結城友奈は勇者ではない   作:mn_ver2

40 / 41
前回のあらすじ
人の世界を取り戻せ


破神

 神。

 それは人の上に立つ、絶対的存在。

 いつから存在していたかすら不明だが、遥か古代、それこそ人が知性を得て社会的行動をとるようになる以前から存在しているであろう存在。

 いつだって神は人を見ていた。

 時には恵みを与え。

 時には罰を与え。

 時には試練を与え。

 西暦になると神の存在は希薄になり、人間の発見した物理法則のもとに世界は運営され、目まぐるしい発展を遂げることとなる。

 果たして人間の何がいけなかったのだろう。

 いったい何が神の逆鱗に触れたのだろう。

 大赦も神樹も、それについては一切言及しない。

 きっと、神の領域に足を踏み入れようとしたからなのだ。

 だから罰として、天の神は世界中の人々を殺した。

 生物というのは、いずれはひとり立ちするものである。父と母に育てられ、成長し、自分の力で生きていく。

 それは神と人間の関係にも当てはまる。

 もう、十分育てられた。

 今こそ、神の元から離れる時。

 友奈は決意した。

 

 ◆

 

 危ない! と思った。

 天へと駆け上がる小柄な少女と夏凛に迫る蠍座の権能。

 樹はあれに殺された。

 自然と風の身体に力が入る。喉が詰まり、僅かな嗚咽が漏れる。

 二度と同じ光景は見たくない。

 風を再び立ち上がらせてくれたのは他でもない夏凛だ。恩人を、全く同じような形で失うわけには――いかない!

 そうよね、樹!!

 その時、風の横に緑の閃光とともに、スマホが姿を現す。

 

「――――」

 

 これは樹の遺品として常に持ち歩いていたスマホだ。

 それが、今になって、なぜ。

 すでに持ち主である樹はいないため、勇者アプリは起動しない。そもそも電源すら入れていないはずだ。

 疑問を抱く風を無視し、そのスマホはさらに光量を増す。

 やがて、ディスプレイ画面から目を見張る勢いで数えられないほど大量のワイヤーが放射状に飛び出した。

 途中で鋭角に折れ曲がったり、綺麗な弧を描いたりと様々な挙動をしつつも、その全てが園子の攻撃によって針を破壊された蠍座の大量の毒タンクへと飛びつく。

 そして幾重にも絡ませて切断したのを見た風は、全身が急激に熱くなった。

 世界の輪郭が曖昧に見え、とても言い表れぬ喜びに震える。

 熱い雫が頬を伝うのに気づかないまま、風は喉が裂けんばかりに妹の名前を呼んだ。

 

「樹……っ!!」

 

 姉の声に反応したのか、さらにワイヤーの本数が倍になって勢いを増す。

 次に天の神が行使したのは乙女座の権能だ。波状の歪みを超広範囲の空間に刻み、そこから大量の小型爆弾を投下する。

 今、最大戦力を有しているのは風ではない。満開の力なしでは恐らく天の神にダメージを入れられない。だから、皆が攻撃に集中できるようにサポートすることこそが風の役割!

 必ず防ぐ!

 意志が伝わったのか、ワイヤーが束ねられ、小型爆弾を迎撃するべく、一本の鋭利な棘が生成される。

 

「落とせ!!」

 

 風が手を大きく振り下ろすと、棘は緑色の尾を引きながら超高速でその悉くを貫いてみせた。

 肥大化し、続けざまに生じる大爆音に片眉を上げつつ、風は三人に精一杯の応援をした。

 

「いっちゃいなさい!」

 

 果たして声が聞こえたのかはわからないが、目に見えて三人の俊敏さが向上した。

 小さい方の赤い少女と夏凛は阿吽の呼吸で攻撃を繰り出す。

 風の知らない少女だ。

 しかし長年組んでいたパートナーのような非の打ち所のないコンビネーションだ。

 メインアタッカーはふたりに任せて、機動力の最も高い園子がふたりの援護にまわる。

 尾翼を大きく羽ばたかせてソラを飛び回り、天の神が次々に繰り出すネームドバーテックスの権能を風と連携して撃ち落とす。

 ふたつの赤は懸命にコアに斬撃を繰り出すが、それでもダメージを与えられない。

 すでに何撃目かすらわからなくなってきている。

 

「なんなのよこいつ……っ! 硬すぎ、でしょ……ッ!!」

 

 夏凛が隠すことなく悪態をつくと、目に入りかけた汗を拭う。

 そもそも夏凛たちと天の神のスケールがあまりにも違いすぎる。コアを守ろうとする防御行動すらしていない。

 夏凛たちを攻撃するこれは、ただの反射的行動に過ぎないのだ。その証拠として、天の神は速度を落とすことなく神樹を目指している。ふと後ろを振り向けば、征矢たちと戦闘を繰り広げていたはずの東郷たちがいない。

 つまり、何かしらの事故が発生し、友奈が連れ去られたことを意味している。

 片腕のない高嶋と赤嶺ではやはり荷が重かったか。

 咄嗟に追いかけようとした夏凛に叱責が飛ぶ。

 

『あたしたちの役割を間違えるな!』

 

 そう言って背中を叩いたのは、目をニッと笑わせた銀だ。

 そうだ。ただ信じるしかないのだ。

 必ず神婚を防いでみせると。また逆に夏凛たちも信じられている。

 それを無駄にしてはならない。

 獅子座の権能。

 灼熱の恒星が、降ってくる。

 切断は巨大すぎてまず不可能。防御に頼ろうとしても、精霊バリアが機能しないため、回避一択。

 樹海にダメージが与えられれば、現実世界に自然災害としてフィードバックされる。夏凛は苦虫を万匹噛み潰すような顔をした。

 だが、落ちていく恒星に立ち向かう、風の姿がある。

 

「はあああああああ……!」

 

 満開ゲージをひとつ散らせた風が、大剣を何倍にも巨大化させて両腕の筋肉に力を込める。

 ワイヤーが幾重にも重なってネットを編み出し、恒星を受け止める。

 しかしいくらワイヤーが強度が高くとも、完全に落下エネルギーをゼロにすることはできない。

 鈍い断裂音が続けざまに響き、ワイヤーネットが突破される。

 その下で、迎撃準備を完了させた風が、全長一〇〇メートルは優に超えるであろう大剣を振りかぶっている。

 

「私の女子力全開フルスイング、おみまいしてやるわ――!!」

 

 限界まで下半身に力を入れる。

 すると両足首まで重みで地面に沈み込む。いきんだせいで世界から音が消失し、視界いっぱいに恒星の赤が広がる。

 空気を根こそぎ混ぜるようにして振るわれる大剣は一見遅く見えるが、そこに込められるエネルギーは測り知れない。

 ブォォン! と全身を震わせる重い音ともにエネルギーが極点に至った大剣の面部分と恒星が――

 衝突。

 そして、樹海を揺るがす衝撃。

 

「ぐ、ゥ……っ!」

 

 重、い……ッ!

