もてもてドクター   作:雅裕

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当てた時変な声出たのでくっつかせます


シュヴァルツ

「あぁ...もうむり」

 

帰りの市電の駅で頭を抱えてしゃがみ込むと、横にいるシュヴァルツはいつもの真顔でこちらの頭に手を置いた

その日はとんでもない厄日だったようで、朝からアンテナに吊るされたと思えば、また山ほどの書類押し付けられ、三日に一度壊れる精密機械を修理して、くじには一度も当たらないのに、カキには大当たり

死んだ目で最後、町での用事を終わらせると、事務室で待ってもらっていた彼女が出口の横で立っていた

 

「少し目を離した間、また随分とやつれましたね」

「だって今日だけで...」

「言わなくともわかります」

 

今に日が暮れ、夜が活発になる

目の前のやるべき事が終わると、これが終わったらあれしよう、こうしようと思っていたこと手を付けるのが億劫になる

あ゛ーと魂の抜ける音を出しながらかろうじて考えことをしていると、シュヴァルツからは飲みに誘ってもらった

彼女の酒癖の悪さは知っているが、考える前に電車はやってきた。...なにか行きつけはあるだろうか

 

入ると、自分は彼女の一つ右後ろの席に腰を下ろした。バスみたいな、一部のシートが進行方向を向いているタイプだ

今日は人が少なく、数人が乗った程度で電車はがら空きだった

ドアが閉まると、モーターの音と共に景色が動き出した

頬杖をつき外を眺める彼女を、自分は前のシートに頭を寄りかからせながらなんとなしに見ていると、すぐに目が合った

 

「どうかしましたか?」

 

そういう彼女のこわばった表情は多少緩みこちらに尋ねた

 

「別になんでも」

「近頃はよくそう言いますね」

 

目的の駅は遠くなかったようで、数駅乗り、電車が止まると「着きましたよ」と、最後に車内を見渡して彼女は降りた

行先がわからずシュヴァルツの後をついていくと、時折そこにいることを確認するように彼女は振り返り、程なく近いところにそれはあった

 

「ここにはよく通うの?」

「いいえ、一度だけです。以前勧められましたので」

 

そう言って入った店の中は想像よりも静かで、薄暗い

 

「こういう所にも来るんだね」

「ええ...まぁ、ここならばあのような失態を起こすことはないと思います」

 

慣れない僕を気遣って彼女は慣れた手つきで自分の分も注文してもらった

そうしてカウンターで二人に渡されてきたのはどこか懐かしい香りのする林檎酒だった

 

持って一瞬傾けると、特に乾杯をせず飲み始めた

いつもの雑談だ、しきり話しかけるのはやめろというが、気づくとどうでもよくなり

クールな口調で彼女から話しかけてくることも多くなった

が、今は気づくと彼女の返事はやけに遅くなっていた

 

「ん...シュヴァルツ?」

「待て、ドクター。後ろを向かないでください」

 

言われた通りにそうすると、視界の端で彼女をとらえた。顔は赤くなっていない

 

「どうしたの?」

「今のうちに代金を支払ってください。5時方向、電車にいた男がこちらを見ている」

「尾行されているのか」

「わかりません。ですが早く行きましょう」

 

ポケットから幣を多めに取り出してカウンターに置くと、すぐさまそこから離れた。出る際にちらとそのほうを見ると、あからさまな格好で店の柱に寄りかかった男が見える

顔まで隠していない以上気の狂ったサラリーマンにも見えなくないが、店から出るとその男が続いて出てきたのが見えれば、その可能性は限りなく0に近づいた

念のために連絡はしておこう。店を出て左の方、駅へは遠回りになるが、直接向かう方が危険だ

手を引かれ速いペースでブロックを一周すると、追手はまいたようで、警戒しながら電車に乗ったころには林檎酒の味をド忘れした

 

「ここまでくれば安全でしょう」

「とんでもない...厄日だ」

「...まだ少し続くかもしれません。バーから出た時、他にも二人の視線を感じました」

 

