こんなありふれもありえた   作:ラプラスの悪魔

9 / 17
前回の続き・・・のつもりで書いていこうと思います。


ただ、召喚後から帰還まで書く。という事は無いです。


あまりにも長くなりすぎるし原作崩壊している以上、別の物語として新規で書きあげなきゃいけない程に考察と設定等を練る必要があるからです。
もはや新規でありふれを書き上げるのと変わらないレベルで。

いいとこ、ダイジェストかご都合主義的大幅カットが妥当なラインでしょう。


※書き上げてみてなんですが思ったより長くなってしまいました。
やっぱ、心情描写的な要素入れると冗長になりますね(汗


case5-2「異世界の園にて咲き誇る花々」

月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 

 

だが、南雲ハジメにはそれは当てはまらなかった。それは何故か?友人が多数いるからだ。

 

 

 

いつものように始業チャイムがなる10分前程に登校し、教室の扉を開けた。

 

 

 

その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。女子生徒の殆どは友好的な表情を向ける者が大多数だ。

 

 

 

 

あからさまにハジメに対して行動に出るものは居なく、舌打ちや睨んだりしているのは檜山大介・斎藤良樹・近藤礼一・中野信治のこの4人だけだ。

 

 

 

他の非友好的な生徒は既にハジメに対して興味を向けていない。

 

 

 

何故、ハジメがそんなに一部の人間に敵視されるのか。その答えが彼女だ。

 

 

 

ハジメ(・・・)君、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ!」

 

 

 

ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメのもとに歩み寄った。そう、中学3年の時に出会って友人になった白崎香織、彼女である。

 

 

学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

 

いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。そんな香織はなぜかよくハジメを構うのだ。

 

 

ハジメだけそんな構われるのが気に食わないから、舌打ちや睨みを頂戴しているのである。要するに「嫉妬」である。

 

 

「ああ、おはよう白崎さん」と挨拶を返すハジメ。

 

 

それに嬉しそうな表情をする香織。「なぜそんな表情をする!」と、ハジメは、困惑していた。

 

 

まさか自分に恋愛感情を持っているのでは?と思いつつも優花さんの事を知っているはずだし・・・と、彼女の態度が不思議でならなかった。

 

 

 

と、ハジメが会話を切り上げるタイミングを図っていると、三人の男女が近寄って来た。

 

 

 

ハジメ(・・・)君。おはよう。毎日大変ね」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 

 

三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫。香織の親友だ。中学3年の時に香織と共に友人になった彼女である。そして二大女神と言われるもう一人の美少女でもある。

 

 

ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。

 

 

百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。事実、彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。

 

 

現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で〝お姉さま〟と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。

 

 

 

次に、臭いセリフで香織に声を掛けたのが天之河光輝。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。

 

 

サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。正義感も強い(思い込みが激しい)。

 

 

小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、雫と同じく全国クラスの猛者だ。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。

 

 

最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。

 

 

龍太郎は努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、現に今も、ハジメを一瞥した後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。

 

 

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。」と雫達に挨拶を返し、苦笑いするハジメ。

 

 

 

「いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから。」と光輝がハジメに忠告する。

 

 

 

光輝の目にはやはり、ハジメは香織の厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようだ。・・・が、今日も変わらず我らが女神(悪魔)は無自覚に爆弾を落とす。

 

 

 

「?? 光輝くん、なに言ってるの?私が友達としてハジメ君と話したいから話してるだけだよ?」

 

 

 

ざわっと教室が騒がしくなる。一部の男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりにハジメを睨み、女子達はまた始まったと言わんばかりな様子見体制。

 

 

 

「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」と光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。

 

 

 

完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、そこが厄介なんだよなぁ~とハジメは現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。

 

 

 

「……ごめんなさいね?二人共悪気はないのだけど……」と、この場で最も人間関係や各人の心情を把握している雫が、こっそりハジメに謝罪する。

 

 

 

ハジメは雫に「白崎さんのは仕方ないけど、天之川君の方はもっと放って置いていいと思うよ?」と苦笑いしながらアドバイスするのだった。

 

 

雫も「・・・そうね。ちゃんと考えてみるわ。」と納得の様子を見せた所で、始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。

 

 

教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、当然のように授業が開始された。

 

 

 

(※ハジメは授業中に寝ていません。学校での優花の印象を悪くしたくないってのもあります。)

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

教室のざわめきとお腹の感覚からどうやら昼休憩に入ったようだとハジメは、十秒でチャージできる定番のお昼をゴソゴソと取り出す。

 

 

 

なんとなしに教室を見渡すと購買組は既に飛び出していったのか人数が減っている。三分の二くらいの生徒が残っており、それに加えて四時間目の社会科教師である畑山愛子先生が教壇で数人の生徒と談笑していた。

 

 

 

――じゅるるる、きゅぽん! 

