ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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 前回で77話! 60万字超え、文庫本六冊分! 皆様の感想に支えられて、ここまで続きました。今後とも皆さまに御笑覧いただけるよう精進しますので、よろしくお願いいたします!

●前話:
 捕虜救出時のなんやかんや。
 エアボーンで光学迷彩を纏って侵入して、無音でうろついて、必要に応じて一瞬で敵を縊り殺して、対象を確保して空から脱出する。……特殊作戦群かな? 特殊作戦群かも。

=======

まずは幕間的に小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)の視点から。

 


27/n 雪山ゴブリンズクラウン-2(対峙ー追跡ー撃滅)

1.お、俺たちはいったい、何と戦っているんだ……!?

 

 

 雪山の城砦を差配する小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は、混乱の極致にあった。

 

 突然の捕虜消失。

 止まない雪と(みぞれ)氷雨(ひさめ)

 凍り付く城壁、積み上がる氷河。

 

 ――そして、段々と減っていく仲間たち……。

 

 見回りに行った精兵が、付けた小隊ごと戻らない。

 死体すらも見つからない。

 氷に閉ざされたこの城砦から出ていけるはずもないというのに。

 

 それ以前に、何も言わずに消えるような者たちではない。

 我らは、覚知の神の威光を浴びた同志なのだ!

 その信仰による紐帯は、血よりも強い。

 断じて……。断じて! 大義を前に怖気づいたりなどしない!

 

 

 今は、【聖域(サンクチュアリ)】の奇跡にて、侵入者を排除・感知する結界を敷いている。

 この中に居れば安全である。鉱人の死霊も、この場の守りに回す。

 精兵たちも、神への信仰に目覚めて、我ほどではないが、奇跡を賜っている。

 皆で協力して【聖域(サンクチュアリ)】の奇跡を嘆願し、徐々に聖別した領域を広げていく。

 

 時折、結界に触れる敵対者の影がある。

 ……背教者め! 神敵め! 薄汚い冒険者どもめ!!

 だが、もう思い通りにはさせん。

 

 ……通過儀礼(イニシエーション)の儀式室を奪還した。

 ここに至っては、雑兵がどれだけ居ても戦力にはならない。

 いや、閉じ込められたこの状況で、不満を溜める、(いま)だ覚知の『眼』の明かぬ憐れむべき同胞は、潜在的な不穏分子ですらある。

 ゆえに、全ての雑兵に対してイニシエーションを施し、『眼』を明けさせ、教化する。

 この状況で、無明の中にある雑兵たちを、信仰(あつ)い同志に出来るのは、値千金である。

 奇跡の使い手は、いくら居ても足りないくらいだ。

 

 ――身体を押さえ、頭蓋を開き、雷電を流し、蓋をし、奇跡で治療する。

 

 我らもいくらか施術に慣れてきたため、歩留まりは悪くない。

 施術に耐えられず、儚くも亡くなった同胞は、同志の死人占い師(ネクロマンサー)の導きにより、(むくろ)となっても立ち上がり、戦列に加わった。

 ああ、我らに覚知の神の恩寵あれかし!!

 

 …………。

 ……。

 

 もはやこの砦はダメだ。

 侵入者は諦めたのかと思いきや、今度は【聖域】の結界の外から、矢玉や礫が飛んでくるようになった。

 鉱人の死霊の守りを抜けた矢玉に当たって、あるいは少数で行動しているときに射掛けられて、櫛の歯が抜けるように精兵たちも減っていく。

 食料庫までの道は、敵の狙撃者と悪辣な罠で、死の道となった。

 

 見えない敵の侵入を許し、狙撃される恐怖。

 さらに氷に閉じ込められた状態では、春まで士気が保たない。食料もだ。

 なぶり殺しにされる前に、放棄するしかない。

 逃げるしかない……敗走するしかないと、認めねばなるまい。

 

 別天地からやり直しともなれば、人族の領域を攻める計画に大きな遅れが出る。

 ……いや、これは、試練だ。

 神の試練だ。あな恐ろしき覚知の神よ、我らを憐れみ給え。

 

 なに、我と、雷精使いと、死人占い師が居れば、どこからでもやり直すことが出来る。最悪でも、そのうち誰かだけでも逃げ延びればよい。

 覚知の神より賜った叡智もある。

 今回の失敗を糧に学び、成長し、次はきっとうまくやる。

 

 【聖域】を少しずつ広げ、食糧庫、武器庫、鍛冶場を奪還した。……物資はほぼ奪われていたが、それでも無いよりはマシだ。ゴミ捨て場に捨てられたまま凍っていた只人の死体を削いで糊口を凌ぐ。

 逃亡の準備を整える。

 持てるだけの物資を持ち、出立するのだ。

 雪の中で、見えない敵に追われながらの逃避行になるだろう。

 しかし、信仰と大義があれば、きっと乗り越えられる!