 風は千切れ飛びそうなほどの衝撃をもろに受ける両腕に、負けるなと激をかけながら歯を食い縛る。

 満開ゲージをさらにもうひとつ散らし、身体能力……特に筋力を底上げする。

 精霊バリアが発動しないことは夏凛の例を見ているから理解済み。

 もしここでせめぎ合いに負ければ、大剣は半ばから折れ、風の肉体は爆発に呑まれて一瞬で蒸発する。

 だから風にはもう、退路がないのだ。

 

「う、ぁ、ぁぁあああああッ!!」

 

 またさらに満開ゲージを消費する。

 それでも足りない。

 自然現象とも呼べるこの星落としを打ち返すには、まだ足りない!

 残り二つのゲージも躊躇いなく使い、風の筋力はかつてないほど強化される。

 だが、星に対抗するには、それでも、まだ……!

 腕の筋肉組織が嫌な音を立てているのが脳裏に響く。骨の軋む音も。

 いったい何秒呼吸を停止していたのだろう。

 しだいに視界の端から血色の赤がじわりと滲み始め、肉体に酸素が十分に行き渡っていないことを悟る。猛烈に脳が熱くなり、耳からどろどろに溶けた脳みそが溢れてきそうだ。

 しかし今、ひと呼吸をするために一瞬でも力を緩めれば、その瞬間に押し負ける。

 なるべく樹海に傷を与えたくないというエゴであることは認めざるを得ない。この攻撃を無視することで起こる現実世界へのフィードバック。起こるかもしれない事故はなんとしてでも防ぎたい。

 だが、どうしても勝てない。

 意識が霞んでゆき、ついに腕の力が抜けそうになった、その時。

 風の両手にそっと誰かの手が添えられた。

 風よりもひとまわり小さな手だ。

 

「――――」

 

 視界が定まらない風には、その輪郭をはっきりと捉えることができなかった。

 何もかもを灼きつくすような熱ではなく、温かくて優しげに満ちた熱が、一瞬にして感覚が希薄になった風の身体に活力を与えた。

 現れた影はこちらに頷きかけ、顔を近づけると耳元で、

 

『ここに、いるからね』

 

 と囁き、霧散した。

 

「いつ、き……」

 

 両眼を見開き、次いでくしゃりと顔を歪める。

 目尻に涙が滲み、光の粒となって舞い散る。

 直後――

 

「おお……おおおおおお!!」

 

 風の喉から裂帛(れっぱく)の気合が迸り、両腕を振り抜き、ついに星を打ち返した。

 それは一直線にソラへと駆け上がり、コアへと吸い込まれるように命中した。

 視界が白熱し、聴覚が飽和するほどの恐るべき規模の大爆発を引き起こす。

 空を滑空していた夏凛、銀、園子を容赦なく地面へと叩きつける爆風。

 しかしながら天の神に与えられた傷は、表面を僅かに黒く焦がすのみ。

 これが、初めてダメージと言っていいものだった。

 未だ収まらない痺れに顔を顰めつつ、風は天の神の次の出方を伺う。

 なんという、耐久力。

 絶対に神樹に近づけさせない、と初めは息巻いていたが、その自信が今、揺らいでいる。

 風がそんなマイナスな思考に陥ろうとしていた時、不意に銀の身体の端の方からゆっくりと光の粒子へと変換され始めた。

 それにいち早く気づいたのは園子だ。

 

「ミノさん⁉」

 

 悲壮な叫びに反応した銀は、自分の身体を見下ろすと、呑み込み顔で小さく笑った。

 

『あー、そろそろ神樹様の寿命が尽きるんだよ。きっと』

 

 その言葉に続いて、樹海の奥の方から黄金の輝きを放ち始め、七色の根を金色に染めながらゆっくりと壁方向に向かって変化が現れ始める。

 鋭く息を呑んだ園子は、方舟から飛び降りて一心不乱に銀に抱きついた。

 

「待って! 駄目! 行かないでっ!! まだわっしーにも会ってないのにさよならするなんて駄目!!」

 

 やれやれとばかりに肩をすかした銀は少し寂しげに嘆息した。

 

『そうか。そうだよな。こうして奇跡が起きたんだから、せめて須美の泣き顔を拝んでから逝きたいな』

 

「そうだよ! 絶対わっしー喜んでくれるから!」

 

『ああ……でも。ここを離れるわけにはいかないし、今から向かっても間に合うか……』

 

 そう言っている間にも銀の身体は分解されてゆく。

 掠れ声で「待って! 待って!」と繰り返す園子はぺたぺたと銀に触れて空中に解けてゆく粒子をくっつけようとするが、まるで意味を為さない。

 そしてついに。

 奥からひときわ強い光が四方八方に拡散し、一瞬だけ樹海を白く染め上げた。

 同時に、四国の要であったはずの神樹がゆっくりと倒れる。その様子を四人は黙視する。

 神樹――地の神の結束が解け、それぞれに分かたれたことによって樹海の維持が困難になり、根が消失し、見慣れた町並みが表出化する。

 それは同時に一般人たちの時間停止が解除されることを意味している。

 いったい何が起こったのか。

 神樹が消失したということは、神婚の阻止に成功したわけであるが、目を見張る夏凛たちの視線の先には、まだ形が保たれている樹海の底から無限の黄金の糸が伸びる。

 その伸びた先には、巨大な蕾が出現している。

 神樹のエネルギーをありったけ受け取った蕾がついに満開する。

 満開時に空に咲く花なんてまるで比にないらないほど神々しく、力強い。

 世界が誕生を祝福するかのように花弁が舞い上がる。

 

「行きなさい!」

 

 そう言い放ったのは、刀の柄を握り直した夏凛だった。

 

「時間がないのなら、はやく東郷のとこに行ってやりなさい。天の神なら、その間私が足止めしてやるわ……といっても、初めから本当にできていたのか怪しいけど」

 

「にぼっしー……」

 

「世界の危機だからって感動の再会をお預けさせるほど私はわからない人間じゃないのよ。もしこの判断が最悪の結果を招いたとしても……私は間違って無いって、確信できるわ」

 

「……ありがとう」

 

「さっさと行きなさい! 私の気が変わらない内にね! ……あ、風はもちろん私とここに残るのよ」

 

「わかってるわい」

 

 自身の胸に手を乗せた夏凛を見た銀は、同じ動作をする。

 深く頷いた園子は、銀の手を握って再び方舟に乗り込んで最大戦速で崩壊した樹海を駆け抜ける。

 間に合うように必死に祈りながら、方舟の操縦桿代わりに浮遊する両脇の宝玉を強く握る。

 ほんの数秒で倒れた神樹の跡地に到着し、銀を抱きかかえながら、呆然と空を見上げる東郷の下に飛び降りる。

 

「わっし――!!」

 

 呼び声に気づいた東郷と、その横にいた赤嶺と高嶋がこちらを振り向く。

 

「そのっ……、い、いえ――銀⁉」

 

 目を剥く東郷はおぼつかない足取りでふらふらと歩き、すでに三割ほどの身体を喪失した銀の頬に、割れ物に触れるかのような繊細な手付きで手を添えた。

 

「銀、なの……?」

 

『おうとも! さっきまで向こうで夏凛さんと一緒にどんぱちやってたんだぜ!』

 

 そうサムズアップしてみせた銀を見る東郷の目尻にはあっという間に涙が溜まった。

 そのまま滝のように流し、嗚咽を漏らす東郷は銀の小さな身体を力強く抱いた。

 

『おおう……須美もでかくなったなあ……色々と』

 