 

 

 

午後のエネルギーを十秒でチャージしたハジメは辺りを見回すと、優花達6人が傍に来ようとしていたし、さらにタイミング的にはハジメにとっての女神(悪魔)がやって来ようとしていた。

 

 

 

「ハジメ君。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」と女神(悪魔)が仰られるので、

 

 

 

「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」と言って、ミイラのように中身を吸い取られたお昼のパッケージをヒラヒラと見せる。

 

 

しかし、その程度の抵抗など意味をなさないとばかり女神(悪魔)は追撃をかける。

 

 

 

「えっ!お昼それだけなの?ダメだよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当、分けてあげるね!」と仰られた。

 

 

 

(もう勘弁して下さい! 気づいて! 周りの空気に気づいて!)とハジメが冷や汗を流していると救世主が現れた。優花達だ。

 

 

 

「白崎さん、大丈夫よ?私達と一緒に食べましょう?ハジメ(・・・)には私が分けてあげるから大丈夫。」

 

 

と物凄い笑顔で言う優花さん。目が笑ってない。それを見て笑いを堪える奈々と妙子と男子組。

 

 

その後、色々ゴタゴタありつつ、その中で深い溜息を吐きながらハジメは内心で愚痴った。

 

 

(もういっそ、こいつら異世界召喚とかされないかな? どう見てもこの四人組、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうに。)

 

 

 

現実逃避のため異世界に電波を飛ばすハジメ。いつも通り苦笑いでお茶を濁して退散するかと腰を上げかけたところで……凍りついた。

 

 

 

光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。

 

 

その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

 

 

自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 

 

 

光に包み込まれる直前に「優花さん!!!!」「ハジメ!!!!」そうお互いに叫びながら手を伸ばし合った。

 

 

数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

目をギュッと閉じていたハジメは、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。

 

 

まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。

 

 

美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だがしかし、ハジメはなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。

 

 

よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。どうやら自分達は、その最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。

 

 

周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

 

「・・・ハジメ、恥ずかしいよ。」とその声に振り向いてみたら、思わず抱きしめていたらしい優花が顔を赤くしていた。

 

「あ、ゴメン!優花さん!」慌てて離れながらも、周囲を見回してみたハジメ。

 

 

そこには、やはり呆然としてへたり込む友人達や香織や雫の姿があった。怪我はないようで、ハジメはホッと胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

イシュタルの自己紹介部分はカットです。(変わりようがないので。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ハジメ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

 

上座に近い方に畑山愛子先生と光輝と龍太郎が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメ達は最後方だ。

 

(※ハジメ達=ハジメ+優花組+香織+雫の9人です)

 

ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろうが。

 

 

教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

メイドさんの登場。そして給仕以降、イシュタルのトータスの現状説明、光輝の暴走。ここまでも同じ流れなのでカット。

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。

 

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

と、その他のクラスメイト達も光輝に賛同しようとする中で、その際に周囲を注視していただろうイシュタルは、ハジメ達一団が何も言っていないのが気になったのか問うてきた。

 

「そちらの少年とその周囲の方々は、どうなされるおつもりかお聞きしても宜しいかな?」

 

「まず、自分には漲っている力なんてものは感じられません。そして私達には、戦争並びに生き物を自らの手で殺すという経験がありません。そんな自分達が力を手にしたからと言って、イシュタルさんの仰る通りの希望を叶えられるとも思えません。

 

ですので、当人の意思を尊重した上で、一定程度の力しか無いと判断された者。並びにいざ心折れた者。性格的に戦闘に向かない者などを後方支援という形で認め身分の保証もそれ相応にしていただけるなら、参加でも構いません。」と返すハジメ。

 

「南雲!おま「天之川君は黙ってて!!!!」

 

「ふむ。貴方の仰る通りでしょうな。ただし、訓練と座学は皆で受けて頂きますが、宜しいかな?」と思惑通り行かなかった筈のイシュタルが妥協点を出してきたのでハジメは頷いた。

 

 

(※この時点で、優花組の6人と香織・雫の8人はハジメの交渉能力ややる時はやる性質を知ってるので、敢えて沈黙してました。)

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

教会から王国への案内、王族への紹介。晩餐会への招待。各自に一室ずつ与えられた部屋への案内。

 

 

この辺りも変わらないのでカット。

 

 

ステータスプレートのくだりの辺りもカット。

 

(※各人のステータスや天職や技能は原作と変わらないままと思ってください。)

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

ハジメのステータスプレートを見た、団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。

 

 

そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」と歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 

 

その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、檜山の取り巻き達はニヤニヤと嗤わらっている。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」と言い返すハジメ。

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、本当に嫌な性格をしている檜山。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。

 

事実、香織や雫や優花・優花組の友人などは不快げに眉をひそめている。

 

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」

 

