ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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●前話:

【鮮血竜姫】、流星ト化ス!!

半竜娘「魔道具作りの師匠紹介してください」
火吹き山P「じゃあ夢の中で修行できるようにしたげるね」
半竜娘「わぁい」
火吹き山P「(夢の選別ミスると他人のトラウマばっかり流れ込んで来るけど……ままえやろ。逆手にとってカウンセリングにも使えるしな)」

工房と屋敷も、もうすぐ完成。でも、食糧配達行脚(あんぎゃ)が先。
文庫神官「冬至のお祭りのときくらい、気兼ねなくお腹いっぱい食べたいですもんね……。食糧を届けなければ(使命感)」



26/n 裏(雪山ゴブリンズクラウン:導入)

1.クルセイダー/ムジャヒーディン

 

 

 北方山脈に、上古の鉱人(ハイラードワーフ)の砦があった。

 はるか昔に混沌勢力との大戦の拠点となったこの城砦の威容は、長い年月を経ても健在であった。

 しかし、そこに巣食うは、秩序の勢力ではなく……。

 

『GGGGRRRROOOOOOOORRRR!!!!』

 

 ――ゴブリンであった。

 

 しかも、ただのゴブリンではない。

 頭目たる者を見よ、それを支える副官を見よ、頭脳たる参謀を見よ。

 それらに率いられた精兵たちを見よ。

 いずれもゴブリンにあるまじき面構えである。

 

 

『GRR……』

 玉座に掛ける甲冑の騎士たる小鬼を見よ。兜の上の王冠を見よ。*1

 頭目は上古の鉱人が残したと思しき鎧兜に身を包んだ隆々たる体躯の小鬼。

 しかも、信じがたいことに何かの神の加護を受けているのか、聖印を提げている。小鬼が、信仰に目覚めるとは!

 聖印が象るのは、『眼』。

 つまりこの小鬼は覚知神の信徒であり、戦士である。

 これすなわち――小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)

 

 

『GIGIGIGI!!』

 その副官を見よ。

 ローブに身を包み、杖の先に、雷電の輝きを封じた角灯(ランタン)を吊るすその小鬼は、精霊使い(シャーマン)である。

 おそらくは覚知の神から授けられた知恵にて、雷電の精霊を封じて使役しているのだ。

 これすなわち――小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)

 

 

『GISHASHASHASHA!!』

 参謀たるものを見よ。

 おどろおどろしい骨の鎧に、風化もせずに残っていた上古の鉱人(ハイラードワーフ)の頭骨を加工して付けた杖を持つもの。

 その後ろには、半霊体の上古の鉱人(ハイラードワーフ)の職人たちを這い(つくば)えさせている。

 これすなわち――小鬼死霊術士(ゴブリンネクロマンサー)

 

 

『GRRRU!!』『GRRRU!!』『GRRRU!!』

 そして付き従う小鬼たちのうちでも、一糸乱れぬ統率を見せる一団を見よ。

 これらが身に着けるは、小鬼の身体に合わせた軽銀の煌めく物ノ具と槍。

 

 それは、覚知の神よりもたらされた知識をもとに、

 この山の鉱脈から掘り出された赤土鉱石を、

 雷電の精霊によって精錬し、

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊職人の手によって鍛えたという、

 小鬼のために作られた逸品である。

 

 軽銀の武具は、膂力のない小鬼でも簡単に振り回すことができる。

 まさに、これこそが、小鬼のための、小鬼のためだけの武具である。

 

 さらに、この小鬼の一団は、精兵となるための通過儀礼(イニシエーション)を乗り越えている。

 火山のガスにて陶酔させて神がかりされ、

 頭蓋骨に穴をあけられ、

 脳に針を刺され、

 そこから雷電を流された。*2

 当然、生き残ったのは、ごく僅かだ。

 

 この過酷な通過儀礼(イニシエーション)を生きて潜り抜けた一握りの小鬼は、四方世界にあるまじき『()()()()()()()()()』と化した。

 彼らには、軽銀の防具と槍、そして覚知神の聖印が与えられた。

 これすなわち――小鬼精兵(ゴブリンエリート)

 

