とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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最強

「が、ごふっ、ごぼぇ」

 

 

気がついたら体に衝撃が走り、吹き飛ばされて、壁に激突していた

ヴルドは口から真っ赤な液体を垂らしながら、状況を把握しようとする

衝撃が来る直前まで学園都市からやってきた能力者である降魔向陽と話をしていたはずだ

気がついたら凄まじい衝撃で壁に叩きつけられていた

 

意味がわからない

 

先ほどまで背中に背負っていた妹もいなくなっている

そのことに気がつき、軋む体に鞭を打つ

ヨロヨロ、とふらつく足取りで先ほどの部屋へ向かう

恐らく妹もあの部屋にいるだろうが、あそこには降魔だっている

 

彼がいるから大丈夫

彼がいるから妹は無事

 

希望を持ち、意識を確立させる

砕けた壁の瓦礫を乗り越え、部屋を見る

 

 

「は??」

 

 

そんな素っ頓狂な声を出したのは誰だろう

正体のわからない魔術師の男だろうか

それともその男に掴まれている自分の妹だろうか

それとも、その男の足元で倒れている少年だろうか

 

それとも、そんな光景を見ていた自分だろうか

 

自身の希望が砕け散った

よく見れば少年の右腕が無残にも地面に転がっていた

声を出そうとしたが、掠れた呼吸が出るだけだった

妹や自分を守ると言ってくれた少年は右腕から血を流しながら地に伏している

ここからだと表情は見えないが、ピクリとも動かないことから意識がないと推測できる

 

 

「あらあらあら。お帰りなさい。これからどうします?と言ってももう何もできないですけどね、君は」

 

 

その声が耳に入ってきた瞬間、自身の妹が掴まれているのを見た瞬間、ふつふつと心の炎が燃え上がった

燃え上がった炎は魔力となり、体を巡る

巡った魔力に形が与えられ、放出する

 

 

「エルドを、離せえええええええええええ!!!!」

 

 

絶叫と共に駆ける

輝く宝石を取り出し、魔力を込める

 

自身の魔術では目の前の男を倒せない

そんなことはわかっているけれど、動かずにはいられなかった

妹をこんな理不尽から守るために魔術師になったのだろう?

唯一の家族を救うために胸にもう1つの名を刻んだのだろう?

 

自身に宿るもうひとつの名を叫ぼうと、息を吸い込む

 

だが、その名は口にできなかった

ゴッ!!と何かが爆発的に吹き出す音が炸裂した

 

音の原因はとある少年の千切れた右手

力を押さえ込むべき体のないただの右腕は、まるでネズミ花火のようにその場で滅茶苦茶に回転した

 

ヴルドは驚き、行動を止めてしまう

そして、地面に倒れている少年と目が合った

その目には諦めの色はなく、ギラギラと己の敵を倒すことだけを考えている目だった

 

(Model_Case BOMBERLANCE)

 

凄まじいダメージのせいでろくに動かない体に強引に命令を送る

高密度の窒素の槍がテムラに襲いかかる

テムラは面倒くさそうな顔を一瞬し、目線をヴルドから降魔へ移す

 

それと同時に演算を切り替える

 

(Model_Case DARKMATTER)

 

隙は作った

例え1秒にも満たない時間だろうが、隙は隙だ

降魔の背中から再び天使のような翼が生える

そんな彼の頭の中に不自然なノイズが入る

それは降魔の知らない感覚だったが、何故だか降魔の心を酷く落ち着かせた

だからそのノイズを排除しようとはせずに能力を使った

 

そして、捉えた

 

白い翼を構成する数百枚の羽が、鋭い釘のようにテムラへ突撃していく

羽がそれぞれ1枚1枚複雑な軌道を描き、テムラの全方位から襲いかかる

 

轟音が炸裂した

ヴルドは余りの衝撃に目を瞑ってしまう

 

 

「オイ!もたもたすんな。さっさと行くぞ!!」

 

 

窓から体を半分乗り出している降魔が叫ぶ

いつの間にか左手にはエルドが抱えられている

先ほどの全方位攻撃の際に、取り返したのだろう

 

ヴルドは降魔の後に続き、窓から飛び降りる

ビルは5階ほどの高さだったが、浮遊感は一切なかった

窓から飛び出した瞬間に景色が変わり、またどこかの建物の中に着地した

彼がまた移動させてくれたのだろう

しかし、降魔がエルドを下ろそうとした時だった

ドシャ、と降魔の体が地面に倒れる

 

