駆ける
あの子を殺した目の前の少年を許すな
御坂美琴は地面を思いっきり踏み、磁力を操る
ザザザザッと辺り一面の砂鉄が舞い上がる
それは生き物のようにうねり、白い少年を目指す
「おおっ、何だ新技かァ?」
目の前に舞い上がる砂鉄の壁を見てもその余裕は崩れない
ドォっと砂鉄の塊が白い少年を飲み込む
能力を最大限に使う
まるで竜巻のように砂鉄を回転させる
砂鉄が刃物のように中の人間を傷つけ、一瞬にして挽肉にできるレベルの攻撃
「ふーン、磁力で砂鉄を操ってンのか。おもしれー使い方だ」
砂鉄のミキサーの中から聞こえたてきたのは呑気な声
少年が一歩踏み出した瞬間
操っていた砂鉄が霧散する
「タネが割れたらどーってことねェがな」
少年には傷はない
それどころか砂鉄すら付着していない
(そんなっ、アレを食らって傷ひとつ負ってない!?)
殺す気で能力を使った
しかしそれでも届かなかった
そこで御坂は見てしまった
それは人間の足だった
太腿から引き千切られ、無残にも地面へと捨てられていた
自分の履いている靴と同じ
自分の履いている靴下と同じ
アレは、誰の足だ?
「ああああああああッッッ!!!!!!!!!」
悲鳴のような声と共に能力を使う
震える体を沈めるように肩を抱き、電撃を撒き散らす
御坂美琴の近くにある線路の鉄柱の部分が数十個と起き上がる
白い少年はそれを見てあることに気がつく
「・・・?このパワー、オマエ」
そんな少年に襲いかかるのは数十、数百ほどの鉄の柱
周りの地面に突き刺さりながら、白い少年に肌に突き刺そうとする
通常の人間がこんな攻撃を受けたら一瞬で挽肉コースだろう
しかし鉄の柱が少年の体に触れた瞬間、逆再生をするように御坂美琴へと跳ね返る
「ぐっ・・・・!?」
間一髪で鉄の柱を避け、少年を見る
少年の体に傷はない
そんな少年が口を開く
「そうかそうか、予定と違うから何事かと思ったら」
御坂美琴は目の前にいる男から目を離せなかった
目を離したら一瞬でアイツは自分の命を刈り取るという確信があった
「オマエ、オリジナルかァ」
口を歪めながら笑った
その笑みに御坂はゾクっと何か嫌なものを感じとる
「クローン共との作業にももう飽き飽きしてたんだよ、テメェと戦ればこのダリィ作業も短縮できるンだろ?」
白い少年は一歩踏み出す
御坂美琴はコインを取り出し、構える
「・・何で、こんな実験に加担したの・・?」
「あァ?何だいきなり」
「答えて!!それだけの力があって無理やりやらされてるわけじゃないんでしょ!!」
実際に彼と同様に実験の被験者であった降魔向陽は実験を拒否している
「こんなイカレた実験に協力する理由は何!?」
「理由?理由ねェ、そりゃあ」
少年は片手を空に掲げ、拳を握る
まるで世界を掴むように
「絶対的なチカラを手にするため」
そう言い放った
御坂美琴は頭が真っ白になった
何を言っているんだこの男は
「俺に挑もうと思うことすら許さねェ程の絶対的なチカラが欲しーンだよ」
頭が正しく目の前の男の言葉を読み込んでくれなかった
「カカッ、絶対的なチカラが手に入ったらあの男をぶち殺すのもいいかもな」
「ゼッタイテキなチカラ?ムテキ?そんな・・・」
そこで御坂美琴は自身の体が震えていることに気がついた
それは恐怖で震えているわけではなかった
怒りだ
我慢を超えた怒りが全身から吹き出す
「アンタはッ!!!そんなモノのために、あの子を殺したのかーーッッ!!!!!!!」
無防備に立っている少年へ向けて超電磁砲を撃つ
放たれた超電磁砲は白い少年の眉間を捉える
