ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) 作:舞 麻浦
原作小説5巻までのエピソードは終了しましたが、越冬編終了まで、あと1エピソード挟みます(あ、今更ですが章分けして新居建築・雪山小鬼聖戦軍を合わせて「越冬編」と題しています)。
●前話:
※酒宴での一幕↓
森人探検家「クソ師匠は実際、ポケットの中に『一つの指輪』を持ってるのと、何のコネかエルフの王族の焼き菓子も好物に挙げる程度には食べてるわでマジとんでもないことになってんのよ。初めて会った時に『焼き菓子も持っとらんのか、エルフの癖に』って煽って来たのは忘れないわ! 空腹で倒れてるの分かってて言ってきたのよ!? 他にも、他にもぉおおおっ――思い出したらムカムカしてきた! 絶対次に会ったらぶちのめす! クソ師匠はヒトの域から半歩くらいはみ出してるけど、そんなの関係ないわ!」
半竜娘「その時は手伝うのじゃよー」
文庫神官「お姉さまが手伝うなら私も手伝います!」
TS圃人斥候「まあ、圃人の英雄に一手指南してもらえる機会は逃せねーけど……」
森人探検家「おお、心の友よ!! やはり持つべきは仲間ね!!」
TS圃人斥候「……エルフパイセン、さては酔ってるな?」
はいどーも!
迫りくるアストラルサイドの脅威!
前回は雪山のゴブリンどもをぶっ殺して、温泉で疲れを癒したところまでですね。
そして冬至の祭りで一党全員でサンタコスして乾杯して大いに打ち解け、
半竜娘ちゃんが職業:
新しい夜明けが来て新年になったところです。
半竜娘ちゃん、色々とサブ技能伸ばしすぎでは? と思わなくもないですが、実際便利だから困る。
んでもって、いよいよ冒険者レベル10(MAX)が見えてきました。
冒険者としての等級も
冒険者登録して一年でここまで来たのですから、大したものですね。
というわけで、目指せ【辺境四天王】!
しかも、ちょくちょく混沌寄りのムーヴしてるから、これから先は普通より余計に功績が必要になってくる可能性が高いぞ!*1
とはいえ、このようなキワっキワを攻めるムーヴも、RTA的には最終的にタイム短縮に繋がればヨシです。
実際、リスクある行いをした甲斐もあって、半竜娘ちゃんの強化は加速し、やらかし以上に功績も大きく積まれていっているからこその昇級です。
そんで、新年明けて数日。
「視力増強の【竜眼】。毒炎耐性の【竜命】。有翼変容の【竜翼】。鋭爪被覆の【竜爪】。光学迷彩の【擬態】。ふむ、作れる祖竜術のポーションはこんなものかの、だいぶ数が揃ったのう……」
正月休みの間中も、新居に併設した錬金工房で、分身作って血を抜いて錬金術で薬液化して効果を固定し、いざという時のための備えを蓄えるのに余念のない半竜娘ちゃんです。
冒険に出て補給できない状況で一党全員が使っても、何度か決戦に
なお、血を採られた分身が、今し方、
「……腰に提げた依り代人形に、消滅した手前の分身どもの残留思念を集めておるが、そのうち勝手に動き出しそうな気配がするのう……。何か慰撫する方法を考えておくかのう」
使い潰した【分身】がこの世に残した
秋の収穫祭の時に、『手』の呪像で無理やりに【分身】を受肉させたときのように反逆される前に――いえ、反逆されるのは半竜娘ちゃん的に望むところなのですがタイミングは制御したいので――適当に鎮めてやる方法を考えておいた方がいいでしょう。
チャッキー人形みたいになっても嫌です……よね?
「……逆に考えるんじゃ。動き出したっていいやって考えるんじゃ。手前の
ああ、確かに、たとえ依り代人形たちが勝手に動き出したとしても、中身が半竜娘ちゃんマインドなら、夜な夜な自前で野鼠とか狩って血を吸って死霊人形としての位階を上げてそうかもですね。
死せる分身の残影が核となった半竜娘ちゃん人形の小隊が結成されちゃうかも? なんだか急に『永い後日談のネクロニカ』じみてきたような……。*3
あるいは最終的に、鋼鉄フレームの機竜ボディを依り代にしたいとか言い出すかもしれません。メカゴジラ……?
……いやいや、秩序の勢力的には死霊人形の軍勢はギリギリアウトでは? メタル化したら尚更ダメでは? うーん。いいのか? いや、いかんでしょ。いかんよね?
……やはり死霊術に手を出すと、混沌に落ちかねない行動選択肢が増えていくようですね……。
「ま、それは後で考えるとして、竜血ポーション作りもひとまずここで打ち止めじゃな。作った分を運び出すかの」
配膳台のようなカートの上には、淡いピンクの色をした薬液が入った瓶が、ケースに収められてずらりと並んでいます。ピンクは血の色!
