上条が目を覚ますと、もう病室の夜は明けていた
「あ、起きた?」
そんなことを言っているのは御坂美琴だった
彼女の顔を見ながら辺りを見回した
昨日の夜にも目が覚めていたが、どうやら今回の病室は相部屋らしい。上条の隣にはカーテンが閉められており、その中からは寝息が聞こえる
「ほい、お見舞いのクッキー。デパ地下で何か高そうなの選んできたから、そこそこ美味しんじゃない?」
「む。クッキーならお手製がベストですな」
「…アンタ私にどんなキャラ期待してるのよ」
「いやいや、不器用なキャラが不器用なりに頑張って作ったボロボロのクッキーってのがね……わっかんねぇかな」
上条は至って真剣だった
それが余計御坂を苛立たせていた
「だ・か・ら!!何期待してんのよ!!!アンタはっ!!!!」
「み、御坂さん!?ここ病院!!俺怪我人!!!」
御坂は電撃を撒き散らそうとするが、何とか踏みとどまった
「ったく、うるせぇな。黙れとは言わねぇけど音量を下げろ」
ギャーギャー騒ぐ彼らを止めたのは、上条の隣のベッドにいる人だった
カーテンが開き、そこにはベッドに横になってこちらをジト目で見ていた降魔向陽だった
「アンタもこの部屋だったのね」
「あぁ、コイツは気がついてなかったがな」
そう言って降魔は上条を指差す
指差されていた上条は苦笑いを浮かべている
「ほら、アンタにもお見舞いのクッキーよ」
そう言って御坂は降魔にもクッキーを渡してくる
渡されたクッキーを降魔は少し残念そうな目で見る
「何よ?まさかアンタも手作りのクッキーが良かったとか言う気じゃないでしょうね」
「…いや、煙草よかったなぁっと思ってな」
覚えのあるやり取りに思わず御坂は笑ってしまった
それにつられ上条も笑い始め、降魔も微笑む
「そういえば昨日の夜に御坂妹が来たよ」
上条が御坂にそう言った
御坂妹というのは恐らく昨晩に上条と話していた10032号のことだろう
「実験中止になったんだってな」
「…うん」
上条は御坂に昨日の夜にあったこと話した
御坂妹は自分の体質を治すために他の研究機関の世話になること、そしていつか、また上条の元に戻ってくると約束したこと
「だけど、私のせいで……」
確かに彼らは実験を止めることができた
そして、1万近い命を救うことができた
だけど、それ以外の命は救うことができなかった
御坂が不用意に提供したDNAマップのせいで2万人の妹達が殺されるために生まれてきた
その事実は御坂の背中に一生重くのしかかるだろう
もちろん妹達を殺してきた一方通行にも、実験を知りながらそれを無視し続けていた降魔向陽にも
「けどさ、」
上条が呟くと、御坂は黙って上条の顔を見た
「お前がDNAマップを提供しなきゃ、そもそも妹達は生まれることもできなかったんだ。確かに実験は間違っていたけどさ、妹達が生まれてきたことだけは、きっとお前は誇るべきなんだと思う」
御坂はしばらく黙っていた
上条の言ったことは綺麗事かもしれない
しかし、それが今一番彼女に必要な言葉だった
◇◇◇
御坂美琴が病室を出て行った後、上条が降魔の方を見ながら
「えーっと、降魔、さん?」
「あ?」
「俺と降魔さんはどういう関係でせうか?」
恐る恐るといった感じだろう
上条の目には不安や迷いが見える
そこで降魔は少しだけ悩んだ
元々上条と接触したのは彼の暗部組織が命令してきたからである
しかし、その暗部組織は降魔の手によって壊滅している
それならばこれ以上関わりを増やさないほうがいいのでは、と考えた
学園都市の深い闇と関わっている自分と関わっていると上条の身に危険が及ぶかもしれない
そこまで考え、無難に知り合いとでも答えようと思った瞬間、降魔の携帯が鳴った
一方通行との戦闘の前に壊れたしまったため、予備の携帯だ
「あ?悪ぃな、電話だ」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
杖を掴み、病室の外へ出る
携帯には見覚えのない番号が記されていた
喫煙所に向いながら、携帯のボタンを押す
『聞こえているかい?幻想操作』
聞き覚えのある声だった
学園都市の統括理事長
「…アレイスターか」
『驚かないのか?』
