とある科学の幻想操作   作:モンステラ

36 / 87
本物の化物

「さぁて、話をしようか」

 

 

煙草の煙を吐きながら少年は、そう言い放った

ただヴルドは目の前に座る灰色の少年を完全に信用したわけではなかった

だから、

 

 

「まずお前の事を教えろ。話はそこからだ」

 

 

目の前の少年の正体を知り、そこで判断することにした

灰色の少年、降魔向陽は煙草を吸いながら天井を見る

 

 

「…名前は、さっき言ったか。学園都市からお前の妹を保護するために来た善良な一般市民だ」

 

「学園都市……」

 

 

科学に疎い彼女でも存在くらいは知っていた

科学サイドの総本山

魔術とは違った法則の異能の力がある場所

 

目の前の少年はそんな科学の街からやってきたらしい

先ほどの戦闘のことを考えると、ヴルドの前に座る少年にも何らかの能力があるだろう

この少年に宿る異能の力、圧倒的な戦闘スキル

恐らくこの少年は『善良な一般市民』などではないだろう。数多の死線を乗り越えてきた猛者だろう

 

 

「それで?他に聞きてぇ事は?」

 

「私の妹、エルドを狙う理由は何だ」

 

これが最大の謎である

世界最大の魔術宗派である『ローマ正教』にヴラド自身が所属しているとは言え、それだけである

学園都市やローマ正教に狙われる理由など考えられない

 

 

「…原石っつってもわかんねぇよな」

 

「原石?」

 

 

聞き覚えのない言葉にヴルドは降魔に聞き返す

 

 

「俺が使う超能力やお前が使う魔術を人工的な異能だとすると、原石って奴らは天然の異能を持ってる奴らだ」

 

 

学園都市の能力開発や魔術のによる異能を人工のダイヤモンドとするならば、原石とは天然のダイヤモンドと呼べるような存在である

原石は希少価値が高く、世界中にいる原石を学園都市は必死こいて集めているのである

 

 

「…学園都市以外の奴らに捕まればお前の妹は一生モルモットコースだぞ」

 

 

それは決して学園都市だけではなかった

世界中の国家が秘密裏に原石を狙い、超能力という力を得ようと躍起になっているのである

 

 

「だから俺が来た。お前の妹を保護するためにな」

 

 

新しい煙草に火をつけ、やる気のなさそうな目でそう言い放った

だが、ヴルドには気になることがいくつかあった

 

 

「お前がエルドを狙った理由はわかった。だが、私と同じローマ正教に狙われる理由はなんだ」

 

 

ヴルドの質問に降魔は目を細めた

 

 

「…知りてぇか?」

 

「あぁ」

 

 

そんな降魔の目をヴルドは真っ直ぐと見た

すると降魔は懐から1枚の紙を取り出した

その紙はエルドを襲っていた魔術師共が持っていた紙だ

 

 

「さつ…がい、きょかしょう?」

 

「あぁ」

 

 

穴が開くほどに紙を見るヴルドに降魔は淡々と話す

 

 

「さっきも言ったとがお前の妹は原石って呼ばれる天然の異能者だ。推測される能力は肉体再生。レベルはわかんねぇが致命傷でもねぇ限り肉体は再生するんだろうよ」

 

「………」

 

「魔術の世界のことはわかんねぇけど、傷を再生させる化物なんざ神の教えに歯向かう異端者ってことで処分したい連中がいるってことだr」

 

降魔の言葉の途中でヴルドが机を力強く叩いた

その目には涙さえ浮かべている

 

降魔はため息をついて、携帯を確認する

目標の原石は保護したし、帰りの飛行機を手配する

 

 

「…………のか?」

 

「あ?」

 

 

携帯を弄る降魔にヴルドが小さな声で問いかける

 

 

「学園都市に行けばエルドの安全は保障されるのか!?」

 

 

キッと妹と同じ色の瞳で降魔を睨みつける

ここで降魔が彼女の望む答えを出さなければヴルドは1人で妹守るために戦うだろう

魔術サイドと科学サイドに挟まれ、そして散っていくのだろう

 

別に降魔としては面倒ごとには関わりたくない

だが、何も知らないよう子供が世界の悪意によって踏み潰されそうになっているのなら話は別だ

 

