とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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後悔

新学期も始まり、はや数日がたった

降魔向陽と呼ばれてる超能力者は自身の新しい義手の感覚を確かめていた

数日前の暗部での仕事で彼は魔術側の強敵とぶつかり、右手を失っている

魔術によって体を傷つけられたのはこれで3回目だ

1回目は左腕を灰にされ、2回目は脳を傷つけられた

 

科学だけではなく魔術の世界にも足を踏み入れつつある少年は何の変哲もないカフェにいた

目の前にはお下げのように後ろで2つにまとめた長い赤色の髪に、サラシの上にブレザーを羽織っている女がいた

この女は今回の降魔の仕事の依頼人である

 

降魔の仕事には2つの種類がある。1つは学園都市の統括理事会や統括理事長であるアレイスターなどの命令で動く仕事。2つ目は暗部にいる他の組織や個人から直接降魔へ仕事を依頼してくる場合のものだ

今回は後者のものに当たる

もちろん仕事は選ぶようにしている

 

 

「……それで、テメェの依頼っつーのは?」

 

 

降魔は煙草を吸いながら目の前の赤毛の女に尋ねる

依頼のメールが来たのは数時間前だった

詳細は会って話すと書いてあり、降魔は少し興味が湧いた

暗部の人間の大半が自分の姿を見られるのを警戒しているのだ。しかし目の前の女は自ら降魔に会うと言ってきたのだ

 

 

「そうね。貴方にはある荷物の護衛を頼みたいの」

 

「あ?荷物だと?」

 

「えぇ、ある荷物を学園都市の研究機関から奪取して、それを学園都市外部の組織に渡すの」

 

「荷物を奪ってから外の組織に渡すまでの護衛が俺の仕事でいいのか?」

 

「そうよ。お願いできるかしら」

 

 

降魔は煙草に口をつけ、少し悩む

学園都市同率第1位といえばそれなりの奨学金が入るし、暗部での仕事でもそれなりの報酬が手に入る

しかし、最近になって降魔には養う奴らが増えたのだ

それに加え降魔の義手や電極などの通院費も馬鹿にならない

 

要するに少しばかり金に困っていた

 

 

「…荷物の中身は?」

 

「それは言えないわ。貴方は荷物を指定されたポイントまで確実に届ければいいのよ」

 

「チッ!そーかよ」

 

 

荷物を運ぶだけの仕事

報酬もそれなりに貰える

金欠気味の彼にとっては少々ありがたいものだった

 

 

「つーかよ、それなら俺以外の奴らは邪魔じゃねぇのか?俺なら荷物の奪取も受け渡しも簡単にできるぞ」

 

「私は別にそれでも良いのだけど、アクシデントが起きた場合に困るのは貴方じゃない?」

 

 

そう言って目の前の女は降魔の首筋を指差す

そこにはチョーカー型の電極があり、魔術によって傷つけられた演算能力を補うためのものだ

これには制限時間があり、それを過ぎると降魔は歩くことさえできなくなってしまう

 

 

「…よく知ってるな」

 

「『あの人』の近くにいたから貴方のことも一方通行のことも知ってるわ」

 

「そーかよ」

 

 

降魔は目線を目の前の女から自身の右手で持つ煙草へ移す

ジジジっという音をたてながら煙草が燃えている

 

 

「それで、依頼は受けてくれるのかしら」

 

 

煙草を消し、降魔は目の前の女を見る

学園都市のナニカをコイツらは何とかして外部へ持ち出したいのだろう

その荷物の中身が何であれ、降魔には関係ない

例え学園都市をひっくり返すようなものだったとしても降魔は自分の大切なものが脅かされるまで動かない

これから自身が運ぶ荷物のせいでアイツらの身に何か起きるならば、降魔は躊躇なくその原因を叩き潰す。それをやるだけの自信も能力もある

 

 

「…あぁ、依頼は受ける」

 

「そう、よかっ」

 