高密度の電撃が巻き戻るように御坂美琴の胸を貫こうとする
避けることのできる速度じゃない
目を瞑るという行為すらできなかった
そんな御坂の襟がグイッと引っ張られる
そのおかげで白い少年の反射した超電磁砲は御坂の横を通り過ぎる
「あァ?」
白い少年もコチラに気がつく
御坂美琴の横に立っていた人物は煙草をくわえた少年だった
「よお、人形遊びは楽しいかよ白モヤシ」
「あン?杖なンかついちまって、もうボケちまったのかァ?コピー野郎が」
降魔向陽と少年は真正面から睨み合う
既に降魔の手は電極に伸びている
「ア、ンタは・・・」
御坂は震えながら声を出す
それは決して自分の能力が通用しなかったからではない
「テメェを殺ればこのダリィ実験も大分短縮できるだろォな」
「あ?図に乗ってんじゃねーぞ三下が」
降魔が電極を切り替えようとした瞬間
「お待ち下さい」
聞き覚えのある声が聞こえた
「計画外の戦闘は予測演算に誤差が生じる恐れがあります、とミサカは警告します」
降魔と御坂の真後ろから聞こえたのは妹達だった
バッとミサカが振り返るとそこには数十人の妹達が立っていた
「特に超能力者同士の戦闘による」
「歪みは非常に大きく」
「期間の短縮はおろか」
「計画が破綻する恐れがあります」
「また、ミサカには今後行われる実験に合わせた」
「チューニングが」
「施されており」
「計画を途中で変更することは極めて困難である、とミサカは説明します」
それを聞いた白い少年は舌打ちをし
「分かった分かった、わかりましたよ。リレーで喋ンな気持ち悪ィから」
そう言って立ちすくむ御坂美琴を見てニヤッとする
そのまま御坂達の方へ歩き始め
「そーいやァ、自己紹介がまだだったな。オマエのクローンにゃ世話ンなってンぜ」
少年は御坂美琴に近づく
最強に飽き足らずさらにその上を目指す超能力者
あらゆるベクトルを操る
学園都市同率第1位
「
御坂を通り過ぎ、一方通行は降魔を見る
「そのうち殺すから待ってろ」
そう言って一方通行はどこかへ歩いて行ってしまった
それで緊張が切れたのか御坂美琴の膝が折れ、ペタンと地面に座り込む
降魔は少し離れた位置で項垂れる御坂美琴を眺め、煙草に火をつける
◇◇◇
「少しいいかな?」
1年ほど前の話だ
降魔向陽が喫煙所で煙草を吸っている時にスーツを着た男に話しかけられた
「あ?誰だお前」
「君に話があってね」
降魔は煙草を吸いながら男の話を聞く
「絶対能力者進化?」
「ああ、ここでは詳しいことを話せないが、『樹形図の設計者』のお墨付きの実験だ」
「失せろ、面倒ごとは嫌いだ」
そう言って降魔は喫煙所から出て行こうとする
そんな降魔の行動も彼らの予想の範囲内だったようだ
「君が絶対能力者になれば置き去りを使った実験は全てなくなる」
「あ?」
そう言い放った
降魔は再び喫煙所へ戻り、新しい煙草へ火をつける
「チッ!!それで、俺はどーすりゃいい」
「ついてきたまえ」
そう言って歩き出す男の後をついて行く
辿り着いた研究所には数え切れないクローンが培養器に入っていた
「はっ、国際法で禁止されてるクローンを使って実験するなんて、お前ら頭のネジぶっ飛んでんだろ」
「もとは別の実験に使うはずだったんだが、色々あってこっちに流用させることになった」
「そーかよ」
「それでは早速やろうか」
降魔は地下の戦闘スペースに案内された
「お前が実験の相手でいいんだよな」
その空間の真ん中で立っている少女に話しかける
「はい、よろしくお願いします、とミサカ返答します」
そう返す少女の手には拳銃が握られていた
「あ?」