 少し窮屈に感じた銀は僅かに息を詰まらせながら率直な感想を述べる。

 とはいえ、銀の時間はもう残されていない。神樹が崩壊した今、銀を構成するリソースはいつ消えてもおかしくないのだ。

 やや団欒の方向に向かいかけた空気を、銀は表情を改めることで修正した。

 

『須美。園子。もう時間がないから、これだけ言わせてくれ』

 

 東郷の抱擁から解放された銀は、ふたりに手を差し伸べた。

 ふたりはもうほとんどが崩れかけているそれをとった。

 

『あたしは、お前たちに会えて本当に嬉しかった。最高に輝いていて、幸せだった。だからあの時の責任とか、そういうのを感じてほしくない。前を向いてほしい。お前たちには未来があるんだからさ』

 

「銀も……銀も、私達と一緒に……!」

 

『駄目だ、須美。それだけは、駄目だ』

 

「どうして……!」

 

『もうあたしは死んでるから。本当はこうして会話ができるなんてすごく奇跡なんだぞ?』

 

 わかっている。

 わかってはいるものの、どうしても願望を抱いてしまう。

 突然、何かしらの不思議パワーが銀の肉体を完全に復活させてくれるのでは、と。

 それは完全なる死者蘇生。征矢も似たようなシステムだったはずだ。

 しかしもはや神樹にこれ以上の力は行使できず、銀の受肉なんて到底不可能だろう。

 

『あたしがいなくなっても、記憶や思い出までもが消えるわけじゃない。あたしという人間は、お前たちが忘れない限り、お前たちの中で永遠に生き続ける』

 

 泣きじゃくる東郷と園子の掴む手をゆっくりと引っ張り、自身の胸に押し当てさせる。

 これは夏凛にも伝えたことだ。

 ボーイッシュな笑顔を浮かべた銀は、

 

『あたしの中にも、お前たちの中にもあるんだから。ずっとな』

 

 と言った。

 

「ありがとう……銀」

 

『ああ! 園子も、これからも須美と仲良くやっていけよ?』

 

「も、もちろんだよ……!」

 

『んじゃ、本当にお別れの時間だ。もう、あたしがお前たちの前に現れることはないだろう。だから、またね、とは言わない』

 

 手を離し、ふたりから一歩引いた銀は大満開へと至った友奈を見上げ、僅かに口角を上げた後、片手を肩の位置まで上げて――

 

『ばいばい』

 

 と別れの言葉を言った。

 ふたりが涙に濡れる瞼を瞬きさせた時にはすでに、銀はもうそこにはいなかった。

 微かに残りの粒子が舞うだけで、ついに最後のひと粒が空気に解ける。

 その様子を最後まで見届けた二人は、

 

「「ばいばい」」

 

 と笑みを浮かべながら別れを告げたのだった。

 

 ◆

 

 地上で感動の一幕が終わるのを待っていた友奈は、いざと顔を持ち上げる。

 破神を為すためには、まだこの力では足りない。神樹という統合樹からのエネルギーの供給だけでは。

 右腕を高く掲げた友奈は、鍵を回すように腕を回転させた。

 途端、神樹の倒れた跡地から巨大な桜色の光の柱が、天へと屹立した。

 轟音とともに伸び上がった光は樹のシルエットとなりながら、赤に染まった空を貫く。それだけではなく、天の神よりも遥かに高く――、それこそ宇宙へと到達するほど伸びたところで何かに衝突したかのように光が四方八方に拡散する。

 拡散した光は枝木となり、ソラを覆い尽くす。緑の葉を蓄え、四国全土に影が落ちる。

 緑と光は地平線を埋め尽くし、それに留まることなく彼方へと広がり続ける。

 これぞ、神の業の極地。

 温かみと人情に溢れた、

 神へと至る、

 人の業。

 

 神よ……地の神たちよ!

 人間の世界を築くため、どうかあなたたちの全てを、私に与え給え――!

 

 ◆

 

 誰一人いなくなった大赦本部、友奈が監禁されていたであろう本殿にいた春信は、破壊された壁から突如桜色の光が差し込んできたのを見た。

 征矢がここでどれほどの死闘を繰り広げたのかは、本殿の崩壊度合いから容易に察することができる。強固な素材で固められた床や天井はボロボロに割れ、乾ききった血溜まりを見下ろした春信は、光の正体を探るべく壁に近づき、そして瞠目する。

 巨大な円盤はソラに健在であり、あれなるは、まさに天の神。

 尚更春信は困惑した。

 なぜ、オレは今動けるのだ? と。

 そして瞬時に悟る。神樹がいなくなったのだと。

 人類の敗北を悟った春信は、しかしてならばこの光はなんだと不思議に思う。

 そして気づく。

 天の神などよりも遥かに巨大な……それこそ、四国のすべてを覆い尽くさんばかりの巨大な樹の存在に。

 あまりに規格外過ぎてすぐには気づけなかった。無意識に仮面を外し、唖然とした口のまま天を仰いだ。

 緑……いや、葉だ。

 光と、葉が四国を覆っているのだ。

 そよ風が吹き、顔を撫でる。

 植物特有の、落ち着いた香りが鼻腔を優しくくすぐった。

 その瞬間、春信のこれまでの練り固まっていた思考が解されるような感覚に襲われた。

 

 オレは今まで……何をやっていたのだろう。

 

 大人になっていく中で、子供の頃に抱いていた純粋さ、わんぱくさ。

 とうの昔に捨てた懐かしい感情が胸中で渦巻く。

 それでも春信の信念は揺るがない。

 しかしながら、この揺らぎを与えてくれたことには感謝しなければならない。

 短い期間だったが、共にお役目についたあの少女のことを想いながら、春信はあの樹に奇跡を願った。

 お前もこの光景を見ているのか、と。

 どこからか吹いた風が、そんな男の願いを空へと送り届ける。

 

 ◇

 

 女神官は勇者たちの次にもっとも天の神に近い位置――海岸沿いに建てられている英霊之碑でひとり静かに佇んでいた。

 他の神官たちは神樹の下へ召されようと大赦本部の、自然広がる大広間で祈りを捧げている。

 信仰の厚い者から神樹に召されるというが、恐らくもう全員が灰となり、黄金の稲穂へと姿を変えていることだろう。

 しかし神樹はいなくなり、稲穂となった神官たちの意識はどこかへと消え去っただろう。

 では、なぜ女神官は彼らと行動を共にしようとしなかったのか。

 ここに女神官以外の人間が来ることはないというのに。

 それは、心のどこかで、人としての在り方について思う所があったからなのかもしれない。

 仮面はとうに暴風によって吹き飛ばされた。

 感情の窺えなかった素顔が明らかになる。

 空は無限の光に埋め尽くされている。その中では、天の神ですら矮小な存在にすら見えてしまう。

 それほどまでに、圧倒的で、極大な存在。

 かつて、年端のゆかない小学生たちが勇者の御役目を頂戴した。その結末は悲惨としか言い表せなかった。

 三ノ輪銀が死に、犬吠埼樹が死んだ。

 仕方のない犠牲と割り切ってしまう、こうも歪な世界が存在して良いのだろうか。

 と、今の勇者たちならそう言うだろう。

 この様子だと神婚も不成立なのだろう。

 だからこそ、あの光の樹はいったい何なのだろうと女神官は疑問に思った。

 ここで初めて、女神官は神樹以外のものに心から祈った。

 

