結城友奈は勇者ではない   作:mn_ver2

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あらすじ
東郷「友奈ちゃんを監視する」

感想返しは更新の合図です
基本三人称で書いていますが、時々練習で一人称に変更することがあるかも。


些事

 そもそもホームページがどうやって作られているのか。どうやって更新や管理などを行っているのか全くわからない。だからこれまで東郷にすべてを任せていた。東郷が欠けたことによって勇者部は小さくない打撃を受けた。致命的ではないものの、早急な対策が必要だ。

 友奈は東郷のベッドの上にHTMLの本を広げる。何もできないからといって何もしないわけにはいかない。何かができるようになるために、学ぶべきだと友奈は考えた。

 しかし英語ばかり並べられたタグ一覧とにらめっこをしても、理解するには難しい。わかりやすくイラスト付きで説明もしてくれているのだがいまいちだ。東郷の有能ぶりには驚かされる。

 友奈が東郷の病室に入り浸るようになってから数日。まだ退院できていない。どう見ても元気そうに見えるが、医者がまだと言っているからまだなのだろう。

 相変わらず夏凛は部活に来ないし、最近の勇者部の活動は停滞している。サボりとみて間違いないだろうが、連絡をとってみても既読無視されるからどうしても心配になってしまう。せっかく勇者のお役目が終わったのに、全員が揃わなければ真の意味で終わったとは言えないのだ。

 

「ん……そろそろ帰ろっかな」

 

 時計を見上げ、友奈はスッと立ち上がった。膝には絆創膏が貼られていて、つい東郷はそれに目がいってしまう。

 

「怪我、治りそう?」

 

「全然大丈夫! 本当は今すぐ剥がしてたいほどだもん」

 

 絆創膏の上から軽くペチペチと叩いて問題ないことをアピールする。だがせっかくできたかさぶたを傷ついてしまわないか心配だ。

 

「剥がすのはちゃんと治ってからだからね」

 

「はーい。じゃあ東郷さん、またこの本借りるね」

 

 鞄に分厚い本を入れて、肩に背負う。

 

「ええ。でも……別に無理してパソコンの勉強しなくていいのに」

 

「いやーそれがね? やることがなさすぎて。だからいい機会だと思って」

 

 風が的確に指示することができても、今は人材が限られている。

 突然の勇者部員たちの一斉入院だ。部長は眼帯を。もう一人は声。さらにもう一人は未だ入院中。これだと誰でも何かがあったのだと悟るし、そんな得体のしれない部活に何かを頼むなんてことはあまりする気が起こらないだろう。これまでの活動の成果がなければ信用は底に落ちていただろう。

 このまま何も活動できなくなる、というのは最悪の結末だ。それだけは避けたいと皆心の中で思っているはずだ。

 

「退院したらお休みした分しっかり働くわ!」

 

「その頃にはパソコンの扱いは私のほうが上手になってるかもだよ〜?」

 

「そんなまさか。気をつけてね、友奈ちゃん」

 

「うん、バイバイ!」

 

 また、友奈が帰ってしまった。

 笑顔で見送った東郷はパソコンを開き、今日の分のデータを入力する。全員の症状が改善されることはなく、ただいたずらに時間が過ぎていくだけだ。友奈のことだって、まだ特定できていない。このような言い方だと間違いなく友奈も後遺症があるみたいな断言となってしまうから申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうが、それでも東郷は自分の考えが間違ってはいないと思っている。

 あまりに焦れったい日々だ。風の報告だと、特にいつも通りだったと。では何だ? 身体的な遺症ではないのだろうか。一番考えられるのは記憶喪失。しかしこれはすぐに候補から外される。今日の友奈との会話で矛盾が生じたりすることなどなかったからだ。

 医者ではない東郷には、これ以上のことはわからない。考えるにはもっと情報が必要だ。そのためにも早く退院して友奈の側にいなければならない。

 一人の時間はやはり寂しい。退院の日が待ち遠しい。ずっとベッドに寝転がるだけの生活はすでに飽きてしまった。

 ……少し、疲れてしまった。いくら友奈が大事だとはいえ、自分自身が倒れてしまっては意味がない。今日はもう、大人しく寝ることにした。

 

 

 キーボードとは、実に扱いにくいものだ。だいたいどうして基準が英文字なのかわからない。そのせいでわざわざローマ字打ちをしなければならない。そこまで文句を言うためにはこれを考えた人に会う必要があるが。

 両手の人差し指でゆっくりとタグを入力する。その後に命令を書いて確認する。命令は無事に実行され、友奈はホッと息をついた。

 