えぇと言ってる間も無く、まもなく着く次の駅さっきの男がいた。いや、そう見えたが身なりがひどく似ている

急便もロドスもどこもかしこも面倒な目にあうのは同じらしい

 

「ドクター...」

 

呼ばれて立つと男は前から乗り込んで手すりからくるりと最寄りの席に座った。目を合わせないように猫背気味に姿勢を低くして電車から出ると、後にシュヴァルツが続く

外に足がつくと、扉が閉まった。男は焦ったように両手をガラスの扉に手を当ててこちらを見ているが、電車は進みだす

 

「連絡は付けたほうがいいかもしれません。こちらへ」

 

道路の向こう、歩道からこちらへ向かってくる人影が見えた。ラフな格好にしては距離の取り方があまりに適切なのだ

そのような情報しかわからないが、さっきから連なってる事から推測するならば十分

シュヴァルツに手を引かれ駅を後にした。中途半端なところで降りた此処は、昼間ならば間違いなく観光地だろうが、景観を重視するあまりに夜になれば街灯しか見えなくなる

通行人が通りかかることを願いながら石畳みの上を歩く、教会前の広場に建物の間、店の裏を通って、橋の裏に続く道にやってきた、人通りは少なく、前後からさっきの奴らが来ると、それに挟まる形になった

 

「...ここで騒ぎを起こしたくはありません。気を付けて、ドクター」

 

そう言ってシュヴァルツは自分から距離を取るように歩き出し、前をふさぐ男のすぐ横ですれ違うと、懐の拳銃がシュヴァルツへ向けられる、すかさず彼女はスライドを抑え込み、銃口を左に逸らすとそのままひねってトリガーガードを絡め指を折った

奪い取った得物を後ろに向けると、また自分の前に立った

さっきの奴は折られた指に痛がってるが、いつ立ち直るかわからない。彼女は構えをキープしたまま背中でこちらを押すように後退りすると、二人で走り出した

 

「ここにくれば、安全です」

 

そういって連れられたのは鉄柵に囲まれた廃屋の中だった。ホームレスのたまり場からは少し離れており、最近こうなったのか、荒れているが天井に穴が開いてるわけではない。運よく柵がはがれていてよかった

彼女はさっきの拳銃に、そこらへんで拾った布切れを巻いている、こうして包まって処分するそうなのだ

 

「ロドスへ連絡は取りましたか?」

「あぁ、今取る」

 

自分のできることはそれくらいか。端末を素早く取り出すと、メッセージを3通送った。電話番は基本自分でやっているから留守電はない。あとは誰かが読んでくれるのを祈る

水滴がアスファルトにあたって跳ね返った音が聞こえたと思えば、外は雨が降っていた

さすがにシュヴァルツも疲れているようで、入口の横で腰を下ろしている

 

「終わったよ。ごめん、こんなことになるとは思ってなかった」

「あなたの問題ではありませんよ。ですが、今後もしこのようなことがあれば、出かけるたびに必ず護衛を付けてください」

「護衛...か。恐れ多いや」

「...あなた自身の立場を弁えて言ってください」

 

それを言われると、ドキりとする。実際問題、身の回りに護衛を付けている人は当然少なく、何度言われても自分がそのような立場であるのかが疑問に思える

そんな上の立場なら理不尽事を減らしてもらいたい。だがないものねだりしても仕方なく、今は目の前の申し訳ない気持ちが勝った

 

「ごめん、ウカツだったよ」

「い、いえ..別に謝ってほしくていったわけではありません。ですがせめて...」

 

彼女は視線を逸らして、手の甲で口と鼻の間を一度拭くと、改めて目を合わした

 

「せめて、もう少し警戒してください。...あなたを失いたくありませんので」

 

言葉の意味を理解すると、どう反応すればいいのか、リアクションに困る。このように言われた経験は少ない

焦って弁明する彼女に自分は護身術くらいは習うべきかと聞くと、彼女の返事はあやふやだった

 

「それができるのであれば、習う方が無難です」

「でもこれじゃ厳しいよなぁ...」

「なら、私に頼ってください」

 

頼りなさげに自分の体を眺める一方で、そうすれば外出は安心だ。とでも言わんばかりに、彼女の顔は自信に満ち満ちている。でもそれだと...

