とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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決着をつける者

 

それは御坂美琴が降魔向陽と会う少し前

 

 

「フッ、私が自分自身を移動させることはないってタカをくくっていたみたいね……」

 

 

急にレストランに現れたのはスーツケースを持った結標だった

ビルの上層にあるレストランの窓から下の交差点を見下ろす

そこには先ほどまで自分と対面していた電気を司る超能力者が走っていた

 

 

「うくっ、ぶ」

 

 

猛烈な吐き気に襲われ、胃液がせり上がってくる

彼女は自分を移動させることはできるにはできる。しかし、精神的消耗が激しく、体調が狂ってしまう

 

 

「その気になればいつだって…できるのよ」

 

 

結標は冷や汗を流しながらブツブツと自分を落ち着かせるための言葉を繰り返す

周りにいた客も結標の異様な様子を見て怪訝な表情を浮かべ始める

 

ドスッと低い音が響いた

 

 

「あ…っ?」

 

 

蹲って自信を落ち着かせていた結標の右肩に見覚えのあるコルク抜きが突き刺さっていた

はじめにやってきたのは疑問だった

あらゆる疑問が結標の脳内を駆け巡る

 

ゆっくりと辺りを見渡すと、少し離れた机の上に優雅に座るツインテールの少女の姿が目に入った

 

 

「そうそう克服できないから、トラウマと言うのではなくて?」

 

 

蹲る結標を見下すように見るのは夕方に出会った少女だ

 

 

「白井…黒子!!!どうやってこの場所を……!!??」

 

 

ただでさえ自身を移動させて精神が擦り切れているのに、それにプラスして白井黒子による反撃だ

脳の処理が追いつかず、言葉が出ない

 

 

「そのコルク抜きはお返ししますわ。ついでにコチラも」

 

 

そう言うと、も一箇所に衝撃が走る

次は脇腹に鉄の杭が突き刺さっていた

 

 

「やって、くれたわね…」

 

 

傷が痛み、跪きながら白井を睨みつける

ジンジンと痛む傷を押さえながら笑みを浮かべるが、その笑みは夕方に路地裏で会ったときのような余裕のある笑みではなくなっていた

 

 

「慌てなくても急所は外してありますの。ま、やられた所にそのままお返ししただけですけど」

 

 

そう言って白井はある物を移動される

結標の目の前に移動されたものは、チューブ状の止血剤だった

 

 

「せいぜい床に這いつくばって傷の手当てをしてくださいな」

 

 

哀れむような目線を彼女に投げかける

そこでようやく周りの一般人は事態の異常さに気がつき、騒ぎながら現場から離れ始める

 

 

「そこまでしてようやくおあいこですのよ」

 

「ふふ、こういう子供みたいなしかしは嫌いじゃないわ」

 

「あら、思ったよりも余裕ですのね。いいんですの?」

 

 

白井はすでに策を講じている

それは先ほど騒ぎながら逃げて行ったレストランの客達

こんな騒ぎが起これば御坂美琴や降魔向陽が必ず嗅ぎつけ、この場へ現れる

時間がかかればかかるほど窮地へ追い込まれるのは結標の方なのだ

 

それを彼女もわかっているから結標はスーツケースを握り直した

恐らくこの場から離脱しようとしているのだろう

 

 

「無理はしない方がよろしいのではなくて?自分を座標移動で飛ばすのは相当負担がかかるのでしょう?」

 

 

それに先ほどの奇襲で傷を負わせた場所は、白井が傷を負っている場所と同じ

 

 

「私と貴方はよく似てますの。この状況下で同系統の能力、加えて同じ怪我を負った者がどこへ逃げるのか私が予測できないとでも?」

 

 

そんなことは出来ない、と言い切れなかった

夕方の路地裏の時とは違い、今度は結標が顔をしかめる

 

 

「さて、私はここで貴方の足止めをしていればいいわけですけど、大人しく捕まるのがお互いのためではありませんか?」

 

「……それはどうかしら?本当に超電磁砲を巻き込むつもりなら初めからここに連れてきたのではなくて?」

 

 

それはそうだ

手っ取り早く事件を解決したいのならば御坂美琴をこの場に連れてきた方が合理的だ

しかし、白井はそれを選ばなかった

 

 

「よほどあのお優しい常盤台のエースに心酔しているのね。貴方がそこまでして守る価値があるのかしら?超電磁砲が思い描く身勝手でおセンチな世界を、」

 

「守りたいですわよ」

 

 

白井は言い放った

目の前の脅威に向かってはっきりと言い切ったのだ

 

 

「お姉様はこんな状況下においても、貴方と私が争わないで済む解決方法を望んでいますのよ」

 

「………」

 

「その気になればコインひとつ全てを粉々に打ち砕けるのに、だからこそそれをしない。貴方のことまで助けようとしている」

 

 

彼女は優しいのだ

苦労や悩みを全て1人で抱え込み、苦しんでいる

思い出されるのは夏休みに入った辺りのこと。笑顔の仮面を貼り付け、苦しんでいた

 

だからこそ白井は宣言する

 

 