「どう友奈? パソコンできそう?」

 

「すごく難しいです……。東郷さんのありがたみを身にしみて感じます……」

 

 ノートに現在の勇者部が活動できそうなことを列挙していた風は様子を見ると、何やら暗号の羅列のような画面に思わず目頭を抑える。これを長時間やっていたら目が悪くなってしまいそうだ。今日はもうこの辺にしたら? と言い聞かせながら、今日もすることが無かったと振り返る。

 樹も暇なあまり読書の時間になってしまっている。

 

「夏凛がいたら少しは回るんだけどね……」

 

『心配ですね』

 

 相変わらず連絡はない。

 学校が終わったらすぐに帰ってしまうのが最近だ。休憩時間に遭遇しても明らかに視線を合わせまいとしていたのは知っていた。

 勇者部として、部員の悩みは解決してあげたい。もしかするといい迷惑と思われてしまうかもしれないが、何もやらずにとても悪い結果が残った、より何かをやって悪い結果が残った、の方が幾分か気が楽だ。

 

「私、夏凛ちゃんを探してきます!」

 

 部長に伝えると、友奈は部屋を飛び出した。

 やはり三人だけでは物足りないのだ。夏凛は完成型勇者として大赦から派遣されてきた。そうだとしても、今では勇者部の部員であり、誰もその事実を疑わない。

 もし事情があって勇者部を抜けたいと考えているのだとしても、きちんとそれを伝えに来てほしい。

 向かう先は夏凛の家。この前誕生日会をしたから場所は知っている。あの時、夏凛は偽りなく楽しんでくれていた。それを共有した友奈たちもまた楽しかったのだ。一緒に学校生活を楽しく送りたい。そのためには夏凛が必要不可欠なのだ。

 夏凛の住む家はマンションの一室だ。階段を上がり、目的の場所まで移動する。すると、玄関の前でひとりの男性が立っていた。白い仮面をしていて、白い袴に身を包み、さらに黒い長帽子を被っている。奇妙な雰囲気を醸し出している。男性がインターホンを押すと、数秒してから部屋の主がドアが開いた。

 そして友奈はその名前を叫んだ。

 

「夏凛ちゃん!」

 

「友奈⁉」

 

 夏凛だけでなく男性もこちらを見ている。しかし、なりふり構わず接近する。

 

「部活に行こう、夏凛ちゃん!」

 

「な、なんでよ」

 

「皆待ってるから!」

 

「私は待ってないし……」

 

「あ、そうだ。この人はどちら様?」

 

「無視っ⁉」

 

 男性は170以上はあるだろう。一連のふたりの会話に反応を示すことなくじっと立ち尽くしているだけだった。

 

「こいつは大赦の人。んで私の兄貴」

 

「兄貴? てことはお兄さん⁉ いつも夏凛ちゃんがお世話になっています! 私は讃州中学勇者部、結城――」

 

「はい。存じております、勇者様」

 

 それは、水色の声だった。

 男らしい低い声ながら、細い糸のように真っ直ぐなものだった。

 畏まったように深くお辞儀をされ、友奈は困惑する。

 

「……私はもう部活には行かない。今日は兄貴にいろいろ訊きたかったから呼んだの。友奈にも必要な話だし、家上がりなさいよ」

 

 そう言って夏凛は催促する。

 兄との貴重な時間を邪魔していいのかと疑問に思ったが、夏凛からいつものツンツンした空気ではなく重いものを感じ、友奈は大人しく従うことにした。

 部屋の中は相変わらず簡素で、ランニングマシーンがリビングを占拠し、重りがゴロゴロ転がっている。夏凛は椅子に腰掛けると、机の上に置かれていた煮干しの袋に手を伸ばす。友奈と男性はソファーに座った。

 

「なんで部活にもう来ないの?」

 

「バーテックスを全部倒したからよ」

 

 煮干しをぽりぽりと齧りながら夏凛が答えた。

 

「え? それって関係あるの?」

 

「大ありよ。あのねえ、私は完成型勇者として大赦から派遣されたのよ。勇者部に入部したのも活動をスムーズにするため。もうバーテックスは倒した。だからもう用はないの」

 

「そんなことないよ夏凛ちゃ――」

 

「連絡が来たの、東郷から。風たちの身体がおかしくなってるって。満開したからなんとかって」

 