 

 門は分厚く凍り付き、それどころか、城砦は氷河の中に埋まったような様相だ。

 地下からの脱出は、硬く凍った土を掘っていくのが難しく、また、掘ったそばから上に乗る氷河の厚みに押しつぶされるため、断念した。不可能ではないが、時間が足りない。

 

 上からの脱出しかないだろう。

 鍛冶場に残された僅かな燃料を持ち出し、火を焚き、上部の氷を溶かす。

 狙う時間は、我らにとっての“夜”、火の光が目立たぬ時間帯だ。

 上への出口を作り、吹雪く外界へと決死行を――

 

 

 ――そのとき、吹雪にも負けぬ、轟音がした。

 どこから?

 頭上からだ!

 

 轟音の軌跡を辿れば、その先に、急落する巨大な竜が目に入った。

 人の顔をした飛竜が、この城砦へと真っ逆さまに落ちてきているのだ!

 不思議と、落ちる竜そのものからは音が聞こえないのは、音よりも早く落ちてきているためか。

 

 見えない敵対者がついにその姿を現した!

 竜の何するものぞ、負けてなるものかと、同胞たちが【聖歌】を歌いあげる。

 聖歌に乗せられた【聖壁(プロテクション)】の祈りが、流星のように落ちてきた竜の身体を受け止める!

 

 見よ!

 これが信仰の力だ!

 結束の力だ!

 

 【聖壁】が砕けながらも竜を弾き返し、落ちてきた竜は自らの威力で肉片と化した! 

 我らの勝利だ!

 

 鬱屈とした日々が報われた瞬間であった。

 勝どきを上げる我らを、一体誰が責められようか。

 

 しかし、それは油断であった。

 

 ――再びの轟音。

 

 はっ、と上空を見上げれば、再び迫る人面の飛竜。

 

 同胞たちが力を振り絞り、再び聖歌に乗せて【聖壁】の祈りを捧げる。

 

 先ほどと同じように、人面飛竜の墜落を受け止めることができた。

 ……だが、連続で嘆願した奇跡の反動で、同胞たちは困憊している。

 意気を上げようと声を上げるが、不安はぬぐえない。

 

 ――もしまたあの人面飛竜が落ちてきたら……。

 

 果たして、不安は現実のものとなった。

 

 三度目の轟音。

 

 力を振り絞って【聖壁】を嘆願する同胞たちが、あまりの負荷に、奇跡を最後まで維持できずに倒れ伏していく……!

 直後に衝撃! 竜は自らを肉弾と化して、砦に激突した。

 だが、彼らがわずかに稼いだ猶予で、我らは砦内に退避することが出来た。

 同志らの尊い犠牲に、感謝と黙祷を。

 

 四度目、五度目と竜の墜落は続き、砦の上部は崩落し、瓦礫と雪と氷雨で封じられた。

 我々を逃がすために、全ての同志が犠牲となった。

 しかし、死せる同志は、骸となってなお我らと道行きを共にしてくれる。

 

 上からも出られぬ、となれば、多少無理をしてでも、横穴を開けるしかない。

 雷精使いには無理をさせるが、我には【賦活】の奇跡で消耗を癒すくらいしかできない。

 

 白熱する雷精が、氷を溶かす。

 上古鉱人の死霊と、同胞の骸を従え、氷の洞穴を進む。

 荷物は鉱人の死霊に作らせた(そり)に載せた、いざとなれば我らもこれに乗ればよい。

 覚知の神の加護よあれかし。

 

 

 そして一日かけて雷精と死霊を酷使し、ようやく外に出た我らが見たのは――

 

 ――曙光の中に佇む、忌々しき冒険者たちの姿であった。

 

 

<『1.大脱出(エクソダス)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はいどーも!