 小鬼聖騎士を頂点として、小鬼精兵たちが有象無象の小鬼の雑兵を率いるという軍秩序が、この城砦では機能していた。

 それは略奪の効率を飛躍的に高め、周辺の村の多くを飲み込んだ。

 周囲の村から集めた女たちを孕み袋にし、生まれる小鬼を通過儀礼(イニシエーション)で選別し、ようやく十分な小鬼精兵の数が揃った。

 

『GGGRRRR……』

 戴冠した小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は思案する。

 

 生まれる子の数、

 通過儀礼を越えられる精兵の数、

 潰して食糧にする孕み袋の数、

 周辺に残った人族の村の数、

 そこから得られる食糧と新たな孕み袋の数、

 冬が明けるまでの日の巡りの数、

 鉱山から掘り出される鉱石の数、

 雷電の精霊を搾り尽くして精錬する地金の数、

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊を酷使して作らせる軽銀の物ノ具の数、

 そして、覚知の神の御威光のもとに小鬼の国を建てるまでに滅ぼすべき人族の街の数……。

 

『GRRR……』

 勝算はある。

 小鬼にあるまじき怜悧な計算が、小鬼聖騎士の脳裏に勝利までの道程を描かせる。

 

 ――あな恐ろしき覚知の神よ、我らの故郷たる緑の月よ……。

 

 小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は、そしてそれに付き従う小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)は、小鬼死霊術士(ゴブリンネクロマンサー)は、小鬼精兵(ゴブリンエリート)たちは、彼らが信じる覚知神へと祈りを捧げた。

 

 

<『1.これは聖戦である!』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

2.聖戦だと?

 

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は、雪に閉ざされた村を襲った小鬼の最後の一匹を切り捨てた。

 

「……妙に装備がいい。そして、練度が高い」

 

 “練度が高い”。

 ゴブリンスレイヤーは、自分の言葉に多大な違和感を覚えた。

 

「練度、ですか。小鬼に練度って、一番似合わない言葉のような……」

 そう思ったのは、冬用の白い神官服に身を包んだ女神官も同様だったようだ。

 

「だが、そうとしか表現のしようがない」

 上位種に率いられた小鬼の群れが、つたない連携のようなものを見せることはある。

 だが、率いるのも率いられるのも、どちらも小鬼では、たかが知れる。

 小鬼とは、自分勝手で、怠惰で、悪知恵しか回らず、他をいつも見下し、いつも責任転嫁をし、無根拠に自らこそが一番偉いと思い込む、どうしようもなく最弱の怪物だ。

 

 それが、今回襲撃してきた群れに限っては、そうではなかった。

 『一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れは、一頭の狼に率いられた羊の群れに敗れる』と言ったのは、昔の軍略家だったか。

 “練度が高い”というのは、おそらくは、指揮官の質の違い。

 

「またゴブリンロードでも生まれているのか……? いや、ロードでも、自ら率いるならともかく、分派した個々の群れの統率までは不可能だ」

 不可解さに、首をひねるゴブリンスレイヤー。

 女神官も、その様子にわずかに不安を滲ませている。

 

「おーい、かみきり丸やぃ! これを見ろ!」

 鉱人道士が、指揮官級と思しき小鬼から剥ぎ取ったものを手に、どたどたと走ってきた。

 その手にあるのは、小鬼の持っていた総金属製の槍と聖印(シンボル)

 

「こりゃ、ちくと大事(おおごと)かも知れんぞ」

 鉱人道士が言うには、この小鬼の槍の造りは、上古の鉱人の手によるものなのだという。

 しかし、それにしては古さがなく、鍛えたてにも等しいのだという。

 

「上古の鉱人が、小鬼に協力しているとでも?」 受け取った槍を矯めつ眇めつ、ゴブリンスレイヤーが尋ねる。

「それがようわからん……。この槍からは、作り手の熱さを感じんから、あるいは、死霊なのではないかと思うんじゃが」 生きた職人の手によるものではないと、鉱人道士。

 

