遥か繚乱のハイブリッド・エデン   作:James6

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 書いててやばいなと思いました()


第3話 終わり方

「⋯⋯」

「あ、あのー⋯⋯ぼ、僕の顔に何か付いてますか?」

 

 遠く、されとて近い戦闘の音とアリーナの歓声を聞きながら、その言葉とは裏腹に隙なく構えられた童子切と貴丸の二振りに警戒しつつ、最も警戒するべきテイゲン本人を見据える。

 変則的かつ技量に裏付けされた彼の戦闘スタイルはアルフレッドがなかなかに苦手とするもの。この手の手合い相手には刃よりも相手本体を捉えるべき、というのは彼の今までの経験則だ。

 

 アルフレッドは今、学園生活なぞで感じるはずもないと高を括っていた、感じ慣れた死線(・・)の境地に居た。

 

 不用意に動けば斬られる。純粋な剣の技量は明らかにあちらが上。膂力もあちらの方が若干上かもしれない。だが、一撃の重さはこちらに利があり、潜ってきた死線の数だって負けるつもりはなかった。

 

 それに、まだ能力(ユニーク・ワン)を、そのスキル(・・・)を切っていない。

 

能力(ユニーク・ワン)』とは、その名の通り、唯一(ユニーク)モノ(ワン)。様々な世界線から招致される彼ら学生の持ち得る元の世界線での能力や技能、特質を、この第一世界線では総じて能力(ユニーク・ワン)と呼称する。そして、この第一世界線では、それぞれが扱っていた能力に由来した技能などを『スキル』として三つ、登録することが出来る。戦いを有利に進めるための自己強化や相手への妨害、一発逆転の秘技であることもあるのがスキル。

 そして、この能力及びスキルが戦いの決め手である者も多く、アルフレッドもまた、その最大の決め手は自らの変異した肉体(・・・・・・)が齎す恩恵(スキル)と、その手に握る『タケミカヅチ』だ。

 

「ど、どうかしたんですか? 攻めてこないなら、こ、こっちから行きますよ!? ―――斬ッ!」

「⋯⋯っ! 聞くまでもなく来てるじゃねえか!」

「だから、行くって言いましたよね!? き、聞こえてなかったなら、ごめんなさいぃい!」

 

 横払いの斬撃をタケミカヅチで受け止め、さらに休みなく迫る斬撃を幾度か掠らせながらも冷静に逸らし、回避する。

 掠った程度のダメージは大した流血もない。強い一撃をもらいさえしなければ、どうとでもなるのだから。

 青と紫の剣閃が乱舞する中、アルフレッドは冷静に機会を伺う。不用意な大振りの武器(タケミカヅチ)による攻撃が、隙の無い二刀流相手には致命的であることをアルフレッドは知っていた。

 打開するため耐え忍んでいれば、唐突に苛烈な攻撃が止む。何事かと警戒を更に高めたその時だ。

 先までギリギリ間合いの中にいたテイゲンの、その整った顔が目の前に現れた(・・・・・・・)

 

 

「―――『五体斬り』!」

「⋯⋯っ!?」

 

 

 金色と純白の気を纏った童子切と貴丸が振るわれ、同時に(・・・)、五つの斬撃が首、右腕、左腕、右脚、左脚を襲う。

『五体斬り』は、テイゲンの能力の第二のスキル。言わば人型を持つ対象に特攻効果のある、五芒星を描くかのように五体を同時に斬る技。

 テイゲンの能力は、『人魔征討大将軍』。タイヘイ・キョウジョウにおける人と魔を征伐し討つ、害敵討伐のスペシャリスト、それこそがこのオドオドとした女顔の少年アリマ・テイゲンである。

 全て、立ち塞がる人畜生共、魑魅魍魎を打ち倒してきた技が意表を突く形でアルフレッドを打ち倒さんと迫った。

 

 

「―――舐めん、なぁっ!!」

 

 

 その時、十分の一程度しか埋まっていない観客席が、満席の会場の如く沸き立った。

 