 小鬼たちを一匹たりとも逃がさない、そんな実況、はーじまーるよー。

 前回は、小鬼の砦から捕虜を何とか助け出して、砦ごと氷漬けにして、質量爆弾と化した半竜娘ちゃんが特攻して砦を崩壊させて、念のため死亡確認しようとしたら生きてた小鬼聖騎士たちが出てきたところまででしたね。(長い)

 

 あー、やっぱり生きてたかー。まあ、“ですよねー”って感じです。

 

 では【怪物知識】判定を行い、敵の情報を見破ります。

 ……特に問題なく成功です。

 

 向こうは、小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)小鬼死霊術士(ゴブリンネクロマンサー)が中核です。

 なんか物資を積んだ橇も用意しているみたいですね。

 夜逃げしようとしていたところだったのでしょう。

 

 それを守るように、上古の鉱人の死霊が10体ほど。

 職人との兼業戦士がほとんどですが、本職の盾砕きも混ざっています。*1

 

 さらにそれより前に、小鬼精兵(ゴブリンエリート)のゾンビがわらわらと出てきて布陣します。50体ほどでしょうか。

 【怪物知識】判定によると、小鬼精兵(ゴブリンエリート)が生前持っていた、覚知神の奇跡を嘆願する能力は、宿したままのようです。

 ただ、奇跡を嘆願するたびに、不浄な肉体に反動ダメージが入るみたいですね。混沌側の神とはいえ、神聖なる威光は死せる肉体を(さいな)むようです。あるいは、自我の薄い動屍体の状態で無理やりに操って使わせているせいかもしれません。

 

 あと、小鬼のゾンビは、精兵はともかく、雑兵はまだまだ砦の中から出てきそうです。

 

 まとめると小鬼側は、

 

 

 ・首脳陣:3体 小鬼聖騎士、小鬼雷霊士、小鬼死霊術士

 

 ・上古の鉱人(死霊):10体

 

 ・小鬼精兵(動屍体の神官戦士):50体

 

 ・雑兵小鬼(動屍体):砦の中からワラワラと湧いて出ている。(毎ラウンド増援)

 

 

 

 それに対して、半竜娘ちゃん側の戦力は、3パーティのフルメンバーです。総勢15名。

 

 

 ・小鬼殺し一党:5人

  ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶

 

 ・半竜娘一党:4人+分身1

  半竜娘(本体、分身)、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官

 

 ・令嬢剣士一党:5人

  令嬢剣士、半森人女戦士、鉱人神官、圃人女斥候、只人魔術師

 

 

 

 小鬼聖騎士と言えば、【狂奔(ルナティック)】の奇跡ですが、大半がゾンビや死霊になっている状況では、精神に影響を与える奇跡は効果がないので、たぶん使ってこないでしょう。*2

 【狂奔(ルナティック)】の奇跡を使わなくても、死霊や動屍体は命令に服従して、その身を惜しまない攻撃を仕掛けてくるでしょうからね。

 

 敵の小鬼精兵動屍体(ゴブリンエリートゾンビ)が厄介そうですねー。

 奇跡を使える兵隊50とか、人族の大戦でもそんなに見ない規模の戦神官団ですよ。エリートの名に恥じないやつらです。

 ……選別前はその10倍以上の雑兵小鬼が居たんじゃないですかね、たぶん。……小鬼聖騎士は厳選厨だった……?

 

 両陣営が睨みあっている間に、今一度、お互いの勝利条件を確認しておきましょう。

 

 

 半竜娘ちゃん側の勝利条件:

  小鬼側の首脳陣3体全ての捕殺(生死不明は不可)

 

 

 

 小鬼聖騎士側の勝利条件:

  小鬼側の首脳陣3体のうちいずれかの戦域からの脱出

 

 

 というわけでこちらは、小鬼聖騎士、小鬼雷霊士、小鬼死霊術士のうち、1体でも逃がすと負けです。

 小鬼聖騎士を殺しても、小鬼雷霊士か小鬼死霊術士を逃がしてしまえば、軽銀装備の小鬼の群れがやがてどこかで組織されてしまいます。小鬼聖騎士が逃げるよりは、影響が現れるのは遅くなりますが。

 生死不明は、生きているものとみなしますので、雪崩に呑ませてはいお終いというわけにもいきません。死体を確認できない末路は、生存フラグってそれ一番言われてるから。

 

