ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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●前話:
ゴブスレさん「ユクゾッ! イヤーッ!」
闇人「グワーッ、一撃受けたら真言呪文が封じられたグワーッ!(付与された奇跡【聖断(ジャッジメント)】による呪文系統封印効果) だ、だがまだ召喚術があるグワーッ!(バフ山盛りゴブスレさんの攻撃で普通に平押しで潰された)」
ゴブスレさん「……大司教に感謝だな。この埋め合わせもしなければ……か」


蜥蜴僧侶「おお! やりますなあ!」
妖精弓手「えっ、オルクボルグってこんな強かったの?」
鉱人道士「いや、ありゃ術の補助のおかげじゃろう」
女神官「すごい……。神様の加護のようですが、地母神様ではないですし……これは至高神様の奇跡でしょうか? ……あっ」(←誰が掛けた術か勘付いた顔)

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令嬢剣士ちゃん(のちの女商人)のステータス(戦略ゲー表記)は、たぶん、武力関連は並みより劣るくらいだけど政治・商工関係が天元突破してる内政特化型。もし国王陛下がステータス鑑定できたら『……!?(二度見) 冒険者やらせてる場合じゃねえぞ!? こいつはさっさと後方支援に回すんだ!!』ってなるレベル。きっとね。――転職させねば(使命感)。

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今回は、時系列的には収穫祭から冬本番になるまでの出来事です。(なのでまだ令嬢剣士は雪山に行ってないです)


二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~越冬編~
26/n ああ、愛しの我が家(Home, our sweet home)-1(収穫祭翌日~建築予定地下見)


 はいどーも!

 本格的に『辺境』に居を構える実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、()()()()()()慈母龍(マイアサウラ)さんに、神代の尖兵たるヘカトンケイルに宿る権能を捧げて、竜の巫女として大いに成長したところまででしたね。

 ヘカトンケイルの本体は強敵でしたが、超勇者ちゃんが来るまでに権能が宿った大腕を3本も獲得してとっても有能な半竜娘ちゃんでした。

 零落したTASさん(ティーアース)の破片とかも拾って、TASさんの再起の目を作ってるので、実は地味に命の恩も返しつつあったりします。*1

 

 半竜娘ちゃんは、受肉させた分身体を吸収したことと併せて、祖竜にも目をかけてもらったことで、魂魄の位階上昇も、肉体の成長も大いに捗ることになりました!

 ……信じられないことに、これで成人して1年目なんですよね、半竜娘ちゃん……。

 これはまさしく……英雄の器……!

 

 まあ、『英雄の器だスゴイ!』で済んだら良かったんですけど、現実にはいろいろと厄介なことが出てきます。

 肉体が一気に、身長基準でこれまでの1.25倍に成長したら、そりゃもう、生活面でも戦闘面でも支障が出てくるわけで……。

 

「うーむ、先ずは服からじゃな!」

 収穫祭から明けて翌日。

 宿屋の馬小屋で一党全員で寝ころんだあと、半竜娘たちはとりあえずギルドへと向かうことにしたみたいです。

 その道すがら、周囲の視線を集めつつも、これからのことを相談しています。

 

「いま、布を巻き付けてるだけだもんな」

 TS圃人斥候は朝の屋台で買ったものを食べながら答えます。

 すっかり自分の容貌を利用することにも慣れ、女だらけの一党での立ち居振る舞いも馴染んできました。

 まあ、冒険者一党というものは、野営中は男女の別なく同じ天幕に寝ることも多いのですが。

 ……男に戻る気あるのかな? まあ、女に馴染んだのと同じ期間かければ、男にもまた馴染めるでしょうから、問題ないでしょう。

 

「防具もどうにかしなきゃよね。ミスリルの鎖帷子(かたびら)とか、魔法で強化された大篭手や司教服とかも調整し直さないと」

 森人探検家も思案気にしています。

 交易神の神官でもあり一党の会計係でもある彼女は、急な出費をどう賄うか、その優秀なエルフ思考力を使って、頭の中で計算しているのでしょう。

 半竜娘は基本的には術士だとはいえ、武僧として前衛に出ることも少なくありません。防具は重要です。

 