「だが、もし仮にテメェの計画が俺の大事なモンに触れそうになれば、俺は躊躇なくテメェを叩き潰して計画をぶっ壊すからな」

 

「…わかったわ」

 

 

降魔は先ほどまでのやる気のないような目ではく、鋭い目つきで目の前の女を睨んだ

そこから細かい打ち合わせをし、降魔はカフェを離れた

 

計画の決行は夕方からだ

降魔は欠伸をしながら1回家へ戻るために家を目指す

 

 

 

 

 

降魔が自身の部屋があるマンションに辿り着くと、マンションの玄関から見知ったやつが出てきた

その人物は学園都市ではあまり見ない修道服を着ていた

 

 

「こんな時間に何しているんだ?学校へ行っていたんじゃないのか?」

 

「…仕事だ」

 

 

目の前の少女はヴルド=レエという降魔の隣の部屋に住んでいる奴だ

その正体は元ローマ正教の魔術師だ

原石の妹を持ち、降魔が学園都市へ連れてきた

 

 

「お前は何してんだ」

 

「私は、これから12学区とやらにある教会へ行くところだ」

 

「そうか。迷子にだけはなるなよ」

 

「なっ!?私だって電車やバスくらい乗れるぞ!!?」

 

 

顔を赤くして必死に否定するヴルドに降魔はフッと笑みを浮かべ、玄関へ向こうとする

そんな降魔の服をヴルドが摘む

 

 

「その仕事とやらは安全なんだよな」

 

「……あぁ、安全だ」

 

 

嘘だ

暗部の仕事に100%安全という仕事は存在しない

常に死が纏わりついている

 

 

「…お前に主の加護があらんことを」

 

 

おそらく目の前の少女は気づいているだろう

腐っても魔術師として少なくない戦場をかけていた者だ

だが、それに気づいてもなお降魔を止めずに修道女らしく送り出してくれた

 

照れ隠しのように降魔は何も言わずに自身の部屋を目指す

 

 

部屋に入り、降魔は自室の金庫の中にある拳銃を取り出す

それとどこにでも売っているような黒いパーカーに着替える

今回の仕事で表の知り合いに見つかる可能性がないわけではない。それに備えた変装が必要なのだ

降魔の能力があれば他人の記憶などどうにでもなるが、極力面倒ごとは回避したい

 

 

(後は顔を隠せる物があれば良いんだが、これでいいか)

 

 

降魔が手にしたのは2人いる同居人のどちらかの持ち物だと思われるお面だった

宇宙人のようなウサギのお面だ。確かアイツらがウサギグレイとか呼んでいた気がする

 

お面を被り、フードを深くかぶる

杖もいつもの杖ではなく、ライフルのような見た目の杖を使う

実際に銃弾を撃ったりはできないが、ぱっと見で杖だと気づくやつはいないだろう

 

 

「さぁて、クソみたいな仕事の時間だ」

 

 

そう呟いて降魔は電極を入れた

 

 

 

◇◇◇

 

 

計画通りに目標の荷物を奪取した降魔たちは地下を通り、逃走していた

本来ならば車を使い、外部の組織との合流地点に向かう筈だったのだが、渋滞がひどく進めなくなった

おそらく何らかの妨害をしている奴がいるのだろう

車を乗り捨て、地下へ逃げ込んだ

 

そのまま地下から出て薄暗い路地裏へと足を進める

降魔はその間も男たちが持っている荷物について考える

荷物はスーツケースの中に入っている

手っ取り早く降魔は男たちの頭の中を覗いたが、彼らは何も知らされていなかったようだ

 

 

とりあえずコイツらの護衛をし、外部の人間と接触したときにソイツらの頭の中を覗くと決めた

そんな考え事をしていると、急に男たちの足が止まった

 

 

「おい邪魔だ!!どけ!!!」

 

 

何やら先頭の方で怒号が聞こえる

それと同時に降魔はお面の下で顔をしかめる

覚えのあるAIM拡散力場だ

 

 