 で、まあ、今は睨みあっていますが、向こう(小鬼側)は勝利条件的に『逃げるが勝ち』なので、敵中突破と死兵を置いての追跡妨害による逃避行を試みるんじゃないでしょうか。

 ……『島津の退き口』かな?*3

 

 おそらく、小鬼側も戦力分析と戦術検討が終わったのでしょう。

 いよいよ動き出します。

 

「まずは死霊を片付けるぞ! 【解呪(ディスペル)】の術を使え!」

 

 全体の指揮を執って声を上げたのは、ゴブスレさんです。

 死霊には【解呪】って相場が決まっています。

 ……小鬼対策の戦法でもないのによく知ってましたね、ゴブスレさん。今回の小鬼に死人占い師(ネクロマンサー)が居ると分かって、村を守ってる間に勉強したのかもしれませんね、ゴブスレさんは勤勉なので。

 

 さて、こっちの陣営で【解呪】が使えるのは――森人探検家(交易神信仰)と鉱人神官(知識神信仰)ですね。

 

「巡り巡りて風なる我が神――」 「蝋燭の番人よ――」

 

 神への嘆願が朗々と響き渡ります。

 

「「 【解呪(ディスペル)】!! 」」

 

 悪しきを祓う奇跡の奔流が、小鬼精兵のゾンビに降り注ぎました!

 

『『『GOOBBGGYAA…………』』』

 

 さらに因果点を回してクリティカルに!

 小鬼精兵の群れ(トループ)を蒸発させます!*4

 灰は灰に、塵は塵に、土は土に! ゾンビたちは聖なる力の中で、じゅうじゅうと沸騰し、塵となっていきます。

 ですが、全てのゾンビを片付けられたわけではありませんし、ドワーフの半霊体までは手付かずです。

 

「奴ら、逃げる気だわ! させないわよ! この、この、このっ!」

 

 妖精弓手が叫ぶとともに、刹那の間に3連射!

 戦域から逃げようと、橇を上古の鉱人に押させて動き出した小鬼聖騎士たちへと、致命の矢を放ちます!

 小鬼たちは戦場の脇を通って、雪の斜面を麓へと逃げる気です!

 

『GOOOBB、GOOOBB!!』

 

 小鬼死霊術士の号令で、残った小鬼精兵ゾンビが奇跡を嘆願します。

 半透明の輝く力場――覚知神が遣わす【聖壁(プロテクション)】の奇跡です!

 しかしながら、神の御力は、ゾンビの肉体を焼いていきます。

 3体の小鬼精兵ゾンビが3重の【聖壁】を張り、反動ダメージによりその3体とも消滅していきますが――。

 

「ちょっ、小鬼が奇跡を使うとか、ホントもう面倒ね!?」

 

 妖精弓手の慨嘆の通り、残念ながら彼女の矢は小鬼の【聖壁】を砕いたのみで、本命の小鬼聖騎士たちまでは届いていません。

 精兵ゾンビが稼いだ時間で、小鬼聖騎士ら3体の中核個体を乗せた橇は、上古鉱人らの膂力で加速し、急速に戦場を離れていきます。*5

 小鬼死霊術士の指示か、残された小鬼精兵ゾンビたちと、砦から湧きだしてくる雑兵小鬼ゾンビは、最後の一兵までもこちらの足止めをする構えです。

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊たちは、顕現を解かれたのか、消えていきます。まあ、小鬼聖騎士たちとしては新天地でも鍛冶仕事をやらせるつもりでしょうから、霊体化させて引き連れて行っているんでしょうけど。

 

「逃げられるとでも思っているのか。逃がさん、逃がすものか。決して逃がすものかよ。――ゴブリンどもは、皆殺しだ……!」

 

 ゴブスレさんの低く昏く情念のこもった声が、彼の面頬の隙間から漏れ、寒風に乗ってこだましました。

 

「バリスタ、そしてカタパルトだ」

「おう、承知じゃ!」

 

 端的に指示したゴブスレさんの言葉に、半竜娘ちゃんが応えます。

 君ら事前の打ち合わせもしてないのに以心伝心やな? マンチだから? マンチだからなの?

