ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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●前話:
零落したティーアースの破片(ゆっくりまんじゅう)『つ、追放・没落からの成り上がりは、トレンドだし……! 今度は、そ、そういうレギュレーションだし! 完走して盤外に返り咲けば世界記録だし!』(震え声)
流行りに敏感な走者の鑑であることですね(棒)。

しかし実際、TASさんが見出して育てた超☆天☆才たる半竜娘ちゃんについていけば、神域への返り咲きも夢じゃないです。ゆっくり力を取り戻していってね!! 他に走者がいないから返り咲きまで完走できれば自動的に世界一位です。

そしてあるいは長い時の流れの果てに、竜となった半竜娘ちゃんの頭の上にちょこんと乗ってるゆっくりがいたりするかもしれません。……いや現世に馴染んでどうする、別エンドになってるぞ。

なお、それはそれとして、テイク・ザット・ユー・フィーンド!!って投げられるのは変わらない模様。
『どぼじでぞん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛!!??』
だって防御無視の範囲攻撃(精霊術【力球(パワーボール)】)の達成値(=威力)に+10するとか、シンプルにめっちゃ強いし……使ってもどうせ毎日復活するし……使わない理由がないっていうか……。

 


25/n 裏(+TS圃人斥候・文庫神官キャラシ掲載)

1.賽の目一つ

 

 いつもは鉢巻をしている青年剣士は時間を戻せるものなら戻したかった。

 なんで、なんでオレは――。

 

「ねえ、どうしたの? 浮かない顔して……。や、やっぱり、こんな服似合わない……よね?」

「いや、そんなことはない! 似合ってる!」

「そ、そう?」

 

 ――なんでオレはいつもの服で来ちまったんだぁあああああ!!?

 

 青年剣士の目の前には、髪を下していつもと違ってスカートを履いてはにかむ幼馴染の女武闘家の姿が!

 そういえば、女魔術師(一党のもう一人の仲間)の里帰りについていって都まで行ったとき、なんか女二人で買い物に出かけてたなあ!! と思い返す。

 あの時に買ったのか! 洗練された服装は、きっと都の最先端なのだろう。道行く人も女武闘家を振り返っている!

 

 対して自分(青年剣士)は、大してオシャレでもない、いつもの服! ザ・モブって感じだ!

 うぉぉおおおおおお!

 時よ戻れ!

 こんな、こんなことならこっちだって一張羅を引っ張り出してきたものを!

 ゴブリンスレイヤーの兄貴っ、これが油断した冒険者の末路というわけですね!?(錯乱)

 

「ぐぬぬぬぬ」

「ほんとにどうしたの?」

「い、いや、なんでも……」

 

 これが槍使い(辺境最強)の兄貴なら、さらっと「いやあ、可憐なお嬢さんに目がくらんでね。てっきり夏の妖精が舞い戻って来たのかと思ったぜ。それって王都の流行りなんだろう? 似合ってるぜ」くらいのことは言ってのけるだろう!

 っていうかすれ違った時に言ってた! そのあと魔女(相棒の魔法使い)さんに(つね)られてたけど!

 ここでさらっと言葉が出るかどうか、それを成すのもまた「練習だ」ってわけですよね、ゴブリンスレイヤーの兄貴っ!?

 

 だが、十分練習できずに挑まざるを得ないときもある。

 そういうときはぶっつけ本番になっちまう。

 しかし現実は待ってくれない。世の中、やるかやらないか!

 やることは分かってる――なら、やるだけだ!

 

 冒険者は度胸!

 そうですよね、重戦士(大剣使い)の兄貴っ!?

