ハッと少女は目を覚ます
まるで長い夢を見ていたようだ
見える天井はいつもの天井ではなく、知らない天井だった
ゆっくりとした動きで起き上がる
「アリサ!!」
「気がついたか」
声のする方を見るとインデックスと上条が心配そうな目でこちらを見ていた
どうやら気を失い、その間に上条の家に運ばれたようだ
「……それで、何か心当たりはないのか?」
とりあえず何故彼女が狙われるのかを調べなくては何もできないと考え、上条はアリサに質問する
「ううん、何も。そもそもあの人たちは何だったの?水や火を操ってたけど……」
アリサは当然の疑問を持つ
魔術を知らない彼女にとっては不思議でしょうがないような現象だっただろう
「ふふん。それはね、魔術…」
「あーっ!!」
魔術の存在を言いそうになったインデックスの口を上条が慌てて押さえる
「まじゅ……?」
「ま、まじ…。そうマジで科学じゃ割り切れない力ってあるよな確かに」
目を泳がしながら上条は苦しい言い訳を並べる
冷や汗をだらだらと流しながら上条は乾いた笑い声を出す
「当麻くんも信じてるの!!??」
予想外だったのはアリサが想像以上に突っ込んできたことだ
ベッドから身を乗り出しながら上条の顔へ近づく
「え…。信じてるって…?」
「えっと、科学わからない不思議な力のこと。そんなのもあるのかなって」
「アリサはそれを信じてるの?」
上条の拘束から脱出したインデックスがアリサに問いかける
アリサは顔を俯き、ポツリと言葉を紡ぐ
「……私が、そうなんだ」
悔しそうに、そして苦しそうに彼女は語る
そんな彼女を上条たちは黙って見ている
「私が歌を歌う時だけ何か計測のできない力みたいのがあるらしくて……。今も定期的に検査を受けてるんだけど、結局よくわかってないんだ」
そして、彼女は口にする
今まで思わないようにしていたことを
考えないように、そう思ってしまわないように蓋をしていた事を
「…もしかしたら、私の歌をみんなが聴いてくれるのって……その力のせいじゃないのかな、って」
「違う!!!」
上条が大声でそれを否定する
そんな何かわからない力があるならとっくに降魔向陽が気付いているはずだ
何よりそんな異能の力があれるのならば、上条の右手が反応しているはずだ
「そうだよ!アリサの歌は本物だよ!!」
インデックスに続き、足元のいる猫までが元気付けてくれる
アリサは笑いながら猫を抱き上げる
「でも、それならどうしてあの人たちに襲われたんだろ」
こんなに心の温かい人たちを巻き込んでしまった
罪悪感がグッと彼女にのし掛かる
「私、歌でみんなを幸せにしたかった。歌っていれば私も幸せになれる気がした」
だからこれ以上そんな優しい人たちを巻き込むわけにはいかない
「…でも、それでもし誰かが傷つくなら、」
夢を諦めようとする言葉を出しかけた瞬間、
「オーディション合格したのに、辞退しようとか思ってるのか?」
「……っ!!」
上条が自身が考えられる最悪の予想を口にする
それを聞いていたアリサの肩が震える。どうやら図星だったのだろう
「だって!!私のワガママだよ!?そのせいで周りの人に何かあったら、」
「だからって、諦めるのか?」
上条はゆっくりとアリサへ近づく
「力づくで来る奴らに屈して、自分の夢を殺すのか!?言えよ!本当はどうしたいんだ!!??」
上条の言葉にアリサは涙を流しながら答える
「…歌いたいよ」
ポツリと答えたのは彼女の本当の気持ちだろう
それを聞いた上条はその涙を止めるために動く
「なら、歌えよ!やりたいことがあって、やれる力がるならやらなきゃダメだ。だから一緒に考えようぜ、安全に歌える方法をさ」
「……うん!!」
涙を拭きながら、上条の手を掴む
アリサが上条の手をつかんだ瞬間、バンッと上条の家のドアが勢いよく開く
「まぁ、そのために俺もいるんだがな」
どこから話を聞いていたのか、そう言ったのは降魔向陽だった
先ほど別れた最強の超能力者は上条の家だというのを気にもせずにあがりこむ
「お前、どこに行ってたんだ?」
「あ?コイツを守るためにはある程度の情報がいるだろ。ちょっと調べてきたんだよ」