 

 こほん。

 さておき、半竜娘ちゃんの本体と分身が、その精神を集中して唱えるは【巨大(ビッグ)】の呪文。

 

「「 セメル(一時)クレスクント( 成長 )オッフェーロ( 付与 )――【巨大(ビッグ)】!! 」」

 

 その対象は――妖精弓手と森人探検家です!

 

「え、ちょ、私!? あ、こら、見上げるな!!」

 

 混乱する妖精弓手(5倍拡大)。*6

 あとついつい上を見ちゃいますけど、妖精弓手は“はいてない”ですからね。顔真っ赤にして短衣の裾を押さえています。

 

「姫様! そんなことより今は射撃です! 私の方で小鬼どもの逃走経路に矢を落として柵にします!」

 

「“そんなこと”!?」

 

「お先に撃ちます!! 動きが止まったところをズドンとお願いいたします!!」

 

 森人探検家(5倍拡大)の方は、さすがマンチクソ師匠の薫陶を受けた系譜だけあって、やるべきことが分かっているようです。*7

 5倍拡大されたのは、彼女らの身体だけではなく、武器や所持品もです。

 つまり、その弓矢は、大型弩砲(バリスタ)並みの威力を叩きだす怪物的兵器と化しているのです。

 

 森人探検家は即座に二連射!

 巨大な太矢の行先は、逃げ出した小鬼たちの橇の進行方向前方!

 なお、残りの面々は、足止めに殺到する小鬼ゾンビ(精兵・雑兵)らを押しとどめていますので、仕事してないわけではありませんよ?

 

 遠くで、進路上に突如突き立った巨大な太矢に進路を妨害された小鬼の橇が、それを避けきれずに衝突して横転します。

 橇は急には止まれない、というわけです!

 

「ああもう! 今度こそ当てるわ!!」

 妖精弓手の気合の三射!

 まさに弩級の矢が、小鬼の橇を襲います!

 

 一の矢は小鬼聖騎士の【聖壁(プロテクション)】で弾かれ。

 二の矢は小鬼死霊術士が咄嗟に呼び出した上古鉱人の一団が壁となって逸らし。

 しかし、三の矢はついに、小鬼の橇を粉砕しました!

 

 これで、小鬼のアシを奪うことが出来ました!

 とはいえ、既に幾らか離れてしまっています。

 追いつくまでに、小鬼聖騎士・小鬼雷霊士・小鬼死霊術士は、散り散りに森へ逃げ入ってしまうかもしれません。

 

 ……そういえば、ゴブスレさんの指示は、「バリスタとカタパルト」でしたね。

 バリスタは巨女化エルフ弓兵だとして、カタパルトとは……?

 

「では行くのじゃ~!」

 あ、半竜娘ちゃんの分身体も巨大化してますね。

 たぶん本体側で『黒蓮花弁のカード』で高速詠唱して、エルフたちを巨大化した後すぐにこっちも巨大化させちゃってたんでしょう。

 

「ああ、やれ」

 巨大化した半竜娘ちゃん(分身)の掌の中には、ゴブスレさんが。

 投石機(カタパルト)……あっ(察し)。

 

「クカカカカ! 人間カタパルトなのじゃーーー!!」

 ゴブスレさんを掌にふんわり乗っけた半竜娘ちゃんが、まるで円盤投げ競技のように体を回転して――投げたーーーーー!!!*8

 

「ちょ、ええええええ!!?」

 女神官ちゃんが、驚愕に口をあんぐりと開けていますが……。

 

 誰も、ゴブスレさんを飛ばして終わりとは言ってないのよ?

 

 半竜娘ちゃんの分身体は、さらに回転を続けており、次々と味方の冒険者を掬い上げては投げていきます。

 吸引力の強い投げキャラのようです。

 あ、ちなみに投擲で重量物を投げるのに適性がある職業は【武道家】だけなので、半竜娘ちゃんがこの一党で一番、重量物(人体)の遠投に向いています。ゆえにカタパルト役に選ばれたのは必然というわけですね。

 

「のわぁああああ!?」

 野太い悲鳴は鉱人道士。着地側で落下衝撃軽減術式を使ってもらわないといけませんからね。

 

「なんですのぉおおお!?」

 あ、令嬢剣士ちゃんも投げられましたね。

 

「かかか! 愉快痛快! 次は自前で飛んでみたいものですな!」

 豪儀なこと言って綺麗な姿勢で飛んでったのは蜥蜴僧侶さんですね。

 