 

「――なんでも、なくは、ない。その、えと、……見違えた。綺麗だから、緊張して」

「ま゜っ――」

 

 ボンって音がしそうなくらいに、幼馴染の顔が真っ赤に染まったのが分かった。

 たぶん俺も同じ顔してる。

 

「それに比べて、俺は、って思っちまって」

「そ、か」

「だから、すまん、すぐ着替えてくる! 俺も一張羅引っ張り出してくるから、ちょっと待っててくれ――」

「――だぁめよ?」

 

 照れ隠しもあってその場をいったん逃げようとした俺の手を、幼馴染が捉えた。

 鍛錬で硬くなり、戦いのときは鋼のように敵を砕くその手が、なんだか妙に柔らかく思えて、もっとどぎまぎした。

 ああ、女の子なんだな、って。ふっと思った。

 

「着替えを待つ時間も惜しいわ。今日は、たーっぷり、付き合ってもらうんだからね!」

 

 いたずら気に微笑む彼女に、しばし見惚れて――

 

「――ああ、分かったぜ」

 

 観念したように、肩の力を抜いた。

 

 確かに言うとおり。

 冒険者なんて、賽の目一つでどうにでもなっちまうんだ。

 足踏みしている暇なんてないんだ。

 火吹き山の闘技場で一回死んで、それは十分思い知った。*1

 なら、いま目の前のことを精一杯楽しまなきゃ損ってもんだろう。

 

「ね、いこっ!」

「ああ!」

 

 

<『1.もしも賽の目一つ違っていれば、この光景はなかっただろう』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

2.この力量、銀等級……いや、貴様、金等級だな!?

 

 宵闇に包まれ、さらに嵐に巻かれるなだらかな丘の上。

 街の南、牧場よりも少し先のところで、ゴブリンスレイヤーは敵と相対していた。

 

 ローブに身を包み、『手』の形をした呪物を持っているのは、混沌に(くみ)する闇人の術士。

 そして、彼に従うゴブリンたち。

 それが、今回の敵手だった。

 

 ヘカトンケイルを降臨させようと、嵐を引き連れて、辺境の街全体を生贄に捧げようとやって来たのだ。

 ()の闇人の手勢は、闇人曰わく“愛おしくも愚かしい”小鬼たちの群れのみ。

 

 小鬼とは、最弱の怪物に過ぎない。

 

 だがそれで十分なはずだと闇人は考えていたのだろう、祭りを乱す程度は小鬼で足りると。

 流血と騒乱が混沌の力を呼び込み、それによって顕現部位を増していくヘカトンケイルが、さらなる流血を呼び、力を高め、それがまた殺戮を呼び……やがては全てを平らげるだろうから、と。

 『手』を励起させた状態で街に入ってしまえば、こちらの勝ちだ、と。*2

 

 とはいえ、闇人は、念のため、ゴブリンだけでは心許ないからと、ローグギルドに騒乱を起こすように依頼もしていた。

 『手』の呪像を手に入れる際に暴いた遺跡から引き揚げた遺物を売り払って得た金品や、その遺跡があった地の領主を傀儡にしていた時に横領した金子を派手にばらまいて。

 ……だが、そちらはどうにも効果を発揮していないようであった。

 

「まあ、最初から仕掛人(ランナー)どもには期待していたわけではなかったがな……」

 

 しかし、全く効果を顕さないというのも幸先が悪い。

 それほどに衛視たちが優秀だったのか?

 仕掛人たちがヘボだった?

 何にせよ、企みは上手く行かなかった。

 まさか勇者一行が超スピードで仕掛(ラン)の黒幕を潰してフレアを稼いでいるとは思いもよらない。

 

「街まで立ちはだかるは……ふん、たかが冒険者一党ひとつ。何の障害にもなるまいさ」

「……ゴブリンを率いていたのは貴様か」

 

 ゴブリンスレイヤーのみすぼらしい鎧を見て侮ったのか、闇人は鼻を鳴らして、傲岸にも見下した。

 対するゴブリンスレイヤーも、ゴブリンでもない相手にさしたる興味もない。

 ざあざあと(つぶて)のような雨に打たれる。闇は只人の敵にして、混沌の友。この闇と嵐の中では松明も消えてしまう。

 