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

 

「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

 

次々と笑い出す生徒に香織と雫と優花達が憤然と動き出す。

 

 

貴方達って本当に最低ね?ハジメ君がイシュタルさんに言った事、何も聞いてなかったのかしら?」と雫。

 

本当に最低!そうやって人を見下す人なんて大っ嫌いだよ!」と香織。

 

信じられない!こんな数値だけでそこまで人を馬鹿に出来るなんて!」と優花と奈々と妙子。

 

「そして、天之川や他のクラスメート達も最低だな。誰も南雲に対するフォローも何もせず黙って聞いてるか檜山達と一緒になって笑ってるだけなんて。」と男子組。

 

流石に女子組の非難は効いたのか大人しくなった檜山達は素直にハジメにプレートを返した。

 

男子組の指摘で天之川は何か言おうとしてたが、隣りにいた龍太郎に止められていた。

 

 

 

※愛子先生はやっぱり農業チートのままでした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ハジメが自分の最弱ぶりと役立たず具合を突きつけられた日から二週間が経った。

 

ハジメは訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしている。その手には〝北大陸魔物大図鑑〟というなんの捻りもないタイトル通りの巨大な図鑑があった。

 

なぜ、そんな本を読んでいるのか。それは訓練で、成長するどころか役立たずぶりがより明らかになっただけだったからだ。力がない分、知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているのである。

 

メルド団長に錬成の技能を伸ばすために頼みこんで、国の筆頭練成師の下で修行もさせてもらっているが、"鉱物系鑑定と精密錬成"という派生技能がついただけだ。

 

(※この時点で本来は派生持ってませんが、持ってないとこの後の展開が、ね?)

 

 

(はぁ~、結局、帰りたいなら逃げる訳にはいかないんだよね。ってヤバイ、訓練の時間だ!)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようである。ハジメは、自主練でもして待つかと、支給された西洋風の細身の剣を取り出した。

 

優花達や香織や雫達はまだ来ていないようである。

 

と、その時、唐突に後ろから衝撃を受けてハジメはたたらを踏んだ。なんとか転倒は免れたものの抜き身の剣を目の前にして冷や汗が噴き出る。顔をしかめながら背後を振り返ったハジメは予想通りの面子に心底うんざりした表情をした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

この間はカット。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そろそろ痛みが耐え難くなってきた頃、突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

 

「何やってるの!?」

 

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「ハジメくん!」檜山の弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

「いや、それは……」

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの?それなら、私が……」

 

何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

 

「でも……」それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「ハジメ君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

 

何をどう解釈すればそうなるのか。ハジメは半ば呆然としながら、ああ確かに天之河は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

 

そこに遅れて来ていた優花達が合流する。

 

ハジメ!!大丈夫!?また檜山達に!?あの野郎、いっぺん殺してやろうかしら!?」と優花。

 

「南雲っち!ゴメンね?気付くの遅くなって。怪我は香織っちが治してくれたんだね。」と奈々。

 

「天之川君、南雲君が不真面目とか言ってなかった?彼は誰よりもこの世界の知識を身に付けるために図書館で努力をしているのよ?それを不真面目と貴方は言うの?」と静かに怒る妙子。

 

「しかも、1人対4人を鍛錬で鍛えようとしたとか見えるって天之川、お前の目は節穴か?ただの集団リンチだろう?」と男子組。

 

 

 

その場で幾らかの禍根を残しつつ、全員で訓練場へと戻って行った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

 

そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメは天を仰ぐ。

 

 

(……本当に前途多難だ)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ホルアドへ旅立つ前にハジメは2通の手紙を書き上げた。

1通は遠征に同行しない愛子先生に手渡す為に。もう1通は遠征が開始される前にメルド団長に渡すために。である。

勿論、愛子先生には出発前に手渡してある。誰にも見られないように念を押して。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【オルクス大迷宮】

 

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

の説明はカット。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ハジメ達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

久しぶりに普通の部屋を見た気がするハジメはベッドにダイブし「ふぅ~」と気を緩めた。全員が最低でも二人部屋なのにハジメだけ一人部屋だ。

 

明日から早速、迷宮に挑戦だ。今回は行っても二十階層までらしく、それくらいなら、ハジメのような最弱キャラがいても十分カバーできると団長から直々に教えられた。

 

ハジメとしては面倒掛けて申し訳ありませんと言う他ない。むしろ、王都に置いて行ってくれてもよかったのに……とは空気を読んで言えなかったヘタレなハジメである。

 

しばらく、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメだが、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。

 

しかし、ハジメがウトウトとまどろみ始めたその時、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。

 

 

少し早いと言っても、それは日本で徹夜が日常のハジメにしてはということで、トータスにおいては十分深夜にあたる時間。怪しげな深夜の訪問者に、緊張を表情に浮かべる。

 

