やはり俺だけレベルアップは間違っている。 作:はちまんはちまん
今回のダンジョンランクはD級だった。
E級のダンジョンでも大怪我をする俺がD級のダンジョンでクリアー目前なのにも関わらずモンスターを一体も倒せていないのは当然の事でもあった。それでも一体は倒さないと電車代まで払って参加した意味がない。恐怖心の中で戦いながらも傷だけが増えていった。
「比企谷さん、まさか意地張って冒険者続けてるんじゃないですよね?このままだといつかホントに大事になっちゃいますよ!」
回復をしてもらいながら観月さんに怒られる。確かに観月さんの言ってることは最もだし正論だ。それに観月さんのMPを無駄に使わせてしまっている。観月さんにとって本来しなくていい仕事をしているんだ、怒っても仕方ないと思う。
「観月さん、すいません。確かに俺のせいで観月さんの仕事が増えてますね。これからは放っておいてもらって大丈夫ですから。回復ありがとうございました」
お礼を言いながら立ち上がる。少しふらつくが問題ない。これで観月さんの仕事も減るし、俺も気兼ね無く出来る。お互いwin-winの関係だ。今までは俺だけが観月さんに頼っていて観月さんに返せることは無かったからな。
「もう!どうしてそういう事言うんですか?私は比企谷さんの事を心配して言ってるんですよ!」
なのに何故か観月さんは先程よりも怒っている。
「比企谷さん...もしかしてハンターを辞められない理由とかあるんですか?」
一瞬、家族の顔が頭をよぎるがそんな事を観月さんに言ってもしょうがない。観月さんは他人なんだから。
「ただ他にやりたい事が無いだけですよ」
嘘では無い。金を稼ぐ事は大前提なのだ。この仕事を辞めるとき、それは本当に裏の仕事をしなければならないときだろう。
「ここで死ぬよりは、普通に仕事をした方が良いんじゃ無いですか?」
「...そうっすね。それじゃ」
「ちょっと!」
「おーい。こっちにもう一つ入口があるぞ〜」
ダンジョンの中に稀に出現すると言われる二重ダンジョン。二重ダンジョンの中には珍しい道具がある事が多い。だがダンジョンのランクが変わる事が多い。レアな道具が高確率で出現する分C級のダンジョンがA級のダンジョンに変わった例もある。だが中にモンスターはいなくてレアな宝箱だけ置かれていた例もある。
馬渕さんから提案が出された。
ここにいる17人で多数決を行い二重ダンジョンを攻略するか引き返し協会に連絡して指示を待つか。危険が伴う為の判断だが、諦めて引き返せば手柄は横取りされてかなり収入が激減する事は確かだ。まだ一体も倒せていない俺にとっては最悪の話だ。だが中に入ればただでさえD級のダンジョンで死にかけている俺なんて本当に死ぬかもしれない。それでも攻略さえ出来れば珍しい鉱石や宝箱等手に入るかもしれない。
それぞれの人が賛成や反対を言っていく。E級の俺の意見なんてあまり意味無いだろう。綺麗に割れるとも思えないし、黙っていよう。
「8対8...か。これで全員か?」
「ん?いや比企谷君がまだだな」
俺の存在を忘れていた馬渕さんだが、真島さんが俺の名前を出す。いやなんで綺麗に別れるんだよ。
「比企谷君はどうしたい?」
「俺は...」
俺の隣では今日何度目か観月さんがご機嫌斜めで歩いていた。観月さんは二重ダンジョンに反対したが俺の答えは賛成だった。死ぬつもりはない。でもお金も必要だった。それに二重ダンジョンから出る物の中に母親の病気が治る物もあるかもしれない。
「なんか、すいません」
「どうして謝るんですか?私は別に怒ってませんよ」
いや怒ってるじゃないですか。頬膨らませてるしこっち見てないし。
「そう、ですか...」
「...て!怒ってるに決まってるじゃないですか!どうして賛成するんですか!死にたいんですか!?比企谷さんはE級なんですよ!?さっきだってもう少し刺された部分がズレていれば死んでたんですよ!?何を考えてるんですか!?頭でも打ったんですか?そうなんでしょ!?」
実際観月さんのおかげで命拾いした事が多すぎて何も言えない。それでも今回のチャンスを見逃す事は出来なかった。
「すいません、それに先程も言いましたが。もう治してくれなくて大丈夫ですから」
「何言ってるんですか!目の前で死にそうな人がいるのに見て見ぬふりなんて出来るわけ無いじゃないですか!!」
か、顔が近い...そして怖い。勢いが怖い。この勢いは何処か由比ヶ浜に似てる気がする。
「すいません」
「悪いと思ってますか?それなら今度お詫びに何か奢ってください。それで先程の言葉もチャラで良いですよ」
「は?...」
「そんな嫌そうな顔して、私とご飯食べに行くのそんなに嫌なんですか?」
一緒に行くのが嫌というよりはお金が無い。住んでいる家の事もあるし小町や母親に使うお金のこともある。正直誰かに奢るほど余裕が無い。
「いえ、嫌では無いですが」
「じゃ決まりですね!楽しみにしてますから!」
まあ二重ダンジョンをクリアー出来ればいつもより多い収入が入る筈ではある。なので少しくらい贅沢をしても大丈夫だとは思うが..我慢してくれている小町の事を考えると行きたくない。話を切られてボスの部屋に着いたことで断れなかったが後で断ることにしよう。
「扉のある部屋って珍しいな」
誰かが言ったその言葉はここにいる全員の思った事でもあり不安と期待を膨らませるには充分だった。次々に上がる不安の声。だがリーダーである馬渕さんが一人でも行くと言えば着いて行かざるえない。
「馬渕さんって経験豊富だしC級の中でも上をいく攻撃型ハンターだったよな...」
その言葉にB級じゃ無いのかとツッコミをいれそうになるがE級の俺が言ったところで藪蛇だろう。
馬渕さんの先導のもとついて行く。
ボスの部屋は広く、そして体に悪寒が走るほど神秘的に見えた。寂れた石像があるくらいで敵の姿が見えないのに誰かに見られているような嫌な気配を感じる。
幾つもある石像の中で一際大きい石像が中心にある。こんなサイズのボスだったら勝ち目なんて無いだろう。
「馬渕さん!!ここに何か書かれてます!」
メンバーの一人が大声を上げて石版を抱えた石像の前に集まる。
「ルーン文字か...どれどれ」
全く読める気配がしない文字を馬渕さんは、読み上げていく。
「カルテノン神殿の掟」
1つ目....神を敬せよ
2つ目....神を讃えよ
「ひ、比企谷さん...い、今.....あの大きな石像...」
3つ目....神を信仰せよ
「目が動きました...私達のこと見てたんです....」
「そんな事」
あるはずが無い。とは言えなかった。先程前まであった少しの悪寒が大きくなっていた。辺りは不気味な程静かになり、モンスターと対峙しているわけでも無いのに心臓を鷲掴みされている気分だった。
この掟を守らぬ者は
生きては帰れん。
ダンっ!!
馬渕さんが読み終えた瞬間に閉まるドア。人間誰しも分からない事にこそ恐怖を見出す。一人のメンバーが帰ると言い出し入り口に向かう。ゾッと体を流れる恐怖心。
「待てっ!!扉に触れるな!!」
馬渕さんのその声と共にボス部屋に鮮血が散った。
比企谷の能力をネクロマンサーでは無く他のものにする予定です。