「毒気に紛れた竜牙兵の突撃は、退けさせてもらったぞ、我が【分解(ディスインテグレート)】の術によってな」

「そうだな」

「問答のし甲斐のない奴め――推し通る!」

 

 周囲では既に小鬼たちが冒険者たちとの戦いを始めている。

 蜥蜴人の爪爪牙尾、森人の弓矢、鉱人の精霊術。闇人は小鬼がやられていくのをちらりと一瞥した。――それでいい、元より足止めしか期待していない。

 『左手』の呪像を強く握りしめると、まるで片割れと共鳴したかのように、強い力が流れ込んできた。

 闇人は知る由もないが、半竜娘が『右手』の呪物ごと分身体を捧げたことで、本来『右手』に流れるはずだった呪力が行先をなくして彷徨っていたのだ。それが、『左手』に感応し、闇人に流れ込んだ。

 

 ――これならばっ!!

 

「森羅万象は塵と化せ――オムニス(万物)ノドゥス(結束)リベロ(解放)……!!」

 

 世界を歪める真言が、雨の音を貫いて、冒険者一党の耳に届く。力ある言葉とはそういうものだ。

 

「んなバカな! あんだけの大砲を連発できるんか!?」

 顔色を失った鉱人道士が叫んだ。

 本来は連発できなかっただろう。だが、あぶれた呪力がそれを可能にした。

 

「くぅ、【聖壁(プロテクション)】は、まだ――」

 先ほど一発目の【分解】の光線を防いだ女神官は、まだ地母神に奇跡を嘆願できるほどには立ち直っていない。

 

 

 

「解けて消えよ――【分解(ディスインテグレート)】!!」

 闇人が裂帛の気合を込めて手を突き出すと、そこから全てを熔解させ塵にする光線が猛然と放たれた!

 

 それは雨も夜闇も関係なしに突き進み、盾を構えたゴブリンスレイヤーへと突き刺さった!

 

「オルクボルグ!」 「小鬼殺し殿!」

 妖精弓手と蜥蜴僧侶が、思わず頭目の字名を叫ぶ。

 ディスインテグレートの光線は、防御不能の致命の魔術。

 盾で受けたとて、盾ごと熔かされるのがオチだ。

 

 誰もが、ゴブリンスレイヤーの死を確信した。

 

 しかし。

 

「……ば、バカな!? 【分解】の術が効かない……どころか押されているだと!?」

 闇人の驚愕の声。

 破滅の光線は、小鬼殺しの盾を貫けず。

 それどころか、盾に受け止められたまま、徐々にゴブリンスレイヤーに押し返されている。

 

 そう、これはゴブリンスレイヤーに掛けられた、剣の乙女の加護によるもの!

 至高神に愛されし乙女。先の魔神王を討滅した金等級。水の街の大司教。

 彼女の祈りが、ゴブリンスレイヤーを聖なる力で守っているのだ!*3

 

「――ッ!!」

 ゴブリンスレイヤーはそのまま光線を盾で受けながら、突っ切るように術者たる闇人のもとへと突進!*4

「くっ!?」

 しかし闇人も座して見る訳ではなく、ゴブリンスレイヤーの盾撃(シールドバッシュ)を跳んで避けた。

 

「見た目に惑わされたかっ! その装備、みすぼらしく見えるが、これほどの力を秘めた魔法の武具だったとはな!」

 闇人は、『左手』の呪像を握り直し、立て直しつつ看破したように自信満々に叫んだ。実際は的外れなのだが。

「そして今の盾撃の力量……。この街に居るのは第三位の銀等級止まりと聞いていたが……ならず者(ローグ)どもに掴まされたか! その装備、その力量! 貴様、金等級だな!?」

 

 囀る闇人に、ゴブリンスレイヤーは答えない。

 

「金等級ともなれば、こちらも出し惜しみはできぬ……」

 

 闇人は、『左手』の呪物を高く掲げると、恐ろしき様相で祝詞を唱え始めた。

 

“おお、大腕の君 暴風の太子! 吹けよ風! 呼べよ嵐! 我に力を与え給え!!”