「あとはやはり冬の防寒具でしょうか。確か、北方の山村からの食料救援の予約が多く入っているとか、ギルドの受付さんがおっしゃっていたような」

 半竜娘の隣で恋人のように腕を組んで歩いているのは、文庫神官です。

 せっかく半竜娘のために仕立てた塹壕外套(トレンチコート)などのオシャレ着が、一日で着られなくなってしまったことは特に気にしていないようです。

 本人に聞けば、“また仕立てれば良いのです! 楽しみが増えましたね!”と言うでしょうね。ポジティブ。

 

「防具なら幸い、まだ古竜の宝物庫から獲ってきたやつの予備があるから、それをバラして組み込むなり接いだりすれば何とかなると思うのじゃが。防寒具はやはりクマの毛皮か何かが良いかの」

 半竜娘は春先に古竜の宝物庫を暴いて物資を略奪していますから、確かにそれを素材にすれば今着ているものの仕立て直しもできるかもしれません。

 

「それか、今のを下取りに出して特注ね。サイズの自動調整機能付きのやつとか、巨人用装備とか、火吹き山の闘技場に売ってたりしないのかしら? あ、それと防寒具なら、馬用のも必要じゃない? あの子たちも寒さに弱そうだし」

 森人探検家の指摘ももっともです。

 物資は火吹き山の闘技場で手配する方が確実でしょうし、あちらにはオーガなどの巨人族の闘士も登録していますから、あるいは既製品もあるかもしれませんし。

 それに、森人探検家が言うとおり、麒麟竜馬の防寒対策というのも必要です。毛皮がないので、蜥蜴人と同じく体温調整に難があるはずですから。または、冬用に、鱗を羽毛に生え変わらせる薬がないか(あるいは作れないか)探してもいいかもしれません。

 

「あとはやっぱり寝泊りできる場所の確保だろ。いつまでも馬小屋ってわけにはいかねーし」

 TS圃人斥候の言うとおり、この半竜娘の巨体では、いまの下宿先の魔女の家で厄介になり続けることも無理でしょうからね。

 

「既存の家じゃ規格が合わんから、新築するとなると、まあ、街中よりは街の外の適当なとこじゃろうな。場所についてはギルドに相談じゃな。大工衆の手配は、手前(てまえ)の伝手でなんとかなるじゃろうが、図面についてもこれからみなで相談じゃな」

 半竜娘はそのパワーと【巨大】の術を生かして、土木建築系の手伝いを多くしています。人間重機な上に、顔もいいので、大工たちには大いにかわいがられているとか。

 その伝手があれば、家を建てるのもそれほど問題はないでしょう。

 

「そういえば、騎馬の新調とかお姉さまもおっしゃってましたが、どうされるんです? 確かにお姉さまを乗せて走らせるのは、今の騎馬でも難しいでしょうし……」

 麒麟竜馬は、大きくなる前の半竜娘に合うようなサイズで造られた使い魔ですが、さすがにその二倍の重量は想定していません。

「でもいまさらあの子たちとお別れは、やーよ?」

 麒麟竜馬を気に入っている森人探検家は、騎馬の更新に否定的です。

 

「馬車も手狭になるなら、車体の更新も考えなきゃならねーかもな」

 食べ終わった屋台飯の器を捨てながら言うのはTS圃人斥候。

 空間拡張鞄などがあるので馬車の積載量的には、物資の置き場を気にしないで良いとはいえ、半竜娘とその分身が乗ると、車内はぎゅうぎゅうになるかもしれません。

 でも、買ったばかりなのに買い替えるのもなあ、という感じですよね。

 

「まあ、騎馬は増やしてもいいのじゃよ。全員、騎乗はできるわけじゃしな」

 そう、半竜娘が言うとおり、この一党は4人全員【騎乗】技能を修めているので、4騎(あるいは分身の分合わせて5騎)の騎馬を揃えてもいいわけです。

 