「そんなお姉様の思いを!!この白井黒子が踏みにじるとお思いですの!!??」

 

 

闇を跳ね除け、目の前の哀れな人間に宣戦を布告する

 

 

「さぁ、これから貴方を私の手で日常へと帰して差し上げますわ」

 

「ふっ、ならその思いを貴方ごと踏みにじれば、私の勝ちかしらね」

 

 

 

白井と結標は睨み合う

互いに10メートルほどの距離を開けて

窓の外からは、雑多な音が聞こえていた

御坂が乱撃したビルの鉄骨の一部が崩れたのか、鐘を鳴らすような音が鳴り響く

 

 

 

それが、合図となった

 

 

 

 

結標が軍用のライトを振るう

白井はそのライトの動きを見る

 

 

「右…!!」

 

 

自身の予測と能力を信じ、真横へ移動する

白井が移動した直後、元々白井がいた場所へナイフとフォークが移動してくる

 

 

「やはり!!」

 

 

彼女が能力を使うときにあるクセのようなもの

軍用ライトを振るって細かい照準を定めている

自由度があるからこその制約だろうか

 

軍用ライトの動きを注視すれば、ある程度の回避をすることは可能だ

 

白井が距離を詰めようと、駆け出す

 

 

「チッ」

 

 

結標が眉を寄せ、軍用ライトを振り回す

彼女の周りにあったテーブルや椅子が幾つか結標と白井の間に出現する

以前にも食らったものだ

そう何度も同じ手には引っかからない

 

白井は躊躇うことなく空間移動を実行する

数多の障害物を超え、結標に近づく

背中の汗が急に冷えるような嫌な感覚を味わう

 

結標の位置が予測した位置ではなかった

両手で重いスーツケースの取手の部分を持ち、腰の捻りを加えながら白井の顔面へ叩き込もうとしていた

手に握られていた軍用のライトはいつの間にか口に咥えられている

 

眼前に迫るスーツケースに対し、白井は握り込んでいた食器の破片を空間移動で飛ばす

取手が切断され、スーツケースが自身の重さに耐えられずにあらぬ方向へ飛んでいく

 

 

(この距離ならば!!)

 

 

結標との距離は手を伸ばせば届く位置だ

白井はその小さな拳を固く握りしめ、拳を振り上げる

この距離ならば結標の演算より拳の方が早く届く

 

予想外だったのは、結標が口に咥えた軍用のライトを僅かに動かしたことだ

 

一瞬の思考の空白の間に白井の目の前が真っ白に埋め尽くされる

ゾッとする暇すらなかった

白井があらぬ方向へ飛ばしたスーツケースを結標が白井の目の前に呼び戻したのだ

吹っ飛んだ勢いは殺さずに、白井の顔へ吸い込まれる

 

ドフッ!!と激しい音と共に凄まじい衝撃が走った

その衝撃は怪我を負っている白井に耐えられるものではなかった

 

彼女の小さな体が宙へ浮く

倒れる、と思った瞬間に白井は空間移動を実行する

 

白井の体が消え、次に現れたのは結標の背後

倒れる勢いを殺さず、彼女は肘を突き出し、結標の背中に激突する

 

 

「はっ、はぁ!!」

 

 

完全に傷口が開いた

降魔によって簡易的な処置をしてもらっただけの傷口が開き、赤い液体が溢れる

本当に最後の力を振り絞り、動こうとする

 

聞こえたのは、ヒュンという音

見えたのは、目の前にあったテーブルや椅子の山がなくなっていること

 

悲鳴を上げる暇もなかった

 

白井の上空に現れた無数のテーブルや椅子は重力に従い、次々に白井へ降り注いだ

頭だけは守ろうという思考はあった

頭を庇っている間にもテーブルや椅子が振り注ぎ、激痛が広がる

 

 

「白井さん。避けなきゃ死ぬわよ」

 

 

勝ち誇ったような笑みを浮かべる結標が軍用ライトを振り下ろす

避けようにも白井は激痛のせいで演算が働かない

震える白井の目の前に何かが現れる

ギリギリ白井の頭を掠めるような攻撃をすることで、本当に彼女が空間移動出来ないか確かめるつもりなのだろうか

 

 

「ふうん、動けないところを見ると、本当に空間移動は出来ないみたいね」

 

 

結標は勝ちを確信している

だからだろう気がつかなかった

ビルの窓の外から向かってくる灰色の超能力者の存在に

 

ガッシャァァ!!!というガラスの悲鳴が炸裂した

既に能力は解放されている

 

その無防備な体に降魔向陽の蹴りが食い込む

 

 

「おぶっ!!??」

 

 

白井との戦闘で疲弊していた結標の体が冗談抜きにくの字に折れ、吹き飛ぶ

車と人の交通事故を連想させるような光景だった

結標の体は乱雑に積まれていたテーブルの山に激突する

降魔向陽はいちいち生死など確認しなかった

 

 

「…テメェが俺を利用すんのは構わねぇ。だがよ、俺の目に見える範囲にある俺の大切なモンを傷つけるってんなら俺は容赦しねぇぞ」

 

 