 

 『手』の呪像を触媒に、ヘカトンケイルの指先が降りてくる!

 それは実体を得て、闇人の背から5本の腕となって突き出した!

 元の手と合わせれば7本腕。新たに得た5本の腕を巨大蜘蛛の脚のように使って、闇人は己の身体を持ち上げる。

 

「差し詰め、今のこの姿は“七本の怪異”といったところか。フフフ、この威容に、声も出まい……」*5

 

 闇人は、古の尖兵の一端を降臨させた反動で血走った目で、小鬼殺しを睨みつけた――。

 

 

<『2.このあと剣の乙女の加護マシマシのスーパーゴブスレさんが勝ちます』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

3.服を買いに行く服がない

 

 辺境の街の西。

 半竜娘が(しつら)えた武舞台の上に、天上から一筋の光が差し、金色に煌めくマナが渦巻き、やがて3つの形をとった。

 

「ふぅ、戻ってこられたのじゃ……」

「ケーン」「ブフルルルルッ」

 

 マナが収束して現れたのは、戦化粧の半竜娘と、2頭の麒麟竜馬。

 アストラル界の戦いから戻って来たのだ。

 ちなみに、勇者一党の方は、聖剣による『太陽の爆発』と、ヘカトンケイルの奥の手の魔術がぶつかり合った衝撃により、全く別の次元に飛ばされてしまっているのだが、半竜娘はそのようなことは知る由もない。

 巻き込まれずに済んだのは、ヘカトンケイルの大腕3本を慈母龍に捧げるために、アストラル界の戦場地域から距離を置いていたのが幸いした形だ。

 

「あー! リーダー戻って来てたのかよ!」

 それを目ざとく見つけたのは、森から出てきたTS圃人斥候。

 彼女(?)の周りには、新鮮なゴブリンの死体が。来し方を見れば、点々と急所を刺されたこれまた小鬼の死体がいくつも倒れている。

 ここもまた、闇人が分散進撃させたゴブリンの標的になっていたようだ。

 どうやら、日があるうちに対処したゴブリンたちとは別の部隊がいたらしい。

 

「え、お姉さま!? お帰りなさいませ! それで首尾は……――あれ?」

 【聖壁(プロテクション)】を張って戦域を限定(コントロール)していた、鎧姿の文庫神官。

 森の方を向いていたが、TS圃人斥候の声に振り返って武舞台を見て、安堵した表情になり、次に怪訝な顔になった。

 

「これでゴブリンは最後っと。……で、あなたもおかえり。……うーん。気のせいじゃないわよねえ……」

 プロテクション越しに森へ矢を放った森人探検家。当然、隠れていたゴブリンに命中した。

 彼女も半竜娘を見て首をかしげている。

 

「リーダー」「お姉さま」「あなた……」

「「「 なんか大きくなった(なりました)? 」」」

 そして口をそろえてそう言った。

 

 それを受けて半竜娘は、大きく裂けんばかりの笑みを浮かべた。

 

「おう、その通りじゃ!」 うきうきとして、自慢したいのを隠そうともせずに語る。「受肉した分身体を吸収したのが、アストラル界を経由して再顕現したことで物質界にも反映されたようじゃの! 見よ、今の手前は棘竜牙兵――中堅の祖竜と同程度の背丈を得たぞ!」

 

 背は高く、胸板は厚く、肩幅は広く。

 鱗は硬く、爪は鋭く、筋骨は隆々と。

 

暴君(バオロン)級竜牙兵のような体躯まではまだまだ足りぬが、また一歩、竜へと近づいたのじゃ!」

 2人分の魂を得た半竜娘の肉体は、2人分の重さを備えた体躯へと成長したのだ。

 立ち上がった(ヒグマ)と同じ程度、あるいは小柄な(エレファント)の体高と同じ程度の背の高さにもなる。

 蜥蜴人は、自分たちのことを、生きている限り肉体が成長し続ける種族だとうたっているが、それが真実なら、長生きすればするほど、もちろん身体も大きくなっていくということだ。