「あの、流石に維持費がきつくないでしょうか。ちょっとした騎兵隊になっちゃいますよ? 出先で騎馬を預ける場所が制約になりそうですし」

 文庫神官の懸念のとおり、流石に5騎も騎馬を――しかも増やすとしたら今の半竜娘が乗れるサイズになるでしょうから、かなりの巨体です――維持するのは、お金の面でも労力の面でも難しいです。

 いくら使い魔として一定の知性が保証されるとはいえ、少なくとも馬を世話をする馬丁(ばてい)を雇う必要があるでしょう。

 場合によっては運用するにあたって、騎馬に随伴する槍持ちの従者も必要かもしれません。

 

「いっそエレファントにでも乗るとか……?」

 TS圃人斥候の呟きの通り、サイズ的にはもう、象騎兵すらも現実的なラインに入ってきます。

「それなら、ゴーレム作成術を磨いた方がいいかもしれんのじゃよなあ」

 無機物の方が生き物よりは世話が楽なので、そっちで増やす方に切り替えるのもアリです。もちろん、これまでと同様、キマイラ作成術で良い感じの使い魔を追加で作ってもいいわけですが。

 

 

「まあ、あとはギルドの机を借りて、いろいろ意見出して、まとめましょう。ほら、もう到着よ」

 森人探検家がそう締めて、前を見るよう促しました。

 いつの間にか、もう既に冒険者ギルドの扉の前です。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 半竜娘ちゃんが背をかがめて冒険者ギルドに入ると、視線が一斉に集まりました。

 まあね、新手のモンスターかと思うよね、でっかいし。

 

「あの、半竜の、術士さん……ですよね?」

 受付嬢が一同を代表して、恐る恐る確認します。

「いかにも!」

 半竜娘も元気よく答えます。

 

「えぇっと……【巨大】の術でもお使いになってます?」

 まあ、巨大の術ならまだ納得がいきますもんね。

「いや! 成長したのじゃ! 竜としての位階を高めたらこうなっての、成長期なんじゃと思うぞ?」

 そうそう、成長期成長期。『んなわけあるかーい!』っていうギルド中からの突っ込みの視線を感じますが。

 

「はあ。まあ。そうですか。ええ、貴女のことですからね、はい、慣れました」 肩を落として深くため息をつく受付嬢。「それで、何か御用でしょうか」

 半竜娘ちゃんがこうやって軽くやらかすのは、まあ何度目かですからね。慣れもするでしょう。……ご苦労様です。

 

「それなんじゃが、まあこの()()じゃと、街中で暮らすに手狭でな。街の外にでも一党全員で暮らせる拠点を作ろうかと思ったのじゃよ」

「……なるほど。そのちょうどいい土地の紹介を求めて、ということですね。壁外なら、どこでもそれほど問題ないと思いますが」

「話が早くて助かるのぅ! まあ、詳しい条件はこれからこっちもまとめるから、またあとで相談するのじゃ。変なとこ選んで揉め事になってもコトじゃし、仲介してもらった方が安心じゃからのう」

「はい、わかりました。お待ちしています」

 

 そして半竜娘ちゃんたちは、テーブルを囲むと――半竜娘ちゃんは背の関係で床に直座りです――、ギルドまでの道すがらに話していた続きで、今後の計画を練ることにしました。

 パピルスを取り出した文庫神官が書記をし、森人探検家を進行役で検討を進めます。

 

 途中途中で、知り合いに声をかけられたりもしました。

 まあ、一気に背が伸びすぎですからね、そりゃそうなります。

 幾つかのやりとりを紹介しましょう。

 

・Case1:魔女さんの場合

 

「あら……昨日は 帰ってこなかった、けど。こんな ことに なってた、の、ね?」

 しゃなりとした腰つきで挨拶してきたのは、銀等級の魔女さんです。

 

「おお、大家どの、魔術の先達よ! 昨日は外泊で申し訳ないのじゃ、まあ色々あってこうなってのう。これでは家に入れぬので、申し訳ないが暫くしたら新しい家を建てて、下宿は引き払わせてもらおうと思っておっておるのじゃ」

