とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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最弱

実験の行われている座標へと降魔たちは降り立つ

そこに一方通行と上条の姿はなかった

恐らく戦闘をしているうちに何処かへ移動していったのだろう

 

すると、どこからか誰かの叫び声のようなものが聞こえてきた

御坂は声のする方へ駆け出す。しかし、後ろにいるはずの降魔がついてくる気配がなかった

後ろを振り返ると、御坂について行こうとしていた降魔の様子が明らかにおかしかった

脇腹を押さえ、食いしばっている口から血が溢れている

 

 

「ちょっ!?アンタやっぱ無茶してたんじゃない!」

 

 

血が滴るなんてレベルではなかった

そん状態でよく内臓が出ないと不思議に思うレベルであった

傷口である脇腹や口から血を溢れさし、そんな状態でも必死で前へ進もうとしていた

一歩踏み出すたびに血が吹き出す

 

コチラへ駆け寄ろうとする御坂を睨み、手で制す

 

 

「…ご、ふ。俺に、かまうな。さっさと行け」

 

「で、でも……」

 

「自分が今何をすべきか考えろ」

 

 

真っ直ぐと御坂を見て降魔はそう言い放った

 

 

「…ちゃんとついてきなさいよ!!」

 

 

御坂はそう言って音のする方へ走っていった

その後ろ姿を見ながら、降魔はとびそうになる意識を強引に繋ぎ止める

これほど失血している状態ではミクロレベルの水分操作を行う心理掌握は使えない

 

だが、痛みに耐えて一歩踏み出す

一歩ずつ確実に目的の場所へ向かう

 

 

◇◇◇

 

 

白い少年、一方通行は気がついたら空を眺め、月を見ていた

 

 

(つ、き?何で月なンか見てンだ?)

 

 

そこで自分が置かれている状況に気がついた

自分が仰向けになり、空を見ていたからである

 

しかし、それはおかしい

先ほどまで生意気な無能力者を相手にしていたはずだ

それも殺す一歩手前まで追い詰めていたはずだ

ならば何故自分は仰向けになり、月を見ているのだろう

 

何故か軋む体を動かし、横を見る

そこには五体満足で立っている無能力者がいた

そこで一方通行は自身の顔に慣れない感覚があることに気がついた

 

 

(な、ンだ?痛ェ、痛み?)

 

 

ゆっくりとした動きで顔を触る

そこにはベットリとした鉄臭い赤い液体が付着していた

 

 

「なっ、なンだこりゃあああァァァ!!???」

 

 

自身の鼻から血が出てきた

 

 

「あ…え…?」

 

 

思考が定まらない

様々な疑問が一方通行の頭を巡る

 

 

(ぶっ飛ばされたのか?俺が?)

 

 

ありえない

それならば無能力者の腕がへし折れているはずだ

自分と同じ序列のあの忌々しい野郎くらいしか自分に触れれないはずだ

 

気づくとあの無能力者の少年は一方通行の目の前まで歩いてきていた

 

目の前にいるのは超能力者ではない

ましてや彼を追い詰めた第1位でもない

 

ならば考えられるのは

 

 

(両手に集中しすぎて全身の『反射』を切っちまったって事か?間抜けすぎンぞ、クソがっ!)

 

 

そうだ

そうでもなければ学園都市第1位の自分に生身の拳が届くはずなんてない

 

 

「最っ高にイイねェ!!愉快に素敵にキマッちまったぞ!!!オマエはァ!!!!」

 

 

同じミスはしない

普段よりも少し丁寧に演算を行う

 

そして右手を少年へ伸ばす

次はない。これで全てが終わる

 

 

 

しかし、目の前の少年はいとも簡単に一方通行の右手を払い除ける

当たり前のようで不可解な現象を前にして一方通行の思考が確実に停止する

その隙を少年は、上条当麻は見逃さない

 

拳を振り上げ、一方通行の顔面を捉え、そのまま地面へ押し倒す

 

 

その光景を見て、驚いたのは御坂もだった

降魔と分かれ、駆けつけた時には既に上条の拳が一方通行を捉えていた

 

 

(うそっ!?押してる!?あの一方通行を!?)