 なお、暴君(バオロン)級の竜牙兵と同等になるには、半竜娘の今のこの成長した状態からでも、さらに1.6倍程度は大きくならねば届かず、そこまで育つまでの道のりは遠い。*6

 

「あー、まあ、うん。蜥蜴人としては、大きいことは良いことかもしれないけど……」

 森人探検家がテンションを上げる半竜娘を諫めます。

「……着れる服がないんじゃないの? そんなに急に大きくなると」

 

「あっ」

 

 

<『3.ボディペイント状態だったから気づかなかったのじゃ……』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

4.成…長…期……??

 

 結局、半竜娘はこれまでの服や防具が入らなくなってしまったので、がらくた市で手に入れていた魔法の布×2を身体に巻き付けて服の代わりにすることにした。

 能力増強の指輪も危うく、食い込んで抜けなくなるところだったが、一瞬だけ指輪に【巨大】の呪文をかけて事なきを得た。

 

「それだけ身体が大きいと、遺跡探索にも支障が出そうねえ」

 南から押し寄せる『左手』の呪像がもたらした嵐の残滓を避けるため、西の儀式場から急いで街へと撤収してきたところで、森人探検家が難しい顔をしてそう言った。

 周りを見れば、嵐を避けるため、屋台は撤収し始めているし、酔客たちも手近な店へと吸い込まれていっている。

 ちなみに、麒麟竜馬は、別途牧場へと歩かせている。使い魔はこういうとき付き添い要らずで便利だ。

 

「遺跡探索っつーか、街中でも不便だろ。店とか宿とか入れねーんじゃねーか?」

 撤収する屋台や酒場の屋外席を見て、ひもじそうにしているのはTS圃人斥候だ。圃人は1日5回の食事が必要とされるので、おなかが空いたのだろう。

 だが、子供ほどの背丈しかないTS圃人斥候と、その倍の背丈にまで成長した半竜娘が同時に入れる店というのも限られるだろう。一党内身長差デカ過ぎ問題である。

 ここは只人の領域なので、家具なども只人のサイズで作られているのだ。体型が違う種族にとっては過ごしづらいこともある。

 

「私は大きなお姉さま、好きですよ! お姉さまの上で寝たりとか……えへへ、夢が広がりますね! じゅるり」

 欲望を隠そうとしないのは文庫神官。

 半竜娘にぴったりくっついて、仲睦まじい恋人のように腕を組んでいる。

 

「あー、騎馬に、防具に、服に、家具に、その他にも色々と更新せなぁじゃなあ」

 指折り数えて肩を落とす半竜娘。成長したのは嬉しいが、面倒くさいものは面倒くさいのだ。

 

「あと防寒具もだろー? 蜥蜴人って絶対、寒さに弱いだろー? がらくた市で買った毛皮じゃ面積足りねーだろーし。あーむ、むぐ、もぐ」

 いっそ(ひぐま)雪男(サスカッチ)の皮を剥いで毛皮丸ごと被った方が楽かもなー、などと言うTS圃人斥候の手には、撤収する屋台から売れ残りを恵んでもらったのか、ずらりと肉串が並んでいる。

 可愛げな容姿を生かしたコミュ術であった。

 

「そもそも、あの銀等級の魔法使いさんのお家がかなり手狭になるのではないですか? お姉さま」

 ニコニコしながら半竜娘の腕に顔をグリグリ押し付けながらすがりつく文庫神官。

 半竜娘は魔女の家に下宿しているが、確かに、成長した本体と分身が過ごせるようなスペースはないだろう。

 

