ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)   作:舞 麻浦

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感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
後日談書きたかったので4/4 裏ではなく後日談です。
(普通に裏を書こうとしたけど「本当は死にたくない半竜娘ちゃん」と、「死んでくれるまで追記するTASさん」のやり取りがサイコホラー過ぎたともいう)


4/4 裏-後日談

 新たにもたらされた祖竜術は、同時に広がった『竜意の雷声』により、四方世界中の竜司祭が知るところとなりました。

 そうなれば、王国のトップの耳にまで入るのは当然です。

 

「新たな祖竜術……これは使えるぞ」

 

 金髪の美丈夫は、まとめられた資料を見てにやにやと笑います。

 彼は国王です。元冒険者で、死の迷宮に挑んだ君主(ロード)職として有名です。

 冒険者ギルドを国が運営するようにしたのも、彼のアイディアです。

 

 そんな彼をして長年悩まされていた、国家経済に集る小蠅のような難問が一つ片付きそうともなれば、にやにや笑って当然です。

 まとめられた資料には、官僚団が作った政策案が記されています。

 

「蜥蜴人部族との人材交流強化、ゴブリンを金穀に替える祖竜術を使う巡回神官(サーキットライダー)の育成、村へゴブリン退治を伝授する冒険者の派遣依頼の創設、および村の教導に関する報酬の補助増額、ゴブリン駆除の勧奨、ゴブリンの死体を集める商人への助成……。

 うむ、まあ良く出来ている。この方向で進めて構わないだろう。予算規模は最初は絞るべきかもしれんが」

 

 正確なところは不明ですが、ゴブリンが家畜を襲うなどの被害による損失は、案外馬鹿にならないものです。

 それを多少なりとも取り戻せるのであれば、新たな供犠の祖竜術を国策に組み込むことは、十分な利益になります。

 

 それに、大戦場での死体の処理というのも大きな負担でした。

 

 戦場の死体は放っておけば疫病の温床になり、場合によっては屍霊となってまた立ち上がります。

 焼くにしても、油に魔術に。清めるにしても神官の奇跡が。

 なんにせよ、後始末というものは、労力(コスト)がかかるものです。

 混沌の勢力は、死体の片づけなんてしてくれません。

 

 しかし、術を一度使うにしたって、焼き払うでもなく、清め祓うのでもなく、この新たな供犠の祖竜術で竜に捧げれば、それによってリターンが見込めます。

 

「これを考えたやつは、只人の経済がよく分かっている。この祖竜術を司るようになったのは、慈母の竜ということだが、賢母でもあるようだ。交易神とも気が合うであろう。なあ、剣の乙女よ、そう思わんか」

 

 国王が話しかけたのは、水の都で至高神に仕える最高位の聖職者、剣の乙女です。

 

「ええ、ええ。そうですね。ようやく国がゴブリン退治に手を出してくれそうで、うれしい限りですとも」

 

「そう言うがな、冒険者ギルドを立て直しただけでも結構なゴブリン対策になっていただろう」

 

「わかっていますとも」

 

 気安いのか辛辣なのか皮肉屋なのか。剣の乙女からの言葉に国王は苦笑します。

 

「なんにしても、これからゴブリンは数を減らすだろうさ。たとえ国が手を出さずとも、商人たちが自分で動くだろう。それは良いことだろう?」

 

「ええ。もちろんですとも」

 

 いまだ剣の乙女の憂いは晴れず、しかし、彼女が小鬼殺しと運命の邂逅を果たすのは、そう遠いことではないのでした。

 

 

「しかし、魔神将級の古竜を冒険初日で殺すとは、最近頭角を現したあの勇者の逸話を思い出す話だな」

 

「確かにそうですね。もし、その半竜娘という冒険者が現世(うつしよ)にとどまっていれば、陛下の宸襟を悩ますもう半分(混沌の勢力)も片付いたかもしれませんよ」

 

「……いや、どうやらもう片付いたようだぞ? 半竜の娘とやらが、混沌側の古竜の一族を滅してくれたおかげかもな」

 

 近侍が急報を携え――しかし喜色満面で近づくのを見て、国王は何が起きたか悟ります。

 

