やはり俺だけレベルアップは間違っている。 作:はちまんはちまん
家に帰ってから夜も更けて来た頃携帯に1件の着信があった。
「もしもし」
「久しぶりだな、比企谷」
懐かしい声の相手は平塚先生だった。時計を確認すると夜の10時をさしておりこの時間まで仕事だったのだろう。声に少し疲れがみえた。
「お久しぶりです。平塚先生」
「どうだ比企谷。これからラーメンでも食べにいかないか?」
僅かに優しくなる口調に自分の弱い所が出てしまいそうになる。この人なら...今の自分の現況を全て話して楽になれるかもしれない。でもそれは、平塚先生を巻き込むという事だった。
「すいませんがもう夜ご飯は食べ終わってるので今度にして下さい」
「まあそう言うな。ラーメンはしめだろう?」
「何ですかその社会人の飲み会みたいな言い方は...」
「ははは、確かにそうかもな。では待合せだが」
「ですから行きませんから!」
その言葉を最後に電話を切る。このままでは本当に全て話してしまいそうだった。
「本当...なんであの人結婚出来ないんだよ」
「本当に何でだろうな」
部屋の扉が開かれ通話が切れた電話を見せながら平塚先生が入ってきた。
「は?え、はぁああ!?」
「ま、此処が待ち合わせの場所なのだが。うむ時間通りだな」
そういう事するから結婚出来ないんじゃ無いでしょうかね..いや怖えよ、本当に怖い。
「それじゃあ比企谷。少し付き合いたまえ」
抵抗も何も無く腕を引かれ平塚先生の車に乗せられる。平塚先生から会話を振られる様子はなく、ただ無言のまま道路を移動する時間が何故か懐かしくどうしようもなく安心感をもたせてくれた。いっその事事全部言ってしまおうか、そう思い平塚先生を見るが言葉にならず顔を背ける。安心感はあるのに居心地の悪いこの状況にも何故か懐かしさを感じていた。
「さあ、着いたぞ」
平塚先生が車を停めた場所はラーメン屋ではなく、雪ノ下と由比浜、二人と。いや奉仕部にさえ行けなくなった日に来た海沿いの場所だった。
平塚先生は胸ポケットから煙草を出して火をつける。まるであの日のように。
「なんか、カッコいいっすね」
「格好つけてるからな。ふっ前にもこんな事があったな」
「そうっすね」
忘れろと言われても忘れられない。今でもあいつらと笑いあえるのは平塚先生のおかげだ。でもだからこそ目の前の恩師を巻き込むわけにはいかない。
「さて...君に何があったのか。まあ頭の怪我を見る限り、そして体の至る所にある怪我を見る限り想像がつく。比企谷、ハンターになったんだな」
「...」
「沈黙は言葉よりも分かりやすいぞ?それに君の妹から君達の状況は聞いている」
その言葉で知られてしまったという後悔で拳を強く握りしめる。また巻き込んでしまった。
「だがな比企谷。私はお前の口から話して欲しいよ、これまで何があったのか」
その言葉から何かが崩れるように平塚先生に話していった。親父の死から始まり、母親の入院。そして自分がハンター最弱であるE級のハンターだという事も。
「そうか...すまないな。私は今まで何も気付けなかったよ。君の妹に相談されるまで...私は教師失格だ」
「それは違いますよ。俺はもう貴方の生徒じゃないですし、小町は俺と違って演技が上手いですから」
「そうだな、君の妹は本当に上手かったよ。でもな比企谷、完璧な人間なんていないんだ。もう少し私が変化に気付けていれば守れたものもあったかもしれない。それに私は、今でも君の事を教え子だと思っているよ」
「平塚先生...」
「少し、しんみりしてしまったな。比企谷、妹と一緒にうちに来ないか?私はこう見えて独身だ。金には困っていないしな。君の母親の入院費を出す事も出来る」
海風が平塚先生の長い髪を揺らし、月明かりで見えた平塚先生の目は赤く腫れ上がっていた。今まで顔を見る事が出来ず気付く事も出来なかった。
「平塚先生、凄い魅力的な提案ですが辞めておきます」
巻き込みたくはない、でも。
それでも。
「そうか...」
「でもたまにで良いんでラーメンでも食べに連れて行ってくれると嬉しいです」
少しくらい甘えても良いのかもしれない。
「っ!...よし!大船にのったつもりでいなさい!次は妹も一緒にな」
そう言って笑う平塚先生の笑顔は綺麗で、今までの不安を全て吹き飛ばしてくれた。
本当にどうして結婚出来ないんだろうな、俺が貰っちゃうぞ?
「うす、よろしくお願いします」
次回から本編に入っていきます。