 どうか、真の平和が訪れますように。

 

 女神官は、涙に濡れる瞳で懸命に空を見上げ、祈った。

 それは銀色の風となって、空へと届けられる。

 

 ◇

 

 屋敷の縁側に腰を下ろしていた衛宮切嗣は、ソラで対立する赤と緑をただ静観していた。

 裾に腕を突っ込み、袴に下駄という脱力しきった格好で見上げている。

 そこにドタドタと騒がしい足音を鳴らして切嗣の横に立ったのは赤毛の青年、衛宮士郎だ。

 

「親父! なんかやばいことが起こってる! さっさと逃げるぞ!」

 

 血相を変えて詰め寄る士郎を一瞥した切嗣はのんびりした口調で諭した。

 

「いや、その必要はないさ」

 

「はあ? そんなわけないだろ……ああ、セイバーの宝具ならあのよくわからない円盤をぶっ飛ばせるからか」

 

 同時に常人離れした速度で中庭に飛び出たのは、西洋寄りな顔立ちの少女だった。カジュアルな普段着から一変、即座に銀色の甲冑を纏い、風の纏う剣を握り、ソラを睨み上げた。

 剣を振り上げると、魔力が剣に集中し、光の奔流がセイバーを中心として舞い上がり始める。

 

「セイバー!」

 

「シロウ! 下がってください!」

 

「……いや。止めるんだ、セイバー。君の宝具でもあの円盤を撃ち落とせないくらい、わかるだろう」

 

「…………」

 

 少しだけ苦そうに眉を寄せたセイバーは、ゆっくりと剣を下ろした。

 

「な、なんでだよ! セイバーならあんな奴倒せるんじゃないか⁉」

 

「ならセイバーに訊けばいいさ」

 

 と言って話を振られたセイバーは、残念そうに首を横に振る。

 

「すまない、シロウ。確かに切嗣の言う通り、私の聖剣では傷をつけられるかすら怪しい。英雄王ならできるかもしれませんが……」

 

 とはいっても英雄王ギルガメッシュはここにいない。というより、あの円盤をどうにかしてくれと頼んでも、あの絶対俺様系王様が一つ返事で了承してくれるはずがない。

 だというのに、切嗣はいっそ気味が悪いほど穏やかな表情だ。セイバーはそんな様子を訝しみながら問うた。

 

「なら、どうするというのですか?」

 

 すると切嗣は天を指差した。

 

「……祈るのさ」

 

 天には、広大な緑が広がっている。

 それらは、凛々しく立つ大樹から無限に伸びる枝木から生えた、葉である。

 驚きや恐れといったものはなかった。

 屋敷に入り込んでくる切嗣の痩せた頬を撫でたそよ風に、あの少女の匂いを感じたからだ。

 太陽のような、あの少女の。

 

「セイバーと士郎も祈るといい。あの樹にね」

 

 それだけ言うと、切嗣は静かに瞼を閉じる。

 ふたりはなんとも言えぬ気持ちになりながらも、顔を見合わせ、士郎、そしてセイバーの順に祈り始めた。

 その祈りは、遙か空へと届けられる。

 

 ◇

 

 楠芽吹は初めて見る空に驚愕しつつも、恐れることはなかった。

 千景殿。

 天の神が降臨した際に、一緒になって四国に侵入してきたバーテックスたちを迎え撃つために建てられた、大橋と並んで数えられる四国の霊的国防装置のひとつ。

 今はもう見る影もないほど破壊され、ボロボロだが、その役割を見事果たしてみせた。

 防人たちもただでは済まず、例外なく皆が満身創痍だ。

 大赦本部で相手取った侵入者には敗北し、本殿への侵入を許してしまった。何を盗まれたのかまでは芽吹も知らない。しかし今思えば、あの侵入者は完全な悪人といった感じではなかった気がする。

 なぜなら、こうして防人全員を軽傷だけで無力化してみせたのだから。

 もしかしたら、この戦闘を予期して加減してくれていた……?

 あり得なくは……無いかもしれない。

 

「びゃああああああ〜〜!! 終わりだぁあああああ!! 世界の終わりだああああああ!!」

 

「少し黙りなさい、雀」

 

「ぢゅん!!」

 

 ひとつ軽い拳骨を頭上に落とし、静かになった雀に嘆息してから改めて空を見上げた。

 天の神のさらにその上の空を支配する、無数の枝木。青々と生い茂る葉は、あまりにも美しかった。

 

「……見惚れる光景ですわね」

 

 そう呟いて芽吹の横に立ったのは、ボロボロになった弥勒だった。

 

「そう、ですね。あれは何だと思います?」

 

「そうですわね……きらめき……でしょうか」

 

「少し痛い言い方ですけど、なるほど。そう言われるとそんな気もしますね」

 

「さり気なくディスっていませんこと⁉」

 

 目くじらを立てる弥勒を軽くあしらった芽吹は、呆然と空を見上げているしずくに近づいた。

 

「……楠。あれは、人の……想いの結晶」

 

 少し難解な表現を口にしたしずくは、戦衣についた土埃を払った後、ゆっくりと腕を持ち上げて指差す。

 

「楠は……何を想う? 何を祈る?」

 

「…………」

 

「私は……死にたくない。楠たちと、いつか防人じゃなくなっても一緒にいたい。幸せになりたい。シズクも私と同じように幸せになってほしい。皆に幸せになってほしい」

 

 すべてを挙げたしずくは両手を合わせ、祈りの仕草をとった。

 

「た、たくさんあるのね」

 

「別にひとつじゃないといけない決まりなんてない。そうでしょ?」

 

「……そうね」

 

 芽吹はしずくと同じ動作をして、祈ることにした。

 隊長に続いて、すぐさま他の防人たちも祈りを捧げた。

 芽吹は、神に振り回される時代が終わりますように、と祈った。

 弥勒は、この世界が終わりませんように。それと弥勒家が再興しますように、と祈った。

 雀は、死にたくない、と誰よりも強く祈った。

 皆も同様にそれぞれの祈りを捧げる。

 それらはしっかりと、空へと届けられる。

 

 ◇

 

 人々は一瞬にして空を赤く染めた天の神に恐れおののく。

 人の種の終わり、来たれり。

 これまで神樹と大赦によって徹底して規制されていた情報が春信によって暴露されたことにより、人々はあれが天の神という存在なのだろうと漠然と予感した。

 人を絶滅させようと、自ら推参する。

 しかし、突然空が拡散する光に上塗りされる。

 その中心となる光の大樹は、神樹よりもさらに神々しく人々の目に映った。

 だからこそ、それに対して自然と身体が動いていた。

 

 それは、祈ることだ。

 