 

「8人しかいねぇ超能力者の第1位がお前らの安全を守ってやる」

 

 

降魔はだから、と付け足し

 

 

「学園都市に行くぞ。さっさと準備しろ」

 

 

そう言い放った

 

◇◇◇

 

準備といっても準備らしい準備はなかった

降魔は持ち物などないし、ヴルドとエルドも持ち物はあまりなかった

 

 

「お前はこれからどーすんだ?」

 

「私は、」

 

 

ヴルドは言葉に詰まる

自身の所属していた組織に裏切られ、妹を狙われているのだ

思うことは沢山あるだろう

 

 

「私はローマ正教を抜けて、学園都市で修道女らしい生活をすることにするよ」

 

「そうか」

 

「もちろんお前がピンチの時は手を貸すし、妹がピンチの時は手を貸して欲しい」

 

「…わかった」

 

 

学園都市にはインデックスもいる

ローマ正教だかイギリス清教だか知らないが、魔術側の人間も存在するから大丈夫だろう

最悪の場合は上条を頼ることもできる

 

この姉妹には普通に笑って普通に泣いて普通に生きて普通の生活をして欲しいと思った

自分やアイツらができなかったことを存分にして欲しい

そのためならば降魔は面倒ごとだろうが何だろうが突っ込み、身を挺して彼女らを守ろうと決めた

 

準備もある程度完了し、降魔達を乗せて帰る学園都市の超音速旅客機が待機している空港まで歩いていくことになった

時刻はお昼前、今から帰れば何とか学校に間に合うだろう

そんなことを考え、降魔は隠れ家の玄関を開けた

 

 

「おやおやおや?わざわざ僕のために扉を開けてくれて、わざわざ僕のために獲物を差し出してくれるなんてなんて優しい慈愛に満ち溢れてるね、君は」

 

 

見知らぬ男が立っていた

学園都市の協力機関の隠れ家だ。辺りには監視カメラやセンサーがこの隠れ家を囲っている

その全ての監視カメラやセンサーが反応しなかった

ましてや暗部で活動し、命のやり取りを何度もしている降魔が男が玄関の外に立っていることに気がつかなかった

 

だから、降魔は遠慮も躊躇も容赦もしなかった

左手で電極を切り替え、右手で男を殺そうとした

能力は問題なく発動した

ベクトル操作という悪魔のような能力で全身の血管をズタズタに引き裂かれて絶命するだろう

しかし、

 

 

「あ?」

 

 

目の前の男はいつまで経っても倒れなかった

それどころか降魔の手を掴んでいた

 

この場面だけ見ればローマの街中で握手をしている若者に見えるだろう

しかし、変化は確実に起こった

バコンッ!!と男に掴まれていた降魔の右手が不自然に弾かれた

衝撃は凄まじく、降魔の体が空中で回転した

 

 

「ぐ、かっはぁ!!?」

 

 

地面に背中を打ちつけ、肺の酸素が口から漏れ出す

それと同時に右肩と打ちつけた背中から鈍い痛みが走り出す

 

 

「おいおいおい。異端のクソ猿が僕に触れるなんて考えが浅はかすぎるんじゃあないかな、君は」

 

 

痛みを無視し、演算を切り替える

目の前の男を殺すことからとりあえずこの場から離脱することにする

痛みで自由の効かない右腕を放置し、左手で近くにいるヴラドに触れる

 

演算は問題なく完了し、降魔とヴラド達の姿が消える

 

 

「やれやれやれ。僕と鬼ごっこしたいなら正直に言ってくれればいいのに素直じゃないな、君は」

 

 

◇◇◇

 

降魔達は先ほどの隠れ家から少し離れた場所のビルの一室にいた

とっさに空間移動をし、かの場所に逃げ込んだ

少し焦って能力を使ったが、体の一部が地面や壁に埋まらなかっただけマシだろう

 

 

「………ッッッ!!!!!」

 

 

歯を食いしばって痛みに耐える

自身の左手で右肩を触ると、一回りほど大きくなっている気がした

恐らく肩が外れたのだろう

降魔は近くの壁に自身の方をぶつけて強引に肩をはめる

凄まじい痛みが一瞬だけ襲ったが、今はそんなことを気にしている暇も余裕もない

近くで心配そうな顔をしているヴラドを見る

 

