とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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Hello Magic

ローマの朝

優雅な響きとは裏腹に路地裏では生死を賭けた鬼ごっこが繰り広げられていた

息を切らしながら必死に走るのは10歳くらいの金髪の少女

それを追うのは不気味な修道服を纏い、顔を特殊な仮面で覆っている者達

マスクで顔を覆っているため、正確かはわからないが、体のラインからして数は男3人女2人と言ったところだろうか

 

 

少女は逃げるのに必死で足元にある空き缶に気がつかなかった

メコッと空き缶を踏んだ感触が足に伝わった時にはもうすでに体勢は崩れかけていた

そんな体勢から持ち堪える体幹など少女には無く、硬い地面の上を転がってしまう

膝を擦り剥き血が流れる

 

カツン、カツン

 

立ち上がる暇もなかった

後ろから迫ってきていた襲撃者に細い腕を掴まれる

そのまま男達の手によって乱暴に地面に押さえつけられる

 

カツン、カツン、カツン

 

苦しかった

呻き声を出そうとしたが、口に布を当てられて、それすらも許されなかった

だんだんと体内の酸素が失われ、意識が遠のいていく

たった1人の家族である姉の姿が見える

父親と母親が死んで、自分を守ってくれている唯一の家族

 

カツン、カツン、カツン、カツン

 

足音だろうか、その音が聞こえる方向に目線を向ける

路地裏の出口は別の世界のように光で溢れていた

そんな世界から誰かがやって来ていた

逆光と酸素不足ではっきりと見えないが、どうやらこちらへ向かってきているようだった

 

 

「…お、姉ちゃ、た、すけ、て」

 

 

最後の力を振り絞って声を出した

自身の信じる最強にして最高のヒーローに助けを求めた

しかし、聞こえた返事はいつも聞いている優しい姉の声ではなかった

もっと荒々しく、怠そうな声で

 

 

「了解」

 

 

そう言い放った

その瞬間、音と苦しみが消えた

遅れて耳に届いたのは何かを潰すような気持ちの悪い音だった

ゆっくりとした動きで近くに立っている人物を見上げる

そこには姉ではなく、1人の少年が立っていた

 

灰色の髪にやる気のなさそうな目

口元には煙草が咥えられている

 

悪い人ではないというのを直感的に理解した

今まで張り詰めていた緊張が解け、意識が途切れる

 

 

降魔向陽の目の前には意味不明な数人が立っていた

すでに1人は降魔の蹴りによって意識を手放しており、残る数は4人だ

路地裏にいるであろう裏の人間から情報を集めようと思い、路地裏に入った瞬間にいきなりヒットした

それも降魔自身の目標である少女に遭遇した

あとやるべきなのは目の前の馬鹿共を蹴散らすだけだ

 

 

『何者だ!?お前!!』

 

 

突然の襲撃者に男達は警戒しながら敵の正体を探る

イタリア語で叫ばれ、降魔はゆっくりと煙を吸い込み、吐く

 

 

『善良な一般市民だ』

 

 

流暢なイタリア語でそう言って不敵に笑った

 

 

 

 

 

正体不明の襲撃者達を数分で撃破し、降魔は新しい煙草に火をつける

やはり少し遅れてしまう

学園都市内で能力を使うときよりも僅かだが、能力を発動させるのに時間がかかる

他者のAIM拡散力場をコピーする能力である自分

距離的な問題で能力発動に誤差が生じる可能性があるため、修正が必要だ

 

そんなことを考えながら倒れている奴らの所持品を漁る

出てくるのは古びた本やら短剣やらの時代遅れの物ばかりだった

 

 

「魔術ねぇ…」

 

 

何度か関わりを持ってきた『魔術』という異能の力について考える

神話や宗教的な考えを持って自分だけの現実を拡張している。という考え方であっているのだろうか

この辺りは専門家に聞かないと理解できないものだろう

 