 満開してから異変が起きた? 友奈はこの瞬間、夏凛に言われるまでその可能性を考えていなかった。ただ疲労からきているのだと信じきっていたからだ。もちろん友奈だって一生分くらいの疲れが溜まったが、三人はもっと疲れたのだろうと思っていた。やっぱり自分はまだまだだと未熟さすら痛感していたほどだ。

 

「でもそれっておかしいよ? だって――」

 

「……なによそれ。あれだけ息巻いていた私が一番活躍してないみたいじゃない! 屈辱よ! あんたたちが悪いわけじゃないのはわかってる。でも、こんな自分が惨めで情けなくて堪らない!」

 

 机に拳を激しく打ち付ける。

 煮干しの袋をぐしゃりと握り潰し、顔を紅潮させながら夏凛は自分の兄を侮蔑と嫌悪の目で睨み付けた。

 ずっと微動だにしなかった男性の指がピクリと動いた。

 

「……ええ、あいつらは私より凄いわ。認める。ずっと前から訓練して備えていた私とは違ってぽっと出のくせにバーテックスをすべて倒したのよ。……ははは、まったくどうなってんのよこの世の中は。だからこそ、私はあいつらのために何かしてやりたくて兄貴を呼んだの」

 

「夏凛ちゃん……」

 

「あんたもよ、友奈。あんた含めて全員尊敬してるわ。勇者としてではなくそれ以前に」

 

 夏凛の嘘偽りのない真っ直ぐな思いに友奈は胸の奥が熱くなるのを感じた。今までは風のストッパーとしてその存在感を発揮し、戦闘では常に前に躍り出ようとしていた。

 皆に今の夏凛の言葉を聞かせてやりたい。そうすれば、絶対にもっと夏凛のことを好きになってくれるはずだから。

 

「本当は心の中で笑ってるんでしょ、兄貴。活躍できなかった奴が何を偉そうにって」

 

「滅相もありません、勇者様。我々はあなた方が身を粉にして戦うおかげで生きているのです。辱めようなど微塵も……」

 

「なら満開についてすべて話しなさいよっ!」

 

 袋を投げつける。中の煮干しが散乱し、床にばら撒かれる。さらに夏凛は男性に肉迫し胸ぐらを掴み上げた。

 

「……犬吠埼風、犬吠埼樹、東郷三森の不調は把握しています。現在調査中で、今日明日にでも結果が送られるはずです」

 

「そんなこと訊いてない。満開のことをすべて話しなさい。……これは勇者としての要求よ」

 

 重苦しい空気になり、友奈は喉が乾燥しきっているのに気づき、唾液を飲み込んだ。

 夏凛が始めに言った通り、これは聞いておかなければならない話だ。同時に見たくはない、家族の喧嘩だった。

 男性は妹にここまでされてもいたって冷静だった。その反応に苛立ちを隠せなくなった夏凛は乱暴に突き放す。

 

「以前にお伝えした通りです」

 

「本当に? 信じていいの?」

 

「……はい」

 

「じゃあその気色悪い仮面を取って直接私を見て言って。仮面越しでしか発言できない奴の言葉なんて信用できない。それを通してでしか私を見れなくなったのね。…………女々しくなったわね、お兄ちゃん」

 

「………………」

 

 男性は押し黙ったままだ。しかし、ごくりと唾をのむ音が聞こえた。夏凛は難しい顔をし、友奈を見た。しかし友奈は口をはさむことができない。これは勇者の話でもあるが、兄妹間の話でもある。だいたい偶然出くわした身だ。言うべき言葉が簡単に見つからない。

 

「そう……できないのね。じゃああんたの仮面、強引にでも剥いでやるわ」

 

「おやめください勇者様……!」

 

 制止を無視し、夏凛は再び掴みかかる。男性は逃れようとソファーから立ち上がるが、夏凛は決して逃がさなかった。男女差、対格差があろうとも勇者としてのキャリアを積んだ夏凛の力によって押さえつけられてしまう。膝を床につかされ、容易に手が仮面に届く高さになる。仮面の縁に指をかけて剥がそうとするが、男性は頑として仮面を抑えつつ夏凛を遠ざけようと抵抗している。

 友奈はもう、我慢できなかった。

 夏凛の気持ちは痛いほどわかるが、だからといって人が嫌がっているのに強引にするべきではない。咄嗟にふたりの取っ組み合いに乱入し、夏凛に向けて声を張った。

 

「ダメだよ夏凛ちゃん!」

 

「放しなさい友奈! こいつは無理にでもやらないと……!」

 

「勇者部は人のためになることを進んでやる、だよ! でもこれは違う!」

 