 そうです、勇者が魔神王を倒したのです!*1

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 辺境の街には、にわかに蜥蜴人の一団が多く訪れるようになりました。

 幸いにしてほとんどは知識階級である竜司祭たちなのでお行儀もよく、目立った問題は起きていません。

 辺境の街の冒険者ギルドで登録して慈母龍になったという半竜娘にあやかろうと、ここで冒険者になろうとする蜥蜴人も多いため、冒険者ギルドはいつも以上に盛況でした。

 

「なんつーか、嵐みてーなやつだったよなあ」

 

「そ ね」

 

 辺境最強の槍使いと魔女の一党も、冒険者ギルドでいつものように過ごしていました。

 いえ、やはり彼女たちも今まで通りというわけでもありません。

 

 特に魔女は、半竜娘と共同管理する予定だった戦利品や竜の素材によって、小さな領地の二つや三つは買い取れるくらいの財産を得ています。

 とりあえずは、半竜娘の慰霊のための(いしぶみ)でも造るつもりでいますが、それでも半竜娘の分まで相続した財産は膨大です。

 身の振り方というものを考えてしまいます。冒険者はいつまでも続けられるものでもありませんし。

 とはいえ、まだまだ自分は全盛期。引退するにしてもどこまでいけるか試してみてからでも遅くはありません……。

 

 将来のための地盤づくりに投資するか、冒険者としての力量を高めるために装備やなんやらに投資するか……。最終的には古代の魔術師のように、盤の外に飛び出し、次元を渡る(プレインズウォークする)力を、と思うとまだまだ研鑽が必要でしょうし。

 悩みどころです。

 伴侶を得れば、すぐにでも引退してもいいのかもしれませんけれど……。

 

「うん? どうした?」

 

「なんでも、ない わ」

 

 ちらちらと見ていたのに気づかれたのか、相棒の槍使いが魔女の方に向き直りました。

 嫣然と笑って、煙管を一吸い。彼の前では、余裕のある女でいたい乙女心。

 その一方で、この色男は、受付嬢にご執心なのですが。

 

「…………」

 

 でも、今日は少し違います。曖昧に思わせぶりにして終わりではありません。

 どうしてくれようか。なんて悪戯心が湧いてきます。

 きっとあの半竜娘が残した、慈母龍の加護が勇気を与えてくれているのです。

 

「ね え――「「「姐さんおはようございます!!!」」」…………」

 

「おうおう、俺の方には挨拶なしかい? 竜の姉妹よう」

 

「「「槍の兄貴もおはようございます!!!」」」

 

 そう、彼女の日常は変わってしまいました。

 新たにやってくる蜥蜴人たちは、どこで知ったのか、魔女が半竜娘にとっての恩人で、半竜娘から非常に敬意を払われていたのを知っているのです。

 律儀に挨拶してくれるのは良いのですが、蜥蜴人に只人の恋愛の機微は分からないのでしょう。こうやって邪魔されることもしばしばです。

 

「姐さん、槍の兄貴! 卵はいつ頃で!?」「我ら姉妹一同、獲物を集めて祝いに参じます!」「ばっかおめえ、お二人は只人なんだから卵なんか産まれるかい!」

 

「おいおいてめえら、そういう仲じゃないのにそういうのを外野が言うとなあ、かえって醒めるから止めろって言ってんだろ」

 

 悪気は、ないのでしょう。

 でも、こう、もう少し只人の機微というか、乙女心を知るべきです。

 あと、ちらりと視界の端に見えた受付嬢にこの状況を哀れまれているっぽいのも、なんかこう、心に来ます。

 

「――少し、黙りましょう ね?」

 

「「「ッ、はい姐さん!!!」」」

 

 そして、半竜娘が残したのは、少しの勇気だけではありませんでした。

 

 魔女の目が竜眼になり、肌には鱗のような模様の魔術紋が浮かび上がります。睨まれた蜥蜴人たちはたじたじになって退散していきました。

 祖竜:慈母龍(マイアサウラ)の加護は、彼女に竜の瞳と、疑似的な竜の鱗を与えていました。体力や力、そして魂の源も強くなったような気がしています。お腹も締まって、肌艶も良くなったような……。