そんなことを考えながら所持品を漁っていると、1枚の紙が出てきた

その紙には『殺害許可証』とでかでかと書かれており、降魔は内容を読んでいく

内容は、吸血鬼と思われる異端の化物を殺害するためにローマ正教の暗部組織により命令されているとのことだった

 

降魔は煙草を吸いながら地面に倒れている少女を見る

先ほどまで少女にあった擦り傷が消えている

これが恐らく『肉体再生』によるものだろう

 

 

(…異常なまでの再生能力のせいでローマ正教って奴らに不死身の吸血鬼って思われちまったってことか)

 

 

とりあえずこの場から離れようと思い、降魔は少女を担ぐ

学園都市には世界の様々な地域に学園都市に協力している機関がある

それはローマにだって存在している

その協力機関が用意した隠れ家へ行き、今後の動きを確認しよう

 

 

そう思って降魔は電極を弾き、能力を使おうとする

そこへ凛々しい声が響いた

 

 

『その子を離せ。悪党』

 

 

これまたイタリア語で路地裏に響いた

降魔は声のした方を見る

そこには見慣れない修道服に身を包み、顔を仮面で覆っている奴がいた

先ほどの声から推測して、目の前の奴の性別が女だとわかる

そんなことよりも気になったのは目の前の女の格好

先ほどジルドを追っていた魔術師達と同じような格好だ

 

故に降魔向陽は目の前の女を敵と判断した

電極を弾き、演算が終わり、力が溢れる

足元にかかるベクトルを操作し、目標を捕捉する

地面を、壁を、空気を蹴り、複雑な軌道を描いて、敵へ迫る

 

対する女の魔術師は降魔の驚異的なスピードに一瞬だけ驚いたものの、すぐに迎撃の構えに入った

そして懐から何かを取り出し、降魔へ向かって放り投げた

 

キラキラと光るその正体は石だった

いや、厳密に言えば宝石と呼ばれる美しい外見の鉱石だった

真っ赤な炎のような

真紅の血液のような

人々に情熱や勇気を与える7月の誕生石

赤色の宝石『ルビー』が爆ぜる

 

爆散したルビーの欠片が熱を帯び、炎として生まれ変わる

 

 

「っ」

 

 

降魔の表情が切り替わる

まるで彼を囲むように現れた炎に対し、降魔はただ腕を振るう

超能力と違う法則の力だろうが関係ない

既存の法則を崩し、新たな法則として魔術を組み込む

 

そして、掴む

 

炎を掴み取った降魔は強引に炎を捻り、道を切り開く

降魔の目に映ったのは、驚きで体を動かせなくなった魔術師

演算の遅延を予測し、演算を組み立てる

 

躊躇いも容赦もない

後はこの手で相手に触れるだけでいい

それだけで人の意識程度なら奪える

 

 

「…??」

 

 

腕を振るった降魔の頭の中は疑問で埋め尽くされた

降魔の手は目の前の魔術師の体をすり抜けた

まるで立体映像に向かって攻撃をしたような感覚だ

 

魔術

降魔が未だに完璧に理解していない不可解な法則

反射的に後ろを振り返る

 

目の前には数々の色の宝石が放たれていた

そしてカラフルな宝石たちが爆ぜた

 

 

 

 

 

 

 

正体不明の少年を排除した後、魔術師の女は地面に倒れている少女を見て安堵の息を漏らす

少女、エルド=レエの姉である魔術師ヴルド=レエは仮面を外し、妹を抱き抱える

彼女の所属するローマ正教は十字教三大宗派の1つであり、魔術サイドの中で最大の勢力を誇っている

そんな彼女が魔術師としての任務を遂行している最中に、妹に持たせておいた霊装から緊急の信号が来たため、急いで妹の元にやってきたわけだ

そしたら正体のわからない怪しい少年が妹を担いでいたのである

 

 

(…一体なぜこの子が狙われるんだ)

 

 

彼女自身も妹の特殊な体質に気付いていないわけではない

しかし、だからと言って何者かに狙われる筋合いもない

妹を、唯一の家族を守るために魔術師になったのだ

そのためならば何でもすると決めたはずだ

 