そのカートを押して、製造作業室から運び出します。
こんなに一気に作って腐ったり失効したりしないのかって?
ダイジョーブ!
長期保存のために、【
「これ以上は【
【保存】が掛けられた容器ですが、例えば稀少な素材を採取したときに、
買い占めは誉められた行いではないですが、
「あ、お姉さま、終わりましたか?」
文庫神官ちゃんが、薬瓶を満載したカートを押してきた半竜娘ちゃんを、隣の作業室で出迎えました。
その手元には、紐と紙でできたタグが。紙のタグに書き込まれてるのは、ポーションの効能と有効期間です。
文庫神官ちゃんは、瓶に巻き付けるためのタグを作ってたんですね。
カートをよく見れば、ラベルを貼り間違えないようにでしょうか、木枠で区切って底板を色分けした箱に、効能ごとに分けて薬瓶が入れられていました。
これは、たぶん一回、ラベルを貼る前に瓶がごちゃ混ぜになって中身わからなくなったことがあったんでしょうね。
「作り終わったのじゃよー」
「じゃあタグをくくりつけていきますねー」
「頼んだのじゃー。本当に手伝ってくれて助かるのじゃ」
「そんなぁ、大したことありませんよぅ」
文庫神官ちゃんがくねくねと照れてますね。
「この後は、軽銀と鉄錆の熱反応についての実験でしたっけ。じゃあ私は記録係をやりますね!」
「ああ、頼むのじゃ。一応、高温で燃える粉剤それ自体はできたのじゃが、最適な混合比とか、助剤を何にするかとか、持ち運びと使い易さのための
「……絡繰りまで考えるなら、
「そうなんじゃが、あんまり広めるものでもないと思うのじゃよなー」
「それは、確かに……。でもそれなら、小鬼殺しの一党の道士様なら、既に事情もご存じですし、そちらに相談してはどうでしょう」
「なるほど、そうじゃな……。次会った時にでもそうするかの」
テルミットの薬剤についても、実用化のために研究を進めているようです。
粉体を吸入しないようにするマスクの手配もしていますし、風精霊の力を借りた局所排気装置も設置されています。
念のためさらに【
え、ギルドへの報告?
軽銀武器に関する報告は済ませていますから問題ないかと。
それ以上は、いわば錬金術の秘奥に当たるのですから、この時代でしたら、個人で秘匿するのも許されるはずです。
まあ、火事を出したりすると流石に「そういう危険物を扱うならちゃんと言っとけ!」ってなってアウトでしょうが。
さて、テルミット実験の準備のために――というか、まずは、リスクを低減する実験装置のデザインから始めないとですが――工房の別の部屋に移動しようとしたときです。
TS圃人斥候が顔を青くして駆け込んできたのは。
「なんじゃ、どうした?」 「あれ、用心棒の方はよろしいんですか?」
「――リーダー、新入り! 急ぎの依頼をさせてくれ。頼む、手伝ってくれ!」
なにやら緊急事態のようですね。
新年早々、緊急案件とは、冒険者として商売繁盛でよろしいのか。
はたまた今年も波乱の一年となることを暗示しているのか……。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
▼△▼△▼△▼△▼△▼
血相を変えたTS圃人斥候に連れられて、半竜娘と文庫神官が急いでやってきた先は、歓楽街でした。
あ、森人探検家は麒麟竜馬の世話をしに牧場に行ってたので、遣いを走らせて、後から合流する手筈にしています。
TS圃人斥候は、新居ができた後も、何度か用心棒として歓楽街からの依頼を受けて、そちらに泊まり込んだりしていました。
今日も、新年明けての初営業日だというので、念のために用心棒として店に詰めていたとのこと。
事件はそのとき起こったのです。
「まあ新年会ってことで、昼間からでも結構羽振りのいいお
さかさかと歩いて向かいながら事情を語るTS圃人斥候。背が小さいから、他の者より足の回転数を上げないといけません。
いつもの『鼓舞の革鎧』を着ていますが、その中心の宝玉は、蓄えた魔法の力を使ってしまったのか、輝きが失せています。