 それぞれの胸中に宿る想いは異なっていたが、祈りと願いは同質で、強さは同じだった。

 老人たちは、この愛する世界が存続するように祈りを捧げた。

 大人たちは、愛する者たちが笑える世界のために祈った。

 子どもたちは、明日も友達と一緒に遊べますようにと祈った。

 この世界に生きる人は、何も全員が全員、善人ではない。悪人だって同じ。

 ボロアパートに住む男も例外ではなかった。

 眠たげな瞼を擦りながら、今にも割れそうなガラスの引き戸を開ける。

 無造作に伸びた顎髭に触れた後、もう一度瞼を擦って意識を覚醒させる。

 男が見たものは、この世の終焉と言ってもいいほどのカオスだった。

 血色のペンキがぶちまけられたような空。

 そこを悠々と進行する、異様な雰囲気を放つ円盤。

 俗世に疎い男でもあれは知ってる。

 さんざんメディアで騒がれていた存在、天の神だ。

 ついに死ぬときが来たのか、と男はあっさりと現実を受け入れる。

 男は盗みで生計を立てている。

 罪に塗れた人生。

 そういえば、あの少女はどうなったのだろう、と記憶の片隅が呼び起こされる。

 確か女性のバッグを掠め取り、その現場を目撃された中学生くらいの少女に追跡された記憶。

 なんとか振り切れたものの、その直後に耳に届いた衝撃音は、間違いなく車と激しく接触した音だった。

 男の僅かに残っていた良心がちくりと痛む。

 その時、一瞬にして空に緑の光がさああ、と広がった。

 それを見た瞬間、男は数年ぶりに心が感動に打ち震えるのを感じた。

 胸の内がきゅうう、と熱くなる。頬を熱いものが伝うのにも気づかず、知らず知らずに両手を合わせて空に祈りを捧げていた。

 実のところ、その内容は空っぽだった。

 でもそれでも良いと思った。

 ただどうしても、心を揺れ動かしてくれたことに、感謝がしたかった。

 足を洗うか、と男は改心した。

 罪人にも等しく、祈りを届ける権利は与えられる。

 

 ◇

 

 世界から隔絶された四国を包み込む、広大な大樹。それに、地上から空へ巻き上げられる祈りや願い、あるいは想いが数百万の花弁となって、届けられる。

 それらは一つ残さずすべて受け入れられる。

 数多の星ぼしすら霞むほどの極大まで集約されたエネルギーの光が、四国の辺境から順に、波となって葉を揺らしながら、ある場所へと流れ始める。

 それは、大樹の中心。

 神の業をも超え、真に神へと至らんとする、結城友奈の、天へまっすぐ掲げられた右腕へと。

 

 ◇

 

 高嶋はそんな超現象を見上げていた。

 酒呑童子を身に宿し、征矢の軍団を力でねじ伏せていく内に、いつの間にか誰かに意識を乗っ取られていた。

 しかし今、乗っ取っていた何者かが消えようとしていた。

 徐々に身体の制御が変換される。白い右腕もゆっくりと消えてゆき、ついに、完全に高嶋の中からいなくなった。

 そして悟る。

 今消えた存在こそが、自分を蘇生してくれたのだと。

 光の波動は次第に大きくなり、友奈の元へと集っていく。地上から絶え間なく空へと届けられる花弁はただの花弁ではない。

 人々の心の力が結晶化したものなのだと直感する。

 あまねく天蓋に伸びる枝木は注がれる力のせいか、目に見えて活力が上がり、一際強く光を放つ。

 この世界は、今、祈りに満ちているのだ。

 

「結城ちゃん……!」

 

 高嶋は友奈の名を叫び、両手を上にかざした。

 たとえ異世界の、それも過去の人間であろうと、祈ることは人の特権だ。

 だから、この祈りも、どうか届いて――!

 

 ◇

 

 赤嶺は涙を流していた。

 神の業に手を出した罪として処分しようと対峙した時、友奈はこれを『人の可能性』だと言っていた。

 もう、それを否定する理由も、気力も赤嶺にはなかった。

 なぜなら、友奈の生み出したこの景色が、あまりに美しすぎたから。

 この世界に来てから、泣いてばかりだ。

 赤嶺は自分を笑った。

 笑いながら、泣いた。

 隣の高嶋の真似をして赤嶺も右腕を高く掲げた。

 結城ちゃん。

 あなたを、心の底から信じるよ。

 

 ◇

 

 東郷と園子はすでに泣き止んでいた。

 銀との別れはもう済ませた。

 銀は言った。思い出はいつまでもここにある、と。

 互いの胸に上に手を置いたふたりは、それぞれの呼び方で友奈の名を叫んだ。

 その声は実体を得る。

 

 ◇

 

 夏凛と風は満身創痍の身体を互いに寄せ合っていた。

 もう指先ひとつ動かせない。荒い呼吸をしたまま、敵わなかった神を見上げる。

 天の神は未だ健在。しかし、その侵攻は停止している。

 それは天の神をも超える圧倒的な侵食。

 それは天の神のような悪逆の侵食に非ず。

 確かな温かさに満ちた、優しい緑の光。

 友奈だ、とふたりは瞬時に直感した。

 あとは、お願い……!

 縋る気持ちで祈りを捧げた。

 

 ◇

 

 勇者たちの祈りは、すでに消えたはずの牛鬼が小さな羽を羽ばたかせることによって、無事に届けられた。

 

 ◆

 

 ついに祈りの力がひとつになる。

 地からは神樹の結束が解かれてそれぞれの土地へと戻っていった神々の承認――神威が四国の地中に張り巡らされた根から汲み上げられる。

 光が枝木の端を白く燃やしながら収縮し、ついに炎が中心へと集う。

 大樹はすべて燃え尽き、瑞々しい最後の葉が一枚だけ宙に残る。

 そして、練り上げられた人と神のエネルギーの集大成はただ一滴の水滴に凝縮される。

 葉脈に従ってジグザグに進みながら重力に引き寄せられて下に落ちてくる。

 葉の先へと到達した水滴が、ゆっくり、ゆっくりと雫となって滑り落ちる。

 一瞬だけ七色に煌めき、友奈の掲げる純白の手甲へ目掛けて落ちる。

 これなるは、人の身には有り余る一滴。

 如何に神の業に触れた友奈といえども、ただでは済まない。勇者ではなくなり、そもそも人間ですらなくなる。

 変質する。

 

 それこそ――

 神の業の先。

 即ち。

 人から誕生せし、真正の神へと。

 

 一メートルにも満たない落下をついに果たした雫が手甲に触れた、その瞬間――。

 世界が白く染め上げられ。

 結城友奈という人格は、一瞬にして神格によって塗りつぶされた。

 人の感覚を超越し、全てを鮮明に知覚することができる。

 四国に存在する、生物無生物の森羅万象を、友奈の脳が理解する。

 全身が星の輝きに包まれる。

 すでに樹海は完全に喪失し、友奈の生み出した光の大樹もない。

 ここに存在する神は、結城友奈と天の神のみ。

 ふわりと地上に降りた友奈は、その傍らに座り込む東郷を見下ろす。

 

「友奈、ちゃん……」

 

 その姿は、神といえどもあまりに痛々しい姿だった。

 勇者アプリを介していないとはいえ、神樹の力を全開で享受しているのだ。当然、神の呪縛と天の神の祟りはこれでもかと言わんばかりに友奈を犯す。

 急速に成長した枝木は友奈の首を絡めるように伸び、顔の右半分を埋め尽くし。

 赤く歪な紋様は、いっそう赤あかと光を放ちながら左半分へと領域を広げる。

 

【挿絵表示】

 

 しかしそれに苦しむことも呻くこともなく、友奈はやや寂しそうな表情を浮かべた。

 

『東郷さん』

 