「ところで貴方への発砲許可が下りているのですが、本当にいいのでしょうか?」
「・・・」
銃を構え、降魔の額に照準を合わせる
『では実験を開始してくれ』
上の階で実験を見ている研究者が指示を出す
「先手必勝です、とミサカは攻撃を開始します」
そう言って手に持っていた銃を連射した
無防備に立つ降魔に数十発の銃弾が襲いかかる
しかし、銃弾は降魔の全身を包む繭のようなものに全て弾かれる
「・・?弾丸がそらされているのでしょうか?とミサカは一旦距離を取って分析を・・ぶっ!!?」
降魔を包んでいたものが広がる
それは純白の翼だった
その羽が放たれ、少女の服に引っかかりながら後ろの壁に激突する
少女は倒れたまま動かない
「はい、終了」
そう言って降魔は出口へ向かおうとする
降魔が煙草に火をつけている最中に
『第1次実験はまだ終わっていない、後ろの実験体を処理するまではね』
醜い顔で研究者はそう言った
「あ?処理だと?」
『あぁ、だが遠慮はいらないよ。相手はただの人形だ。存分に遊んで壊してくれたまえ』
降魔は向こうで倒れている少女を見る。思い出されるのは幼い頃の出来事
煙を吐き、考える
何故かはわからないがあの少女を見ていると自身の姉のような少女を思い出す
フゥ、と降魔は一息つき
轟!!!と純白の翼が広がる
もちろん研究者達は実験の概要通りに降魔が妹達へトドメを刺すのかと思った
しかし、純白の羽は上の階でモニタリングしている研究者達を正確に貫いた
「がふぁ、な、何が」
血の匂いが部屋を支配する
一瞬で部屋が血塗れになっていた
唯一意識のある研究者は恐怖と痛みで動かない体を引きずって出口へ向かう
「遊んでいいんだよな、
「ひっ、ぎゃあああ!!!??」
いつの間にか出口に立っていた降魔が研究者を見下ろし、手の指をへし折る
醜い豚どもを生気のない目で醜い姿を観察する
そして
「さっさと絶望しろコラ」
そう言って研究者の顔を思い切り切り飛ばし、吹き飛ばす
そのまま下に降り、地面に倒れている少女を抱える
「これで実験は終いだ」
そう言って出口へと向かっていってしまった
◇◇◇
「・・・う」
御坂美琴は目が覚めた
いつの間にか広場のベンチに座り、寝てしまっていたようだ
太陽が登りかけ、あたりは明るくなり始めている
力が抜けた状態で周りを見回す
少し離れたところに見知った少年が別のベンチに腰掛け、煙草を吸っていた
(そっか・・・。あのまま朝まで)
ボーッとただただ下を見る
すると
「起きたか」
彼女の目線の先には杖があった
「アンタ・・・・」
降魔向陽が立っていた
言いたいことは沢山あるが言葉にするほどの気力はない
しかし、これだけは言いたい
「何でアンタは、何もしないのよ」
「・・・・」
「アンタはあの子を1人助けたんでしょ!!じゃあ何で他の子たちも助けないのよ!?」
「あ?何で俺がそんな面倒なことしなきゃいけねぇんだよ」
「めんどう、なこと?」
御坂はキッとこちらを睨み
ガンっと降魔の胸ぐらを掴む
「どーいうつもり!?アンタは!!!!」
「勘違いすんなよ。俺が助けたのはあの妹達だ」
降魔は胸ぐらを掴まれながら御坂を見る
「妹達だろうがクローンだろうが、個性がないわけじゃない。俺はアイツを助けたいと思った。ただそれだけだ」
「じゃあ、他の子も助けてよ・・・」
消えそうな声で御坂はそういう
しかし、降魔は胸ぐらを掴む御坂の手を払い
「あ?そんなヒーローみてぇなこと俺がするわけないだろ」
そう言って降魔は杖をついて立ち去ってしまった
御坂美琴はその背中を力なく見ることしかできなかった