もてもてドクター   作:雅裕

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前回の続きになります。本当はもっとね、肉体的にいちゃつかせたいんだ。
うちのドクターは純情派らしい。


ニアール!

「大変助かる、ここには大量の蔵書があると聞いているので」

 

まさかと童貞ドクターは思っていたが表情に出ていたのか、

ニアールは急いで弁明した。

今は自分の席から見て左斜め前の来客用のソファの腰を下ろしている、普段そのような方がここロドスに来ることは少なく、実にそこへ人が座ってるのを見たのは久しぶりかもしれない。

向かいの低いテーブルには他にもいくつか、歩兵戦術や鉱石病研究入門発展。前は大量に読んでいたらしい書物を未だ溜め込んではいても今や読んだって点でわからなかった

しかしさすが、文武両道にそれらはわきまえているようで、彼女は本に集中している

 

「. . . . 」

 

と思ったのも束の間のようで、気づけば開かれた本は膝に置かれていて、少し俯いた顔になにやら視線だけはこちらを向いていた

目が合った、しかし特段話すこともなく秒針が刻まれる、しびれを切らしたのか相手からこちらに話しかけてきた

 

「何か用ですか」

 

こっちのセリフだよ。

 

「いや特に」

「何をされてるんですか」

「昨日の書類」

「何かお手伝い致しましょう」

「大丈夫」

「ですがこの量です。私と分割したほうが効率的ではありませんか」

「いいや、大丈夫」

 

大丈夫なはずがない。善意を踏みにじるのも柄ではない。

しかしそうまでして断る理由は一つあった。

ペットボトル一本分の高さか、積み上げられた書類は100枚で一センチならざっと2000枚は下らない。どこからかふって湧いて出てくるのだ。

しかしその絶望的な高さの裏に、そこだけは機転が利くのか、ドクターはそこへタブレットを隠した。映画を垂れ流したタブレットを書類の裏に隠したのだ。真に都合がよいとでも言うべきか。この具合にサボらないと理性崩壊片道切符なのだ。

しかし当然だが、迅速にタブレットをしまえない以上、見つかればあとはない。だからこそ誰にも見られてはならないのだ

 

「書類程度ならそつなくこなせるはずですが」

「本当にうれしいけれど、遠慮する」

「しかし....」

「一人でやるのが好きなんだ」

「毎日あれほど嘆いて...いえ...なにも」

「....わかりました、そこまで言うのなら」

 

良心は痛むがやっと諦めてくれるらしい。

今タブレットで流れてるのは少し古いが有名な映画だ。主人公がどん底から人気者に成り上がる過程が面白くて、見るのは二回目になる。ちなみにエフイーターは出演してない。音は流せないが、字幕がある。無問題

 

「なるほど...そういった映画がお好みで...」

 

沈黙が流れた。背もたれに手をかけ、興味深そうにタブレットを覗いていた

 

「あー....」

 

左に振り向くと目が合った。

 

「どうしてここにいるんですか」

「書類に感動の涙を流す人は初めてお目にかかりました」

「どこから見てたんですか」

「ビクターが空港を出るところ」

 

一番いいシーンじゃねえか

 

「あの、このことは...!」

「どうでしょう」

 

何かを察したニアールは微かにニヤついていた

 

「...よいな?」

「はい...」

「やはり作業は二人で分割したほうが合理的だ」

 

そう言ってニアールは壁に寄せられている予備の椅子を自分の隣に置いた

相変わらず距離は近いが、肘が当たらない程度には離れている。

確かに枚数にして2000枚積みあがっているが、書類としてホチキスに止められているものばかりだ、この量ならば彼女の言うとおりである。

 

「...秘密にしてもらえないですか」

「何故ですか?」

「あー...そりゃ上の立場として...」

「でも本当は?」

「本当もなにも...」

 

返事の代わりに、彼女はただこちらを横目に微笑んだ

 

「アーミヤやケルシーに没収されるから...」

「最初からそう言えばいいのに」

 

返す言葉が見つからない。

 

「では、二人だけの秘密だ」

 

そう言うニアールはどこか嬉しそうだった

 

「それならもう少し、私を頼ってくれ」

「...頼らないとどうなる?」

「どうなるでしょう?」

「バラされる」

「ならきちんと、頼りにすることだ」

 