黒鴉部隊という私設治安維持部隊の1人から情報を聞いていた
これまで情報を整理すると鳴護アリサを狙う奴らは、科学側に黒鴉部隊、魔術側はイギリス清教の必要悪の教会
降魔はそのままベランダに出て煙草を咥え、火をつける
深く煙を吸い込み、白い煙を吐く
部屋の中では何やら上条たちが騒いでいる
どうやらしばらくの間、アリサは上条の部屋で生活するらしい
降魔としても護衛対象である彼女の側に誰かいるのならば少しは安心できる
「…面倒くせぇな」
これからのことを思うと少し憂鬱な気分になる
面倒な問題は山積みだ
第一優先に考えるのは護衛対象である鳴護アリサの身の安全だ
その彼女が上条の家で生活するとなれば、降魔にも多少自由になれる時間が発生する
その間にやりたいことは、
「……コイツ、か」
そう言って降魔は首筋の電極を指でなぞった
◇◇◇
鳴護アリサが襲撃を受けた次の日
本来であれば学校へ行っていなければいけないはずの降魔は自身が所属する『カースト』の隠れ家にいた
高校など上条当麻の監視をするためだけに行っているため、最悪の場合は中退してしまっても構わないと思っている
そんな降魔の前には巨大な電子機器が数十台と並べられていた
学園都市が誇るスーパーコンピュータ『
先日破壊されてしまった樹形樹の設計者の影に隠れていた学園都市製のスーパーコンピューターである
樹形樹の設計者と比べると性能は劣るものの、現段階で最高の性能を誇るスーパーコンピューターだろう
降魔は机の上に電極の設計図を広げ、煙草に火をつけた
現在、降魔向陽という超能力者は脳の機能の一部を失っている
それを補うためにミサカネットワークを用いた代理演算に頼っている
それらがなければ降魔は能力を使うことは当然、歩くことや話すことすらできなくなってしまうのである
降魔は以前から考えていたのだ
仮に外部の組織が学園都市を本気で潰そうとしたら何を警戒するのか
軍用量産クローン、AIM思考生命体、超音速爆撃機、駆動鎧、サイボーグ技術、例を挙げればキリがない
ありとあらゆる科学技術を結集させた学園都市の代名詞とも呼べる者たち
答えは単純、超能力開発だ
では、その学園都市から『最も強力で、最も確実な戦力』とみなされているのは何か
1人で軍隊と余裕で渡り合える存在
学園都市に8人しかいない超能力者たちだろう
学園都市を本気で潰すつもりならば超能力者の存在を無視はできない
その中でも特に警戒すべきなのが第1位の2人と第2位だろう
今世界中に散らばっているミサカたちを皆殺しにすれば、ミサカネットワークに頼り切っている第1位の2人は行動不能にできる
最強の2人を行動不能にするためならば、そんな行動すらやりかねない
降魔が考えている最悪のシナリオはこれだった
そんなことが万が一にも起こるはずないが、何らかの影響でミサカネットワークが使用できなくなる可能性は考えられる
だから降魔は対策を講じていた
ミサカネットワークと降魔が所有するスーパーコンピューター『科学の亡霊』
通常時はミサカネットワークに演算を任せ、何らかのトラブルの際には『科学の亡霊』に切り替えて使用する
今回は電極の改造のために学校を休んだ
煙草の煙を吸いながら、降魔は黙々と作業に没頭した
作業が終わった頃には窓から見える景色は暗くなっていた
電極の改造は終わり、設計図の側においてある灰皿には煙草の吸殻が山盛りになっていた
「…っと、こんなもんか」
試しに電極を何回か切り替える
通常モード、能力使用モード(ミサカネットワーク)、能力使用モード(科学の亡霊)
違和感がないことを確かめ、電極を通常モードに戻す
新しい煙草を咥え、撤収の準備を始める
「あ?」
そこで降魔の携帯が鳴る
画面を見ると電話をかけてきたのは上条だった
『もしもし、降魔か?』
「…俺の携帯なんだから俺だろーが」
皮肉を言いつつ降魔は隠れ家を出ていく
『明日、アリサが契約とかの話で出かけるらしいんだけど、俺が補習でついていけないんだよ。降魔ついてけれるか?』
「…なるほどな。他にアテはあるのか?」