「ああ、そしたら街の外にでも拠点造りましょうよ。一党で暮らせるようなやつ!」

 いいこと思いついた! というように両手をパンっと打ち合わせたのは森人探検家。

 

「それいいな! ギルドにどこかちょうどいい場所があるか聞いてみよーぜ!」 賛成するTS圃人斥候。

「どうせなら動力取れる場所がいいのじゃ。川の傍とかのぅ、水車とか置いてのう。手前がよく手伝いする大工衆に頼めるじゃろうし!」 乗り気で計画を述べる半竜娘。

「書庫! 書庫が必要ですよ! あと祭壇! わあ、お姉さまと同棲ですね!」 知識神の神官らしい要望を述べる文庫神官。

「やっぱり樹を植えましょう、っていうか、私が樹の精にお願いして、柱か壁の一部を生木と一体化させちゃうわ。その方が便利よ~」 すかさず森人式の建築を取り入れさせようとする森人探検家。

 

 わいわい、がやがやと。

 乙女たちは宵闇の街に消えていった。

 

 

 

<『4.この後、みんなで半竜娘を布団代わりに馬小屋で寝ました(普通の部屋には入れなかった)』 了>

 

森人探検家は、特に職業Lvや技能は伸ばさなかった。(経験点、成長点を温存)

 

TS圃人斥候は、【隠密】技能を初歩→習熟段階に伸ばした!(隠密判定ボーナス+1→+2)(成長点10点消費)

TS圃人斥候は、【受け流し】技能を初歩段階で習得した!(武器防具の『受け流し+n』の効果を回避判定に加算可能)(成長点5点消費)

 

文庫神官は、戦士Lvを4→5に伸ばした!(経験点2500点消費、成長点5点獲得)

文庫神官は、【頑健】技能を初歩→習熟段階に伸ばした!(生命力+5→+10)(成長点10点消費)

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

5.北方、雪山にて

 

 

 

「これで最後っ!」

『GOOOBBB!?』『GUGGGYYYAA!!?』『GOOBBGGAA!??』

 

 令嬢剣士の放った魔術の雷が、一直線に小鬼の列を貫き、その内側から命を焼いた。

 

 ここは北方の、雪深き山の中。

 小鬼退治の依頼を受けた令嬢剣士の一党は、依頼元の村へと急ぐ途中で、小鬼の群れを見つけたのだった。

 令嬢剣士の一党5名は、その小鬼を殲滅。

 小鬼らが運んでいた虜囚の女らを奪還。

 

「助けられて良かったですわね……」

 蜂蜜色の髪を二つに括った令嬢剣士が、鞘に先祖伝来の軽銀の剣を納めつつ、安堵した。

 

「とはいえ、衰弱しておるな」

 戦鎚を背負った鉱人の神官戦士が、知識神の聖印を手にテキパキと虜囚に手当てをする。

 虜囚の女たちは、心身の消耗が激しいのか朦朧としているようだ。

 

「さっさと村に連れてってやろーぜ」

 はすっぱなハーフエルフの軽戦士の女が、剣の血糊を払って言った。

 

「さっきので依頼完遂になれば楽なんですがね」

 ローブに杖の魔術師の男が虜囚に掛けるための天幕を荷物から広げている。

 

「さあ、どうだろうな。小鬼一匹見かけたら……って言うしなぁ」

 圃人の女斥候が、用心して周りを見渡した。どうやら討ち漏らしはいないようだ。

 

 

 ともあれ、滑り出しは上々。

 行きがけの駄賃として奪還した虜囚を連れた令嬢剣士一党は、そのまま依頼元の村へと到着した。

 

 だが。

 

「え、この村の住人ではないんですの? この女の方たち」

 きょとんとした令嬢剣士。

 

「ええ。うちの村で行方が分からない者はおりませんし……」

 申し訳なさげな壮年の村長の言葉に、しかし、令嬢剣士たちも顔を見合わせるばかり。

 