しかし、その心配は続く声で杞憂に終わった。

 

「ハジメ君、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

「ハジメ君、八重樫です。香織と一緒だけど、いいかな?」

 

なんですと?と、一瞬硬直するも、ハジメは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織と雫が立っていた。

 

 

「……なんでやねん」

 

「えっ?」「えっ?」

 

 

ある意味、衝撃的な光景に思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。よく聞こえなかったのか香織と雫はキョトンとしている。

 

ハジメは、慌てて気を取り直すと、なるべく香織と雫を見ないように用件を聞く。ハジメも立派な思春期男子。今の香織と雫の格好は少々刺激が強すぎる。

 

「あ~いや、なんでもないよ。えっと、どうしたのかな? 何か連絡事項でも?」

 

「ううん。その、少しハジメ君と話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

「私もちょっと話したい事があって。……駄目かな?」

 

「…………どうぞ」

 

最も有り得そうな用件を予想して尋ねるが、香織と雫はあっさり否定して弾丸を撃ち込んでくる。しかも上目遣いという炸薬付き。効果は抜群だ!気がつけば扉を開け部屋の中に招き入れていた。

 

「うん!」「ありがとう!」

 

なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、香織と雫は、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

 

若干混乱しながらも、ハジメは無意識にお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。香織と雫と自分の分を用意して二人に差し出す。そして、向かいの席に座った。

 

「「ありがとう」」

 

やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織と雫。窓から月明かりが差し込み純白の彼女達を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。

 

ハジメは、欲情することもなく純粋に神秘に彩られた二人に見蕩れた。二人がカップを置く「カチャ」という音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。ちょっと気管に入ってむせた。恥ずかしい。

 

二人がその様子を見てくすくすと笑う。ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために、少々、早口で話を促した。

 

 

「それで、話したい事って何かな。明日のこと?」

 

ハジメの質問に「うん」と頷き、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

 

「明日の迷宮だけど……ハジメ君には町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから!お願い!」

 

話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。ハジメは困惑する。ただハジメが足手まといだからというには少々必死過ぎないかな?と。

 

「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

 

「違うの!足手まといだとかそういうことじゃないの!」

 

香織は、ハジメの誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝り静かに話し出した。

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……ハジメ君が居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

その先を口に出すことを恐れるように押し黙る香織。ハジメは、落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

「最後は?」

 

香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

「……消えてしまうの……」

 

「……そっか」

 

しばらく静寂が包む。

 

再び俯く香織を見つめるハジメ。

 

確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢である。そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、許された場合はクラスメイトから批難の嵐だろう。いずれにしろ本格的に居場所を失う。故に、ハジメに行かないという選択肢はない。

 

ハジメは、香織を安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。

 

「夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。むしろ、うちのクラス全員チートだし。敵が可哀想なくらいだよ。僕は弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」

 

語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なお、香織は、不安そうな表情でハジメを見つめる。

 

「それでも……それでも、不安だというのなら……」

 

「……なら?」

 

ハジメは若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに香織と目を合わせた。

 

「守ってくれないかな?」

 

「え?」

 

自分の言っていることが男としては相当恥ずかしいという自覚があるのだろう。既にハジメは羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、香織からもその様子がよくわかった。

 

「白崎さんは〝治癒師〟だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな?それなら、絶対僕は大丈夫だよ」

 

しばらく、香織は、ジーとハジメを見つめる。ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらハジメは必死に耐える。

 

ハジメは、人が不安を感じる最大の原因は未知であると何かで聞いたことがあった。香織は今、ハジメを襲うかもしれない未知に不安を感じているのだろう。ならば、気休めかもしれないが、どんな未知が襲い来ても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかった。

 

しばらく見つめ合っていた香織とハジメだが、沈黙は香織の微笑と共に破られた。

 

「変わらないね。ハジメ君は」

 

「?」

 

香織の言葉に訝しそうな表情になるハジメ。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

「ハジメ君は、私と会ったのは中3のあの時からだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

その意外な告白に、ハジメは目を丸くする。必死に記憶を探るが全く覚えていない。う~んと唸るハジメに、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見たハジメ君は土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」

 

「ど、土下座!?」

 

ハジメは、なんて格好悪い所を見られていたんだ!と今度は違う意味で身悶えしそうになる。そして、人目につくところで土下座っていつ、どこでだ!?と必死に記憶を探る。一人、百面相するハジメに香織が話を続ける。

 

「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても……踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達、呆れて帰っちゃった」

 

「そ、それはまたお見苦しいところを……」

 

ハジメは軽く死にたい気分だ。厨二病を患っていた時の黒歴史とタメを張るくらい最悪のシーンを見られていたらしい。もう、乾いた笑みしか出てこない。

 

しかし、香織は優しげな眼差しをしており、その表情には侮蔑も嘲笑もなかった。

 

