結城友奈は勇者ではない   作:mn_ver2

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ゆゆゆのアニメを観てガチ感動したから勢いで書きました。
このアニメはもう少しシリアスになれると思うんだよね。


結城友奈は勇者ではない
異変


「はい、これで終わりですね」

 

 最後に胸に聴診器を当てられ、友奈は無意識に呼吸が浅くなってしまう。別段やましいことなどない。これは必要な検査なのだから。

 

「ありがとうございました」

 

 友奈は検査室を出た。特に異常はないとだけ伝えられ、ほっと胸をなでおろす。左腕に触れる。採血で注射されたところがチクリと痛む。すでに日は落ちかけ、オレンジ色に室内が彩られている。

 窓の外を眺めると、なんの変哲もない、ありふれたいつもの街があった。そのありがたさと普遍さに、つい熱いものがこみ上げてしまう。

 

「私達が、守ったんだ……」

 

 襲来すると知らされていたバーテックスを友奈たちは全て倒した。最終決戦は文字通りの死闘で、勇者システムの満開を使用してなんとか撃破に成功した。

 この病院に友奈と同じように検査を受けた他の勇者たちがいる。後で談話室で合流しようと話し合っている。皆、無事だといいのだが。

 休憩室に入ると、すでに風と夏凛がテレビのニュースを眺めていた。ニュースの内容は、樹海でバーテックスによって侵食された現実世界への影響――世間的には謎の事故として処理される――についてだ。

 

「お、友奈も診察終わったのね」

 

「はい! ばっちり血まで抜かれて……って、風先輩、その目は……?」

 

 友奈は驚く。なんと風の左目には眼帯がされていたのだ。何らかの異常があったのかと不安に思っていると、突然風は立ち上がった。

 

「ふっふっふ……。聞きたいか? そう、これは暗黒戦争にて魔王と戦った際、奴を討った時に――」

 

「左目の視力が落ちてるんだって」

 

 かっこいいポーズまできめて流暢に語っていた風を夏凛の冷たい指摘によって中断させられた。まるで可愛いいたずらがバレてあたふたする子供のようだ。

 

「いやちょっと言わないでくれない⁉ せっかく魔王と戦ったニヒルな勇者って設定が台無しじゃないの⁉」

 

「視力が……落ちた? もしかしてバーテックスが何か……」

 

「うん? ああ違う違う。戦いの疲労によるものだろうって。勇者はすごく体力を消耗するからね。ちゃんと療養したら治るってさ」

「そうなんですね、よかったぁ」

 

「そりゃあねぇ、バーテックスを一気に七体も倒しちゃったんだからね! 身体が疲れるのも当然よ!」

 

 これまでの襲来はだいたいが単体だった。しかし今回は七体と向こう側も本気でかかってきていたことがわかる。

 正直に言うと、誰かが犠牲になってもおかしくない戦闘だった。それが全員無事に帰ってこられた。

 もう勇者として戦う必要はなくなったのだ。神樹様から与えられたお役目を終え、これからは普通の女子中学生として生きる。勇者ではなくなったが、『勇者部』として誰かを助ける活動はできるのだ。

 勇者を通じて夏凛も新たに勇者部に入部したし、これからが楽しみでたまらない。

 と、ここで樹が東郷の車椅子を押しながら談話室に入ってきた。

 

「樹ちゃん、東郷さん!」

 

「私達も検査、終わったわ」

 

「これで皆集まったわね。樹ぃ、注射される時泣かなかったでしょうねぇ?」

 

 にししと口角を上げながら風が樹をいじる。しかし樹ははにかんだ笑顔を見せるだけで、何も返事を返さない。そのことを疑問に感じた風が「樹?」と名前を呼ぶ。

 

「樹ちゃん、声が出ないみたいです。勇者システムの長時間使用からの疲労らしく、すぐに治るだろうとのことですが」

 

「私の目と同じね……」

 

「えっと……すぐに治るんだから大丈夫だよ! お医者さんもそう言ったんだし! ね、お祝いしようよ! バーテックス全部倒したんだし!」

 

 なんだか空気が悪くなりそうな気がして、それに耐えきれずに友奈が声を上げる。いち早く反応を示したのは樹だ。声が出せないから代わりに頭を縦に振っている。

 友奈はひとりで下の階に下り、売店でありったけのお菓子とジュースを購入する。大食らい(特にうどん)の風のことを考慮した妥当な量だ。両手にどっさりと詰め込まれた袋を下げなから戻る。机の上に広げ、「じゃーん!」と言ってみせる。