「しかし、そうすると彼女たちは一体どこから攫われてきたのでしょう……」

「さあ……」

 首を捻る令嬢剣士と村長。

「……この辺りの地図はありますか? 他の村の場所が分かるような」

「簡単なものなら……」

 

 この村の女ではないなら、この雪深い山の中、可能性は限られる。

 令嬢剣士は、村長が村の酒場の卓に広げた地図をなぞる。

 

「……わたくしたちがゴブリンを殺したのがこの辺で……」

「付近の村ということであれば、この村の他には、谷上の村がそこからは比較的近いかと」

 村長の言うとおり、令嬢剣士たちの会敵地点からそう遠くない場所に村があるようだ。

「確かに」

「ですが、虜囚の娘たちの数からすれば、谷上の村にいる若い娘は全員が捕らわれたとしか……」

 暗澹たる表情で、村長が続けた。 

 

「こちらは?」

 令嬢剣士が指した場所は、その谷上の村と、会敵地点を結んだ直線の延長線上。

 そこにも何かの書き込みがある。

 

「ああ、そこには、上古の鉱人の砦があるのです。私も祖父から聞いただけですが」

「なるほど……、今回のこちらの村の依頼のゴブリンというのはそこに?」

「いえ、依頼の討伐対象は村から近い洞窟の近くで見かけた奴らで、砦とは別ですな……」

 

 …………うん?

 

「村長、これは……」

「ええ、言わんとされることは分かります……」

 令嬢剣士と村長の顔が強張って引きつる。

 

「恐らくは、ゴブリンたちは古代の鉱人砦に陣取っています。それも、そのうちの分派された一部隊だけで村一つ滅ぼせるのです、本隊はいかほどの数か……。あるいは、滅んだ村は、その谷上の村一つとも限りません。この雪では、村と村の間の連絡ももとから閉ざされているでしょうし」

「村の近くで見かけた小鬼というのも……」

「……砦と無関係だと楽観するのは危険でしょう」

「ああ……なんということだ……」

 令嬢剣士が積み上げた予想に、村長は顔を覆ってしまった。

 

「冒険者さま……いかがでしょう、退治は、その……」

「率直に申し上げても?」

「是非に」

 縋るような村長の目に、令嬢剣士も真剣に返す。

 

「……正直に言いまして、手が足りません。砦攻めは難しく、かといって、この情勢で、近隣で見掛けたというゴブリンを叩きに行っても、その間に砦から出て来た別働隊にこちらの村を叩かれる恐れがあります。相手の数が分からなくては……」

「そう、ですか……」

「下の下の冒険者であれば、近隣の小鬼だけ片付けて、砦の方は別依頼にしろとか言うところでしょうね」

「ああ……」

 実際、かなり依頼内容が変わってしまう。白磁の一党5人には荷が重い。

 しかし、別の依頼を立てるだけの余裕も、村にはないのだ。村長が呻くのも無理はない。

 

「現実的には、わたくしどもは村に滞在させていただきながら、用心棒として村の防衛をしつつ、偵察と敵の漸減を行うことになるでしょうか。それで、敵を減らし、陣容を明かしてから、可能であれば押し込むことになるかと。……できるだけ早く済ませたいですが、長期戦ですわね」

「しかし、そうすると、食糧が心許なく……」

「ああ……」

 今度は令嬢剣士が呻く番だった。

 ただでさえ逼迫する冬の食糧事情。

 冒険者一党と、虜囚の女たち。急に増えた食い扶持を支えられるだけの余裕があるかどうか……。

 壊滅したと思われる谷上の村に物資が残されていればいいが、あるいはそれもゴブリンの別働隊が回収しているかもしれないから、過度な期待は禁物だろう。

 

「ならば、仕方ありません。援軍を頼みましょう」

「援軍……しかし、そのような余裕は村には……」

「どのみちこの状況は、ギルドに報告しなくてはなりません。万が一のときに、わたくしたちの後続のために、情報を残さなくては。期待薄ですが、一応、ここの領主宛てにも私の名で一筆書いて添えておきましょう、補助金でも出るかもしれませんし……。……それに、援軍、というのも、私の心当たりに頼んでみるだけですわ」