「あ?流石にテメェが全裸で現れたら流石に驚くかもな」
鼻で笑いながら皮肉を言う
喫煙所に着き、煙草に火をつける
煙を吸い込み、吐く
「それで、テメェが何のようだ?」
『君の今後の処遇についてだ』
自分の所属している暗部組織を潰し、学園都市の実験を中止へ追い込んだ
流石に何らかの罰があるとは思っていたが、まさか統括理事長である彼が出てくるとは思わなかった
『君に暗部を抜けられるとこちらも困るのでね。引き続き暗部で活動してもらうよ』
「それは構わねぇが、前みたくアイツらを巻き込んだら潰すからな」
降魔が自身の暗部組織を潰した理由は、彼の同居人に手を出したからである
『わかった。彼女らを巻き込むことはしないと約束しよう』
「用件はそれだけか?」
『君は引き続き幻想殺しの監視をよろしく頼むよ』
「チッ!面倒くせぇなオイ」
『それと君が学園都市同率1位ということを公表することに決定した』
「あ?」
『頑張りたまえ』
それだけ言ってアレイスターからの電話は切れた
最後の最後にとんでもない爆弾を投下してくれたものだ
降魔は2本目の煙草に火をつけながら、携帯をいじる
学園都市のニュースサイトのトップページに降魔の記事が載っていた
『2人目の第1位現る!!8人目の超能力者として発表された降魔向陽……』
そこまで読んで記事を閉じた
また面倒ごとが始まりそうだ
病室に帰ると、上条は何やら携帯をいじっていた
そんな上条に降魔はやる気のない目で
「さっきの質問に答えてなかったな」
「え?あぁ」
「俺とお前の関係は、お前んとこにいるシスターを助けるために一緒に戦うような関係だ」
「インデックスを……?」
「あぁ、記憶を失くしたお前は憶えてねぇだろうがな」
上条は驚いた
誰にも言っていない上条の秘密を目の前の少年は知っていたからだ
「お前は記憶を失くし、俺は脳の機能を失った」
「……」
「似たもの同士だ。協力でもしよーぜ」
そう言って降魔は杖を持っていない方の手を差し出す
上条はその手を少し見て、ガシッと掴む
「あぁ!!よろしく頼むぜ。降魔」
◇◇◇
降魔の怪我は冥土帰しによって完璧に治された
しかし、激しい運動などは厳禁だと言われた
もちろんこれ以上降魔も入院などしたくないため、それは守るつもりだ
家へ帰るためにいつも通り路地裏を歩いていると
「あ?」
目の前にはバットや鉄パイプを持った男達が立っていた
降魔は目の前の奴らを無視し、先へ進もうとするが、男の1人に肩を掴まれた
「オイオイ、こんな弱そうなのが新しい第1位なのか?」
男の言葉を聞いて周りの奴らが笑い声を上げる
そこで降魔は理解した
目の前にいる愚かなスキルアウト達は第1位である自分を倒すことで最強の名を得ようとしているのだ
別に最強の称号になんか興味無い
しかし、面倒ごとを持ち込むなら話は別だ
「…面倒なことしてくれたなアレイスター」
ポツリと呟き、電極に手をかける
「あ!?何言ってんだお前。お勉強のしすぎで頭いかれちまったのか!!」
「そォだな、少なからずテメェらよりは頭イッちまってるかもなァ」
やる気のない目ではない
まるで獲物を見つけた肉食獣のような目つきでスキルアウト達を睨みつける
20秒弱
降魔は電極を切り替え、家へ帰ろうと一歩踏み出す
彼の後ろには5人の男達が倒れていた
あれから家に帰るまで数回ほどスキルアウトの襲撃を受けた
面倒ごとなんてレベルではない
下手すると襲撃してきた奴らを無残に殺してしまうほどイライラが溜まっていた
「おや、帰ってきたんですね」
「あぁ」
『どうしたんですか?』
「別に面倒ごとが増えただけだ」
そう言って降魔はベランダへ行ってしまった
煙草に火をつけようとすると、携帯が震えた
どうやらメールが来たようだ
『ありがとうございます』
件名もなく、ただそれだけが書いてあった
後ろを向くと、真っ直ぐとミサカがこちらを見ていた
どうやらこのメールは彼女が送ったのだろう
メールを保存し、煙草に火をつける
ベランダで煙草を吸っている彼の顔は少しだけ緩んでいるような感じだった
今までしたことがないような表情で空を見る
彼もまた少しずつ変化していく
それが良いことなのか悪いことなのかは誰にもわからなかった