 

「これはまた、すごい量買ったわね」

 

「夏凛ちゃん用に煮干しのお菓子もあるよ」

 

「わかってるじゃない」

 

 適当に目に映った煮干しのお菓子。どんなものなのかよく見ずに買ったが、『煮干しの――』とあれば夏凛はきっとなんでもOKしそうだ。飲み物を全員に配り、友奈はコホンとひとつ咳払いをする。

 

「皆さん、飲み物を持ちましたかー? では、勇者部部長から乾杯の一言をお願いします!」

 

 急に指名された風が目を点にしながら慌てふためく。

 

「あ、あたし⁉ ほ、本日はお日柄もよく」

 

「真面目か!」

 

 夏凛が誰よりも速いツッコミを入れる。さすがは勇者部のツッコミ担当だ。誰も風にそのような堅苦しいものは求めてはいないし、むしろ軽いノリを求めているのだ。

 

「まあこんなお硬いのはあたしには合わないわね。それじゃあ皆よくやった! 勇者部の勝利を祝って、かんぱーい!」

 

 風に続いて全員が「かんぱーい!」とジュースを高く掲げる。

 友奈が選んだのは、すっきりレモンジュースだ。プシュッ! と栓を開け、一気に喉奥に流し込む。酸味の効いた味がじわりと広がり、一瞬だけ渋い顔になる。

 

「友奈ちゃん、すごい顔していたわ。大丈夫?」

 

「う、うん。思ったよりレモンが強くて。東郷さんも飲んでみる?」

 

「いいの? ――ハッ⁉ これはもしかしなくても間接キスッ! ほ、本当にいいの?」

 

「東郷さんは大げさだなあ。私はそんなの気にしないよ」

 

 煮干し菓子を齧りながら夏凛がこちらをジト目で眺めている。何かツッコミたげな様子だが、口にしようとはしない。

 友奈から受け取ったジュースを東郷が飲む。間接キスというなんとも極上の至福に頬を紅潮させる。もしかするとバーテックスの撃破より遥かに達成感を得ているのではないだろうか。

 

「あーそうだそうだ。皆に渡すものがあるんだった」

 

 風はそう言うとあらかじめ用意されていたダンボール箱を開け、中から携帯を取り出して全員に配る。前に使っていた携帯は病院に入るときに回収されている。

 電源を入れて、何が変わったのかを確認する。すると、いつも利用していたSNSがなくなっていることに気づく。それをいち早く指摘したのは東郷だった。

 

「あれ? あのアプリをダウンロードできませんね」

 

「それね、もう使えなくなってるみたいなの。どうやら勇者専用らしくてね。あたしたち、もう勇者ではなくなったから。戦いも終わったんだし」

 

 確かにアプリをダウンロードできなくなっている。使い慣れていたからこそ喪失感は大きいが、代用のSNSならいくらでもある。

「ということは、戦って死ぬ心配はもうないってことだね!」

 

「……変なこと言うわね友奈。そうよ、戦う必要なんてないんだから、毎日楽しく生きていこうぜ!」

 

「でも風先輩、最近いろいろ忙しかったから受験勉強あまりできてないんじゃないですか?」

 

 ここ最近、勇者部の活動にプラスして勇者としての戦闘もこなしている。一年二年組にはもちろん学業に影響がある。例えば宿題がぎりぎりで締め切り間際の漫画家のような、修羅の如き心持ちでこなす。そして授業中は現世と夢の間を全力反復横飛びする。そのような生活、三年生だとどうなるかなど、考えるまでもない。

 

「ぐ、はッ! 痛いッ! 心が痛い……!」

 

 樹が死んだ顔で風を憐れんでいる。家でも一緒にいる妹様の様子から全員が察する。

 

「まあこれから頑張ったらいいじゃないの。風はそんなことでへこたれないだろうし」

 

 煮干しを咥えたまま器用に夏凛がぼそりと呟いた。昔なら絶対に言わないようなことを口にしたのだ。場の空気は停滞し、視線が夏凛に集中する。

 

「夏凛……あんた……」

 

「な、なによ……」

 

「……もう一度検査してもらったほうがいいんじゃない?」

 

「なんでよ⁉」

 