「暴食は罪ですよ?」
重装備の文庫神官が、神官らしく窘めます。
その背には騎士盾と錫杖がマウントされ、腰には退魔の剣を
「それ言ったら、歓楽街は元から罪だらけだぜ」
確かに、色欲を始めとして、虚飾、強欲、怠惰、傲慢、嫉妬……。歓楽街である時点で清廉潔白とはとても言えないでしょう。
「まあ、残飯漁りの者共だって、その贅沢のおこぼれ目当てで既に生態系作っとるしのう。歓楽街が急に清廉にはなるまいさ」
街の影に
「で、そのあと何が起こったんじゃ?」
「ああ、そーだった、話の続きだな。その“流れ”の大食い芸の女は、そりゃあ見事なもんだったぜ。
「そりゃ、そういう芸を売りにしとるのじゃからそうなるじゃろ」
「それだけなら急いでリーダーたちを呼び行ったりしねーよ。
……こっからが本題さ。
食べモノ食べるだけなら問題ねー、でもな、そいつは、文字通り
――『もっと食べたい』つって正気を失ってな。
その時のことを思い出したのか、TS圃人斥候が辟易した顔をしています。
「
「ああ、そーだよ。まず、残ってた骨付き肉の骨。そして、食事が乗ってた皿。テーブルクロス、テーブルそのもの、椅子――そして、周りの客と店のお嬢たち」
「んん? みすみす食わせたのかえ?」
「んなわけねーだろ、何のための
「それなら一件落着なんじゃないんかの?」
「
オイラの銀貨三枚が……。*4と投矢を惜しむふりの諧謔を挟むTS圃人斥候。
しかし、その冗句も場を和ますには至らず、文庫神官は、尋常ならざる事態に、顔を引きつらせ、知識神の聖印へと手をやって握りしめます。
「それは、また……。
「わっかんね。とりあえず、オイラの鎧の【
「簀巻きにしたあと直ぐに私たちを呼びに来た、というわけですね」
「ふむん。まあ、見てみんと分からんな。アストラル系の
状況を話しながら速足で歩くうちに、TS圃人斥候が用心棒をしているという酒場に着きました。
もちろん、表から入る訳にもいきませんから、裏口に回ります。
「さあて、悪魔が出るか、竜が出るか……良い功徳を積めるといいのじゃが」
「……言っとくが、巨大化とかそういう派手なのはナシだからな。用心棒として、店を守らなきゃなんなくなる」
奇怪な手つきで合掌しながら店の裏口を
歓楽街ごと更地にしかねないと思っているのが、顔にアリアリと表れていますね。
対する半竜娘は涼しい顔で
「さぁて、それは相手次第じゃな」
「……呼んできたの失敗だったか? 穏便に頼むぜ? フリじゃねーからな?」
「今のところ相手が無力化されているなら、すぐさま、そう酷いことにはなったりはしないと思いますが……」
文庫神官のフォローも、どこか
「はあ。まあいい。こっちだ」
TS圃人斥候は、その“大食い女”を捕らえている部屋へと先導すべく、半竜娘の脇をくぐって前に出ました。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
▼△▼△▼△▼△▼△▼
「おっ、ようやく戻って来たか、ちっちゃせんせー」
「店の嬢でもねーのにオイラをそう呼ぶな、デカ鱗。また
“大食い女”を捕らえている部屋で待っていたのは、用心棒としての後輩だという雄の蜥蜴人でした。
簀巻きにされて気絶している大食い女の首筋に添えられたこの蜥蜴戦士の得物は、平たい木剣に鮫の歯を植え込んで並べた
ギザギザの鮫歯の刃は示威効果も十分でしょうし、大食い女の細首を瞬く間に削ぎ斬るくらいはわけないでしょう。
「ほう、蜥蜴人かや。この街で叔父貴の他に見るのは珍しいのう」
ぬっと部屋の扉を身を屈めて入って来たのは、半竜娘ちゃんです。
「その恰好、尼さんか? ……って、え、いやデッカ!?」
半竜娘ちゃんの非常に上質な司教服と、その巨体の偉容に、用心棒の蜥蜴人は、うッと気圧されます。
……うん、幾つもの偉業を達成している半竜娘ちゃんは、生物としての圧が違いますからね。
あと、巨漢の聖職者って時点で、『つよい(確信)』って感じじゃないですか?