とりあえず家に戻るために路地裏から出ようと一歩踏み出した瞬間、目の前からバタバタと複数の足音が近づいてきた

いつでも魔術を行使できるように構える

 

すると、路地裏にやってきたのは彼女と同じローマ正教の魔術師だった

その姿を見て、ヴルドはホッとする

話しかけるために声を出そうとした瞬間

 

 

「やれ」

 

 

低く恐ろしい声が聞こえた

その声の主が指示を出した瞬間、他の魔術師たちが容赦なく魔術を放つ

呆気にとられた彼女は動けなかった

 

 

(うそ……、何で?)

 

 

訳がわからない

味方であるはずの魔術師からの不意打ち

避けられるタイミングではない

 

妹を自身の体で守るようにギュッと抱き抱える

自分の体はどうなってもいい。せめて妹だけは守る

 

 

「マジで面倒くせぇ事になってやがるな」

 

 

声が聞こえた

その声の主はまるで少女を魔術から守るような位置に立ち、己の敵を睨みつける

そして魔術師たちの攻撃に対し、ただ腕を振るった

魔術師たちの攻撃を遥かに上回る質量の攻撃で打ち消す

 

 

「…お前は、」

 

 

ヴルドは攻撃を防いでくれた少年を見上げる

そこには自分が先ほど倒したはずの少年が傷一つなく立っていた

 

頭の中が疑問で埋め尽くされる

何でこの少年が自分たちを守る?

何で同じローマ正教徒が自分たちを攻撃する?

なぜ妹が狙われる?

 

そんな疑問の答えを想像する暇もなかった

 

 

「失せろ、ゴミ共」

 

 

そう言って灰色の少年は躊躇なく腕をふるい、電撃を撒き散らした

ズバチィ!!!と凄まじい音と共にヴラド達を襲った魔術師達が薙ぎ倒される

 

それを見届けた少年は首筋のチョーカーを弄り、杖をつく

そのまま少年はコチラに振り返って

 

 

「エルド=レエとヴラド=レエだな。ついてこい」

 

 

そう言って路地裏の先へ進んで行こうとしていた

日本語を話していることから日本人だと推測できる

そしてこの少年は自分たちを助けてくれた

しかし、それだけでは信用することはできない

 

 

「お前は誰なんだ。何でエルドを狙う?」

 

 

敵意を込め、少年に質問する

特殊な呼吸法で魔力を精製し、いつでも魔術を放てるようにする

 

 

「…降魔向陽。事情を話すからついてこい」

 

「……、」

 

「面倒ごとは嫌いなんだよ。さっさと来い」

 

 

敵意や悪意は一応なかった

ヴラドはエルドを抱えたまま立ち上がり、大人しく少年の後を追う

 

 

◇◇◇

 

 

「………」

 

「………」

 

 

学園都市の協力機関の隠れ家に着くまでの道では2人は終始無言だった

杖を使って歩く少年の後ろを修道服を着ている少女がついて行く

 

歩き始めた直後はヴラドが降魔に質問していたが、全部の質問に降魔は

 

 

「着いたら話す」

 

 

の一点張りだったため、会話がなくなった

聞きたいことは山ほどある

だが、それは後に回そう

今は妹の安全を考える

 

 

 

しばらく歩くと、何の変哲もない建物に着いた

完全にローマの街並みに溶け込み、違和感を覚えさせない

降魔は鍵を開け、建物の中に入る

ヴラド達も続いて建物中に入る

 

建物の中はシンプルな作りになっていた

 

ヴラドは妹をベッドに寝かし、椅子に座る

その間に降魔は玄関の扉を閉め、パソコンに何やら打ち込んでいた

 

パソコンでの作業が終わると、降魔はソファに腰掛ける

そして煙草を取り出し、火をつける

煙を吸い込み

 

 

「…さぁて、話をしようか」

 

 

煙を吐きながらそう言った

 

      

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