 それは、人の声ではなかった。

 口を開くこともなく発せられたのは、神の声だった。

 細くありつつも、二度と忘れられないほど美しい、オーロラのかかるような声。

 人工的、自然的にも発生しない音の羅列が東郷だけでなく、周りにいた高嶋と赤嶺、園子の身体の中に深く染み込んだ。

 

『これを、あなたに』 

 

 続いて友奈が握っていた左手を開くと、そこには黄色のミサンガが乗せられていた。

 それを見た赤嶺はハッと友奈を見上げる。

 対して友奈は静かに微笑むだけだった。

 たったそれだけでも赤嶺のすべては友奈に釘付けとなってしまう。それほどの神の威光だった。

 東郷がおずおずと差し出した手にミサンガを落とすと、友奈は四人に踵を返した。

 

『行ってくる』

 

 それだけ告げると、思い切り地面を蹴る。

 この世界に神は不要である。

 天の神は当然として、神へと到達した友奈も例外ではない。

 ゆえに。

 ――この一撃に、神の力をすべて注ぎ込む。

 友奈が展開した白銀の世界を侵そうと天の神も全力を出す。自身を中心に異界化を加速させ、瞬く間に赤く染め直す。

 さらに、己の存続の危機を察知した天の神はコアから超高出力の光線を放った。

 爆発的な加速でソラへと駆け上がる友奈はそれを正面から受け止める。

 神となったとはいえ、その身体構造は人間と全く同じだ。体躯の差という圧倒的なハンデを背負う友奈は些か不利。

 純粋な力としての光線は、友奈の加速を殺そうと容赦なく降り注がれる。

 しかし、負けじと下顎に力を入れた友奈は、雄叫びを上げながら猛然と天の神に抗う。

 手甲に埋め込まれた七つの宝玉が輝きを放ち、友奈の足元にブースターとなる陣が七つ展開され、さらに爆発的な加速を得る。

 そうしてコアまであと数十メートルとなったところで、さらに光線の力が強まる。

 まっすぐに突き出した右腕も超高火力には耐えられず、じわじわと押されてゆく。

 負けられない。

 負けない。

 負けてなるものか。

 破神なくして人に自由は訪れない!

 そのためには……天の神、お前が邪魔だ!

 その瞬間、時間がどこまでも引き伸ばされるようなゆったりとした感覚に襲われた。

 そして、見る。

 視界の端から、大きく翼を羽ばたかせてこちらに接近してくる青い鳥の姿を。

 それもただの鳥ではない。とてつもなく巨大なのだ。さらにその背中には数十人ほどの少女が乗っている。

 鳥は友奈の真横にぴたりと追随した。

 少女たちのうちのひとりが、宙を浮遊してゆっくりと友奈に近づく。

 友奈と瓜二つの容姿で、髪飾りを友奈とは逆につけている少女だ。

 

『ありがとう。異世界の私と仲良くしてくれて。私も嬉しいよ』

 

 続いて接近してきたのは、ふたりの少女だった。ひとりは金髪で小柄、とても活発そうな子。もうひとりは、黒髪で百七十センチほどありそうな高身長で、目元がやや気怠げな子だ。

 なかなか面白い凸凹コンビ。

 

抜本塞源(ばっぽんそくげん)! 我々『友奈』は君に最大限の力を貸そう!』

 

『あのよくわからんクソ神をぶちのめしてやれ。リリ奈の言う通り、私も力を貸すぞ』

 

 さらに現れたのは、友奈も見慣れた人物だった。

 バイザーで顔を隠し、白銀短髪の少女。

 征矢……旧名、赤嶺友奈だ。

 赤嶺はそっとバイザーを外すと、優しげに微笑みを向けた。

 

『お前がどんな選択をしようが、私達はそれを支持する。……せっかく私が助けてやった命だ。無駄にはするなよ?』

 

 そして彼女たちは友奈に触れ、力を貸し与えると姿を消した。

 あの鳥の上にいるのは、全員が友奈だと直感する。

 高嶋友奈を始めとして、天の神に対する特効となる呪いを有した友奈たち。神世紀が始まって今日までに生まれ、死んだ友奈たち。

 姿形、雰囲気などは個人によって様々だが、全員共通して似た顔立ちだ。

 全員が鳥から離れ、友奈の背中に順番に触れ、力を与えて消える。

 最後のひとりの力が友奈の中に馴染んだ瞬間、この上ない活力が漲った。

 誰もいなくなった鳥は、友奈の下へ回ると、光を放ちながらその姿を変え、八つ目の青いブースターとして支えとなった。

 いける。

 友奈は確信とともに、上を向いた。

 

 結城友奈は勇者ではない。

 

 ゆえに『勇者パンチ』と叫ぶのはここでは不適切だろう。

 でも。

 友奈に力を与えたあらゆる存在は、総括して間違いなく『勇者』だった。

 だから。

 その功績を借りることにする。

 極光を乗り越え、ついに拳の間合いへと入った。

 

【挿絵表示】

 

 両眼を見開く。

 友奈は上半身を限界まで拗じらせると、目を剥き、世界が割れんばかりの大声量で叫んだ。

 

『勇者……パアアアアアアアアアアアアンチ!!!!』

 

 突き出した拳は、寸分の狂いもなくコアに吸い込まれた。

 激突。

 巨大な閃光と爆音が立て続けに世界を震わせる。

 硬質な抵抗があったが、それをものともしない強さで、ついにコアを破壊する。

 それだけではない。結束が強制的に解かれ、個々となって天へ還ろうとする神々を逃がすまいと、拳の先から桜色の奔流が無限に拡散する。

 それらは煌めく流星の如く天を駆け、人の関与できない領域まで上昇しようとしている星たち――神核のすべてを正確に撃ち抜き、不可逆的に破壊する。

 

 これぞ、星落としならぬ、神落とし。

 またの名を、破神。

 

 あまたの爆発が天を支配し。

 発生した強い閃光が飽和し、世界を昼に負けないほど明るく照らした。

 その後に現れた空は、血のような空ではなく。

 どこまでも青々とした空が広がっていた。

 天の神によって四国外の世界に行われた事象の書き換えも消失し、赤の世界が徐々に霧散していく。

 同じように友奈の中からも神気が喪失する。

 人であったという記録が恐るべき速度でかき消され、事象の書き換えが完了する。

 これにて。

 破神、完遂。

 

 ◆

 

 すべての力を使い果たした友奈の顔には、すでに天の神の祟りは完全に消え失せていた。

 ふらふらと高度を下げながらようやく地上に着地すると、崩れ落ちるようにその場に倒れた。

 

「友奈ちゃん!」

 

 血相を変えた東郷が傍らで膝をつき、無我夢中で友奈の身体を抱き起こした。

 

「!!」

 

 そして目を見開く。

 友奈の肌はすでにマシュマロのような柔らかなものではなくなっていて。

 何か硬質なものに変化しようとしている。

 それこそ、分厚い木肌のような――。

 力を失った友奈にはもう、神の呪縛に抵抗すらできない。

 瞬時に右腕の枝木が再生し、瞬く間に何重にも巻き付く。それだけでは飽き足らず、全身をも驚異的なスピードで侵食している。

 

「あ、ああ……友奈ちゃん……友奈ちゃん……!」

 

 何をどう処置すればいいかわからない。

 駆けつけた園子がとっさの判断で枝木の一部を槍の穂先で切断するが、切断面からすぐさま再生が始まる。

 その間にも勇者たちが友奈の下へと集まってくる。

 