「そう、なのね。ま あ、仕方 ない、わね。でも、もし 出て行っても、いつでも 泊りに来て、いいの よ?」

 申しわけなさそうな半竜娘に、魔女も残念そうな顔をします。

 

「かたじけないのじゃ! 研究合宿に泊めてもらうこともあると思うのじゃ!」

「ふふ、よろしく、ね? わたしも、【縮小】の術がないか、調べてみる、わね」

「おお、なるほど! 小さくなれれば面倒も少ないやもしれんな!」

 確かに、【巨大】があるなら、【縮小】の呪文があってもおかしくありません。

 

「調べてみないと、分からない、けど、ね? そ、れで、新しい、家が、できる までは、どこで 過ごす、つもり?」

「まあ、しばらくは馬小屋で寝泊りじゃのー。あとは火吹き山の闘技場の方なら、巨人向けの部屋もあるやもしれんから、興行でお金稼ぎがてらそっちに行くつもりじゃ」

 火吹き山の闘技場なら、きっと何とかなるはず……!

 

「なるほど、ね。その時は、また、図書館にも、連れて行ってくれる、かしら?」

「もちろんじゃとも! それと、浴槽神のエステにも、じゃな! 槍の御仁のためにも!」

「もう……。からかわないの」

 はにかむ魔女さんカワイイ(カワイイ)。

 

 

・Case2:蜥蜴僧侶さんの場合

 

「やや? おお、おおお! これは如何(いか)なることか!」

「叔父貴殿! 見てくりゃれよ、この体躯を!」

 半竜娘ちゃんの母方の叔父である蜥蜴僧侶さんです。

 すっかりもう、半竜娘ちゃんの方が背が大きくなってしまいましたねえ。まあ、今は半竜娘ちゃんは床に座ってるのでそこまで背の高さの違いは顕著に見えませんが。

 

「随分とまた、位階を上げた様子! 一体何があったのでありますかな?」

「うむ、手前の加護竜たる慈母龍に、太古の混沌の尖兵、ヘカトンケイルの大腕と権能を捧げたのじゃよ!」

 半竜娘ちゃんは自慢げに、尊敬する叔父に語ります。

 

「なんと! それは昨日の収穫祭の夜でございますかな、姪御殿」

「いかにも。『手』の権能を宿した呪物によって、手前の分身体を受肉させ、その心の臓をば喰らって捧げて、アストラル界に殴り込みしたのじゃ!」

 改めて聞いてもヤバい巫女ですよね……。

 思いつくのもヤバいですが、完遂できてしまうのもヤバいです。

 

「『手』の呪像……というと。その片割れらしきものを昨日、拙僧も見ましたなあ」

「ああ、そういえば、左『手』の呪像を、闇人が持ち去っておったな。叔父貴殿が見かけたそれがあればもう一度同じような儀式ができるのじゃが、回収しておるかの?」

 もう一個あったら、儀式おかわりする気ですよ、半竜娘ちゃん。

 封印されたヘカトンケイルがまだ他に残ってるか分かりませんが。

 

「ああ、いや。あれは小鬼殺し殿が砕きましてな」

「……残念じゃ」

「まあ、混沌に縁のある呪物は、破棄するのが無難でしょうや」

「そうじゃのう……」

 実際、半竜娘ちゃんみたいにこっそり持ち歩いてた方がヤバいですからね。

 普通は破棄するか、ギルド経由でしかるべき筋に封印してもらうものです。

 

「ところで」

「なんじゃろうか、叔父貴殿。顔が怖いが」

 ぐぐっと蜥蜴僧侶さんが顔を近付けてきます。

 

「なぜ拙僧を誘わなんだのですかな。……次に似た機会があれば、拙僧にもお声がけいただきたいが、よろしいか?」

「アッハイ」

「くれぐれも、く れ ぐ れ も 、よろしくお頼み申しましたぞ」

 

 

・Case3:女神官ちゃん & 地母神寺院のみなさまの場合

 