「私もですかぁぁああああ!?」

 女神官ちゃんにも行っていただきました。

 

 まあこんなもんでしょうかね。

 残りの何名かは、巨大化した半竜娘ちゃん(分身)の肩に載せて【突撃】して肉薄すればいいでしょう。

 巨女化エルフ弓兵ズを守るのにも何人か置いてかなきゃいけませんし。

 

 投げられた方は、それぞれに放物線の高さが異なるように投げることで滞空時間を調整し、同時に着地するようにしています。半竜娘ちゃんは弾道計算が得意。

 鉱人道士の【降下(フォーリングコントロール)】が間に合えば、全員無事なはずです。

 え、間に合わなかった(ファンブルした)ら? 成功するまで術を使うんだよ(真顔)。

 

 …………。

 はい、ちゃんと着地できたみたいですね!(せーふ)

 

 しかも、ゴブスレさんは、小鬼たちの足止め用に突き刺さったバリスタ級の矢の上に器用に着地したようです。

 か、かっこいい……!

 

 あ、そして投網を投げましたよ、ゴブスレさん。

 ゴブスレさん、村の防衛の合間に網を編んでたんですね。

 まあ、時間あったしね。

 

 しかし、小鬼聖騎士が投網を斬る、ゴブスレさんがまた投げる!

 斬る、投げる、斬る、投げる、斬……れない! 小鬼聖騎士を拘束しましたね!

 見れば、鉱人道士が小鬼聖騎士の足元の地面を泥沼にしています。【泥罠(スネア)】の精霊術です。そのせいで、足元が狂い、投網を斬れなかったんでしょう。

 そして女神官ちゃんの【聖壁(プロテクション)】が発動し、網が絡まった小鬼聖騎士を泥濘に押さえつけました。

 

 勝ち確のコンボ入ったな(確信)。

 

 その間、令嬢剣士ちゃんは小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)と【稲妻(ライトニング)】の打ち合いをしていますね。

 蜥蜴僧侶さんは、死霊化した上古鉱人の“盾砕き”たち相手に呵々大笑しながら竜牙刀を振るっています。竜牙刀が帯びた魔力は霊体にも有効なのでナイスチョイスです。

 

 あ、ゴブスレさんが落下致命からのトドメの体勢に入りました。

 小鬼聖騎士がなにやら往生際悪く叫んでいますが、逆転の目はもうないでしょう。

 

 

 良い頃合いなので、【突撃】して乱入します。

 死霊術の媒体っぽい杖が欲しいので! 死霊術の杖が欲しいので!

 

 半竜娘ちゃん本体と、TS圃人斥候を、巨大化した分身体の肩に載せて、【加速】からの【突撃】で距離を詰めるのです。

 半竜娘ちゃん本体には、何日か前に掛けた【追風】と【旅人】の効果が残留しているので、乗り込んだ先の分身体(乗り物扱い)は、さらに助走距離が伸びます。

 

「いざ、吶喊(トッカァアアアン)ンンン!!!」

 巨女化エルフ弓兵ズの援護射撃でバリスタ級の矢が小鬼雷霊士や上古鉱人霊や小鬼死霊術士に向かって降る中、半竜娘ちゃん(巨大化分身)が雪の斜面を駆け抜けます!!

「イイイィイヤアァァアアアアッ」

 

 狙う先は、小鬼死霊術士! さらに言えば、それが持つ曰くありげな“杖”を回収することを狙っています!

 上古の鉱人が守りを固めるのを【突撃】で蹴散らし、精密な身体操作で杖を攻撃範囲から外して、小鬼死霊術士の身体だけ鉤爪で狙います!

 

 結果は――成功!!

 

 小鬼死霊術士の身体は、半竜娘の巨大化分身体が低く広げた鉤爪によって引っ掛けられて、血煙と化しました!

 しかし、絶妙な軌道で振るわれた鉤爪は、小鬼死霊術士が禍々しい杖――上古の鉱人の頭蓋を載せて杖に加工したもの――を掴んでいた方の手だけを、影響範囲から外していました。

 繋がるべき先の身体をなくした小鬼死霊術士の腕が、杖を掴んだまま、くるくると空中を舞い、突撃後に減速した半竜娘(分身)の肩の上に乗っていたTS圃人斥候が『【粘糸(スパイダーウェブ)】の杖』を使って回収! アイテムゲットだぜ!