 

「ありゃなんだ?少なくとも科学じゃねぇぞ」

 

「私にもわからないが恐らく、」

 

「……ローマ正教の刺客、か」

 

 

ヒリヒリと痛む右肩をさすりながら煙草を取り出し、火をつける

ここから超音速旅客機のある空港まではそんなに遠くはない

何なら空間移動を数回使うだけで辿り着ける

しかし、あんな正体不明の襲撃者を放っておくことはできない

最悪の場合、飛行機ごと木っ端微塵になりそうだ

 

学園都市に帰るためにはあの襲撃者をここで行動不能にしなくてはならない

 

面倒だがやるしかない

煙草を咥えながら舌打ちをする

電極のバッテリーがある以上、長期戦になれば不利になるのはコチラだ

 

とりあえず行動を起こそうとヴルドに声をかけようとした瞬間

 

 

「おやおやおや。こんな所に小汚い野鼠とクソ猿がいるじゃないですか。何しているんですか、君は」

 

 

聞き覚えのある声と共に衝撃音が響き渡った

降魔が声を上げる暇もなかった

エルドを抱えていたヴルドの体が真横に吹き飛ぶ

ダルマ落としのようにエルドの体が落ちる。それを魔術師の男が掴み取る

 

衝撃的な場面を目撃したのに降魔の頭の中は酷く冷静だった

いや、心と呼べるものは酷く荒れていたが、学園都市が誇る最高の頭脳だけがただ勝利だけを求めて演算を繰り返す

電極を弾き、脳の命令を体で応える

 

轟!!!と降魔の背から純白の翼が生える

正体のわからない攻撃には正体のわからない攻撃で攻める

 

(Model_Case DARKMATTER)

 

純白の羽が不気味に蠢く

その天使のような羽を見た襲撃者は顔に青筋を浮かべる

 

 

「おいおいおい。クソ猿如きが天使の真似事か。そりゃあ許せるわけないよね?ふざけてるのか、君は」

 

 

この世にはない物質を司る少年に対して何の躊躇もなく一歩踏み出した

それだけで降魔の背中にある未元物質が霧散し、消え失せた

 

 

「なっ!!?」

 

 

驚くアクションも取れなかった

アクションを取ろうとしたときにはもう既に次の一手が打たれていた

 

見えたのは右手だった

しかし、その奥にいる男の両手は何も動いていなかった

それでは誰の右腕だ?

 

自身の頭にある疑問に答える前に、それは痛覚としてやってきた

 

 

「が、ぐ…がぁあぁああああああ!!!!!!!???」

 

 

内側から弾けたのだ

降魔の右腕のちょうど二の腕辺りが内側から弾けた

結果、降魔の右腕は宙を舞い、血が滝のように噴出する

これほどの激痛のショックで意識を失わないのは、以前に左腕を灰にされた経験があるからだろうか

 

激痛が頭を支配する中で演算を強引に働かせる

 

 

「調子、のってんじゃ、ねぇぞ。三下がァァ!!!!!!」

 

 

咆える

ドッッボッッッと降魔の体が予備動作なしで音を置き去りにするスピードで男へ迫る

心臓を狙い、残された左手を突き出す

 

だが、その左手は空を切り、男の姿はなかった

 

 

「はいはいはい。大声でなくてもしっかりと僕には聞こえているよ。少しうるさいよ、君は」

 

 

声は真後ろからだった

いつの間に移動したのだろう

動きが一瞬たりとも見えなかった

まるで消えたかのように男の姿は一瞬で移動していた

 

空間移動ではない

そんなものよりも恐ろしく、訳のわからないモノだった

 

後ろを振り返り、男を睨みつける

そんな降魔を見てなお男は余裕の表情を崩さなかった

 

 

「またまたまた。そんな目で見られても名前くらいしか教えられないよ?欲張りなんだから、君は」

 

「テ、メェは……」

 

「はいはいはい。自己紹介させてもらいますね。『神の右席』の1人、下方のテムラ」

 

 

そう言ってテムラと名乗った男は意地の悪そうな笑みを浮かべ、降魔を見た

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。