 

「僕と毎回一緒に外出することにならない?」

「...そうですが」

「悪いよ」「命に比べれば安い」

「そりゃ命に比べたらなんでも安くなるよ」

 

彼女は、はっとため息をついて眉間をつまむと、膝をついたまま、向かいの自分に歩み寄ってきた。彼女の周囲にまとっている体温が感じるくらい近くなる

 

「だから私に従えば、安全と言っているんです」

「でも...」

 

タンッと、顔の横で打ち放しコンクリートに手がつく音が鳴ると、身にまとう静電気すら感じられるくらいに、また距離が縮んだ

暮色の慧眼がこちらを見つめて離さない

 

「...言葉に甘えるよ」

「最初からそう言えばよかったんです」

 

満足げに微笑むと、近づいた順に体が離れて自分の隣につく。今となって動悸が訪れたように感じる

寒いのか、彼女は自分の手をそっと握ると、肩をこちらに寄せた

 

「...あまり飲めませんでしたね」

「うん。まぁ、運がいいのか悪いのか」

「どういう意味ですか?」

「いやなんでも。できればもう少し話がしたかったね」

「はい。私にもまだ言いたいことがありました」

 

よくよく考えれば、今暇ならば、ここでその言いたいことも話せばいいと思ったが彼女は、ここでは言いたくないの一点張り。

でもまぁ、本当に毎日護衛されるというのであれば、いくらでも話す機会はあるだろう

 

そこからは、しばらくの間無言が続いた

 

「先ほどの言葉、覚えてますか?」

「ん...?」

「いえ。忘れたなら、そのままにしてください。少し興に乗っただけですから」

「多分、あの了承がなくても、君の言葉ならすべて聞いてたと思うけれど」

「...本当ですか?」

「うわごとは言わないよ」

「...正気ですか?」

 

なにか言いたげだが、とりあえず信じてもらえた。また無言が続く、バーについた時は色々と話題を思いついていたが、途中で吹っ飛んだ

 

「うーん...今何時?」

「今は...11時28分です。いつもならロドスに着いて新規書類作成をしている時間です」

「少し、眠ってもいいかな」

「了解。警戒は私がしますから、体を休めてください」

 

 

 

 

近頃はあまり眠れていない。この姿勢で瞼だけを下ろすと、すぐに意識は雨音と消えた

次彼女の声に起こされたとき、すでに日が昇っていた、さっきまで雨が降っていたようで、空はひどく青く澄んでいた

 

「ん...シュヴァルツ?」

「はい。どうかしましたか?」

 

働かない頭で昨日の事を思い出そうとして、まず入ってくるのは尻と首の痛みだ

そうして次に自分を認識すると、頭は体育座りした彼女の足と腹の間に挟まっていた。いつから?

慌てて身を起こすと、腕に絡まった彼女のしっぽも同時にほどけて元のすらっとした状態に戻った

 

「ご、ごめん。いつの間にか...」

「よく眠っていたようですね。よかったです」

「シュヴァルツはまだ一睡もしてないの?」

「どうということはありません。....たら一瞬でした」

 

何を言ったか。どうあれ、眠れていないことには変わりがないだろう

ならば早いところロドスへ帰ろう。立ち上がって五体満足なことを確認すると、手を引いて彼女を起こした

いくらなんでもさすがに追手はいなくなってる。来た柵をまた超えると、一晩世話になった廃屋にさようならを告げた

 

 

 

「ちょっと記念に自販機買っていこ」「このタイプは久々に見ました」「あ、ゾロ目でた」




お久しぶりです。あのスケスケ衣装の正体を探る旅に出てました

フェリーン好き。スキル3すき。ストーリーすき。かっこいいすき

えらべ

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