 

「死霊術の(かなめ)は奪ったのじゃ!」

 半竜娘ちゃん本体が叫ぶ間も、戦況は進行しています。

 

 まず、上古鉱人(ハイラードワーフ)の死霊たちが、(くびき)から解き放たれたため消失しました。成仏したわけではなく、霊体化しただけかもしれませんが。

 

 続いて、自由になった蜥蜴僧侶さんが小鬼雷霊士に標的を変えて躍り掛かりました。

 小鬼雷霊士は、そちらに気を取られて一瞬動きが止まり――頭上から降ってきた巨女化エルフ弓兵の矢に頭部から股間まで貫かれて死亡。

 同時に、無理やり従えられていた雷電の精霊が、逆襲とばかりに放電(ディスチャージ)

 死体が黒焦げになりましたね……。

 

 ……従えられていた雷電の精霊は、ふらふらと令嬢剣士の方に行くと、纏わりつきました。

 んんー? あ、これは『餌クレ』って言ってるっぽいですね。

 令嬢剣士も何となく雷電精霊が言ってることが分かったのか、『トニトルス(稲妻)』の真言を唱えて、パリパリと電気を放って、充電してあげてるみたいです。

 ひょっとしたら、このまま精霊使いとして目覚めて、契約しちゃうかもですね。

 

 小鬼聖騎士はというと……うん、鎧の隙間からゴブスレさんの中途半端な長さの剣を差し込まれて、絶命してますね。

 死亡確認、ヨシ!

 ……あ、念のためにと、首を胴体から切り離しました。念入りですね。

 

 ともあれ、これにて小鬼たちを殲滅完了!

 勝利条件達成!

 

 ――冒険者たちの勝利です!!

 

 

 

Congratulations!(コングラチュレーション!)

 

 

 それでは今回はここまで、また次回!

 

 

*1
盾砕き:鉱人ドワーフの兵科のうちの一つ。手鉤、斧、鎚により戦う。その名の通り、盾すら貫く/割る/砕く攻撃が持ち味。

*2
狂奔ルナティック:おそらく、TRPG「ソードワールド」の至高神ファリスの特殊神聖魔法「ジハド」をモチーフとして、混沌側の神の奇跡にしたものと思われる。SWにおけるジハドの効果は、視界に入る信仰を同じくする者全てに「戦士技能Lv2付与」「命令への絶対服従」となっている。つまり国民総火の玉状態。一般市民まで含めて、味方が死のうが自身が傷付こうが決して士気が落ちないという、理想の(現実では決してありえない)軍隊となる。また、ゴブスレTRPG基本ルールブックには登場しないが、原作外伝小説においては「聖戦ジハード」を人族側が軍規模で用いている描写がある。おそらくは四方世界においても至高神の奇跡だろうか。

*3
島津の退き口:関ケ原から島津軍が大将の島津義弘を逃すために決死行したというアレ。敵兵の足止め役を務める捨て奸(すてがまり)は、死ぬまで抵抗して時間を稼いだそうだ。

*4
トループ処理:トループとは、軍隊における部隊、中隊を示す。TRPGにおけるトループ処理とは、雑魚をひとまとめの群れとして一括してデータ上扱うことを言う。ダイスを振る回数がやたらと増えないようにするために適宜導入しよう。セッションの時間は有限だ!

*5
小鬼の橇:ボブスレーならぬゴブスレー(激うまギャグ)

*6
5倍拡大巨女エルフ:股下だけでも4~5メートルあるんじゃないかな。脚がとても長い。

*7
マンチクソ師匠:ゴブスレさんの師匠の圃人。たぶん「一つの指輪」を持っているホビットがモチーフ。「忍びの者」。

*8
人間カタパルト:浪漫。南斗人間砲弾でも、バーフバリの人間砲弾でも可。




◆獲得物
 令嬢剣士:雷電の精霊GET!
 半竜娘 :死霊術の触媒っぽい杖GET!
 小鬼殺し:小鬼を殲滅できたという結果(プライスレス)

次回は、温泉と、本件の後始末的な話になる見込みです。

死霊術の媒体を押さえたので、ひょっとしたら、上古の鉱人の霊から、彼らが従事させられていた軽銀製造について伝授してもらえるかもしれません。

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