 

 まあ、基本的には良いことです。

 これで、冒険で息が上がったりして槍使いの彼の足手まといになることも減るのですから。

 そうすれば、もっとたくさん冒険(デート)にも行けるでしょう。

 

「ははは、まあ、こうやって舎弟みたいなのが増えるのも、それはそれで悪くないもんだな。面倒かけられない限りにおいて、だが」

 

「そ かも ね」

 

 本当は、槍使いの彼が後進を指導するようになって、ギルドに戦力以外で貢献するようになれば、受付嬢の見る目も変わるだろうことは分かっています。

 でも、それだと冒険(デート)の時間が減ってしまうので、魔女は教えてあげないのです。

 

「さて、じゃあそろそろ冒険(デート)に行きましょうか、マイレディ?」

 

「そ ね。よろしく ね」

 

 まあ、いま暫くはこのままでも、悪いことではないのでしょう。*2

 

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 

 小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)は少し困惑していました。

 引き抜きを受けているのです。

 

 目の前の圃人の女旅商人はこう言います。

 

「どうでしょう、ゴブリンスレイヤーの旦那! 小鬼を殺す狩猟商隊を作るんですが、そこのリーダーとして来ていただくというのは。竜司祭も生きの良いのを手配したんですよ!」

 

「ゴブリンか」

 

「ええそうです、ゴブリンです! いやあ、半竜の娘さん、おっと、今は慈母龍(マイアサウラ)の巫女様っつったほうが良いんでしたかね。その方の作った新しい術のおかげで、ゴブリンをぶっ殺しまくって金稼ぎができる、ゴブリンじゃなくても何の獲物でもいいんでしょうけど、いややっぱりゴブリンでしょうここは、とにかくまあそういうことです。どこに行ってもゴブリンがいる、つまり、どこに行っても金を稼げるってことです」

 

「ゴブリンを殺してか」

 

「そうですそうです、ゴブリンのやつらをぶっ殺してです! ゴブリンの群れから群れに渡り歩いて東奔西走して殺して回るんですよ!」

 

「そうか」

 

 悪い話ではありません。

 ゴブリンスレイヤーはパトロンと部下と情報網を得て、王国を東奔西走南船北馬、小鬼を殺して回れます。いまよりずっと多く殺して回れるでしょう。

 女旅商人の方は、吟遊詩人に歌われるような辺境勇士のゴブリンスレイヤーの看板を得て、そのノウハウを得て、ゴブリンを殺して回れます。しかも今までと違い、ゴブリン退治が金になるのです。

 

「…………」

 

「ね、ね、ゴブリンスレイヤーの旦那! もっともっとゴブリンのやつらを殺しましょうよ! 皆殺しにしましょうよ! ね、ね、ね!」

 

「そうだな、ゴブリンは皆殺しだ……」

 

 彼のツボを的確にごりごりと押してくる圃人の女旅商人と、ゴブリンスレイヤーの交渉をドキドキしながら聞いているのは受付嬢です。

 ゴブリンスレイヤーの返答次第では、彼はこの街からいなくなってしまうのです。

 恋する乙女的に大ダメージです。あと普通に銀等級の引き抜きはギルドにも大ダメージです。

 

 でも、いつもゴブリンゴブリン言っている彼にしては、ちょっと歯切れが悪いですね……?

 

 この場ではまだうまくいかないと悟った女旅商人は、一旦引くことにしました。

 できる商人は引き際も誤りません。

 これは土地か女か、あるいは両方かに未練があると、そう読みました。

 

 実際当たりです。

 彼の中では明瞭に言語化できていませんが、牛飼娘と彼女が待つ牧場が、気がかりなのです。

 なにせ、彼に唯一残った故郷(ただいまが言える場所)なのですから。

 

「ま、ま、旦那、ゴブリンスレイヤーの旦那! 返事は今すぐでなくていいですし、しばらくしたら、技術指導と実地訓練って形で指名で依頼出すんで! それを受けたあとでもまた声かけるんで、考えておいてくださいな!」

 

「ゴブリン退治なら受けよう」

 