「しかも、その槍の材質は、わたくしの家宝の軽銀剣と同じ――小鬼がその製法を再現したとあらば、放置することはできませんわ」

 鉱人道士の後を追ってきた令嬢剣士が、自らの腰の軽銀剣を撫でながら、険しい顔で断言した。彼女は、先に別の依頼でこの村に来ていた一党の頭目であり、【辺境最大】へと救援を願い出た者でもある。まあ、そちらには連絡が付かず、しかし緊急度が高くて小鬼がらみということで、ギルドの機転によって小鬼殺しが派遣されてきたのは僥倖ではあった。

 

 軽銀については、まかり間違って、自分の家が小鬼を支援しただなんて難癖をつけられてはコトだし、本当に小鬼が製法を再現したのであれば、それは軽銀剣を家宝とする令嬢剣士の実家の貴族家の手中に収めておくべきものである。

 製法を回収できたならば、一度、実家に戻らねばならないだろう。冒険者稼業を続けられなくなったとしても。

 ……出奔した身の上である。戻れば、もう冒険者には戻れないであろうし、製法を持ち帰ったならば、その功績と責任も生じよう。それでも――

 

「製法など一式を接収せねばなりません」

「そうか」

「そうです」

 

 小鬼殺しは、決然とした令嬢剣士の目を暫く見つめたあと、もう一つの物品――小鬼の持っていた聖印へと視線を落とした。

 

「それで、これは……聖印、か?」

「このシンボルは――」

 小鬼殺しの疑問に答えたのは、女神官だ。

 

「これは、外なる知恵の神――覚知神の聖印(ホーリィシンボル)、『緑の瞳』です。覚知神は、信者に、信仰の見返りとして『叡智』を……『叡智』のみを与えるとされています」

 

 過程を無視した、結果のみを啓示する、覚知神の叡智。

 それを与えられた信徒は、その知識を実践することに固執し、信念をもって実践するのだという。

 その結果としての不利益が起ころうとも、結果のみを与えられた仮初めの叡智では、改善も修正もできないし、覚知神に凝り固められた精神は叡智に示されたことを墨守することしか許さない。

 覚知神が邪神扱いされるのは、自由意志を塗りつぶして縛る異端の神であるためである。*3

 

 そして往々にして、覚知神は、与えた叡智を疑いもせずにつき進めた結果訪れる“混沌と破滅”こそを望んでいるのだ。*4

 

「小鬼を教化し、小鬼を率い、小鬼の軍を運用する、異教の輩。そしてそれに率いられる小鬼の軍団――」

 それは差し詰め――

 

小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)……!」*5

 

 

<『2.だから何だというのだ、小鬼どもは皆殺しだ……!!』 了>

 

 

*1
小鬼の冠ゴブリンズクラウン:タイトルの元ネタは恐らくファイティングファンタジー「ソーサリー」の諸王の冠the Crown of Kings。「諸王の冠」とは、持ち主のリーダーシップをブーストする魔法の冠。各国の王は4年ごとにこの魔法の冠を順に回して被ることで、能力をブーストし、国土を発展させたという。

*2
小鬼の通過儀礼イニシエーション:脳の一部に外科的な処置と電流による刺激を与えることで、一部の本能=ゴブリンらしさを抑え込む。ロボトミーをもっと繊細にしたもののような感じ。これも覚知神の叡智だろうと思われる。

*3
四方世界の外なる神:TASさん(ティーアース)もまた、駒の自由意志を奪いがちなので、典型的な外なる神である。四方世界の神々は、駒たちの自由意志をこそ尊ぶのであるからして。

*4
叡智を疑いもせず:例えば、覚知神から神の目を得て、いろんな薬の、害虫や病気や雑草に効くパラメータを見抜けるようになった結果、塩を畑にぶちまけるのが覚知神の信者。しかも、作物が枯れても「俺は間違ってない! 他の奴らが何か邪魔したんだ!」とか言い出す。だって神の目が間違ってるはずないと信じてるからね。

*5
クルセイダー:語源的には十字(クルシス)を掲げる者なので適切ではないが、かっこいいし分かりやすいのでヨシ! とします。『眼』(オルクス)を掲げる者、なら“オルクセイダー”の方が適当だろうか。




ゴブリンズクラウン(戴冠済み)。そして軽銀装備の量産化のために生えてくる雷精使いと死霊使い。
2周目モードだからね! 是非もないね!!
 

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