「――見つけましたよ!」

「おお、地母神の巫女殿。どうしたのじゃ、寺院の修道女たちも勢ぞろいで」

 いつもの白い神官服の女神官ちゃんが、ギルドに入ってきました。

 しかも、修道服の少女たちも一緒です。

 

「一応、一応ですね、聴取をさせていただきますが……」

「聴取? とな? ああ、手前の背が伸びたのは成長期だからじゃが」

 半竜娘ちゃんのテンプレート化した回答に、女神官ちゃんは首を振ります。

 

「いえ、それも気になりますが、そちらではなくてですね。――竜の巫女たる貴女にお伺いしますが、貴女の崇める慈母龍様と、私の仕える地母神様。その関係について、どうお思いですか?」

「ふむ? いずれも慈悲深き神格であろう。母性を司り、ときに戦神としての側面もある。あるいは、お互いがそれぞれ同じ概念の一側面でなかろうかとさえ、思うておるぞ?」

 地母神と慈母龍って、確かに似てますよねー。

 

「――語るに落ちましたね」

「うん?」

「今朝方、地母神様への祈りの際に、今までとは違ったイメージが混ざってきたんです」

「ほう」

「鱗と爪のイメージです。心当たりがありますよね?」

 おおっと。アストラル界で半竜娘ちゃんがでっかいことやらかした影響でしょうかね。

 それとも……?

 

「ははーん? 習合の兆しがある、と言いたいのじゃな。しかし、たかだか竜司祭手前ひとりの祈念が、そこまで大きく影響するかのう」

「貴女は自分の力を過小評価しすぎです! 貴女が自分で思う以上に、貴女の影響力は大きいのだと理解すべきです。そしてこの雑な混淆習合の原因は、相互の神格・教義への理解が不十分なせいだと考えています」

「つまり?」

 箇条書きマジックだと言いたいわけですね。

 簡略化して列挙したら要素が似て見えても、(つまび)らかに比較すれば、(おの)ずと違いが分かるはずだ、と。

 

「『話せば分かる』、ということです。――さて、寺院の皆様、この竜の乙女に、地母神様の教義をしっかりと理解してもらいましょう。地母神と慈母龍の違いについて、二度と混同しないように。――連れて行ってください」

「にゃ、ちょ、待つのじゃ!」

 修道服の少女たちが、半竜娘の手や尻尾を引っ張ります。

 本気になったら振りほどけるでしょうが、怪我をさせるおそれもあるため、困惑しながらも半竜娘はなされるがままに立ち上がりました。

 

「待ちません! ――ああ、皆様、ちょっと皆様の頭目をお借りしますね。この竜の巫女に、いろいろと分からせなくてはいけませんから。お騒がせしました!」

 女神官ちゃんは、森人探検家たちに頭を下げると、寺院の方へと修道女と半竜娘を引き連れて歩き出しました。

 

 

 あーあ。

 どうやら、『()()()()()()慈母龍』ということで、地母神信仰と自らの慈母龍の信仰を、わざと一部混線させようという試みをしていたようですね、半竜娘ちゃんは。

 でも実際、神格が伝播の過程で統合されたりというのはありうるので、慈母龍が地母神の別側面という可能性もなくはないんですが。

 上手くいけば、【聖壁】などの便利な奇跡の術を、祖竜術にロンダリングできたかもしれませんし、実際、半竜娘ちゃんはそれを狙っていたのでしょう。

 

 とはいえ、いきなり自分たちが崇める神に、鱗が生えそうになったらそりゃ怒りますよねって話で。

 ドナドナと半竜娘ちゃんは連れていかれてしまいました。

 きっと、地母神の逸話や聖典なんかについて、みっちりとお説教されるのでしょう。残当。

 

 

「リーダー連れてかれちまったけど?」

 TS圃人斥候がお茶請けをつまみながら暢気に言います。

「まあ、拠点の機能面の希望は粗方出そろったでしょうし、土地探しはわたしの方でやっとくわ」

 森人探検家が、土地建物に関する要望を取りまとめたパピルスを重ねます。

「じゃあ、私はお姉さまの衣類を手配してきますね!」

 文庫神官がうきうきと挙手します。

 