その目は普段のやる気のないような目ではなかった

獣のようにギラギラした恐ろしい目で吹き飛ばした結標を睨みつけていた

降魔は自身を落ち着かせるようにフゥ、と息をゆっくりと吐き、能力を発動させる

 

一瞬だった

白井に覆いかぶさっていた無数のテーブルや椅子がパッと姿を消す

 

 

「ご、うま、さん」

 

「…喋るな、傷が完全に開いちまってやがる」

 

 

優しい声だと白井は思った

いつものぶっきらぼうな感じではなく、何か言葉では表せないけれど優しい感じがした

だからこそ、白井は降魔の手を握った

 

このまま何もしなければ降魔は結標を最低でも半殺し程度には痛みつけるだろう

それはダメだと彼女は思う

御坂美琴は白井黒子やここまでやらかした結標淡希すら助けようとしている

白井黒子は御坂美琴の望みを叶えるべく結標淡希を日常へ返そうとしている

 

彼女らの思いはとても素晴らしいものだ

しかし相手は学園都市の闇だ

そんな綺麗事だけで振り切れるような相手ではない

 

だから降り注ぐ汚れは降魔が被る

初めから汚れきっている降魔にとっては気にするものではない

 

 

「ごふっ、やって…くれるじゃない」

 

「あ?」

 

 

テーブルの山から結標が這い出る

そんな彼女を降魔は冷めた目で見る

その目を見た時に結標は呼吸と心臓が、確実に、一瞬止まった

 

昼間に喫茶店で話をしていた時や夕方の路地裏で会った時とは比べものにならない圧だった

 

これが超能力者

これが学園都市第1位

 

勝てない

結標淡希という座標移動能力者では、降魔向陽という幻想操作能力者には絶対勝てない

 

だから縋り付いた

あの人間の近くにいたからこそ知る情報に縋る

 

 

「貴方は7月28日にその絶対的な能力は失っている!!例え能力を発動することはできても、確実に弱体化している!!だから、」

 

「ピーピー喚くな。鬱陶しいんだよ」

 

 

ピシャッと結標を黙らせた

それほどの圧が彼には存在している

結標は目の前の怪物から目を離せない

一瞬でも目を離せば、自分の命はないと己の生存本能が告げている

汗が額を伝い、目に入っても目を逸らすことはできなかった

 

 

「確かにテメェの情報は正しい。俺の能力はこんなモンに頼らなけりゃ使えねぇしな」

 

 

降魔は煙草に火をつけ、ゆっくりと電極を切り替える

そして

 

 

「だがよ、それでも俺の能力は絶対だ。テメェ如きを捻り潰すなんざ面倒ごとにすらなんねぇよカス」

 

 

ダンっ!!と降魔が地面を踏みつける

たったそれだけの行為で彼を中心にビルに亀裂が入る

そしてビルから軋んだ音が聞こえ始める

 

そして崩壊する

耐えることのできなくなったビルのコンクリートが形を崩す

 

 

降魔はいつの間にか抱えていた白井と一緒に窓を蹴破り、外へ出て行ってしまった

本当ならばあのクソ女は降魔自身の手で捻り潰したかったが、白井が手を握ったことでその感情を押さえ込んだ

外部の組織も警備員たちの手によって壊滅しているはずだ

 

 

(美琴の情報だとあの白もやしが動いてるらしいしな。アイツは容赦しねぇだろ)

 

 

自分が抱える少女のの前では降魔の暴力的な部分をあまり見せたくない

だから、あの女への罰はあの男へ任せた

もう1人の第1位に面倒ごとを押し付けつつ崩壊する建物から飛び降りる

 

 

「黒子……っっ!!!」

 

 

ビルが崩壊するのと同時くらいに御坂がやってきた

その後ろには何故か上条の姿も見える

 

降魔が抱える少女はその姿を見て安心したような照れたような顔をする

 

 

「…とても暖かいですの」

 

「あ?」

 

 

完璧に無事とは言えないが、ひとまず無事だった白井の前で御坂と上条が何やら呑気に話をしている

その2人に聞こえないような声で、降魔にだけ聞こえるような声で白井は口を開く

 

 

「何故かはわかりませんが、降魔さんに抱えられているととっても暖かいんですの」

 

「…そんな訳ねぇだろ。俺の両腕は機械だ。冷たく硬い鉄の感触しかしねーだろ」

 

「いいえ、とっても暖かいですわ」

 

 

真っ直ぐと見つめる白井へ柔らかい笑みを向ける

白井はその降魔の笑みを見て、自身の顔が熱くなるのを自覚した

思わず何も言えずに黙ってしまう

 

 

 

 

やってきた救急車に白井を乗せ、降魔は上条に近づく

 

 

「アイツの付き添いは超電磁砲に任せとけ。俺たちはあの女の後処理だ」

 

「後処理って、どこにいるかわかるのか?」

 

「あぁ、多分な」

 

 

そう言って降魔は歩き出す

一方通行と結標が激突した場所はここから少し歩いた場所だ

 

自ら撒いた面倒ごとの種を断ち切るために降魔は進んだ

 

 

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