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第0話 始まり
「着きましたか⋯⋯」
切符を通して改札を抜けると、眩い太陽の光が少年の紫の眼を貫く。
ブレザーと呼ばれる類の学生服に身を包んでいることから、学生であることは疑いようもない。疑いようもないのだが、少なくとも人間とは乖離しているのも事実であった。とは言えそれも、ブレザーの背中を突き抜けて、折り畳まれた機械的な羽が生えている点を除けばそこまで人間と大差は無い。
そんな彼は、白の手袋を被った右の手で日陰を作って、精巧な人形のように美麗な顔を薄く歪めて辺りを見回した。差異はあるものの、同じように学生服に身を包んだ人間や明らかに人とは違う異形などがある方角をめざして歩いている。周囲の景観から学園案内パンフレットに載っていた通りの場所であることを確認すると、ホッと一安心。人通りの邪魔にならないように横にずれて、
さっさと自らに宛てがわれた寮に向かうことにした少年は、重たいキャリーバッグを引き摺りながら歩き出す。
電車を降りてからにわかに騒がしくなった周囲の喧騒を若干煩わしく思いながら、少年がその絹糸を思わせる長い白髪を揺らして歩を進めていると、先から遠くに見えていた建物がいつの間にか目の前にあることに気が付いた。
「ここが、学園⋯⋯」
少年の前に聳え立つのは広大な敷地を持つ巨大な建物。
ここは『全世界統一学園』と呼ばれる、ありとあらゆる
「パンフレットによれば⋯⋯あちらですね」
学園の大きさに感嘆するのも程々に、地図を見ながら寮のある方角を目指す。
喧騒も未だ収まらぬことから、周りの学生達もまた、今日学園の寮に入るのであろうことは容易に分かる。
しばらく舗装された道沿いに歩いていれば、学園よりは小さいがそれでも大きな建物が見えた。
全世界統一学園に通う生徒たちが住むこととなる寮である。
寮もまた、ありとあらゆる世界線から生徒が集まるだけあって大きい。一部屋にシャワールームとキッチン付きでルームメイトとの相部屋。各階層には大浴槽や食堂もあるらしい。パンフレットによると三十階建てで端から端までで10kmもある寮というのは、もはや寮とは呼べぬ大きさだろう。
「それにしても、男子と女子の寮舎が同じかつ同室も有り得るというのは些か以上に考えが浅はか過ぎるとは思いますが」
自らの顔立ちが男にも女にも見えることにこれ程までに感謝したことは無い。何せ、男にも女にも見えるということは、もしも相手が異性であっても見た目上はあまり忌避され難いはずだからだ。
少年は、度々十四人の兄弟姉妹から揶揄われる自らの顔が、まさか寮のルームメイトから反感を買わない為に役立つとは思いもしなかったが、この際、余計な波風が立たないとすればそれで良い。
「こちらが鍵となります。どうぞ、素晴らしい学園生活をお送り下さいませ」
彼に宛てがわれているのは2442号室。二階の四百四十二番目の部屋である為、端の階段で登っていくよりはテレポーターを使った方が良い。
エントランスで部屋の鍵を受け取り、清掃が行き届いていて綺麗な赤いカーペットの敷かれた廊下を歩きテレポーターを目指す。普通、エントランスからすぐの場所に置くべきだろうという愚痴は飲み込んだ。
テレポーターらしき機械を認めると、すぐそばで頭を抱えて蹲る少女の姿も視界に入る。何やら、困っているようだ。
「テレポーターって何? 私の世界線には、こんなもの無かったのだけれど⋯⋯」
テレポーターが普及している世界線などそれこそ多くは無いだろう。少なくも無いだろうが。
黒髪の少女は、自らを見る少年に気が付くと縋るような蒼の眼で見つめる。仕方なく、少年は助け舟を出すことに。
「お困りですか?」
「ええ、そうなの。この、テレポーターの使い方が分からなくて」
「テレポーターはかなり感覚的なところがありますからね」
実際、テレポーターが普及している世界線でもテレポーターをしっかり扱える存在は意外と少ない。円形のテレポーターの上に立って、対応したテレポーターのある行きたい場所をイメージし、そこに行きたいと願えば瞬間転移出来る。出来るのだが、慣れていないと荷物を置いていってしまったり、酷ければ全裸で転移するという憂き目に会うこともある。
「何階ですか?」
「えっと、2721号室よ」
「それなら、俺と同じ階層ですね。送りますよ」
「俺? えっと、ありがとう。でも、どうやって?」
何故、一人称に疑問を抱かれたのかは分からなかったが、少年は少女の問いに行動で答えることに。
二階にあるであろうテレポーターを意識し、次に服を含めた自らと同じく服を含めた少女、互いの荷物を認識。
「テレポート」
簡潔に一言を紡ぐ。作動したテレポーターが淡い光を放つ。
瞬きの間にテレポーターの上の二人の姿が荷物ごと掻き消え、次の瞬間には二階に設置されたテレポーターの上に淡い光を放ちながら立つ二人の姿が。
「⋯⋯凄い。凄いわね、これ!」
少年が目の前ではしゃぐ少女のことを微笑ましく思っていると、そんな視線に気がついた少女は顔を薄ら赤らめて咳払いをひとつ。
「ありがとう。私の名前は、セシリア。セシリア・ルイス・グランディオス・ヴァンガードよ。天使さん、貴女のお名前は?」
ああ、なるほど。少年は、先程の疑問符に合点が行く。
「―――俺はブレイブ・ナイン。勘違いされているようですが、こんなナリでも男です」
ブレイブ・ナインと名乗った少年。彼の付け加えた言葉に、セシリアは目を丸くして驚きを露わにする。
「え、嘘⋯⋯? てっきり、男装の麗人というものかとばかり⋯⋯ごめんなさい」
「いえ、お気にならさず。慣れていますから」
見た目のせいで同性だと思われていたらしい。この学校の制服は自由に改造することが可能であるため、改造によって個性を出したり、世界線の風習などから女子でもズボンを履いたり、それこそ逆もまたあるのである。
慣れているというのは本当のことで、兄弟姉妹からもよく弄られる。
主にセシリアが若干気まずくなった雰囲気、逡巡しているセシリアのため、後時間が勿体ないということもあってナインは一度別れることに。ナインとしては、なんとなくこの先も縁がありそうだと感じたからというのもある。
「それでは、俺も荷物を置きたいのでここで。またいつか」
「ええ。何度も言うけど、ありがとうね」
「はい」
セシリアとは逆方向である。早速知り合いが出来たことを喜ぶべきだろう。ナインは、この出会いを自らの主神に感謝した。
彼は、手を振るセシリアに手を振り返して、自らの部屋へと向けて歩き出すのであった。
To be continued.
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