「風紀委員ですの。私がここへやってきた理由の説明は必要で?」

 

 

白井黒子が男たちの目の前に立っていた

厄介な奴が来たものだ。車での逃走が阻止され、徒歩での逃走が余儀なくされた時点で監視カメラには映り放題だろう

それらを辿られ、彼女がやってきたのだろう

 

男たちが白井に奪われたスーツケースを奪い返そうとするが彼ら如きが敵う相手じゃないだろう

ものの数分で男たちのほとんどが気絶させられる

残った奴らもスーツケースを放棄し、逃走してしまう

 

 

「残ったのは貴方だけですが、いかがなさるおつもりで?」

 

 

残ったのは降魔だけだ

降魔は壁に体重を預け、器用に拳銃を懐から取り出す

当てはしない

連続した銃撃音が響き渡る

 

白井は慌てた様子で空中へ空間移動する

それはそうだろう風紀委員とはいっても中学生だ

銃口を向けられれば何らかのアクションを起こすだろう

その隙で降魔は電極を切り替える

 

とりあえずスーツケースを奪い返さないことには何も始まらない

降魔は空中から地面へ空間移動した白井に向かって走り出す

電極のスイッチは切り替えてあるが、それはあくまで降魔の運動性能を支えるためだけに使う 

降魔は白井に何度か能力を見せている。下手に能力を使えばコチラの正体に感づかれる可能性がある

だから降魔は白井に能力を使わない戦闘を挑んだ

 

 

「ふっ」

 

 

呼吸のタイミングを揃え、真正面から白井に迫る

暗部で動く彼の運動能力は並みの軍人をも超える

 

仕事のためとは言え一応は知り合いだ

なるべく戦闘を長引かせずに、意識を奪って逃走しよう

そこまで考え、白井に肉薄する

 

その瞬間、白井の姿が消える

おそらく空間移動で何処かへ移動したのだろう

大抵の奴ならばココで思考に空白が生じ、動けなくなるだろう

しかし、降魔向陽は違う

 

 

(…薄暗い1本道の路地裏。こういう場面で空間移動系の能力者が移動するのは)

 

 

思考に空白など生じずに脳と体を動かし続ける

降魔は屈むように身を伏せる

その瞬間、頭の上を風が切るような音と共に白井の声が聞こえた

 

 

「なっ…!!?」

 

 

降魔の頭上を白井のドロップキックが通り過ぎる

空間移動系の能力者が薄暗い1本道の路地裏で移動するのは相手の背後である

そして風紀委員として並以上の格闘センスを持つ白井であれば、降魔の背後からドロップキックをしてくるのは降魔の予想の範疇を出ない

 

白井は空中で体をひねり、地面に着地する

そしてそのまま空間移動でスーツケースのところまで移動する

白井はスーツケースを取られないようにスーツケースに体重をかける

 

そして目の前にいるお面をつけた男を見る

 

 

「…一体何者ですの?」

 

 

当然だが降魔は声を発さなかった

久しぶりに能力に頼らず体を激しく動かした

関節をポキポキ鳴らし、白井の元にあるスーツケースを見る

 

 

(あ?)

 

 

少しの波を感じ取り、辺りを見回そうと視線をスーツケースから逸らした瞬間、降魔の体とスーツケースが移動する

自分の体もスーツケースも誰も触れていない

触れていない物を移動させれるのは、

 

 

「貴方たちが遅いから心配して来てみれば、これは一体どういうこと?」

 

 

降魔の横には今回の仕事の依頼人である女が立っていた

異様に時間がかかっている降魔たちに痺れを切らしてやって来たのだろう

 

降魔は女の言葉を無視し、近くに落ちている銃型の杖を拾い、電極を切り替える

煙草に火をつけ、器用にお面をつけたまま煙草を吸う

 

 

「がっ……!!?」

 

 

それと同時に白井が唸り声を上げる

よく見れば白井の右肩にコルク抜きが刺さっている

今ごろ白井の頭の中は疑問と激痛でいっぱいだろう

 