「ど、どうなってんよのこれ!」

 

 風と肩を貸し合い、足を引きずりながらなんとか辿り着いた夏凛は徐々に悪化していく友奈の容体に激しく狼狽する。

 すると、今まで閉じていた友奈の瞼が持ち上げられる。生気の薄れてきた瞳は、ゆっくり時間をかけて全員を見渡す。

 まだ神気の纒っている友奈の唇が微かに震える。

  

『大丈夫……私は死なないよ』

 

「で、でも友奈ちゃん、身体が……!」

 

『そうだね。この身体はもう終わる……でも、死ぬわけじゃない。私は、東郷さんたちをいつまでも見守り続ける……』

 

 左腕を伸ばし、友奈は涙を流し続ける東郷の頬にそっと触れた。

 そして次にミサンガを握り締める手の上に自身の手を重ねる。

 

『ああ……泣かないで、東郷さん。前を向いて、人の世界を強く生きて――』

 

 東郷を含め、誰も言葉を発することができなかった。

 何かに引っ張られるように身体を起こした友奈は、最期に顔のほとんどを枝木に覆われたまま、東郷たちに満開の笑顔を向けた。

 瞬間、今の今まで燻っていた枝木の成長が爆発する。

 ずるりと剥けるように植物組織が何重にも覆いかぶさって伸びていく。

 空へ向かって伸びていく。

 伸びて――。

 どこまでも――。

 伸びていって――。

 

 ◆

 

 神世紀三〇一年一月三十日。

 昼下がり。

 天の神の撃破からちょうど一週間となる。

 神樹はいなくなり、地の神も完全に消失した。

 世界は完全に人の定めた法則、システムによって運営されることになる。

 また、春信による情報漏洩のせいで大赦は世間から袋叩きにされ、大赦の解体は確定した。今後は春信をトップとして新たな組織が編成されることになる。

 今日は勇者部員たちの怪我も完治し、久しぶりに部室での集合日である。

 

「よーし! 全員揃ったわ! 色々ごたついてたけど、やっと落ち着いてきたわね〜!」

 

「だいたいはあんたの受験勉強なんだけどね。私立がもう近いんでしょ?」

 

 鋭い夏凛の指摘に風は「まあね」と視線を逸らしながら応じる。

 なんとこの場に勉強道具を持ってくるという勤勉ぶりを見せつけてくるほどだ。よほど風は内心焦っているのだろう。しかしずっと長い間年下の園子先生におんぶにだっこで勉強をつきっきりで教えてもらったのだ。園子曰く「やらかしさえなければ私立も公立も十分射程範囲なんよ~」とのこと。

 しかし今日は大切な日だ。

 東郷と園子とで二束の花束を用意してある。準備は完璧。

 そう、今日は高嶋と赤嶺とお別れの日なのだ。

 

「えー、こほんこほん」

 

 わざとらしい咳払いをした風は、自分の筆箱をマイク代わりにして話を切り出す。

 

「高嶋と赤嶺、過去から来た勇者たち。突然未来に来て色々困ったことはあったでしょうけど、それでも私達をいっぱい助けてくれてありがとう」

 

「……私、最初は皆の敵だったんですけどね」

 

「いいのよそういうのは。もう仲間なんだし」

 

「……はい、風さん」

 

 最初は敵だった。

 結局言えずじまいだったが、神の業に触れた人間を一度は殺した。

 さすがに今それを言えば東郷の周囲の気温がマイナスに転じるという確信があったため、赤嶺はこれを墓場まで持っていくことにした。

 ……?

 そういえば、誰を殺したのだったっけ?

 赤嶺の頭に浮かんだ疑問は、滑らかな風の司会進行によってどこかへ吹き飛んだ。

 

「高嶋も短い間だったけど、家族のように感じられたわ。もし帰らなくていいなら、本当に家族になってほしいくらいよ」

 

「あはは……それは……ごめんなさい、風さん」

 

「ま、そうよね。悪いわね。変なこと言っちゃって」

 

 バツの悪そうに笑った風が一歩引くと、変わって東郷と園子が前に出た。その腕には乃木家がそういったものに明るい専門の人に選んでもらった、色とりどりな花束がある。

 

「たぶん持ち帰れはしないと思うけど、どうか、この気持ちだけでも受け取って」

 

 微笑みながら東郷から差し出された花束を高嶋へ、園子から赤嶺へと送られる。

 ふたりは花に顔を近づけてその匂いを嗅ぐと、今にも溶けそうな顔になった。

 

「ありがとう。ここでの記憶は、帰っても絶対に忘れないよ」

 

 自分の胸を抱くように腕を寄せた高嶋がそう言うと、赤嶺に目配せをした。

 言わずもがな、時間遡行をするための腕時計の準備のことを指している。

 片腕だから一旦園子に預け、ポケットを弄って腕時計を取り出す。

 

「兄貴がくれた操作方法のやつ、ちゃんと読んだでしょうね」

 

 夏凛に少しだけ小馬鹿にされたような気がして、つい赤嶺はムキになって答える。

 

「もちろんに決まってるじゃん」

 

「有り金全部プロテインに捧げる奴が言ってもねぇ……」

 

「ぐぬぬ……」

 

 否定できないのが悔しい。

 羞恥に頬を染めながら赤嶺は「ちゃんとできるから!」と夏凛に見せつけるように手際よく腕時計の側面ボタンを操作してドライブモードに移行させる。

 時代はすでに春信によって設定済み。ジャンプするのは二回分だけだ。これはジャンプ回数が残っていれば鏑矢案件になってしまうことを避けるためでもある。

 ヒューマンエラーのないようにきちんと確認画面がオーバーレイ表示されている。それぞれの時代を指差し確認をしたふたりは深く頷くと、躊躇いなく【確認】をタップした。

 その途端、ふたりを包み込むように数字のインデックスが大量に出現し、仄かな光子が舞い上がる。すかさず園子に預けていた花束を受け取った赤嶺は、実行されてゆく時間遡行シーケンスを静かに待つ。

 そうして最終段階に入り、ふたりの身体が分解され始める。

 

「ありがとうございました!」

 

 と高嶋は最後にお辞儀をし。

 

「ありがとうございました。それと夏凛、実は隠してたけど、夏凛のベッド下にあった煮干しファミリーパック、あれ全部私が食べた」

 

「はああああああ⁉」

 

 と最後の最後に特大爆弾が投下されて叫ぶ夏凛に、

 

「ごめんね!」

 

 と可愛らしく舌を出し、逃げるように赤嶺は姿を消したのだった。

 

 ◆

 

 高嶋は椅子に座っている。

 二度目の時間遡行といえど、やはりすぐには視覚や聴覚を取り戻すことができずにいた。

 かぶりを振り、ぼやける目を擦ろうとして、気づく。

 右腕がある。バーテックスに喰われたはずの右腕が、ある。

 懐かしい感覚に半ば興奮しながら肩を回していると、すぐ目の前から声が聞こえた。

 

「だ、大丈夫か友奈?」

 