 アルフレッドが吼え、タケミカヅチが起動する。

 吸い取った持ち主の血液(・・)を燃料に、辺りに白雷(・・)を撒き散らす。

 

 何もせず敗北を受け入れる程、アルフレッドもまた潔いわけではないのであった。

 

「⋯⋯あっ!?」

 

 痺れからか、はたまた別の何らかが原因なのかはその場の誰にも分かりはしないものの、その刃はアルフレッドに届かなかった。陰陽術、修羅神仏の力に拠る加護を受けたその斬撃は、人のみならず妖や神すらも切り裂く一撃へと、神秘と技量で以て神秘を討つ斬撃へと昇華されていたハズのソレであったのだ。

 

 しかし確固たる事実として、彼の武装兼スキルである『タケミカヅチ』の白雷は、テイゲンの刃に宿る気を打ち晴らして搔き消したのである。

 パリィとも呼べるような、体勢崩しの一撃によって彼は明確な隙を晒してしまう。

 

 

「―――ゼァアッ!!!」

「ぐぅっ⋯⋯!?」

 

 

 アルフレッドの気勢の声と共に、横薙ぎ振り払われる雷電を纏った大質量が、隙を見せたテイゲンを捉える。

 踏み止まること叶わず、打ち飛ばされたテイゲンはアリーナの壁に激突した。

 遠くで立ちこめる砂埃を一瞥して、アルフレッドはタケミカヅチを肩に担ぐ。

 チラリとセシリアの方を見て、すぐに視線をナインの方へと戻した。

 

「⋯⋯後は、ナインだけか」

 

 時を同じくして、セシリアの方から大爆音が響き渡る。

 その前に見えた、異次元の裂け目とでも呼べるような隙間から這い出た巨大なナニカの腕は見なかったことにした。

 

 ◇

 

『ここで、アクセプター側二名がダウン。残る戦いは、アプライヤーアクセプター双方のリーダーだけとなりました』

 

 どこかやる気のないジルのアナウンスを気にすることなく、沸き立ち予想外の盛り上がりを見せる観客席。

 その内の一部では、吹き付ける風(・・・・・・)に首元に巻いたストールを抑えながら、金髪ポニーテールの男子生徒がアルフレッドの雷電に目を光らせていた。

 

「俺のプラズマとどっちが強いんだろうか」

「それこそ、戦ってみなくては分からぬのではないか?」

 

 疑問を呈する少年を諌めるように声を発したのは、彼の隣に座っていた幼い見た目にそぐわぬ古風な喋り方をするストレートの赤髪の少女、いや、幼女だ。青白い、人間らしくはない肌からするに異種族であろう。

 出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいるという幼女に見合わぬそのグラマラスな体型に、年頃な少年は目のやり場に困って目を逸らした。

 それを見て、幼女はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「なんじゃおぬし、わしは既に心に決めた者が居るから、お断りじゃぞ?」

「⋯⋯いや、まあ、そうだな」

 

 勝手に進む話に、少年は居心地の悪さを感じながら視線をナインに移す。

 すると、今度は真後ろの席から声がかけられる。

 

「なあ、どっちが勝つと思う?」

「!?」

 

 唐突な質問に後ろを振り返ると、そこに座っていたのは、整えられていないセミロングが根元から毛先にかけて緑色から紫色に変わっていく“毒々しい”髪色の快活そうな雰囲気をした長身の少女。

 あまり人と関わるつもりはなかったのだが、十文字の浮かぶ特徴的な翠の眼に見つめられると、渋々口を開く。

 

「⋯⋯俺は、ナインって奴が勝つと思うが。第二世界線の天使徒と言えば、入学したら必ず個人の部で優勝していく奴らだしな」

「やっぱそうだよねえ。でもさ、あっちの筋肉も凄くない?」

 

 そう言って少女が指すのは、疲れ知らずで猛烈に攻め込むエドヴァルド。猛攻に対して顔色一つ変えていないナインも人からは逸脱しているが、注目すべきはエドヴァルドの一撃一撃の威力である。