「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見てハジメ君のこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

 

「……は?」

 

ハジメは耳を疑った。そんなシーンを見て抱く感想ではない。もしや、白崎さんには特殊な性癖が!?と途轍もなく失礼なことを想像するハジメ。

 

「だって、ハジメ君。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

その言葉に、ハジメは、ようやく思い当たった。確かに、中学生の頃、そんなことがあったと思い出す。

 

男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だった。

 

偶然通りかかったハジメもスルーするつもりだったのだが、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう――お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が、更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。

 

といっても喧嘩など無縁の生活だ。仕方なく相手が引くくらいの土下座をしてやったのだ。公衆の面前での土下座は、する方は当然だが、される方も意外に恥ずかしい。というか居た堪れない。目論見通り不良は帰っていった。

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

「白崎さん……」

 

「だから、私の中で一番強い人はハジメ君なんだ。中3の時にハジメ君に会えたときは嬉しかった。……ハジメ君みたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。ハジメ君直ぐに寝ちゃうけど……」

 

「あはは、ごめんなさい」

 

香織が自分を構う理由が分かったハジメは、香織の予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。

 

「だからかな、不安になったのかも。迷宮でもハジメ君が何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

香織は決然とした眼差しでハジメを見つめた。

 

「私がハジメ君を守るよ、優花ちゃん達と一緒に」

 

ハジメはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

「ありがとう」

 

 

「ゴホンッ!、香織のヒーロー振りとハジメ君のヒロイン振りが見れたのは良いのだけど、私の話も良いかしら?」

 

「し、雫ちゃん・・・何言ってるのもぅ・・・」と顔を真赤にする香織。

 

「ぇと、ゴメンね八重樫さん。で八重樫さんの話は何だったのかな?」と頬をかきながら尋ねるハジメ。

 

「ハジメ君。貴方は度々私に、周りに気を遣い過ぎと言ってくれたわよね?「幼馴染の事にすら気を遣っているなら、僕には気を遣わなくていいよ?」って。」と当時を思い出しながら語る雫。

 

「うん。言ったね。僕がアレコレ言われるのは自業自得だから、それを八重樫さんに気を遣わせるのは罪悪感が・・・って言うような事を。だよね?」とハジメ。

 

「えぇ。あの言葉を貴方に言われてからずっと考えて心の中に置いて行動して来たわ。確かに光輝や龍太郎の暴走に対してフォローし過ぎてたし、香織のハジメ君に対する暴走もね・・・」

 

「雫ちゃん、暴走って酷い・・・。」ぷくーっと頬を膨らませ抗議する香織。

 

「事実じゃない。だからこそ、香織と同じ様に、貴方が今回の遠征で誰かを守るために無理をして自分を傷付けるんじゃないか、心配なの。」と俯く雫。

 

「そ、そんな事は無いんじゃないかな?だって僕は最弱で無能だよ?」と場を和まそうとするハジメ。

 

そんなわけない!貴方は私達の中で一番強い人。与えられた力がとか技能がとかそんなものじゃなく『心が』強いの。だからこそ、優花の事を知ってても貴方に頼ってしまうの、私は。」と雫。

 

「そうだね。雫ちゃんの言う通りだよ。そんなハジメ君だからこそ、憧れたんだもの。」と香織。

 

「何を言えば、八重樫さんの気持ちを軽くしてあげられるのかは分からないんだ。だから白崎さんに言ったのと同じ事になってしまうけど。」

 

「八重樫さんも僕を守ってくれないかな?」ハジメは一日に二度もかと顔を真っ赤にしながら、しかし真っ直ぐに雫と目を合わせた。

 

「・・・ぅん。分かったわ。」と照れながらハジメと目を合わせた雫の笑顔は、ハジメを、そして香織すらも虜にする程眩しいものだった。

 

それからしばらく雑談した後、香織と雫は部屋に帰っていった。

 

ハジメはベッドに横になりながら、思いを馳せる。なんとしても自分に出来ることを見つけ出し、無能の汚名を返上しなければならない。いつまでもヒロインポジなど納得できるものではないし、優花を自分の力で守りたいし友人達も守りたい。

ハジメはそんな決意を新たにし眠りについた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

オルクスの入場口から二十階層までの道のりや過程は変わらず。

(勿論入る前にメルド団長にはハジメが書いた手紙を渡してある。帰還したら開けるように伝えた上で。)

そして、光輝の暴走。檜山の独断専行によるトラップの発動、強制転移。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

ハジメ達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

尻の痛みに呻き声を上げながら、ハジメは周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどはハジメと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 

橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

 

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

 

しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは感じていた。

 

十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

 

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「ッ!?」その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も……」

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

 

「あ」 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

 

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの足元が突然隆起した。

 

 