「ええもちろん、単に教えて終わりじゃなくて、実地でぶっ殺すためのゴブリンをちゃあんと見つけておきますとも! ゴブリンスレイヤーさんも、大勢でゴブリンをぶっ殺す方法ってのを、考えといてくださいな!」

 

「そうか、大勢でゴブリンを」

 

「ではまた良しなに!!」

 

 風のように、圃人の女旅商人は去っていきました。

 

 

 女旅商人が去ると、それを待っていたのか、女神官が近づいてきます。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

「ゴブリンか」

 

「ええ、ゴブリン退治の依頼票を取って来ました! どれに行きましょう?」

 

「そうだな……」

 

 今日も今日とて、彼はゴブリンを殺します。

 

 

 

*1
ほかの冒険者の活躍により混沌の勢力が潰されるほど、勇者による魔神王討伐が早まる。また、混沌の勢力の瓦解が早まることにより、それをトリガーにタイマーが動き出すことになる「残党による復権活動」の時期も早まる。具体的に考えられる影響としては、森人砦のオーガは力を蓄えるために去り(主攻が失敗したのに助攻する意味ないので)ゴブリンだけが残され、水の都の陰謀に関する依頼時期が早まり、闇人襲撃の戦力が準備時間増加により増強される可能性がある

*2
半竜娘の血が溶け込んだことによる加護により、体力点+1、魂魄点+1、生命力+5、竜鱗紋による呪的装甲+2&物理装甲+2、竜眼による暗視付与。硬くなってタフになった魔女さん。強い。かわいい。あととってもお金持ち!




以降は不定期投稿になりますですよ。


新しい祖竜術のデータ(オリ設定)

【褒美(プライズ)】 難易度10 祖竜術 創造呪文(属性なし)
概要:捧げた供物の量に応じて、術者が必要なもの(食料、素材など)を得ることが出来ます。
解説:術者から「射程:近接」の距離において、「対象:一つ」を中心点として「半径:5m」の球場の空間内にある「触媒:生物や怪物の死骸(魔法生物系も可。ただしまだ動いているアンデッドは不可)」を祖竜に捧げ、その褒賞として、食料や素材など、術者が必要とするものを賜ります。
下賜される褒賞の概ねの目安としては以下のようになります。
 ・触媒の重量と同じ重さの未加工の麦(または主食となる穀物)あるいは清浄な水(指定した器の中に出現させることが可能)
 ・触媒の重量の半分の重さの荒い塩
 ・触媒の重量の五分の一重さの香辛料、調味料、嗜好品(チーズ、酒など)
 ・触媒の重量と同じ重さの鉱石
 達成値に応じて、同じ重さの触媒でも、より多くのもの、より品質の高いもの、より希少なもの(加工品や魔法の品含む)、または複数の褒賞の組み合わせを得ることが出来るようになります。
 専用の儀式用の陣を敷くことで、触媒を捧げる際の領域を広げ、より多くの触媒を捧げることが出来ます。
 この呪文は10分間の祈りを捧げたあとに呪文行使判定を行い(触媒がこの時点で消滅)、その後にさらに10分の祈りを捧げ呪文維持判定に一回成功することで発動します(褒賞品が出現する)。呪文維持判定に失敗した場合は、触媒の半分の量の穀物(術者が直近で口にしたもの。変更不能)が出現します。
 触媒となる肉が、自らがまたは一党の仲間が倒した敵対勢力のものである場合は、達成値にプラス5して下さい。

触媒 生物や怪物の死骸(魔法生物系も可。ただしまだ動いているアンデッドは不可)
詠唱 いと慈悲深き慈母龍(マイアサウラ)よ、至誠に堪えし偷蛋龍(トゥダンロン)よ。我らが狩りの成果を御照覧あれ、どうか子らに褒美を賜りたく

Q.つまり?
A.「ママー! ぼく狩りすっごく頑張ったの! ご褒美欲しいな!」
 ゲーム的には倒した敵の数に応じて獲得金額にプラス値がつく感じ。


Q.殺人の完全犯罪が出来ちゃわない?
A.【分解】とか【風化】とかもうあるし……。それに裁判用に使える奇跡だってあるんだから大丈夫大丈夫。

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