええ、肩回り、尾を出すためのスリット、胸の立体裁断……間違いありません! お姉さまに抱き着いたときに実測しましたし、知識神様お墨付きの探査測量術でも確認しましたので!」
神官としての技量の無駄遣いでは?
仕立て屋の店員はそんなことを思ったが、しかしそこは商売人なのでそんなことは口には出さない。
ともかく、これを半竜娘に着せるつもりらしい。
「中は薄着で、そこにこの
しかも中はその分、薄着にさせるらしい。
「中に着ていただくその薄着もこちらに」
「……パーフェクトです。上は私とお揃いの柄で脇は大きめに空いたノースリーブニットに、下は頑丈な帆布生地のパンタロン、これならお姉さまの手の爪や蹴爪も引っ掛からずに着れるでしょう。もう一度言います――パーフェクトです」
「感謝の極み」
ズビシィッ、と擬音が付きそうなほどに折り目正しく仕立て屋の店員が礼をしたそのとき。
外扉を大きな音を立てながら開く者が。
「たのもう! 助けてくれ!」
「いらっしゃいませー、ご用件は――」
「久しぶりに平服を着たら肩が入らん! どうにか、どうにかならないだろうか!?」
入ってきたのは、泣きそうな顔をした女騎士。
重戦士一党に所属する至高神の神官戦士で、はた目からも一党の頭目である大剣を持った重戦士に懸想しているのがバレバレな女傑だ。
その女騎士の手には、清楚可憐な白のワンピースドレス。
「明日の収穫祭に着ていく服が――」
「お、落ち着いてください、お客様。肩回りは布地の重ねの余裕を持って仕立ててある場合が多うございますので、仕立て直しもできるかと」
「し、しかしそれでは肩や腕が太いことが丸わかりになってしまうのではなかろうか……!?」
聖騎士として鍛えた膂力には何ら恥じるところはないが、それと乙女心は別である。
「であれば、ゆったり目のケープのようなスリーブにしたりといった方法もございます。緩い袖で、どこまで身が入っているのかをごまかすのです。それに、ちょうどその色でしたら、似た色の生地の在庫がございます。お急ぎということでしたら、多少の手間賃は上乗せされますが……」
「か、構わない! 一番いい方法で頼む!」
どうやら次の商談が始まったみたいだと、文庫神官は、女騎士の注文を聞いて採寸を始めた店員に目礼して店を出た。
出るに合わせてからころと呼び出し木鐸が後ろで鳴り、気づけば既に日はだいぶ傾いて夕刻までもう少し。
腕に抱えた自分の服と、半竜娘の服を丁寧に鞄に入れなおし、さて宿に戻って手持ちのアクセサリーや鞄と合わせてみるかと、足取り軽く帰路に就いた。
<『4.おめかししましょ』 了>
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5.ゴブリン退治はイサオシ無き死のフィールド……ゴブリンスレイヤーがゴブリンの力の十全の発揮を待つことなどありえぬのだ……
一党のメンバーを先に帰した半竜娘は、西日が赤さを増していく中、街の西に
「よし、
テンテンタムタム、タントンミョーントトトトン、ケンケンキンポンテテテポ、ポンピンビリビリポンピピピン……。
不思議な異国の音色が、一帯に響き渡った。
「うむうむ。懐かしき響きかな」
満足げにして感慨にふける半竜娘。
それは、夕日色の草原と相まって、非常に絵になっていた。
「――して、何か用かの、ゴブリンスレイヤー?」
「……ゴブリンの用心だ」
近づく影に気づいていた半竜娘が、楽器を空間拡張鞄に片付けながら尋ねた先には、いつもの彷徨う鎧と見紛うような冒険者――ゴブリンスレイヤーの姿があった。
彼が背負うのは、幾つもの木の杭と、ロープ、円匙などなど。
「罠でも仕掛けるのかや?」
「そうだ」
「であれば、儀式場には掛からぬようにしてくりゃれよ? 明日の夜はここで祖竜に奉納する儀式をやるのじゃ」
「そうか。わかった」
簡単に言葉を交わして、ゴブリンスレイヤーは森の中へ。
そしてそれに近づいていく半竜娘の分身体(本体の方は儀式に用いるものの確認を続けている)。
「なんだ」
「どうせお主のことじゃから、疲れが溜まっておろうと思ってのう――ほれ【
「……そうか」
祖竜のもたらす活力の奇跡が、ゴブリンスレイヤーの疲労を癒す。
「……助かった」
「よいよい。
ああ、もし明日の夜、この辺りにゴブリンが来たら、
「そうか」
「そうだとも」
このあとめちゃくちゃ、罠の設置も手伝った(ブービートラップの知識+)。
<『5.ゴブリン退治はイサオシ無き死のフィールド……ゴブリンスレイヤーがゴブリンの力の十全の発揮を待つことなどありえぬのだ……』 了>
半竜娘ちゃん一党の中で今回唯一触れられていない森人探検家ですが、たぶん、人の流入が多い=情報も集まって更新される、なので、ローグギルドで情報収集してるんじゃないかと。
◆◆ダイマ重点◆◆
本日10/12はゴブリンスレイヤーのコミック(本編(無印)、外伝1(イヤーワン)、外伝2(ダイ・カタナ))の怒涛の新刊発売日だ!
そして、10/14には原作小説最新刊も出るぞ!
(二次創作の作者は、原作が元気でないと萎れるのでな……。
◆◆ダイマ重点◆◆
◆ゴブリンスレイヤー 原作小説最新刊(13巻 2020/10/14発売)が試し読みできるぞ!
https://r.binb.jp/epm/e1_157944_01092020144750/
◆剣聖ちゃんと賢者ちゃんのSD絵付きの13巻目次だ!
https://twitter.com/GoblinSlayer_GA/status/1311971151871057921/photo/1