バランスを崩したトラウムソルジャーの剣は彼女から逸れてカンッという音と共に地面を叩くに終わる。更に、地面の隆起は数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の端へと向かって波打つように移動していき、遂に奈落へと落とすことに成功した。

 

 

橋の縁から二メートルほど手前には、座り込みながら荒い息を吐くハジメの姿があった。ハジメは連続で地面を錬成し、滑り台の要領で魔物達を橋の外へ滑らせて落としたのである。いつの間にか、錬成の練度が上がっており、連続で錬成が出来るようになっていたおかげだ。錬成範囲も少し広がったようだ。

 

もっとも、錬成は触れた場所から一定範囲にしか効果が発揮されないので、トラウムソルジャーの剣の間合いで地面にしゃがまなければならず、緊張と恐怖でハジメの内心は一杯一杯だったが。

 

魔力回復薬を飲みながら倒れたままの女子生徒のもとへ駆け寄るハジメ。錬成用の魔法陣が組み込まれた手袋越しに女子生徒----園部優花の手を引っ張り立ち上がらせる。

 

 

呆然としながら為されるがままの優花に、ハジメが笑顔で声をかけた。

 

「早く前へ。大丈夫、優花(・・)冷静になればあんな骨どうってことないよ。クラスメイトは僕を除いて全員チートなんだから!出来れば、菅原さんや宮崎さん達を纏めて、敵を倒して!」

 

自信満々で背中をバシッと叩くハジメをマジマジと見る優花は、次の瞬間には「うん!ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。

 

ハジメは周囲のトラウムソルジャーの足元を崩して固定し、足止めをしながら周囲を見渡す。

 

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

 

 

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

 

 

ハジメは走り出した。光輝達のいるベヒモスの方へ向かって。

 

 

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

 

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

 

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

 

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝!」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿共!」

 

「雫ちゃん……」苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 

その時、一人の男子が光輝の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

 

「「なっ、南雲!?」」

 

「「ハジメくん!?」」

 

と驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」

 

「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は……」

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。

 

「あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだ!」

 

光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 

訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

 

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませ――」

 

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……

 

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

光輝が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。

 

「やるしかねぇだろ!」

 

「……なんとかしてみるわ!」

 

二人がベヒモスに突貫する。

 

「香織はメルドさん達の治癒を!」

 

「うん!」

 

光輝の指示で香織が走り出す。ハジメは既に団長達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。

 

光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

 

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

 

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

 

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

 

「だといいけど……」

 

(それはやってないフラグだよとツッコミを入れそうになるハジメがいたが空気をよんで無言)

 

龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

 

先ほどの攻撃は文字通り、光輝の切り札だ。残存魔力のほとんどが持っていかれた。背後では、治療が終わったのか、メルド団長が起き上がろうとしている。

 

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 

その先には……

 

無傷のベヒモスがいた。

 

低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「ボケッとするな!逃げろ!」

 

メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

 

光輝達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

 

どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

 

「お前等、動けるか!」

 

メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。

 

メルド団長が香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくるハジメの姿を捉えた。

 

「坊主!香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」 ハジメにそう指示する団長。

 

 

"光輝を担いで下がれ!" その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも敵わないということなのだろう。

 

メルド団長は唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めるつもりだ。

 

そんな団長に、ハジメは必死の形相で、とある提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。

 

 

メルド団長は逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。

 

「……やれるんだな?」

 

「やります」決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、

 

メルド団長は「くっ」と苦い笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

 

「はい!」

 

メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど光輝を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

 

「吹き散らせ――〝風壁〟」 詠唱と共にバックステップで離脱する。

 

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの光輝達を守りながらでは全滅していただろうが。

 

再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法。

 

 

「――〝錬成〟!」

 

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

 

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

 

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

 

その間に、メルドは回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達を担ぎ離脱しようとする。

 

トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、実は先ほどハジメが助けた優花達だったりする。地味に貢献しているハジメである。

 

「待って下さい!まだ、ハジメくんがっ」撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「坊主の作戦だ!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

 

「なら私も残ります!」

 

「ダメだ!撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

 

「でも!」

 

 なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「坊主の思いを無駄にする気か!」

 

「ッ――」

 

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。ベヒモスはハジメの魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

 

香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

 

メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメを振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長と、雫と龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始した。

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

 

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

 

それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

 

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

 

生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほどハジメが助けた優花達の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近いようで泣きそうな表情だ。

 

誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

 

「――〝天翔閃〟!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

 

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

 

「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!」

 

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づく。

 

「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共が!」

 

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

 

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群だ。

 

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

 

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

 

そして、階段への道が開ける。

 

「皆!続け!階段前を確保するぞ!」

 

光輝が掛け声と同時に走り出す。

 

ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと光輝が魔法を放ち蹴散らす。

 

クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って!ハジメ君を助けなきゃ!ハジメ君がたった一人であの怪物を抑えてるの!」

 

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。なにせ、ハジメは〝無能〟で通っているのだから。

 

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメの姿があった。

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

 

「・・・ハジメ。」と優花。

 

「・・・ハジメ君。」と雫。

 

「・・・南雲っち。」と奈々。

 

「・・・南雲君。」と妙子。

 

「・・・南雲ぅ。」と男子組。

 

次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。

 

「そうだ!坊主がたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。

 

無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

 

その中には檜山大介もいた。自分の仕出かした事とはいえ、本気で恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

 

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときのこと。

 

緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織と雫を見かけたのだ。

 

初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、香織と雫は檜山に気がつかずに通り過ぎて行った。

 

気になって後を追うと、香織と雫は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……ハジメだった。

 

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。しかし、自分とでは釣り合わないと思っており、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。

 

しかし、ハジメは違う。自分より劣った存在(檜山はそう思っている)が香織の傍にいるのはおかしい。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば頭大丈夫?と言われそうな考えを檜山は本気で持っていた。

 

ただでさえ溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。香織が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなってあらわれたからだろう。

 

その時のことを思い出した檜山は、たった一人でベヒモスを抑えるハジメを見て、今も祈るようにハジメを案じる香織を視界に捉え……ほの暗い笑みを浮かべた。

 

 

その頃、ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。既に回復薬はない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

 

ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら錬成を止めても数秒は時間を稼げるだろう。その間に少しでも距離を取らなければならない。

 

額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

 

ハジメはタイミングを見計らった。

 

そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、一気に駆け出した。

 

ハジメが猛然と逃げ出した五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。

 

 

鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……ハジメを捉えた。

 

再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ハジメを追いかけようと四肢に力を溜めた。

 

 

だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

 

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

いける!と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走るハジメ。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じて駆ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がった。

 

思わず、頬が緩む。

 

しかし、その直後、ハジメの表情は凍りついた。

 

無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。

 

……ハジメの方に向かって。

 

明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。

 

(なんで!?)

 

疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡り、ハジメは愕然とする。

 

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。直撃は避けたし、内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。

 

フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……

 

(その有様を見て、優花や香織や雫は既にハジメに向かって走り出していた。他のクラスメート達はその様子に気付く気配もなく。)

 

ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。ハジメが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかりハジメを捉えていた。

 

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!

 

フラつく頭、霞む視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。

 

ハジメは、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

 

そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

ハジメもなんとか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

 

(ああ、ダメだ……)

 

そう思いながら対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けると、飛び出している優花や香織や雫を止めようと光輝や龍太郎や男子達が騎士団員に羽交い締めにされているのが見えた。

 

他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド団長や他の騎士団員の面々も悔しそうな表情でハジメを見ていた。

 

「ハジメ君!」と香織がハジメの手を掴み

「ハジメ君!」と雫が香織の体とハジメのもう片方の手を

「ハジメ!」と優花が二人を支えるように引き上げようとする。

 

が、ハジメ達の居た足場も完全に崩壊し、ハジメ達は奈落へと落ちていった。4人一塊になるように互いに手を繋いで。

 

響き渡り消えゆくベヒモスの断末魔。ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。

 

そして……その光景を、まるでスローモーションのように緩やかになった時間の中で、ただ見ていることしかできないクラスメイト達。

 

目の前でクラスメイトが4人死んだのだ。クラスメイト達の精神にも多大なダメージが刻まれている。誰もが茫然自失といった表情で石橋のあった方をボーと眺めていた。中には「もう嫌!」と言って座り込んでしまう子もいる。

 

ハジメが光輝に叫んだように今の彼等にはリーダーが必要なのだ。

 

光輝がクラスメイト達に向けて声を張り上げる。

 

「皆!今は、生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達はノロノロと動き出す。トラウムソルジャーの魔法陣は未だ健在だ。続々とその数を増やしている。今の精神状態で戦うことは無謀であるし、戦う必要もない。

 

光輝は必死に声を張り上げ、クラスメイト達に脱出を促した。メルド団長や騎士団員達も生徒達を鼓舞する。

 

そして全員が階段への脱出を果たした。

 

上階への階段は長かった。

 

先が暗闇で見えない程ずっと上方へ続いており、感覚では既に三十階以上、上っているはずだ。魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃である。先の戦いでのダメージもある。薄暗く長い階段はそれだけで気が滅入るものだ。

 

そろそろ小休止を挟むべきかとメルド団長が考え始めたとき、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。

 

クラスメイト達の顔に生気が戻り始める。メルド団長は扉に駆け寄り詳しく調べ始めた。フェアスコープを使うのも忘れない。

 

その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。

 

メルド団長は魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し奥の部屋へと道を開いた。

 

扉を潜ると、そこは元の二十階層の部屋だった。

 