「サイズ分かるの?」

 森人探検家が念のためといった様子で片眉を上げて確認します。

「知識神の文庫に伝わる測量術があれば、目視と接触で十分測れるのです!」

 自慢気な文庫神官。知識を書き留め連ねるためには観測が重要であり、知識神の神官はその関係の術を修めているのです。

 

「ああ、だから今朝からやたらとべたべたしてたのね」

「いえ、それは趣味です」

「あ、そ。まあ任せたわ。斥候はどうする?」

 

「服や日用品買うほうに回るぜ、持ち歩くのに人手も要るだろーし」

「じゃ、そういうことで。手分けしましょう」

「りょーかい」 「了解です」

 

 ということで、みんなで手分けして用事を片付けましょー。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 さらに数日後。

 半竜娘たちは、街の北側の街道の外れにやってきていました。

 

「ギルドに紹介された建物ってのはこっちなんだっけー?」

「そうそう。川の傍に、魔術師の庵があるそうよ。とはいえ、住んでた魔術師が不在になって5年くらいたってるらしいけど」

 TS圃人斥候と森人探検家は、ギルドから渡された地図を見ながら秋の晴れの日差しの中を歩いています。

 

「地母神の中心教義は、『守り、癒し、救え』…『守り、癒し、救え』…『守り、癒し、救え』……」

「お姉さま、お姉さま。あとで【神学】について私と一緒に復習しましょうね」

 数日間の地母神寺院での神学合宿で、地母神を中心に神学への造詣を深めさせられた半竜娘ちゃんです。これで、地母神と慈母龍を混淆習合させることはできなくなったことでしょう。

 知識神に仕える文庫神官にとっても、神学の知識は親しいものであり、共通の話題が増えたことを嬉しそうにしています。

 

 半竜娘は、一般技能【神学】を初歩段階で習得させられた!(強制習得のため成長点の消費ナシ)

 

 

 彼女らの後ろを、大工衆が解体道具と縄張り道具、礎石などを積んだ荷車を引いて付いてきています。

 行く先の土地には、魔術師が使っていた建物がまだ取り壊されずに建っているのだそうで。

 それを打ち壊すか残すかは考えなければなりませんが、まあ、何にせよ現場を見てみる必要があるでしょう。

 

「到着ー! まあ、そこまで街から離れてはいねーな」

「……流石に5年経ってると、完全に廃屋って感じね」

 

 それは、かつて孤電の術士(アークメイジ)と呼ばれた女が住んでいた庵です。

 5年前にゴブリンスレイヤーに諸々の財産の処分を任せて忽然と消えた――ということですが、まあ、怪物に喰われたのでなければ、魔術師の目指すところなど決まっています。きっと、古の魔術師たちと同様に、盤の外へと飛び出したのでしょう。*2

 

「水場が近くにあるのは良いのう。朽ちかけの水車が外して置いてあるが……」

「直せば使えますかねー……。でも結構建物も傷んでますし、一旦解体(バラ)して、水車の軸受けの石とかの建材を再利用する方向で良いんじゃないでしょうか」

 

 まあ、使えるものは再利用して建材を節約しつつ、半竜娘の巨体でも不自由なく、かつ一党4名(+分身1)が暮らせるような家を建てようというわけです。

 暮らす人数は、今後まだ増えるかもしれませんから、実際はもっと広めに作った方がいいでしょう。

 

「そんじゃあ、精霊だの竜牙兵だのの力も借りて、基礎を作ってしまうのじゃ!」

「確か、樫人形(ウッドゴーレム)を作る魔道具の予備があったわよね? わたしたちが付きっぱなしってわけにもいかないし、怪物対策になるように、私たちは先ずはそっちを設置しちゃいましょうか」

 

 結構大きな家になる予定なので、建て終わるまで時間がかかります。

 冬の雪のころまでには建て終わるでしょうが、それまでの間ずっと、街の外にやって来て作業する大工衆の護衛をするわけにもいきません。

 というわけで、以前に知識神の文庫に納入した樫人形(ウッドゴーレム)生成管理用の魔道具を設置してしまいます。それに作業中の護衛をさせるわけです。

 作った樫人形(ウッドゴーレム)は、家が出来上がった後も、外の柵に擬態させて残せば、無駄にはなりません。

 

「じゃあ、ある程度、家を建てるのの目途が立ったら、火吹き山の闘技場で買い物やら興行やらじゃの」

「そうねー」

 

 というわけで今回はここまで!

