何の前触れもなく、意識が覚める
パチっと目を開けるとそこには見知らぬ天井があった
そこは彼が知る世界ではなかった
目に見える色、耳から聞こえる声、鼻から入る匂い、肌から感じる感触の全てがおかしい
ガヤガヤガヤと、まるで自身が知らない国の言語が飛び交っているようだ
「・・・・」
思うように動かない体を動かしてナースコールのボタンを押す
触覚がおかしいため、押しているかもわからない
しかし、パタパタパタと足音のようなものが聞こえた
するとすぐに来たのは病院の看護師ではなく、カエルの顔をしたいつもの医者だった
「君にはいつも驚かされるよ。ってこれでは聞こえてないか」
冥土帰しは降魔の首元を弄る
すると先ほどまで彼を包んでいた騒音が鳴り止み、体も思うように動かせるようになっていた
「どうだい?これでちゃんと聞こえるはずだよ?」
雑音にまみれていた冥土帰しの声もしっかりと聞こえる
「・・・どーなってる?」
「うん?君の脳の一部の機能が停止しているんだよ。そのままじゃ君は能力を使うどころか歩くことや話すこともできないだろうね?」
「そうか」
「それは君の演算機能を補うものだ。あの子みたいな子達がたくさんいるみたいだからね、その演算機能を少し使わせてもらったよ」
降魔は改めて首筋を触る
そこにはチョーカーのようなものが巻かれており、そこからコードが頭へと繋がれていた
「説明書はそこにあるからね。一応僕の手作りだけど、試作品だから何かあったら持ってくるといい」
それだけ言うと冥土帰しは病室から出て行ってしまった
降魔は机の上に置かれている説明書の束を手にとり、ペラペラと眺める
(ったく、めんどくせー体になっちまったな)
以前の彼ならば絶対に有り得なかった行動
他者を助けるために自らの体を犠牲にする
◇◇◇
説明書にも一通り目を通し、チョーカーについてある程度理解を得た
煙草でも吸いに行こうと考え、ベッドの傍に立てかけてあった現代的なデザインの杖を手に取り、喫煙所を目指す
目的の喫煙所へ着き、煙草に火をつける
(ったく、歩き難いな)
やはり、杖有りでの生活に慣れるには時間がかかるだろう
壁に寄りかかり、煙草を吸う降魔の目の前を見覚えのある奴が横切った
ソイツは喫煙所の中にいる降魔に気がつくと、ズンズンズンと喫煙所の中に入ってきた
「この度は申し訳ありませんでした」
そう言って神裂火織は凄まじい勢いで頭を下げた
その様子を見て降魔はめんどくさそうに煙草の煙を吸い込む
「何の謝罪だか知らねぇけど、そんなモンいらねぇよ。ここの灰皿にでも捨てとけ」
「ですがッ!!あなたは私たちを庇ってそのような怪我をしています!!」
「くっだらねぇな、死んでねぇんだからいいだろ」
「・・・」
「それにあのガキも救われたんだろ?テメェらはそれを喜んでればいーんだよ」
「あなたは、」
「それに、テメェらに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ」
降魔はそれだけ言うと煙草を消して杖をつきながら喫煙所の外へ出て行ってしまった
神裂は遠ざかる少年の背中にもう一度頭を下げる
喫煙所から病室へ戻ると居候の2人が病室にいた
『出歩いて大丈夫なんですか?』
「あぁ、問題ねぇよ」
「何故そんな怪我をしたのですか、とミサカは第1位であるあなたに質問します」
「・・・さぁな、俺も分からねぇよ」
降魔は2人から視線を外し、ベッドへ入る
ベッドに入ると眠気は不思議とすぐにやってきた
上条への見舞いは面倒だし明日でいいか
「しばらく帰れねぇから戸締りしっかりしろよ」
それだけ言い残し目蓋を閉じた
◇◇◇
病室で惰眠を貪っていると、ノックと共に病室のドアが開かれる
「おはよう、今日もいい天気だよ」
「・・んあ?」
「君も病室と喫煙所ばかりじゃなくて、外に散歩でも行ったらどうだい?」
「あ?そんな面倒なことする訳ねぇだろ」
「そう言わずにね?ほら、君にお届け物だよ?」
そう言って冥土帰しが差し出されたのは常盤台中学盛夏祭の招待状だった
受け取って差出人を確認すると、『白井黒子』と書かれていた