 

 

そんな場面を見るのは2回目だった

1回目の時は降魔が一方通行と戦った時だった

それは学園都市の頂点の戦いだった。だから何が起きてもこんなに驚かなかった

 

しかし、今あの一方通行を相手にしているのは超能力者ではなく、学園都市最弱の少年だ

 

 

(何の関係もない赤の他人なのに、逃げ出しても誰も責めないのに、本当にあの約束を…)

 

 

御坂は自身の鼓動が早まるのを自覚した

それがどういう感情かを考える余裕はなかった

 

 

 

「がァああアアアア!!!!」

 

 

一方通行が吠え、上条へ襲いかかる

しかし、一方通行の攻撃は当たるどころか擦りもしない

毒蛇のような一方通行の手を掻い潜るように、さらに拳が打ち込まれる

 

 

「クソがっ!!何なンだよ、ウネウネ逃げンじゃねェ!!!」

 

 

何度目だ

あの男の時から数えて何回目だ

痛みとは無縁の生活を送っていたはずだ

能力の裏をかかれ、能力を無効化されて

 

 

「ごぶァ!!?」

 

 

一際深く一方通行に拳がめり込む

だが、一方通行は意識を手放さない

 

 

「チョーシ乗ってンじゃねェぞ!!!三下ァァァ!!!!」

 

 

一方通行の足がタン、と地面に触れる

その瞬間、地面の砂利が上条へ向けて恐ろしい速さで放たれる

それはまるでショットガンのようだった

 

しかし当たらない

地を這うように身を屈め、難なく避ける

 

そのままバネのように拳を上に放つ

ボクシングのアッパーのようにその拳は正確に一方通行の顎を跳ね上げる

鈍い音とともに一方通行の口から血が吹き出る

 

 

「くだらねぇモンに手ぇだしやがって、『妹達』だって精一杯生きてんだぞ!!」

 

 

上条の言葉が一方通行の中でこだまする

 

 

(生きてる?何言ってンだ?)

 

『ただの人形なのだから』

 

(ただの人形だろ?そう言ってたじゃねェか)

 

 

『そこのガキもテメェも人間ってこった。生きるのに必死で、自分の命を脅かす者を排除しようとする。そこに何の違いがあるってんだ?』

 

 

薄れていく意識の中で聞こえたのあの忌々しい男の言葉だった

その言葉で断ち切れそうになった意識を強引に縫いとめる

 

 

(力がいる。コイツもアイツも黙らせる力が)

 

 

一方通行の頬を風がなぞった

それに気がつき、一方通行は自然と笑いが出た

 

 

「く、か。くかきき」

 

 

理も世界も全てを支配する最強の力を

 

いや、絶対的な力を振るう

 

 

「くかきけくかかきくけかかきけこかこけきくかこけけくきかこかかーーーーっ!!!!!」

 

 

一方通行は届かない月をつかむように手を伸ばした

轟!!!と風が轟音を轟かせる

少年の体がいとも簡単に浮き上がり、破壊の渦へと巻き込まれる

一方通行は笑いながら殺せと叫んだ

 

上条の体は数十秒もの間空中を彷徨い、プロペラにぶつかってそのまま地面に叩きつけられる

風速12メートルで何かに激突するのは、自動車にノーブレーキで撥ね飛ばされるのと大差ない

 

地面に寝転び、地を流し続ける上条はぴくりとも動かなかった

 

 

「……、ふン」

 

 

一方通行はそれを冷めた目で見る

今のはせいぜいこの辺りの風を操った程度だろう

世界を思うがままにできる力が溢れてくる

 

そこで改めて確信する

この一方通行を止めれるものなど、この世界のどこに存在しない

例えあの男だろうが殺せる自信があった

異能を打ち消す右手だろうが、他者のAIM拡散力場を操ろうが関係ない

全てを壊し、殺す

 

 

「圧縮、空気を圧縮ねェ」

 

 

一方通行は新しいおもちゃを得た子供のように笑う

 

 

「なンなだよ、そのザマは!!立てよ最弱!オマエにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割に合わねンだっつの!!!」

 

 

上条は答えるどころか指先を動かすこともできない

風を纏い、世界を支配する力を持つ強者が高らかに吠える

 

 

「止まりなさい、一方通行!!!!」

 

 

そんな絶対的な存在に歯向かうものがいた

少女は握りしめた手の親指にコインを乗せ、全身から紫電を溢れさせていた

上条当麻のピンチに御坂美琴は立ち上がり、一方通行へ必殺技を放とうとしていた

 

だが、一方通行は見向きもしなかった

例え超電磁砲が放たれてもダメージを負うのは自分ではなく御坂だということを完璧に理解していたからだ

 

そんな御坂の目に信じられないものが飛び込んできた

それは眩い白光だった

 

高電離気体(プラズマ)

 

あまりの圧縮率で凝縮された街の空気は、摂氏1万度を超える高熱の塊になっていた

御坂の背筋に何かヒヤリとしたものが走った

あれは人如きに防げるものではない、と本能が悟ってしまった

 

絶望する御坂の鼻に何か焦げ臭い匂いを感じ取った

最初は一方通行の生み出した高電離気体の影響かと思った

 

しかし、それは嗅ぎ慣れた匂いだった

 

バッと後ろを直感的に振り返ると、そこには少年がいた

一方通行によって重傷を負わされた妹達の1人のそばで、煙草をくわえている少年がいた

未だに傷口からは血が出て、口元を赤く汚している少年がいた

 

 

「…散れよ。ここの幻想は俺のモンだ。テメェにやるモンなんざ1つもねぇよ」

 

 

そう呟いて、背中から純白の翼を生やした

そしてその翼を羽ばたかせ、一方通行に対抗するように風を起こす

 

しかし、その風は一方通行の操る風に呑み込まれ、一瞬で消えていった

 

 

直後に変化は起こった

一方通行が作り上げた高電離気体がグニャリ、と歪な形へ変貌した

 

 

(何だァ?コイツは一体どうなってやがる!?)