 

「あの筋肉、多分ウチんところのヤツらと比べても劣らないね」

 

 大戦斧の一撃が大きな衝撃を生み出し、観客席にまでその衝撃が暴風となって吹き付けているのである。

 その威力は、振れば降るほどに強くなっているように思える。エドヴァルドの保有する能力か、そのスキルの影響であるのは自明の理だが、それが何であるのかは誰にも分からない。

 

「ああ、どっちともやり合ってみたいなぁ」

「⋯⋯」

 

 今だ拮抗する二人を恍惚とした表情で見つめる少女は、有り体に言って正気には思えなかった。

 少年は気を取り直して、残る二人の戦いを観戦するのであった。

 

 ◇

 

「おら! おらァ!! どうしたァ!? 天使徒サマも、こんなもんかよォ!!」

「口数の減らない人ですね」

 

 エドヴァルドの第二のスキル『肥大する渇望(ハイパートロフィー)』によって、文字通り肥大化し続ける一撃を受け止めているナインであったが、実はそれほど余裕ではない。余波で人が弾け飛びかねない一撃をくらい続けているのだから、余裕であるはずもない。

 入学に際して機能制限を加えられた彼の躯体(・・)は、圧倒的力の前に悲鳴を上げていた。元より耐久型では無いとすれば、当然と言えば当然なのだが、そうは言っていられないのも事実。

 

「死ね、死ねェ!!」

「言葉遣いの悪い、品の無い人間は軽視されますよ?」

「減らず口を叩いているのはてめえじゃねえか!!」

「それもそうですね。⋯⋯なら、俺も本気を出しましょう」

「出す前に終われや、オラッ!!」

 

 エドヴァルドの斧が、物理的な衝撃波すら発しながら地面に埋まる。砂埃を立てるそこを注視するも、ナインの姿は無い。

 

 否。そこには、断面から機械的な構造が顕となっている下半身のみ(・・・・・)が立っていた。

 それがナインの物であることは疑いようもなく、死が制限されたこの世界線で、下半身と上半身が分かたれるということは⋯⋯。

 

 不味い。本能に従って大戦斧を振るい砂埃を吹き飛ばすが、どこにもナインの姿は無かった。

 

 

「ぬぁっ!?」

 

 

 首に締められるような感覚を感じた時にはもう遅く、いつの間にか上半身だけ(・・・・・)のナインがエドヴァルドの巨体にしがみつき、その細腕の何処にそんな力があるのかと疑問に思うような膂力で、その首を締め上げていた。

 

 

「ぐ、ぐぎっ⋯⋯ぐぐぅ⋯⋯この、やろ、う⋯⋯」

「勝つ為には、どのような手段でも用いるのが我々、神の手足ですから」

 

 

 顔を怒りと苦しみに染めながら、ついには意識を失ったエドヴァルド。巨体が倒れる中、畳んでいた機械の天使翼を羽ばたかせて下半身の元に戻り、元通りとなったナインはあっけらかんとしてそう宣う。

 

 

『⋯⋯ああ、えっと⋯⋯アプライヤー側の勝利です』

 

 

 ジルの困惑を孕んだような決着のアナウンスに、会場から一斉にブーイングがあがる。アルフレッドはともかくとして、セシリアもまた白けた視線をナインに送っている始末である。

 

「それでは」

 

 悪びれもせず、三叉槍をデバイスに戻したナインは綺麗にお辞儀をするとその場を後にする。

 後に残されたのは、興醒めした雰囲気の観客と、倒れ伏す三人、そして軽蔑の視線を隠そうともしないセシリアと困惑を極めるアルフレッド。

 

 斯くして、統一学園新入生最初の決闘は終わりを迎えるのであった。

 

 

 この不名誉極まる終息を迎えた戦いはすぐさま学園中に広まり、ナインは『卑劣天使』の二つ名で一躍有名となることを本人は未だ知らない。




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