「ごめん、友奈。もう私は勇者部じゃ……!」

 

 あと少しだ。すべての指が縁を捉え、あとは力任せに引っ張るだけ。友奈が間に入ってきたせいで混乱状態になっているが、これさえできれば仮面を剥がせ、ずっと勇者様呼ばわりしていた男の素顔を晒させられるのだ。

 今まで鍛えていた力は伊達ではない。夏凛はなりふり構わず一気に手を振り払った。それと同時に比較的力の弱い友奈が弾き飛ばされてしまう。

 友奈はドタタ、とたたらを踏んでバランスを崩す。

 

「わっとっと……」

 

 なんとか立ち直りができそうになって最後の一歩、床に散らばった煮干し達に足を滑らせてしまう。友奈の「あっ」と一言とともに、側に置かれていたランニングマシーンの角に鈍い音を響かせて頭を激しく打ちつけてしまった。

 熱い鈍痛が爆発し、それからゆっくりと足の指先までじんわりと染み渡る。視界が一瞬チカチカと弾け、何も見えなくなった。友奈は強く目を閉じ、開いた。きちんと夏凛と男性の姿を捉える。男性の仮面は剥がされ、素顔が見えている。容姿はかなり美形で、どちらかというと、男性が夏凛に似ていると言うべきだろう。

 ふらりとランニングマシーンの手すりを掴んで立ち上がる。夏凛が息を呑むが、構わず友奈は口を開いた。

 

「勇者部はね、別にバーテックスを倒すためだけにできたわけじゃないんだよ? 夏凛ちゃんが私たちのことをあんな風に思ってくれてるの、すっごく嬉しかった! 勇者部は、夏凛ちゃんもいてこそ『勇者部』なんだよ! だから――」

 

「何言ってんの友奈! 受け身も取らずに……! あ、あ、あ……頭……」

 

 夏凛に真っ青な顔で指をさされる。

 言いたいことはわかっている。手を伸ばして後頭部に触れ、確認する。

 血だ。

 だが大した出血量ではないし、あとでしばらく水で流すだけで止まるだろうと判断する。しかし流石に血に濡れた手で触れるわけにはいかないから、反対の手で夏凛の手を掴んだ。

 

「だから勇者部に来てよ! 夏凛ちゃんがいないと部室は寂しいし、私、夏凛ちゃんのこと好きだから!」

 

 最高の笑顔を向ける。夏凛は自分にもはや場所はないと思っているかもしれないが、それは激しい思い違いだ。皆夏凛のことが好きだし、夏凛も皆のことが好きだ。なら答えは決まっている。勇者部を辞める理由なんてどこにもないのだ。

 しかし夏凛は動揺を隠せていない。

 

「わ、わかった! すっごくわかったら救急車! 兄貴、早く呼びなさいよ!」

 

「すでに手配しています」

 

 仮面を被りなおした男性はそれだけ言い残すと、家を出て行ってしまう。

 夏凛が急いで棚からタオルを取り出し、水で濡らしてから友奈の頭に当てた。「横になって!」と覇気迫る表情で一方的に言われ、黙って横になった。さらに言われるがままに頭を膝に乗せられてしまう。

 

「……本当にごめん友奈、私のせいで。痛む?」

 

 頬を優しく撫でられる。思わず身震いしてしまう。

 

「痛い……けど、大丈夫だよ」

 

「その……私は本当に勇者部にいていいの?」

 

「もちろん! まだ信じきれないなら直接じゃなくても電話でもして訊いてみればいいよ」

 

「は、恥ずかしいからそんなことしないわよっ!」

 

 その数分後に救急車が到着した。その頃にはすでに血は止まっていた。わざわざ呼んだのにとても申し訳ないが、丁重にお断りしようとしても夏凛含めて隊員たちにも説得され、渋々と乗り込んで搬送された。

 救急車に乗ったのはこれが初めてで、なんだかとても新鮮な経験だった。病院に着くまでずっと、夏凛は友奈の隣にいた。

 

 

 友奈の処置を終える頃には勇者部全員が病院に到着していた。

 診察室から出てきた友奈の頭にはネットが被せられていて、気恥ずかしそうに小さく手を振る。

 

「あんた大丈夫なの⁉」

 

 風が驚くべきスピードで近寄ってくる……よりも先になぜか車椅子の東郷が友奈のもとに舞い込んだ。両腕を捕まれ、そのままぎゅっと抱き寄せられる。たわわなMountainを押し付けられ、友奈は一瞬気が飛ぶ。