 

 

まるで手から水がこぼれていくような感覚だった

何度掬い上げようとしてもこぼれてしまう

先ほどまであった絶対的な力の感覚は無くなっていた

 

焦る一方通行の鼻腔にいい加減嗅ぎ慣れた匂いが舞い込んできた

 

一方通行は反射的に首を振るい、原因の男を見つけだした

 

 

「テ、メェは、」

 

 

降魔向陽

一方通行と肩を並べる超能力者がこの空間に異物を混ぜたのだ

完璧な計算式を降魔の異物によって掻き乱され、高電離気体は形を保てなくなり、霧散してしまう

 

一方通行は降魔の姿を確認した瞬間に駆け出していた

死に損ないのゴミの処理なら一瞬で終わらせれる

 

 

「させないわ」

 

 

しかし再び御坂美琴が割って入る

降魔向陽は煙草を吸いながら新鮮な気持ちになっていた

彼にしては珍しい他者に庇われる感覚

しかし、彼女では一方通行を止められない

いざとなれば相打ち覚悟で自分が一方通行を殺そうと考えていた

 

 

「理解できねェな。あっちに転がってる三下もオマエらも、何で人形を庇う?」

 

「……」

 

「そいつらはオマエの出来損ないの乱造品だろうが」

 

「……」

 

「自分より先に絶対能力者が生まれるのが許せねェのか?それともこンな実験の発端を作っちまったことの罪滅ぼしかァ!?」

 

 

一方通行の言葉に降魔は一切口を動かさない

口を動かしたのは御坂美琴だ

 

 

「神様の頭脳なんてモンに対する興味も、こんなことで罪を償えると思ってるわけでもない」

 

 

降魔と妹を庇いながら御坂美琴は宣言する

 

 

「妹だから。この子達は私の妹だから。ただそれだけよ」

 

 

ここからだと御坂美琴の表情は見えない

しかし、降魔のそばにいる妹達の顔を見れば彼女がどんな顔をしているかは想像できる

 

そこで彼女らは信じられないものを見た

御坂美琴は口に手を当て、御坂妹は目を見開いた

降魔向陽でさえ、驚いて煙草を落としていた

 

一方通行も遅れて振り返った

 

そこには先ほどまで血だらけで地面に伏していた少年が立ち上がっていた

一方通行の喉が、砂漠のように干上がった

 

体には無数の傷を作り、両の足はガクガクと震え、両の手は柳の枝のようにぶらりと垂れ下がっていた

それでも立ち上がった

 

妹達よりも、超電磁砲よりも、降魔向陽なんかよりも恐ろしく感じた

だから、一方通行は真っ先に上条を排除しようと駆け出した

 

御坂美琴は慌ててコインを取り出していたが、間に合わないだろう

降魔向陽は電極に手を伸ばそうともしなかった。新しい煙草に火をつけ、行く末を見守る

 

 

「面白ェよ、オマエ」

 

 

拳は握らない

ただただ腕を振るう

 

 

「最っ高に、面白ェぞッ!!!!」

 

 

気がつくと上条の目の前にはすでに一方通行の姿があった

右の苦手、左の毒手

共に触れただけで人の体を粉々にできる一方通行の両手が上条を捉える

 

上条はそれをゆっくりとした動きで、まるで攻撃が来る場所が分かってたような動きで避ける

右の苦手が虚しく空を切る

 

刹那、追い討ちをかけるように左の毒手が屈んだ上条を狙う

 

しかし、それは弱々しく突き出された右手に直撃し、一方通行の左手の人差し指が変な方向へ折れ曲がる

痛みを感じた時、目の前の少年、上条当麻と目があった

 

そして

 

 

「歯を食いしばれよ最強(さいじゃく)……」

 

 

二重の必殺を封殺され、心臓を凍らせた一方通行に上条は言う

密着するほどの超至近距離で、獣のように獰猛に笑い

 

 

「……俺の最弱(さいきょう)は、ちっとばっか響くぞ

 

 

瞬間

上条の一撃が、一方通行の顔面へ深く突き刺さった

華奢で白い体が勢いよく、砂利の上を転がった

 

それと同時に緊張の糸が切れたのか、降魔も意識を手放した

 

 

 

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