 

「流石に気付いたようだけど、私は不出来な貴方とは違ってね、いちいち物体に手で触る必要なんてないんだから」

 

 

女はスーツケースの上に座り、白井を見下すように言葉を紡ぐ

 

 

「さしずめ座標移動(ムーブポイント)と言ったところかしら。どう、素晴らしいでしょう?風紀委員の白井黒子さん」

 

「…どんな目的があるのかは知りませんけど、私が風紀委員と知った上での攻撃なら、手加減する必要はありませんわね!!!!」

 

 

白井が自身の太ももから鉄の杭を取り出す

それを見た女も自信が持っていた軍用の懐中電灯を振るう

たったそれだけで白井の目の前に数名の男が現れる

既に意識はない。先ほど白井が倒した降魔と共にいた男たちだ

 

 

「甘いですわよ!!」

 

 

白井が叫び、降魔と女の背後に移動する

そしてそのままコチラへ飛び込んでくる

女は白井の方を見向きもせずに懐中電灯を振るった

 

ドスッと低く鈍い音が路地裏に響く

白井の体勢が崩れ、地面に膝をついてしまう

彼女の脇腹に白井が持っていた鉄の杭が突き刺さっていた

 

 

「か……はっっ」

 

「残念ね。私事に後輩を巻き込むような人間には見えなかったのだけど、御坂美琴のやつ」

 

 

自身がよく知る名前が出てきて、白井が目の前の女を見上げようとすると、轟音と共に女の体がくの字に折れ曲がった

悲鳴を上げる暇もなく女の体が近くの壁まで吹き飛ぶ

 

 

「がっふぁ!!」

 

 

女が吹き飛んだ原因

それは隣にいたお面をつけた男だった

 

信じられないような目で見る女へ男はゆっくりと歩み寄る

 

 

「…オイ、俺ァ言ったよな。俺の大事なモンに触れンなってよォ」

 

 

激痛の中で白井はなんとか意識を繋ぎ止める

仲間割れだろうか

先ほどまで優位に立っていた女が今は見る影もなくなっている

 

 

「これでテメェと俺の契約は破棄だ」

 

「くっ!!」

 

 

男があと一歩で女に届くところで女の姿が一瞬にして消える

 

 

「チッ!!逃げやがったか。本当に厄介な能力だな」

 

 

そこで白井はゆっくりと男を見上げる

どこかで聞いたことのあるような声にこの煙草の匂い

 

 

「ご、うま…さん?」

 

「ま、気付くよな。とりあえずお前の怪我の処置からだ。話はその後でする」

 

 

降魔はお面を外し、白井の怪我を見るように屈む

右肩にはコルク抜きが左の脇腹には鉄の杭が突き刺さっていた

白井の意識は既に落ちていた

 

本来ならば一刻も早く病院に連れて行かなくてはいけないのだろう

降魔もそう思い彼女を抱えようとする

しかし、その手をガシッと白井が掴む

 

 

「降魔、さん。病院には行けませんの」

 

「あ?」

 

「私は、大丈夫ですの」

 

 

真っ直ぐと降魔の目を見る

今も彼女の体には激痛が走り続けているだろう

それでも諦めないという白井の目を見て、降魔はため息をつく

 

 

「死んでも文句は言うんじゃねぇぞ」

 

 

彼は白井を持ち上げ、近場にある『カースト』の隠れ家へと向かう

再び意識を失った白井を抱えながら歩く降魔は、彼女を見て舌打ちしてしまう

 

早く

自分が早く白井の意識を奪っていれば

もっと早く

自分がもっと早くあの女を止めていれば

 

後悔が溢れ出る

 

 

「チッ!ふざけんなよ」

 

 

それが誰に向けて言った言葉なのかは本人にしかわからないだろう

しかし、少なからずその対象に自分が入っていることは彼の顔を見ればわかるだろう

 

彼は足はやに隠れ家へと足を進める

 

 

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