「心当たり、とは?」

 

 村長の問いに、令嬢剣士は微笑んで答える。

 

「……【()()()()】の冒険者。聞いたことはなくて?」

 

 

<『5.こ無ゾ。じゃけん援軍ば呼びましょうねー』 了>*7

 

*1
青年剣士くん一回死亡:『20/n 火吹き山の闘技場-4(VS 脱走者)』でのこと。そりゃ一回死ねば、死生観いろいろひっくり返るよね。

*2
ヘカトンケイル・テロ:

Q.小鬼率いて襲ったりせずに普通に闇人単体で『手』の呪像だけ持って街中に入ってからテロった方が良かったのでは?

A.励起した『手』の呪像の瘴気が目立ちすぎるので断念した模様。むやみやたらと嵐も呼ぶし。あとは地母神の加護が強すぎて街中では呼び出せなかったという事情もありそう。それに、ことを起こすに単騎特攻(ひとりぼっち)は、闇人の流儀ではないので……。特攻させられる術士が他に一人いれば、そいつをそそのかしてテロらせて、多分街中でいきなりヘカトンケイルが現れるという、より厄介な事態になっていた可能性もある。

*3
剣の乙女の加護1:遠隔化、付与呪文化した【聖壁】の奇跡。達成値35以下の全ての攻撃を遮断する膜をゴブリンスレイヤー及びその装備に纏わせている。

*4
剣の乙女の加護2:肉体への付与呪文化した【祝福】の奇跡。ゴブスレさんが持つ装備の達成値に+4。威力にも+10。

*5
七本の怪異:ファイティング・ファンタジー「ソーサリー」第3巻「The Seven Serpents 七匹の大蛇」に由来。

*6
半竜娘や竜牙兵の身長:成長前の半竜娘と普通の竜牙兵=2.2m程度。成長後の半竜娘と棘竜牙兵=2.8m~3m程度。暴君竜牙兵=4.5m~5m程度。という風に想定してます。

*7
令嬢剣士の判断:令嬢剣士(のちの女商人)は、『19/n “水晶の森”亭 殺人事件-3(VS 人狼)』、『19/n “水晶の森”亭 殺人事件-4(VS 吸血鬼)』で冒険を経験したため冒険者としてレベルアップしている(半竜娘たちとのコネクションも水晶の森亭で獲得)。また、今回は運良く虜囚を運んでいるゴブリンたちを襲撃できたことがきっかけで、この群れが大規模なものだと気づくことができた。気づけなかったら……原作の壊滅陵辱ルートだったかな……。




受付嬢「雪山の砦に小鬼の大規模な群れ……ですか。“できれば【辺境最大】の一党を指名したい”……と。ですが、ちょうどご不在なんですよねえ。でもこれきっと一刻を争いますし……」
小鬼殺し「ゴブリンか。ならば俺が行く。場所は、数は、上位種の有無は」

次回は半竜娘ちゃんたちが家を建てたり、大きな毛皮を手に入れがてらついでに闘技場で連戦して成長した身体の慣らし運転する感じかと(つまりほぼ閑話)。収穫祭後から雪山ゴブリンズクラウンまで、確か少し日数が開いてるはずなので。
雪山(原作小説5巻)も行きます! 令嬢剣士からの援軍依頼は、闘技場に行ってる間にすれ違いになってゴブスレさんの方に振られるような想定をしているので、半竜娘ちゃんはそれとは別口で理由作って赴くことになりますが。
そして雪山の砦で戦うゴブスレさんが見られる劇場版は、Netflixなどで配信中だ! Check it out!!(ちぇけら!)


以下、今回成長したTS圃人斥候と文庫神官のキャラシ掲載です。

TS圃人斥候

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文庫神官

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