「・・ったく、面倒だな」
そう言って、降魔はベッドの近くに立てかけてあった杖を掴む
「どこかに出かけるのかい?」
冥土帰しは降魔へ意地悪な質問をする
この話の流れでどこへ出かけるのかなど一目瞭然である
「あ?煙草を買いに行くんだよ」
不機嫌そうな声を出し、降魔は病室から出て行った
降魔のいる病院から常盤台中学までは直通のバスが通っていた
この体で、歩いて行くのは面倒くさすぎる
能力を使って移動してもいいが、コレにはバッテリーが存在する
普段使っている通常のモードだけだと1日半ほどの稼働時間である
能力を使う場合のモードだと今の段階では10分が限界である
そのため、極力能力を使うのは避けなければいけない
バス停で待っているとバスがやってきた
意外なことにバスの中は人が少なかった
杖をついていることもあり、降魔は椅子に座ることができた
常盤台中学までは十数分と言ったところか
別にすることもないので黙って目的地まで待つ
常盤台中学に着くとそこは様々な人で溢れかえっていた
唯一の入場口には警備員が数人警備を固めていた
降魔も人の流れに逆らわず入場口へ行き、招待状を見せ、常盤台中学へと足を踏み入れる
「へぇ、学校ってのはこんななのか」
学校へ一切行ったことのない降魔は少々呆気に取られる
しかし、こんなお嬢様学校はあまり他にないだろう
メイド服を着ている生徒を尻目に適当にブラつく
知り合いといえば御坂と白井しかいないので知り合いに会えるとは限らないだろう
しばらく歩くと降魔の鼻をくすぐるいい匂いがしてきた
どうやらビュッフェがあるようだ
クゥ、と降魔の腹から申し訳無いような音が鳴る
病院の食事に飽きていた降魔には丁度いいだろう
杖をつきながら、テーブルへ向かう
皿を受け取り、料理を適当にのせる
杖をつきながら席に戻ろうとするが、うまく進めない
流石に料理を乗せすぎただろうか
「あのー、よろしかったらお手伝い致しましょうか?」
メイド服の少女が話しかけてきた
どうやら降魔の杖を見て、手伝おうと思ったのだろう
「あぁ、助かる」
そう返事をすると、少女はニコッと微笑んで、お皿を持ってくれた
流石はお嬢様学校だ
席に着くと、丁寧に料理を置いてくれた
「それではごゆっくりどうぞ」
綺麗なお辞儀を披露し、去っていった
降魔はそんな少女の背中を少しだけ眺め、食事にありつく
食事も終盤になってきたところで、見知った顔がビュッフェの会場に入ってくるのが見えた
どうやら、彼女らも降魔に気付いたようだ
「何であんたがここにいるのよ」
じろっとした目つきで睨んでくるのはメイド服を着用した御坂美琴だった
その後ろには初春と佐天が立っていた
「あ?散歩だ、散歩」
「散歩って、あんたねぇ・・・」
面倒くさいのでポケットから招待状を出し、御坂に見せる
御坂は招待状を見ると、渋々納得した
そのまま煙草を取り出し、
「ところで、喫煙所はどこだ?」
「んなモン、中学校にある訳ないでしょ」
「まじかよ・・」
舌打ちをしながら煙草を仕舞い、木でできた煙草と同じくらいの大きさの箱を取り出し、そこから何かを取り出しガムのように噛み始める
「・・・何それ」
「あ?噛み煙草だ」
「あんた、やばいわよ」
御坂は呆れ、後ろにいる2人も苦笑いをしてしまっている
そのまま初春と佐天の2人は料理を取りに行ってしまった
御坂は降魔の変化に気がつく
「ちょっと、アンタそれどうしたのよ」
「あ?」
御坂が指差していたのは首元にあるチョーカー型の電極だった
そして、そのまま机に立てかけてある杖にも気がついたようだ
「気にすんな、面倒ごとに巻き込まれただけだ」
「気にすんなって・・・」
そういえばこの男は病院に入院していなかっただろうか
自分の前にいるのは同率とはいえ学園都市第1位である男だ
そんな男がこんなにされるなんて、どれほど強大なものを相手にしたのか
「おい」
「ッッ!!??何よ!!」
「俺は帰るぞ、って言ってんだよ」
「もう帰るの?」
「あぁ、散歩のついでだしな」
「あれ、降魔さんもう帰っちゃうんですか?御坂さんの演奏見て行かないんですか?」