 また次回!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

おまけ:片付けるはずの書籍を掃除中に読んでしまう系の現象

 

 半竜娘ちゃんが、下宿先の魔女の家の、宛がわれた部屋に身体を丸めて入っていき、引っ越しのために持ち出す荷物をまとめています。

 その途中で、真言呪文の呪文書が目に留まったので、ついついそれを開いて復習を始めてしまいました。

 地母神寺院で、神学講義を受けて学習熱に火がついているというのもそれを後押ししました。

 

 背を丸めて、窮屈そうに呪文書を読んでいく半竜娘ちゃん。

 

「呪文と言っても色々あるが……いま、手前(てまえ)が実戦レベルで使えておる真言呪文は――10組じゃな」

 

 真言呪文は3つの力ある言葉の組み合わせにより形成されます。

 と、そこで半竜娘ちゃんはふと思い立って、10の呪文に使われる真言を確認することにしました。

 

「これだけ呪文が使えれば、実は今使える真言を組み合わせて、別の真言呪文も使えるのではないかの?」

 

 では実際に確かめてみましょう!

 

「手前が使えるのは――【分身】【力場】【抗魔】【破裂】【巨大】【加速】【嫌気】【停滞】【天候】【突風】の10の真言呪文」

 

 これだけ使えれば、まあ大したものです。

 半年前までは【分身】と【停滞】の2つの真言呪文しか使えなかったとは思えませんね。

 

 というわけで、10の呪文に含まれる習得済みの真言一覧は以下のとおりです。

 

 

真言意味
イーデム同一
ウンブラ
ザイン存在
マグナ魔術
ノドゥス結束
ファキオ生成
レモラ阻害
レスティンギトゥル消去
ルーメン
オッフェーロ付与
インフラマラエ
セメル一時
クレスクント成長
キトー俊敏
ウィルトゥス美徳
アーミッティウス喪失
ウィティウム欠点
ホラ
シレント停滞
カエルム
エゴ
ウェントス
オリエンス発生

 

 ……半竜娘ちゃんが呪文書とにらめっこしてますね。

 

「……これなら【透過(トランスペアレント)】の真言呪文が使えそうじゃな」

 

 【透過】に使われる3つの真言は、『エゴ()セメル(一時)レスティンギトゥル(消去)』なので、確かに、いま実戦投入している呪文に含まれる真言の組み合わせで行けますね。

 透過という現象への理解も、祖竜術の【擬態】が使えるため、そこそこありそうです。

 

 

 半竜娘は、真言呪文【透過】を使用可能になった!

 

 

 というわけで、今度こそ今回はおしまい!

 また次回!

*1
半竜娘の命の恩:『1/4 裏』で黒鱗の古竜の元から逃げ出した時のことを指している。この分岐世界線の半竜娘ちゃん視点では、TASさん(ティーアース)に対してはまだ恩義の方が勝っている認識。なお、拾ったつぶれまんじゅうがTASさん(ティーアース)の成れの果てであることにはまだ気づいていない。でもそのうち気づくはず。

*2
孤電の術士アークメイジ:ゴブリンスレイヤー外伝1イヤーワンに登場。




次回は素材集めと金策とお買い物の予定です。
火吹き山へGO!

習得済みの呪文に含まれる真言の組み合わせで、別の術を習得(あるいは開発)できるかどうかは、GMに確認しましょう。当作の中では、『できる』という裁定にしていますが、そうすると、GMは、各PCの真言ひとつひとつを把握してシナリオを考えないとならないので大変です。また、呪文をこうして正規の方法以外で習得した場合は、発動に必要な達成値が上がる、あるいは効果が減少するなどの裁定も考えられます。

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