遥か繚乱のハイブリッド・エデン   作:James6

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 ちゃんと書けているでしょうか⋯⋯。


第2話 決闘

 少しばかり太陽が傾き始めた頃。円形の建物、第一決闘アリーナの競技(闘技)場にナイン以下三人はいた。

 刻一刻と時間が迫る中、ナインが感覚を確かめるように地面を踏み締めながら、周囲を見渡して口を開く。

 

「結構人が入ってますね」

「まあ、多方こんな早々に決闘するヤツがどんなヤツなのか見てみたいっていうヤツらと、純粋に実力を測りにきたヤツらだろうな」

「やだ、これじゃまるでサーカスの見世物じゃない」

 

 決闘の為だけでなく様々な用途で使用される施設である第一決闘アリーナは、石ではなく最高材質の金属と超越した科学と魔法によって作られているものの、見た目としてはかのコロッセオと酷似した様相の建物である。

 その外縁部はぐるりと観客席になっており、席数は五千席を超えるのだが、なんとその十分の一、五百人近くの観客席が埋まっているのである。未だ新学期が始まっておらず、上級生たちも帰省から帰っている者と居ない者がいる中でのこの人数。たかだか新入生のいざこざによる決闘を見に来る人数にしては多過ぎた。

 ナインに釣られて周りを見渡しながら、あきれた口振りでアルフレッドがナインに問う。

 

「そもそも、どうして決闘なんかふっかけたんだよ」

「主からは、“やりたいように全力で、徹底的にやれ”と指示されておりますので」

「そうね。やりたいようにやるのは大切だもの」

「元はと言えば、セシリア、お前が元凶だろ?」

「違うわ。あっちが難癖をつけてきたのよ。私は、何も悪くないわ」

「お前なぁ⋯⋯」

 

 いけしゃあしゃあとそう宣うセシリアに、アルフレッドは頭を抱えたくなった。

 すると、ナイン達の登場した方とは反対側のゲートから、エドヴァルドとその舎弟のような二人組が姿を現す。世界線の代表であるにも関わらず姿勢低く付き従っているのは如何なものかと思わなくもないが、ナインは黙っておくことにした。

 

『それでは⋯⋯ええっと、決闘を執り行いたいと思います』

 

 いつの間にかアリーナの観客席の中で突出した判定員席に、先程の少女の姿が。設置されたスピーカーから少女の取り仕切る声が響き渡る。

 

『判定員は、ボク、ジル・ニュートラルが務めますので、よろしくお願いします。早速、アプライヤー側から名乗ってください』

 

 少女の名前はジル・ニュートラルというのか。ナインは頭の片隅に留めると、促されるまま再三名乗ることとする。

 アプライヤーというのは、決闘を申し込んだ側のことを指し、受諾した側はアクセプターと呼ばれる。申し込んだ側が先に名乗るのが礼儀である。

 

「第二世界線、ゴッデス・キングダム代表ブレイブ・ナイン」

「第二九二四世界線、エニグマ代表セシリア・ルイス・グランディオス・ヴァンガード」

「第六〇三二世界線、アッシュ・ユニバース代表アルフレッド・キーマイン」

 

 彼に続いて、セシリアとアルフレッドが続く。

 そんな中、ナインはアルフレッドの名乗りに気を留める。正確にはアルフレッドの世界線、第六〇三二世界線アッシュ・ユニバースの名に聞き覚えがあったというべきか。つい最近見つかった最も最新の世界戦であると彼の主神が話をしていたのである。

 三人の名乗りを聞き届けると、今度は対面のエドヴァルド他二人もまた名乗り返す。

 

「第一〇〇一世界線、バルバロイ・ユニオン代表エドヴァルド」

「だ、第四八〇四世界線、タイヘイ・キョウジョウ代表アリマ・テイゲン!」

「⋯⋯第一五三〇世界線、ゴールド・エルドラド代表ジェラード・スピットファイア」

 

 エドヴァルドはオールバックの大男、アリマ・テイゲンは女顔の黒髪の少年、ジェラード・スピットファイアは寡黙な雰囲気の羽飾りの着いた三角帽を被った青年だ。

 バルバロイ・ユニオンは知恵もある多様な蛮族達が日夜内乱を起こしている世界線。タイヘイ・キョウジョウは、ほとんど同じ言語や風習の存在する“日本型剪定世界線”のひとつで“漢字”に拠れば泰平京城と書く、これまた内乱の絶えない血みどろな世界線。そして、ゴールド・エルドラドもこれまた海賊と呼ばれる者達が海賊連合を生み出し、その中で日夜制海権を競って奪い合い殺し合う内乱の世界線。

 三世界線とも強者が最も上であるという点では似通っているために、この三人は手を組んでいる、または主従の関係を築けているのかもしれない。

 ナインは納得すると、ジルの合図を待つ。

 

『それでは、両者武器を展開して下さい』

「「「⋯⋯ッ!」」」

 