素直に返事ができず、頷く代わりに書類にせっせと手を付ける。正直ニアールさんはそんな人ではないと思いたい。

映画は流れたままで、気づけばエンドロール

 

「どうして...そんなにも親切にしてくれるんですか」

 

そう聞くと、少しの間沈黙が流れた。書類を書き進めながら、その返事を待つと、聞こえるのは早まる筆の走りばかりだった

 

「...言わなければダメか?」

「まぁ...でも教えてほしいかな」

 

そう言うと自分の手を止め彼女の方に顔を向けた

 

「あまりこの手の事は慣れてない。たからその...」

「だから...?」

 

ニアールは一つ咳をつくと、顔をこちらに向けた。口をもごもごと閉じながら、少し俯いて、視線だけはこちらを見ていると思いきや、どこかそっぽ見てる

 

「言えない」

「どうしてですか」

「言う理由がないではないかっ」

「"気になるから"は理由にならない?」

「無論だ。ただ、どうしてもと言うならば...」

 

言い淀んでる。紅潮した顔に、勘が鈍いドクターでもわからなくても察してしまうだろう

 

「どうして伝わらないだろうか」

「...?」

「元々稽古一辺倒で、こんな体験初めてでどう接したらいいかわからなくてずっと私は...!」

 

少しずつ、彼女は次第に早口になった

 

「やはりどこか距離感を間違えているというべきか、不用意に近づいて周りの目が見えなかったりとか」

 

彼女は何かの弁明を始めた。訴えかかってきてるようにすら思えてきて、普段の騎士様では考えられないような仕草が目の前で起きている。夢でも見ている気分だが、いま彼女は耳まで顔を真っ赤に染めながらなぜか必死に普段の態度立ち振る舞いのわけを説明している。

 

「つまり...?」

「つ、つまり、私はドクターのことが...その」

「僕のことが?」

「す......」

 

忙しかった動作も終わったようで手を膝に乗せスカートをぎゅっと強く握っていた

深く俯いて何を言っているか、唇の動きを見ることぐらいしか伝わる術がない

それでも勇気を出したのなら、しっかり答えを返さなきゃいけないことぐらいドクターでもわかってる

 

「その....ありがとう」

「ど、どういたしまして...?」

 

俯いていた顔が上がった、なにかを待っているような、あるいは終わってしまったかのようななんとも言えない表情をしている

 

「僕も好きだよ」

「___っ」

「ド、ドドドクター!私も故郷を追われた身であれど元は一介の騎士だ、その騎士にかくもそのこ、ここ告白などは主であれど聞き捨てはならん!」

 

言い始めたのはどちらか。

 

「だがその....ありがとう。これは騎士としての私ではなく、マーガレット・ニアールの出した答えだ」

 

彼女は目を合わせ、手を上から重ねた。やっと落ち着いたのか、いつもの調子に戻った。その表情は安堵で満ちているようであった

 

「あー...コホン、今日は一度これで失礼しよう。お邪魔したな」

「ううん、手伝ってくれてありがとう」

 

そう返すとニアールは席を立ち椅子をもとの位置に戻した。しおり綴じした本を返すと、執務室のドアノブに手をかけた。それを引くと、振り返りこう言った

 

「明日もお邪魔して良いだろうか」

「いつでもおいでよ」

「感謝する」

「いつでも頼りにしてるよ」

 

ドアが閉じる瞬間、彼女に向けてそう言った。聞こえるかはわからないが、これも自分の気持ちだ。この際聞こえてるかは関係ない。ドクター自身が、言いたかったこと

だったのだから

 

 

その後は毎日のようにニアールは執務室へ足を運ぶようになった。

ついに「『うちのコミュ障ドクターがあの女騎士を堕としたぞ』『やっぱニアールさんだし仕方なく付き合ってあげてるんじゃない?』などと噂が飛び交うようになったが、首を吊ることはないし、ニアールは聞かなかったことにした。




好意を寄せる過程は省きます。

ニアールさんは初見から好きだったんです、運命感じましたね。しばらく当てられませんでしたが。

ありがたいことに前回のお話、誤字報告してくださった方がおりまして、どうやらニアールのニがことごとく漢数字の二だったそうで...失礼しました。

一応これでニアール編はまたにしといて、次は別の世界線で別の誰かとくっつかせたいな。シャイニングにでもしようか

えらべ

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