 

「大丈夫友奈ちゃん⁉ 頭打ったんでしょう? 記憶飛んでない? 違和感はない? 痛みはない?」

 

 確かに怪我は痛かった。しかし過度な運動さえしなければ問題ないと医者に言われているし、安静にしていればいいだけの話だ。

 

「どこも悪くないよ。もー、東郷さんは大げさだなー」

 

『でも本当に何もなくて良かったです』

 

 樹がスケッチブックを見せてくる。風はすっかり安心しきった様子で背中を叩いた。

 

「樹の言う通りよ。送り出したあたしたちの身にもなってみなさいな。それはもう言葉にできないくらい心配するわよ。……で、夏凛。久しぶりね」

 

 風に視線を向けられ、夏凛はひと回り縮こまったように萎縮する。もじもじといつもに比べて別人のような動きだ。

 

「久しぶり、ね。皆。その……えっと……ごめんなさい。私の独りよがりな考えで勝手にサボってしまって。それに、友奈を怪我させてしまった、し……」

 

 掠れるような声で喋り始め、後半にいたってはもはやよく聞き取れなかった。俯き、いたずらがバレて観念した子供のように誰かの言葉を待っているようにも見えた。

 友奈は優しく声をかける。

 

「夏凛ちゃん。私は全然怒ってないけど、それでも悪いと思ってるのなら、あれを皆に訊いてみてよ」

 

「あれって?」

 

「ほら、膝枕されてた時に言ってたのだよ」

 

「えっっ⁉」

 

 東郷が友奈の隣でこの世の終わりのような顔をしている。おそらくお化け屋敷に出演したら間違いなくトップレベルだ。

 夏凛が顔を上げる。皆は絶対に夏凛のことを邪険に扱ったりなどしない。これまでずっとひとりで勇者になるべく生きてきたのだ。他人を遠ざけ、または自ら離れるような生き方はきっと辛かったはずだ。

 

「私はもう勇者じゃなくなった……。でも、それでも私はまだ勇者部にいていいの……?」

 

 ぽつりと疑問を漏らす。

 すると全員が豆鉄砲を食らった鳩のような顔をして、中でも風は笑いをこらえるのに必死になってしまう。目尻に涙を溜め、夏凛の肩を二度叩く。

 

「……なによ、そんなことで今までうじうじしてたの? あんたいつも自信たっぷりって顔してるくせに、そういうのには敏感なのね」

 

「な、なによ! 今までこんなことなかったんだから仕方ないじゃない!」

 

「そうね。それは悪かったわ。でも、夏凛あんた考えすぎよ。あたしは夏凛がいて楽しいし、皆もそう思ってる。じゃあもうこれ以上の理由なんて必要ないわよね?」

 

「――――。そう、なの?」

 

「なーにバカなこと言ってんの! そうに決まってんでしょ! 私達を見なさいな! これがあんたを嫌がってる様に見える?」

 

 夏凛は風、樹、友奈、東郷とそれぞれ目を合わせる。誰もが嫌な顔ひとつせずに笑顔を向けてくれた。それがどうしようもなく嬉しくて、夏凛は心の奥底で熱いものを感じた。

 嬉しさと恥ずかしさが入り混じった感情が渦巻く。顔を赤くさせ、背を向ける。

 

「なんか、恥ずかしいわ……いやホント恥ずかしいわ……! あー死にたくなってきた! 不覚よ!」

 

 事態をややこしくしていたのは夏凛の思い込みだった。それが晴れた今、これまでの行動を思い返して悶え死にそうになっているのは友奈たちから見ても容易にわかる。

 最初から難しく考えることなんてなかったのだ。最初から勇者部は夏凛を受け入れていた。友奈にとってなくてはならない存在で、五人揃ってこそ勇者部だと思っている。だから誰も欠けてほしくない。いざこざが起こり、怪我もしてしまった。しかしこれは夏凛の心配に比べると、なんでもない些事に過ぎないのだ。

 

「でも良かったでしょ、夏凛ちゃん」

 

 と友奈が言うと。

 夏凛は顔だけこちらに向けて。

 

「……そうね」

 

 とだけ返事をした。




五人は揃い、新たなスタートを……スタート、を……を、を、を、を、を、を、を、を、を、を、を、を、を、を、。

夏凛ちゃんに兄がいると言うことで登場させてみた。性格とかは知らんから許してクレメンス。
今話は『少しだけ』シリアスしましたね。
評価や感想頂けて喜ばしい限りです。
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