 その言葉に弾かれるようにして、それぞれの手に武器が顕現される。デバイスが所有者の思念を読み取って、格納していた武装を展開したのである。

 ナインは一言に機械仕掛けの三叉槍、セシリアは両側に刃の付いたレイピア『約定』を、そしてアルフレッドは身の丈を越す機械式の大剣『タケミカヅチ』を構える。

 対するエドヴァルドは金の意匠が施された大戦斧、テイゲンは大小違う二振りの刀『童子斬・貴丸』、ジェラードは二丁のフリントロック式ピストルをそれぞれ構えた。

 どれも、当たり所に関係なく人を殺しかねない武器である。そんなものを学生同士の決闘で使って良いのか。答えは是。

 そもそも、この世界で人を殺すにはそれこそ“許可”がいる。この、制限と征服、吸収と求道が世界線特徴である始まりの世界線アダム・スフィアでは、死ぬことは制限されている(・・・・・・・・・・・・)

 

 故に―――

 

 

『決闘、始めっ!』

 

 

 ―――それぞれの世界線の代表として躊躇い無く、彼らはその力を振るえるのだ。

 

 始まりの合図に若干のフライングをしながら、エドヴァルドがその巨躯を射出するかの如く、アリーナの地面を踏み締めて砂埃を上げながら突進する。傍から見れば、ほとんど始めの合図と同時にしか見えなかっただろう。

 しかし、ナインの眼として備わる高性能演算機は、その程度を捉えられぬはずも無い。如何に、能力をかなり制限されていようとも、彼は神の手足(・・・・)なのだから。

 

「おらぁぁあ!!」

「⋯⋯っ! いきなりですか⋯⋯二人とも、手筈通りに行きましょう」

「応!」

「ええ、行くわ⋯⋯ッ!」

 

 二つの金属の塊が衝突。

 人外の膂力で以て振るわれた戦斧と、同じく人外の膂力で以て持ち堪える大槍が打ち合わせられ、大気が振動する。

 危うげなく戦斧の一撃を防いだナインは、冷や汗ひとつかかずに二人に告げた。それに対して、二人も、ナインにエドヴァルドの相手を任せて作戦とも呼べぬ作戦を実行する為、それぞれの相手の元へと掛ける。それも、セシリアに至っては音速にも迫る速度で瞬きの間に接近して見せた。これには、肉薄されたジェラードも顔を驚きに歪めるしかない。

 これでも世界によって制限がかけられているというのだから、彼らの戦闘力は人外などという言葉では表せるはずもない。

 

「一対一かあ? 悪いが、俺様程じゃなくとも、アイツらも強えんだぜ?」

「そっくりそのままお返ししますよ。恐らく、あの二人も強いですから」

 

 轟速で振り回される戦斧を、全て的確に大槍で捌いていく。両者共に余裕のある攻防。技量はナインの方が断然上だが、膂力に関しては同格。尚且つ、エドヴァルドには何と言うべきか、野生の勘とでも呼べるような第六感のようなものが備わっているようである。ナインによって完璧なタイミングで突かれ薙がれたはずの大槍は、その尽くが紙一重のところで躱されている。意識的に先読みをしているのではなく、明らかに本能的に回避している。

 

「⋯⋯思ったよりもやりますね」

「はっ、今更怖気付いたのかあ? 悪いが、俺はもう手加減してやれねえぞぉぉおッ!!!」

「元より手加減など不要です。排除させていただきます。機兵大槍、収束」

 

 猛りの雄叫びが会場を揺らす。どこまでも肉体能力に振られた規格外さだが、その程度で動揺するナインでもない。

 ナインの収束の一言で、機械の大槍の三叉に別れた先端が機械音を立てながらひとつに纏まり、巨大で分厚い穂先を形成する。

 構えを上段に変更し、その穂先で冷たく神に背く命を計る。

 

「まだまだ踊っていただけますね?」

「生憎と俺ァ、学がねえんでな。お堅い作法なんざ、知らねえのさ!」

「それならば、俺が教えて差し上げましょう」

 

 機会の天使と野蛮なる猛士の不敵な笑みが重なった。

 

 ◇

 

「オレの相手はアンタか?」

「は、はい! やらせていただきます!」

 

 随分とオドオドした奴だな、アルフレッドはテイゲンの在り方に疑問を抱く。まさか、代表として選ばれる者が弱かったり無能であったりするはずは無いだろうに、この自信無さげな態度は何か(・・)引っかかる。

 自らの世界を救うべく、日夜死線を潜り抜けていた『掃除人(クリーナー)』アルフレッド・キーマインとしての感覚が警鐘を鳴らしている。

 

 それは、正しく正しかった。

 

 

「―――殺ッ!」

 

「っ!?」

 

 二振りの刃が青と紫の軌道を描いて、アルフレッドの首と心臓を狙う。躊躇なく放たれた確殺の凶刃を、ギリギリのところで自らの得物タケミカヅチによって防いだアルフレッドは、いつの間にか目の前に現れたテイゲンの認識を改めることにした。

 

「⋯⋯これが、別世界の実力者ってヤツか⋯⋯負けてられないな⋯⋯!」

「ご、ごめんなさい、いきなり殺そうとして! で、でも、これは決闘だから本気でやります!」

 

 日常茶飯事であった死の気配を思い出して、アルフレッドは嫌な汗が流れるのを感じながらテイゲンを見据えた。

 

 ただの一度とて、自らの世界の為に、負けるわけにはいかないのだ。

 

 アルフレッドはタケミカヅチを構え直して、地面を蹴った。




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