「リーダー。そこのデカ鱗の後輩は、オイラたちが山村を巡ってた時にこっちに連れの女と転がり込んできて、宿賃代わりに用心棒してるんだよ。
確か、そこの連れの彼女は、交易神の侍祭サマだったか? 宿の部屋で彼女と
旅の神官に惚れ込んで集落を飛び出す蜥蜴人の若者、というのも、まあある意味
その彼の連れ合いの交易神の
よく見れば、蜥蜴戦士の
「んで。デカ鱗とその連れの彼女さんにご紹介。こっちのいろいろでっかいのが、うちのリーダー。【竜殺し】で【辺境最大】で【鮮血竜姫】で、あー、まあ、二つ名がいっぱいある。一年経たずに翠玉等級になった凄腕だ。蜥蜴人の本能云々とかで戦いを挑むのは勝手だが、あとにしろよ」
「…………ウス。オ
「そう緊張すんな、デカ鱗。だが、ソンケイは実際大事だ」
ガチガチの岩のように体を強張らせた蜥蜴戦士の肩を叩いて隣を抜けるTS圃人斥候。
そんなTS圃人斥候の姿に、いつの間にか部屋に入ってきていた文庫神官は、目を瞬かせます。
「結構真っ当に用心棒してらっしゃったんですね。……そういえば、普段から口は少し悪いですけど、面倒見は良かったような。この間も冬至祭の衣装作ってくれましたし」
「まあ、改心
かんらかんらと笑う半竜娘ちゃんに、
とはいえ、一方では半竜娘の強さについても興味津々な様子。
隠しきれない興味に、尻尾がそわそわと動いています。
また、それは半竜娘の方も同様です。
……出会ってすぐに強さによる格付けをしないと気が済まんとか、野生動物か何かか、君ら。
いや、野生動物っていうか、蛮族だったわ……。
「そういうのは後にしてくれ、マジで。さっさと
確か霊視とかできるようになったんだろ、リーダーは。面倒かけるが、さっさと
「おうよ」
半竜娘がアストラル界を視るために、己の魂の眼を凝らすと、ぼんやりと何かが浮かび上がって見えます。*6
「これは、餓鬼の
霊視した半竜娘の眼に視えたのは、大食い女の内に潜む、餓鬼腹の悪魔。*7
心なしか、小鬼のようにも見えます。
「暴食の悪魔ってコトか?」
TS圃人斥候が首を傾げます。
「いえ、それとは違うものですね。その眷属ではありますが」
神学に明るい文庫神官が、その疑問に答えます。
「どう違うんだ?」
……傍らの
「暴食は富めるがゆえの悪徳ですが、餓えは貧者の嘆きです。持てるものと、持たざるもの。尽きるまで喰らうという行動は同じでも、その背景は真逆です。そして、餓える者を踏みつけにして栄える悪徳が暴食ですから、餓鬼は暴食の悪魔の眷属として使役されることが多いのです」
文庫神官が解説する間に、半竜娘は呪文で【分身】を生み出しています。
「
半竜娘ちゃんの隣に、分身体が現れます。巨体が増えたせいで部屋がいっそう狭く感じますが、動けないほどではありません。
「呼ばれて飛び出て、なのじゃ! そして――
そして立て続けに分身体に【嫌気】【停滞】の呪文を使わせると、大食い女の身体の内に巣くう『餓鬼』の意気を挫き、動きを止めさせます。
「さらにこうする。『偉大なりし
さらに駄目押しに、【竜吠】の魔力を乗せて霊体にだけ響く一喝で、その餓えた魂を恫喝すれば……!
「まあ、耐えきれずに弾き出されてくるという寸法よ」
『GGGGAAAAAAAA…………』
半竜娘の言葉の通り、大食い女の身体から滲み出るようにして黒い靄が溢れると、腹だけ異様に膨れて他がやせ細った、小鬼のように醜い悪魔として凝集しました。
「これが、餓鬼……!」
半竜娘の死霊術の技能のおかげか、周囲の者にもぼんやりとその姿が見えているようです。
もしこいつが、
出てきた【餓鬼】は3重のデバフによって、動くこともままならない状態になってしまっています。
顕現するのは肉体がやられてからでも遅くないとでも慢心していたんでしょう。
「……あとは煮るなり焼くなり、ってところじゃの。さて、そこな剣士よ、トドメを譲ろうかの?」
「まあ、お膳立てされたもんでも、手柄首は手柄首か……。でも、尼様よ、
「そうかの? そこな侍祭の【
「へえ、そんならやってみるか」
蜥蜴戦士の一閃!*12
『GYAAA…!?』
鮫歯木剣が、餓鬼の首を半ばまで断ち切りました!
「ちっ、こんなナリでも
蜥蜴戦士のさらなる攻撃!*13
鮫歯木剣が躍動し、今度こそ餓鬼の首を落としました!
『GGYIGGAAAAAAAA!!!??』
さらに、祝福された刃から伝わった神聖なる力が、異形の命を青く焼き滅ぼしていきます。
「うむ、見事じゃ!」
「それで、これで終わりならいーんだけどよー」
「餓鬼は、暴食の眷属ですからね。やはり親玉が居るんじゃないですか?」
新年の歓楽街に紛れ込んだ異物に始まる騒動は、どうやら、まだ終わりにはならないようです。
というところで、今回はここまで!
ではまた次回!
鮫歯木剣の蜥蜴戦士と、豊満な交易侍祭は、原作小説6巻に出てくる白磁・黒曜混合の一党のメンバーです。
これから、戦乙女信仰の神官戦士(女)、黒づくめの闇人斥候、軍師と呼ばれる只人の中年魔術師(男)の三名(いずれも黒曜等級)の一党と出会って加入する、という想定です。