『うーん。アリサは頼れる人がいるって言ってたけど…』
「なら俺は一緒には行かなくていいな。俺は少し離れた位置でアイツを見ておく」
『そっかサンキューな。俺も補習が終わったらソッチに行けると思うから』
上条からの電話を切り、日が沈んだ学園都市を歩く
護衛対象である鳴護アリサは上条の家にいるはずだ。彼女が1人なら心配だったが上条がついているのならば少しは安心できるだろう
そう思い、降魔は自分の家へ向かう
降魔の部屋の前に着くと、何やらいい匂いが漂ってきた
どうやら中で誰かが夕飯の準備をしているようだ
扉を開け、中に入ると見慣れない靴が2つ玄関に置いてあった
「あ?」
そのままリビングに向かう
そこには、金髪の2人の少女がいた
「おや、今帰ってきたのか。もう少しで夕飯だぞ」
「お、お帰りなさい。お邪魔してます」
ヴルドとその妹であるエルドがリビングにて寛いでいた
元ローマ正教徒であるヴルドは現在12学区にある教会で修道女として働いている
妹のエルドは原石と呼ばれる天然の能力者だ。彼女は降魔が指定した学校へ通っている
「てか、いつの間にお前ら知り合ってやがったんだ?」
降魔は台所で料理をしているリアとリビングで寛いでいる美鼓へ尋ねる
「先日、オートロックなのに鍵を持たずに外出してしまったこの方と遭遇し、話を聞いたらあなたの知り合いとのことだったので仲良くなりました、と美鼓はあなたの問いに答えます」
「美鼓殿オートロックの話はしないで欲しかったんだが……」
いつか紹介しようとは思っていたが、勝手に出会って勝手に仲良くなっているとは思わなかった
暗部に身を置き、学園都市の頂点として君臨している降魔の周りには決して少なくない危険がつきまとう
元とはいえローマ正教の魔術師であるヴルドがいるのならば自衛の術を持たないリアの安全も多少は確保できる
逆にオリジナルの1%にも満たないとはいえレベル2、3程度の能力を持っている美鼓ならばエルドの安全を守れるだろう
そんなことを考えていると、リアが夕飯を運んできた
どうやら今日の夕飯はキムチ鍋だ
リビングの机の上に鍋と野菜と肉が運ばれてきた
皆で夕飯を食べていると、テレビに今注目のアーティストとして鳴護アリサが映し出されていた
降魔はそれを見ながら特に思うこともなく鍋を食べていたが、他の皆は違ったらしい
「わわっ!!お姉ちゃん、ARISAがテレビに映ってるよ!!!」
「あぁ!!本当にこの人の歌は素晴らしいな!!」
「まるで心が洗われるような感覚を覚えます、と美鼓は自身の心情を吐露します」
『とっても可愛いし、とっても綺麗な歌を歌っていますね』
「あ?」
思わず他の面子を見て固まってしまった
まさか彼女らがここまで鳴護アリサのファンになっているとは思ってもみなかった
降魔の微妙な反応にヴルドが反応する
「む。まさか降魔貴様ARISAを知らんのか?」
時代遅れとでも言いたいのかヴルドがため息まじりに呆れた顔で降魔を見る
少しイラッとしたが降魔は面倒ごとを避けるために苛立ちを飲み込む
「はははっ、私に携帯の使い方を教えていた時は私のことを時代遅れだなんだと言って馬鹿にしていたが、お前もずいぶん時代に遅れているのだな」
勝ち誇った顔で降魔を見るヴルドの顔があまりにもうざ過ぎて降魔のこめかみが不自然にピクついた
そのまま携帯を取り出し、最近追加された電話番号に電話をかける
「……もしもし降魔だ。明日の件だが、誰か一緒に行ってくれるやついたか?……そうかソイツが行くなら多少は安心できるな。……あぁ俺も行くが離れた位置にいる。それと同居人共が会いたがってるから少し時間くれねぇか?……そうか済まねぇな。用件はそれだけだ」
そのまま電話を切り、その様子を見ていた彼女らを見て
「…お前ら明日は出かけんぞ」
それだけ言って夕飯に戻った
夕飯の間も彼女らのARISAトークは止まらずに続いていった
明日はコイツらと鳴護アリサを会わせる
きっかけはヴルドの安い挑発だったが、ここ数日は仕事などで彼女らとの時間が取れていなかった
彼女らに幸せになって欲しいと願う
だから自分にできることはなんでもやる