 

「お、おい!大丈夫なのか!?」

 

 

ヴルドは慌てて降魔に駆け寄り、降魔の体を壁に寄りかからせる

そこで彼女はギョッとした

彼の体が思ったより軽いのだ。彼の右腕の断面からは未だに出血が止まっていない

あとどれくらい彼の体には血が残っているのだろうか

 

そんな降魔はヴルドの心配に気づかず、自分の頬についている自分のものではない血を舌で舐め取り、笑みを浮かべる

 

 

「…そうか、そういうことか」

 

 

ギリギリだ

絶望を終わらせるような希望がギリギリ見えてきた

降魔は未だに諦めていない

逃走なんて選択肢はとっくに頭の中から吹き飛んでいる

勝利を求めて、求めて、求めて、求め尽くす

 

そんな彼を見てヴルドは唾を飲む

恐ろしいと思った

これが自分と同じくらいの歳の少年なのか

何故そこまでできるのだ

何が彼をそこまで駆り立てるのだ

 

降魔はゆっくりと自分のポケットから煙草を取り出し、咥えた

そして

 

 

「さぁ、反撃開始だ」

 

 

確かにそう言った

 

 

◇◇◇

 

 

男は1人で立っていた

久しぶりの感覚に苛立ち、感動し、絶望し、渇望していた

 

久しぶりの痛みだった

テムラは頬につけられた傷を右手でなぞる

その傷をつけたのは先ほどの少年だ

神の右席という組織でも彼に傷を負わせれるのは1人くらいだろう

 

 

「あーあーあー。やってくれるじゃないですか。この僕に傷をつけるなんて誇っていい事だよ、君は」

 

 

そう独り言を呟き、あの男を追うために窓から飛び出す

ローマの街並みの中に異物はいた

 

まるでここから出てくるのを待っていたかのように、火のついていない煙草を咥えて不遜な態度でコチラを見ていた

 

例の少女の命を絶てばそれで任務は達成だったが、それではダメだ

あの男を殺さないと気分が晴れない

 

灰色の少年が煙草に火をつけ、煙を吸い込んだ瞬間に異変は起きた

自分に宿っているはずの力が急に失われたのだ

足元の空気の時間を固定し、灰色の少年を目指していた

しかし、その固定が解けてしまった

空中で落下を続けるテムラは見た

 

とある少女がコチラへ向かってきている

その手には赤く輝く宝石が握られていた

舌打ちをし、自身の体以外の時間を停止させ、この場から離脱しようとする

 

しかし、時間は一向に止まらない

いつも通り一方通行の流れが存在するだけだった

 

 

「なっ…」

 

 

何かを言う前に少女が宝石を放った

それと同時に向こうで血を吐く少年と目が合った

まるで嘲笑うかのような目でコチラを見てきていた

 

感情を感じる暇もなかった

 

 

 

 

 

降魔は煙草を口にする

それだけならばいつも通りの光景だ

しかし、降魔が口にしている煙草はいつもの煙草ではない

 

能力体結晶と呼ばれる能力者の能力を意図的に暴走させる禁忌とも呼べる薬品が入っている煙草だ

 

学園都市の闇にある薬品が降魔の体の中に侵入する

 

 

(力ってのは超能力だろうが魔術だろうが使えば必ず『波』が存在する)

 

 

超能力ではAIM拡散力場が発生するように魔術でも何らかの波が発生している

しかし現在の降魔の能力ではその波に干渉することは不可能

ならば、降魔の『幻想操作』を底上げすればいいだけだ

 

体晶を使用し、一時的な能力の向上を図る

 

目の血管が切れたのか、視界が真っ赤に染まる

目標の建物からテムラが飛び出した瞬間、今まで感じたことない波を感じ取る

 

笑みを浮かべ、その波を掴み取り、奪い取る

その瞬間に、テムラの余裕の表情が崩れ、焦りが浮き出る

 

 

「やれ!!!!」

 

 

降魔は指示を飛ばす

叫び声と一緒に血が吹き出した

 

テムラの力を封じ、トドメを刺すのはヴルドより降魔の方が成功する可能性が高いだろう

しかし、体晶の黒い影が降魔の体を蝕む

そんな状態の降魔よりヴルドの方が役に立つだろう

だから、降魔が奴の力を封じ、ヴルドが討つ

 