 久しぶりに聞く声。

 しだいに聴覚だけでなく、視覚も平常に戻っていく。

 そこは、見慣れた場所だった。

 すぐ眼前には心配そうに若葉がこちらの様子を窺っている。

 そうだ。

 赤嶺と時間遡行をする直前、皆でうどんを食べていたのだった。確か初陣で勝利を収めて、これから赤嶺をどうするかで話し合おうとしていた……だったような気がする。

 杏に球子、若葉、ひなた。そして千景が友奈に視線を向けている。

 

「あ、ああうん! 大丈夫! この通り元気百倍!」

 

「本当によかったわ……それで赤嶺さんは……何処に行ったのかしら。変なエフェクトみたいなのが出てきて、消えてしまったけど」

 

 安堵の表情を浮かべた千景は続いて高嶋の隣の椅子に視線を向けた。

 そこには主のいない椅子がぽつんとあるだけだった。

 千景たちは、高嶋が赤嶺たちと短くも濃密な時間を過ごしたことを知らない。

 それを語るのは……すべてが終わってからでもいいだろう。

 だから。

 

「赤嶺ちゃんは……自分の時代に帰ったよ」

 

 と、高嶋は慈しむような顔で言ったのだった。

 

 ◇

 

 赤嶺は呆然と立ち尽くしていた。

 これで時間遡行は三度目。

 四度目はもうないだろうと思いながら復帰した赤嶺は冷静に状況を思い起こす。

 そう……老爺の作った腕時計に触れたのだった。すべてはここから始まったのだ。

 

  「友奈⁉」

 

 普段なら絶対にしないような驚愕の色を滲ませる蓮華が赤嶺の肩を揺さぶる。

 咄嗟に何を言えばいいのかわからなかった。だから赤嶺は、いつまでも、いつまでも蓮華の顔を、そのサファイア色の瞳を見つめ続けた。

 狭い個室には埃ひとつなく、ただ無音の時間が訪れる。

 ようやく我に返った赤嶺は目を瞬かせると、目の前の蓮華を熱く抱擁した。

 

「ゆ、友奈?」

 

「…………」

 

 ……鏑矢という存在はこの時代には必要である。

 神世紀が始まって、まだ百年も経っていない。人の考え方などは徐々に変化していくものだが、赤嶺の時代では、その領域に至るにはまだ早い。

 だから、これからも赤嶺は鏑矢として裏の世界で暗躍する人間に徹するつもりでいる。

 それでも。

 遥か未来では赤嶺のような存在が必要なくなることを嬉しく思うのだ。

 

『あー、すまんなぁええ雰囲気のとこ。で? 結局対象物は確保できたんかいな?』

 

 水を指すように耳のインカムに静の声が聞こえてきた。

 ふたりはバネに弾かれたように距離を取ると、互いに小さく笑った。

 そして赤嶺は静に報告した。

 

  「対象物は発見しました。でも、壊れていました。これより帰投します」

 

 ◆

 

「行っちゃったわね」

 

 そうぽつりと言ったのは、穏やかな表情を浮かべた風だった。

 ふたりのいた場所にはやはりというべきか、花束が寄り添うように落ちていた。

 それらを拾い上げた東郷が、机の上に乗せようとして――。

 

「あれ? わっしーがなんでそれ持ってるの?」

 

「え?」

 

 園子が不思議そうに指差したのは、東郷の右手首。そこに結び付けられている黄色のミサンガだった。

 園子はもう一度「あれれ?」と子首を傾げながら、

 

「それご先祖様が作られたすごく貴重なものなんだけど、私、わっしーに上げたかなぁ……?」

 

 と言った。

 今思えば、東郷もこのミサンガを入手した具体的な経緯を覚えていない。

 

「そのっちが私にくれたんじゃないかしら?」

 

「んん? んんん? そう簡単に人にあげるようなものじゃないんだけど……でもわっしーの手元にあるってことは、私があげたのかな?」

 

 互いにふわふわした結論を出したところで、今まで黙りこくっていた夏凛が火山の噴火の如く叫び声を上げた。

 

「赤嶺あいつ――! 私のッ! 私の大切にとっておいた煮干しをッ! ぜん……全部、食べたああああああああ⁉」

 

「はいはい、煮干しは今日の帰りにでも買えばいいじゃないの」

 

 冷静なツッコミを受けてもなお憤怒の収まらない夏凛を無視して風は話を切り替えた。

 

「そういえば、どうする? 『あれ』の名前」

 

 窓の外を見やる風の動作につられて全員が視線を外に投げる。

 讃州中学から遠く離れた海岸のあたり。そこには大きな大きな大樹が堂々と聳え立っている。

 全長は測りしれず、専門家によればかつて旧世紀に存在していたらしい富士山よりも高いという。

 それほどまでに、巨大。

 天の神を倒したのはあの樹ということになっている。勇者たちが戦う最中に神樹の寿命が尽き、そこから新たにあの樹が生え、人智の及ばぬ攻撃で倒した。

 当時の風たちの記憶は曖昧だが、確かにそう言われるとそんな気がする。満開でもまるで歯が立たなかったところを、あの樹は助けてくれた。

 勇者たちには天の神と戦った功績として、あの樹を命名する権利を春信から与えられたのだ。

 

「とはいってもねぇ……後世に残るものなんでしょ? そんな大役、普通中学生に任せるかっちゅーの」

  

「でも世界の存亡を懸けて戦ったんですから当然の権利だと思いますよ、ふーみん先輩」

 

「まあそれはわかるんだけどねぇ……」

 

 と悩みに悩んでメトロノームのように左右に身体を振り続ける風。

 

「なら『完成型の樹』に決定ね!」

 

「あ、却下」

 

「なんでよ!」

 

 即座に取り下げられた夏凛は、半ば八つ当たり気味に風に噛みつく。

 そんな中、東郷のただ一言の囁きが部屋に静かに響いた。

 

「ユウキ……」

 

「わっしー?」

 

「皆の勇気が成し遂げたこと。だから、『勇気の樹』なんてどうかしら。略しても勇樹(ゆうき)になるし」

 

 その言葉はなんだか、口というか、脳が聞き慣れた音の響きだった。全員の動きが停止し、一様に「勇樹……」と呟く。

 

「いいんじゃないかな」

 

 最初に首肯したのは園子だった。

 

「これまでの私達。これからの私達にぴったりな言葉だよ。それになんといっても語呂がいい!」

 

 近日中にも探索隊が編成されて、四国の外へ向かうという。すでに近畿地方の存在は確認されていて、兵庫県、そして大阪府までとりあえず目指す計画らしい。

 あの樹――勇樹は神樹のように人々に恵みをもたらさない。ただそこにあるだけの巨大な樹。

 これからはお前たち自身の力で生きていけととでも主張しているような気すらする。

 そんな超然と屹立する勇樹を東郷は窓から見上げる。

 今までほぼすべての資源を神樹に頼っていた人類が、果たして激動の時代を生き抜くことができるのか。……正直、そう簡単ではないだろう。人は美しくも醜い生き物である。資源争いや領土の奪い合いが起こるかもしれない。

 人は変化を求められる時、すべてがすべていい方向に事が進むわけではない。

 でも希望はある。

 まだ見ぬ世界。

 新たな世界。

 可能性の広がる世界。

 

 その名も。

 未来。




▼この物語はBitterENDへと収束しました

これにて【結城友奈は勇者ではない】は完結となります

今までありがとうございました
私の活動報告で感想とこれからについてぼやいてるからマイページに飛んで是非読んでネ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。