「ちょっ!!?佐天さん!?」
いつの間にか料理を盛って帰ってきていた佐天が降魔にそんなことを言う
それを聞いて降魔は、帰るために杖を使って立ち上がろうとしたのをやめ、意地の悪そうな笑みで御坂を見る
「へぇ、そりゃ面白そーな情報だな」
「ちょっ、アンタ帰るんじゃなかったの!?」
「あ?気分が変わった」
杖を置き、改めて椅子に座り直す
御坂は緊張からかトイレへ駆け込んでいった
降魔は佐天と初春の2人と共に庭のステージで行われているオークションを見にきていた
「って、えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
佐天はいきなりステージを見て大声をあげる
ステージの上には司会のの女子生徒と景品を取りにきた眼鏡の女子生徒しかいな
おそらくどちらかが彼女の知り合いなのだろう
「固法せーんぱい」
景品を抱え、嬉しそうな顔をしている女子高生に佐天は声をかける
「先輩も意外とミーハーなんですね」
「え、あっ!!ふ、ふふ普段はこういうものには興味ないのよ!!これはチャリティーなの!!この収益は全額置き去りの子供達に寄付されるのよ!!風紀委員として参加したのよ!!」
早口で言い訳を並べる眼鏡の女子高生
「ところで、後ろの方は?」
降魔に気が付き、初春たちに尋ねる
「えーっと、白井さんが風紀委員に勧誘していた降魔向陽さんです」
かなり特殊な紹介をされたが別にいいだろう
一応軽く会釈をする
「あなたが例の」
「あ?」
「白井さんが迷惑かけて申し訳ありませんでした」
そう言って深々と頭を下げる
「別にいい」
そんな話をしているとステージの方から満足な顔をした白井が歩いてきた
「おや、降魔さんいらっしゃったんですのね」
「・・テメェが招待状送ったんだろーが」
そこへ
「皆さん、ご機嫌よう」
巫女服みたいなメイド服を着ている少女が現れた
「
「あら察しの悪いお頭ですわね。今の私はメイドの何たるかを指南するためにあえてこの衣装で参上したのですわ」
婚后はそのまま持っている扇子を広げ自慢話を始めた
降魔はその様子を呆れながら見ていると、
「あ、あの」
「あ?」
見覚えのない少女たちが2人立っていた
1人は短めに茶色の髪の毛の少女
もう1人は黒髪の長い髪の少女
「えと、あの時は助けて頂いたのにお礼をすることもできずに申し訳ありませんでした」
「あなたのお陰で助かりました」
と2人は頭を下げてくる
しかし、降魔の記憶に2人はいない
すると白井が
「降魔さん、私と初めて会ったときのことを覚えていますでしょうか?」
「あぁ、テメェが強引に連行したときだろ?」
「うぐっ、そのときの不良に襲われていたのがこの2人ですの」
「・・あの時の奴らか」
降魔はあの時のことを思い出し、改めて2人の少女を見る
「別にお前らを助けたつもりはねぇよ。お礼がしてーんならそこの壁にでもしてろ」
それは本当だ
彼女らを助ける気など1ミリもなかった
偶然が重なり、降魔が不良たちを薙ぎ払っただけだ
「いえ、そう言うわけにはいきません」
「そうです」
ズイっと一歩踏み出し、降魔へ迫る
降魔は思わず一歩後ずさってしまう、するとまた一歩彼女らは踏み出す
「わかったからついてくんな、鬱陶しい」
面倒くさ過ぎて、頭を抱えそうになる
「あの時は助けていただき、ありがとうございました」
「本当に感謝しています」
「・・そうか」
これで終わりかと思ったが、少女たちは何やらモジモジし始めた
「あ、あの!!あなたのお名前を教えていただけませんか?」
「あ?」
降魔はだるそうな目をし、少女たちを見て
「降魔向陽だ」
そう一言呟いた
すると、2人は嬉しそうな笑みを浮かべ
「私は
「私は
嬉しそうに自己紹介をした
変わった
以前は周りにこんな人がいるなど考えられなかった
しかし、人との繋がりがまた繋がりを生む
いいのだろうか
こんな俺が人に囲まれていて
許されるのだろうか
こんな俺がのうのうと生きていて
降魔は青空を見上げながらそんなことを考えてしまう
それと同時に噛み煙草も終わった