「だっておかしい! いつもツンツンにツンでツンな夏凛がそんな優しい言葉を言うはずがないわ! もしかしてバーテックスに頭をやられたのでは⁉」

 

「なわけないでしょ!!」

 

 談話室での突発的なお菓子パーティーは、スタッフに注意されるまで続いた。

 

 

「退院は明後日だって。早く学校に戻りたいなあ」

 

 撤収し、潔くそれぞれの病室に帰っていく。一人では移動が難しい東郷の車椅子を友奈が押す。先程は夕日が美しいほどに輝いていたが、あっという間に曇りがかっている。雨が降り始めるのも時間の問題だろう。通路には二人以外、誰もいない。

 

「私はもう少し検査に時間がかかるみたい」

 

「そっか。一緒に退院したかったのに、残念だなあ」

 

 退院して、また一緒に新しいスタートをきりたかったが、それができないという事実は仕方ない。せめてその日が来るまで友奈も退院しない、とすると病院に迷惑になってしまう。名残惜しいが、学校で東郷を待つことしかできない。

 見下ろした東郷の黒髪は絹のように綺麗で、つい触れたくなってしまうほどだ。無意識に手が伸び、あと数センチで触れそうになるが、その寸前に声をかけられる。

 

「ねえ、友奈ちゃん」

 

「なあに?」

 

「身体、どこかおかしいところない?」

 

「え?」

 

 唐突に奇妙な質問を投げかけられる。その意図がわからず、沈黙が流れてしまう。

 

「あの戦いの後、風先輩は目を、樹ちゃんは声、夏凛ちゃんは頭を……これは冗談だけど、何かしら不調が出ている。私の思い違いかもしれないけど、もしかしたらと思って」

 

「じゃあ……東郷さんも何か?」

 

「いいえ、私のはまだわからない。でも近々何かわかるかもしれない。それは友奈ちゃんも同じ。今この時点で、何かおかしなところ、ない?」

 

 病院に来てからのことを振り返る。疲労しきっていて何も考えられなかったが、身体が不自由に感じたことは特になかった……はずだ。

 その後もある程度の疲労が抜けたあと、検査に引っ張りだこになったものの、その間も不自由はなかった。極めつけは「特に異常はありませんね」との医者からの言葉だ。まさか嘘を言うはずがない。もし嘘だとしても誰よりも自分の身体は自分が一番よく理解できるはずだ。その自分が何も問題ないと感じているから、東郷の言っていることに合致する事例はない。

 友奈は首を振る。

 

「ごめんね、思い当たらないや。でもお医者さんも治るって言ってたんだからきっと治るよ!」

 

「そうね……きっとそうよね……」

 

 東郷の不安そうな口ぶりが友奈の心を締めつけた。もう勇者は終わったのだ。いつまでもあんな現実離れした生活からは離れてもらいたい。いつまでも勇者に引きずられてほしくない。それは東郷に限らず、風や樹、夏凛にも言えることだ。

 その不安をどう解消していいかわからなかった友奈は、ふと考えついたことを試してみた。車椅子を押すのをやめ、後ろから優しく抱きしめたのだ。

 

「友奈、ちゃん……?」

 

「――大丈夫。大丈夫だから。もし……もし、嫌なことがあったとしても、絶対に私達なら大丈夫。だって勇者部は、困っているひとを助ける、だからね。それがたとえ同じ勇者部の人でもだよ」

 

 ゆっくりと手を伸ばし、東郷は友奈の手を握った。その力は強く、友奈もまたしっかりと握り返す。

 

「……うん、ありがとう。やっぱり友奈ちゃんは優しいね」

 

「えへへ、そうかな? 嫌なことがあったら教えてね。絶対に助けるから。逆に私に嫌なことがあったら……私のこと、助けてくれる?」

 

 ここで初めて東郷が振り向く。その表情は本当に悲痛で、不安に押し潰されそうだった。しかしそれは杞憂だよ、と。そう諭す友奈の言葉が何よりも救いだった。

 もし友奈の身に何かが起こった時、必ず今の東郷のように不安になるだろう。だからこそ、今度は友奈の救いになりたいと心から願った。

 そして、安心させるように。

 

「もちろんよ」

 

 と優しく答えた。




非日常は終わり、日常が始まる。
しかし非日常の手は伸び、何かを盗み去った。
なればこそ、日常の崩壊は目に見えている。

反響がそれなりにあったらor気が乗ったら続きを書きまーす
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