「帰ってきたの?」「戻ったのか!」「帰れた……帰れたよぉ……」

 

クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す子やへたり込む生徒もいた。光輝達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。

 

しかし、ここはまだ迷宮の中。低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。

 

メルド団長は休ませてやりたいという気持ちを抑え、心を鬼にして生徒達を立ち上がらせた。

 

「お前達!座り込むな!ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する!ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

少しくらい休ませてくれよ、という生徒達の無言の訴えをギンッと目を吊り上げて封殺する。

 

渋々、フラフラしながら立ち上がる生徒達。光輝が疲れを隠して率先して先をゆく。道中の敵を、騎士団員達が中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。

 

そして遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って一日も立っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと少数ではないだろう。

 

今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒達。正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。

 

だが、一部の生徒――光輝や龍太郎、恵里、鈴、奈々や妙子ハジメと友人だった男子組などは暗い表情だ。

 

そんな生徒達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド団長。

 

二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。

 

そして、ハジメ達の死亡報告もしなければならない。

 

憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルド団長だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。

 

 

檜山と恵里の下りはカット。(香織と雫と優花も共に落ちてるので流れが変わってるため。)

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一通りの手続きやフォローを終え、一人部屋に戻ったメルド団長は、

出発前にハジメに手紙を渡されていたのを思い出し探し出して読んでみた。

 

そこには端的にこう書かれていた。

 

・今回の遠征が無事に済めばいいが、力を手にした自分達が浮かれて多分上手くは行かない事。

・犠牲者がでなければいいが、でた場合立ち直れなくなる者が出るだろう事。

・その際には、イシュタルとの約束を守るように後方支援の形で以外戦争参加を強制しない事。

・事故・トラブル等が発生した際、国や教会が調査をさせないだろう事。

・今回の件で何かしら団長が責任を取らされる形でも、責任を感じないで欲しいという事。

・何らかの機会で自分が狙われた場合は(檜山達4人が)行動的に怪しいという事。

・畑山先生の天職が有用なので立ち直れない人達を護衛という名目で王宮から遠ざける事。

・同じ内容の手紙を畑山先生に渡してあるので話し合って皆を助けて欲しいという事。

・自分が無事に戻ってきててもなくても、読んだらこの手紙を破棄して欲しいという事。

 

※畑山先生に当てられた手紙には最後に一文。

 

「皆で元のまま、元の世界(地球)に帰るのは難しいかも知れません。」と付け加えられていた。

 

その手紙を読んだメルド団長はその手紙を焼却処分しながら思わず涙を流していた。

 

早馬で団長からの伝言を受け取った畑山先生もまた、

 

手紙を焼却処分しながらボロボロと涙を零していた。そして数日寝込んでしまったのは原作通り。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~




という訳で、前話の予告通り
「召喚→オルクス→奈落」へのお話を書いてみました。

や、色々と迷ったとこ多数なんですが、
「月下の語らい」には敢えて雫さんを入れてみました。
細かい部分とかは流石に省いたりしてますけど(雫さんの訪問時の衣装とか)、
語らい時の雫さんのハジメに対する心情は原作小説をモデルにしてます。

とりあえず、奈落行きは
「ハジメ・優花・香織・雫」の4人になりました。
こうなると地上組が大変な事になりそうですね?
まぁ、その辺りは何とかなる、いやしなければならないんでしょうね。(私が)

手紙って手段を用いたり、原作通り進めつつも所々でハジメの知識というか智謀能力発揮する場面を入れてみたんですが如何でしょうか。

この後の奈落からの這い上がりとか地上組の様子とか。
前置きに書いた通り、書いたら最後までってなってしまうので。
要望が多ければ書くことはあるかも知れません。

現状ではCase5-3のエピソードを書く予定は無いです。

気が向いたら(優花さん愛が溢れたら)書くかも知れませんけどね。

※余談として書き足しますが、サブタイトルに込めた意味は。
「異世界の(トータスの)
園にて(園部優花メインヒロインにして)
咲き誇る花々(花(優花)が咲く場所には水(雫)が必要で、咲いた花からは香り(香織)が辺りに漂っている。花々と複数系なのも複数ヒロインの意味を兼ねてます。」
という解読出来ないだろう意味を込めています。

…わかりませんよね、普通に。

優花本妻ルートのハジメヒロイン枠についてですが、原作通りに進んだら……ユエしかひんぬー枠がいないのです(笑) なのでひんぬー枠ヒロイン追加は必要かのアンケートとなります。一応次のライセン大迷宮攻略話を書くだろう期間までとなります。(いつ頃かは未定)

  • ミレディもひんぬー枠ヒロインに入れよう!
  • 奈々っていうひんぬー枠が入るからいらない
  • 愛ちゃんと奈々も入るからもう良くない?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。