体の中で何かが這いずり回るような痛みと違和感が降魔を襲う

だが、最高の気分だった

右腕を失い、薬物で体を壊してもなお気分だけは最高だった

 

 

(この手でこの世にある全ての波を掴み取れば、世界を滅ぼすことだって可能)

 

 

いつものやる気のない顔ではなく、歪な笑みを浮かべて

空を見上げ、太陽を掴むように拳を握る

 

 

「科学?魔術?そんなモンはもう関係ねぇよ。俺を止められるものなんてこの世界には存在しねぇ」

 

 

ヴラドとテムラの方を見ると、丁度ヴラドが魔術を使い、炎を生み出していた

その波に干渉する

表面張力ギリギリまで水が入ったコップを思い切り揺らすイメージだ

降魔に揺らされ、溢れた力を強引に掴み取る

 

魔術を放ったヴラド本人さえ予想できないほどの大火力が生み出される

地獄の業火となった熱が力を封じられたテムラを焼き焦がす

肉体はおろか、骨の髄まで焼かれ、灰も残らずにテムラという存在はローマの街に消えていった

あっけない終わり方だ

 

これが学園都市第1位である幻想操作

正体のわからない攻撃?魔術?そんなものは関係ない

そんな小細工で第1位を止められる筈がない

神の右席?ローマ正教?イギリス清教?そんなものは関係ない

どんなモノだろうが叩き潰せる

 

 

「世界はこの手の中にある」 

 

 

口から、右腕の断面から血を垂らしながら歪な笑みを浮かべ続ける

そう言って彼の意識が揺れ、倒れる

そのまま屋根を滑り、地面へ叩きつけられた

運がいいと言っていいのだろうか、彼はローマの街中ではなく、降魔は路地裏に落下した

 

もはや痛みを正常に感じることもできない

それほど彼の体はボロボロになっていた

 

 

「あ?」

 

 

血だらけで壁に寄りかかる降魔を見ている誰かに気がついた

最初は駆けつけたヴラドかと思ったが、違った

その人物は、灰色の髪を揺らしてコチラを見ていた

 

どこかで見たことがあるような顔だ

 

それを考えているうちに視界がだんだんと狭まる

ローマの騒音が少しずつ遠くなる

しかし、その声だけはやけにハッキリ聞こえた

憎しみと悲しみと嫌悪と軽蔑と嫉妬と殺意と怨み不満と苦しみと苦悩と諦念と絶望と失望というあらゆる負の感情を詰めん込んだような声色だった

 

 

「…テメェは必ず私が殺す。それが、母さんの弔いだ」

 

 

黒より深い漆黒の闇を宿す瞳で降魔と目が合った

そして

プツン、と意識がなくなった

 

◇◇◇

 

昔というより昔ではなく、今というより今ではない

そんな過去に3人の幸せそうな家族がいた

20歳ほどの女性とその女性に抱えられている赤ん坊と女性のそばで笑顔を振りまく少女

それだけ見ればどこにでもいるような幸せそうな家庭そのものだろう

 

しかし幸せというものが崩れ去るのに時間はそうかからなかった

 

 

時間は数年ほど流れた

女性は涙を流しながら、瓶を傾ける

中身は酒だった

 

それを眺めるのは1人の少女だった

つい先日まで自分についてきていた小さな少年はいない

その少年がいなくなったせいで少女の母は壊れた

 

涙を流し、酒を飲む

酒を飲み、涙を流す

自身の体を壊し続け、傷つけ続ける

 

そんな母を見て、幼い少女は思ってしまった

母が壊れたのは弟のせいだ、と

 

 

 

時間は数年ほど流れた

少女は母に似た優しい顔立ちになっていた

しかし、その瞳に宿るのはどす黒い闇だった

 

母を救うために奇蹟を頼った

魔術を知り、家族を救うために血反吐を吐く努力をした

そうして努力している内は弟への憎しみは消えていた

弟などの手ではなく、自分の手で母を救うのだと思うようになった

 

やがて、憎しみは消え、希望を持つようになった

母を救うという純粋な願いを叶えるためにどんなこともした

 

そして彼女のもとに届いたのは、母の死を伝える手紙だった

燻っていた憎しみが燃え上がる

自らの身を焦がすほどの炎が燃え盛る

 

弟を、降魔向陽というクソを殺すために更なる深淵へと足を進めた

 

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